仮初めに傾慕
●
ただ、貴方さえ傍にいてくれれば。
ただ、貴方を目標に生きていられれば。
ただ、貴方がずっと隣にいてくれれば。
何時でも私の手を引いてくれた貴方に。
私は焦がれる程の憧れを抱いていたに違いない。
大好きだよ、お姉ちゃん。
大好き。
ずっとずっと、傍にいてね。
●
「どうしよう」
「どうする……」
そう言葉を交えていたのは、昨日の夜。
覚者弾圧系憤怒者組織に所属している双子の姉妹、その妹が。
――悪夢のように、発現を果たした。
姉は複雑な顔色を続けていたが、『たった一人の家族』という絆には勝てなかった。
隠しきれない程、ごつごつとした妹の龍の尾を布団で覆いながら、妹の震える肩を包み込むように抱きしめた。
大丈夫だよ、大丈夫。
繰り返し姉は――自分自身に言い聞かせるように――妹を、宥めていた。
ある意味、妹にとってそれは、至福の時間であった。
小さい頃から姉はずっと一緒にいてくれたが、両親が覚者の闘争に巻き込まれて此の世を去り、憤怒者組織の一員となってからは、すれ違う日々ばかり。
しかしその日は、ずっとずっと隣で手を握っていてくれた。
見つからないように、組織から逃げよう。
大丈夫、きっとなんとかなる。
姉の言葉に。
私はどうしてか、きっとなんとかなることを確信するような――この錯覚が、幸せと呼べる事に、気づいた。不安も無い、だって姉がいてくれる。
両親が亡くなった時に流れた涙とは違う、温かい涙が私の頬を濡らしていた。
●
今日は世界で一番残酷な日。
脱走しようとした姉妹は不運にも見つかり、捕まり、普段捕らえた覚者を『断罪』していた部屋で今―――姉は、姉は、姉は姉は姉は。
動かない。
覚者である妹を、憤怒者たちが手にかけようとしたとき。
姉は妹を庇った。
妹の叫び声も虚しく、姉は四肢が千切れ首が折れ背骨がへし折れる程の殴打の嵐から、妹を守り抜いた。激痛と衝撃と、こと切れる最期の瞬間まで姉は妹を宥め続けていた。
『絶対に、私が護ってあげるから大丈夫だよ』
その為に、力をつけたのだから。
魔法の言葉は、嘘つきだ。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。今度は私が護るからね」
姉の亡骸に笑いながら話かける妹は、今、姉という正義から反転する。
「お姉ちゃん、お外に出て一緒に遊ぼう? 最近ずっと私、寂しかったんだからね」
壊れたようにぶつぶつ呟く妹は、姉を抱きしめながら立ち上がる。
その異様な姿に、憤怒者たちは『悪魔』や『化け物』と罵りながら、
「お姉ちゃん、美味しいパンケーキ屋さんがあるの一緒に……」
姉の血や肉片がついた得物を振り上げ―――た、その時。
「今お姉ちゃんと喋ってるんだから邪魔しないでよ!!」
妹が叫んだ瞬間、部屋が、家具が、人間が、一斉に凍り付き、ヒビ割れ、壊れていく。
「近くて」
姉の残骸を抱きしめながら、頬すり。
「遠いよ……」
頬すりしながら、返事の無い残骸に話しかける妹は、もう。
戻れない場所まで、のぼりつめてしまった。
●
「依頼をひとつ、頼むぜ」
久方相馬は、集まった覚者たちへ資料を配った。
「憤怒者組織で双子の妹が発現し、そのまま……破綻者になった。
経緯は、双子の姉の死亡による精神崩壊が原因のようにも思えるんだ……。
彼女にとって、姉とはそういう存在だったんだろうな。
オーダーは、破綻者の無力化だぜ、宜しくな」
ただ、貴方さえ傍にいてくれれば。
ただ、貴方を目標に生きていられれば。
ただ、貴方がずっと隣にいてくれれば。
何時でも私の手を引いてくれた貴方に。
私は焦がれる程の憧れを抱いていたに違いない。
大好きだよ、お姉ちゃん。
大好き。
ずっとずっと、傍にいてね。
●
「どうしよう」
「どうする……」
そう言葉を交えていたのは、昨日の夜。
覚者弾圧系憤怒者組織に所属している双子の姉妹、その妹が。
――悪夢のように、発現を果たした。
姉は複雑な顔色を続けていたが、『たった一人の家族』という絆には勝てなかった。
隠しきれない程、ごつごつとした妹の龍の尾を布団で覆いながら、妹の震える肩を包み込むように抱きしめた。
大丈夫だよ、大丈夫。
繰り返し姉は――自分自身に言い聞かせるように――妹を、宥めていた。
ある意味、妹にとってそれは、至福の時間であった。
