≪Vt2016≫雪の恋人たち スキー編
≪Vt2016≫雪の恋人たち スキー編



 コーン、コーン……。
 吹雪に見舞われた昨夜から、少しこもったような、それでいて澄んだ音色が、分厚い雪に覆われた斜面に響いていた。
 コーン、コーン……。
 日の出とともに音は、少しずつ小さくなっていき、間も開いていった。
 コーン、コーン……。
 お天道様が真上に差し掛かるころには、音はぱったりと途切れ、雪山に静寂が戻ってきた。


 依頼の内容は「憤怒者たちに面白半分で捉われて、雪山で遭難した『古妖』を助ける」というものだった。
「スキー場関係者は『雪の恋人たち』って呼んでいる。古妖で、スキー場で自然発生した『精霊』の一種なんだ」
 保護、救出すべき対象について、久方相馬(nCL2000004)はそう説明した。
「これまでは人に危害を加えたことがなかったらしいぜ。無害だったんだ。出現はバレンタイン一日限定だし。チョコレートとか甘いものを分けてやると、ちょっとしたおくりものを残していつも消えたらしいし」
 6年ほど前に最初の『雪の恋人たち』がスキーのコースにリスに似た愛らしい姿を見せた。
 全体的にリスによく似た『雪の恋人たち』は、背に雪の結晶のような六角形の羽と、額に氷柱のような透き通った角を持っていた。必ずオスとメスのつがいで現れるというが、だれも捕まえて調べてみたことがない。ただ単に、バレンタインのムードを盛り上げるためにそう決め込んでいるのだろう。
 今年は13日の深夜に六組のカップルがロッジの窓に姿を見せたという。昨年と同じく、ふさふさとした尻尾を振って、山頂へ向かって行ったらしい。夜明けとともにスキーやスノーボードのコースにあらわれて、人々を驚かすつもりで。
「スキーヤーたちやスキー場のスタッフが分け与えたお菓子を食べて満足して、レベルが上がる前に消えていたんだ。これまでは。それが……」
 噂を聞いてやってきた憤怒者が、ゲレンデで見つけた『雪の恋人たち』を片っ端から捕まえてガラス瓶に入れ、連れ帰ろうとしたらしい。いざ、山を下る段になって急に天候があれだした。吹雪になったのだ。方向感覚を失ってウロウロとしているうちに雪崩が発生、飲み込まれてしまったという。
「憤怒者たちはコース外で全員救助され、捕まって、いま病院にいる。けど、捕まえた『雪の恋人たち』をどこで落としたのか、まったく覚えていないらしい」
 それが13日深夜の事だった。いまからちょうど6時間前のことである。
「夢見では夜、『雪の恋人たち』のレベルが上がって凶悪化した。巨大化してガラス瓶を割って出た彼らは、手あたり次第人間を襲って食い殺すんだ。そうなる前に雪に埋もれた彼らを見つけだし、無事にロッジに連れ帰ってくれ。頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.時間内にすべての『雪の恋人たち』を保護、ロッジに連れ帰る
2.なし
3.なし

イベシナではありません。
繰り返します。イベシナではありません。失敗もあり得ます。

●時間と場所
・とあるスキー場。
スキーの超上級者コースを少し下って横に入ったあたりから捜索を始めてもらいます。憤怒者たちはこのあたりで雪崩に巻き込まれ、ロッジ近くまで流されたようです。
探索区域はおよそ3つのエリアに分けられます。
・超上級と上級コースの外れ(立木と立木の間が狭く、見通しが悪い)
・中級コースの外れ(熊や野犬の目撃情報あり)
・初心者コースの外れ(一番探索範囲が広い)
探索するのはコース外ですので、雪はまったく固められていません。立木などの障害物があります。とくに昨夜は雪崩が起きており、どこに危険が潜んでいるか分かりません。
※山の北斜面、上から下まで全域を担当してもらいます。

・昼十二時から夕方五時まで。
夜は暗視等があったとしても危険なので捜索が打ち切られます。
夕方4時半を過ぎるころには、かなり暗くなりますのでご注意ください。
※この時間内にすべての『雪の恋人たち』を見つけられなかった場合、後日、討伐シナリオが改めて出されます。

