《紅蓮ノ五麟》龍よ知れ 『人は石垣 人は城』
《紅蓮ノ五麟》龍よ知れ 『人は石垣 人は城』


●紅蓮に燃える五麟市
 逢魔ヶ時紫雨という男がいる。
 七星剣に属する者で、禍時の百鬼と呼ばれる組織を統率する。かの組織を『黎明』と偽らせてFiVEに近づけさせ、血雨と自分自身を囮にして五麟市を襲撃した。その襲撃は血雨討伐に向かわなかった覚者達により、食い止められる。
 だがそれは一時食い止めただけに過ぎない。紫雨はいまだ健在で、百鬼は雄々しく牙をむいていた。
 彼らの目的はFiVEという組織の奪取。紫雨は七星剣の王座を狙うべく、FiVEという基盤を手に入れようとしていた。騙し、欺き、そしてその手は成った。
 だが紫雨は知らない。
 たとえ敵陣で龍が成ったとしても、そこに盤石たる金の守りがあることを。

●本部襲撃
 血雨との戦いが終わり、五麟市を襲撃した百鬼の襲撃を退けたその夜。疲弊した覚者を休ませる間もなく、禍時の百鬼が襲撃を行う。
 先の襲撃が失敗した時に備え、伏兵を潜ませていたのだろう。五麟市を襲う隔者は一直線にFiVE本部に向かう。敵の本丸を最速で落し、混乱を広げようとする算段だ。虚を突かれたFiVEは対応に遅れ、百鬼の部隊はその入り口に迫る。
「本丸を狙いに来るのは戦いの基本じゃな」
 そこに、緋が走る。
 炎を纏ったトンファーを手に、その行く手を阻む一人の老人――『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)。
 対し襲撃者は無言で神具を構える。無駄口を叩いている余裕はない。最速で相手を鎮圧し、目的を果たすのだ。
「やれやれ。真夜中に相手をするのは女子だけにしたいのじゃがな。男は余分じゃよ」
 軽口をたたきながら源蔵は炎を纏う。だが、単独で抗うにはその数は多い。そして――

 本部近くで騒ぎを聞きつけた『貴方達』が見たのは、口から血を流して膝をつく源蔵の姿だった。
「深夜徘徊は老人の特権と思うとったが、そうでもないようじゃな」
『貴方達』の姿を見て、安堵するように笑みを浮かべる。そのまま『貴方達』に思念で情報を受け渡した。実際に戦った者の情報だ。夢見ほど鮮明ではないにせよ、確かな情報である。
 百鬼は標的を『貴方達』に切り替える。ここで討たねば本部襲撃もままならない。後顧の憂いを絶つために、殺意を向けてきた。
『貴方達』はそれに応じるように、神具を構える。

●自陣で成る龍と結束の砦
 将棋において、龍は全方向に猛威を振るう強力な駒だ。
 だが、無敵ではない。複数枚の駒を重ねた守りを前に、龍の勢いは止まる。
 紅蓮轟龍、確かに汝の策は成った。
 だが知るがいい。ここに集うは盤石の金。五麟を守る守護者の結束を。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.『禍時の百鬼』六名の戦闘不能
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 紅蓮の夜をお届けします。

●敵情報
・禍時の百鬼(×6)
 逢魔ヶ時紫雨の配下です。七星剣所属。本部襲撃をしようとする程度には実力を持っています。
 榊原が交戦を行った結果、以下の構成であることが分かっています。

『闘牛』飛山誠一郎
 獣憑(丑)の土。ナックル相当の手甲を嵌めています。このチームのリーダーです。巨躯な体を生かしたパワーファイター。
『猛の一撃(〔致命〕はありません)』『土纏』『無頼漢』『蔵王』『琴桜』『暗視』『ドライブテクニカ』等を活性化しています。

『火牛之計』飛山日奈子
 獣憑(丑)の火。半月斧を手にしています。誠一郎とは兄妹の仲。兄同様パワーファイターです。
『猛の一撃(〔致命〕はありません)』『火纏』『圧撃』『疾風斬り』『醒の炎』『暗視』『テレキネシス』等を活性化しています。