小さい頃から姉はずっと一緒にいてくれたが、両親が覚者の闘争に巻き込まれて此の世を去り、憤怒者組織の一員となってからは、すれ違う日々ばかり。
しかしその日は、ずっとずっと隣で手を握っていてくれた。
見つからないように、組織から逃げよう。
大丈夫、きっとなんとかなる。
姉の言葉に。
私はどうしてか、きっとなんとかなることを確信するような――この錯覚が、幸せと呼べる事に、気づいた。不安も無い、だって姉がいてくれる。
両親が亡くなった時に流れた涙とは違う、温かい涙が私の頬を濡らしていた。
●
今日は世界で一番残酷な日。
脱走しようとした姉妹は不運にも見つかり、捕まり、普段捕らえた覚者を『断罪』していた部屋で今―――姉は、姉は、姉は姉は姉は。
動かない。
覚者である妹を、憤怒者たちが手にかけようとしたとき。
姉は妹を庇った。
妹の叫び声も虚しく、姉は四肢が千切れ首が折れ背骨がへし折れる程の殴打の嵐から、妹を守り抜いた。激痛と衝撃と、こと切れる最期の瞬間まで姉は妹を宥め続けていた。
『絶対に、私が護ってあげるから大丈夫だよ』
その為に、力をつけたのだから。
魔法の言葉は、嘘つきだ。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。今度は私が護るからね」
姉の亡骸に笑いながら話かける妹は、今、姉という正義から反転する。
「お姉ちゃん、お外に出て一緒に遊ぼう? 最近ずっと私、寂しかったんだからね」
壊れたようにぶつぶつ呟く妹は、姉を抱きしめながら立ち上がる。
その異様な姿に、憤怒者たちは『悪魔』や『化け物』と罵りながら、
「お姉ちゃん、美味しいパンケーキ屋さんがあるの一緒に……」
姉の血や肉片がついた得物を振り上げ―――た、その時。
「今お姉ちゃんと喋ってるんだから邪魔しないでよ!!」
妹が叫んだ瞬間、部屋が、家具が、人間が、一斉に凍り付き、ヒビ割れ、壊れていく。
「近くて」
姉の残骸を抱きしめながら、頬すり。
「遠いよ……」
頬すりしながら、返事の無い残骸に話しかける妹は、もう。
戻れない場所まで、のぼりつめてしまった。
●
「依頼をひとつ、頼むぜ」
久方相馬は、集まった覚者たちへ資料を配った。
「憤怒者組織で双子の妹が発現し、そのまま……破綻者になった。
経緯は、双子の姉の死亡による精神崩壊が原因のようにも思えるんだ……。
彼女にとって、姉とはそういう存在だったんだろうな。
オーダーは、破綻者の無力化だぜ、宜しくな」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.破綻者の無力化
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●状況
憤怒者組織に所属していた双子の片割れが発現した
粛正される前に、姉が片割れを庇い命を落とし、
発現した妹は破綻した
ビル内にいた憤怒者は全て破綻者に殺されている
OPのラストからリプレイスタートです
●破綻者:中摩・ミキ(ナカマ・ミキ)
深度は2です
参考までに、獣人×水行
攻撃方法は以下
強力な超純水のようなもの
水礫のようなもの
氷巖華のようなもの
水龍牙のようなもの
姉は中摩・ミク
ミキはミクの亡骸と共にビルから逃走する行動を開始します
ビル内に存在していた憤怒者は全てミキに殺されております
しかしその憤怒者は一部ですので、
時間をかければ憤怒者が一部ビルへ帰ってくる可能性は高いです
●ビル内、2階
明かりに障害はない
ただし、部屋中凍り付いていて、とてつもなく寒いです
部屋中に肉片など殺された憤怒者の残骸がのこっております
それではご参加、お待ちしております
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年03月03日
2017年03月03日
■メイン参加者 6人■

●
愛とは呪いである。
言葉とは鎖である。
●
東雲 梛(CL2001410)が扉を開けば、まるで建物の中とは思えない程に極寒の世界へと変わっていた。
吹雪いてはいないが、家具や床や壁まで白く。そして透明に凍結し、ツンとした鉄の香りに満たされていた。
窓には鉄格子がハメられていて、部屋の端には何が入っているのか不明な黒のゴミ袋がおいてある。まるで檻か棺桶の中のような不気味な部屋であった。