●『雪の恋人たち』
全体的にリスのような姿。
背中に雪の結晶のような羽と、額に氷柱のような透明な角があります。
体長は4~5センチほど。
甘い食べ物にたいして異常なほど嗅覚がききます。
いままでは2月14日限定の古妖でした。
甘いものが食べられず、空腹が15時間以上続くとレベルが上がり凶悪化。15日以降、人々を食い殺しだします。

毎年必ず、二組ずつペアになって行動していたそうですが、憤怒者たちは彼らを別々に引き離し、1個体ずつ広口のガラス瓶に入れていました。
昼前までガラス瓶を叩くだけの体力があったようですが、覚者たちがつく頃にはまったく音が聞こえなくなっています。

北斜面には3組、6体の『雪の恋人たち』が遭難しています。
覚者たちは雪の七から6瓶を見つけ出し、『雪の恋人たち』をロッジに連れ帰らなくてはなりません。
午後五時までにロッジに連れ帰ることができれば、12時ちょうどに自然消滅します。

●持っていると捜索が有利になるアイテム
・チョコ(本命、義理、友達)
神具庫にて発売されているこれらのアイテムを所持していると、発見に時間短縮のボーナスが加わります。※いずれもGP販売
早く発見して連れ帰れば、ロッジでの自由時間が増えます。
スキーを楽しむもよし、雪だるまを作るもよし、サウナ(男女共同)を楽しむのもよし。
なお、夜は成功の場合にはよく晴れて星空が拝めますが、失敗の場合は吹雪きます。
※ロッジで『雪の恋人たち』のために、ちゃんと甘いお菓子を用意しています。なので持っていなくても連れ帰ればOKです。

●貸出物
・スノーモービル(※実年齢15歳以上に限る)
・クロスカントリー用のショートスキー板
・スキー板
・信号弾(一発分)
・方位磁石
・山岳地図(防水)
・携帯コンロ(マッチ付き)
・山岳用ロープ
※貸し出してほしいものがある場合は、プレイングに記載してください。
 一人につき2つまで貸出します。
※ごく普通のゴーグルや防寒着などは自前のものを着ていることにしても構いません。とくにアイテムで所持する必要ありません。
 特殊な効果を持つものはアイテムでご用意ください。

●書式
チーム分けして行動する場合は、相手の名かチーム名を一行目に記入願います。
捜索は全員で行うが、あとの自由時間を個別にする場合。またはその逆でも、一行目にチーム名の記入をお願いします。
2行目にスキーの腕前を自己申告ねがいます。ない場合はスキー初心者とみなします。

●その他
『雪の恋人たち』を助けてあげると、お礼におくりものが!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2016年02月26日

■メイン参加者 6人■



 階段を下り切ったところで、『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)は空を仰いだ。
「憤怒者共がよけいなことをしなければ、絶好のスキー日和だったのにな」
 白銀のゲレンデの上に広がる空は青く澄み切って、薄雲の一つも見当たらない。コンディションは最高だった。足元の圧迫された雪でさえ、ふんわりと柔らかく感じる。
「何もなければ、気持ちよく滑れたのにね」
 振り返ると、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が防水マップを折りたたんでいた。
「地図にしたのか」
 奏空は、うん、と短く答えて地図を腰のポーチに押し込んだ。
 コース外を広く探索するなら、疲労を押さえる意味でもなるべく身軽なほうがいい。パトロール隊員からアドバイスされて、悩んだ末に板と地図を選んだ。
 現在地と方角は守護使役のライライさんに頼ることにして、あとは信号弾を使うような場面がないことを祈るしかない。
 ロッジから奥州 一悟(CL2000076)と光邑 リサ(CL2000053)が出てきた。二人は上級者コースの外れから探索することになっている。どちらもスキーには幼いころから慣れ親しんでおり、プロ並の腕だという。
「いい天気だな。さっさと見つけて遊ぼうぜ!」
「イチゴ! 気を引き締めなさい。古妖たちを見つける前に怪我をするわヨ」
 はーい、と言ったが一悟の目はゲレンデに釘点けだ。いますぐ滑りたくて仕方がない気持ちが全身からあふれでている。
「だってしょうがないじゃん。久しぶりなんだぜ、滑るの」
 階段を飛び降りる。両慈と目が合うと、一悟は祖母から叱られた照れくささを隠すように笑った。
 ロッジの横から光邑 研吾(CL2000032)がスノーモービルの後ろに桂木・日那乃(CL2000941)を乗せてやってきた。
 二人の担当は初心者コースの外れだ。スキーのできない研吾はスノーモービルで、翼をもつ日那乃は空から古妖『雪の恋人たち』を探すことになっていた。
「頑張ろう。凶暴化、しないように。古妖のため、ね」
「せやな。とりあえず、俺らはエリアの端から順にじっくり見て回ろ。みんな、2時半にロッジに集合やで。ほな解散!」


