《緊急依頼》禍時の百鬼が訪れるとき
●
我等が逢魔ヶ時紫雨は言った。
『使える奴は攫え、抵抗する奴は殺せ』
全ては紫雨がこの日本を手に入れる為、まずはその手を京都五麟市へ伸ばす。
「さて、とうとうこの日が来たか」
禍時の百鬼の一員。
鬼崎百江は、背中の翼を露わにしてニヤリと笑った。その妖しい美貌と相まって、黒い翼を羽ばたかせる姿はお伽噺に出てくる悪魔のようだ。
「騒ぎを起こしていれば、潜入している連中も合流しやすいだろうし。派手に行きましょうか」
その手に、圧縮された空気が集まる。
エアブリット。
圧縮された空気を、手近な建造物へと叩き付ける。激しいサイクロンは、行く手を阻むものをことごとく粉砕して、空へと巻き上げていく。
突然のことに逃げ惑う人々。
蹂躙されていく街並み。
それらを悠然と眺めながら、鬼崎百江は哄笑をあげた。
「ふふふ……待っていなさい、五麟学園。此度が、貴方達の最期よ」
●
今、この五麟市は、覚者の数が何時もより少ない。というのも、血雨という厄災を倒す為に、選抜された覚者達が出払っているからだ。
そんな中、
「まさか……な」
中・恭介(nCL2000002)は前髪をぐしゃりと掴みながら、溜息を吐いた。
「間違いは、無いのか」
「はい。ありません……残念ながら、あと数時間でこの五麟市は、七星剣幹部逢魔ヶ時紫雨と、その部下禍時の百鬼に襲撃されます」
久方 真由美(nCL2000003)が語るのは紛れもない事実だ。
それも、協力組織として迎えていた『黎明』という覚者組織は、あの逢魔ヶ時紫雨の率いる禍時の百鬼であるという事実と共に。
「くそっ。じゃあ、あのヒノマル陸軍の京都の事件は、俺達が助ける事を踏まえ、あえて黎明を襲わせたっていう事か」
「はい……そうなります。ですが、まだ、彼等は私達が気づいている事に気づいていない。これから、外部より百鬼が五麟市内に侵入してきます。せめて、血雨討伐部隊が戻るまで、それらをここへ近づけさせないように撃退するしかありません」
恐らく、黎明組織はまだ化けの皮を被った状態だ。我々FiVEが百鬼を迎え撃つように行動すれば、一緒に戦うと言うだろうが、どのタイミングで裏切ってもおかしくは無い。
敵は外にも、内にも控えている。
「分かった。考えている暇は無いようだ……百鬼を迎え撃つ。この街を奴等にやる事はできない。五麟市内に伝達しろ!! 緊急依頼だ、五麟市内、FiVE全覚者に告ぐ。総員、速やかに侵入者を制圧せよ。そして、血雨の部隊を一刻も早く呼び戻せ――!!」
我等が逢魔ヶ時紫雨は言った。
『使える奴は攫え、抵抗する奴は殺せ』
全ては紫雨がこの日本を手に入れる為、まずはその手を京都五麟市へ伸ばす。
「さて、とうとうこの日が来たか」
禍時の百鬼の一員。
鬼崎百江は、背中の翼を露わにしてニヤリと笑った。その妖しい美貌と相まって、黒い翼を羽ばたかせる姿はお伽噺に出てくる悪魔のようだ。
「騒ぎを起こしていれば、潜入している連中も合流しやすいだろうし。派手に行きましょうか」
その手に、圧縮された空気が集まる。
エアブリット。
圧縮された空気を、手近な建造物へと叩き付ける。激しいサイクロンは、行く手を阻むものをことごとく粉砕して、空へと巻き上げていく。
突然のことに逃げ惑う人々。
蹂躙されていく街並み。
それらを悠然と眺めながら、鬼崎百江は哄笑をあげた。
「ふふふ……待っていなさい、五麟学園。此度が、貴方達の最期よ」
●
今、この五麟市は、覚者の数が何時もより少ない。というのも、血雨という厄災を倒す為に、選抜された覚者達が出払っているからだ。
そんな中、
「まさか……な」
中・恭介(nCL2000002)は前髪をぐしゃりと掴みながら、溜息を吐いた。
「間違いは、無いのか」
「はい。ありません……残念ながら、あと数時間でこの五麟市は、七星剣幹部逢魔ヶ時紫雨と、その部下禍時の百鬼に襲撃されます」
久方 真由美(nCL2000003)が語るのは紛れもない事実だ。
それも、協力組織として迎えていた『黎明』という覚者組織は、あの逢魔ヶ時紫雨の率いる禍時の百鬼であるという事実と共に。
「くそっ。じゃあ、あのヒノマル陸軍の京都の事件は、俺達が助ける事を踏まえ、あえて黎明を襲わせたっていう事か」
「はい……そうなります。ですが、まだ、彼等は私達が気づいている事に気づいていない。これから、外部より百鬼が五麟市内に侵入してきます。せめて、血雨討伐部隊が戻るまで、それらをここへ近づけさせないように撃退するしかありません」
恐らく、黎明組織はまだ化けの皮を被った状態だ。我々FiVEが百鬼を迎え撃つように行動すれば、一緒に戦うと言うだろうが、どのタイミングで裏切ってもおかしくは無い。
敵は外にも、内にも控えている。
「分かった。考えている暇は無いようだ……百鬼を迎え撃つ。この街を奴等にやる事はできない。五麟市内に伝達しろ!! 緊急依頼だ、五麟市内、FiVE全覚者に告ぐ。総員、速やかに侵入者を制圧せよ。そして、血雨の部隊を一刻も早く呼び戻せ――!!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.禍時の百鬼の撃退
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●禍時の百鬼・鬼崎百江
禍時の百鬼の隔者です。翼の因子を持つ、天行の使い手です。かなりの武闘派であり、実力者でもあります。五麟学園を目指して街中を進んでおり、『使える奴は攫え、抵抗する奴は殺せ』との命令を忠実にこなそうとします。また、撃退に時間がかかると、黎明のメンバーが増援として次々と現れて、裏切って敵対してくる可能性があります。
●注意!!
