立山ホテル隔者制圧作戦
●
立山高原ホテルは山の中腹にある約三階建てのホテルである。
高原ならではの涼しい気候ゆえに夏は避暑客、冬はスキー客で賑わっていたが……昨今の妖発生に伴い客足が減少。今では利用客ゼロの日も珍しくない。
そんなホテルを、二人組の隔者が襲った。
「さっさとレジを開けろ。殺されてえのか!?」
ホテルの受付兼ロビールームに銃声が響いた。
銃口から消炎が上り、天井に弾痕が刻まれる。
まだ熱い銃口を受付嬢へ向け、赤帽子の男が足下の客を足蹴にしながら怒鳴り散らしている所だった。
そこへコンバットナイフを持ったスキンヘッドの男がやってくる。
「全ての部屋を見てきた。客はこいつらだけだ。よく調べたから間違いない」
スキンヘッドの男はそう言うと、縄で腕を拘束した老夫婦を床に伏せさせた。
「オーナーと受付嬢、登山家一人と老いた夫婦。全部で五人だ」
老婆が慌てて逃げだそうとしたが、スキンヘッドの男は老婆の足を切りつけ、その場に蹴り倒す。
「サツを呼ばれると面倒だ。電話は切断してあるんだろうな」
「わかってるよ! ガタガタうるせえやつだなあ!」
赤帽子の男は足を踏みならし、銃を手の中でもてあそび始めた。
「イチイチ面倒くせえんだよ! 全員殺してレジぶっ壊してオサラバすりゃあいいじゃねえか!」
「殺したら金庫の番号が分からんだろうが。馬鹿め」
「ンだとぉ!?」
赤帽子は銃をスキンヘッドへ向けたが、彼の睨みにすくんですぐに銃を下ろした。
「外ォ見てくる」
部屋を出るとすぐに外だ。
駐車場はあまり広くないが、背伸びをするには困らない。
「こんな所で強盗なんて、面倒くせえったらねえや」
●
山中の宿泊施設が隔者に襲われるという事件が発生した。
金目当てによる強盗事件で、オーナーを脅して金庫を開けさせようとしているようだ。
人的被害が出ないよう、制圧作戦を行なおう。
隔者はチームで行動し、それぞれそれぞれ銃とナイフで武装している。
動き方によっては一般市民が人質に取られる可能性もあるので、身長に行動してほしい。
立山高原ホテルは山の中腹にある約三階建てのホテルである。
高原ならではの涼しい気候ゆえに夏は避暑客、冬はスキー客で賑わっていたが……昨今の妖発生に伴い客足が減少。今では利用客ゼロの日も珍しくない。
そんなホテルを、二人組の隔者が襲った。
「さっさとレジを開けろ。殺されてえのか!?」
ホテルの受付兼ロビールームに銃声が響いた。
銃口から消炎が上り、天井に弾痕が刻まれる。
まだ熱い銃口を受付嬢へ向け、赤帽子の男が足下の客を足蹴にしながら怒鳴り散らしている所だった。
そこへコンバットナイフを持ったスキンヘッドの男がやってくる。
「全ての部屋を見てきた。客はこいつらだけだ。よく調べたから間違いない」
スキンヘッドの男はそう言うと、縄で腕を拘束した老夫婦を床に伏せさせた。
「オーナーと受付嬢、登山家一人と老いた夫婦。全部で五人だ」
老婆が慌てて逃げだそうとしたが、スキンヘッドの男は老婆の足を切りつけ、その場に蹴り倒す。
「サツを呼ばれると面倒だ。電話は切断してあるんだろうな」
「わかってるよ! ガタガタうるせえやつだなあ!」
赤帽子の男は足を踏みならし、銃を手の中でもてあそび始めた。
「イチイチ面倒くせえんだよ! 全員殺してレジぶっ壊してオサラバすりゃあいいじゃねえか!」
「殺したら金庫の番号が分からんだろうが。馬鹿め」
「ンだとぉ!?」
赤帽子は銃をスキンヘッドへ向けたが、彼の睨みにすくんですぐに銃を下ろした。
「外ォ見てくる」
部屋を出るとすぐに外だ。
駐車場はあまり広くないが、背伸びをするには困らない。
「こんな所で強盗なんて、面倒くせえったらねえや」
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山中の宿泊施設が隔者に襲われるという事件が発生した。
金目当てによる強盗事件で、オーナーを脅して金庫を開けさせようとしているようだ。
人的被害が出ないよう、制圧作戦を行なおう。
隔者はチームで行動し、それぞれそれぞれ銃とナイフで武装している。
動き方によっては一般市民が人質に取られる可能性もあるので、身長に行動してほしい。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者全員のKO
2.一般市民の死者が出ないこと
3.なし
2.一般市民の死者が出ないこと
3.なし
危険な状況ではありますが、色々な難易度は低めに設定されております。
お気軽にご参加くださいませ。
●状況
ホテルのロビーに一般客と受付嬢が集められ、ドア一枚挟んだスタッフルームにオーナーが監禁されています。彼らは現在隔者に脅され、腕を拘束されている状態です。歩くことは可能ですが、老婆だけが足を怪我して歩けません。
ロビーには窓が多くあり、建物周辺は非常に開けているため遠くからでも接近がわかります。
隔者は二名。うち一名は外とロビーを頻繁に出入りしており、もう一名はスタッフルームでオーナーを脅しています。
