≪Vt2016≫雪の恋人たち スノボー編
≪Vt2016≫雪の恋人たち スノボー編



 コーン、コーン……。
 吹雪に見舞われた昨夜から、少しこもったような、それでいて澄んだ音色が、分厚い雪に覆われた斜面に響いていた。
 コーン、コーン……。
 日の出とともに音は、少しずつ小さくなっていき、間も開いていった。
 コーン、コーン……。
 お天道様が真上に差し掛かるころには、音はぱったりと途切れ、雪山に静寂が戻ってきた。


 依頼の内容は「憤怒者たちに面白半分で捉われて、雪山で遭難した『古妖』を助ける」というものだった。
「スキー場関係者は『雪の恋人たち』って呼んでいる。『雪の恋人たち』は古妖で、スキー場で自然発生した『精霊』の一種なんだ」
 保護、救出すべき対象について、久方相馬(nCL2000004)はそう説明した。
「これまでは人に危害を加えたことがなかったらしいぜ。無害だったんだ。出現はバレンタイン一日限定だし。チョコレートとか甘いものを分けてやると、ちょっとしたおくりものを残していつも消えたらしいし」
 6年ほど前に最初の『雪の恋人たち』がスキーのコースにリスに似た愛らしい姿を見せた。
 全体的にリスによく似た『雪の恋人たち』は、背に雪の結晶のような六角形の羽と、額に氷柱のような透き通った角を持っていた。必ずオスとメスのつがいで現れるというが、だれも捕まえて調べてみたことがない。ただ単に、バレンタインのムードを盛り上げるためにそう決め込んでいるのだろう。
 今年は13日の深夜に六組のカップルがロッジの窓に姿を見せたという。昨年と同じく、ふさふさとした尻尾を振って、山頂へ向かって行ったらしい。夜明けとともにスキーやスノーボードのコースにあらわれて、人々を驚かすつもりで。
「スキーヤーたちやスキー場のスタッフが分け与えたお菓子を食べて満足して、レベルが上がる前に消えていたんだ。これまでは。それが……」
 噂を聞いてやってきた憤怒者が、ゲレンデで見つけた『雪の恋人たち』を片っ端から捕まえてガラス瓶に入れ、連れ帰ろうとしたらしい。いざ、山を下る段になって急に天候があれだした。吹雪になったのだ。方向感覚を失ってウロウロとしているうちに雪崩が発生、飲み込まれてしまったという。
「憤怒者たちはコース外で全員救助され、捕まって、いま病院にいる。けど、捕まえた『雪の恋人たち』をどこで落としたのか、まったく覚えていないらしい」
 それが13日深夜の事だった。いまからちょうど6時間前のことである。
「夢見では夜、『雪の恋人たち』のレベルが上がって凶悪化した。巨大化してガラス瓶を割って出た彼らは、手あたり次第人間を襲って食い殺すんだ。そうなる前に雪に埋もれた彼らを見つけだし、無事にロッジに連れ帰ってくれ。頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.時間内にすべての『雪の恋人たち』を保護、ロッジに連れ帰る
2.なし
3.なし

イベシナではありません。
繰り返します。イベシナではありません。失敗もあり得ます。

●時間と場所
・とあるスキー場。
スノボーの超上級者コースを少し下って横に入ったあたりから捜索を始めてもらいます。憤怒者たちはこのあたりで雪崩に巻き込まれ、ロッジ近くまで流されたようです。
探索区域はおよそ3つのエリアに分けられます。
・超上級と上級コースの外れ(立木と立木の間が狭く、見通しが悪い)
・中級コースの外れ(熊や野犬の目撃情報あり)
・初心者コースの外れ(一番探索範囲が広い)
探索するのはコース外ですので、雪はまったく固められていません。立木などの障害物があります。とくに昨夜は雪崩が起きており、どこに危険が潜んでいるか分かりません。
※山の南斜面、上から下まで全域を担当してもらいます。

・昼十二時から夕方五時まで。
夜は暗視等があったとしても危険なので捜索が打ち切られます。
夕方4時半を過ぎるころには、かなり暗くなりますのでご注意ください。
※この時間内にすべての『雪の恋人たち』を見つけられなかった場合、後日、討伐シナリオが改めて出されます。