・【緊急依頼】タグ依頼は、全てが同時進行となる為、PCが同タグに参加できる数は一依頼のみとなります。
重複して参加した場合、重複した依頼の参加資格を剥奪し、LP返却は行われない為、注意して下さい。
・決戦【血ノ雨ノ夜】に参加しているPCは、【緊急依頼】タグの依頼には参加できません。参加した場合は依頼の参加資格を剥奪し、LP返却は行われない為、注意して下さい。
・【緊急依頼】の戦況結果により、本戦でペナルティが発生する恐れがあります
それでは、よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
5日
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年03月04日
2016年03月04日
■メイン参加者 8人■

●
「こうも大規模な策を練っていたとは恐れ入った。だが思惑通りに行くのも此処までF.i.V.E.に喧嘩を売ったことを後悔させてやろうじゃないか」
『アフェッツオーソは触れられない』御巫・夜一(CL2000867)は、自分たちがいる居るところに通じている通路、道路に警報空間を設定。市外に向いている道を優先して。横やり、増援等を警戒する一手にする。
それから、他の覚者と共に情報の通りに禍時の百鬼が訪れる場所へと向かう。
騒ぎと破壊の中心に、その悪魔のような女はいた。
「あら、まずは味方じゃなくて敵がお出迎えしてくれたようね」
鬼崎百江は、黒い翼を操って静かに空から地へと降り立つ。
『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)は、隔者と真っ向から相対した。
「妹や氷雨から色々と聞いてたが……ずいぶん派手にやろうとしてるな。そう簡単に上手くいくと思われてるとは、ずいぶん俺達への評価が低いもんだな? 簡単にやられるほど可愛いもんじゃないぜ、F.i.V.E.は」
柾は思いの強さを乗せるように灼熱化する。
――妹もあっちで頑張っている事だし、俺も俺のやれる事を全力でやる。
(血雨討伐部隊は確かに強力な方達が揃ってましたし、今がチャンスと思うのも分かりますが。だからって残ってる人達が弱いと言うことでは決してないと思うのです。まだ経験は浅いですが、私だって負けるつもりはありません。討伐部隊に加わってる従兄弟のあの子の為にも、きっと五麟を守ってみせます)
敵は天行の使い手だ。
もしかしたら状態異常を引き起こす術があるかもしれない。天野 澄香(CL2000194)は最初に清廉香を味方に施す。今回の戦いは、その計画性などから覚者達も様々な感慨を抱いていた。
「なんだか嫌な予感がしてここに残っていたけれど。正解だったようね。友達は血雨の方へ向かっているわ。ここはわたし達が守らないと」
澄香が清廉香を使うのであれば、自分は攻撃力をと。
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、錬覇法で英霊の力を引き出す。
「最初から怪しかったから、行動を制限してきた黎明達が裏切った件はまだいいよ。けど30人ばかりを血雨対応にとられてるからって司令さん慌てすぎ。あたし達そんな頼りないかなー。実力ついてきたから組織公開するって、こないだ言ってたのになー」
自身の心境を代弁させるように。
『調停者』九段 笹雪(CL2000517)は、雷雲を呼び寄せる。
「……よーし、ムカムカしてきたから敵にぶつけよう! もちろん八つ当たりだー!」
雷獣による激しい雷が鳴り響く。
天からの落雷に、隔者はうっすらと笑った。
「ふふ。これはこれは……悪くない天行だこと」
悠然と一歩横にずれると。
元居た場所に、電撃が落ちる。紙一重の雷光が、激しく大地を抉った。
「戦力が分散しているとのことだったけど、まだまだ活きの良い人達が残っているみたいね」
「雉も鳴かずば撃たれまい……なんてね。さっさと帰るか、此処で倒れて。出来るだけ早く」
黒桐 夕樹(CL2000163)は後衛で、援護中心に動く。
第六感で不意打ちを警戒。理想は、増援が来る前に片づけること。味方の攻撃の隙を補い、ライフルを構えて狙撃を行う。
「なるほど……悪くない目ね。腹は据わっているということかしら?」
(敵が内や外にと疑心暗鬼に陥る必要はない、目的は単純明快なのだから。わざわざ複雑にする必要はない、目指すものを目指し、真っ直ぐに進むだけ。私はただ単純に、悲しい物語を終わりにしたいだけ)
『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)は水纏で自己強化を図った。
今回の戦いの性質上、即座に交戦開始して、迅速に撃退を行う必要がある。
「ふむ。使える者は攫えと、命令を受けているのですが……ちょうど良いですし、貴方達のうち誰か連れて行くとしましょうか」