「上まで一本で行けるネ。楽でいいけど……」
 またリフトを利用するにはロッジまで滑り降りてこなくてはならなかった。
 ちょっと不便ネ、と言って、リサは四人掛けのシートに尻を落とした。
「山頂のパトロールハウスで滑り止めシールを借りようぜ。歩いて登った方がロッジまで戻るより早そうだし」
「そうネ。ところで、さっきから何を見ているノ? 危ないわヨ」
 一悟はクワッドリフトの端から身を乗り出すようにして、コースの外れ、木々の間に目を凝らしていた。もしかしたら古妖を閉じ込めているガラス瓶が見つかるかもと思ったのだ。
 だが、高速で動くリフトの上から探したところで簡単に見つかるものではない。
 リフトを降りると、二人はパトロールハウスに顔をだした。下のロッジから連絡が入っていたらしく、パトロール隊員は二人に協力を惜しまなかった。ほかの隊員たちも見回りをしながら古妖たちを探してくれているという。覚者に対する差別的なものは感じられなかった。
「こんなふうにいつも一般の人たちと協力し合えたらいいのにな」
 借り受けた滑り止めシールをポーチにしまい込みながら、一悟がつぶやいた。
「ここの人たちは『雪の恋人』たちが本当に好きなのネ。古妖を助けたい気持ちから、ワタシたちに協力してくれているノヨ」
 リサは板のバインディングを軽く蹴って、ブーツの底についた雪を落とした。隣でゴーグルを顔に降ろしながら、一悟もスキー板を履く。
「最初はエリア全体をかるく流して雪崩の範囲を調べる、でよかったよな」
「ええ。チョコを炙るのは最後の手段にしまショウ。熊が出るらしいカラ、あまり匂いをだしたくないワ」
 二人は同時にポールを雪に突き刺すと、勢いをつけて斜面を滑りだした。

 両慈はブーツにスキー板をはめて足を前後させた。ポールを突いて体を前に進ませ、奏空の横に並ぶ。その隣に幼い女の子を連れた男性が並んだ。
「ところで、工藤は滑れるのか?」
「よくスキー好きの叔父さんに連れられて滑ってたから得意だよ!」
「そうか。それは頼もしいな」
 両慈はスキーの腕前を「まずまず」と申告していた。経験はあまり多く無いが、普通に滑っていて転倒した事が無い、というのがその根拠だ。ただ、コースを外れて滑ったことがないので、若干不安を感じている。
「スピードやテクニックを競っているわけじゃないし、むちゃな滑り方をしなければ大丈夫ですよ」
「そうだな」
 いいながら両慈は搬器に腰を下ろした。
 センターリフトで山の中腹まで上がったふたりは、印のついているところで立ちあがり、そのままゆっくりと板を滑らせて横へ移動した。
 ゲレンデの入口から全体を見下すと、気持ちが引き締まった。なかなかの急斜面を、リフトでいっしょだった親子ずれが颯爽と滑り降りていく。
「俺たちはあっち、あのロープの向こうが探索エリアだよ」
 両慈は奏空の指さす方へ顔を向けた。
 雪に覆われた斜面に一定間隔でブナの木が生えていた。どの木も同じように見える。空に太陽があるうちはいいが、曇りだしたらすぐに方角を見失いそうだ。
「そうなったらライライさんが木の上に出て、リフトを見つけてくれますよ」
 コース外を示すロープを持ち上げてくぐる。
「少し奥に入ったら、コンロでチョコをあぶろう」 
 これと言って有効な手段がない以上、両慈は最初から匂いで『雪の恋人たち』とコンタクトをとるつもりでいた。匂いにつられて熊や野犬が出て来たなら、その時はその時だ。冬山の天気は変わりやすい。なによりも時間が優先される。
「はい。あ、送受信を活性化しているけど、あまり俺から離れないようにしてくださいね」
 二人は圧雪されていない木々の間を突かず離れずの距離を保って滑走しつつ、不自然な雪の膨らみや、光るものがないかを探し始めた。