●『雪の恋人たち』
全体的にリスのような姿。
背中に雪の結晶のような羽と、額に氷柱のような透明な角があります。
体長は4~5センチほど。
甘い食べ物にたいして異常なほど嗅覚がききます。
いままでは2月14日限定の古妖でした。
甘いものが食べられず、空腹が15時間以上続くとレベルが上がり凶悪化。15日以降、人々を食い殺しだします。

毎年必ず、二組ずつペアになって行動していたそうですが、憤怒者たちは彼らを別々に引き離し、1個体ずつ広口のガラス瓶に入れていました。
昼前までガラス瓶を叩くだけの体力があったようですが、覚者たちがつく頃にはまったく音が聞こえなくなっています。

南斜面には3組、6体の『雪の恋人たち』が遭難しています。
覚者たちは雪の七から6瓶を見つけ出し、『雪の恋人たち』をロッジに連れ帰らなくてはなりません。
午後五時までにロッジに連れ帰ることができれば、12時ちょうどに自然消滅します。

●持っていると捜索が有利になるアイテム
・チョコ(本命、義理、友達)
神具庫にて発売されているこれらのアイテムを所持していると、発見に時間短縮のボーナスが加わります。※いずれもGP販売
早く発見して連れ帰れば、ロッジでの自由時間が増えます。
スノボーを楽しむもよし、雪だるまを作るもよし、サウナ(男女共同)を楽しむのもよし。
なお、夜は成功の場合にはよく晴れて星空が拝めますが、失敗の場合は吹雪きます。
※ロッジで『雪の恋人たち』のために、ちゃんと甘いお菓子を用意しています。なので持っていなくても連れ帰ればOKです。

●貸出物
・スノーモービル(※実年齢15歳以上に限る)
・クロスカントリー用のショートスキー板
・スノーボード
・信号弾(一発分)
・方位磁石
・山岳地図(防水)
・携帯コンロ(マッチ付き)
・山岳用ロープ※貸し出してほしいものがある場合は、プレイングに記載してください。
 一人につき2つまで貸出します。
※ごく普通のゴーグルや防寒着などは自前のものを着ていることにしても構いません。とくにアイテムで所持する必要ありません。
 特殊な効果を持つものはアイテムでご用意ください。

●書式
チーム分けして行動する場合は、相手の名かチーム名を一行目に記入願います。
捜索は全員で行うが、あとの自由時間を個別にする場合。またはその逆でも、一行目にチーム名の記入をお願いします。
2行目にスキーの腕前を自己申告ねがいます。ない場合はスキー初心者とみなします。

●その他
『雪の恋人たち』を助けてあげると、お礼におくりものが!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年02月27日

■メイン参加者 6人■

『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『戦場を舞う猫』
鳴海 蕾花(CL2001006)


