妖鏡の霧
●妖鏡の霧
「おっかしいなぁ……こんなの初めてだ」
昼間でも薄暗くなるほどの霧に包まれた某山中。登山が趣味の青年はホームとも言うべき山で初めて見る現象に首を傾げた。
山の頂上、ある程度のスペースにベンチが置かれたゴール地点は異常な程に濃い霧に包まれている。景色はおろか、ある程度離れた地面すら見えない程だ。
「景色を見ながら昼飯にしたかったんだけど……駄目だなこりゃ」
ガックリと肩を落とした青年は昼食を済ませて帰ろうと考え、記憶を頼りにベンチを探す。白く霞んだ世界に青年以外の姿は無い。
いや、少し見える範囲が増えた霧の中にぼんやりとしたシルエットが映る。影になっていて良く解らないが、どうやら青年と同程度の体格のようだ。
それに気が付いた青年は、景観を遮る霧をせめて話のネタにしてやろうと影に近付く。歩き、近付き、シルエットから細部が解り、青年は足を止めた。
「な―――、え……?」
話す為ではない。驚いたのだ。登山靴、ズボン、上着、リュック、杖、帽子。その全てに見覚えがある。青年が今身に着けているモノと寸分違わない。
そして何より、その顔だ。鏡で見るソレと全く同じモノが目の前にある。霧の中に巨大な鏡でもあるのか? そんな馬鹿な話があってたまるか。
「………。」
驚く青年を余所に、瞑していたソレがゆっくりと瞼を開く。ああ、同じだ。その眼、その鼻、その口。霧のせいか暗い影がかかっているが、全てが青年と変わらない!
「なんだよ、コレ……」
「………。」
謎の寒気を感じる青年に、影のかかったソレがゆっくりと杖を振り上げ―――、
●霧の鏡は心を映す
「今回の目標は霧の妖。それが作ったコピー体との戦いになります」
久方真由美(nCL2000003)の説明に淀みは無い。コピーを作る妖の相手はF.i.V.E.としては初めてではなく、予想を立てるのも容易というものだ。
「コピー体が現れる前に霧が減っている事から、コピー体は霧を使って生成されていると思われます。新しいコピー体が出てこなくなるまで倒し続ければ霧も消える筈です」
随分と乱暴な解決方法ではあるが、下手に霧が散って被害が拡大するよりはマシである。何より目の前の敵を倒せば良いというシンプルさが素敵だ。
「コピー体がどんな能力になるか、回復やペース配分等に気をつけて戦えば問題無く倒せる相手です。頑張ってください」
「おっかしいなぁ……こんなの初めてだ」
昼間でも薄暗くなるほどの霧に包まれた某山中。登山が趣味の青年はホームとも言うべき山で初めて見る現象に首を傾げた。
山の頂上、ある程度のスペースにベンチが置かれたゴール地点は異常な程に濃い霧に包まれている。景色はおろか、ある程度離れた地面すら見えない程だ。
「景色を見ながら昼飯にしたかったんだけど……駄目だなこりゃ」
ガックリと肩を落とした青年は昼食を済ませて帰ろうと考え、記憶を頼りにベンチを探す。白く霞んだ世界に青年以外の姿は無い。
いや、少し見える範囲が増えた霧の中にぼんやりとしたシルエットが映る。影になっていて良く解らないが、どうやら青年と同程度の体格のようだ。
それに気が付いた青年は、景観を遮る霧をせめて話のネタにしてやろうと影に近付く。歩き、近付き、シルエットから細部が解り、青年は足を止めた。
「な―――、え……?」
話す為ではない。驚いたのだ。登山靴、ズボン、上着、リュック、杖、帽子。その全てに見覚えがある。青年が今身に着けているモノと寸分違わない。
そして何より、その顔だ。鏡で見るソレと全く同じモノが目の前にある。霧の中に巨大な鏡でもあるのか? そんな馬鹿な話があってたまるか。
「………。」
驚く青年を余所に、瞑していたソレがゆっくりと瞼を開く。ああ、同じだ。その眼、その鼻、その口。霧のせいか暗い影がかかっているが、全てが青年と変わらない!