『氷華』南景子
 翼人の水。白い羽を生やしています。術式特化の回復兼攻撃役。
『エアブリット』『水纏』『氷巖華』『癒しの霧』『水衣』『暗視』『送受心』等を活性化しています。

『霧の凶刃』井出冬彦
 変化の天。ナイフ所持。速度を生かしたテクニカルファイター。
『B.O.T.』『霞纏』『迷霧』『閂通し』『地烈』『暗視』『ピッキングマン』等を活性化しています。

『スタア・アゲイン』郡山春香
 前世持ちの水。ハンドガン所持。遠距離射撃を行います。
『錬覇法』『水纏』『水龍牙』『烈波』『霞返し』『暗視』『鷹の目』等を活性化しています。

『ウッドゴーレム』藤岡和真
 付喪の木。ダブルシールド所持。状態異常による戦場コントロール役です。
『機化硬』『葉纏』『捕縛蔓』『棘散舞』『清廉香』『暗視』『エレクトロテクニカ』などを活性化しています。

●NPC
・『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)。
 OPの後、防御に徹しながら戦線離脱します。その程度の余力は残していたようです。

●場所情報
 五麟市内、FiVE本部近く。時刻は深夜。明かりがないと、命中にペナルティが付きます。広さと足場は戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『飛山(兄)』『飛山(妹)』『井出』が前衛に。『藤岡』が中衛に。『南』『郡山』が後衛にいます。敵前衛との距離は10メートル。
 先ほどまで戦っていたということで、敵は付与を実施済みです(若干ターンは経過しています)。そして現場に急行したということで、皆様の付与はなしとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年03月18日

■メイン参加者 8人■

『突撃巫女』
神室・祇澄(CL2000017)
『菊花羅刹』
九鬼 菊(CL2000999)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『献身なる盾』
岩倉・盾護(CL2000549)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)


「子供が深夜に徘徊する事をお許しください、榊原氏」
 言って『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)は、今まで戦っていた榊原を逃がすように立ちふさがる。視線の先には禍時の百鬼。五麟市を、そしてFiVEを襲う七星剣の隔者。彼らの跳梁を許すわけにはいかない。
「うむ。榊原の仇、とらせてもらうぞ」
 ばっ、と扇を広げて『白い人』由比 久永(CL2000540)が告げる。少し離れたところで『ワシ、生きとる生きとる』と声が聞こえたが、それを聞き流す。得た戦闘データを基に、戦略を組み立てる久永。敵の能力が分かっていることは、この状況においては千金だ。
「本当に助かりました。あとはわたし達に任せて休んで下さいね」
 榊原に向けて一礼し、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は前を見る。構えを取る相手は、決して油断のできない相手だと分かる。だが退くつもりはない。五麟の町を、そしてFiVEを守るために。
「黎明……紫雨から、聞いてはいましたが。本当に、百鬼だったの、ですね」
 禍時の百鬼の前に立ち、『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)が言い放つ。疑っていたのは事実だが、信じたいという思いがあったのも事実だ。ここで引導を渡し、決着をつける。その意思を示すように神具を構えた。
「攻めてくるならば、迎え撃つ。ただそれだけの話です。何も問題はありませんね」
 両手に苦無を構えて『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)が澱みなく言い放つ。自分達の組織の懐まで踏み込まれ、しかし臆する気はない。むしろここに攻めてきたことを後悔させてやろうと、相手を強く睨む。
「盾護、FiVE、守る。百鬼、絶対通さない」
 両手を神具と一体化させて岩倉・盾護(CL2000549)が宣言する。無表情で物事に無頓着な盾護だが、決して無関心ではない。街を襲撃する百鬼に怒りを感じ、全身全霊をもってFiVE本部を護ろうと立ちふさがる。
「ええ。ここで止めさせてもらいます」
 魔女の三角帽子を頭にかぶり、怒りを感じさせない顔で『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は百鬼の前に立つ。相手の殺気を肌で感じながら、拳を握って心を奮い立たせていた。
「天が知る地が知る人知れずっ。狼藉者退治のお時間ですよっ」
 爆音と閃光。それと共に戦場に割って入る『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)。此処は本丸。だからこそ派手に、そして大仰に。百鬼にFiVEは落させまいと見栄を切り、神具を嵌めた手を突き出した。拳を突き出し、戦意を示す。
「へっ。ジジイ一人じゃ物足りなかったんでな。本番前に大暴れだ!」
「あいよ、兄い!」
 襲撃者は覚者を倒すべく向き直る。本部襲撃の目的を忘れたわけでは無い。むしろ襲撃を憂いなく行うために、これ以上の援軍が来る前に邪魔者を廃するのだ。
 互いの目的は明確。FiVEを守る者と、攻める者。ならばこれ以上の問答に意味はない。否、この問答すら互いの戦力を推し量る為の戦術行為。持つ神具が、その構えが、その立ち位置が、その気概が。全てが情報となる。
 戦いの合図はどこかの戦場から響く爆音。その音と共に、十四人の戦士は動き出す。