●隔者
・赤帽子
火×暦。現在のファイヴ覚者と同程度の練度。
ナイフと銃を装備。遠距離戦闘が得意。
短期で短絡的。落ち着きが無く常にうろうろしている。
・スキンヘッド
火×暦。現在のファイヴ覚者と同程度の練度。
ナイフと銃を装備。近距離戦闘が得意。
慎重だが残虐。暴力に対して躊躇がなく、オーナーを人質にとる可能性大。
・スキンヘッドの部下
部下は全部で4人います。
金目の物が無いかホテルの二階~三階をうろついています。
戦闘や外敵を察知し次第下りてきます。基本的には戦闘開始から1ターン前後で駆けつけるものと考えてください。
●作戦プランについて
話し合ってメンバーにとって最適なプランを探ってください。
基本的には『全員で正面から突入する強固な力押し』『正面の戦闘と裏口からの侵入による二班体制』から選ぶことになります。
今は使えるスキルも少ないのでシンプルに考えていいでしょう。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2015年09月02日
2015年09月02日
■メイン参加者 9人■

●
丘の斜面に身体を寝かせるようにして、春野 桜(CL2000257)は遠くの様子をうかがっていた。
「外部からかなり切り離されてるし、強盗するにはいい場所なのかもね」
身体は可能な限り茂みに隠し、高い位置から見下ろされても一目では分からないようにはしている。とはいえ探そうと思えば探せる程度の隠蔽率だ。九人前後の人間が隠れるスペースはない。
移動に使った自動車はかなり下の方に停車し、ここまでは徒歩でやってきた。そのくらいにはこのホテル周辺には何も無かった。目立った遮蔽物もない。たとえばかの有名な立てこもりポイントの浅間山荘でも、周辺に建物がごろごろあったものだが、ここにはそういったものが一切なかった。さぞかし夜空もよく見えよう。
そういう意図があってかは分からないが、十一 零(CL2000001)は物言わず、じっと空を見上げていた。
双眼鏡を下ろす不死川 苦役(CL2000720)。
「気づかれずに近づくのは無理そうだなーこれ。誰か透明人間になれる人いる? もしくは光より早く動ける人」
「社会から透明になるテクなら……あっうそうそ、ちょっと涙出てくるからやめよこの話題」
椎野 天(CL2000864)は目をこすって言った。サングラスをかけ直して頬をかく。
「しかし、婆さん怪我させてるんだって? 敬老精神がないなあ」
「ね。こういうことされると、私たちまでそーゆー目で見られちゃうじゃない」
茂みから顔を出す『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
同じく顔を出した華神 悠乃(CL2000231)が、深くため息をついた。
「銃社会の皮肉じゃないけどさ、馬鹿なことを分かってやってる人、多すぎない? 世の中変えないとなのかな」
「だよな。金が欲しけりゃでっかく銀行強盗でもすりゃあいいのによ。くだらねえ」
既に刀に手をかけた『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)に悠乃は手を振った。
「そういうことじゃなくて」
「そういうことだろうが。小せえんだよ、やることが」
「大小なんて関係ないよ。悪いことは悪いこと」
大島 天十里(CL2000303)は頷いて、駆け出す構えをとった。
「悪いことしたら天罰が下るんだよ。当たり前でしょ」
「関係ない人を血に染めたら、自分も血に染まる覚悟をしなきゃね」
『裏切者』鳴神 零(CL2000669)はむくりと身体を起こして、駆け出す構えをとる。
零(十一零と区別するために以降レイと表記する)は指先を立てて、ホテルの入り口をさした。
赤帽子の男が外に出てきたのだ。
「いい? いちにのさん、だからね。いちにの――」
●
ほぼ同時刻。
赤帽子の隔者はあくびをかみ殺しながらホテルの外に出ていた。
「ったく、なんだってアイツは口うるせえんだよ。こんなもん、ぶっ殺してぶっ壊してかっぱらってオシマイじゃねえか。面倒くせえ」
ぐっと背伸びをする。
周りの景色でもみて気分を変えよう。そう思った矢先、視界の端からなにやら動くものをとらえた。
これがダンプカーか何かだったらすぐに気づいたところだが、遠近感が死ぬほど広大な高原で人が駆け寄ってくるとなると、以外とすぐには気づかないものだ。まして緊張感の欠けていた赤帽子なら尚のこと。
数多とレイが同時に刀を抜いて急接近するまでにできたことと言えば、『来たぞ』と叫んで狙いの散漫な銃撃を放つ程度である。
銃弾は明後日の方向に飛び、身を低くした数多が横一文字に斬撃を放つ。
真っ赤に発熱した刃から逃げるように飛び退く赤帽子。
「こんなド田舎で強盗とか、あんたもしかして警察恐いの?」
「なっ!? ンだとテメェ! 恐いモンなんかねえよ! ぶっ殺してやる!」
