ヒマワリ水模様
ヒマワリ水模様


●水のさかな
 鮮やかな青色で染め上げられた空に、もくもくと広がるのは真っ白な入道雲。燦々と照り付ける夏の陽射しは眩いほどで、じわりと滲む汗も夏風に晒されて乾いていく。
「あー、夏休みがずっと続けばいいのになあ」
 眼前に広がる向日葵畑を見渡して、少年はそっと無邪気な願いを零した。宿題のことなんか気にせず、こうして友達と遊びまわって――いや、それが叶わない夢だとは自分でも分かっているけれど。
(……で、どこ行ったんだあいつら)
 向日葵は真っ直ぐに、太陽に向かって花を咲かせている。そんな大輪の花たちの中で、彼らはかくれんぼをしていたのだった。がさがさと、少年の手が葉をかき分けて向日葵の迷宮に足を踏み入れようとした時、突如その異変は起きた。
 ――ちゃぷん。奇妙なほどに澄んだ水の音が、少年の鼓膜を震わせる。雨の一滴も降らないような空模様だと言うのに、この音は何処から――そう思った時、彼の視界の端を何かが過ぎった。
「……え、魚……?」
 すいと空中を泳ぎ回る、その透明な魚は不意に揺らぎ水の塊となって――そしてまた、ゆっくりと魚の輪郭を形作る。まるでそれは、真夏の白昼夢だ。向日葵の波を器用に渡って、その水の魚は次第に数を増やしていった。
(ああ、馬鹿! 見とれてる場合じゃない!)
 頬をぱちんと叩き、直ぐに少年は我に返る。こんな奇妙な光景は普通では無くて、人ならざるもの――妖が形を成したのだと、分かり切ったことではないか。
 ――ちゃぷん。再び水の音が響き、水の魚がぶるりと震えた。それと同時、少年の近くで何かがぱしゃんと弾ける。
(水……っ!?)
 例えるなら、水風船が弾けて強烈な水を浴びてしまったような――そこまで考えた所で、少年の意識は不意に断ち切られた。

●夏空の下へ
「おっす! まだまだ暑い日が続くよなー」
 片手を挙げて元気に挨拶をするのは、久方 相馬(nCL2000004)。けれど次の瞬間には真剣な表情になり、彼は集まってくれたF.i.V.E.の仲間たちを見渡して唇を開く。
「……けど、妖絡みの事件はこんな時でも起きる。俺が視たのは、水の妖に子供たちが襲われる未来なんだ」
 夢見である相馬が説明するには、山間部にある集落で事件は起きるらしい。其処の向日葵畑で遊ぶ子供たちが、突如現れた水の妖に襲われ、命を奪われる。
「でも、みんなならこの未来を変えられる筈だ。終わらないでと願う夏休みを、こんな形で終わらせてしまうなんて、あってはいけないだろ?」
 問題の妖は、自然現象の一部が意思を持ったもの。その水の集まりは絶えず揺らぎ、魚の形となって本能のままに目の前のひとを襲う。
「どうやら向日葵畑に入ったものに襲い掛かるみたいだから、子供たちが遊びにやってくる前に倒しちまった方が良いと思う」
 妖のランクは1で、数は3体。幸い然程強い個体ではないようだが、それでも普通のひと――それも子供にとっては、十分な脅威になり得る。
「で、その見た目の通り水を操るみたいだ。戦っている内にずぶ濡れになっちまうかもしれないけど、涼しくなって丁度良い位の気持ちで挑めば何とかなるよな!」
 水の魚は自然系の妖となるので、物理攻撃の効果は薄い。其処は気を付けてほしいと相馬は念を押した。
「でも、さ。無事に妖を片付けたら、向日葵畑でのんびりするのもいいんじゃないか? そうしている内に服も乾くと思うし、辺り一面に咲く向日葵は綺麗だと思うんだよな」
 ――もうじき、夏も終わりを告げるだろう。そんな夏の終わりに水と戯れて、誰かの命を救う事が出来たのなら。
 もしかしたら夏空に架かる虹を、皆で見上げる事も出来るかもしれない。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:柚烏
■成功条件
1.自然系妖3体の討伐。
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。いよいよ本格的な依頼の開始となりますね。夏休みはそろそろ終わりかな、と言う頃ですが、今回は爽やかな感じの妖退治となります。