 『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)は、自分よりもずっと幼い子が易々と滑っているのをみて少しだけ気が軽くなった。
 割りあては上級者コースの外れだ。お尻を雪につけずに滑れるといった程度の腕だったが、他に手を上げる者がいなかったので引き受けた。
「明石さん、お待たせ」
 『戦場を舞う猫』鳴海 蕾花(CL2001006)がスノーボードを脇に抱えて戻ってきた。
「行きましょうか……」
 蕾花と一緒にロッジを出ると、階段の下に他の仲間たちが集まっていた。
「ふぉぉ、どこもかしこも真っ白けっけなのよ。それにとっても寒いのよ!」
 『ゆるゆるふああ』鼎 飛鳥(CL2000093)が雪の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「あすかたちも早くリスさんたちを探しに行くのよ」
「飛鳥ちゃん、探すのはリスじゃないわよ。リスっぽい姿の古妖たちだから」
 イスラ・メレト・アルナイル(CL2001310)はゴーグルをつけると、スノーモービルのエンジンをかけた。星の飾りがついた薄いベールの上に、白い毛皮に縁取られた紺のフードをかぶる。
 イスラは寒空の下で天体観測をしてひいた風邪が治ったばかりだった。日本育ちである程は冬の度寒さになれがあるとはいえ、さすがにスキー場でいつもの薄着とはいかず、しっかりと防寒着を着こんでいる。
「あすか、ちゃんと分かってるのよ大丈夫」
 鼻歌を歌いながらイスラの後ろに座る。
 ピンク色のウェアを着た飛鳥と紺色のウェアを着たイスラは、初心者コースの外れを探索することになっていた。
 空を仰いで『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)が嘆く。
「憤怒者たちもせっかくの日に残念な事をしてくれるわねぇ♪ 何もなければゆっくり楽しめたのに」
 蕾花が同感とばかりに言葉を継ぐ。
「ほんと。連中、何考えているんだろうね。まったく、厄介毎ばかり持ちこんでくれちゃって。それより魂行さん、寒くない? 見ているだけでこっちが震えそうになるんだけど」
 そう言った本人も体を動かすと熱くなるというので、薄いウェアの下は発熱性のインナー衣料一枚なのだが、輪廻はなんとスキーウェアの前を全開していた。しかも下は水着……。
「水の心で寒さをしのいでおるんじゃろ」
 地図を畳みながら、『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)がつぶやく。
「正解よん♪」
「しかしの……少し刺激が強すぎるぞ。途中、ゲレンデの中を通るのじゃし、無用なトラブルを起こさぬように前は閉めてもらえぬかの?」
「はーい。それじゃあ、お色気は封印ねん」
 輪廻と樹香は中級コースの外れを担当だ。
 スノボーの腕は中級と申告した輪廻はスノーボードで、からっきし滑れない樹香は歩いて古妖『雪の恋人たち』を探すことにしていた。
「ワシらはスキー学校の前にあるサウスPリフトで中腹まであがるぞ。お前様たちはすぐそこのロングリフトで山頂へ行くがよい。あれじゃ」
 ミュエルが樹香の指さす方角を見ると、ちょうどスキーコース上級外を担当する二人が上がっていくところだった。
「スキーコースと同じリフトなのね……」
 リフトを見ると結構な速さで動いている。それに高い。
 ミュエルは不安から気をそらすため、集合時間の確認を取った。
「二時半に一旦ロッジに集合だったよね……」
「そうじゃ。さて、始めようかの、お前様方」
「了解なのよ。イスラお姉さん、出発進行なのよ♪」
 飛鳥を乗せたイスラのスノーモービルが南へ走っていくと、のこった二組もそれぞれ目的地近くまで運んでくれるリフト場へ向かった。


「え……?」
 ゲレンデを見下したとたん、ミュエルは絶句した。下から見ていたときと大違い、かなりの急こう配だ。坂というよりもこれは絶壁ではないか。
「明石さんはゆっくり歩いて丁寧に調べればいいよ。その分、あたしがスピードを生かして全体をカバーするから」
 そろりと横を向くと、蕾花が絶壁の端で右足をボードに固定させて軽く飛び跳ねていた。
「送受信の範囲から一時的にはなれることがあっても慌てないで。すぐ戻ってくるからさ。とりあえずあそこのロープまで行こうか」
 ミュエルは首を曲げることさえできなかった。かわりに守護使役のレンゲさんが、ニット帽から飛び出したあほ毛を縦に揺らした。
 先に蕾花が行った。ターンを何度か繰り返して、コース外を示すロープに向かっていく。
 レンゲさんに励まされながら、ミュエルもゆっくりと滑りだした。バランサーはあるものの、どうしても気持ち腰が引けてしまう。体を置いて板だけが前へ前へと滑り、ついに背中から倒れてしまった。
 あちゃあ、と蕾花がゴーグルの前を手で覆い隠す。
「スケーティング用を借りちゃったんだね。待ってて。パトロール小屋で滑り止めのシールかワックスを貰ってくるから」
 ポールを突いて立ちあがると、もう蕾花が戻ってきた。
 ミュエルは黒いゴムのようなものを受け取って、雪を落としたスキー板の裏に張りつけた。再び板を履く。これならなんとか雪の上を歩けそうだ。
「アタシは木の記憶を読み取って……ビンを叩く音とか、雪崩で人が流されたとか……そういう出来事が、あったかどうか……確認しなから降りる」
「あたしはさっきも言ったけど、上から何度か滑ってエリア全体を見て回るよ。送受信は活性化したままにしておいて。雪に埋もれちゃってもすぐ見つけられるようにね」
 蕾花が立木の間を、時にこぶを捕えてのジャンプ中に一回転を決めながら見事なテクニックで飛ぶように滑っていく。
 ミュエルは恐る恐る板を動かしながら、時々ブナの木に手をついて回った。
 意外にも一つ目のガラス瓶はすぐに見つかった。
「あっ……あわ、あわわわっ!」
 板の先が新雪に深く沈ませてしまったミュエルが、ハイバランサーもむなしくダイナミックに縦回転しながら転がり落ちた先で木にぶつかり、その根元に埋っていた瓶を偶然見つけ出したのだった。