そう言いながらも慌てて抜いたナイフはしかし、レイの放った斬撃を止めるのに精一杯だ。
「遊ぼう? イイことしよ? お名前なあに?」
「う、うるせえ!」
明らかに動揺した様子で二人と押し合いになる赤帽子。
その隙に、桜や天十里たちは素早く横を抜け、正面玄関から屋内へ入っていった。
急にシステム面の話をしてしまって申し訳ないが、今赤帽子のガードを抜けたのは二人との押し合いになって対応できていないからであって、ブロック効果のたぐいではない。当システムにおけるブロックは前衛が中後衛に近接攻撃をさせないことのみをさし、相手のホールドや進行妨害への応用は利かないものとしている。そのうち明文化されるであろう豆知識である。
「じゃ、そっちはヨロシク」
手をグーパーさせて屋内へ駆け込む天。
赤帽子は必死の形相で叫んだ。
「お前ら! 屋内に入り込まれたぞ! ぶっ殺せ!」
先頭をきってロビーに押し入った桜と天十里は周辺状況を確認。
カウンターのそばに受付嬢と登山客、そして老夫婦の四人が固めて拘束されている。こちらに驚いているようだが、外の様子が見えなかったせいで見知らぬ老若男女が武装して飛び込んできた程度のことしか認識できていないようだ。駆け寄って調べてみると、個別に結束バンドで拘束した上で更に四人を背中合わせに固定している。簡単に移動できないようにするためだ。
桜はその結束バンドを順番にナイフで切断してやった。
できれば時間をかけて警戒を解いて、流れるように安全地帯へ運びたいところだが、あいにく時間はない。
赤帽子が叫んだことで、すぐにでも部下の連中が下りてくるからだ。
天は登山客の背中を叩くと、ロビーの隅を指さした。
「婆さんは怪我してっから、アンタが担いで逃げるんだ。できるか?」
「で、でも俺……」
状況が飲み込めていない彼に、天は親指を立ててみせる。
「アンタにしかできねーんだぜ」
再び背中を叩かれ、男は意を決して老婆の手をとった。
その一方で、悠乃は老婆の足を治療していた。
五行能力による回復術は非覚者の外傷にも有効である。病気や精神ショックにまで有効ではないので相応のケアと病院による適切な処置が必要になるが、歩けない人間を歩かせる程度のことは可能だ。ショックでめまいを起こしているようだが、登山客の手を借りれば充分移動ができるだろう。
「な、なにがどうなっているんですか。あなたは?」
「説明とかは……聞く暇あったら逃げてほしいよ?」
この回答が今現在説明できる最大の返答である。
彼らは部屋の隅。ソファーの裏に隠れるようにして逃げ込んだ。
ドタドタと階段から駆け下りてくる音がする。
階段を塞ぐような位置で二本のチェーンをじゃらりと垂らす天十里。
「準備はいーぞー」
「できるだけ殺さないようにしてあげないとね。うふふ」
桜はナイフを逆手に持つと、目からあふれんばかりの殺意をたぎらせた。
部下たちの姿が見えたその途端、天十里は地面を踏み込んだ。
階段が隆起し、襲いかかる。
●
肝心な見張り役であるところの赤帽子が油断していたことと、数多たちが電撃的な突入をしかけたこと。
この二つによって、赤帽子とその部下たちはあることを見落とした。
それが、裏口に回った刀嗣と苦役たちの存在である。
二人はスタッフルームの窓に映らないよう慎重に壁伝いに動き、裏口のドアに密着した。
ドアノブに触れる苦役。それだけでガチャンと鍵が外れた。
「ほい青信号っと」
「『ピッキングマン』使ったのか。こんなもんぶっ壊せば一発だろ」
「目立っちゃうでしょ。目立つのは人質救出のタイミングだけにしとこうよ」
「救出ね……」
裏口はスタッフルームのすぐ脇にわる厨房につながっている。いわゆる勝手口というやつで、入ってみたところひとけはない。
ロビーでは既に戦闘が始まっているようで、二人はカウンターの影に隠れながら様子をうかがった。
部下たちと天十里たちが戦闘に入っている。ここに加勢するつもりでは、ない。
「ハゲがいねえ。スタッフルームに引きこもりやがった」
「まあ人質いるしね。金庫開けさせて中身持って逃げるか、最悪人質連れて逃げればいいだけだし」
「雑魚は見捨てるってか」
皮肉げに顔を歪ませる刀嗣。
対する苦役は肩をすくめた。
「あくまで予想予想。でもそーなるとオーナーのおっさん、足の一本くらいはへし折れられてっかも。やばい?」
「いや……」
皮肉げな顔をそのままに、刀嗣は明後日の方向を見やった。
「今頃ヤツが押さえてる頃だろ」
さて。
赤帽子が見落とした人間を刀嗣と苦役『たち』と曖昧に表現したことに気づいただろうか。
この曖昧にぼやけた部分にそっと這入り込んでいるのが、他ならぬ零(十一零)である。
彼女の足取りを追うべく、スタッフルームの様子をご覧頂こう。
「サツが来たか? いや、警告がないってことは『正義の一般市民』ってところか」
銃口をオーナーに向けるスキンヘッドの隔者。
オーナーは短い悲鳴をあげたが、その手は金庫のダイヤルにあった。
手は止まっている。