●水の魚の妖×3
水が意思を持ち、魚の形を取った妖です。自然系でランクは1。然程強い個体ではありませんが、物理攻撃は余り効果がないので気を付けてください。水を操って攻撃してきます。
・水風船(特遠列・【鈍化】)
・水鉄砲(特遠単・貫2)

●戦場
午後の向日葵畑となります。そこに近付いたものに妖は襲い掛かるので、おびき寄せる事も可能です。犠牲者となる子供たちがやって来る前に退治する事になります。

●事後
妖の攻撃は範囲が広いこともあり、恐らくずぶ濡れになると思います。そんな訳なので無事に妖退治が終われば、服の乾かしついでに向日葵畑で寛いでいきましょう。もしかしたら、飛び散る水で虹が見えるかもしれません。童心に戻って、はしゃぐのも素敵ですよ!

 戦いも勿論ですが、その後の寛ぎや心情なども重視出来たらと思います。水と戯れる涼しげなひとときもいいなあと思われたなら、ぜひ楽しみながら戦ってください。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年09月01日

■メイン参加者 8人■


●向日葵畑でつかまえて
 見上げた空には白い雲、そして何処までも透き通る青が一面に広がっている。まだまだ眩い陽光が降り注ぐ地上では、お日様にも負けないくらいに明るい向日葵畑が一行を迎えてくれた。
「すごい、一面の向日葵畑ね。とっても綺麗……」
 視界に飛び込んできた、鮮やかな黄色と緑のコントラストに、三島 椿(CL2000061)は怜悧な相貌を微かに和らげる。今はのんびりと眺めている時間はないと分かってはいるものの、この見事な光景に見惚れているのは『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)も同じらしい。
「ええ、この向日葵の海を駆ける子供たちの未来を、守らなくてはね」
 長い睫毛に縁どられた彼女の瞳には、優しくも凛とした意志が宿る。
「無垢な子供が、狙われるのは、許せませんね。夏の原風景……しっかりと、守らないと、ですね」
 間延びした声で、ゆっくりと神室・祇澄(CL2000017)が決意を口にする中、着替えやタオルを入れたバッグを置きに行って来たのは『デウス・イン・マキナ』弓削 山吹(CL2001121)だった。今回の相手は水の妖との事だから、ずぶ濡れになるのを見越して準備したのだ。
「私、向日葵畑って初めて来たんだよね。いいよね、夏っぽくってさ」
「はい! だからこそ太陽のように咲く向日葵畑に、陰りが落ちるのは嫌です。妖は私達が倒さないと!」
 ふわりと微笑む山吹へ、納屋 タヱ子(CL2000019)がびしっと姿勢を正しながら生真面目に頷く。そんなふたりの対比が愛らしくて、知らず知らず四月一日 四月二日(CL2000588)の口元に笑みが浮かんだ。
「水の魚……害がなきゃ涼しげで最高なんだろうけどな。ガキどもの夏休みが悲劇で終わらないように、露払いといきますか。水だけに」