<「捕えた! あっち、光ってる。分かる?」>
 驚きのあまりにハンドルを握る手が跳ねた。すぐにハンドルを握り返す。
 スノーモービルで走り出してすぐに、雪上を疾走する爽快感に心捕らわれて送受信を活性化していたことをコロッと忘れていたのだ。
 研吾はスノーモービルのコントロールを取り戻すとスピードを落とした。
 車体が少し沈んで、追いついた日那乃がシートの後ろに降りたことが分かった。肩に小さな手が置かれ、視界の端にまっすぐ前を刺す指が現れた。
「あの川の傍にある木、行ってみて」
 雪の間に僅かに覗き見える川の表面を、冷やされた空気が白くなって流れていた。そのすぐそばに日那乃が指さした木がある。
 スノーモービルを止めて降りた。
 近づいてみると、たしかに幹の山頂側のほうが雪で盛り上がっている。少し前にこの辺りを流し走っていた時には全く気づかなかった。日那乃が感情探査を活性化していなければ、また見落としていただろう。
 グローブをはめた手で雪をかきわけると、憤怒者の持ち物と思われるデジタルカメラとともにガラス瓶が出てきた。ピンの底にリスのような、雪の結晶を模した翼をもつ古妖が体を丸めて横たわっている。
 研吾は慌てて口金を外すと、瓶を傾けて古妖を手の上に滑り落とした。
「あかん。メッチャ弱っとる。ランクが上がって暴れ出す前に死んでしまうんやないか、これ? 日那乃ちゃん、すぐにチョコを温めてくれ」
 言われるまでもなく、日那乃は携帯コンロに火をつけて鍋にチョコレートを割り入れていた。
「さあ、食べて」
 スプーンで柔らかく溶けだしたチョコレートをすくって、古妖の口元に運んでやる。
 古妖は長いヒゲをヒクヒクと揺らすと、うっすらと口を開けた。最初の一口を日那乃に流し入れてもらうと、むくりと研吾の手の上で起き上がって両手でスプーンを掴み、ガリガリと音をたてて食べ始めた。
「あほやな、スプーンごと食べたら腹壊すで……って、古妖は大丈夫か」
「大丈夫、みたいね。すごく歯が丈夫。もう、柄だけになったよ」
 古妖は研吾の手から飛び降りると、日那乃の膝の上に駆けあがった。後ろ脚で立ちあがり、鼻をしきりに動かして、もっと頂戴とおねだりする。
「全部はダメ。まだ他の仲間が見つかっていない、から」
 こちらの話すことは理解できているらしく、『雪の恋人たち』は日那乃からチョコを受け取ると、それ以上を求めることはなかった。
 カリカリと古妖の歯がチョコを削る音がしばらく続いた。
 研吾は横で憤怒者のデジタルカメラに残された写真を調べていた。どれも似たような夜の雪景色ばかりだったが、最後から二枚目、かろうじて瓶を手にした憤怒者たち後ろに、山の稜線が見て取れる写真があった。憤怒者たちはこの直後、雪崩に巻き込まれたに違いない。
「これ、あの峰やと思うけど、日那乃ちゃんはどう思う」
 画像を出したまま、液晶画面を山の西の稜線へ向けて日那乃に見せてみた。
「似てる……けど、少し形が違う」
「せやな。でも、ここよりも上から見たらぴったりなところがあるんとちゃうやろか?」
 写真が撮られた場所が特定できれば、捜索範囲はグッと狭まるだろう。
「最後の写真、何かに怯えているみたい」
「雪崩の音でも聞いたんやろう。そろそろ時間やし、いったんロッジに戻ろうか」
 日那乃は『雪の恋人たち』を自分の肩に登らせると、ロッジまで研吾の後ろに座って戻った。