今暫く我慢すれば金庫を開ける前に助かるのではという希望があるからだ。
そんな希望をめざとく察したスキンヘッドは、オーナーの足に狙いを定めて銃のトリガーを引いた。
オーナーは足を打ち抜かれ悲鳴をあげて命乞いをしながら金庫を開ける――とは、ならない。
なぜなばらば。
「助けに来たよ」
スキンヘッドのすぐ背後まで忍び寄っていた零が銃弾を素手でキャッチし、その拳でもって殴りかかったからである。
「恐いだろうけど、いいっていうまで端っこにいてね」
オーナーに目配せする零。オーナーは這いずるように部屋の隅へと逃げた。
拳を受けたスキンヘッドは慎重に零と距離をとると、戦闘の構えをとる。
「窓もドアも開いてない。壁を抜けてきたな……足音もさせずに、たいしたものだ。お前がリーダーか? チームに覚者は何人いる?」
零はスキンヘッドと全く同じ構えをとって、言った。
「うるさいばか」
その途端、厨房とつながるドアが盛大に蹴破られた。
屋外、ロビー、スタッフルーム。それぞれの戦闘状況が固まった。
赤帽子VS数多、レイ
部下四人組VS桜、天、悠乃、天十里
スキンヘッドVS刀嗣、苦役、零
分断作戦。
どこか一つが敗北すれば、状況は大きく悪化する。
●
「くそっ、くそ!」
赤帽子は必死だった。
千人に一人といわれる五行能力者が二人もいれば無敵だと思っていたからだ。
それが目の前に二人。
「櫻花真影流、酒々井数多」
「十天が一鳴神零」
数多とレイが同時に刀を繰り出してくる。
「殺す」
「散華なさい」
赤帽子は転がるようによけ、銃を乱射しながら走る。
建物とは逆方向に走る。中は敵だらけだと思ったからだ。
銃撃を肩に受け、いびつにのけぞる数多。
赤帽子が先日撃ち殺してやったオマワリのようにのたうち回って悲鳴をあげるかと思いきや、彼女は無表情に構え直し、そしてまっすぐに突っ込んできた。
「ヒッ!」
「ねえ、感じる?」
恐怖にのけぞる。刀が喉のそばを通過する。
「凶器を向けたり、向けられたりして、感じる?」
「こいつ、く、狂って……!」
ナイフを抜いて突きつける。大抵の人間はこれに驚いて離れていく。
だというのに。
レイは目を大きく見開いて飛びかかってきた。
「ねえもっと」
刀が赤帽子の腹を貫いた。
「もっとできるでしょ? できるでしょお? 期待してるの、きっと刺激的だって、ねえ」
刀がずぶずぶと埋まっていく。耳元まで唇を近づけて、レイと数多は誘うように言った。
「感じる?」
「いきそう?」
刀が、赤帽子のはらわたを横向きにえぐり取った。
ロビーの中を銃弾がはねる。
そのさなかを、桜は右へ左へジグザグに駆けていた。足跡でも刻むように、床とソファーに穴が空く。
桜は眼光でZ軌道を描き、手近な男のナイフを突き立てた。
素早く展開したツルが男に巻き付き、首を締め上げる。
震える手で桜の腹に銃を乱射するも、桜は小刻みに振動するだけで表情ひとつ変えなかった。
張り付いたような笑顔のまま、変えなかった。
「……ふふ」
目からあふれる殺気に恐怖する男。
そんな彼を見捨てて、拳銃を持った二人の男が飛び出す――が、カウンター気味に飛び込んだ悠乃のボディブローが炸裂。男は身体をくの字に曲げて吹き飛び、薄型テレビを破壊しながら壁にめり込んだ。
手から銃を取り落とし、血まみれの腕を振る。
「こ、ころさないで」
「お金のために人を殺すなら、人助けのために殺されてもしょうがないよね?」
歩み寄る悠乃。その後頭部めがけてバールを叩き付けようとした男がいた。
が、バールを大上段に振り上げた時点で動かなくなっていた。
ふと見れば、鎖が巻き付いている。
直後、男の足にも同じ鎖が巻き付いた。
天地がひっくり返り、後頭部を強打する。
目の前に星が散り、美少女らしき子供の靴底が胸を押しつける。
「殺しはしないけど、悪人に容赦はしないからな」
美少女。もとい大島天十里少年は、二本の鎖を大きく振り上げ、そして男へと叩き付けた。
「ふいー。命つきるとも下がらない俺。カッコ良すぎない? 日本の弁慶って俺のことじゃない?」
一方。天はソファの前に陣取って銃を構えた男と対峙していた。
「いや日本の弁慶は弁慶でしょ?」
男のうしろに悠乃が回り込む。桜や天十里も加わって、男は四方を囲まれた。
半狂乱になって銃を乱射する男。
天はオリーブ色の装甲腕をクロスしてガード。
銃弾を弾きながら、両足を地面につけたまま男に向けてダッシュした。
零距離まで入ってショルダータックル。
よろめいた所で両腕を大上段に振り上げ、鋼鉄の両腕チョップを叩き込んだ。
男は白目を剥いて、仰向けに倒れ込んだ。
「ンー、決まった。映画化決定だなコレ」
天は誰にともなく呟くと、ソファーの裏に隠れた客たちへと振り返った。
「もう大丈夫だぜアンタら、よく頑張ったな!」
と、その時。
スタッフルームから、スキンヘッドの男がゆっくりと現われた。
目を見開く天。
「アイツ……まさか!?」
時間をやや遡る。
スタッフルームの扉を蹴破った刀嗣は流れるように刀を繰り出し、スキンヘッドの首を斬りにかかった。