「なんだよ、コレ……」
「………。」
謎の寒気を感じる青年に、影のかかったソレがゆっくりと杖を振り上げ―――、
●霧の鏡は心を映す
「今回の目標は霧の妖。それが作ったコピー体との戦いになります」
久方真由美(nCL2000003)の説明に淀みは無い。コピーを作る妖の相手はF.i.V.E.としては初めてではなく、予想を立てるのも容易というものだ。
「コピー体が現れる前に霧が減っている事から、コピー体は霧を使って生成されていると思われます。新しいコピー体が出てこなくなるまで倒し続ければ霧も消える筈です」
随分と乱暴な解決方法ではあるが、下手に霧が散って被害が拡大するよりはマシである。何より目の前の敵を倒せば良いというシンプルさが素敵だ。
「コピー体がどんな能力になるか、回復やペース配分等に気をつけて戦えば問題無く倒せる相手です。頑張ってください」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ブロッケンを倒せ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
・とある山の頂上。不自然に霧がかかっている。あまりにも霧が濃いので昼間でも薄暗い。それなりに人気のある登山道のため一般人が現れる可能性あり。
●目標
ブロッケン:妖・自然系・ランク2:「対峙する者の姿を映す」という特性を持った霧の妖。能力の殆どが元になる者と同じだが、体力は変わらない。
・雲合霧集:P自:周囲の霧が集まり対峙する者の姿を映し取る。誰の姿になるかはランダム(ダイスロールで決定)。霧に影が映る現象の妖であるせいか、全体的に黒ずんだ姿になるので判別は容易。コピーを一回倒してもこのスキルの効果により復活するが、倒せばコピーを作るのに使われた霧は消えるので『現れる全てのコピーを倒す事で討伐成功』となる。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2016年03月12日
2016年03月12日
■メイン参加者 6人■

●
深く白い闇に閉ざされた山頂の空気が変わる。何かを閉ざすような、遠ざけるような結界が張られた事で風に揺蕩っていた霧はその動きを止める。
やがてその闇、即ち霧の中に現れたのは六つ、いや七つの影。その内二つはとてもよく似ている。士官服、マント、帽子、そして仮面……しかし、よく見れば違いがハッキリと分かる。片方には不自然なまでに影がかかっているのだ。
「さて、さて。贋物を作り出す程度の霧の妖……実に興味深いですねぇ」
その影のかかっていない方、つまり『本物』のエヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が自身と瓜二つの存在を前に大仰な身振りで興味を示す。
「そう言った妖が居る事は知っていたが、戦う機会は今まで無かったからな……中々興味深いな」
「霧の妖か……何体でてくるか判らないけど、一体ずつ確実に倒して無事に討伐したいね。頑張ろう」
その後ろに、そして横に天明 両慈(CL2000603)と鈴白 秋人(CL2000565)の二人が並ぶ。動きを見せない『もう一人』のエヌに対して有利なポジションを取っていた。
「油断するわけじゃないけれど、これほど修練に最適な敵も珍しいよね」
「皆、強そう、じゃなくて、強い、何となく、解る。私も頑張れば、そうなれる?」
妖の正面に立つ指崎 まこと(CL2000087)は妖の特異性に、側面に立つ神々楽 黄泉(CL2001332)は仲間である覚者に興味津々、と言った所か。
そして最後の一人、檜山 樹香(CL2000141)が黄泉と反対側の側面に立つと布陣が完了する。
「さあ。始めようぞ、お前様方。霧の魔物を打ち払うのじゃ」
―――何の布陣か? 決まっている、妖退治だ。
●
「誰も倒れて欲しくないからな……治療するのが面倒だ」
先陣を切ったのは両慈であった。踏み出すステップは天行弐式「演舞・清爽」。味方全体の能力が大きく引き上げられる。
「結局何人か前に出て来ちゃったか……まあ、しょうがないかな」
一人で前衛を務めるつもりだったまことは、そう言いながら手にしたシールドでエヌの姿をしたコピー体へと殴り掛かる。初撃は外してしまうものの、間髪入れずに続けた攻撃は見事命中するのだった。
「同じ顔が二つあるというのはおかしな気分じゃが、やられてやるわけにはいかぬ」
エヌのコピー体を囲うように布陣した一角では樹香が大きく踏み込み、首筋の紋様を輝かせながら五織の彩を放つ。しかし驚異的な反応を見せたエヌコピーはその一撃をひらりと回避してしまった。
「私、難しく考えて動くの、苦手。だから今回も、これで行く」
その反対側から黄泉の飛燕による二連撃も一太刀目が躱された。しかし力押しに専念すると言った甲斐が現れたのか、切り返した二太刀目は何とか命中させたようだ。
