《紅蓮ノ五麟》燃える街の中心で
●燃える街と百鬼
京都府五麟市。
そこは、紅蓮が街を飲み込んでいた。
五麟は今、空前絶後の事態に存亡の危機を迎えている。血雨部隊から帰ってきた覚者は皆、変わり果てた街に唖然とした。
燃える街。人々がこぞって避難を行い、はぐれた子供を捜す親、そして、泣き叫ぶ子供。それらに襲い掛かる者達……。それによって、街が赤く染まっていく。
刻、一刻と七星剣達に飲み込まれていく街。幸いにも、『F.i.V.E.』に残ってくれていた覚者が、被害を最小限に食い止めてくれていたようだったが……。
最早これ以上、奴等に何も譲るものは無い。
指示は1つ、速やかに侵入者を制圧せよ。
全ての百鬼をこの街から追い出す為、『F.i.V.E.』覚者の長い夜は始まった。
一度、『F.i.V.E.』の覚者と合間見えた禍時の百鬼達。
彼らは補給を受け、改めて五麟大学に攻め入ろうとしていた。
「保住、アレ、あるかな」
「霧山さん。持ってきてますよ」
霧山は隊員から、愛用の飛苦無を受け取る。その切っ先には、何やら麻痺毒が塗られているようだ。
「ふふふ、結局正面から仕掛ける羽目になるとはね」
覚者達と一度対戦した際は、思わぬ不意をつかれ、出鼻をくじかれた。折角、敷地内から楽して崩していこうと思っていたのにと、霧山は独りごちる。
その為に、彼は少しずつ準備を進めていた。比較的一般人が出入りしやすい場所を探し、そして、仲間達の忍び込ませていた。
もっと『F.i.V.E.』の覚者達とは交流しておくべきだったか。さすれば、寝首をかくことだってできたかもしれない。
「まあいいさ」
街では、同志達が好き勝手に暴れてくれている。ならば、自分達も好きにやらせてもらおうと、霧山達は考えていた。
「この機は逃せないっす。今度は全力でやるっすよ」
「ああ。ふふふ……」
霧山の顔に浮かぶ笑い。それには、保住すらも悪寒を覚えるのである。
京都府五麟市。
そこは、紅蓮が街を飲み込んでいた。
五麟は今、空前絶後の事態に存亡の危機を迎えている。血雨部隊から帰ってきた覚者は皆、変わり果てた街に唖然とした。
燃える街。人々がこぞって避難を行い、はぐれた子供を捜す親、そして、泣き叫ぶ子供。それらに襲い掛かる者達……。それによって、街が赤く染まっていく。
刻、一刻と七星剣達に飲み込まれていく街。幸いにも、『F.i.V.E.』に残ってくれていた覚者が、被害を最小限に食い止めてくれていたようだったが……。
最早これ以上、奴等に何も譲るものは無い。
指示は1つ、速やかに侵入者を制圧せよ。
全ての百鬼をこの街から追い出す為、『F.i.V.E.』覚者の長い夜は始まった。
一度、『F.i.V.E.』の覚者と合間見えた禍時の百鬼達。
彼らは補給を受け、改めて五麟大学に攻め入ろうとしていた。
「保住、アレ、あるかな」
「霧山さん。持ってきてますよ」
霧山は隊員から、愛用の飛苦無を受け取る。その切っ先には、何やら麻痺毒が塗られているようだ。
「ふふふ、結局正面から仕掛ける羽目になるとはね」
覚者達と一度対戦した際は、思わぬ不意をつかれ、出鼻をくじかれた。折角、敷地内から楽して崩していこうと思っていたのにと、霧山は独りごちる。
その為に、彼は少しずつ準備を進めていた。比較的一般人が出入りしやすい場所を探し、そして、仲間達の忍び込ませていた。
もっと『F.i.V.E.』の覚者達とは交流しておくべきだったか。さすれば、寝首をかくことだってできたかもしれない。
「まあいいさ」
街では、同志達が好き勝手に暴れてくれている。ならば、自分達も好きにやらせてもらおうと、霧山達は考えていた。
「この機は逃せないっす。今度は全力でやるっすよ」
「ああ。ふふふ……」
霧山の顔に浮かぶ笑い。それには、保住すらも悪寒を覚えるのである。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.禍時の百鬼の撃退(生死は問わない)
2.保住の撃破(生死は問わない)
3.なし
2.保住の撃破(生死は問わない)
3.なし
全体シナリオをお送りします。そして、霧山も百鬼の仲間と本気でぶつかってきます。五麟市を、『F.i.V.E』を、守っていただきますよう、お願いいたします。
●敵
○百鬼……7体。
・霧山・譲(きりやま・ゆずる)……18歳。暦の因子、天行。持っている飛苦無には、麻痺効果のある液体が塗られています。鋭聴力、面接着を所持。後衛に位置取ります。
『黎明』の一員として『F.i.V.E.』と接触していた男ですが、その正体は、『百鬼』の隊長だった男です。
・隊長、保住・智(ほずみ・さとる)……17歳。械の因子、火行。機関銃を所持。中衛に立つようです。元は副官として立ち回っていましたが、霧山が独立活動を行うに当たり、隊長に昇格しております。
あまり感情を表に出さない男です。今回も淡々と、百鬼の長、逢魔ヶ時紫雨の命に従い、五麟市を襲撃します。
・隊員……男×2(彩×木、翼×天)、女×3(現×火、獣(巳)×土、暦×水)。
前回も現れた隊員達で、欠員を補填しております。男性2人は前衛で大剣を所持、女性3人は中衛で和弓を所持しております。現×火の女性が送受信を使用します。
霧山や保住を傷つけられたことで、かなり憤っているようです。
●状況
戦いの舞台は夜です。
前回はすでに五麟大学構内に忍び込んでいた彼らですが、今回は校舎の外から堂々と現れます。
敢えて、再び大学内に一団で固まって入り込んできます。夢見に筒抜けたと知った上ですので、本腰を入れて攻めてきます。
なお、大学構内にいた人々は避難しておりますので、戦闘に専念することができます。
霧山については、
『【日ノ丸事変】新興勢力の青年』『<黎明>動き出した雪だるま』を、
その他のメンバーについては、
『《緊急依頼》襲撃は内部から』もご参照くださいませ。
読まずとも特にマイナスに働くことはございません。
それでは、今回もよろしくお願いいたします!