この四角い檻で、生存者は今、少女と疾く駆けてきた少年一人である。
「ファイヴだよ」
梛の声が、静寂の中、ひとつ落ちる。
たった、それだけで。
『まだいたの!!? 邪魔しないで!!』
叫び声にも似た中摩ミキの怒号に、絶対零度の暴風が吹き荒れる――。
危ない――瞬間的に本能でそう思った『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)は、猛スピードで梛の腕を引いて位置を強制的に横へとずらす。元々彼が立っていた位置を通過していく氷の槍は壁に穴をあけた。
がらがら崩れた壁一部分の音を背で聞きながら、問いかける。
「中摩さんですか?」
燐花の問いかけに淀んだ瞳がぐるんと一周してから彼女を映した。
『中摩でぇす……』
「私達は、貴女やお姉さんに害をなすつもりはありません。お話、できませんか?」
『いぃでぇすよ』
言葉ではそう言っているのだが、燐花の耳にも梛の耳にも、到底話をする気が無いように思える声色が響いた。
くっくっと笑うミキ。最早心が破綻者として壊れてきたか、それとももう既に壊れているのか、残骸を抱きしめながらミキは立つ。
『逃がしてくれたら、お話、するするするするするするssssss!!』
早送りのように、壊れたラジオのように。一定の言葉を繰り返し始めたミキ。
あまりにも『少女』と呼ぶには遠くなってしまった残酷な姿を目にし、『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は胸を杭で打たれたかのような感覚に、胸元を抑えた。
「せめて、後数時間早く駆け付けられていられればねぇ……」
終わってしまった事はどうしようもない。けれども、恭司が言う通り、嘆かなければいられぬ光景は広がっていく。
足下に、不本意にも踏んでしまっていた死体に恭司はため息をついた。此処で逃せば、次、誰がこのような『物体』になってしまうことか。
世界とは、かくも残酷に作り上げられているということか――。
『お兄ちゃんお姉ちゃんたちも邪魔するんだ邪魔なんだ邪魔邪魔邪魔!!』
言葉を繰り返すミキに納屋 タヱ子(CL2000019)は一種、自業自得であると思わないことは無い。確かに憤怒者組織は、世間一般的には褒められたものでは無いのだから。
極僅かな一部は確かに民間人の為に戦う一般人組織としての憤怒者もいるだろうが、きっとここは違う。
ひんやり冷たい部屋は、多くの死をあまりにも増やしてきた。
まるでまるで、己の鏡を見ているかのように『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は胸の抑えて、込みあがってきたものを飲み込むので精いっぱいだ。
愛して、憧れて、ずっと一緒。そんな永遠が続くとどうして思えていたのだろうか。
硝子のようにヒビ割れて壊れてしまえば、ミキのような不幸は日常茶飯事の出来事で――。
『誰が為に復讐を為す』恩田・縁(CL2001356)は。
「……」
一人、唇を三日月のように裂き、笑った。
●
「憤怒者が戻ってきたら面倒ですし、短期決戦で」
燐花の声に覚者は頷く。少しでも遅れればここの組織の憤怒者たちと鉢合わせになり、面倒なことになるのは予測できている。
そして速攻飛んできた氷の嵐。どうやらミキもやる気は満々のようだ。
そのまるで凍てつく千本ナイフの群れの中を燐花は疾蒼で蹴散らしながら前へ突っ込む。
胸にチラつく青色のペンダントを揺らしながら、身を翻し天井ぎりぎりを飛び上がり。燐花の手元が揺れた刹那、幾重にも傷は刻まれていく。
『痛い痛い!! どうしてそういうことするの!?』
血走るミキ。声色は怒号。まるで自分は何もしてないと言いたげな表情に、覚者たちの表情は歪む。その時、ハッと危険を感じたのは恭司のみだ。それは本能的で第六感的な危険予測。
ミキは吹雪きのように連なるナイフを一つ取り、燐花に直接刺しこむ直前、恭司のBOEがさく裂。大蛇のように床をを這うそれはミキの体を撥ねとばす。
壁にぶつかって、跳ね返ってきたミキを憤怒の十字架をもってして食らいつく縁。
「非力な少女よ、どうするのです? その姿で外に出ても、再び別に我々(覚者)が食らいつくだけですよ?