 その頃――。

 イスラと飛鳥は、スノーモービルで探索エリアの一番端に到着していた。
「飛鳥ちゃん、また後でね」
「あすかは少し西側へ行ってから、まっすぐロッジの方角に歩いていきます」
 了解の印にかるく右手を上げてみせると、イスラはスノーモービルをスタートさせた。ここからは別行動だ。
 空は気持ちよく晴れ渡っており、風もほとんどない。天気予報もそうだったが、移動中にやった占いでも、このあと大きく天候が崩れることはないと出ていた。飛鳥をひとりにしても、遭難することはないだろう。
 イスラは進路を東に取った。端まで行ったらターンして西へ向かう。そうやってエリア内を一番遠いところからくまなく回ると決めていた。
「ベヌ、頼んだわよ」
 守護使役に上空からの偵察を頼んで、自分は運転しながら精神の波を広げた。
 同族把握は怪の因子だけが持つ強みだ。『雪の恋人たち』を探し出すのに役立ってくれるだろう。
 何度目かのターンで、野ウサギの後を追いかける飛鳥と出会った。直後、心を別の波動が触れるのを感じた。見上げると、ベヌが翼の先である方角を指示していた。飛鳥が野ウサギを追って行く方角と一致している。
 先にたどり着いたのは飛鳥だった。グローブをはめた手でブナの木の根元を一生懸命掘っている。
 イスラもスノーモービルを止めて降りると、飛鳥と一緒に雪をかいだ。
「見つけた! ありがとうなのよ、ウサギさん」
 古妖を閉じ込めたガラス瓶は、積もった雪の奥深くに埋もれていた。見て回っていただけでは決して見つからなかっただろう。
「生きているのかしら? 動かないわ」
 イスラは蓋を外してガラス瓶を傾けた。そっと『雪の恋人たち』を手の上に取りだす。
「チョコとクッキーかあるのよ、たくさん食べてください」
 飛鳥が手にしていたチョコレートを古妖の鼻先に近づけると、白いひげがヒクヒクと動いた。
「よかった」
 手の上に横たわったままチョコレートにかじりつく様子を見て、イスラはほっと息をついた。
「ウサギさんは不思議な音を他には聞いていないみたいなのよ。もうすぐ集合時間だし、リスさんを連れて一度ロッジに戻りましょうなのよ」
「そうね。この子もずいぶん弱っているみたいだし、戻りましょう」