素早くかがんで転がり、斬撃をかわすスキンヘッド。
転がりながらも銃撃。
あとから入ってきた苦役はその場から急いで飛び退いて銃弾をかわした。
刀を構え直す刀嗣。銃の狙いをつけたまま立ち上がるスキンヘッド。
苦役はようやく刀を抜いてニタリと笑った。
「おいおい赤信号は守ってくれよ。お巡りさんにつかまってもしんねーぞ?」
「いいや守らなくていい。大人しく刃向かって少しは楽しませて死ね」
刀嗣、苦役、そして零。三人に囲まれた形になったスキンヘッドだが、動揺する様子もなければ混乱する様子もなかった。
零はオーナーが攻撃されてもいいように常に庇う体勢にはいっていたが、その必要もどうやら無いようである。
スキンヘッドが自暴自棄になって無意味な弱い者いじめを始めるでもないかぎり、この場でオーナー(一般市民)を攻撃する意味がないからだ。
短気な赤帽子あたりはそういうことをしたかもしれないが、スキンヘッドはというと。
「降参だ。警察に自首する」
銃を放り出し、両手を挙げた。
「なんだよやけに素直だなーコイツ」
刀を肩にかついで近づいていく苦役。
「じゃあとりま腕とか縛るから手ぇ出して」
「ああ。ところでお前、社会の窓が開いてるぞ」
「え、ウソ!」
下を見る苦役。
ジャケットの内側から素早くナイフを抜いて斬りかかるスキンヘッド。
だがしかし、苦役は舌を出してそれを軽やかに回避した。
「ナイフ持ってるの知ってるし――」
「それでいいんだよ、楽しませろハゲ!」
苦役の上を飛び越える形で襲いかかる刀嗣。繰り出した刀がスキンヘッドの右目を十字に切りつける。吹き出る血液と眼球内包液。
と同時に、刀嗣の右目にナイフが深々と突き刺さった。同じように吹き出る液体が空中でぶつかって散っていく。
こいつ。挑発に乗らないな。
相手を馬鹿にして喧嘩に持ち込むのが基本スタイルである刀嗣にとって、慎重で冷静な相手は相性が悪い。それに関しては飄々とした苦役も同じだ。
が、そういった相性に左右されないのが零である。
「――」
言葉にならない呼吸音と共に素早く滑り込み、スキンヘッドが繰り出したナイフを指でつまんで固定。肘に手刀を当て、強制的に折り曲げることでスキンヘッド自らの肩にナイフを突き立てた。
「ぐっ!」
痛みをこらえたその一瞬が命取りである。
刀嗣はスキンヘッドの肩を切断。苦役は親指を彼の首筋にめり込ませ、引き抜いた。
部屋の半分を血まみれにして倒れるスキンヘッド。
苦役は手を叩いて。
「はい、終了」
と言った。
後日談ならぬ、結果談。
倒されて気絶した隔者とその部下たちは、駆けつけた警察によって逮捕された。
異様な話かもしれないが、あれだけのことをされておきながら、彼らが負ったのは重傷まで。
そのまま放置すれば死ぬかもしれないが、今回はそうではない。
適切な医療処置をとった後で罪を償うことになるだろう。
どんな力を手に入れても人は人。
罪を罰するが、人の法である。
丘の斜面に身体を寝かせるようにして、春野 桜(CL2000257)は遠くの様子をうかがっていた。
「外部からかなり切り離されてるし、強盗するにはいい場所なのかもね」
身体は可能な限り茂みに隠し、高い位置から見下ろされても一目では分からないようにはしている。とはいえ探そうと思えば探せる程度の隠蔽率だ。九人前後の人間が隠れるスペースはない。
移動に使った自動車はかなり下の方に停車し、ここまでは徒歩でやってきた。そのくらいにはこのホテル周辺には何も無かった。目立った遮蔽物もない。たとえばかの有名な立てこもりポイントの浅間山荘でも、周辺に建物がごろごろあったものだが、ここにはそういったものが一切なかった。さぞかし夜空もよく見えよう。
そういう意図があってかは分からないが、十一 零(CL2000001)は物言わず、じっと空を見上げていた。
双眼鏡を下ろす不死川 苦役(CL2000720)。
「気づかれずに近づくのは無理そうだなーこれ。誰か透明人間になれる人いる? もしくは光より早く動ける人」
「社会から透明になるテクなら……あっうそうそ、ちょっと涙出てくるからやめよこの話題」
椎野 天(CL2000864)は目をこすって言った。サングラスをかけ直して頬をかく。
「しかし、婆さん怪我させてるんだって? 敬老精神がないなあ」
「ね。こういうことされると、私たちまでそーゆー目で見られちゃうじゃない」
茂みから顔を出す『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)。
同じく顔を出した華神 悠乃(CL2000231)が、深くため息をついた。
「銃社会の皮肉じゃないけどさ、馬鹿なことを分かってやってる人、多すぎない? 世の中変えないとなのかな」
「だよな。金が欲しけりゃでっかく銀行強盗でもすりゃあいいのによ。くだらねえ」
既に刀に手をかけた『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)に悠乃は手を振った。