「この能力がラーニング出来れば良いのですが。他者の贋物を作り惑わす法など、多方面で役に立ちそうではありませんか」
薄らとした笑みを浮かべたエヌは天行弐式「雷獣」によって雷雲を発生させる。しかし霧で薄暗い所に更に雲がかかったせいか、その狙いは敢え無く外れてしまうのであった。
「火行壱式『醒の炎』っ!」
秋人が最初に選択したのは自己強化術の定番とも言える醒の炎だった。体内の炎が活性化し、周囲の景色がゆらりと歪む。
「………。」
「おっと……コピー対策に封印したものを放って来るとは、随分と挑発的だな」
エヌコピーが雷獣を落としたのは後衛の両慈だった。しかし本来は両慈自身も持っている技のせいか、アッサリと見切られて回避に成功していた。
「加減はあまり得意ではないが……」
お返しとばかりに両慈は天行壱式「召雷」をエヌコピーに落とす。本来であればより強力な術を用いる所だが、自身のコピーが現れる事を警戒したせいか制限をかけてしまっているのだった。
「………。」
「く、またか……っ!」
そしてその制限を嘲笑うかのようにエヌコピーは両慈へと雷獣を使う。執拗に狙われた両慈は回避に成功するものの、その表情は芳しくない。
「防御を固めるよ、受け取って!」
自身の強化を済ませた秋人は前衛の防御力を高めに入る。最初に水行壱式「水衣」を受けたのは他の面々に比べて経験が不足がちな黄泉であった。
「誰がコピーされるかは現れる直前まで分からぬが、見た目で判断できるのは助かるの……っとと」
エヌコピーへと深く踏み込んだ樹香だったが、その足の着地点にあった石を踏んでしまった事でバランスを崩し、攻撃そのものが失敗してしまう。
「さて、皆の力、味わわせてもらおうか」
そこにまことがフォローに入り、盾の淵で殴るように振るがそれは呆気なく躱されてしまった。反動を利用してもう一度攻撃するも、それも外れてしまう。
「流石に今回状態異常技を使っては自らの首を絞めますからねぇ、補助に向かわねばならないなど、何ともつまらないものですよ」
そう言うエヌであったが、主な攻撃方法として今回用いる雷獣には対象を痺れさせる効果があり、直撃したエヌコピーはどうやら痺れてしまったようだ。
「……斬り、倒す」
そこに間髪入れずに黄泉が突進。重量級の武器である筈の半月斧を振り回し、エヌコピーへと大打撃を与えるのだった。
「やれやれ……加減するというのは結構面倒なものだな」
エヌコピーに二度も制限した術で攻撃され、両慈は深く溜息をつく。それに合わせて発動したせいか、雷はエヌコピーに当たる事なく地面に吸い込まれていった。
「意外と当て辛いな、っと!」
まことは三度腕を振るい、エヌコピーへと盾をぶつける。片方は躱されたがもう片方はクリーンヒットし、エヌコピーの脳を思い切りシェイクするのだった。
「………。」
「お、今度はワシか? しかし狙いが甘いの!」
殴られた反動で樹香へと顔を向けたエヌコピーは雷獣を落とすが、樹香は軽やかなステップでそれを回避。どうもエヌコピーの動きが悪いようだ。
「これで二人目、と」
そこに秋人の支援が入り、樹香の防御力が上昇する。最後の一人へ支援をかければ秋人も攻撃に移る予定である。
「恩に着る! そこじゃ!」
三度目の正直とばかりに放たれた五織の彩がエヌコピーに直撃。F.i.V.E.内でも上位の実力者の攻撃を立て続けに受けたエヌコピーは流石に辛いのか、ぐらりと体が傾ぎ始めた。
「隙あり、ですよ?」
そこにエヌが追撃とばかりに雷獣を発動。爆音と光が収まるとそこにある筈の姿は無く、落雷の衝撃で出来た窪みに水が溜まっているだけであった。
……否。周囲を覆う霧が動いている。蠢いている。水溜りの上にシルエットが現れる。先程のエヌよりは幾分背が低く、線が細く、射干玉の髪は影が落ちてより黒く。
「………。」
その手に薙刀を持つ樹香のコピー体が瞬きの間に姿を現していた。
「ん、霧の妖、コピー、作るの?」
警戒する他の面々を余所に、黄泉が半月斧を振りかぶりながら樹香コピーへと突撃する。が、重く鋭い飛燕の二連撃は手に持つ薙刀によってするりといなされてしまうのだった。
「次は……檜山さんだね。どんなタイプか、アドバイスよろしく!」
「あ、アドバイスと言われてものう……攻撃スキルは単体近接だけじゃが回復スキルがある、ぐらいしか言えんぞ?」
「了解、充分だよ!」
姿を変えた樹香コピーに対し、正面に立つまことは盾を構えてガードを固める。防御に専念するつもりのようだ。
「ワシのコピーか……どんな状況になっても、楽観できるものではないの」
そう言いながら樹香は因子の力を籠めた一撃を放つが、くるりと回転させた薙刀に刃先をズラされた事でいとも容易く防がれていた。
「僕の時より防御力が高いようですねぇ、難易度が上がりましたか」