復讐もですやるならきっちりとやるといい。しかし、貴方は今、無差別が過ぎる。これを滑稽と呼ばずして、どう言葉に表すというのです――?」
笑いながら、ミキを翻弄していく。縁のいうことはごもっともであった。
最早彼女は、姉という物体を愛でるだけの存在に成り下がっているのだ。撫でても撫でても血しかつかない肉片に大いなる価値を感じてるのはミキだけであろう。
自覚している化け物ならまだいい。
自覚していない化け物は、さてどうやって戻したらいいものか。
『うるさいうるさい!! 黙れ、黙れ、黙れ!!』
ミキの片手が扇状に振られた。その瞬間、覚者を跳ね返すような衝撃波が発生していく。
少女の心は、あの氷のように凍り付いているということだ。
●
震える手に術符を持つ玲。仲間への回復を。
どうにもミキに重なるのは親友の姿だ。彼女は勇敢であった、相応に沢山傷ついて悩んでいただろうが、玲の前では頼れる親友であったのだ。
そんな彼女がいない今。玲の心を思うと筆舌に尽くしがたいが、故に重なるミキの姿。
彼女の氷柱が胸に刺さる。それよりも痛いのは心のほうか。それでも玲は術符を握ることはやめない。それは意地か、ほんの僅かな優しさか。
彼女をなんとしてでも、生かして持ち帰る。それは玲だけが思っている願いでは無く。タヱ子も同じ気持ちだ。
最前線、タヱ子はミキの前で鉱石化した腕を前に出し、暴風吹き荒れる寒さに耐えていた。金剛石はいつしかこおり、真っ白な結晶がつき始めている。
しかしタヱ子は迷っていた。その迷いが具現したように、頬にひとつの傷をつける。タヱ子の身体に傷をつけるとは並みならぬことだが、そういうことだ。
「ミキさん……」
タヱ子の口から漏れた言葉。
例え彼女をここで生かしたとて、それが救いであるとは限らない。
そう、この依頼は少々意地悪である。
ミキを生かすことだけが救いでは無い。ときに、殺すことが救いであることもある。
その選択肢を握るのは、誰でもない。覚者たちなのだ。
『退いて』
ミキの冷たい言葉に荒れる暴風の勢いは増した。
まるで彼女の仮面の上を滑っていくようだ。未だに覚者の言葉は一切のトゲ先が彼女の心を射ることは無い。
それは言葉が足りないのではない。化け物染みて戻れない世界に没頭した少女が、他者の言葉を理解しようとしないだけだ。
彼女には姉しかいなかった。
彼女には姉が全てであった。
言ってしまえば、彼女が憤怒者組織にいるのも姉がいるから――ただ、それ程度の理由なのである。姉は妹を護ろうと組織に入っていたが、本当に覚者が憎かったかといえば、もうその返事はわからない。
「それでも、助けるよ」
梛は強い意志で立っていた。吹雪きに打ち勝つ回復を叶えながら。
『――ッ!!』
憎たらしそうに梛を貫くミキの視線は敵意に満ちている。
梛はそれを甘受しながら、自らの罪に重ね、しかし回復を祈る手の動きは止まらない。
けして怒るわけではなく、叱るわけではなく。咎めているわけではなく、責任を問うているわけではなく。
ただ救いたい。梛の純真過ぎる真っ直ぐな心に、恐れを見出したミキの表情が、初めて曇りを見せた。何故邪魔する、何故倒してくれない。私は姉とイタイダケ。でも、それは梛は止めると言う。
その意志は。
燐花も、恭司も、この場にいる大多数のものはおなじか。
その思いは、氷を貫けるか。
●
『いい加減にしてよ、痛い!!』
泣き叫びながら、大事そうに姉を抱えるミキ。その身体も段々と最初の威勢を失い始め、片膝が床についていた。
いやいやと首を振るが止めるわけにはいかない。ぜえぜえと息を荒くしているミキの姿、終わりは近いのだろう。
再び振られたミキの腕に呼応し、波が覚者前列を絶対零度の波が飲み込んでいく。しかし、タヱ子はミキの攻撃を阻んだ。波を盾で切り裂くように祓い、その勢いを消滅させていく。
タヱ子自身、元憤怒者としての罪を償って欲しい訳でもない。覚者としての生を歩んで欲しい訳でもない。生きていれば良いことがその内あるなんて、もっと言える訳がない。
「わたしが、守る事しかできないから――」
もしかすれば頭のいいだれかなら、もっといい終わり方を模索できたかもしれない。
しかしタヱ子はこれしかない。これしかできない故に、己が出来うること全てを成すのだ。ミキが、悲しい顔をした。どうしてもっと、早く来てくれなかったの。その願いは遅過ぎるけれど。
逆燐に載せた力は己にも反動を見舞う。荒い息を吐く燐花、だが解けそうになった手に再度力を入れて武器を握った。逆毛たつ尻尾の先が凍っていた、動きも鈍る。しかし、梛や玲が背中を押すような回復に身を任せれば自然と体は何時もの動きを取り戻す。