「そういうことじゃなくて」
「そういうことだろうが。小せえんだよ、やることが」
「大小なんて関係ないよ。悪いことは悪いこと」
大島 天十里(CL2000303)は頷いて、駆け出す構えをとった。
「悪いことしたら天罰が下るんだよ。当たり前でしょ」
「関係ない人を血に染めたら、自分も血に染まる覚悟をしなきゃね」
『裏切者』鳴神 零(CL2000669)はむくりと身体を起こして、駆け出す構えをとる。
零(十一零と区別するために以降レイと表記する)は指先を立てて、ホテルの入り口をさした。
赤帽子の男が外に出てきたのだ。
「いい? いちにのさん、だからね。いちにの――」
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ほぼ同時刻。
赤帽子の隔者はあくびをかみ殺しながらホテルの外に出ていた。
「ったく、なんだってアイツは口うるせえんだよ。こんなもん、ぶっ殺してぶっ壊してかっぱらってオシマイじゃねえか。面倒くせえ」
ぐっと背伸びをする。
周りの景色でもみて気分を変えよう。そう思った矢先、視界の端からなにやら動くものをとらえた。
これがダンプカーか何かだったらすぐに気づいたところだが、遠近感が死ぬほど広大な高原で人が駆け寄ってくるとなると、以外とすぐには気づかないものだ。まして緊張感の欠けていた赤帽子なら尚のこと。
数多とレイが同時に刀を抜いて急接近するまでにできたことと言えば、『来たぞ』と叫んで狙いの散漫な銃撃を放つ程度である。
銃弾は明後日の方向に飛び、身を低くした数多が横一文字に斬撃を放つ。
真っ赤に発熱した刃から逃げるように飛び退く赤帽子。
「こんなド田舎で強盗とか、あんたもしかして警察恐いの?」
「なっ!? ンだとテメェ! 恐いモンなんかねえよ! ぶっ殺してやる!」
そう言いながらも慌てて抜いたナイフはしかし、レイの放った斬撃を止めるのに精一杯だ。
「遊ぼう? イイことしよ? お名前なあに?」
「う、うるせえ!」
明らかに動揺した様子で二人と押し合いになる赤帽子。
その隙に、桜や天十里たちは素早く横を抜け、正面玄関から屋内へ入っていった。
急にシステム面の話をしてしまって申し訳ないが、今赤帽子のガードを抜けたのは二人との押し合いになって対応できていないからであって、ブロック効果のたぐいではない。当システムにおけるブロックは前衛が中後衛に近接攻撃をさせないことのみをさし、相手のホールドや進行妨害への応用は利かないものとしている。そのうち明文化されるであろう豆知識である。
「じゃ、そっちはヨロシク」
手をグーパーさせて屋内へ駆け込む天。
赤帽子は必死の形相で叫んだ。
「お前ら! 屋内に入り込まれたぞ! ぶっ殺せ!」
先頭をきってロビーに押し入った桜と天十里は周辺状況を確認。
カウンターのそばに受付嬢と登山客、そして老夫婦の四人が固めて拘束されている。こちらに驚いているようだが、外の様子が見えなかったせいで見知らぬ老若男女が武装して飛び込んできた程度のことしか認識できていないようだ。駆け寄って調べてみると、個別に結束バンドで拘束した上で更に四人を背中合わせに固定している。簡単に移動できないようにするためだ。
桜はその結束バンドを順番にナイフで切断してやった。
できれば時間をかけて警戒を解いて、流れるように安全地帯へ運びたいところだが、あいにく時間はない。
赤帽子が叫んだことで、すぐにでも部下の連中が下りてくるからだ。
天は登山客の背中を叩くと、ロビーの隅を指さした。
「婆さんは怪我してっから、アンタが担いで逃げるんだ。できるか?」
「で、でも俺……」
状況が飲み込めていない彼に、天は親指を立ててみせる。
「アンタにしかできねーんだぜ」
再び背中を叩かれ、男は意を決して老婆の手をとった。
その一方で、悠乃は老婆の足を治療していた。
五行能力による回復術は非覚者の外傷にも有効である。病気や精神ショックにまで有効ではないので相応のケアと病院による適切な処置が必要になるが、歩けない人間を歩かせる程度のことは可能だ。ショックでめまいを起こしているようだが、登山客の手を借りれば充分移動ができるだろう。
「な、なにがどうなっているんですか。あなたは?」
「説明とかは……聞く暇あったら逃げてほしいよ?」
この回答が今現在説明できる最大の返答である。
彼らは部屋の隅。ソファーの裏に隠れるようにして逃げ込んだ。
ドタドタと階段から駆け下りてくる音がする。
階段を塞ぐような位置で二本のチェーンをじゃらりと垂らす天十里。
「準備はいーぞー」
「できるだけ殺さないようにしてあげないとね。うふふ」
桜はナイフを逆手に持つと、目からあふれんばかりの殺意をたぎらせた。
部下たちの姿が見えたその途端、天十里は地面を踏み込んだ。
階段が隆起し、襲いかかる。
●
肝心な見張り役であるところの赤帽子が油断していたことと、数多たちが電撃的な突入をしかけたこと。