霧が集まって姿を変えた時にラーニングを試したエヌだったが、手応えが今一つだったのか雷獣を樹香コピーに落とす。が、それも薙刀を避雷針代わりにする事で凌がれていた。
「まさか、こっちの行動も丸々コピーしてくるのかな……だとしたら、凄く厄介な相手だね」
防御を固めたまことに水のベールがかかり、更に防御力が増す。一通りの支援を終えた秋人は攻勢に移るようだ。
「………。」
「あ、ぐぅ……!」
一方で樹香コピーが黄泉に攻撃を仕掛けていた。薙刀に乗って五行の力が叩き込まれた黄泉はくぐもった悲鳴を上げる。飛燕を使う事で消耗していた事もあったが、一気に黄泉の体力が半分を切っていた。
「落ちろ、天行壱式『召雷』!」
そこに両慈の雷が落ちる。下位の術とは言え基礎能力の高い両慈が使えばその一撃は強力であり、その直撃を受けた樹香コピーも無事では済まないだろう。
「まだ、まだぁ……!」
ゆらりと体を揺らしながらも力強い足取りで黄泉は半月斧を振るう。眼前の敵に遮二無二吶喊していく様は、強さと儚さを見る者に感じさせていた。
「く、流石に神々楽は回復しないとまずいの」
思いの外早く体力が減っていく黄泉へ樹香が木行壱式「樹の雫」を発動させる。肩で息をしていた黄泉は徐々にそれを鎮めていく。
「………。」
……が、そこにまさかの樹香コピーによる五織の彩が二回連続でクリーンヒットしてしまった。高らかに打ち上げられ、顔面から着地した黄泉の体が一拍置いてビクリと跳ねる。
「あ―――ぐ、ゴホッ」
四つん這いで体を支える手足は震え、それでも黄泉は立ち上がった。言葉少なでも、その眼が戦いの意思を残していた。
「いけませんね。天行弐式『雷獣』!」
生まれたての小鹿のように足を震わせる黄泉を表情も無く睥睨する樹香コピーに、エヌの攻撃が炸裂する。雷が直撃した樹香コピーの指先が微かに震えており、痺れが体に残っている事が窺えた。
「そこだっ!」
続けて両慈も雷を落とすが、流石に立て続けに喰らう訳にはいかなかったのか樹香コピーは素早く身を翻した。
「回復するよ」
一度倒れた黄泉に対し、秋人が水行壱式「癒しの滴」で体力を回復させる。完全回復とは言えないが、それでも体力は半分以上は戻って来たようだ。
「うーん、護り重視だとスルーされると辛い物があるなぁ。今後の課題、だね」
黄泉が吹き飛ばされて倒れるのを間近で見たまことがガードの下でそう呟く。味方への防御支援には味方ガードがある為、全力防御中のまことの言は正しいものがあった。
「う……あ、うああああああああっ!」
癒しの滴により体力が回復した黄泉であったが、それでも樹香コピーへの突撃を止める事は無かった。しかしそれは、先程までのものよりどこか狂気を孕んでいるようにも見える。結局攻撃は全て外れてしまっていた。
「錯乱してるのか……!? 回復させて落ち着かせないと!」
「ああ、それで良いよ。本当なら先に落ち着かせたいんだけどね……」
「ほれ、しっかりせんか!」
取り乱した様子の黄泉に秋人と樹香の回復が飛ぶ。まこともガードを固めながら看護師としての見解を述べていた。
「はっ!」
「そこです!」
その間も樹香コピーへと両慈とエヌの雷が落ちる。しかし伊達に樹香の姿をしていないのか、攻撃が当たる気配はない。
「………。」
「……来ない? なら、こっちから!」
しかしその樹香コピーも痺れにより動きが止まり、そこを黄泉に狙われる。が、当たる直前に硬直が解けたのかその連撃もひらりと回避されてしまった。
「また外したか……術で呼んだ雲が霧に阻まれてるのか?」
「どうだろうね。やはり身軽な相手だというのが大きいと思うけど……」
両慈の召雷がまたしても回避され、その時出た呟きをまことが拾う。成程、周囲は妖の霧に覆われており、両慈の考えも尤もである。とは言え、確かめる術は無いのだが。
「喰らえぃ!」
「全く、しぶといですね……!」
樹香の五織の彩が、エヌの雷獣がそれぞれ樹香コピーに直撃する。その姿は正に満身創痍であり、もう間も無くこのコピー体も倒せるという予感が覚者達の間に広がっていた。
「………。」
「悪いね、きっちり見えてるよ」
ダメージを気にしていないのか樹香コピーはまことへと薙刀を振るうが、防御態勢だったにも関わらずまことは攻撃を回避。空振りした樹香コピーは隙だらけになっていた。
「当たれっ!」
「まだ……!」
そこにようやく攻勢に移った秋人がブロウオブトゥルースを放つが、ボロボロの筈の樹香コピーはそれを回避。その先に黄泉が待ち受けるも、急制動で間合いの外へと留まるという事すらやってのける。体の痺れも完全に取れたようだ。
「いい加減……倒れろっ!」
両慈が吠え、今までで最大級の雷が樹香コピーへと落ちる。空が丸ごと落ちてきたような衝撃と光はその細い肢体を四散させた。