※一部表現に誤りがあり、修正が行なわれました。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月16日
2016年03月16日
■メイン参加者 8人■

●鬼の行く手を遮る覚者達
五麟市に溢れる鬼。
七星剣幹部の1人、逢魔ヶ時 紫雨が百鬼を連れ、街を血と炎に染め上げ、真っ赤にしていく。
五麟学園内にも、鬼達の姿がある。一度は引いてはいたが、仲間の決起に合わせ、改めて五麟大学内へと攻め込んできていた。
もちろん、それは『F.i.V.E.』の夢見の予知の範疇にある。『F.i.V.E.』所属の覚者達もまたそれを出迎えるべく、大学内で各自暗視の活性、あるいは灯りを手にして待ち構えていた。
「馬鹿がまた馬鹿を晒しに来たのか、ご苦労なことだ」
赤祢 維摩(CL2000884)はちらりと後ろを見やると、そこには、四月一日 四月二日(CL2000588)の姿がある。
「そこの馬鹿より学習能力がない。酒如きで喚くそこの馬鹿よりな」
「はいどうも、馬鹿でーす」
指名を受けて、四月二日は投げやりに挙手をする。
「よう若者。その節はよくも暴れてくれたなオイ」
四月二日は、威嚇するように百鬼へと言葉を飛ばす。
「お陰で、赤祢くんの研究室に置いといた俺の酒が軒並みパーだ。生産終了してる超高えスコッチとかあったのに! ……カタキは取るぜ」
飄々としながらも、四月二日は叫ぶ。
一方の百鬼は5人の隊員。そして、それを保住・智が率いている。
「フフ……、今度は正面切っての正面衝突になる訳ねん。良いわよ、そう言った小細工抜きの勝負は嫌いじゃないわん♪」
笑顔を浮かべる『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は語りかけながらも、相手の挙動に注意を払う。小細工抜きなのだろうが、何を仕掛けてくるか、本当にそのまま来るかすら分からない。念の為にと、鋭聴力も働かせている。
「ピンチになったら、今度も逃げるのかしらん? 譲?」
「さぁ……ね」
そして、百鬼の後方には、『黎明』の一員として『F.i.V.E.』メンバーを欺いてきた霧山・譲の姿がある。
「一応は、残念だと言っておこうか? ……だが、仲間でない集団が敵だったところで、仲間が敵になったら即殺せるよう備えているオレには大差ない」
葦原 赤貴(CL2001019)は言葉とは裏腹に、全く残念がる素振りはない。
「裏切ったのどうのなんて、別に大したことじゃないのよね。そもそも最初から信じてなかったのはこっちも同じだしね!」
『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)も、黎明をほとんど信用していなかった一人だ。
仲間と共に並び立つ茨田・凜(CL2000438)も、霧山へと声を掛ける。
「霧山さんとまた出会ってしまうなんて、何か運命的なものを感じるんよ」
カッコいい男の人だから、篭絡したかったのにと小さく呟いた後、凜はさらに続ける。敵だと知り、彼女の中では「用無し男」になってしまったと。
「だから、今回はゴキブリと同じように、きっちり退治するんよ」
プチ失恋状態のような感覚を覚える凜。その怒りを戦いにぶつけようと考えている。
「ふふ、ずいぶん評価が落ちたものだね」
笑う霧山を、同じく冷めた目で、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が見つめる。
「……懲りずに来たわね、ユズル。今度こそ、この『女帝』が貴方に引導を渡して差し上げるわ」
「悪いけれど、それは受け取れないな」
霧山が何と言おうとも。エメレンツィアに彼を逃がす気はない。
「私としてはどちらでも良いけど……。今回もあまり加減しないから、残される子達は憐れねぇ♪」
仮に霧山がこの場から逃げても、残る部下は。輪廻はちらりとそちらに視線を走らせると、隊員達は霧山や保住に敵対する覚者に憤っていた。
「でもね、……怒ってるのは私達の方だと言うのを、忘れないでくれるかしらね……」
笑顔を浮かべる輪廻だが、彼女も内心では怒りで燃え上がっている。
そして。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!!」
その感情全てを怒りで塗り潰す、『星狩り』一色・満月(CL2000044)。彼から家族を奪った七星剣が、今度は満月の住む町を奪わんとしている。
「俺は殺人鬼だ。お前等百鬼と何一つ変わらない人殺しの最低のクズだ。クズはクズ同士で、潰し合おうじゃねえか」
満月は語る。今宵は星クズどもの狩りの日。七星剣は屠る――例外は、無い
「各員、いくっすよ」
保住の声が響く。それが開幕を告げる一声となった。
●立ち上がりは穏やかに
動き出す覚者、そして、百鬼。
敵を前にし、輪廻は体内に宿る炎を灼熱化して身体能力を高め、満月もまた、同様に灼熱化した炎を纏っていた。