 と、そんな軽口を叩く四月二日へ、凍てついたまなざしを向けたのは赤祢 維摩(CL2000884)だった。
「……ご苦労なことだ。有用なサンプルであることを祈るが」
 一方、元気一杯に飛び跳ねてやる気を見せているのは『ママは小学六年生(偽)』迷家・唯音(CL2001093)。これが唯音にとっての、どっきどきの初仕事で――悪いお魚さんをやっつけた後は、思いっきり向日葵畑で遊ぶと決めているのだ。
「うん、ゆいね頑張る!」
「さて……それじゃあ行きましょうか、迷家さん」
 毅然とした態度でタヱ子が向日葵畑を見据え、確かな足取りで一歩を踏み出した。妖は本能のまま、畑に足を踏み入れた者を襲うという。だからふたりは囮役を担い、敢えて飛び込む事で妖の気を引こうと考えたのだ。
「……気を付けて」
 涼やかな椿たちの声に見送られながら、タヱ子と唯音は迷路のような向日葵畑の中へ分け入っていった。小柄なふたりの身体は直ぐにすっぽりと隠れてしまい、時折ちらちらと長い三つ編みや桃色の髪が覗くばかり。
「今のところ、姿は見えないようですが……」
 ――と、そこで。ちゃぷんと言う幻想的な水音を響かせて、不意にふたりの近くに妖が姿を現した。ふるふると揺れる水の塊は、次の瞬間優美な魚たちの姿に変わる。
「……っ、現れましたね!」
 妖の姿を認めたタヱ子は、鎧の如く土を纏って守りと為した。予め術式を施せればとも思ったのだが、敵の姿を確認し、戦闘に突入する段階でなければ期待する効果は得られまい。彼女の隣では、唯音も体内に眠る炎を活性化させ、一気に身体能力を高めていた。
「やーい、こっちだよー」
 身軽になった身体ですばしっこく走り出し、唯音は子供らしい無邪気さで妖を挑発する。すると直ぐに水の魚はふたりを追いかけ、その内の一体が水鉄砲を撃ってきた。
(……そう、これなら皆さんにも位置が掴める)
 激しい水流を叩きつけられながらも、タヱ子は味方に妖の存在が伝わった事を確信する。その間にも唯音は足取りを緩めず、向日葵でかくれんぼをするようにひょっこりと顔を出して、可愛らしく舌を覗かせた。
「あっかんべー、ゆいね逃げ足には自信あるもんね……わぷっ!」
 と、辺り一帯にぱしゃんと弾けたのは妖の水風船。広範囲に広がった水飛沫で、唯音の髪から雫が滴り――彼女はぷるぷると首を振って水滴を払う。
「ずるーい! よし、なら決着つけよ」
 かさかさと、唯音は向日葵の海をかき分けて。とん、と軽やかに着地した其処は、丁度ぽっかりと開けた場所になっていた。遮るものの無くなった陽光が、一瞬視界を真白に染める。
「お疲れさまです。それでは、行きましょうか」
 ――其処に待ち構えていたのは、祇澄をはじめとする仲間たち。守護使役のにーこに触れた、祇澄の紋様が光り輝いて――覚醒した彼女は、長い前髪から覗く青の瞳を妖しく輝かせたのだった。