しかし、三度霧は集いヒトの形を作る。今度は周囲の霧全てが一か所に集まり、これが最後の復活なのだと覚者達は確信した。そして、その姿は倒した者と同じ―――両慈であった。
全体的に白い印象を受ける筈の両慈の姿に暗く影が落ち、紫に光る眼光が覚者達へと注がれる。霧が晴れ、風の逆巻く山頂で戦いは大詰めを迎えようとしていた。
「ようやく見晴らしが良くなったのう! どれ、気合いを入れるか!」
自身から両慈へと姿を替えたコピー体に樹香の薙刀が吸い込まれる。物理的な衝撃には先程より弱いらしく、両慈コピーは大きく仰け反っていた。
「遠距離攻撃が出来る相手か。なら防御する必要も無さそうだね」
前衛がまことの想定から増えてしまった事で元から防御の必要があったのかはさておき、ガードを解いたまことは両慈コピーへと殴りかかる。
「良く狙って……そこ!」
まことに殴られ姿勢を崩した両慈コピーの顔面に秋人の波動弾が着弾。しかしぐにゃりと不自然に姿勢を戻した両慈コピーは、いつの間にかその手を黄泉へと向けていた。
「………。」
「あがぁっ……!?」
そして晴れ渡る空に落ちる閃光。両慈の能力をコピーした一撃は、黄泉であれば万全の状態からでも一撃で倒せる程の威力があった。既に一度気力だけで立ち上がった黄泉は気を失う。暫くは目を覚まさないだろう。
「一撃、ですか……全く、恐ろしいですね」
エヌはそう言いつつも遜色のない威力の雷獣を放つが、両慈コピーはそれを回避。表情の無い貌で覚者達を見続けている。
「流石に元が早いと一撃で精一杯、か」
両慈コピーを殴りながらまことはそう呟く。今回集まった覚者達の中で最速である両慈の姿を模したコピー体の判断は的確であったという事か。
「………。」
「む、危ない危ない。恐ろしい威力じゃからな、早々当たってはやれんよ」
その両慈コピーは女性陣を先に潰すと言わんばかりに樹香へ雷を落とす。が、樹香とて伊達に修羅場を潜っておらず、その雷撃を回避する事に成功していた。
「自身の偽物、か。これはこれで貴重な経験なのだろうな」
そう独り言ちる両慈は自身のコピー体へ本家本元の召雷を見事命中させていた……まあ、ついでと放った二発目は外れてしまったのだが。
「そら、お返しじゃ!」
「………!」
五行の力の篭った薙刀が両慈コピーへと突き立つ。と、今の今まで全く表情を変えなかったコピー体が僅かに眼を見開いた。
そして薙刀の突き刺さった部分から両慈コピーの全身が罅割れ、ぱしゃりと水気のある音と共に呆気なく重力に引かれて形を失うのだった。
「これで終わり、かの……何とも地味な最後じゃな」
●
「黄泉さんが目を覚ましませんね……」
覚者達は妖の消滅を確認し、山頂の一角にあった東屋に気を失った黄泉を寝かせていた。回復体位でベンチに横になる黄泉の様子を秋人が窺う。
「大分無茶をしていたからね。僕達も少し休んでいこうか」
「うむ。弁当とまではいかぬが、景色を眺めながら温かい茶を飲むくらい、してもよいじゃろうて」
看護師らしく気を失った後の処置を施したまことが向かいのベンチに腰を下ろせば、既に樹香はお茶を啜っている。事前に用意していたのだろうか?
「ラーニングは……ふむ、失敗ですか。まあ、次に期待しましょう」
東屋の柱に背中を預けたエヌが苦笑し、黄泉の枕元に座る両慈がその頭を優しく撫でる。
「……俺のやった事では無いが、すまなかったな」
「むにゃ……私、まだ―――もっと、強、く……」
穏やかな日の下で、覚者達は思い思いの時間を過ごすのであった……。
深く白い闇に閉ざされた山頂の空気が変わる。何かを閉ざすような、遠ざけるような結界が張られた事で風に揺蕩っていた霧はその動きを止める。
やがてその闇、即ち霧の中に現れたのは六つ、いや七つの影。その内二つはとてもよく似ている。士官服、マント、帽子、そして仮面……しかし、よく見れば違いがハッキリと分かる。片方には不自然なまでに影がかかっているのだ。
「さて、さて。贋物を作り出す程度の霧の妖……実に興味深いですねぇ」
その影のかかっていない方、つまり『本物』のエヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が自身と瓜二つの存在を前に大仰な身振りで興味を示す。
「そう言った妖が居る事は知っていたが、戦う機会は今まで無かったからな……中々興味深いな」
「霧の妖か……何体でてくるか判らないけど、一体ずつ確実に倒して無事に討伐したいね。頑張ろう」
その後ろに、そして横に天明 両慈(CL2000603)と鈴白 秋人(CL2000565)の二人が並ぶ。動きを見せない『もう一人』のエヌに対して有利なポジションを取っていた。
「油断するわけじゃないけれど、これほど修練に最適な敵も珍しいよね」
「皆、強そう、じゃなくて、強い、何となく、解る。私も頑張れば、そうなれる?」
妖の正面に立つ指崎 まこと(CL2000087)は妖の特異性に、側面に立つ神々楽 黄泉(CL2001332)は仲間である覚者に興味津々、と言った所か。