●ロッジにて
「お~、じいちゃん、日那乃。お帰り」
 一悟が窓際のテーブルから手を上げて二人を出迎えた。
 先にリサと戻ってきていたようだ。テーブルの上には印がついた地図が広げられている。
「あら、スゴイ。一体、見つけたのね。ワタシたちは空振りヨ。古妖さんと一緒に、売店で暖かい飲み物を貰ってくるといいワ」
 飲み物は無料だった。そのうえ『雪の恋人たち』の姿を見たおばさんが、手に持ちきれないほどのチョコレートやクッキーを持たせてくれた。
 礼をいってテーブルに戻ると、ちょうどこちらへ向かって来る奏空と両慈の姿がガラス窓の向こうに見えた。
「ほな、見つかったんは一体だけか」
「しかし、これまでの調査で探索範囲がかなり絞られる。日が落ちる前には全部見つけられるだろう」
 両慈は外したグローブをテーブルの上に揃えて置いた。
 一悟とリサは雪崩の起点から雪滑りを起こした範囲を割りだしていた。テーブルに広げられた地図上には、雪が流れた範囲が赤ペンで書き込まれている。
 研吾はデジタルカメラを取りだすと、みんなに件の写真を見せた。
「ワタシたちのエリアからでは、この形にあう山は見なかったワ。この角度だったら、たぶん、山のラインが映ることはないはずヨ」
 ね、とリサは隣に座った一悟に同意を求めた。
「ああ、オレもリサさんと同意見だ」
 奏空が写真をよく見ようと、デジカメを手元に引き寄せた。
「俺は……これと似たような景色をみた気がする。ねえ、天明さん。これ、チョコを溶かしていた時にみた山の形に似てない?」
「そう言われればそうだな。確かに似ている」
 奏空は自分の地図を広げると、一悟たちの地図の横に並べた。
「俺たちがチョコを溶かしていたのはこの辺りだ」
 赤ペンをポーチから取りだし、自分たちの地図を見ながら一悟たちの地図にバツ印を描き入れる。
「わたしたちがこの子を見つけたのは、たぶんこのあたり。地図、無いからはっきり分からないけど」
「大体でいいよ。ここ、だね?」
 奏空は日那乃が指さしたあたりにバツ印を描き入れると、直線で結んだ。
 一悟が立ちあがって、上から地図を見下した。
「さっきパトロール隊員に聞いたんだけどさ、憤怒者たちはココとココあたりで見つかったらしいぜ」
 憤怒者たちは二つのグループに分かれて見つかったらしい。
 グループの片方が助けられた場所が、研吾と日那乃のふたりが古妖とデジカメを見つけた場所に近かった。
 全員の情報を突きあわせると、両慈の言ったとおり、探索すべき場所がぐっと狭まった。
「上級エリアにはないわネ。ワタシたちは中級エリアのここからここ、ロッジ方面を受けもつワ。ふたりはまだ回っていない遠方を中心に探してもらえるカシラ?」
「ああ、そうしよう。いこうか、工藤」
 はい、と奏空が元気よく立ちあがる。
「俺は古妖が見つかったところから、もう一方のグループが見つかったところまで、スピードを生かしてぐるぐる回るわ。日那乃ちゃんは古妖とペアでじっくり探してくれるか」
「いいよ。チョコ、溶かしながら、この子と一緒に探すね」
 全員が揃ってロッジを出たところで、南側を担当していた捜索チームがロッジに戻ってきた。
 階段の途中ですれ違いながら、互いに手を上げるだけの簡単な挨拶を交わす。
「なんだかアッチはみんなすごく疲れているみたいネ」
 リサが後ろを振り返りながら言った。
「あ、でも、向こうは古妖が二匹いたぜ。オレたちのほうこそ、頑張らないとな」