「征くぞ、七星剣。俺は、貴様等に対して復讐の為だけに生きている男さ」
刀を握り締め、満月はそれを目の前の隊員達へと向ける。
「俺の名前なんぞ重要でも無い。価値があるのは貴様等の死だけだ。……俺の復讐心を、鎮めてくれよ」
満月はそのまま、敵中央の女性隊員へと切りかかっていく。
一方で、百鬼達も、スキルで自らの能力を高める。霧山も心地良い空気感で全員を包み、保住もまた火の力を纏っていた。
一度まみえている両者ではあるが、開幕は互いに様子見といった動きだ。凜は臨機応変に動けるようにと後ろに立って敵の陣形などを確認しつつ、水のベールを仲間達へと纏わせていく。エメレンツィアも静かに、英霊の力を引き出していた。
後ろの維摩は、戦況を全体的に確認しながらも、エネミースキャンを使って敵の情報の把握に努める。
(やはり、水行の女が回復に動くようだな)
維摩は前回の戦闘内容も含め、得られた情報を送受信で仲間達へと伝達する。
それを聞いた赤貴は、攻めて来る敵を正面に捉える。敵は霧山や保住を傷つけた覚者へと怒りを露わにしていた。
(戦闘を行えば、双方に死者も負傷者も出るのは当然だろうに)
所詮、それも理解できないほどに敵は愚かなのかと、赤貴は考えるが、敵が吐く怨嗟の言葉など、彼には全く興味はない。
(……まぁ、殺すなとは言われていない敵だ、気にせず斬ろう)
彼は駆け抜けるようにして淡い銀光を放つ大剣を振るい、隊員を切りつけていく。
その後ろにいる四月二日は、気持ちを切り替える為に伊達眼鏡をかけ、英霊の力を引き出して自身の力を固める。そして、仲間と同じく、水行の女を狙おうと構えた。
「馬鹿が」
しかし、そんな彼へと維摩が辛辣な一言。四月二日は百鬼を目にして、恐怖心で足がすくみそうになっている。
「慣れないことをするなら、壁にでも徹してろよ」
飄々としたその態度も、この場では演じているに過ぎないと、維摩は見透かしていたのだ。
「正直、そうしよう、って意思を持って、人一人の人生終わらせるのは怖いし、覚悟がいる」
四月二日は後ろを振り返り、続ける。
「……でも、自分や『友達』が死ぬのは困るんだよ。相手が殺す気で来るなら、同じ覚悟で挑むだけだ」
だが、維摩は鼻を鳴らす。
「覚悟? 下らん。態々同じ目線で戦ってやる必要がどこにある」
お前はせいぜい、いつも通り馬鹿な顔をして戦っていろと、そっけない言葉をぶちまける。すると、四月二日は声を荒げ、反論する。
「ああ、大馬鹿だよ。馬鹿じゃなきゃ、キミみたいな性悪野郎の友達やってねえ!」
見つめ合う2人。その間にも、力を高める数多。さりげに『馬鹿』に反応していたのは内緒である。
「この後、潰れるまで飲ますからな? 生きてろよ!」
すると、維摩は払いのけるように手を動かす。見れば、戦闘態勢を整えた敵は本格的に覚者達へと攻め込み始める。
(馬鹿が悩むほど、鬱陶しいものはない)
維摩は1つ溜息をつき、さらに敵の情報収集へと当たるのである。
●戦いは激しさを増して
本格的な交戦が始まり、両者は互いにぶつかり合う。
百鬼メンバーは男性隊員を除き、ほとんどが飛び道具でこちらを攻撃してくる。
数多は戦いの最中、霧山の臭いを記憶しておく。前回、先に逃げ出していた霧山は今回も……と警戒していたのだ。
「櫻火真陰流、酒々井数多、往きます」
下準備を整えた数多は攻撃に移る。狙いは仲間が攻撃を行う水行の女性隊員。彼女は戦場を掛け抜けるようにして、大剣を振り回し、百鬼メンバーを切りつけていく。四月二日もまた回復手を落とすべく、雷を落とす。
さらに、輪廻が地を這うような軌跡を描きつつ、拳を女性隊員へとアッパーを繰り出す。卒倒した女性は、白目を向いて倒れていった。
1人を失い、百鬼はさらに攻勢を強める。
覚者の回復は十分であったはずだが、中衛に立つ保住の力は強大だった。彼の狙った覚者へと致命傷を与える。そして、他の隊員が攻撃を重ねるのだ。
狙われたのは、輪廻。さすがに敵の集中攻撃に対応ができず、彼女は一度地を這って。それでも、命の力に頼り、倒れることを拒絶する。
前面に立って攻めてくる男性隊員の姿に、維摩が悪態をつく。
「滑稽な演技の次は、単細胞の真似事か?」
そんな挑発の言葉と共に、彼は敵を苛立たせ、怒りを覚えさせる。
「そら、馬鹿が得意な力押しだぞ?」
維摩はそんな敵の姿を見て、嘲笑する。怒りに狂う敵へ、赤貴が迫った。
(他にネタがなかったら失笑ものだが……さて)
赤貴はそう考えて攻撃しながらも敵の行動を確認する。隊員に目立った特技は見られないが、保住は強力な力を持ち、統率の取れたチームという印象を抱く。
ともあれ、効率よく殲滅せねばと、大剣を真横に薙ぐ。同じく大剣を獲物としていた男性隊員が、胴を真っ二つに切り裂かれ、絶命してしまった。
苦い顔で銃弾をばら撒く保住。エメレンツィアはそのホズミが列で来るのは承知の上で、術符を構える。
「流石に一筋縄ではいかないわね。待ってて、今回復するわ」
エメレンツィアは被害を広げぬようにと、霧を展開し、仲間の体力を回復させる。気力の続く限り。ジリ損にならぬようにと彼女は心がけて動く。