そして最後の一人、檜山 樹香(CL2000141)が黄泉と反対側の側面に立つと布陣が完了する。
「さあ。始めようぞ、お前様方。霧の魔物を打ち払うのじゃ」
―――何の布陣か? 決まっている、妖退治だ。
●
「誰も倒れて欲しくないからな……治療するのが面倒だ」
先陣を切ったのは両慈であった。踏み出すステップは天行弐式「演舞・清爽」。味方全体の能力が大きく引き上げられる。
「結局何人か前に出て来ちゃったか……まあ、しょうがないかな」
一人で前衛を務めるつもりだったまことは、そう言いながら手にしたシールドでエヌの姿をしたコピー体へと殴り掛かる。初撃は外してしまうものの、間髪入れずに続けた攻撃は見事命中するのだった。
「同じ顔が二つあるというのはおかしな気分じゃが、やられてやるわけにはいかぬ」
エヌのコピー体を囲うように布陣した一角では樹香が大きく踏み込み、首筋の紋様を輝かせながら五織の彩を放つ。しかし驚異的な反応を見せたエヌコピーはその一撃をひらりと回避してしまった。
「私、難しく考えて動くの、苦手。だから今回も、これで行く」
その反対側から黄泉の飛燕による二連撃も一太刀目が躱された。しかし力押しに専念すると言った甲斐が現れたのか、切り返した二太刀目は何とか命中させたようだ。
「この能力がラーニング出来れば良いのですが。他者の贋物を作り惑わす法など、多方面で役に立ちそうではありませんか」
薄らとした笑みを浮かべたエヌは天行弐式「雷獣」によって雷雲を発生させる。しかし霧で薄暗い所に更に雲がかかったせいか、その狙いは敢え無く外れてしまうのであった。
「火行壱式『醒の炎』っ!」
秋人が最初に選択したのは自己強化術の定番とも言える醒の炎だった。体内の炎が活性化し、周囲の景色がゆらりと歪む。
「………。」
「おっと……コピー対策に封印したものを放って来るとは、随分と挑発的だな」
エヌコピーが雷獣を落としたのは後衛の両慈だった。しかし本来は両慈自身も持っている技のせいか、アッサリと見切られて回避に成功していた。
「加減はあまり得意ではないが……」
お返しとばかりに両慈は天行壱式「召雷」をエヌコピーに落とす。本来であればより強力な術を用いる所だが、自身のコピーが現れる事を警戒したせいか制限をかけてしまっているのだった。
「………。」
「く、またか……っ!」
そしてその制限を嘲笑うかのようにエヌコピーは両慈へと雷獣を使う。執拗に狙われた両慈は回避に成功するものの、その表情は芳しくない。
「防御を固めるよ、受け取って!」
自身の強化を済ませた秋人は前衛の防御力を高めに入る。最初に水行壱式「水衣」を受けたのは他の面々に比べて経験が不足がちな黄泉であった。
「誰がコピーされるかは現れる直前まで分からぬが、見た目で判断できるのは助かるの……っとと」
エヌコピーへと深く踏み込んだ樹香だったが、その足の着地点にあった石を踏んでしまった事でバランスを崩し、攻撃そのものが失敗してしまう。
「さて、皆の力、味わわせてもらおうか」
そこにまことがフォローに入り、盾の淵で殴るように振るがそれは呆気なく躱されてしまった。反動を利用してもう一度攻撃するも、それも外れてしまう。
「流石に今回状態異常技を使っては自らの首を絞めますからねぇ、補助に向かわねばならないなど、何ともつまらないものですよ」
そう言うエヌであったが、主な攻撃方法として今回用いる雷獣には対象を痺れさせる効果があり、直撃したエヌコピーはどうやら痺れてしまったようだ。
「……斬り、倒す」
そこに間髪入れずに黄泉が突進。重量級の武器である筈の半月斧を振り回し、エヌコピーへと大打撃を与えるのだった。
「やれやれ……加減するというのは結構面倒なものだな」
エヌコピーに二度も制限した術で攻撃され、両慈は深く溜息をつく。それに合わせて発動したせいか、雷はエヌコピーに当たる事なく地面に吸い込まれていった。
「意外と当て辛いな、っと!」
まことは三度腕を振るい、エヌコピーへと盾をぶつける。片方は躱されたがもう片方はクリーンヒットし、エヌコピーの脳を思い切りシェイクするのだった。
「………。」
「お、今度はワシか? しかし狙いが甘いの!」
殴られた反動で樹香へと顔を向けたエヌコピーは雷獣を落とすが、樹香は軽やかなステップでそれを回避。どうもエヌコピーの動きが悪いようだ。
「これで二人目、と」
そこに秋人の支援が入り、樹香の防御力が上昇する。最後の一人へ支援をかければ秋人も攻撃に移る予定である。
「恩に着る! そこじゃ!」
三度目の正直とばかりに放たれた五織の彩がエヌコピーに直撃。F.i.V.E.内でも上位の実力者の攻撃を立て続けに受けたエヌコピーは流石に辛いのか、ぐらりと体が傾ぎ始めた。
「隙あり、ですよ?」
