《紅蓮ノ五麟》戦闘狂が舞い踊る
《紅蓮ノ五麟》戦闘狂が舞い踊る



 本来ならば夜の闇にしんと沈む路地が燃えている。
 鼻をつくのは周囲の建物が焼ける臭いか、傷付き逃げ惑う人々の血の臭いか。
「チッ、こんだけ大暴れしてるってのになんでファイブの連中が来ねえんだよ!」
 苛立たし気に一人の青年が拳を側壁に叩きつける。
 普通なら拳の方が砕けてもおかしくないだろうが、百鬼の隔者たるその拳は傷一つ付かずに側壁を砕いてしまった。
 苛立つ相方、勝浦の顔半分に残る火傷痕を眺めていたリオは、自身の服の下にある傷痕をなぞりながらため息を吐く。
 ポケットから折りたたまれた紙を出して広げれば、同じ物を持っていた勝浦がそれを握り潰していた。
「あの犬ッコロ、わざと連中が来ねえ場所指定したんじゃないだろうな」
「それはあるな……何せ彼は色々と弱いから」
「ハッ、やっぱりな」
 勝浦は自分とリオに襲撃地点を指示する紙を炎を呼び出して焼き尽くした。
「やっぱ待ってるのは性に合わねえ」
「では、行くか」
 勝浦が歩き出し、リオがそれに並ぶ。
 本来ならば直情型の勝浦の舵取り役であるリオだが、出された命令はただ一つ。
『強い奴は攫え、弱い奴は殺せ』
 ならば何を止める事があろうか。
 勝浦の火傷、リオの傷痕、あえて残したそれはF.i.V.Eの覚者と戦った時の物だった。
 あの心躍る戦いと苦痛を思うだけで体が滾る。
「どうせなら途中で他の連中もやってくか?」
「ああ、それはいいね。この機会に目障りな連中は除いてしまおう」
 滾る思いは二人の中にあった理性の箍も外してしまったようだ。
 ふと、通り過ぎそうになった通路に覚えのある気配を感じた勝浦が足を止める。
「よう犬ッコロ……と、カマ野郎も一緒か」
 同じ百鬼である日向 夏樹(ひゅうが なつき)と御村 朔弥(みむら さくや)を認めた勝浦。
 しかし、傷付いて休んでいたらしい二人を見る目はけして仲間に向けるような物ではなかった。
「やあ君達。どうやら一戦やったようだね」
 そう気軽に声を掛けたリオの目も同様だった。
 朔弥がその目を見た瞬間に身構え、夏樹がはあとため息を吐く。
「戻るも地獄、行くも地獄か……」
 その言葉に反応したのは勝浦だ。
「どっちも地獄なら好きな地獄を選んでいいんだぜ?」
「そうだな……」
 先に動き出したのは朔弥と夏樹だった。
 

 襲撃を受け燃え盛る町を走るF.i.V.Eの覚者達。
 今も大きな炎と破砕音が上がる一角を目指して走っていた。
 周囲では逃げ惑う人々が、この事態を受けて駆け回っているF.i.V.E側に誘導され、あるいは救助されて離れて行く。
 破壊された建物や火事に対応するための活動も始まっているようだが、市内のあちこちに百鬼が残っていて行こうにも行けない場所もあった。
 覚者達は先を急ぐ。
 これ以上百鬼をのさばらせるわけにはいかないのだ。
 一層燃え盛る街路樹を乗り越え抜けた先、四人の百鬼がそこにいた。
 しかしどういう事か、四人の百鬼は互いに武器を向け合い戦っているではないか。
 仲間割れか――――。
 頭に浮かんだ状況はむしろ覚者達にとっては歓迎すべき事だろう。
 血雨討伐のため学園から戦力が減った隙を狙い、あろう事か何の関係もない人々も住む五麟市を蹂躙する百鬼。
 一人でも多く、少しでも早く、奴らを退けなければならない。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:
■成功条件
1.百鬼の撃破
2.なし
3.なし
 百鬼の襲撃を受けた五麟市はまだ燃えています。
 全体でどれほどの人数が入り込んだのか、夢見の予知を受ける暇もなく続く襲撃。
 皆さんの力を合わせ、この局面を乗り切って下さい。