「……速い!」
 最初に動いたのは燐花だった。百鬼チーム最速の井出すら驚愕する反応速度で苦無を構え、斧を持つ日奈子に迫る。
「お互い、火の使い手なのですね。お手合わせいただけますか?」
「いいねぇ。だけどお手合わせなんて優しいモノじゃないよ!」
 蒼の炎を燃やし燐花が日奈子にクナイを向ける。炎で肉体を強化しながら両手の苦無を振るう。力では負ける。なら手数で押すのみ。体をどう動かすかをイメージし、思うと同時に足を運び、そして腰から流れるように腕を振るう。回転するように重心移動させてもう一撃。
(怪我が増えるとあの人が心配してしまう)
 心の中に居る『あの人』に心配はかけたくない。だけど、ここは戦場だ。多少の傷は仕方ない。そう割り切って相手の懐深く踏み入っていく、速く、そして多くの斬撃を。
「この街を守り抜いて見せるわ」
 覚醒して黒髪が銀に染まり、瞳が妖艶に光る大和。この街には多くの仲間がいて、友人がいる。それは覚者でもあり、力無い一般人もう含まれていた。そんな五麟を守り抜く。百鬼や紫雨のような輩の野望の為に踏み荒らさせはしない。
 術符を手にして場を清めるように印を切る。地に二つ、天に三つ。天に刻んだ印の延長線から光が降る。それは大和の誘導に従いの隔者の頭上に堕ちてきた。広範囲の術式による一斉殲滅。着弾の衝撃が風となり、大和の髪を薙いだ。
「今よみんな。狙いは敵の回復役を」
「十天、参る」
 言葉短く菊が戦場を疾駆する。自分の身の丈よりも大きな鎌を手にして、敵前に立ちふさがる。そのまま敵の動きを止めたまま、後ろで回復を行っている南を見た。戦略上最初に狙う相手は、そこだ。目を離さずに目標を見据える。
 植物の種を投げ、鬼の牙を使用したといわれる大型の鎌を十字に振るう。その封印の為に札が張られている神具が切り裂いた種から爆発するように棘の生えた蔦が伸び、隔者に絡みつく。紅色の染みが服に広がっていく。
「僕は、九鬼菊。貴殿が正義の悪です」
「クールね、ボーイ。『スタア・アゲイン』郡山、この街に悪の華を咲かせてみせるわ」
「そんなことは、させません」
 途切れがちに言葉を放つ祇澄。両手に術符を持ち、真っ直ぐに立つ。刀こそ持たないが、その動きの基礎は剣術の立ち様。体の芯を真っ直ぐに。半歩突き出した足は真っ直ぐに敵に。祇澄の気迫が見えるなら、それはきっと刀を手にしている様に見えるだろう。
 呼気と共に足を踏み出す。脱力と同時に発生する地面に落ちるような感覚。その力を滑るようなすり足で前に進む力に変える。手に宿った大地の力。それを岩のように重く硬く変化させる。突き出した拳から爆ぜる力が、石のシャワーの如く敵を撃つ。
「神室神道流、神室祇澄。いざ、参ります!」
「やるな、メカクレ姉ちゃん。だが土行ならこっちも負けてねぇぜ!」
「そうはいきませんっ。早く貴方達を倒して、町の救済に向かうんですからっ」
 猛る飛山の言葉に浅葱が割り込むように告げる。五麟を襲う隔者は彼らだけではない。他にもたくさん潜入しており、そしてその中には紫雨もいるのだ。彼らを侮るつもりはないが、かといって時間をかけてられないも事実。神具を握りしめる浅葱。