●水の魚は空を泳ぐ
 悠々と向日葵の中を泳ぎながら、水の妖は獲物を見つけた事に歓喜するかの如く、その身をふるりと揺らめかせる。
「ゴミが足掻くな。動き回る元気もなくなれば荒せんだろう? いや、単純なだけあって鈍いか」
 其処へ刃のように鋭い維摩の声が響き、獲物を弱体化させる霧が辺りを覆い尽くした。跳んで跳ねる歳でもないと呟く彼は、後方よりちらりと四月二日に視線を向ける。
(ああ、そこの馬鹿は知らんがな)
「うわ、今スゲー失礼なコト考えなかった?」
 肩を竦めて前衛に立つ四月二日は、気持ちを切り替えようと伊達眼鏡を押し上げて溜息を吐いた。空色に変じた瞳が細められると同時、彼の招いた雷雲が辺り一帯に雷を降らせる。
「ふん、精々ずぶ濡れて風邪をひいてろ。……いや馬鹿は風邪をひかんか、羨ましいことにな」
「キミこそ突っ立ってて熱中症、なんてユカイなコトになんないように気を付けろよ、引きこもりくん」
 早速水風船を浴びて雫を滴らせる四月二日は、涼しげな顔で佇む維摩へ向かってからかうように笑う。容赦のない言い争いをしているふたりだが、戦闘の呼吸はぴたりと合っており――これも、仲の良い友人同士故の事だと直ぐに分かるだろう。本人たちは盛大に否定するだろうが。
「ちょっとお力借りますね」
 地面に手を置き、土の力を集めて蒼鋼壁を纏うのは祇澄だ。同じく反射のシールドを張ったタヱ子は両手に盾を構え、水の妖目掛けて一気に体当たりを仕掛ける。
(効果は出難いのは覚悟の上です……!)
 やはり自然系の妖と言うべきか、大した手応えは感じられない。しかし、タヱ子の狙いは他にあった。自分がこうして前へ前へと出る事で、妖の攻撃を一身に受けられたらと思ったのだ。
「こちらが守りに入ったら痛手を負ってしまいますから……っ」
「無理はしないで。援護するわ」
 万全の守りを固めたタヱ子ならば、少々の攻撃ならものともしないだろうが――皆の安全を第一に考える椿は、高圧縮した空気を打ち込んで牽制を行う。
「場所柄、あんまり火の術は使いたくはないんだけど……」
 英霊の力を引き出した山吹は、炎を宿した術符を操り一気に妖を焼き尽くさんと動いた。それは眼前の敵のみを正確に射抜き――周囲の向日葵に燃え移らないかと、万が一に備えていた椿はほっと肩の力を抜いた。
「どうやら、大丈夫みたいね」
「でも……何かあった時は、頼りにさせてもらうね」
 にっこりと微笑んだ山吹が、更なる炎を生み出そうとする中で。唯音もまた可愛らしいステッキに炎を宿らせて、烈火の如き勢いで水の魚に叩きつけた。
(もし畑に被害がでても、椿姫ちゃんが守ってくれるって言ってたし)
 そんな唯音の攻撃に合わせるようにして、空色の髪を靡かせた椿姫が水のしずくを礫のように舞わせる。一気に、けれど確実に――神秘の力を秘めた炎にきらきらと雫が煌めいて、まるで万華鏡を覗き込んだように光が踊った。
(夏の暑い日に目の前を魚が泳いでいたら、目を奪われるのも分かるなぁ……)
 でも、と椿姫は毅然とした態度で、目の前で消滅していく水の魚に告げる。
「ごめんね、危ないから……戦います」
 ――ちゃぷん。平穏そのものの夏空の下で、妖は戯れのように水を用いて生命を奪おうと動いた。と、後方から状況を解析していた維摩が、まともに水流を浴びて崩れ落ちる。
(見るに耐えん姿だ、と……これでは嘲笑うのは相手の方ではないか)
 低級の妖だと、最初から侮ってかかれば思わぬ反撃を受ける。確りと敵の力量を見定め、それに見合った行動を取らなければ、狩られるのは此方側になるのだ。
「……ああ、肝に銘じておくとしよう」
 青白い顔で荒い息を吐く維摩へ、直ぐに椿が癒しの滴を施した。水飛沫で薄らと宙に虹が架かる中、この時ばかりは四月二日も真剣な表情で雷を奔らせる。
「綺麗な虹と、人を襲う化け物。イカした不協和音だな。水に濡れんのも気持ちいい位だ」
「ああ、お前なら」
 ――鈍い的に当てられん程、愚鈍ではないだろう?
 同じく雷を呼んだ維摩は、口の端を微かに上げて四月二日を見上げた。本当は力任せにザックリのが得意なんだけどな――そんな呟きを零しつつ、四月二日の召雷は弾け飛ぶようにして2体目の妖を屠る。
「数を減らせば、その分ぐっと楽になる」
 勢い良く踏み込んだ山吹の金色の瞳が、燃え盛る炎を映して凄絶な光を宿した。残る妖は、尚も水鉄砲でタヱ子を貫こうとするが――彼女は盾を翳して必死に耐え、反射攻撃が即座に妖を襲う。
(一般の人に被害だけは出しません……!)
 最悪の場合は、武器を投げ捨て戦闘を放棄してでも彼らの元に向かうつもりだった。椿がタヱ子の傷を癒す中、祇澄が手を突き出すと同時に地面が隆起して、大地は槍となって水の魚に突き刺さった。
「そろそろ、終わりにしましょう! 行きます!」
 この向日葵畑を滅茶苦茶にもさせないし、子供たちも絶対に守る――そんな祇澄の意志を受けて、唯音が妖目掛けて武器を振るう。
「ゆいね理科で習ったもん。体が水なら蒸発しちゃうはず」
 そこに揺らめくのは、夏の陽射しよりも尚熱く眩しい炎。紅蓮の劫火が激しく燃え上がり、唯音は渾身の力でそれを叩きつけた。
「じゅわっと焼き魚になっちゃえ!」
 ――その言葉の通り、水の魚は雫の一滴も残す事無く、炎に包まれながら消滅していったのだった。