●補足
 百鬼同士で争っている所に突入する事になります。
 どちらか一方に共闘を持ちかけても構いませんが、片方は負傷しておりどれだけ戦えるかは不明です。
 もう一方はF.i.V.Eと見れば問答無用で襲い掛かってくるので、下手に交渉しようとすれば先制攻撃を食らう危険があります。
 百鬼の生死は成功条件に影響を及ぼしません。同士討ちで片方が死亡した場合、残った方を撃破すれば依頼は成功となります。
 撃破後もどうするかは現場で決めて下さっても問題ありませんが、あまりに非道徳な行動をとった場合はマスタリング対象になり、同行NPCの海棠 雅刀が止める形になるのでご注意ください。
 同行NPC海棠は戦闘には参加しませんが、周辺の警戒を行っているため戦闘中に一般人が巻き込まれる事態にはなりません。

●場所
 燃える街路樹が左右に並ぶ道路。
 すでに日は落ちていますが、街灯が生き残り街路樹や周囲の建物など燃えている物があるため戦闘に充分は明るさは確保されています。
 道幅は歩道が1m、車道が約6m程。街路樹は何本か折れており、視界の邪魔になる程はありません。

●人物
・勝浦とリオ/隔者
 勝浦は翼の因子を持つ男、リオが暦の因子を持つ女。
 どちらも元々のバトルマニアの性質が行き過ぎて最早戦闘狂と言ってもいい精神状態です。
 負傷している百鬼の仲間を見てF.i.V.Eと戦う前の「はらごなし」の為に襲いました。
 気力体力共に充実しており、F.i.V.Eと死ぬまで戦うつもりで来たため、撤退の可能性は低いでしょう。

・日向 夏樹(ひゅうが なつき)/男/18歳/隔者
 『黎明』を名乗っていた百鬼。一度覚者と戦って敗北し、撤退してきた所で勝浦とリオに遭遇。
 覚者と戦う前の腹ごなしにと襲い掛かられました。
 説得次第では共闘できますが、消耗しているためあまり戦力にはなりません。

・御村 朔弥(みむら さくや)/男/年齢不詳/隔者
 『黎明』を名乗っていた百鬼。金髪ツインテールと言うよりツインドリルにゴスロリ服。見た目は十代半ばの少女。
 夏樹と同じ戦いで敗北して一緒に逃げて来ました。夏樹と同様勝浦とリオに目を付けられ応戦しています。
 消耗の度合いは夏樹よりだいぶ軽いですが、かと言って戦力として頼りになる程ではありません。
 

●敵能力
・勝浦/隔者/前衛
 翼の因子/火行
 装備/ナイフ
 根っからのバトルマニア。以前F.i.V.Eの覚者と戦った時から再戦を望み、この襲撃で戦意が高くなりすぎてバトルマニアと言うより戦闘狂の様相を呈しています。
 途中発見した百鬼の仲間にすら牙を剥き、手の付けられない状態です。
 攻撃力が高く、目を付けた標的をひたすら狙います。
・スキル
 爆裂掌(近単/特攻撃ダメージ)
 火柱(近列/特攻ダメージ+火傷)
 火炎弾(遠単/特攻ダメージ+火傷)

・リオ/隔者/中衛
 暦の因子/天行
 装備/短槍
 勝浦同様バトルマニアであり、現在同じように戦闘狂と化しています。
 元々はサポート役としても動く事はありましたが、今は攻撃一辺倒となっています。
・スキル
 疾風斬り(近列/物理ダメージ)
 召雷(遠列/特攻ダメージ)
 重突(近列/物理ダメージ)

・日向 夏樹/隔者/後衛
 獣の因子(戌)/木行
 特攻能力が物理より高め。どちらかと言えば防御寄りの能力値。
 負傷した上に気力が大分減っているため、基本的には通常攻撃を使っての戦いになっています。
・スキル
 深緑鞭(近単/特攻ダメージ)