 乱戦から一歩引いた場所で待機する浅葱。味方の動き、敵の動き、すべてを頭に叩き込む。一秒後の敵味方の位置を予測しながら、最も適した場所とタイミングで拳を放つ。短い間に放たれた二撃の拳。それが隔者を穿つ。
「一発でダメなら二度三度っ。それでもだめならもっとですっ」
「その腕を潰してでも止めてやるぜ。へへへへへ!」
「そいつは困るな。癒すのに手間がかかりそうだからなぁ」
 ナイフを構えた井出の言葉にのんびりとした口調で久永が答える。どうやら今回は回復に専念する形になりそうだと戦局を見て判断する。『翡翠の指輪』を指でなぞり、術の為に精神集中に入る。誰かはわからない遠い記憶の誰かに助力を請うように。
 戦場と言う荒々しい空気を遮断するように口元を扇で隠し、心を穏やかに保つ。体内の水の源素を循環させるようにイメージし、扇を振るった。涼風に含まれる水の力が仲間に降り注ぐ。音もなく、覚者達の傷が癒えていく。
「無法者への鉄拳制裁は皆に任せ、誰一人やられぬよう最大限努力しよう」
「大口を叩けるのも今の内よ」
「それはこちらの言葉です!」
 南の言葉に怒りを込めてラーラが返す。手にした本を開き、源素の力を循環させる。街を襲う隔者に対する怒りは大きい。普段のラーラを知る者は、今のように憤りをあげる彼女の姿は想像できないだろう。
 大地の力、稲妻の力、風の力、そして炎の力。前世と深くつながり、その知識を借り受ける。より精練された体内の源素。古き時代はそれを魔力と呼んでいたのだろうか? 生み出された稲妻が、敵後衛に降り注ぐ。
「私、すっごく怒ってるんですから。覚悟してください」
「そいつは怖い。じゃあ動けなくしておこうかな」
「盾護、仲間、守る」
 藤岡の言葉を遮るように言う盾護。鋼の腕と盾を融合させ、身に身纏った『JPFアーマー・コード00』を術式とともに変化させる。言葉少なく、しかし強い意志を込めて、仲間を守るために相手の前に立ちふさがる。
 術式の集中の為に呼吸を整える。大切なのは平常心。時間をかけて源素を体内で循環させ、そして一気に解き放つ。風の中に含まれているのは、精神に作用する微粒子。それにより怒りを誘発し、盾護は相手の集中を乱していく。
「覚者、戦う、スキル、重要」
「違いない。だがスキルだけで戦っていると思うなよ!」
 飛山が怒りのままに踏み込み、拳を振るう。源素の乗らない一撃だが、それは決して軽いものではない。彼らもFiVEの覚者同様、激戦を潜り抜けた猛者だ。
「っ……この程度で!」
「負けるわけにはいきません」
「まだまだ負けませんよっ」
 日奈子と相対している燐花と、術式の防御力が甘い菊。そして回復役の久永がを庇っていた浅葱の三人が命数を削られるほどの怪我を負う。
 だが覚者の集中砲火が功を為したのか、百鬼の回復役である南が力尽きる。先ずは作戦通りと頷く覚者達。相手の回復役を押さえるのは、戦いの基本だ。
 だが、それは覚者の勝利に直結するわけでは無い。覚者が南を落とす間に百鬼は彼らのチームの構成を理解する。彼らもここまでは予想通りとばかりの表情をしていた。
 FiVE喉元まで迫った刃。その脅威はまだ去っていない。