だが、厄介なのは、霧山が飛ばす飛苦無。それには、麻痺毒が塗られているようなのだ。
この対処には凜が動く。エメレンツィアの要望もあり、深層水の神秘の力を使い、麻痺で動けなくなった仲間をすかさず回復する。
「厄介だね、彼女は」
だからこそ、次に凜が狙われた。
凜は全体的な状況を見るべく、臨機応変に立ち回り、時に陣形の中心にも出ていた。回復役構えに出たタイミング。それを落とされた自分達と同様に狙おうと保住は考え、隊員に指示を出したのだ。
対する凜。今までも幾度か、飛び道具で痛い目に合っている彼女だからこそ、今回もそれに対応にしていたが、保住を中心とする連携は非常に痛い。凜もまた、意識を失いかけはしたが、命数の力を使い、立ち上がる。傷が深くなかったのは、彼女が最大限対処していた事も大きいだろう。
満月もまた、一度、保住からの連携によって、一度命に縋っていた。
それでも、倒れるわけにはいかない。目の前の相手を殺す為に。
「殺す、首を狙え、首を飛ばせ、1つたりとも逃してならない」
彼は刃を煌かせ、翼人の男性隊員を狙う。
「首を置いていけ、首を寄越せ」
復讐心に身をゆだねる満月。彼の刃は躊躇なく、翼人の脳天からその身を二つに引き裂いて。
地で濡れる刃。彼は人を手に掛けたことに刹那逡巡するも、なおも襲ってくる敵へとその刃を差し向ける。
立っているのは女性隊員2人と、保住、それに霧山だ。
「黎明……あんた達を信じていたのだがな……残念だ」
一度、百鬼から距離を取っていた満月が徐に語り掛ける。一瞬だろうと、仲間であったことに変わりはない。……しかし。
「裏切り……それが、貴様等のやり方か。街を、人を、壊し、悲しみを産むことが楽しいか? 紫雨の指示ならば、非道も貫けるのか?」
霧山は語らない。なぜか徐々に口数が減り、笑みが引いていた。
「俺は――貴様等を否定する!! 七星剣は、俺が壊す!!」
満月はそう叫び、刀を振りあげ、保住の首を狙う。覚者達の狙いは、保住へと向いていた。
その保住の後ろ。霧山・譲はつまらなさそうに溜息をついた。
「保住」
びくりと身体を振るわせる保住。彼は後ろすら向かない。送受信を持つ女性隊員も驚く様子を見せるということは、彼女にとっても突然の出来事なのだろう。
「お前、隊員を甘やかしすぎたな」
嘆息する霧山。それまで真面目に戦っていたはずの霧山。しかし、急に興が醒めたのか、飛苦無を懐にしまう。
「後はなんとかしろよ。百鬼の一員なのだろう?」
そうして、霧山は後ろに飛びのき、そのまま後方へと逃げ出す。
「都合よく、何度も逃げられると思っているのか?」
「でも、今回はみすみす逃がしはしないわ」
それは、覚者達はある程度予見していたこと。維摩、エメレンツィアもそれは考えていた。同じく警戒していた、赤貴、そして数多が動く。輪廻がそこで、まっすぐ逃げて行ったと彼らに告げる。
「満月、そっちまかせたからねっ! いくわよ、赤貴君!」
2人は韋駄天足を使い、霧山を追う。邪魔をしようとする保住と女性隊員を、満月が抑え、熱圧縮した空気を飛ばす。
「……任せろ、数多。全員、屠ってから合流する」
言葉を背に受け、2人は瞬く間にこの場から去っていった。
残ったメンバー達。覚者6人に対し、隊長保住と女性隊員2人が残るのみだ。
この場を抑えようとする満月であったが、彼は認識を誤っていた。あくまでも、倒すべきは現場の指揮権を持つ保住。だが、多くの覚者の因縁は保住でなく、霧山にある。霧山を追いかける2人に、満月はやや戸惑いを見せていたのだ。
保住は強敵だ。隊員とは格が違い、その右腕の銃口からばら撒く散弾は、覚者達の体力を大きく削ぎ、疲弊させる。的確な狙いを行う判断力も厄介なところだ。
「甘いっすね」
保住の弾丸は満月を撃ち抜く。そして、女性2人が弓矢で射抜き……、満月は意識を失い倒れてしまう。
凜とエメレンツィアはこの為、癒しの滴を振りまき、前線で耐えている輪廻の回復に全力を尽くす。
輪廻も倒れると、メンバーは壊滅しかねない状況だった。前衛2人が抜けた穴が大きすぎたのだ。
それでも、なんとか攻撃を。四月二日は自らの精神力を転化し、維摩の気力を回復させる。その維摩は残る保住ら目掛け、激しい雷を叩き落す。
「負けては……いられないっす……」
追い詰められる保住。女性隊員がフォローをするが、彼の傷は深まるばかりだ。
保住が右腕の銃を突きつけてくるよりも早く、輪廻が彼の懐へと飛び込む。
「私達の怒り、存分に受け取ってねん♪」
そうして、輪廻は両手のナックルで保住へとワンツーを叩きつける。
「きり……まさ……すみませ……す……」
保住は、1、2歩後退りしてから、口から血を吐く。崩れ落ちる彼が動くことはもうなかった。
隊長が倒れると。残る女性隊員もまた、保住の仇と向かい来るが。覚者達は程なく、それを鎮圧してしまったのだった。
●戦いの行く末は
霧山はすぐに、後ろから追われている事に気づく。日ノ丸の時も追われていたとは、銀色の髪の女性の言葉だったか。