・御村 朔弥/隔者/前衛
 獣の因子(猫)/火行
 体術を得手としており本来なら動きが素早く攻撃能力も高いのですが、負傷のために動きが鈍くなっており攻撃力も普段より若干落ちます。
・スキル
 炎撃(近単/特攻ダメージ+火傷)
 鋭刃脚(近単/物理ダメージ)
 貫殺撃(近単/貫通2、100%、50%/物理ダメージ)


 情報は以上となります
 皆様のご参加お待ちしております
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年03月20日

■メイン参加者 8人■

『凡庸な男』
成瀬 基(CL2001216)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『烏山椒』
榊原 時雨(CL2000418)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)


 砕けた外壁、燃え堕ちた看板が転がり、街路樹が赤々と燃えている。
 その中で戦っているのは本来ならば仲間同士である百鬼の四人。
 勝浦とリオに襲い掛かられた夏樹と朔也はこれ以前にF.i.V.Eとの戦いで敗北して消耗していたが、意地だけで戦い続けていた。
「御村、逃げていいぞ」
 夏樹の言葉に朔弥から溜め息が返って来た。
「そんなザマじゃ足止めにならないでしょ」
「それもそうか」
 投げやりに言う夏樹。
 万が一生き延びたとしても百鬼同士で殺し合ったとなれば結局は粛清される。
 何より逃げたとして百鬼以外のどこに行けばいいか分からない。疲労と出血、目の前の絶望に眩暈がする。
「夏樹!」
 朔弥の警告に我に返った夏樹は無意識に防御を行おうとしたが、遅い。
「じゃあな犬ッコロ」
 迫る勝浦の燃える拳。
 しかし、夏樹を砕く拳は届かなかった。
「そこまでだ! ここからは僕らが相手になるよ!」
 飛び込んで来る小柄な人影。
 大きな尻尾と狐の耳をぴんと張った御白 小唄(CL2001173)の蹴りが勝浦にたたらを踏ませた。
「ごっめーん、待ったー?」
 勝浦が体勢を立て直す前に華神 悠乃(CL2000231)の場違いに明るい声が響く。
 何事かと驚く夏樹と勝浦の間に悠乃が割り込み、白銀と黒の相反する色彩を伴った一撃が叩き込まれる。
「はっ! 相変わらずいい拳じゃねえか!」
 その場から飛び離れて乱入者の顔を見た勝浦が嬉々として叫ぶ。
 相方であるリオもそれに気付く。
「待ちかねたよF.i.V.E。しかも君とは二度目だね」
「今度はとことんやろうぜ!」
 勝浦は自分の顔を焼いた因縁のある悠乃に躊躇いなく飛び掛かり、一瞬遅れてリオが短槍を構えて駆け出す。
「……F.i.V.Eか」
「どういうつもり?」
 F.i.V.Eの乱入に警戒する夏樹と朔弥だった、悠乃と小唄はすでに目の前の敵に集中していた。
「細かい話は他の人に任せるわ!」
「あとはよろしく!」
 突撃の勢いを乗せた悠乃の炎を纏う拳が勝浦を抉り、小唄の蹴りが防御の上からも衝撃を与える。
 嬉々として迎え撃った勝浦の火柱が二人を纏めて焼き払い、リオの刺突が穿つ。
「……追いかけてきてみれば、随分と厄介な状況のようだな」
「前回逃げたからどうしてるかと思えば、何やってるんだお前」
 瞬く間に激しくなった場を呆然と見ていた夏樹と朔弥は、指崎 心琴(CL2001195)と香月 凜音(CL2000495)の声に振り向く。
 夏樹は他にも見知った顔をがある事に気付いて目を見開いた。
「久しぶりやね。そっちはお友達かいな」
「君達は……」
「なに? まさか皆知り合いなわけ?」
 にっと敵意なく笑い掛けて来る焔陰 凛(CL2000119)に夏樹は戸惑い、朔弥は夏樹の判断に任せる事にしたらしく黙っている。
「余所見してると危ねえぞ!」
 そこに勝浦の拳から放たれた火の塊が飛来する。
 咄嗟に身構えた朔弥と夏樹だったが、その前に盾となって立はだかる者がいた。
「ぱーっと派手に暴れてえ気持ちはわからなくもねーが、傍迷惑な話だ」
 攻撃を受け止めた風祭・誘輔(CL2001092)の目は自身が焼かれた痛みではなく、燃え上がる街路樹や民家を見て細められた。
 咥え煙草がぎちりと音を立てて歪む。
「夏樹君達が百鬼だったなんてね。だからって僕は君達を見殺しにするつもりはないよ」
 誘輔と同じように自らを盾にした成瀬 基(CL2001216)が、振り向いて笑い掛ける。
「アンチヒーロー参上!ってね。甥っ子の真似だけど覚えてる?」
 夏樹と朔弥は予想外の事が立て続けに起きてただ立ち尽くすだけだった。