「そんなにがっかりすることもなかろう。手がかりは掴んでおるのじゃから」
 樹香はやたらため息をつく輪廻をなぐさめた。
 二人は一足先に山を下りてきていた。といっても、予定の時刻を十分ほど過ぎている。手ぶらだった。
 歩きの樹香は雪に足をとられて捜索が進まなかった。しかも、目ぼしい太さのブナの木に語りかけつつの移動だ。前半にこれだけは、と決めた範囲をかろうじて回り終える頃には汗だくになっていた。
 スノボーの輪廻にしても、ときおり立ち止まっては携帯コンロでチョコレート炙りを繰り返していたため、やはり受け持ちのエリアをざっくりと回るにとどまっていた。
「野良犬の足跡がたくさん雪の上に残っているのを見つけたのねん。近くに穴が掘り返された痕もあったから、もしかしたら……」
「ふむ。お前様が見た穴の位置が正しければ、ブナの木から得た瓶の位置情報と大体一致するの」
 樹香は複数のブナの木から雪崩の範囲を得て、憤怒者たちが遭難した範囲を大まかに把握していた。山の南側で起こった雪崩は北側よりも早かったらしく、憤怒者たちは自分たちの受け持ちエリアよりも上、上級者エリアの終わりごろで雪に巻き込まれたようだった。
 中級エリアよりも下に流れていったのは四本だ。南側で遭難した『雪の恋人たち』は六体三組。だから、上級エリアには古妖を閉じ込めたガラス瓶が二本埋まっているはずだ。
「皆と会えればよいが。このことを伝えれば、探す範囲が狭まって捜索が捗るはずじゃ」
 ロッジの近くまできたとき、後ろから声を掛けられた。真横に黒いスノーモービルが並ぶ。
 イスラと飛鳥だった。
「どうでした?」
「見つけられなかった。でも、手掛かりは掴んでいるのねん」
 飛鳥がスノーモービルの後ろから、空のガラス瓶を振って見せる。
「あすかたちは一本見つけたのよ。リスさんはイスラお姉さんの胸でぬくぬくしています」
 イスラの胸のあたりで、キュッと鳴き声がなった。
「では、中級から初級のエリアで探すべきはあと三本じゃな」
 そこへミュエルを背におぶった蕾花が滑り下りて来た。
「キミ、大丈夫?」
 イスラが心配して声をかける。
「アタシは大丈夫……。あ、一匹見つけたよ」
 ミュエルの背からひょっこり、『雪の恋人たち』がリスに似た愛らしい顔を出した。
「背負って降りて来たほうが早かったからね」
 蕾花は腰をさげてミュエルを雪の上に降ろす。
「でもよかった。みんなと会えないんじゃないかと思って、ちょっと焦っていた」
 予定より時間が少し押してはいたが、とりあえずロッジで情報交換をしながら休憩をとることにした。
 ロッジの階段で、北側のスキーコースを担当している班とすれ違った。
 こちらと違ってみんな十分に余力を残しており、元気そうだ。
「あっちは雪山で滑り慣れている人が多いからなのねん。あ、でも、見つけた古妖の数は私たちのほうが多いのよん♪」
 挨拶を交わしてスキー班を見送ると、一行はロッジに入った。
 『雪の恋人たち』にはチョコレートやクッキーを振るまい、自分たちは暖かい飲み物を用意して窓際のテーブルにつく。ちなみに飲み物は店主の好意ですべて無料だ。
「スキー班は地図に捜索個所を書き込んで検討していたらしいわね」とイスラ。
「あすかたちもそうするのよ」
 ミュエルと樹香がそれぞれ地図を広げる。
「アタシたちがこの子を見つけたのはここ……。ブナの木の記憶によると、こっちで雪崩が起こっている……」
 地図に指を滑らせて、ミュエルは雪崩の発生地点を示した。
「近くにあるんじゃないかと思ってさ、この子を瓶から出して一緒に探したんだけどね。なかったよ」
「ワシの得た情報では上級者エリアにもう一本、古妖が閉じ込められた瓶があるはずなのじゃ。今度はここからこのあたりを重点的に調べてみてはどうかの?」
「私たちは野良犬たちの足跡を追うのねん。もう一本も野良犬たちを追っている途中で見つかると思うのよん」
 輪廻はパタパタと扇子で首元を扇いだ。
「遠くまで追いかけていくなら、私も手伝うわ」
「いや、お前様たちは引き続き初心者エリア頼む。けっこう広いのでな。一人だけでは見落としてしまう恐れがある」
 捜索の方針が固まったところで一斉に腰を上げた。
「明日は絶対、筋肉痛になっているのよ。トホホ」
 一番年若い飛鳥がユーモアたっぷりに嘆く。
「何いってるの。さあ、みんな。もうひと頑張りしにいくよ!」


 樹香は嗅ぎ分けの能力を、輪廻は双眼鏡と鋭聴力を使って野良犬を追っていた。
 二人とも疲れきってヘトヘトだ。早く見つけないと、冗談抜きに自分たちが遭難してしまいかねなかった。
 途中で木の根に光るものを見つけ、雪の中から瓶を掘り出した。野良犬たちはこちらの瓶には気がつかなかったらしい。
 輪廻は蓋を開けて『雪の恋人たち』を中から出してやり、持っていたチョコレートを与えて元気づけると、雪に放ってつがいを探させた。
「見つけたら時間が惜しいから、飛燕や地烈で速攻を掛けて終わらせるわよん」
 日が暮れかかっていた。
 雪の上に残された足跡が、夜の影に覆われて少しずつ見えなくなってきている。
「脅して……逃げてくれればよいがの。しかし、どこ――」
 輪廻が、しっ、と唇に人差し指をあてて言葉を遮る。
 図ったかのように古妖が戻ってきた。
「ガラスを爪か牙で引っ掻く音が聞こえたのよん」
「ふむ。微かにじゃが、風に獣の匂いがするの。あっちじゃ」
 私が前に出て戦う、と輪廻はボードを樹香が指さしたほうへ滑らせた。
 幸いにも野良犬たちは、最初に輪廻が放った飛燕であっさり逃げてくれた。
 ガラス瓶の中から『雪の恋人たち』を救いだして夜空の下をロッジまで戻ってくると、心配した仲間と四体の古妖が、二人と二体の帰りを待っていた。