追われることに気づいた霧山は再び不敵な笑みを浮かべ、飛苦無を投げる。赤貴は守護使役のへんけいでジャケットを重ねて弾こうと試みる。その効果の為か、敵の狙いがずれたからなのか、赤貴はそれを避けていたようだ。
壁を登って逃げようとしても、数多も面接着を活性化させており、執拗に追う。予め覚えた臭いもあり、捉えて逃さない。
「しつこいね……」
仕方なく、霧山は立ち止まり、2人を待ち受ける。
数多は完全に捉えたと感じ、圧撃で霧山を弾き飛ばす。その上で、赤貴が豪腕の一撃を霧山へと叩き込む。
「いいね、そういうの、僕は好きだよ」
ふふと笑う彼が殺気を放つと、赤貴と数多に戦慄が走る。それまで、彼は本気ではなかったと言うことだろう。
考えてみれば、彼が本気で戦っているところを、覚者達は見たことがあったろうか。日ノ丸のときも、雪だるまのときも。彼は真剣に戦ってはいなかった。
「見くびられたものだね……」
彼は的確に飛び苦無を飛ばし、2人の喉元を狙う。そして、落とす雷は、余りにも強力だった。
命を削ってなお、起き上がる数多、赤貴。そこに、霧山は攻撃を重ねる。彼はまたも、2人の頭上に雷雲を呼び起こして。
「じゃあね、『F.i.V.E.』」
数多、赤貴は最後にそんな言葉を耳にし、意識が途切れてしまった。
静まった大学内では。
「ああ、1つ言い忘れていたが」
戦いを乗り切った維摩は、四月二日へと告げる。
「スコッチは美味かったぞ?」
「飲んだの、赤祢くんかよ!?」
実は勝手に酒を飲んでいた維摩に、四月二日が詰め寄る。
……戦果としては、メンバー達は無事、五麟学園を、『F.i.V.E.』を守りきった。
攻め込んできた百鬼、保住以下6名を殺害。そうしなければ、皆を守ることはできなかった。逃すと余計な被害も増えるという考えもあっての処置だ。
だが、覚者の被害は甚大だった。霧山を追った数多、赤貴は程なく回収され、病院へと運び込まれた。輪廻、凜、満月も重軽傷を負っており、辛勝だったと言わざるを得ない。
エメレンツィアは、ここで霧山を仕留めると考えていたが為に、悔しさをにじませる。
(いつか必ず、あなたを止めるわ、ユズル)
彼女は闇の中に消えた霧山の後ろ姿を、いつまでも見つめていた。
五麟市に溢れる鬼。
七星剣幹部の1人、逢魔ヶ時 紫雨が百鬼を連れ、街を血と炎に染め上げ、真っ赤にしていく。
五麟学園内にも、鬼達の姿がある。一度は引いてはいたが、仲間の決起に合わせ、改めて五麟大学内へと攻め込んできていた。
もちろん、それは『F.i.V.E.』の夢見の予知の範疇にある。『F.i.V.E.』所属の覚者達もまたそれを出迎えるべく、大学内で各自暗視の活性、あるいは灯りを手にして待ち構えていた。
「馬鹿がまた馬鹿を晒しに来たのか、ご苦労なことだ」
赤祢 維摩(CL2000884)はちらりと後ろを見やると、そこには、四月一日 四月二日(CL2000588)の姿がある。
「そこの馬鹿より学習能力がない。酒如きで喚くそこの馬鹿よりな」
「はいどうも、馬鹿でーす」
指名を受けて、四月二日は投げやりに挙手をする。
「よう若者。その節はよくも暴れてくれたなオイ」
四月二日は、威嚇するように百鬼へと言葉を飛ばす。
「お陰で、赤祢くんの研究室に置いといた俺の酒が軒並みパーだ。生産終了してる超高えスコッチとかあったのに! ……カタキは取るぜ」
飄々としながらも、四月二日は叫ぶ。
一方の百鬼は5人の隊員。そして、それを保住・智が率いている。
「フフ……、今度は正面切っての正面衝突になる訳ねん。良いわよ、そう言った小細工抜きの勝負は嫌いじゃないわん♪」
笑顔を浮かべる『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)は語りかけながらも、相手の挙動に注意を払う。小細工抜きなのだろうが、何を仕掛けてくるか、本当にそのまま来るかすら分からない。念の為にと、鋭聴力も働かせている。
「ピンチになったら、今度も逃げるのかしらん? 譲?」
「さぁ……ね」
そして、百鬼の後方には、『黎明』の一員として『F.i.V.E.』メンバーを欺いてきた霧山・譲の姿がある。
「一応は、残念だと言っておこうか? ……だが、仲間でない集団が敵だったところで、仲間が敵になったら即殺せるよう備えているオレには大差ない」
葦原 赤貴(CL2001019)は言葉とは裏腹に、全く残念がる素振りはない。
「裏切ったのどうのなんて、別に大したことじゃないのよね。そもそも最初から信じてなかったのはこっちも同じだしね!」
『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)も、黎明をほとんど信用していなかった一人だ。
仲間と共に並び立つ茨田・凜(CL2000438)も、霧山へと声を掛ける。
「霧山さんとまた出会ってしまうなんて、何か運命的なものを感じるんよ」
カッコいい男の人だから、篭絡したかったのにと小さく呟いた後、凜はさらに続ける。敵だと知り、彼女の中では「用無し男」になってしまったと。