彼女もまた、祖父の追憶を思い出していた。
死者とはなんとも冷たいものか。もう笑いかけてもくれない。話もしてくれない。そしてこの世界にいやしない。
それを思うと燐花の瞳がじわりと温かみ帯びてくる。でも、生者は未来へ進める特権がある。
再度、逆燐を放つ。
なんとしてでも、終わらせるために。
回復の中、ぽつりと梛は話を始めた。
「俺もさ、……憤怒者に襲われて幼馴染が俺を庇って倒れて、暴走した事がある」
梛が吐露したのは己の過去。
混濁した記憶。破綻者として堕ちたとき、多分それはミキと同じような気持ちになっていたように思える。
いっそ、それなら姉のもとへミキを送った方が楽なのではと思ったことはあった。しかしそれだと、決死の姉の行動を否定することになる。
妹を否定せず。助けてと言ってる気がする。
姉も否定せず。助けてあげてと言ってる気がする。
「だから、助けるよ」
玲の演武が味方を補助し、恭司や縁の力を根こそぎから押し上げていく。氷にハマったものも皆、玲の指先で溶かし、そして前へ進む力へと変える。
玲としては破壊に身を任せた彼女が羨ましく思えた。嫉妬するくらいに。あれくらい素直に破綻して、姉への愛を語るのはどれだけ素晴らしい事か。
それでも感じ取ってたいのは親友の心。けして破綻なんか望んでいない。そう聴こえるし、そう感じ取れる。
「だから……僕は君を止める。……それが君の幸せになると信じて」
恭司の攻撃がミキを薙ぎ払った。食らいつくように恭司に氷の大蛇を仕掛けたミキだが、それを真空波で砕きながら、再びミキの体を吹き飛ばす。何度目かのそれが、ミキの行動をだいぶ鈍らせていた、ふるふると震える少女を痛めつけるのは、本心ではないだろうが。
恭司曰く、僕らが把握できてないだけで憤怒者組織では偶に起こりうる事件なのかもしれないね。と吟じのように言っていた。きっとこれも悲劇の末端に過ぎない。もしこうして不幸になる少女たちが全て燐花のように笑えるようになればと、願わずにはいられぬか。それは、無謀か。
絶対に発現する方法なんてものが無いように、絶対に発現しないという方法も無いんだから。
その僅かな不幸を正すのが、覚者の役目であることを重々に把握しながら。
まるで喜劇。
まるで悲劇。
道化のように嗤う縁。
望むならば、望むならば。
姉の言葉を届けましょう。さあさ、何がお望みか。慰めか、労わりか。
何が欲しいか、姉の言葉か。
キッと睨むミキは、姉はここにいると手元を見ていたが、その肉塊がぼろぼろと砂塵の城のように崩れていった。縁は、ああ、と口ずさんでから、両手を伸ばす。姉はこう言うのだ。
「生きて」
『ああ、ああっ、ああああああああああああああああ!!』
壊れていくなにもかも。
姉と称す、さいごのひとつが消えていく。血塗れに、水たまりに、そのうち下水に飲まれやがてちりじりになっていく。
『いや、いやあ、いやあおおおおおおおおお!!」
もうこれ以上はミキの心が持ちそうにない。玲はそう悟り、叫ぶように祈る。どうか、どうか、彼女を連れて帰りたく、せめて、その先が破綻ではなく生きるように。
それがわかっていたから、燐花はあえて行使した。縁は言った、姉は生きろと言うのだと。もう守れないけれど、しかしそれでも、生きて欲しいのだと。もう視覚的には姉は見えないけれど、一瞬、ミキの瞳の中に縁が見ている姉が見えた。
願わくば、せめて眠るときは姉の夢をみれますように。
衝撃がひとつ、ビルを揺らした。
●
「急いで!」
恭司の言葉に覚者は撤退を開始する。
タヱ子はミキを担ぎ上げ、ばたばたとビルを降りていく。
二階の出口に差し掛かったところで、梛が、振り向いて戻り、『姉』と呼ばれていた残骸をわずかながら拾い上げてもっていく。
もう形はない。残酷なくらいにひどい有様だったけれど。
せめて思いはもっていかなけれはミキはもう戻ることはできないだろう。
送迎の車に飛び乗り、帰路を走り出す車。途中で黒塗りの車とすれ違ったが、あれが恐らく憤怒者組織に人達だろう。
帰ったら惨事が待っているだろうが、あれだけ死体がひどく壊れていれば、中摩ミキとミクが覚者たちに『保護』されていることは気づくまい。
ぼろぼろになったミキが、一瞬、瞳をあけた。
戦闘不能で動けぬが、凍り付いた身体をあたためるように玲がよりそう。
虚ろな少女は言った。
『ミキと、ミクはね、未来って書いて、ミキと、ミクって読むの……』
そういって瞳を閉じて眠った未来。
その未来は、どうなるのか。それはまだ、覚者たちにはわからないけれど。
せめて素敵な未来が待っているように、願うばかりであった――。
愛とは呪いである。
言葉とは鎖である。
●