そこにエヌが追撃とばかりに雷獣を発動。爆音と光が収まるとそこにある筈の姿は無く、落雷の衝撃で出来た窪みに水が溜まっているだけであった。
……否。周囲を覆う霧が動いている。蠢いている。水溜りの上にシルエットが現れる。先程のエヌよりは幾分背が低く、線が細く、射干玉の髪は影が落ちてより黒く。
「………。」
その手に薙刀を持つ樹香のコピー体が瞬きの間に姿を現していた。
「ん、霧の妖、コピー、作るの?」
警戒する他の面々を余所に、黄泉が半月斧を振りかぶりながら樹香コピーへと突撃する。が、重く鋭い飛燕の二連撃は手に持つ薙刀によってするりといなされてしまうのだった。
「次は……檜山さんだね。どんなタイプか、アドバイスよろしく!」
「あ、アドバイスと言われてものう……攻撃スキルは単体近接だけじゃが回復スキルがある、ぐらいしか言えんぞ?」
「了解、充分だよ!」
姿を変えた樹香コピーに対し、正面に立つまことは盾を構えてガードを固める。防御に専念するつもりのようだ。
「ワシのコピーか……どんな状況になっても、楽観できるものではないの」
そう言いながら樹香は因子の力を籠めた一撃を放つが、くるりと回転させた薙刀に刃先をズラされた事でいとも容易く防がれていた。
「僕の時より防御力が高いようですねぇ、難易度が上がりましたか」
霧が集まって姿を変えた時にラーニングを試したエヌだったが、手応えが今一つだったのか雷獣を樹香コピーに落とす。が、それも薙刀を避雷針代わりにする事で凌がれていた。
「まさか、こっちの行動も丸々コピーしてくるのかな……だとしたら、凄く厄介な相手だね」
防御を固めたまことに水のベールがかかり、更に防御力が増す。一通りの支援を終えた秋人は攻勢に移るようだ。
「………。」
「あ、ぐぅ……!」
一方で樹香コピーが黄泉に攻撃を仕掛けていた。薙刀に乗って五行の力が叩き込まれた黄泉はくぐもった悲鳴を上げる。飛燕を使う事で消耗していた事もあったが、一気に黄泉の体力が半分を切っていた。
「落ちろ、天行壱式『召雷』!」
そこに両慈の雷が落ちる。下位の術とは言え基礎能力の高い両慈が使えばその一撃は強力であり、その直撃を受けた樹香コピーも無事では済まないだろう。
「まだ、まだぁ……!」
ゆらりと体を揺らしながらも力強い足取りで黄泉は半月斧を振るう。眼前の敵に遮二無二吶喊していく様は、強さと儚さを見る者に感じさせていた。
「く、流石に神々楽は回復しないとまずいの」
思いの外早く体力が減っていく黄泉へ樹香が木行壱式「樹の雫」を発動させる。肩で息をしていた黄泉は徐々にそれを鎮めていく。
「………。」
……が、そこにまさかの樹香コピーによる五織の彩が二回連続でクリーンヒットしてしまった。高らかに打ち上げられ、顔面から着地した黄泉の体が一拍置いてビクリと跳ねる。
「あ―――ぐ、ゴホッ」
四つん這いで体を支える手足は震え、それでも黄泉は立ち上がった。言葉少なでも、その眼が戦いの意思を残していた。
「いけませんね。天行弐式『雷獣』!」
生まれたての小鹿のように足を震わせる黄泉を表情も無く睥睨する樹香コピーに、エヌの攻撃が炸裂する。雷が直撃した樹香コピーの指先が微かに震えており、痺れが体に残っている事が窺えた。
「そこだっ!」
続けて両慈も雷を落とすが、流石に立て続けに喰らう訳にはいかなかったのか樹香コピーは素早く身を翻した。
「回復するよ」
一度倒れた黄泉に対し、秋人が水行壱式「癒しの滴」で体力を回復させる。完全回復とは言えないが、それでも体力は半分以上は戻って来たようだ。
「うーん、護り重視だとスルーされると辛い物があるなぁ。今後の課題、だね」
黄泉が吹き飛ばされて倒れるのを間近で見たまことがガードの下でそう呟く。味方への防御支援には味方ガードがある為、全力防御中のまことの言は正しいものがあった。
「う……あ、うああああああああっ!」
癒しの滴により体力が回復した黄泉であったが、それでも樹香コピーへの突撃を止める事は無かった。しかしそれは、先程までのものよりどこか狂気を孕んでいるようにも見える。結局攻撃は全て外れてしまっていた。
「錯乱してるのか……!? 回復させて落ち着かせないと!」
「ああ、それで良いよ。本当なら先に落ち着かせたいんだけどね……」
「ほれ、しっかりせんか!」
取り乱した様子の黄泉に秋人と樹香の回復が飛ぶ。まこともガードを固めながら看護師としての見解を述べていた。
「はっ!」
「そこです!」
その間も樹香コピーへと両慈とエヌの雷が落ちる。しかし伊達に樹香の姿をしていないのか、攻撃が当たる気配はない。
「………。」
「……来ない? なら、こっちから!」
しかしその樹香コピーも痺れにより動きが止まり、そこを黄泉に狙われる。が、当たる直前に硬直が解けたのかその連撃もひらりと回避されてしまった。
「また外したか……術で呼んだ雲が霧に阻まれてるのか?」