 南を戦闘不能にすれば、次の覚者の目標はバッドステータスを駆使して戦場をコントロールする藤岡になる。相手の戦略上のキーとなる人物を潰していくのは、戦いの基本だ。
 だがその戦略は敵方も同様に取ってくる。覚者達は回復をキーとして久永を後衛に回して戦っていた。それは当然の判断で、その選択は誤りではない。故に百鬼は別のターゲットに目を向けた。それは、
「盾護、狙われてる」
 隔者の狙いは盾護に集中する。回復の加護を受けて防御力が高い盾護であっても、数名の隔者の火力を押さえられるものではない。命数を削るほどの傷を受け、なんとか立ち上がる。 
「明かりを奪いに来たか」
 竜の守護使役で戦場を照らす盾護を戦闘不能にし、闇の中で有利に動く。彼らの狙いはそこだ。勿論そういった事態に対応して懐中電灯を持ってきた覚者もいるが、幾分かの不利は避けられない。
「く、やります、ね。大丈夫、ですか?」
「わたしも回復に回った方がいいみたいね」
「あわわっ。これはきびしいですねっ」
 相手の火力を前に祇澄と大和と浅葱が攻めから防御に回る。藤岡の木の源素で調子を崩して、飛山兄妹の火力で圧倒する。これが彼らの基本パターンのようだ。
「これでどうです」
 燐花の苦無が日奈子の胸を裂く。蒼く静かに燃える炎が、苦無の軌跡を追うように光り、夜の闇に消えた。糸が切れた人形のように崩れ落ち、地面に倒れ伏――
「気を付けて! まだ動けるわ!」
 大和の檄が飛ぶ。同時に振るわれる日奈子の斧。赤い炎が燐花に襲い掛かる。大和の注意がなければ危なかっただろう。
「いや効いたね。さあ、続きと行こうか」
 命数復活。それを思わせる炎が日奈子から洩れていた。
「命を奪う理由はないが、手は抜けんと言うところか」
「ええ。彼らも彼らなりに負けられない理由があるという事ですね」
 その気迫を前に久永と菊が神具を握りなおす。戦う前までは情けをかける心構えではあった。だがその余裕は消え失せる。無為に殺しはしないが、加減して戦える相手ではない。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 息絶え絶えのラーラが放つ炎の一撃が、戦場をコントロールしていた藤岡を吹き飛ばす。そのまま藤岡は地面を転がって気を失った。それなりに防御力はあったのだが、ラーラの火力を止めくれるほどではなかったようだ。
 だが覚者が攻めるように、隔者も攻める。数こそ減じたが最大火力の飛山兄妹はその猛威を十分に振るう。それに劣るとはいえ、範囲攻撃を行う郡山や井出も健在だ。
「厳しいわね」
「流石に、やりますね」
「……っ、この程度で!」
 百鬼の猛攻を受けて、祇澄、大和、ラーラが命数を燃やす。五麟の町を守るという強い意志が彼らを戦場に留まらせた。
「さすが……っ」
「盾護、囮、果たした」
 回復手を守り続けた浅葱と、そして集中砲火を受けた盾護が力尽きる。盾護の意識が途絶えると同時、守護使役の炎が消えて周囲が闇に包まれる。海流電灯がいくつか光るが、満足とは言えない光源だ。対し隔者は闇夜の中を自裁に動ける。
「逃がしはしませんよ」
「闇夜を、見通せるのは、こちらも同じ、です」
 覚者の中でも燐花と祇澄の二人は、闇夜の中でも隔者を視野にとらえることができた。それぞれの目標に向けて、変わらぬ動きで神具を振るう。
「これでトドメです」
 闇夜の中、菊の斧が郡山を討つ。範囲攻撃を多用する射手を倒すことで一気に味方が倒されることを懸念したかのだろう。これで残り三人。
 だが覚者側の疲弊も大きい。既に二人倒れ、久永以外の覚者が命数を削られるほどの傷を受けている。相手の回復手を倒したとはいえ、日奈子以外の隔者はほぼ無傷なのだ。
「まだ余が倒れるわけにはいかんよ」
「あとは任せます」
「御免……なさい」
 庇う者がいなくなった久永が井出の攻撃で命数を削られ、菊と燐花が力尽きる。菊は街のことを仲間に託し、燐花は心配をかけてしまったことに謝罪しながら意識を手放す。
「大したものね、猫のお嬢さん。これ以上は……無理……」
 燐花との戦いに勝利した日奈子だが、その傷は浅くない。襲い掛かる覚者の猛攻を受けてあっさりと力尽きる。持っていた半月斧が、からんと音を立てて転がった。
「あの『紅蓮轟龍』が欲するわけだ。大した連中だぜ」
 飛山兄が嬉しそうに笑みを浮かべる。その顔はまだ負けを認めている様子はない。
 だがそれは、
「渡さないわよ。この街は」
「退く訳には、参りません。この程度では、やられませんよ!」
「絶対に負けませんから!」
「全く。静かな夜を返してほしいものだ」
 大和、祇澄、ラーラ、そして久永も同じ。ここで負けを認めて退くという選択肢はない。最後の力を振り絞って源素を、そして武を振るう。
「……っ。余はここまでのようだ」
 庇いづらい貫通攻撃を受けて、回復役の久永が力尽きる。だが久永が行った回復は、覚者に最後の力を与えていた。
「これで終わりよ」
 大和の放つ稲妻が、井出を討つ。能力向上の術式をかけ直しておいたことが、功を奏した。同時に攻撃した飛山兄にもかなりダメージが蓄積している。
「これほどまで、とは、見事、です」
「FiVEの覚悟ってやつを……見せてもらったぜ」
 岩を纏った飛山の一撃を受けて、祇澄が膝を折る。だが最後に祇澄が放った一撃は、飛山兄の命数を確かに削り取っていた。とさり、と地面に倒れ伏す祇澄。
 勝敗を分けたのは何かといわれれば、どれとは言い切れない。闇に対する対策? 攻撃目標の違い? 実力? 確かにそれらが無関係とはいえないだろう。
 強いてあげるなら、五麟の町を襲われた怒り。それが生んだ『護る側の気迫』」と言うべきモノ。けして退かぬ覚悟が、僅かに百鬼に勝った。
「ああっ……!」
 ラーラが飛山の拳に打たれて、悲鳴を上げて倒れ伏す。だが、勝敗はもはや決していた。
 翻る大和の銀髪。紫の瞳が傷だらけの飛山を見る。太もものベルトから最後の術符を取り出し、天に掲げる。生まれた雷光が真っ直ぐに隔者に降り注いだ。
「消えなさい、禍時の百鬼。この街は守り抜いて見せるわ」
 雷撃音が本部の前に響き渡る。その一撃を受けて、禍時の百鬼は笑みを浮かべて背中から倒れた。