(連れ去られて、敵側につくのも楽しそうだけど……)
多少物騒なことを考えているのは、『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)である。錬覇法を使いながら、超視力をこらす。増援が来たら全員に知らせるつもりだ。
(相手はかなりの格闘派と聞いている。油断は勿論、出し惜しみはしない)
夜一も、土纏で油断なく相手へと備える。
前衛として構える覚者に、鬼崎はふっと笑いかけた。
「そちらの準備は整ったかしら? じゃあ、そろそろ行きますか」
瞬間。
敵の姿が消える……否。
そう感じるほどの超スピードで、黒翼を羽ばたかせて覚者達に迫る。
「!?」
反射的に夜一は、身を固め。
そこに高速の、重い拳が叩きこまれる。身体全体が、移動を余儀なくされ。叩かれた腕には、くっきりとした鉄拳の跡が残っていた。
「あー、そうそう。抵抗する奴は殺せ、とも命令を受けているから。死にたくなかったら、さっさと白旗を揚げてね?」
「……襲ってきたからには、覚悟は出来てるだろうしな? なかなかの強敵みたいだが、一気にいかせてもらう」
余裕綽綽といった態の相手に。
柾は体勢を崩して怯ませんと、飛燕の連撃を打ち放つ。目にも止まらぬ二連撃を、しかし、隔者は至近距離ぎりぎりで躱してみせた。
「敵はまだ一人。なるべく早く終わらせましょう」
そこに、澄香が非薬・鈴蘭にて毒を付与できないか試みる。
攻撃は避けられたものの、柾は鬼崎のバランスを僅かに崩すことには成功しており。味方の攻撃を通すことに貢献していた。
「これは……毒? 可愛いことを考えるわね」
(付近の人の気配……人数と方角、移動方向からして……まだ一般人を巻き込む危険性があるかなあ)
交戦中は鋭聴力で周囲を警戒。
笹雪は声を上げて避難指示、ガードしつつ避難支援する。
「てか危ないからホント近づかないでね! 流れ弾当たっても知らないから!」
言いながら。
自身が生み出した、雷の余波が戦場を覆う。皆の視界が、まばゆい閃光に何度も包まれた。周囲の一般人達は、恐れ慄きながら一目散に散っていった。
(街での戦闘になるのだから、一般人の巻き込みや建物の破壊に配慮しないと。仲間同士での情報の共有をしっかりと行って――)
注意事項を頭に浮かべ、椿姫が周囲の被害を警戒する。
鷹の目、超視力で観察しつつ。貫通力のある氷の塊を形成すると、攻撃で早期の撃退を目指して
敵へと投擲する。
「援軍が来る前に片付ける事が一番大事ね」
「あー、そうそう。ウチのモグラさん達は、何をやっているのかしらねー」
怪しげな動きをみかけたら仲間にその事を伝えるつもりで。
援軍については大和も超視力でその気配がないかを見て、召雷を呼び込む。
「短期決戦です」
対して、紡は警戒は他人に任せて見つけたらラッキーくらいの心構え。
斬・一の構えでひたすら攻め込む。斬って斬って斬って……錬覇法が切れたら、その都度かけ直し。
「おっと、ちょっと痛いわね」
「驚きを提供してあげるよ。あんたにとって、嫌な方の」
「へえ?」
鬼崎が空に逃れようとしたのを先読みして、夕樹はB.O.T.で追撃する。
黒翼を駆使して隔者は避け。覚者は波動弾の嵐で、相手の動きを追尾する。息詰まる空と地の攻防戦だった。
(狙えるなら翼を狙いたい。機動力を削ぐのは定石だしな)
黎明や増援が来てしまう前に倒す。
夜一が飛苦無で、鬼崎へと攻撃する。黒刃が翼をかすめ、敵は顔をしかめた。
「痛いわね……デリケートな部分なんだから、もっと優しく扱って欲しいものだわ」
鬼崎が、手を動かして風を掴む。
空気の流れを両の手で、押し潰して高圧縮する。
「女性に恥じをかかせると、怖いのよ?」
覚者達の頭上に嵐が生まれ、そのまま地上へと烈風が着地した。
あまりの衝撃に、家屋が薙ぎ倒され。街の大地が大きく掘削された。
「さっさと片づけないとまずそうだな」
エアブリットの風に、柾は飛ばされぬように踏ん張り。
鋭聴力と、守護使役のていさつによる監視に引っ掛かるものがあって、烈波の準備をする。こちらにわざわざ向かってくる足音と、人影。
それは、つまり――
「人が来る……多分、黎明だ」
「こちらの警報空間でも、確認しました。すぐ、そこまで来ています」
●
「ここへの増援は必要ない」
と。
これは、鷹の目を使って警戒していた夕樹。
(一応声をかけておくよ。一応ね。まぁ、無駄だろうけど)
こちらの話を無視して。
背後から、近付いて来た男……黎明はいかにも救援に来たといった態で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? 手伝います」
「警告しても近づくなら基本は敵とみなすよ?」
奇襲を警戒していた笹雪は、挟撃されないように一時前衛代わりにブロックへ出る。
黎明の男は、手にしたナイフを閃かせた。隔者ではなく、覚者へと。