「だから、今回はゴキブリと同じように、きっちり退治するんよ」
プチ失恋状態のような感覚を覚える凜。その怒りを戦いにぶつけようと考えている。
「ふふ、ずいぶん評価が落ちたものだね」
笑う霧山を、同じく冷めた目で、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が見つめる。
「……懲りずに来たわね、ユズル。今度こそ、この『女帝』が貴方に引導を渡して差し上げるわ」
「悪いけれど、それは受け取れないな」
霧山が何と言おうとも。エメレンツィアに彼を逃がす気はない。
「私としてはどちらでも良いけど……。今回もあまり加減しないから、残される子達は憐れねぇ♪」
仮に霧山がこの場から逃げても、残る部下は。輪廻はちらりとそちらに視線を走らせると、隊員達は霧山や保住に敵対する覚者に憤っていた。
「でもね、……怒ってるのは私達の方だと言うのを、忘れないでくれるかしらね……」
笑顔を浮かべる輪廻だが、彼女も内心では怒りで燃え上がっている。
そして。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!!」
その感情全てを怒りで塗り潰す、『星狩り』一色・満月(CL2000044)。彼から家族を奪った七星剣が、今度は満月の住む町を奪わんとしている。
「俺は殺人鬼だ。お前等百鬼と何一つ変わらない人殺しの最低のクズだ。クズはクズ同士で、潰し合おうじゃねえか」
満月は語る。今宵は星クズどもの狩りの日。七星剣は屠る――例外は、無い
「各員、いくっすよ」
保住の声が響く。それが開幕を告げる一声となった。
●立ち上がりは穏やかに
動き出す覚者、そして、百鬼。
敵を前にし、輪廻は体内に宿る炎を灼熱化して身体能力を高め、満月もまた、同様に灼熱化した炎を纏っていた。
「征くぞ、七星剣。俺は、貴様等に対して復讐の為だけに生きている男さ」
刀を握り締め、満月はそれを目の前の隊員達へと向ける。
「俺の名前なんぞ重要でも無い。価値があるのは貴様等の死だけだ。……俺の復讐心を、鎮めてくれよ」
満月はそのまま、敵中央の女性隊員へと切りかかっていく。
一方で、百鬼達も、スキルで自らの能力を高める。霧山も心地良い空気感で全員を包み、保住もまた火の力を纏っていた。
一度まみえている両者ではあるが、開幕は互いに様子見といった動きだ。凜は臨機応変に動けるようにと後ろに立って敵の陣形などを確認しつつ、水のベールを仲間達へと纏わせていく。エメレンツィアも静かに、英霊の力を引き出していた。
後ろの維摩は、戦況を全体的に確認しながらも、エネミースキャンを使って敵の情報の把握に努める。
(やはり、水行の女が回復に動くようだな)
維摩は前回の戦闘内容も含め、得られた情報を送受信で仲間達へと伝達する。
それを聞いた赤貴は、攻めて来る敵を正面に捉える。敵は霧山や保住を傷つけた覚者へと怒りを露わにしていた。
(戦闘を行えば、双方に死者も負傷者も出るのは当然だろうに)
所詮、それも理解できないほどに敵は愚かなのかと、赤貴は考えるが、敵が吐く怨嗟の言葉など、彼には全く興味はない。
(……まぁ、殺すなとは言われていない敵だ、気にせず斬ろう)
彼は駆け抜けるようにして淡い銀光を放つ大剣を振るい、隊員を切りつけていく。
その後ろにいる四月二日は、気持ちを切り替える為に伊達眼鏡をかけ、英霊の力を引き出して自身の力を固める。そして、仲間と同じく、水行の女を狙おうと構えた。
「馬鹿が」
しかし、そんな彼へと維摩が辛辣な一言。四月二日は百鬼を目にして、恐怖心で足がすくみそうになっている。
「慣れないことをするなら、壁にでも徹してろよ」
飄々としたその態度も、この場では演じているに過ぎないと、維摩は見透かしていたのだ。
「正直、そうしよう、って意思を持って、人一人の人生終わらせるのは怖いし、覚悟がいる」
四月二日は後ろを振り返り、続ける。
「……でも、自分や『友達』が死ぬのは困るんだよ。相手が殺す気で来るなら、同じ覚悟で挑むだけだ」
だが、維摩は鼻を鳴らす。
「覚悟? 下らん。態々同じ目線で戦ってやる必要がどこにある」
お前はせいぜい、いつも通り馬鹿な顔をして戦っていろと、そっけない言葉をぶちまける。すると、四月二日は声を荒げ、反論する。
「ああ、大馬鹿だよ。馬鹿じゃなきゃ、キミみたいな性悪野郎の友達やってねえ!」
見つめ合う2人。その間にも、力を高める数多。さりげに『馬鹿』に反応していたのは内緒である。
「この後、潰れるまで飲ますからな? 生きてろよ!」
すると、維摩は払いのけるように手を動かす。見れば、戦闘態勢を整えた敵は本格的に覚者達へと攻め込み始める。
(馬鹿が悩むほど、鬱陶しいものはない)
維摩は1つ溜息をつき、さらに敵の情報収集へと当たるのである。
●戦いは激しさを増して
本格的な交戦が始まり、両者は互いにぶつかり合う。