「行くも地獄帰るも地獄か」
 誘輔が不意に口にした言葉に、夏樹がぴくりと反応する。
「お前もどうせなら生き残る目のある方に賭けちゃどうだ」
「僕はお前たち二人をだましうちにするつもりはない。する意味もない」
 誘輔と心琴の言葉に対し、夏樹は黙り込んだ。夏樹自身も彼らが自分達を殺しに来たとは思っていない。
 だが……。
「考えとるとこ悪いんやけど、とりあえず一発殴る!」
 そこに銀色の髪を靡かせた榊原 時雨(CL2000418)が突撃して来る。
 え。と間の抜けた声を出す暇もあればこそ。次の瞬間、時雨の拳がきれいに決まった。
「他の人から少しは話聞いたし、子供等助けようとしたりしたその気持ちは嘘や無いってのは知ってるから。騙されてた事は、あの一発でチャラやよ」
 突然の拳に悶絶した夏樹だったが、それだけで全て水に流すと言われるとは思っていなかった。
「こうやって、自分のために怒ってくれるというのも存外悪くないだろ?」
 心琴がそう言って来たが、戸惑うばかりで堪えられない。
 そんな夏樹の肩をぽんと叩く者がいた。
「そういやあん時あたしラーメン奢って言うたけどまだ奢ってもろてないよな? ないよな?」
「あ……ああ」
 まだ呆然としていた夏樹は思わず頷き、凛はせやろ! と更に勢い込んだ。
「ここはラーメンの借りで一緒にあのアホどもぶっ倒そうで。兄さんも頭のネジいかれた奴相手するより可愛子ちゃんにラーメン奢る方がええやろ?」
「まあ今はラーメンの事は置いといてね」
 胸倉をつかみそうな勢いの凛を宥め、基は夏樹に語り掛ける。
「君らが人々を襲った動機はこの際いいよ。ただ、事実として僕は君等を守らないといけない。君らだって人間なんだから、いかなる権利も持っている」
 基の声に敵意はなく、それが余計に夏樹を戸惑わせる。
「まずは、共闘をするのはどうだ?僕たちがお人好しだと言う事は知っているだろう?」
 心琴がにやっと笑ってみせた。
「……そうだな……君らは、お人好しだ」
 返って来たのは夏樹の苦笑。
「夏樹君、誰だって道を踏み誤る恐れはある。だから、間違ったらやり直せばいい。世の中思う程には厳しく出来ていないよ」
 その表情を見た基の言葉に、夏樹の頭が揺れる。
 頷いたのかただ俯いただけなのか分からなかったが、基は表情を和らげると夏樹の反応を待っていた凜音に場所を譲る。
「改めてお前に聞く。それとそこのゴスロリにも。お前たちはどうしたい?」
「俺は……」
 夏樹が答えを遮って轟音が響き周囲が一瞬赤く染まった。
 はっと全員が振り返った先では悠乃が砕けた外壁に突っ込み、勝浦が砕けた歯を血と一緒に吐き出し笑っていた。
「今度の競り合いは俺の勝ちだな!」
「いやいや、すっごい威力だわ……」
 外壁の破片を押し退けて出てきた悠乃の肌が焼け爛れ蒸気を上げている。