東雲 梛(CL2001410)が扉を開けば、まるで建物の中とは思えない程に極寒の世界へと変わっていた。
吹雪いてはいないが、家具や床や壁まで白く。そして透明に凍結し、ツンとした鉄の香りに満たされていた。
窓には鉄格子がハメられていて、部屋の端には何が入っているのか不明な黒のゴミ袋がおいてある。まるで檻か棺桶の中のような不気味な部屋であった。
この四角い檻で、生存者は今、少女と疾く駆けてきた少年一人である。
「ファイヴだよ」
梛の声が、静寂の中、ひとつ落ちる。
たった、それだけで。
『まだいたの!!? 邪魔しないで!!』
叫び声にも似た中摩ミキの怒号に、絶対零度の暴風が吹き荒れる――。
危ない――瞬間的に本能でそう思った『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)は、猛スピードで梛の腕を引いて位置を強制的に横へとずらす。元々彼が立っていた位置を通過していく氷の槍は壁に穴をあけた。
がらがら崩れた壁一部分の音を背で聞きながら、問いかける。
「中摩さんですか?」
燐花の問いかけに淀んだ瞳がぐるんと一周してから彼女を映した。
『中摩でぇす……』
「私達は、貴女やお姉さんに害をなすつもりはありません。お話、できませんか?」
『いぃでぇすよ』
言葉ではそう言っているのだが、燐花の耳にも梛の耳にも、到底話をする気が無いように思える声色が響いた。
くっくっと笑うミキ。最早心が破綻者として壊れてきたか、それとももう既に壊れているのか、残骸を抱きしめながらミキは立つ。
『逃がしてくれたら、お話、するするするするするするssssss!!』
早送りのように、壊れたラジオのように。一定の言葉を繰り返し始めたミキ。
あまりにも『少女』と呼ぶには遠くなってしまった残酷な姿を目にし、『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)は胸を杭で打たれたかのような感覚に、胸元を抑えた。
「せめて、後数時間早く駆け付けられていられればねぇ……」
終わってしまった事はどうしようもない。けれども、恭司が言う通り、嘆かなければいられぬ光景は広がっていく。
足下に、不本意にも踏んでしまっていた死体に恭司はため息をついた。此処で逃せば、次、誰がこのような『物体』になってしまうことか。
世界とは、かくも残酷に作り上げられているということか――。
『お兄ちゃんお姉ちゃんたちも邪魔するんだ邪魔なんだ邪魔邪魔邪魔!!』
言葉を繰り返すミキに納屋 タヱ子(CL2000019)は一種、自業自得であると思わないことは無い。確かに憤怒者組織は、世間一般的には褒められたものでは無いのだから。
極僅かな一部は確かに民間人の為に戦う一般人組織としての憤怒者もいるだろうが、きっとここは違う。
ひんやり冷たい部屋は、多くの死をあまりにも増やしてきた。
まるでまるで、己の鏡を見ているかのように『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は胸の抑えて、込みあがってきたものを飲み込むので精いっぱいだ。
愛して、憧れて、ずっと一緒。そんな永遠が続くとどうして思えていたのだろうか。
硝子のようにヒビ割れて壊れてしまえば、ミキのような不幸は日常茶飯事の出来事で――。
『誰が為に復讐を為す』恩田・縁(CL2001356)は。
「……」
一人、唇を三日月のように裂き、笑った。
●
「憤怒者が戻ってきたら面倒ですし、短期決戦で」
燐花の声に覚者は頷く。少しでも遅れればここの組織の憤怒者たちと鉢合わせになり、面倒なことになるのは予測できている。
そして速攻飛んできた氷の嵐。どうやらミキもやる気は満々のようだ。
そのまるで凍てつく千本ナイフの群れの中を燐花は疾蒼で蹴散らしながら前へ突っ込む。
胸にチラつく青色のペンダントを揺らしながら、身を翻し天井ぎりぎりを飛び上がり。燐花の手元が揺れた刹那、幾重にも傷は刻まれていく。
『痛い痛い!! どうしてそういうことするの!?』
血走るミキ。声色は怒号。まるで自分は何もしてないと言いたげな表情に、覚者たちの表情は歪む。その時、ハッと危険を感じたのは恭司のみだ。それは本能的で第六感的な危険予測。
ミキは吹雪きのように連なるナイフを一つ取り、燐花に直接刺しこむ直前、恭司のBOEがさく裂。大蛇のように床をを這うそれはミキの体を撥ねとばす。
壁にぶつかって、跳ね返ってきたミキを憤怒の十字架をもってして食らいつく縁。
「非力な少女よ、どうするのです? その姿で外に出ても、再び別に我々(覚者)が食らいつくだけですよ?