「……もうこちらの裏切りは知られているようだな。まあ良い。他の連中も、じきに来る」
敵意を確認した夕樹が、威嚇射撃を行う。
笹雪は、雷獣を展開して雷の雨を落とした。
「背後から接敵の場合は……俺が前衛か。仕方がないね」
「短時間ならもつでしょ!」
覚者達は、形としては前と後ろを取られる。
回復手が不足していき、椿姫は癒しの滴と癒しの霧で回復にまわった。その様子を鬼崎は面白そうに眺める。
「ふー。ようやく、一人来たかー。で、どう? 覚者さん達としては、助けた相手に裏切られた今の心情とか?」
「裏切り……まぁ、そういうこともあるでしょう。それぞれの意思があるのだから、深くは追及しないけど。けれどごめんね、私は人が悲しむのを見たくないから。だから、躊躇いなど微塵もなく、戦わせてもらうよ」
空を飛び回る鬼崎と。
あきらかな敵対行動をとる後ろの黎明とを、攻撃対象として攻撃に守備にと戦線を支える。戦いは、次第に混戦となり。
「鬼崎様!」
「遅れました、今援護します!」
時間が経つごとに、黎明達が次々と介入してくる。
もう、最低限の取り繕いすらしない。
「また、新手が来たわ」
「てめーの相手はあたしらですよ!」
大和は脣星落霜で、星のように輝く光の粒を降らせて数の多さに対抗する。紡は、後ろや左右からの敵へと、後衛たちを守るように後衛の後ろへ立って奮戦した。
「どうしてこんな事をするのですか?」
澄香は、つい先ほどまで味方であった者達に問う。
黎明達の答えは簡潔だった。
「決まっているっ」
「ボスが、我々が、のし上がるため!」
「全ては、最初から計画通りだ」
返事と同時に銃弾が飛び交い。
負けじと澄香は、非薬・鈴蘭で敵に毒を浴びせた。その後は、後ろに下がってエアブリットを放つ。
「それそれ。そう後ろばかりに、気を取られていていいのかしら?」
鬼崎は、翼を大きく振って。
その勢いのまま、拳の連打を前から浴びせてくる。
(……まだ、逃げきれない住人がいるな)
相手の動きを良く見て、柾はそれを何とか回避すると。五織の彩と飛燕で対抗する。真っ向からの肉弾戦で、お互いの乱打が威力を発揮した。
「学園の方へ逃げろ」
一般人に声をかけと同時。
敵が強化の技を使用したと見るや、双撃を振るった。
(情報が引き出せるのなら……少しおしゃべりに付き合ってもらうか)
夜一は、攻撃が当たらないように盾となり。
一般人が離脱するまで注意を引くためにも慎重に口を開く。
「……今回のこの逢魔ヶ時が実行した策は見事、恐れ入った」
「あら、急に何かしら?」
「まだF.i.V.E.が名乗る前から強かにこの日を迎えるために行動していたとはな。F.i.V.E.の壊滅が真の目的ではないのだろう。力をつけてきたとは言えまだ駆け出しの弱小だ、脅威も他の組織に比べたらまだ無いだろう」
「……」
「逢魔ヶ時は最終地点を何処に据えている? そして人材を集めさせる理由はなんだ?」
「さあ? 私もウチの大将がどこまで何を考えているのか、詳しくは知らないけど」
激戦の最中にもかかわらず。
鬼崎は大きな欠伸をした。
「つまんない話、七星剣の中でも派閥争いがあってねー。私達が生き残るためには、人材と手柄が必要で。あんたらは、格好の餌だったってわけ。お分かり?」
悪魔を思わせる女は天を仰ぎ。
そのまま手を伸ばすと、上空の天候が途端に荒れ始める。
「こちらも色々大変なのよ、F.i.V.E.の良い子ちゃん達」
天行の雷雲が渦を巻く。
稲光が覚者達を襲い、焼け焦げるような感覚とともに身体が強烈な痺れを覚えた。
(天行の列攻撃か……警戒しないと)
夜一は仲間に近づき過ぎないよう対応し、分断にも気を配る。
あとは全力でぶつかって進行を阻止するのみ。
「後ろへは通さないよ」
吶喊してくる相手に、棘一閃で裂傷を負わせ。
畳み掛けるように夕樹は、深緑鞭で容赦なく打ち付ける。かけてもらった清廉香の効果が切れかかったので、掛け直し。次の黎明には、足を狙撃して行動を縛りにかかった。
相手取る時間が、とにかく惜しい。
「信じたことに悔いはない、そして私は……私の正義を貫くだけよ」
「気力が足りない人がいれば遠慮なく声をかけて頂戴」
敵の増援に対し、椿姫は仲間と連携し合い。即座に人数や戦力の把握を行って対処する。敵の回復手を一番の標的として攻撃。味方が状態異常に陥れば深想水を使う。大和も仲間がバッドステータスに侵されているならば、演舞・舞音で解除を試み。回復のフォローが間に合わないときは、癒しの滴で回復の補助。大填気を使って、MPの補給も怠らない。
「こっちも、気力切れがいたら来て良いよ」
笹雪はその回復を行う二人を補助した。
填気で自身の精神力を転化して、演舞・舞衣で大気を浄化する。
「ていうか増援とか、本当に来てよかったわけ?」
「あん? どういうことかしら?」
「戦闘不能者が出たら、見捨てるの? それとも抱えて逃げるの?」
逃げるなら追わないし。
見捨てるなら本部でこってり絞ってやるから!