「絶対来ると思って探した甲斐、あった、ね!」
「そいつはありがてえ、なあ!」
 悠乃が繰り出した拳は勝浦に、勝浦が繰り出した拳は悠乃に突き刺さり、互いを抉る。
「華神先輩、援護するよ!」
「おっと。男女のやりとりに子供が首を突っ込むものではないぞ」
 駆けつけようとした小唄の横合いから短槍が襲い掛かった。
「ふふん、子供だと思って甘く見たら怪我するよ!」
 小唄はリオの槍の一閃に耐えると、素早く勝浦の防御くぐり抜ける。
「いっくぞー! 受けてみろっ!!」
 小柄な体に似つかわしくない重く鋭い蹴りが勝浦の骨を軋ませるが、即座に小唄の頭上に拳が叩き込まれた。
 殴り飛ばした勢いで道路まで砕いた勝浦はちらりと別の方向を見る。
「おい、他の奴等まだかよ」
 夏樹と朔弥の説得の事を言っているのだろう。
「僕達二人だけじゃ物足りませんかね! 僕はとっても楽しいですよ!」
「私もどんどん強くなってるからね。倒れるまで、飽きさせないよ!」
 小唄と悠乃の返しは攻撃を伴い、迎撃する勝浦とリオとのぶつかり合いでひび割れていた道路のアスファルトがめくれる。
「お待ちどうさまやね。うちもいれてー」
 飛び散ったアスファルトの欠片を跳ね飛ばし、時雨が放った地列が勝浦とリオを打ち上げた。
「説得はいいの?」
「もう大丈夫やろ」
 自分のやりたい事は終わったと軽く答える時雨。
 時雨の言葉通り、後方の様子はがらり変わっていた。
「もうなんなのよアイツら、空気読みなさいよ!」
 それまで黙っていた朔弥だったが、戦いの余波が度々飛んでくる事に我慢ならなくなったらしい。
「夏樹、あと任せたわよ!」
「な、おい御村!」
「あのゴスロリは話が早いな」
 再び勝浦とリオに挑んでいった朔弥と置いて行かれた夏樹の落差を揶揄する凜音。
「細かい話は後だ」
 後方を守りながら機関銃の弾幕で援護を続けていた誘輔が振り向く。
「地獄になるかどうかはテメエら次第だ。とっとと決めろ!」
 吼える誘輔に、夏樹が口を開く。
「御村、お前も付き合え!」
「そのつもりよ!」
 夏樹の手から伸びた鞭が勝浦の足を打ち、朔弥の貫殺撃が決別の一打を決める。
「今は一緒に戦うだけでいい。僕が前に聞いた質問の答えはこの後にしよう」
 心琴は夏樹に填気を使い、共に戦う仲間である事を言外に示す。
「よっしゃ、チャーシュー大盛りで頼むで!」
 韋駄天足によって赤い軌跡を描き戦線に飛び込んで行く凛の髪が、炎に照らされなお赤く染まる。
「焔陰流21代目焔陰凛、推して参る!」
 凛の刀がリオの槍の柄を擦るように滑り、強烈な一撃を食らわせる。
「ったく、イカレポンチな目しやがって。あたしのラーメンの為にとっととぶっ倒れろ!」
 周囲が燃えているためか熱がこもり始めた道を蹴り、仲間と共に立ち向かう。