この二つによって、赤帽子とその部下たちはあることを見落とした。
それが、裏口に回った刀嗣と苦役たちの存在である。
二人はスタッフルームの窓に映らないよう慎重に壁伝いに動き、裏口のドアに密着した。
ドアノブに触れる苦役。それだけでガチャンと鍵が外れた。
「ほい青信号っと」
「『ピッキングマン』使ったのか。こんなもんぶっ壊せば一発だろ」
「目立っちゃうでしょ。目立つのは人質救出のタイミングだけにしとこうよ」
「救出ね……」
裏口はスタッフルームのすぐ脇にわる厨房につながっている。いわゆる勝手口というやつで、入ってみたところひとけはない。
ロビーでは既に戦闘が始まっているようで、二人はカウンターの影に隠れながら様子をうかがった。
部下たちと天十里たちが戦闘に入っている。ここに加勢するつもりでは、ない。
「ハゲがいねえ。スタッフルームに引きこもりやがった」
「まあ人質いるしね。金庫開けさせて中身持って逃げるか、最悪人質連れて逃げればいいだけだし」
「雑魚は見捨てるってか」
皮肉げに顔を歪ませる刀嗣。
対する苦役は肩をすくめた。
「あくまで予想予想。でもそーなるとオーナーのおっさん、足の一本くらいはへし折れられてっかも。やばい?」
「いや……」
皮肉げな顔をそのままに、刀嗣は明後日の方向を見やった。
「今頃ヤツが押さえてる頃だろ」
さて。
赤帽子が見落とした人間を刀嗣と苦役『たち』と曖昧に表現したことに気づいただろうか。
この曖昧にぼやけた部分にそっと這入り込んでいるのが、他ならぬ零(十一零)である。
彼女の足取りを追うべく、スタッフルームの様子をご覧頂こう。
「サツが来たか? いや、警告がないってことは『正義の一般市民』ってところか」
銃口をオーナーに向けるスキンヘッドの隔者。
オーナーは短い悲鳴をあげたが、その手は金庫のダイヤルにあった。
手は止まっている。
今暫く我慢すれば金庫を開ける前に助かるのではという希望があるからだ。
そんな希望をめざとく察したスキンヘッドは、オーナーの足に狙いを定めて銃のトリガーを引いた。
オーナーは足を打ち抜かれ悲鳴をあげて命乞いをしながら金庫を開ける――とは、ならない。
なぜなばらば。
「助けに来たよ」
スキンヘッドのすぐ背後まで忍び寄っていた零が銃弾を素手でキャッチし、その拳でもって殴りかかったからである。
「恐いだろうけど、いいっていうまで端っこにいてね」
オーナーに目配せする零。オーナーは這いずるように部屋の隅へと逃げた。
拳を受けたスキンヘッドは慎重に零と距離をとると、戦闘の構えをとる。
「窓もドアも開いてない。壁を抜けてきたな……足音もさせずに、たいしたものだ。お前がリーダーか? チームに覚者は何人いる?」
零はスキンヘッドと全く同じ構えをとって、言った。
「うるさいばか」
その途端、厨房とつながるドアが盛大に蹴破られた。
屋外、ロビー、スタッフルーム。それぞれの戦闘状況が固まった。
赤帽子VS数多、レイ
部下四人組VS桜、天、悠乃、天十里
スキンヘッドVS刀嗣、苦役、零
分断作戦。
どこか一つが敗北すれば、状況は大きく悪化する。
●
「くそっ、くそ!」
赤帽子は必死だった。
千人に一人といわれる五行能力者が二人もいれば無敵だと思っていたからだ。
それが目の前に二人。
「櫻花真影流、酒々井数多」
「十天が一鳴神零」
数多とレイが同時に刀を繰り出してくる。
「殺す」
「散華なさい」
赤帽子は転がるようによけ、銃を乱射しながら走る。
建物とは逆方向に走る。中は敵だらけだと思ったからだ。
銃撃を肩に受け、いびつにのけぞる数多。
赤帽子が先日撃ち殺してやったオマワリのようにのたうち回って悲鳴をあげるかと思いきや、彼女は無表情に構え直し、そしてまっすぐに突っ込んできた。
「ヒッ!」
「ねえ、感じる?」
恐怖にのけぞる。刀が喉のそばを通過する。
「凶器を向けたり、向けられたりして、感じる?」
「こいつ、く、狂って……!」
ナイフを抜いて突きつける。大抵の人間はこれに驚いて離れていく。
だというのに。
レイは目を大きく見開いて飛びかかってきた。
「ねえもっと」
刀が赤帽子の腹を貫いた。
「もっとできるでしょ? できるでしょお? 期待してるの、きっと刺激的だって、ねえ」
刀がずぶずぶと埋まっていく。耳元まで唇を近づけて、レイと数多は誘うように言った。
「感じる?」
「いきそう?」
刀が、赤帽子のはらわたを横向きにえぐり取った。
ロビーの中を銃弾がはねる。
そのさなかを、桜は右へ左へジグザグに駆けていた。足跡でも刻むように、床とソファーに穴が空く。
桜は眼光でZ軌道を描き、手近な男のナイフを突き立てた。
素早く展開したツルが男に巻き付き、首を締め上げる。
震える手で桜の腹に銃を乱射するも、桜は小刻みに振動するだけで表情ひとつ変えなかった。
張り付いたような笑顔のまま、変えなかった。
「……ふふ」
目からあふれる殺気に恐怖する男。