と笹雪は意気込んで、なるべく多くを射程に入れるように雷獣を打ち放つ。
「……ぐっ」
「鬼崎……様」
黎明が二人、武器を落とし膝をつく。
黒翼の隔者は、「あー、あー」と舌打ちした。
「返りうちにしますよ」
そこへ紡が、貫殺撃でメインの敵を巻き込みつつ攻撃する。
メインの敵、それはもちろん鬼崎百江だ。
「ちっ……身体が……」
瞬時に貫く突きを受け。
隔者は、上空へと逃れる。その顔色が悪いのは、単純なダメージだけの問題ではなかった。
「毒が効いてきたようですね」
敵を自身の飛行で追い掛け。
澄香は、空中でよろめく相手に定めてエアブリットを撃つ。
(当たればいいですが、当たらなくても構いません)
こちらへ敵の意識を引き付けることが目的。
そうすれば――
「殺しはしないが、容赦はしない」
「っ!」
――その間に仲間が遠距離攻撃で仕留めてくれると思っていますから。
柾の烈波をまともに喰らい。
鬼崎は気の弾丸の一斉掃射によって、撃ち落とされる。
「鬼崎様!?」
「……抜かったわ」
墜落した先へ、近くにいた黎明達が集まる。
隔者は不確かな足取りで、何とか立ち上がった。
「ま、でも。これぐらいやってくれなきゃ、攫い甲斐がないってところかしら?」
それは。
まさしく悪魔の笑み。
「!」
このとき、比較的皆から離れていた夜一と大和。
その後ろから、隠れていた黎明が組みつき、翼を出して浮き上がる。突然のことに反応が遅れた。
「充分暴れたし。お仕事もちゃんとしないとね」
「……1人で来たことといい、余裕があるのね」
大和は黎明に背後をとられながら。
鬼崎を真っ直ぐに見据える。
「主力は全部血雨で出払って弱い覚者だけが残っていると思ったのかしら? それともよほどの自信があるのかしら? 残念ながらそう簡単にはいかないわよ」
「へえ? どう簡単にいかないのかしら」
こういうことだ。
と言わんばかりに、仲間達が動く。
「ずいぶんと自信があるみたいだな? さっさとお前の主の元へ帰れ」
「あたしを連れてけクソが!!」
誰も攫わせはしないと。
味方を抱える相手に、柾が飛燕を叩きこみ。同じく、紡が召雷で連れ去ろうとする相手を攻撃し、近付いて殴りかかる。
「おっと、そうは――」
「――させないよ」
鬼崎がエアブリットで横やりを入れようとするのを。
間髪入れずに夕樹がB.O.T.で妨害する。
「離してもらおうか」
仲間の助力を得て、夜一と大和は自力で束縛を逃れる。
逆に二人を攫おうとした黎明二名は、強かな逆撃により深手を負った。
「だー。失敗かあ。タイミングを見計らっていたってのに」
「……まだ、やりますか?」
椿姫の言葉に、鬼崎は辺りを見回す。
倒れた黎明達を見て、隔者はため息を吐いた。
「いや、ここは退かせてもらいましょうか。これ以上はこちらも死人が出かねないし」
「深追いはしないよ。どうせ、また来るだろうし」
ああ、疲れた……。
と、夕樹は心の中で呟く。覚者達も限界が近い。
「じゃあ、お言葉に甘えて……縁があったら、またどこかでね。良い子の覚者さん達」
仲間を担いで、鬼崎達は撤収していく。
それを最後まで見届けて、「ああ、抱えて逃げるんだ」と笹雪は得心する。澄香は念のため、上空へと飛んで周囲を見渡す。街のそこかしこで、戦いの煙が上がっているのが見て取れた。
祈るような気持ちで空から彼方を見つめる。
「討伐部隊の皆さんは、この事に気付いているのでしょうか。気付いてたとしても、こちらの事は気にせず戦いに集中して下さい。そして、きっと無事に戻って下さいね」
「こうも大規模な策を練っていたとは恐れ入った。だが思惑通りに行くのも此処までF.i.V.E.に喧嘩を売ったことを後悔させてやろうじゃないか」
『アフェッツオーソは触れられない』御巫・夜一(CL2000867)は、自分たちがいる居るところに通じている通路、道路に警報空間を設定。市外に向いている道を優先して。横やり、増援等を警戒する一手にする。
それから、他の覚者と共に情報の通りに禍時の百鬼が訪れる場所へと向かう。
騒ぎと破壊の中心に、その悪魔のような女はいた。
「あら、まずは味方じゃなくて敵がお出迎えしてくれたようね」
鬼崎百江は、黒い翼を操って静かに空から地へと降り立つ。
『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)は、隔者と真っ向から相対した。
「妹や氷雨から色々と聞いてたが……ずいぶん派手にやろうとしてるな。そう簡単に上手くいくと思われてるとは、ずいぶん俺達への評価が低いもんだな? 簡単にやられるほど可愛いもんじゃないぜ、F.i.V.E.は」
柾は思いの強さを乗せるように灼熱化する。
――妹もあっちで頑張っている事だし、俺も俺のやれる事を全力でやる。
(血雨討伐部隊は確かに強力な方達が揃ってましたし、今がチャンスと思うのも分かりますが。だからって残ってる人達が弱いと言うことでは決してないと思うのです。まだ経験は浅いですが、私だって負けるつもりはありません。討伐部隊に加わってる従兄弟のあの子の為にも、きっと五麟を守ってみせます)
敵は天行の使い手だ。
もしかしたら状態異常を引き起こす術があるかもしれない。天野 澄香(CL2000194)は最初に清廉香を味方に施す。今回の戦いは、その計画性などから覚者達も様々な感慨を抱いていた。
「なんだか嫌な予感がしてここに残っていたけれど。正解だったようね。友達は血雨の方へ向かっているわ。ここはわたし達が守らないと」
澄香が清廉香を使うのであれば、自分は攻撃力をと。
『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、錬覇法で英霊の力を引き出す。