「どうだろうね。やはり身軽な相手だというのが大きいと思うけど……」
両慈の召雷がまたしても回避され、その時出た呟きをまことが拾う。成程、周囲は妖の霧に覆われており、両慈の考えも尤もである。とは言え、確かめる術は無いのだが。
「喰らえぃ!」
「全く、しぶといですね……!」
樹香の五織の彩が、エヌの雷獣がそれぞれ樹香コピーに直撃する。その姿は正に満身創痍であり、もう間も無くこのコピー体も倒せるという予感が覚者達の間に広がっていた。
「………。」
「悪いね、きっちり見えてるよ」
ダメージを気にしていないのか樹香コピーはまことへと薙刀を振るうが、防御態勢だったにも関わらずまことは攻撃を回避。空振りした樹香コピーは隙だらけになっていた。
「当たれっ!」
「まだ……!」
そこにようやく攻勢に移った秋人がブロウオブトゥルースを放つが、ボロボロの筈の樹香コピーはそれを回避。その先に黄泉が待ち受けるも、急制動で間合いの外へと留まるという事すらやってのける。体の痺れも完全に取れたようだ。
「いい加減……倒れろっ!」
両慈が吠え、今までで最大級の雷が樹香コピーへと落ちる。空が丸ごと落ちてきたような衝撃と光はその細い肢体を四散させた。
しかし、三度霧は集いヒトの形を作る。今度は周囲の霧全てが一か所に集まり、これが最後の復活なのだと覚者達は確信した。そして、その姿は倒した者と同じ―――両慈であった。
全体的に白い印象を受ける筈の両慈の姿に暗く影が落ち、紫に光る眼光が覚者達へと注がれる。霧が晴れ、風の逆巻く山頂で戦いは大詰めを迎えようとしていた。
「ようやく見晴らしが良くなったのう! どれ、気合いを入れるか!」
自身から両慈へと姿を替えたコピー体に樹香の薙刀が吸い込まれる。物理的な衝撃には先程より弱いらしく、両慈コピーは大きく仰け反っていた。
「遠距離攻撃が出来る相手か。なら防御する必要も無さそうだね」
前衛がまことの想定から増えてしまった事で元から防御の必要があったのかはさておき、ガードを解いたまことは両慈コピーへと殴りかかる。
「良く狙って……そこ!」
まことに殴られ姿勢を崩した両慈コピーの顔面に秋人の波動弾が着弾。しかしぐにゃりと不自然に姿勢を戻した両慈コピーは、いつの間にかその手を黄泉へと向けていた。
「………。」
「あがぁっ……!?」
そして晴れ渡る空に落ちる閃光。両慈の能力をコピーした一撃は、黄泉であれば万全の状態からでも一撃で倒せる程の威力があった。既に一度気力だけで立ち上がった黄泉は気を失う。暫くは目を覚まさないだろう。
「一撃、ですか……全く、恐ろしいですね」
エヌはそう言いつつも遜色のない威力の雷獣を放つが、両慈コピーはそれを回避。表情の無い貌で覚者達を見続けている。
「流石に元が早いと一撃で精一杯、か」
両慈コピーを殴りながらまことはそう呟く。今回集まった覚者達の中で最速である両慈の姿を模したコピー体の判断は的確であったという事か。
「………。」
「む、危ない危ない。恐ろしい威力じゃからな、早々当たってはやれんよ」
その両慈コピーは女性陣を先に潰すと言わんばかりに樹香へ雷を落とす。が、樹香とて伊達に修羅場を潜っておらず、その雷撃を回避する事に成功していた。
「自身の偽物、か。これはこれで貴重な経験なのだろうな」
そう独り言ちる両慈は自身のコピー体へ本家本元の召雷を見事命中させていた……まあ、ついでと放った二発目は外れてしまったのだが。
「そら、お返しじゃ!」
「………!」
五行の力の篭った薙刀が両慈コピーへと突き立つ。と、今の今まで全く表情を変えなかったコピー体が僅かに眼を見開いた。
そして薙刀の突き刺さった部分から両慈コピーの全身が罅割れ、ぱしゃりと水気のある音と共に呆気なく重力に引かれて形を失うのだった。
「これで終わり、かの……何とも地味な最後じゃな」
●
「黄泉さんが目を覚ましませんね……」
覚者達は妖の消滅を確認し、山頂の一角にあった東屋に気を失った黄泉を寝かせていた。回復体位でベンチに横になる黄泉の様子を秋人が窺う。
「大分無茶をしていたからね。僕達も少し休んでいこうか」
「うむ。弁当とまではいかぬが、景色を眺めながら温かい茶を飲むくらい、してもよいじゃろうて」
看護師らしく気を失った後の処置を施したまことが向かいのベンチに腰を下ろせば、既に樹香はお茶を啜っている。事前に用意していたのだろうか?
「ラーニングは……ふむ、失敗ですか。まあ、次に期待しましょう」
東屋の柱に背中を預けたエヌが苦笑し、黄泉の枕元に座る両慈がその頭を優しく撫でる。
「……俺のやった事では無いが、すまなかったな」
「むにゃ……私、まだ―――もっと、強、く……」
穏やかな日の下で、覚者達は思い思いの時間を過ごすのであった……。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