百鬼メンバーは男性隊員を除き、ほとんどが飛び道具でこちらを攻撃してくる。
数多は戦いの最中、霧山の臭いを記憶しておく。前回、先に逃げ出していた霧山は今回も……と警戒していたのだ。
「櫻火真陰流、酒々井数多、往きます」
下準備を整えた数多は攻撃に移る。狙いは仲間が攻撃を行う水行の女性隊員。彼女は戦場を掛け抜けるようにして、大剣を振り回し、百鬼メンバーを切りつけていく。四月二日もまた回復手を落とすべく、雷を落とす。
さらに、輪廻が地を這うような軌跡を描きつつ、拳を女性隊員へとアッパーを繰り出す。卒倒した女性は、白目を向いて倒れていった。
1人を失い、百鬼はさらに攻勢を強める。
覚者の回復は十分であったはずだが、中衛に立つ保住の力は強大だった。彼の狙った覚者へと致命傷を与える。そして、他の隊員が攻撃を重ねるのだ。
狙われたのは、輪廻。さすがに敵の集中攻撃に対応ができず、彼女は一度地を這って。それでも、命の力に頼り、倒れることを拒絶する。
前面に立って攻めてくる男性隊員の姿に、維摩が悪態をつく。
「滑稽な演技の次は、単細胞の真似事か?」
そんな挑発の言葉と共に、彼は敵を苛立たせ、怒りを覚えさせる。
「そら、馬鹿が得意な力押しだぞ?」
維摩はそんな敵の姿を見て、嘲笑する。怒りに狂う敵へ、赤貴が迫った。
(他にネタがなかったら失笑ものだが……さて)
赤貴はそう考えて攻撃しながらも敵の行動を確認する。隊員に目立った特技は見られないが、保住は強力な力を持ち、統率の取れたチームという印象を抱く。
ともあれ、効率よく殲滅せねばと、大剣を真横に薙ぐ。同じく大剣を獲物としていた男性隊員が、胴を真っ二つに切り裂かれ、絶命してしまった。
苦い顔で銃弾をばら撒く保住。エメレンツィアはそのホズミが列で来るのは承知の上で、術符を構える。
「流石に一筋縄ではいかないわね。待ってて、今回復するわ」
エメレンツィアは被害を広げぬようにと、霧を展開し、仲間の体力を回復させる。気力の続く限り。ジリ損にならぬようにと彼女は心がけて動く。
だが、厄介なのは、霧山が飛ばす飛苦無。それには、麻痺毒が塗られているようなのだ。
この対処には凜が動く。エメレンツィアの要望もあり、深層水の神秘の力を使い、麻痺で動けなくなった仲間をすかさず回復する。
「厄介だね、彼女は」
だからこそ、次に凜が狙われた。
凜は全体的な状況を見るべく、臨機応変に立ち回り、時に陣形の中心にも出ていた。回復役構えに出たタイミング。それを落とされた自分達と同様に狙おうと保住は考え、隊員に指示を出したのだ。
対する凜。今までも幾度か、飛び道具で痛い目に合っている彼女だからこそ、今回もそれに対応にしていたが、保住を中心とする連携は非常に痛い。凜もまた、意識を失いかけはしたが、命数の力を使い、立ち上がる。傷が深くなかったのは、彼女が最大限対処していた事も大きいだろう。
満月もまた、一度、保住からの連携によって、一度命に縋っていた。
それでも、倒れるわけにはいかない。目の前の相手を殺す為に。
「殺す、首を狙え、首を飛ばせ、1つたりとも逃してならない」
彼は刃を煌かせ、翼人の男性隊員を狙う。
「首を置いていけ、首を寄越せ」
復讐心に身をゆだねる満月。彼の刃は躊躇なく、翼人の脳天からその身を二つに引き裂いて。
地で濡れる刃。彼は人を手に掛けたことに刹那逡巡するも、なおも襲ってくる敵へとその刃を差し向ける。
立っているのは女性隊員2人と、保住、それに霧山だ。
「黎明……あんた達を信じていたのだがな……残念だ」
一度、百鬼から距離を取っていた満月が徐に語り掛ける。一瞬だろうと、仲間であったことに変わりはない。……しかし。
「裏切り……それが、貴様等のやり方か。街を、人を、壊し、悲しみを産むことが楽しいか? 紫雨の指示ならば、非道も貫けるのか?」
霧山は語らない。なぜか徐々に口数が減り、笑みが引いていた。
「俺は――貴様等を否定する!! 七星剣は、俺が壊す!!」
満月はそう叫び、刀を振りあげ、保住の首を狙う。覚者達の狙いは、保住へと向いていた。
その保住の後ろ。霧山・譲はつまらなさそうに溜息をついた。
「保住」
びくりと身体を振るわせる保住。彼は後ろすら向かない。送受信を持つ女性隊員も驚く様子を見せるということは、彼女にとっても突然の出来事なのだろう。
「お前、隊員を甘やかしすぎたな」
嘆息する霧山。それまで真面目に戦っていたはずの霧山。しかし、急に興が醒めたのか、飛苦無を懐にしまう。
「後はなんとかしろよ。百鬼の一員なのだろう?」
そうして、霧山は後ろに飛びのき、そのまま後方へと逃げ出す。
「都合よく、何度も逃げられると思っているのか?」
「でも、今回はみすみす逃がしはしないわ」
それは、覚者達はある程度予見していたこと。維摩、エメレンツィアもそれは考えていた。同じく警戒していた、赤貴、そして数多が動く。輪廻がそこで、まっすぐ逃げて行ったと彼らに告げる。
「満月、そっちまかせたからねっ! いくわよ、赤貴君!」
2人は韋駄天足を使い、霧山を追う。邪魔をしようとする保住と女性隊員を、満月が抑え、熱圧縮した空気を飛ばす。