 最後までたっていた大和も、緊張の糸が切れると同時に地面に座り込む。仲間はすべて倒れていた。一手の戦術違いがあれば、立場は逆転していただろう。
 激戦を示すかのように、本部の門は使用に問題がでるほどに破損していた。修復は可能だろうが、どちらにしても後回しだ。今は禍時の百鬼を、そして逢魔ヶ時紫雨を五麟の町から撃退しなければ。
 残った気力で傷を塞ぐ術式を施しながら、壁に手をついて立ち上がる。先ずは仲間を癒さなくては。そう思ってゆっくりと近くの仲間に近づき――
「痛っ……流石に全員は無理か」
 聞こえてきたのは飛山兄の声。震える足で妹を肩に背負い、大和の方を見ていた。今襲い掛かられれば対応はできない。
「どうするのかしら?」
 だがそれは百鬼も同じだった。疲弊具合で言え、ば隔者の方が深い。
「大したもんだ。敗者は捨てセリフでも吐いて去らせてもらうぜ。
 ――次あったときは覚えてろよ」
 言って飛山兄妹は夜の闇に消える。懐中電灯のみの光源で追うには、危険が高すぎた。大和は追撃をあきらめ、仲間のほうに向きなおる。そこに、
「おお、無事か!? 水の術式使いを連れてきたぞい」
 走ってくるのは榊原。どうやら回復を行える覚者を連れてきたようだ。大和は安堵したように手を振った。

 体力と気力を回復し、倒れた隔者四人を拘束する。そのまま覚者達は新たな戦場に向かった。
 五麟の町は、未だ紅蓮に包まれていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 核よりも文字数削って揃える作業の方が大変だった…。

 激戦でした。もうその一言に尽きます。
 皆様の健闘に感謝を。飛山兄妹は逃げましたが、覚者達の勝利です。

 戦いはまだ続きます。この戦いが終わったとき、五麟市がどうなっているかはわかりません。ですがあえてこの言葉でしめさせていただきます。

 それではまた、五麟市で。




 
ここはミラーサイトです