 消耗しているとは言え夏樹と朔弥を加え十人となった敵を前にしても勝浦とリオには僅かな動揺もない。
 むしろ嬉々として自分達を取り囲む覚者たちに向かって来た。
「おい、あいつら弱点とかねえのか」
 追い詰めているのはこちらのはずなのに、味方の傷も増えて行く。
 誰一人倒れさせまいと味方の回復に気力を減らし続ける凜音は気晴らし半分に言うが、夏樹と朔弥は荒くなった呼吸を整えながらも首を横に振る。
「弱点だのなんだのまどろっこしい事言ってんじゃねえ! 殺るか殺られるかだけでいいんだよ!」
 勝浦は向かい合っていた小唄の攻撃を受けながらも、小柄な体を近くの街路樹に叩き返した。
 ずるりと幹を滑り落ちた小唄にリオが狙いを付ける。
「あかん!」
 気付いた凛が全速力で駆け付ける。
「廻炎!」
 鋭い斬撃がリオを切り裂くが、その槍までは止められない。
「やらせないよ」
 その槍を止めたのは基だった。
 基は自分の体に突き立った槍もそのままに、皮膚を割く凶悪な鞭のカウンターがリオを打ち払う。
「立てるかい?」
「だ、大丈夫……」
 蹲っていた小唄が頬に飛んだ血を拭って立ち上がる。
「へへっ、まだまだこれからだよ!」
「その意気だよ。もっともっと楽しまなければ」
 リオが鞭で裂けた傷をなぞる。
「それならとっておきの一撃をあげるわ!」
 吐き捨てた勝浦に悠乃が迫る。
 悠乃の細腕がそれに似合わぬ力で勝浦の体をがっしりと捕らえた。
「知らなさそうな技、また見せてあげる! 私からの、プレゼント!」
 空を切る音がする程の勢いで勝浦の体が宙を舞い、アスファルトがめくれてむき出しになった地面に叩きつけられた。
 何かが砕ける音がして勝浦が叩きつけられた場所を中心に地面にひびが入るも、技を決めた悠乃の方が飛び離れた。
「しぶといわね」
「いや……結構、やべえぞ……」
 起き上がった勝浦だったが、まっすぐ立てず目の焦点が合っていない。
 リオの方も基の鞭を受けた傷からの出血が収まらず消耗していた。
「もう限界だろう。武器を収めないか?」
「俺達に殺す気はねえ」
 基が二人に投降を勧めると、誘輔もそれに同意を示す。
「死に急ぐのと生き急ぐのは違う。てめえらはどっちだ」
 その問い掛けに勝浦とリオはそっくり同じような笑みで言った。
「殺す気がないなら死ね!」
 残った気力も体力も全て注ぎ込んで特攻を仕掛ける勝浦とリオ。
 心琴の雷獣と時雨の地烈を受けても、進む足は止まらない。
 ぞっとするような特攻を止めたのは凛と誘輔だった。
「戦闘で精神イッとる時点でお前ら三流言う事や」
「戦闘狂なら潔く爆ぜて地獄におちな」
 凛の朱焔が鋭く弧を描き、誘輔の重い一撃が戦いの終わりを告げる。
「ああ……負けて、しまったか……」
「まだ、やりてえなんだが……な……」
 戦闘狂と化した二人の百鬼は最後に自分達にとどめを刺した二人を見て笑い、倒れた。