「最初から怪しかったから、行動を制限してきた黎明達が裏切った件はまだいいよ。けど30人ばかりを血雨対応にとられてるからって司令さん慌てすぎ。あたし達そんな頼りないかなー。実力ついてきたから組織公開するって、こないだ言ってたのになー」
自身の心境を代弁させるように。
『調停者』九段 笹雪(CL2000517)は、雷雲を呼び寄せる。
「……よーし、ムカムカしてきたから敵にぶつけよう! もちろん八つ当たりだー!」
雷獣による激しい雷が鳴り響く。
天からの落雷に、隔者はうっすらと笑った。
「ふふ。これはこれは……悪くない天行だこと」
悠然と一歩横にずれると。
元居た場所に、電撃が落ちる。紙一重の雷光が、激しく大地を抉った。
「戦力が分散しているとのことだったけど、まだまだ活きの良い人達が残っているみたいね」
「雉も鳴かずば撃たれまい……なんてね。さっさと帰るか、此処で倒れて。出来るだけ早く」
黒桐 夕樹(CL2000163)は後衛で、援護中心に動く。
第六感で不意打ちを警戒。理想は、増援が来る前に片づけること。味方の攻撃の隙を補い、ライフルを構えて狙撃を行う。
「なるほど……悪くない目ね。腹は据わっているということかしら?」
(敵が内や外にと疑心暗鬼に陥る必要はない、目的は単純明快なのだから。わざわざ複雑にする必要はない、目指すものを目指し、真っ直ぐに進むだけ。私はただ単純に、悲しい物語を終わりにしたいだけ)
『一縷乃』冷泉 椿姫(CL2000364)は水纏で自己強化を図った。
今回の戦いの性質上、即座に交戦開始して、迅速に撃退を行う必要がある。
「ふむ。使える者は攫えと、命令を受けているのですが……ちょうど良いですし、貴方達のうち誰か連れて行くとしましょうか」
(連れ去られて、敵側につくのも楽しそうだけど……)
多少物騒なことを考えているのは、『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)である。錬覇法を使いながら、超視力をこらす。増援が来たら全員に知らせるつもりだ。
(相手はかなりの格闘派と聞いている。油断は勿論、出し惜しみはしない)
夜一も、土纏で油断なく相手へと備える。
前衛として構える覚者に、鬼崎はふっと笑いかけた。
「そちらの準備は整ったかしら? じゃあ、そろそろ行きますか」
瞬間。
敵の姿が消える……否。
そう感じるほどの超スピードで、黒翼を羽ばたかせて覚者達に迫る。
「!?」
反射的に夜一は、身を固め。
そこに高速の、重い拳が叩きこまれる。身体全体が、移動を余儀なくされ。叩かれた腕には、くっきりとした鉄拳の跡が残っていた。
「あー、そうそう。抵抗する奴は殺せ、とも命令を受けているから。死にたくなかったら、さっさと白旗を揚げてね?」
「……襲ってきたからには、覚悟は出来てるだろうしな? なかなかの強敵みたいだが、一気にいかせてもらう」
余裕綽綽といった態の相手に。
柾は体勢を崩して怯ませんと、飛燕の連撃を打ち放つ。目にも止まらぬ二連撃を、しかし、隔者は至近距離ぎりぎりで躱してみせた。
「敵はまだ一人。なるべく早く終わらせましょう」
そこに、澄香が非薬・鈴蘭にて毒を付与できないか試みる。
攻撃は避けられたものの、柾は鬼崎のバランスを僅かに崩すことには成功しており。味方の攻撃を通すことに貢献していた。
「これは……毒? 可愛いことを考えるわね」
(付近の人の気配……人数と方角、移動方向からして……まだ一般人を巻き込む危険性があるかなあ)
交戦中は鋭聴力で周囲を警戒。
笹雪は声を上げて避難指示、ガードしつつ避難支援する。
「てか危ないからホント近づかないでね! 流れ弾当たっても知らないから!」
言いながら。
自身が生み出した、雷の余波が戦場を覆う。皆の視界が、まばゆい閃光に何度も包まれた。周囲の一般人達は、恐れ慄きながら一目散に散っていった。
(街での戦闘になるのだから、一般人の巻き込みや建物の破壊に配慮しないと。仲間同士での情報の共有をしっかりと行って――)
注意事項を頭に浮かべ、椿姫が周囲の被害を警戒する。
鷹の目、超視力で観察しつつ。貫通力のある氷の塊を形成すると、攻撃で早期の撃退を目指して
敵へと投擲する。
「援軍が来る前に片付ける事が一番大事ね」
「あー、そうそう。ウチのモグラさん達は、何をやっているのかしらねー」
怪しげな動きをみかけたら仲間にその事を伝えるつもりで。
援軍については大和も超視力でその気配がないかを見て、召雷を呼び込む。
「短期決戦です」
対して、紡は警戒は他人に任せて見つけたらラッキーくらいの心構え。
斬・一の構えでひたすら攻め込む。斬って斬って斬って……錬覇法が切れたら、その都度かけ直し。
「おっと、ちょっと痛いわね」
「驚きを提供してあげるよ。あんたにとって、嫌な方の」
「へえ?」
鬼崎が空に逃れようとしたのを先読みして、夕樹はB.O.T.で追撃する。
黒翼を駆使して隔者は避け。覚者は波動弾の嵐で、相手の動きを追尾する。息詰まる空と地の攻防戦だった。
(狙えるなら翼を狙いたい。機動力を削ぐのは定石だしな)
黎明や増援が来てしまう前に倒す。
夜一が飛苦無で、鬼崎へと攻撃する。黒刃が翼をかすめ、敵は顔をしかめた。
「痛いわね……デリケートな部分なんだから、もっと優しく扱って欲しいものだわ」
鬼崎が、手を動かして風を掴む。
空気の流れを両の手で、押し潰して高圧縮する。
「女性に恥じをかかせると、怖いのよ?」
覚者達の頭上に嵐が生まれ、そのまま地上へと烈風が着地した。
あまりの衝撃に、家屋が薙ぎ倒され。街の大地が大きく掘削された。
「さっさと片づけないとまずそうだな」
エアブリットの風に、柾は飛ばされぬように踏ん張り。
鋭聴力と、守護使役のていさつによる監視に引っ掛かるものがあって、烈波の準備をする。こちらにわざわざ向かってくる足音と、人影。