●雪上に残る動物の足跡
 憤怒者が雪崩に巻き込まれたと思われるポイントまで戻ってきた奏空と両慈は、ふたりがつけたラインのすぐ近くに深々と沈み込んだ足跡を見つけた。コンロを設置したあたりで、足跡がぐるぐる回っている。雪に捨てた溶かしチョコが消えてなくなっていた。
「沈み込みかたからして野良犬ではなさそうだな。熊、か……」
 両慈はゴーグルを外して辺りを見回した。
 襲われれば自衛のために戦わざる負えなくなる。力を使えばあっさり撃退できるだろうが、野生動物を傷つけたくなかった。チョコを投げ与えただけで大人しく穴倉に帰ってくれればいいのだが。
「うーん、どうだろうね。チョコレートだけじゃ、お腹いっぱいにはならないと思うし」
 生憎と足跡は二人が受け持つ未探索域へ向かっていた。しかたなく、辺りに注意を払いながら足跡をたどってブナの木々の間を進む。
 しばらく行くと、コーン、コーン、という小さな音が聞こえて来た。前方の斜面に黒々とした穴が見える。その斜め下で、やせ細った熊がガラス瓶を前足で転がしていた。それも二つ。遠目にもガラス瓶の中の古妖が怯えているのが分かる。
「最悪だ」
「……脅して逃げてくれればいいが」
 奏空が召雷を落とすことになった。熊が驚いて固まっている隙に両慈が二つのガラス瓶を急いで回収し、あとはスキーでひたすら滑って逃げる作戦だ。
「できれば戻ってきたくないな。奥州さんたちが瓶を見つけてくれているといいけど……」
 逃げ切りは可能だろう。しかし、またこの辺りに戻ることになったら、怒り狂った熊との戦闘は避けられない。
「よし、準備はいいぞ」
 両慈の合図を受けて、奏空は一筋の雷光を熊の背に落とした。


 東の山の稜線から、徐々ににぎやかな冬の星座たちが顔を出し始めた。雪原すれすれの低い位置にくっきりと、オリオンの三連星が輝く。
「来年は変な奴らに捕まっちゃダメだよ? またおいで~!」
 奏空は森へ走り去っていく『雪の恋人たち』のつがいに手を振った。
 ふたりは熊からガラス瓶を取り戻して古妖を助けた。
 結局、後半の探索はその二体の発見だけに終わったのだが、一悟とリサが二体、研吾と日那乃が一体をそれぞれ見つけ出しており、四時過ぎには全員ロッジに戻ってきていた。
「やれやれ。無事任務を終えられたな。どうだ、工藤。ここはナイター営業もしているらしいし、いまから共にスキーを楽しもうではないか」
 ロングリフトで山頂まで上がった。下を見渡すと、カクテルライトに照らされたコースが夜に白く浮かび上がっていた。いま、コースを滑っているスキーヤーは誰もいない。ここから遥か下の小さなロッジまで、まるごと貸し切り状態だ。
(たまには女の居ないこうゆう時間も良い物だ……)
 両慈はゴーグルを降ろすと、雪に突き刺したポールを力強く後ろへ押し、奏空とともに斜面を滑り始めた。

「一悟、しっかり積み上げんか。モルの耳がずれとるやないか」
 研吾はロッジの近くで、一悟の手を借りて古妖モルの姿を象ったかまくらを作り上げていた。
「そういうけどさ、じいちゃん。スキーで散々山を滑ったあとの力仕事はきついぜ」
 雪の上にへたり込んだところへ、日那乃がソリに『雪の恋人たち』と、チョコフォンデュの具材となる果物を乗せて滑り下りて来た。
「いっぱい分けてもらった。パンもあるよ。マリンもチョコフォンデュ、食べる?」
 日那乃の守護使役は少しだけ困ったような顔をして、尾ビレをゆるりと振った。食べられないことはないが、チョコフォンデュは遠慮したいらしい。
「そう、残念」
 かまくらの中ではリサがコンロにかけた鍋の中でチョコレートを溶かしていた。もうひとつのコンロでは、砂糖を入れた牛乳が湧かされている。
「みんな、入ってらっしゃい。パーティーを始めましょう」
「乾杯しよか。俺とリサはスパークリングワインで。一悟と日那乃ちゃん、古妖たちはホットミルクな」
 グラスとコップが合わさせる音がかまくらの中に響いた。
 煌めく冬の星々を鎌倉の中かから見上げつつ、みんなで長いステックの先に日那乃が切ったバナナや苺、パンの欠片をさして溶けたチョコレートに浸して食べた。
「そうだ、せっかくだし、そのデジカメで記念写真撮ろうぜ」
 かまくらの前に雪を固めて台を作り、デジカメを置いてタイマーをセットした。
 せいの、で声を揃えて――

 ハッピー・バレンタイン♪

 来年はゆっくり遊びにこよう。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『雪とチョコモルのフォトフレーム』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
ここはミラーサイトです