「……任せろ、数多。全員、屠ってから合流する」
言葉を背に受け、2人は瞬く間にこの場から去っていった。
残ったメンバー達。覚者6人に対し、隊長保住と女性隊員2人が残るのみだ。
この場を抑えようとする満月であったが、彼は認識を誤っていた。あくまでも、倒すべきは現場の指揮権を持つ保住。だが、多くの覚者の因縁は保住でなく、霧山にある。霧山を追いかける2人に、満月はやや戸惑いを見せていたのだ。
保住は強敵だ。隊員とは格が違い、その右腕の銃口からばら撒く散弾は、覚者達の体力を大きく削ぎ、疲弊させる。的確な狙いを行う判断力も厄介なところだ。
「甘いっすね」
保住の弾丸は満月を撃ち抜く。そして、女性2人が弓矢で射抜き……、満月は意識を失い倒れてしまう。
凜とエメレンツィアはこの為、癒しの滴を振りまき、前線で耐えている輪廻の回復に全力を尽くす。
輪廻も倒れると、メンバーは壊滅しかねない状況だった。前衛2人が抜けた穴が大きすぎたのだ。
それでも、なんとか攻撃を。四月二日は自らの精神力を転化し、維摩の気力を回復させる。その維摩は残る保住ら目掛け、激しい雷を叩き落す。
「負けては……いられないっす……」
追い詰められる保住。女性隊員がフォローをするが、彼の傷は深まるばかりだ。
保住が右腕の銃を突きつけてくるよりも早く、輪廻が彼の懐へと飛び込む。
「私達の怒り、存分に受け取ってねん♪」
そうして、輪廻は両手のナックルで保住へとワンツーを叩きつける。
「きり……まさ……すみませ……す……」
保住は、1、2歩後退りしてから、口から血を吐く。崩れ落ちる彼が動くことはもうなかった。
隊長が倒れると。残る女性隊員もまた、保住の仇と向かい来るが。覚者達は程なく、それを鎮圧してしまったのだった。
●戦いの行く末は
霧山はすぐに、後ろから追われている事に気づく。日ノ丸の時も追われていたとは、銀色の髪の女性の言葉だったか。
追われることに気づいた霧山は再び不敵な笑みを浮かべ、飛苦無を投げる。赤貴は守護使役のへんけいでジャケットを重ねて弾こうと試みる。その効果の為か、敵の狙いがずれたからなのか、赤貴はそれを避けていたようだ。
壁を登って逃げようとしても、数多も面接着を活性化させており、執拗に追う。予め覚えた臭いもあり、捉えて逃さない。
「しつこいね……」
仕方なく、霧山は立ち止まり、2人を待ち受ける。
数多は完全に捉えたと感じ、圧撃で霧山を弾き飛ばす。その上で、赤貴が豪腕の一撃を霧山へと叩き込む。
「いいね、そういうの、僕は好きだよ」
ふふと笑う彼が殺気を放つと、赤貴と数多に戦慄が走る。それまで、彼は本気ではなかったと言うことだろう。
考えてみれば、彼が本気で戦っているところを、覚者達は見たことがあったろうか。日ノ丸のときも、雪だるまのときも。彼は真剣に戦ってはいなかった。
「見くびられたものだね……」
彼は的確に飛び苦無を飛ばし、2人の喉元を狙う。そして、落とす雷は、余りにも強力だった。
命を削ってなお、起き上がる数多、赤貴。そこに、霧山は攻撃を重ねる。彼はまたも、2人の頭上に雷雲を呼び起こして。
「じゃあね、『F.i.V.E.』」
数多、赤貴は最後にそんな言葉を耳にし、意識が途切れてしまった。
静まった大学内では。
「ああ、1つ言い忘れていたが」
戦いを乗り切った維摩は、四月二日へと告げる。
「スコッチは美味かったぞ?」
「飲んだの、赤祢くんかよ!?」
実は勝手に酒を飲んでいた維摩に、四月二日が詰め寄る。
……戦果としては、メンバー達は無事、五麟学園を、『F.i.V.E.』を守りきった。
攻め込んできた百鬼、保住以下6名を殺害。そうしなければ、皆を守ることはできなかった。逃すと余計な被害も増えるという考えもあっての処置だ。
だが、覚者の被害は甚大だった。霧山を追った数多、赤貴は程なく回収され、病院へと運び込まれた。輪廻、凜、満月も重軽傷を負っており、辛勝だったと言わざるを得ない。
エメレンツィアは、ここで霧山を仕留めると考えていたが為に、悔しさをにじませる。
(いつか必ず、あなたを止めるわ、ユズル)
彼女は闇の中に消えた霧山の後ろ姿を、いつまでも見つめていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
五麟学園の防衛、お疲れ様でした。
残念ながら、霧山は逃亡してしまいましたが……。
黎明がなくなり、百鬼が総崩れの状況で、
彼は一体何をするのか……。
その思惑は闇の中です。
ただ、百鬼は無事、撃退できました。
皆様の総意もあり、彼らの命を断っております。
ともあれ、今はゆっくりとお休みくださいませ。
残念ながら、霧山は逃亡してしまいましたが……。
黎明がなくなり、百鬼が総崩れの状況で、
彼は一体何をするのか……。
その思惑は闇の中です。
ただ、百鬼は無事、撃退できました。
皆様の総意もあり、彼らの命を断っております。
ともあれ、今はゆっくりとお休みくださいませ。