それは、つまり――
「人が来る……多分、黎明だ」
「こちらの警報空間でも、確認しました。すぐ、そこまで来ています」
●
「ここへの増援は必要ない」
と。
これは、鷹の目を使って警戒していた夕樹。
(一応声をかけておくよ。一応ね。まぁ、無駄だろうけど)
こちらの話を無視して。
背後から、近付いて来た男……黎明はいかにも救援に来たといった態で駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? 手伝います」
「警告しても近づくなら基本は敵とみなすよ?」
奇襲を警戒していた笹雪は、挟撃されないように一時前衛代わりにブロックへ出る。
黎明の男は、手にしたナイフを閃かせた。隔者ではなく、覚者へと。
「……もうこちらの裏切りは知られているようだな。まあ良い。他の連中も、じきに来る」
敵意を確認した夕樹が、威嚇射撃を行う。
笹雪は、雷獣を展開して雷の雨を落とした。
「背後から接敵の場合は……俺が前衛か。仕方がないね」
「短時間ならもつでしょ!」
覚者達は、形としては前と後ろを取られる。
回復手が不足していき、椿姫は癒しの滴と癒しの霧で回復にまわった。その様子を鬼崎は面白そうに眺める。
「ふー。ようやく、一人来たかー。で、どう? 覚者さん達としては、助けた相手に裏切られた今の心情とか?」
「裏切り……まぁ、そういうこともあるでしょう。それぞれの意思があるのだから、深くは追及しないけど。けれどごめんね、私は人が悲しむのを見たくないから。だから、躊躇いなど微塵もなく、戦わせてもらうよ」
空を飛び回る鬼崎と。
あきらかな敵対行動をとる後ろの黎明とを、攻撃対象として攻撃に守備にと戦線を支える。戦いは、次第に混戦となり。
「鬼崎様!」
「遅れました、今援護します!」
時間が経つごとに、黎明達が次々と介入してくる。
もう、最低限の取り繕いすらしない。
「また、新手が来たわ」
「てめーの相手はあたしらですよ!」
大和は脣星落霜で、星のように輝く光の粒を降らせて数の多さに対抗する。紡は、後ろや左右からの敵へと、後衛たちを守るように後衛の後ろへ立って奮戦した。
「どうしてこんな事をするのですか?」
澄香は、つい先ほどまで味方であった者達に問う。
黎明達の答えは簡潔だった。
「決まっているっ」
「ボスが、我々が、のし上がるため!」
「全ては、最初から計画通りだ」
返事と同時に銃弾が飛び交い。
負けじと澄香は、非薬・鈴蘭で敵に毒を浴びせた。その後は、後ろに下がってエアブリットを放つ。
「それそれ。そう後ろばかりに、気を取られていていいのかしら?」
鬼崎は、翼を大きく振って。
その勢いのまま、拳の連打を前から浴びせてくる。
(……まだ、逃げきれない住人がいるな)
相手の動きを良く見て、柾はそれを何とか回避すると。五織の彩と飛燕で対抗する。真っ向からの肉弾戦で、お互いの乱打が威力を発揮した。
「学園の方へ逃げろ」
一般人に声をかけと同時。
敵が強化の技を使用したと見るや、双撃を振るった。
(情報が引き出せるのなら……少しおしゃべりに付き合ってもらうか)
夜一は、攻撃が当たらないように盾となり。
一般人が離脱するまで注意を引くためにも慎重に口を開く。
「……今回のこの逢魔ヶ時が実行した策は見事、恐れ入った」
「あら、急に何かしら?」
「まだF.i.V.E.が名乗る前から強かにこの日を迎えるために行動していたとはな。F.i.V.E.の壊滅が真の目的ではないのだろう。力をつけてきたとは言えまだ駆け出しの弱小だ、脅威も他の組織に比べたらまだ無いだろう」
「……」
「逢魔ヶ時は最終地点を何処に据えている? そして人材を集めさせる理由はなんだ?」
「さあ? 私もウチの大将がどこまで何を考えているのか、詳しくは知らないけど」
激戦の最中にもかかわらず。
鬼崎は大きな欠伸をした。
「つまんない話、七星剣の中でも派閥争いがあってねー。私達が生き残るためには、人材と手柄が必要で。あんたらは、格好の餌だったってわけ。お分かり?」
悪魔を思わせる女は天を仰ぎ。
そのまま手を伸ばすと、上空の天候が途端に荒れ始める。
「こちらも色々大変なのよ、F.i.V.E.の良い子ちゃん達」
天行の雷雲が渦を巻く。
稲光が覚者達を襲い、焼け焦げるような感覚とともに身体が強烈な痺れを覚えた。
(天行の列攻撃か……警戒しないと)
夜一は仲間に近づき過ぎないよう対応し、分断にも気を配る。
あとは全力でぶつかって進行を阻止するのみ。
「後ろへは通さないよ」
吶喊してくる相手に、棘一閃で裂傷を負わせ。
畳み掛けるように夕樹は、深緑鞭で容赦なく打ち付ける。かけてもらった清廉香の効果が切れかかったので、掛け直し。次の黎明には、足を狙撃して行動を縛りにかかった。
相手取る時間が、とにかく惜しい。
「信じたことに悔いはない、そして私は……私の正義を貫くだけよ」
「気力が足りない人がいれば遠慮なく声をかけて頂戴」
敵の増援に対し、椿姫は仲間と連携し合い。即座に人数や戦力の把握を行って対処する。敵の回復手を一番の標的として攻撃。味方が状態異常に陥れば深想水を使う。大和も仲間がバッドステータスに侵されているならば、演舞・舞音で解除を試み。回復のフォローが間に合わないときは、癒しの滴で回復の補助。大填気を使って、MPの補給も怠らない。
「こっちも、気力切れがいたら来て良いよ」
笹雪はその回復を行う二人を補助した。
填気で自身の精神力を転化して、演舞・舞衣で大気を浄化する。
「ていうか増援とか、本当に来てよかったわけ?」
「あん? どういうことかしら?」
「戦闘不能者が出たら、見捨てるの? それとも抱えて逃げるの?」
逃げるなら追わないし。
見捨てるなら本部でこってり絞ってやるから!