復讐もですやるならきっちりとやるといい。しかし、貴方は今、無差別が過ぎる。これを滑稽と呼ばずして、どう言葉に表すというのです――?」
笑いながら、ミキを翻弄していく。縁のいうことはごもっともであった。
最早彼女は、姉という物体を愛でるだけの存在に成り下がっているのだ。撫でても撫でても血しかつかない肉片に大いなる価値を感じてるのはミキだけであろう。
自覚している化け物ならまだいい。
自覚していない化け物は、さてどうやって戻したらいいものか。
『うるさいうるさい!! 黙れ、黙れ、黙れ!!』
ミキの片手が扇状に振られた。その瞬間、覚者を跳ね返すような衝撃波が発生していく。
少女の心は、あの氷のように凍り付いているということだ。
●
震える手に術符を持つ玲。仲間への回復を。
どうにもミキに重なるのは親友の姿だ。彼女は勇敢であった、相応に沢山傷ついて悩んでいただろうが、玲の前では頼れる親友であったのだ。
そんな彼女がいない今。玲の心を思うと筆舌に尽くしがたいが、故に重なるミキの姿。
彼女の氷柱が胸に刺さる。それよりも痛いのは心のほうか。それでも玲は術符を握ることはやめない。それは意地か、ほんの僅かな優しさか。
彼女をなんとしてでも、生かして持ち帰る。それは玲だけが思っている願いでは無く。タヱ子も同じ気持ちだ。
最前線、タヱ子はミキの前で鉱石化した腕を前に出し、暴風吹き荒れる寒さに耐えていた。金剛石はいつしかこおり、真っ白な結晶がつき始めている。
しかしタヱ子は迷っていた。その迷いが具現したように、頬にひとつの傷をつける。タヱ子の身体に傷をつけるとは並みならぬことだが、そういうことだ。
「ミキさん……」
タヱ子の口から漏れた言葉。
例え彼女をここで生かしたとて、それが救いであるとは限らない。
そう、この依頼は少々意地悪である。
ミキを生かすことだけが救いでは無い。ときに、殺すことが救いであることもある。
その選択肢を握るのは、誰でもない。覚者たちなのだ。
『退いて』
ミキの冷たい言葉に荒れる暴風の勢いは増した。
まるで彼女の仮面の上を滑っていくようだ。未だに覚者の言葉は一切のトゲ先が彼女の心を射ることは無い。
それは言葉が足りないのではない。化け物染みて戻れない世界に没頭した少女が、他者の言葉を理解しようとしないだけだ。
彼女には姉しかいなかった。
彼女には姉が全てであった。
言ってしまえば、彼女が憤怒者組織にいるのも姉がいるから――ただ、それ程度の理由なのである。姉は妹を護ろうと組織に入っていたが、本当に覚者が憎かったかといえば、もうその返事はわからない。
「それでも、助けるよ」
梛は強い意志で立っていた。吹雪きに打ち勝つ回復を叶えながら。
『――ッ!!』
憎たらしそうに梛を貫くミキの視線は敵意に満ちている。
梛はそれを甘受しながら、自らの罪に重ね、しかし回復を祈る手の動きは止まらない。
けして怒るわけではなく、叱るわけではなく。咎めているわけではなく、責任を問うているわけではなく。
ただ救いたい。梛の純真過ぎる真っ直ぐな心に、恐れを見出したミキの表情が、初めて曇りを見せた。何故邪魔する、何故倒してくれない。私は姉とイタイダケ。でも、それは梛は止めると言う。
その意志は。
燐花も、恭司も、この場にいる大多数のものはおなじか。
その思いは、氷を貫けるか。
●
『いい加減にしてよ、痛い!!』
泣き叫びながら、大事そうに姉を抱えるミキ。その身体も段々と最初の威勢を失い始め、片膝が床についていた。
いやいやと首を振るが止めるわけにはいかない。ぜえぜえと息を荒くしているミキの姿、終わりは近いのだろう。
再び振られたミキの腕に呼応し、波が覚者前列を絶対零度の波が飲み込んでいく。しかし、タヱ子はミキの攻撃を阻んだ。波を盾で切り裂くように祓い、その勢いを消滅させていく。
タヱ子自身、元憤怒者としての罪を償って欲しい訳でもない。覚者としての生を歩んで欲しい訳でもない。生きていれば良いことがその内あるなんて、もっと言える訳がない。
「わたしが、守る事しかできないから――」
もしかすれば頭のいいだれかなら、もっといい終わり方を模索できたかもしれない。
しかしタヱ子はこれしかない。これしかできない故に、己が出来うること全てを成すのだ。ミキが、悲しい顔をした。どうしてもっと、早く来てくれなかったの。その願いは遅過ぎるけれど。
逆燐に載せた力は己にも反動を見舞う。荒い息を吐く燐花、だが解けそうになった手に再度力を入れて武器を握った。逆毛たつ尻尾の先が凍っていた、動きも鈍る。しかし、梛や玲が背中を押すような回復に身を任せれば自然と体は何時もの動きを取り戻す。
彼女もまた、祖父の追憶を思い出していた。