「滑れるようになればメチャクチャ楽しいのに」
 蕾花はボードを抱えて星空の下に出た。教えてあげるから、とみんなをゲレンデに誘ったのだが、返ってきたのは苦笑いばかりだった。
「ま、いっか。スノボーで思いっきり遊ぶぞー!」
 気持ちを切り替えて山頂を目指す。山麓までロングで一本、思う存分滑走するのだ。期待で胸がわくわくする。
「うわぉ! 素敵、最高っ!」
 滑ると想像以上の素晴らしさだった。
 ふいのウエーブで予想外の方向に体が大きく振られたが、蕾花は持てるテクニックをフルに駆使してやりすごした。
 途中、立ちどまっていたスキー組の男二人の前でフェイキーオーリーF360を決める。
 口笛に送られながら、先にあったジャンプ台から飛んで空中を舞った。
 眼下にロッジの屋根を見下しながら、蕾花は背中を快感が駆け抜けていくのを感じた。

 サウナ室では、飛鳥、輪廻、ミュエルの三人が汗とともに日中の疲労を流していた。
「残念なのよん。みんなが一緒なら、美容に良くて、胸が大きくなるマッサージの方法とか教えてあげたのに」
「それ、今あすかに教えてくださいなのよ」
 ウサギの垂耳を頭の上でクリップ止めした飛鳥が、一段上の輪廻を振り返る。
 ミュエルがサウナハチミツをたっぷり全身に塗りこみながら、「飛鳥ちゃんはこれからよ。必要ないと思うよ……」と言った。
 キンキンに冷えた飲み物を片手に輪廻も頷く。
「来年も再来年も、そのままだったら教えてあげるのねん♪」
 あすかは少ししょんぼりとして、バスタオルを巻いた胸に手を当てた。
 それから三人は、暗がりのなかで薪がパチパチはじける音や薪が燻される香りを楽しみながら、やさしい木の香りがするベンチのうえでゴロンと寝っ転がったり、マッサージを施しあったりと、思う存分くつろいだ。
「そろそろクールダウンするのねん♪」
 ロッジからは木々に目隠しされてサウナの出入口付近が見えなくなっていた。だから三人は人目を気にすることなく、バスタオル一枚で外へ飛び出していった。
 雪に転がって手足をばたつかせて天使を作ったり、ちいさな雪ウサギをいくつも並べて遊ぶ。体が冷えて来たら、三人で手を取りあってサウナの中に駆け戻った。
「気持ちよくて魂がとろけだしちゃいそう……」
 素肌が雪に触れた瞬間の、きゅっとくる心地の良い刺激。そしてサウナに戻ってきて、冷たさにしびれきった肌にもう一度ロウリュを浴びる瞬間は本当に気持ちがよかった。
「ふはぁ~、仕事の後のサウナは格別なのよ」
 飛鳥のオッサン臭い台詞に、輪廻もミュエルも声を揃えて笑った。

「ふふ、星がとっても綺麗ね。ね、ベヌ」
 助けた『雪の恋人たち』を見送ったあと、イスラと樹香は守護使役とともにきらめき揺れるオリオンの下で天体観測を楽しんでいた。
 肩を並べて夜に白い息を浮かべながら、しばしの間、ゆったりとした天の動きに魅入る。
「だけど、ちょっと寒くなってきちゃった」
 イスラは携帯ポットからカップに暖かい飲み物をそそいだ。
「はい、ホットチョコレート。バレンタインに乾杯しましょう」
「バレンタイン、のぅ。将来縁があれば、の……」
 樹香がぼやきながらカップを受け取る。
「「乾杯♪」」
 カップが触れあう小さな音に合わせて、森の奥からコーン、と古妖が氷柱を叩く音が聞こえてきた。

 それはまたの再会を約束する音――

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『雪の大結晶』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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