と笹雪は意気込んで、なるべく多くを射程に入れるように雷獣を打ち放つ。
「……ぐっ」
「鬼崎……様」
黎明が二人、武器を落とし膝をつく。
黒翼の隔者は、「あー、あー」と舌打ちした。
「返りうちにしますよ」
そこへ紡が、貫殺撃でメインの敵を巻き込みつつ攻撃する。
メインの敵、それはもちろん鬼崎百江だ。
「ちっ……身体が……」
瞬時に貫く突きを受け。
隔者は、上空へと逃れる。その顔色が悪いのは、単純なダメージだけの問題ではなかった。
「毒が効いてきたようですね」
敵を自身の飛行で追い掛け。
澄香は、空中でよろめく相手に定めてエアブリットを撃つ。
(当たればいいですが、当たらなくても構いません)
こちらへ敵の意識を引き付けることが目的。
そうすれば――
「殺しはしないが、容赦はしない」
「っ!」
――その間に仲間が遠距離攻撃で仕留めてくれると思っていますから。
柾の烈波をまともに喰らい。
鬼崎は気の弾丸の一斉掃射によって、撃ち落とされる。
「鬼崎様!?」
「……抜かったわ」
墜落した先へ、近くにいた黎明達が集まる。
隔者は不確かな足取りで、何とか立ち上がった。
「ま、でも。これぐらいやってくれなきゃ、攫い甲斐がないってところかしら?」
それは。
まさしく悪魔の笑み。
「!」
このとき、比較的皆から離れていた夜一と大和。
その後ろから、隠れていた黎明が組みつき、翼を出して浮き上がる。突然のことに反応が遅れた。
「充分暴れたし。お仕事もちゃんとしないとね」
「……1人で来たことといい、余裕があるのね」
大和は黎明に背後をとられながら。
鬼崎を真っ直ぐに見据える。
「主力は全部血雨で出払って弱い覚者だけが残っていると思ったのかしら? それともよほどの自信があるのかしら? 残念ながらそう簡単にはいかないわよ」
「へえ? どう簡単にいかないのかしら」
こういうことだ。
と言わんばかりに、仲間達が動く。
「ずいぶんと自信があるみたいだな? さっさとお前の主の元へ帰れ」
「あたしを連れてけクソが!!」
誰も攫わせはしないと。
味方を抱える相手に、柾が飛燕を叩きこみ。同じく、紡が召雷で連れ去ろうとする相手を攻撃し、近付いて殴りかかる。
「おっと、そうは――」
「――させないよ」
鬼崎がエアブリットで横やりを入れようとするのを。
間髪入れずに夕樹がB.O.T.で妨害する。
「離してもらおうか」
仲間の助力を得て、夜一と大和は自力で束縛を逃れる。
逆に二人を攫おうとした黎明二名は、強かな逆撃により深手を負った。
「だー。失敗かあ。タイミングを見計らっていたってのに」
「……まだ、やりますか?」
椿姫の言葉に、鬼崎は辺りを見回す。
倒れた黎明達を見て、隔者はため息を吐いた。
「いや、ここは退かせてもらいましょうか。これ以上はこちらも死人が出かねないし」
「深追いはしないよ。どうせ、また来るだろうし」
ああ、疲れた……。
と、夕樹は心の中で呟く。覚者達も限界が近い。
「じゃあ、お言葉に甘えて……縁があったら、またどこかでね。良い子の覚者さん達」
仲間を担いで、鬼崎達は撤収していく。
それを最後まで見届けて、「ああ、抱えて逃げるんだ」と笹雪は得心する。澄香は念のため、上空へと飛んで周囲を見渡す。街のそこかしこで、戦いの煙が上がっているのが見て取れた。
祈るような気持ちで空から彼方を見つめる。
「討伐部隊の皆さんは、この事に気付いているのでしょうか。気付いてたとしても、こちらの事は気にせず戦いに集中して下さい。そして、きっと無事に戻って下さいね」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