死者とはなんとも冷たいものか。もう笑いかけてもくれない。話もしてくれない。そしてこの世界にいやしない。
それを思うと燐花の瞳がじわりと温かみ帯びてくる。でも、生者は未来へ進める特権がある。
再度、逆燐を放つ。
なんとしてでも、終わらせるために。
回復の中、ぽつりと梛は話を始めた。
「俺もさ、……憤怒者に襲われて幼馴染が俺を庇って倒れて、暴走した事がある」
梛が吐露したのは己の過去。
混濁した記憶。破綻者として堕ちたとき、多分それはミキと同じような気持ちになっていたように思える。
いっそ、それなら姉のもとへミキを送った方が楽なのではと思ったことはあった。しかしそれだと、決死の姉の行動を否定することになる。
妹を否定せず。助けてと言ってる気がする。
姉も否定せず。助けてあげてと言ってる気がする。
「だから、助けるよ」
玲の演武が味方を補助し、恭司や縁の力を根こそぎから押し上げていく。氷にハマったものも皆、玲の指先で溶かし、そして前へ進む力へと変える。
玲としては破壊に身を任せた彼女が羨ましく思えた。嫉妬するくらいに。あれくらい素直に破綻して、姉への愛を語るのはどれだけ素晴らしい事か。
それでも感じ取ってたいのは親友の心。けして破綻なんか望んでいない。そう聴こえるし、そう感じ取れる。
「だから……僕は君を止める。……それが君の幸せになると信じて」
恭司の攻撃がミキを薙ぎ払った。食らいつくように恭司に氷の大蛇を仕掛けたミキだが、それを真空波で砕きながら、再びミキの体を吹き飛ばす。何度目かのそれが、ミキの行動をだいぶ鈍らせていた、ふるふると震える少女を痛めつけるのは、本心ではないだろうが。
恭司曰く、僕らが把握できてないだけで憤怒者組織では偶に起こりうる事件なのかもしれないね。と吟じのように言っていた。きっとこれも悲劇の末端に過ぎない。もしこうして不幸になる少女たちが全て燐花のように笑えるようになればと、願わずにはいられぬか。それは、無謀か。
絶対に発現する方法なんてものが無いように、絶対に発現しないという方法も無いんだから。
その僅かな不幸を正すのが、覚者の役目であることを重々に把握しながら。
まるで喜劇。
まるで悲劇。
道化のように嗤う縁。
望むならば、望むならば。
姉の言葉を届けましょう。さあさ、何がお望みか。慰めか、労わりか。
何が欲しいか、姉の言葉か。
キッと睨むミキは、姉はここにいると手元を見ていたが、その肉塊がぼろぼろと砂塵の城のように崩れていった。縁は、ああ、と口ずさんでから、両手を伸ばす。姉はこう言うのだ。
「生きて」
『ああ、ああっ、ああああああああああああああああ!!』
壊れていくなにもかも。
姉と称す、さいごのひとつが消えていく。血塗れに、水たまりに、そのうち下水に飲まれやがてちりじりになっていく。
『いや、いやあ、いやあおおおおおおおおお!!」
もうこれ以上はミキの心が持ちそうにない。玲はそう悟り、叫ぶように祈る。どうか、どうか、彼女を連れて帰りたく、せめて、その先が破綻ではなく生きるように。
それがわかっていたから、燐花はあえて行使した。縁は言った、姉は生きろと言うのだと。もう守れないけれど、しかしそれでも、生きて欲しいのだと。もう視覚的には姉は見えないけれど、一瞬、ミキの瞳の中に縁が見ている姉が見えた。
願わくば、せめて眠るときは姉の夢をみれますように。
衝撃がひとつ、ビルを揺らした。
●
「急いで!」
恭司の言葉に覚者は撤退を開始する。
タヱ子はミキを担ぎ上げ、ばたばたとビルを降りていく。
二階の出口に差し掛かったところで、梛が、振り向いて戻り、『姉』と呼ばれていた残骸をわずかながら拾い上げてもっていく。
もう形はない。残酷なくらいにひどい有様だったけれど。
せめて思いはもっていかなけれはミキはもう戻ることはできないだろう。
送迎の車に飛び乗り、帰路を走り出す車。途中で黒塗りの車とすれ違ったが、あれが恐らく憤怒者組織に人達だろう。
帰ったら惨事が待っているだろうが、あれだけ死体がひどく壊れていれば、中摩ミキとミクが覚者たちに『保護』されていることは気づくまい。
ぼろぼろになったミキが、一瞬、瞳をあけた。
戦闘不能で動けぬが、凍り付いた身体をあたためるように玲がよりそう。
虚ろな少女は言った。
『ミキと、ミクはね、未来って書いて、ミキと、ミクって読むの……』
そういって瞳を閉じて眠った未来。
その未来は、どうなるのか。それはまだ、覚者たちにはわからないけれど。
せめて素敵な未来が待っているように、願うばかりであった――。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