●夏の空に架かる虹
「皆、お疲れさま。作戦成功ね」
 ほっと一息吐いた椿が、仲間たちを労う。こうして無事、向日葵畑に被害を出す事もなく、一行は妖を退治する事が出来た。折角だからと彼らは、戦いで濡れた服を乾かすついでに向日葵畑で寛いでいく事にする。
「全身がずぶ濡れ、ちょっと恥ずかしいわね……」
「ちょっと、濡れた服が、張り付いて、気持ち悪いです、ね」
 肌にべったりと張り付いた服を摘まんで、椿と祇澄が苦笑する中――こんなこともあろうかとタヱ子たちは、用意していたタオルを皆に配っていく。
「……水に濡れた服って、重くて好きじゃないな」
 そっと溜息を零す椿へ、「あら」と柔らかく微笑んだのは椿姫だった。
「私は水が好きだし、楽しいかしら。着替えも持ってきたし、濡れても大丈夫かな……なんて」
 其処で山吹が、はっと気付いて辺りをきょろきょろと見渡している。そうだった、これから着替えなくてはならないのだった。
「身体拭かないといけないし、それにほら……下着も替えないといけないし……?」
「脱ぐわけにも、いきませんしね」
 こっそり呟く祇澄に、こうなったら女性陣に見張りを立ててもらって着替えようかと山吹が決意した時。向日葵畑の中から元気な声が響いてきた。
「それにしても絶景! 見渡す限り向日葵の海だー」
 それは、向日葵畑を走り回る唯音の声で――彼女はびしょ濡れの服を持って、飛行機みたいに両手を広げて飛び回っている。
「向日葵さんと丈比べー、わっゆいねより高い! 負けちゃった!」
 クーラーボックスに詰め込んでいた、ハイボールの缶片手につまみを口にしている四月二日は、眩しいものを見るようにしてそんな唯音の姿を眺めていた。
「で、その視線……お前ロリコンか? 精々捕まらんようにな」
 結局サンプルを回収出来なかった維摩は、気晴らしに友人をいじる事にしたようだ。おーい、と駄目な大人の見本のようになっている四月二日は、がしがしと髪を掻きながら盛大に溜息を吐く。
「てか人のコト不名誉な形容詞で呼ぶのホントやめて。確かに夏満喫って感じでイイなとか思って見てたけど、性的には興味ねえよ!」
 そんな友人の必死の弁解をさらりと聞き流し、維摩は踵を返して彼に背を向けた。
「ちっ、風邪をひくのも馬鹿らしい。さっさと帰るか」
「え、赤祢くん帰るの? 嘘だろ、こんな最高の天気で、こんな綺麗な場所なんだぜ?」
 維摩を超引き止めつつ、四月二日は酒の缶を差し出してまくし立てる。
「このロケーション、酒を飲まない方が大人として間違ってるだろ! たまに太陽の光浴びないと脳みそにも悪いって、な?」
「ええい、飲んだくれかお前は。肝硬変でくたばるのがお似合いだ」
 口では冷たくあしらいつつも――それでも維摩は渋々と、不機嫌そうに座り込んで四月二日から酒を受け取った。
「……ふん、服が乾くまでなら付き合ってやろう」
(のんびり、のんびり……えへへ)
 思い思いに寛ぐ皆を、山吹は服が乾くまで眺めて歩いて――そこでふと、何かを思いついたようにバッグをがさごそと漁ってカメラを取り出してみる。
「そうそう、みんなの遊んでいる姿でも撮っておこうかな」
 ――私は、覚えてられないかもしれないから。そんな思いをぐっと呑み込んで、山吹はゆっくりとシャッターを切っていった。
 向日葵を見ながらのんびりしている椿姫たちに、日向ぼっこをする祇澄。風に吹かれる椿は、向日葵の鮮やかな黄色に見とれている様子。四月二日と維摩は酒を酌み交わし、唯音は元気一杯にはしゃいでいる。
「みんな楽しそう。たくさん笑ってる。なんか嬉しくなるよねー。ふふっ」
 其処でぱたぱたと駆けてきた唯音が、両手を広げて満面の笑みを見せた。
「そうだ、ゆいね夏休みの宿題の絵日記に描くよ! それでクラスのみんなや先生に自慢するの」
 おとーさんやおかーさんや弟のがっくんにも見せてあげたかった、と唯音は言って――向日葵畑をひとりじめしたくなるお魚さんの気持ちが、ちょっとだけわかったかもと苦笑する。
「ね、せっかくだしみんなで写真撮ろうよっ」
 カメラを手にする山吹の元へ、いつしか仲間たちが集まって。何とか全員をフレームに収めつつ、手を伸ばして彼女はシャッターを切る。
「……あ」
 その時、ふと見上げた空に綺麗な虹が架かっているのに気付いた椿が、静かに息を呑んだ。皆も空の贈り物を次々に見上げ、やがて誰からともなく笑顔が広がっていく。
「ゆいねもこれで一人前の覚者、F.i.V.E.の一員。これからがんばるぞー!」
 天に向かって拳を突き上げた唯音は、夏の終わりの光景に笑ってさよならを言った。
「バイバイ向日葵さん、来年もまた来れるといいなあ」
 向日葵と空と虹と――そして仲間たちと。ひと夏の思い出が収められた写真は、彼らの宝物として燦然と輝き続ける事だろう。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
ここはミラーサイトです