「へへ……いい勝負でしたね! でも、今回は僕達の勝ちですよ!」
 軽くふらつきながらも笑顔の小唄と満足そうに乱れた髪を整える悠乃を眺め、気が抜けた夏樹と朔弥がその場に座り込んだ。
「あーあ。これで私達裏切り者ね」
「そうだな」
「日向と御村……お前らはどうして黎明にいる」
 裏切り者になった事に二人は何を思うのか。
 誘輔の問い掛けに二人は顔を上げた。
「てめえらはどうしたいんだアイツの、紫雨の野望にのっかって世界をとって、それで本当に満足なのか?」
「私はしたいようにできるから百鬼にいただけよ。まあ、殺されかけてまで続ける気はないけどね」
 先に口を開いた朔弥の答えは単純だ。自分の欲求を満たせるものがあればどこでも良いのだ。
 ある意味危険な思考を明かす朔弥だったが、夏樹が擁護に入った。
「こいつはこんな事を言ってるが、まだ人を殺した事もない。単に暴れるのが好きなだけだ」
 誘輔は夏樹の答えに含まれたものを察して口を噤む。
 自分は違う、人を殺した事があると。
「それが百鬼になった理由か?」
「百鬼にいれば罪に問われる事無く、この力の使い道を与えてやれる。そう言われたよ」
 夏樹は自分の腕に蔦を這わせる。
「紫雨なあ……うち直接やりあってきたんやけど、八尺折角手にしたんに使いこなせんで負けて取られてもうた」
「は?」
「八尺」
 目を丸くした夏樹が何に驚いたかは気にせず時雨は悔しそうに叫ぶ。
「血雨倒してボロボロの状態っていうのはやっぱりフェアや無かったと思うんや! あいつずっとゴロゴロしとったしな……次はうちが、うちらが勝つ!」
 ぐるんと体を一回転させて夏樹に向かって身を乗り出す。
「せやから…制裁を考えず、夏樹さんがどうしたいのか、教えてもらえると嬉しいかな?」
 人を悶絶させる拳を食らわせ、今度は雄々しく叫んだかと思えば急にしおらしく聞いて来る。
「今すぐ味方になれとは言わねーが……」
 目を白黒させる夏樹が面白かったのか、近付いて来た基の口元は少し笑っていた。
「君は制裁を恐れているんだね。でも、たとえそれを凌げたとしても君等が隔者である以上、今後君等を恨んで危害を加える人間もいると思う」
「分かっている。だから、俺は百鬼から離れなかった」
 離れようとすればできただろうが、制裁が怖かった。
 それだけでなく、百鬼以外どこに行けばいいのか分からないのだ。
「百鬼なら俺はいていいんだと思えた。何しろ、周りはこれだ」
 襲撃で燃える町、戦闘狂と化した勝浦とリオ。
 自分一人の罪など誰も気にしない。
「だから僕の質問に答えなかったのか」
 心琴は夏樹に自分達が紫雨を倒したらどうするのかと聞いた事があった。
 頷く夏樹と心琴の間に沈黙が落ちたが、凜音はそれを払うために口を挟む。
「百鬼は瓦解する。その後どこにも属さないで生きるのは面倒じゃね? うちの組織、馬鹿ばっかだからその気になりゃ迎えてくれるかもな」
 無関心そうな顔で、ただし夏樹の目を見て言う凜音。
 その通りだと続いた心琴と基の台詞はまさに『馬鹿ばっか』を肯定するものだった。
「僕たちはどういう形にしろ逢魔ヶ時紫雨を止める。お前が怖くない状況も作る。できれば、お前とも友達になりたいと思ってる」
「君等がどんな困難に巻き込まれようと、僕がすべきことは今と全く変わらないよ。君達と、一緒に、戦う」
 基はにこりと笑った。
「だから、帰っておいで」
「帰る……?」
「朔弥と一緒にF.i.V.Eに来い。悪いとこじゃない」
 差し出された心琴の手に対して、夏樹の手は宙を彷徨う。
「難しい話は後や!」
 二人の手が割り込んで来た凛に一まとめに握り締められた。
「皆腹へったやろ? 夏樹の兄さんのおごりでラーメン行くで!」
「この状況でやってるラーメン屋なんてあると思う?」
 真っ当な突っ込みが朔弥から入るが、凛はまったく怯まず笑う。
「あたしらの所ならラーメンくらい用意してもらえるやろ!」
 それは夏樹と朔弥をF.i.V.Eに連れて行く事を意味していたが、誰も止めようとしない。
「答えはきまったか? 夏樹。お前の答えを尊重はするつもりだ」
 心琴の質問に夏樹は漸く答えた。
「君達と行こう。この後がどうなろうと、俺は全て受け入れる」
 五麟市を襲撃し、それ以外にも百鬼として罪を犯した以上何の咎めもなしとはいかないだろう。
 だが、全てを清算し償うための方法はいくつもある。
 人を傷付けるため使われた力を、今度は人を救うために使うと言う道もあるのだ。
 襲撃を受けた五麟市を復旧するには多くの人の力が必要になる。
 かつて黎明として縁を結び、再び手を取った彼等がその一つになってくれる事を願うばかりであった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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