そんな彼を見捨てて、拳銃を持った二人の男が飛び出す――が、カウンター気味に飛び込んだ悠乃のボディブローが炸裂。男は身体をくの字に曲げて吹き飛び、薄型テレビを破壊しながら壁にめり込んだ。
手から銃を取り落とし、血まみれの腕を振る。
「こ、ころさないで」
「お金のために人を殺すなら、人助けのために殺されてもしょうがないよね?」
歩み寄る悠乃。その後頭部めがけてバールを叩き付けようとした男がいた。
が、バールを大上段に振り上げた時点で動かなくなっていた。
ふと見れば、鎖が巻き付いている。
直後、男の足にも同じ鎖が巻き付いた。
天地がひっくり返り、後頭部を強打する。
目の前に星が散り、美少女らしき子供の靴底が胸を押しつける。
「殺しはしないけど、悪人に容赦はしないからな」
美少女。もとい大島天十里少年は、二本の鎖を大きく振り上げ、そして男へと叩き付けた。
「ふいー。命つきるとも下がらない俺。カッコ良すぎない? 日本の弁慶って俺のことじゃない?」
一方。天はソファの前に陣取って銃を構えた男と対峙していた。
「いや日本の弁慶は弁慶でしょ?」
男のうしろに悠乃が回り込む。桜や天十里も加わって、男は四方を囲まれた。
半狂乱になって銃を乱射する男。
天はオリーブ色の装甲腕をクロスしてガード。
銃弾を弾きながら、両足を地面につけたまま男に向けてダッシュした。
零距離まで入ってショルダータックル。
よろめいた所で両腕を大上段に振り上げ、鋼鉄の両腕チョップを叩き込んだ。
男は白目を剥いて、仰向けに倒れ込んだ。
「ンー、決まった。映画化決定だなコレ」
天は誰にともなく呟くと、ソファーの裏に隠れた客たちへと振り返った。
「もう大丈夫だぜアンタら、よく頑張ったな!」
と、その時。
スタッフルームから、スキンヘッドの男がゆっくりと現われた。
目を見開く天。
「アイツ……まさか!?」
時間をやや遡る。
スタッフルームの扉を蹴破った刀嗣は流れるように刀を繰り出し、スキンヘッドの首を斬りにかかった。
素早くかがんで転がり、斬撃をかわすスキンヘッド。
転がりながらも銃撃。
あとから入ってきた苦役はその場から急いで飛び退いて銃弾をかわした。
刀を構え直す刀嗣。銃の狙いをつけたまま立ち上がるスキンヘッド。
苦役はようやく刀を抜いてニタリと笑った。
「おいおい赤信号は守ってくれよ。お巡りさんにつかまってもしんねーぞ?」
「いいや守らなくていい。大人しく刃向かって少しは楽しませて死ね」
刀嗣、苦役、そして零。三人に囲まれた形になったスキンヘッドだが、動揺する様子もなければ混乱する様子もなかった。
零はオーナーが攻撃されてもいいように常に庇う体勢にはいっていたが、その必要もどうやら無いようである。
スキンヘッドが自暴自棄になって無意味な弱い者いじめを始めるでもないかぎり、この場でオーナー(一般市民)を攻撃する意味がないからだ。
短気な赤帽子あたりはそういうことをしたかもしれないが、スキンヘッドはというと。
「降参だ。警察に自首する」
銃を放り出し、両手を挙げた。
「なんだよやけに素直だなーコイツ」
刀を肩にかついで近づいていく苦役。
「じゃあとりま腕とか縛るから手ぇ出して」
「ああ。ところでお前、社会の窓が開いてるぞ」
「え、ウソ!」
下を見る苦役。
ジャケットの内側から素早くナイフを抜いて斬りかかるスキンヘッド。
だがしかし、苦役は舌を出してそれを軽やかに回避した。
「ナイフ持ってるの知ってるし――」
「それでいいんだよ、楽しませろハゲ!」
苦役の上を飛び越える形で襲いかかる刀嗣。繰り出した刀がスキンヘッドの右目を十字に切りつける。吹き出る血液と眼球内包液。
と同時に、刀嗣の右目にナイフが深々と突き刺さった。同じように吹き出る液体が空中でぶつかって散っていく。
こいつ。挑発に乗らないな。
相手を馬鹿にして喧嘩に持ち込むのが基本スタイルである刀嗣にとって、慎重で冷静な相手は相性が悪い。それに関しては飄々とした苦役も同じだ。
が、そういった相性に左右されないのが零である。
「――」
言葉にならない呼吸音と共に素早く滑り込み、スキンヘッドが繰り出したナイフを指でつまんで固定。肘に手刀を当て、強制的に折り曲げることでスキンヘッド自らの肩にナイフを突き立てた。
「ぐっ!」
痛みをこらえたその一瞬が命取りである。
刀嗣はスキンヘッドの肩を切断。苦役は親指を彼の首筋にめり込ませ、引き抜いた。
部屋の半分を血まみれにして倒れるスキンヘッド。
苦役は手を叩いて。
「はい、終了」
と言った。
後日談ならぬ、結果談。
倒されて気絶した隔者とその部下たちは、駆けつけた警察によって逮捕された。
異様な話かもしれないが、あれだけのことをされておきながら、彼らが負ったのは重傷まで。
そのまま放置すれば死ぬかもしれないが、今回はそうではない。
適切な医療処置をとった後で罪を償うことになるだろう。
どんな力を手に入れても人は人。
罪を罰するが、人の法である。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
