弱妖をたくさんやっつける依頼
●
立山アルペンルート・トロリーバストンネル。赤沢岳直下に掘り抜かれた約五キロのバス専用トンネルである。
真夏であっても外気温18度を記録するこの場所は前後の立山連峰と並んで山系避暑地として古くから愛されていた。
だがしかし、昨今の妖発生によってトンネルが実質的に封鎖され、現在は観光地としての能力をほぼ失ったに等しい。
妖駆除にさく予算も捻出できずにじり貧になった黒部観光協会の救世主となるのは……そう、勿論君だ!
●
「夏はあっついよねー。外を歩いてるだけでもへとへとになっちゃう。こんな時は海に山に、暑さをしのげる所に行きたくならない?」
F.i.V.E会議室でそう語ったのは、夢見の久方万里である。
クーラーのよく効いた部屋とはいえ、外では真夏の熱射がコンクリートを卵焼きでもつくるのかってくらい加熱していると思うとなかなかに気だるいもの。
「立山連峰は2~3000メートル級の山脈でね、真夏でも雪を残してるくらい涼しい場所なの。だから観光にぴったりかと思ったんだけど……妖が発生しちゃって今は封鎖している状態みたい。こういうことは、やっぱりF.i.V.Eが解決してあげなくっちゃね!」
トンネル内の妖発生ポイントは黒部側の約一キロ圏である。専用の防護扉を抜け、バス一台がようやく通れる程度のトンネルを進みながら大量に発生する妖を倒していくことになる。
妖の種別はランク1自然系岩型。『岩妖(いわのあやかし)』。
群体で一個体の妖で、一定数倒すことで群全体を消滅させることができる。
ひとつひとつは一メートル大の岩石から手足が生えたような妖が無数に存在しているようだ。
戦闘様式は肉弾戦のみで特別な攻撃手段を持たず、一体ごとの耐久力も弱いようだ。
「涼しい場所でいっぱい運動して、観光地を助けてあげようね!」
立山アルペンルート・トロリーバストンネル。赤沢岳直下に掘り抜かれた約五キロのバス専用トンネルである。
真夏であっても外気温18度を記録するこの場所は前後の立山連峰と並んで山系避暑地として古くから愛されていた。
だがしかし、昨今の妖発生によってトンネルが実質的に封鎖され、現在は観光地としての能力をほぼ失ったに等しい。
妖駆除にさく予算も捻出できずにじり貧になった黒部観光協会の救世主となるのは……そう、勿論君だ!
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「夏はあっついよねー。外を歩いてるだけでもへとへとになっちゃう。こんな時は海に山に、暑さをしのげる所に行きたくならない?」
F.i.V.E会議室でそう語ったのは、夢見の久方万里である。
クーラーのよく効いた部屋とはいえ、外では真夏の熱射がコンクリートを卵焼きでもつくるのかってくらい加熱していると思うとなかなかに気だるいもの。
「立山連峰は2~3000メートル級の山脈でね、真夏でも雪を残してるくらい涼しい場所なの。だから観光にぴったりかと思ったんだけど……妖が発生しちゃって今は封鎖している状態みたい。こういうことは、やっぱりF.i.V.Eが解決してあげなくっちゃね!」
トンネル内の妖発生ポイントは黒部側の約一キロ圏である。専用の防護扉を抜け、バス一台がようやく通れる程度のトンネルを進みながら大量に発生する妖を倒していくことになる。
妖の種別はランク1自然系岩型。『岩妖(いわのあやかし)』。
群体で一個体の妖で、一定数倒すことで群全体を消滅させることができる。
ひとつひとつは一メートル大の岩石から手足が生えたような妖が無数に存在しているようだ。
戦闘様式は肉弾戦のみで特別な攻撃手段を持たず、一体ごとの耐久力も弱いようだ。
「涼しい場所でいっぱい運動して、観光地を助けてあげようね!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖をいっぱい倒すこと
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
こちらはビギナー覚者でも安心してお楽しみ頂けるシンプルなシナリオです。
依頼の感じを掴むための練習。ロールプレイの練習。お試しプレイなどなど。お気軽にご参加くださいませ。
(※ここでは五つより上の数を『いっぱい』と数えます)
●作戦の流れについて
リプレイ描写範囲は基本的には防護扉を潜ってトンネル内に入った所から、途中の離脱扉を抜ける所までとなります。戦闘要素のみです。
『岩妖(いわのあやかし)』はいっぱいいますが、それぞれが非常に弱く、覚者によるワンショットキルが有効です。
通常、妖は隔者よりも戦闘力が高いものですが、群体化したことで一体ずつの戦闘力が何段階も落ちているようです。
体力と氣力に注意しつつ楽しく涼しく戦いましょう。
●おまけ要素
立山アルペンルートは妖発生によって観光事業を停止しています。
しかし本作戦で充分な成果を上げられた場合、観光活動を再開することができるかもしれません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2015年08月27日
2015年08月27日
■メイン参加者 9人■

●
トロリーバストンネルの車両用入り口は現在閉鎖されているが、人間が通るためのドアが別に設置されている。
水蓮寺 静護(CL2000471)たちはそこに集められていた。
眼鏡を中指で押し上げる静護。
「そういえば説明がなかったが、トンネル内に電気は通っているのか? 照明が機能していないならと思って道具を持ち寄っては来たが」
「ああ、すみませんっ。説明不足で……」
ステーションの管理をしている若い女性スタッフは小さく頭を下げた。
「トロリーバスはパンタグラフ式の電動車両なので、内部には電気が通っています。照明も足下まで照らせるタイプのものを天井両端へ等間隔に設置されています。万が一機能していなかった戻ってきてください。投光器を入れますので」
「そうか。まぁ、真っ暗闇を懐中電灯で進む罰ゲームにならなくてよかったな」
『犬小屋の野獣』藤堂 仁(CL2000921)はバンダナを締め直して言った。口調こそ軽いが、光の全くない暗室で懐中電灯を頼りにする集団戦というのは、もはや的になりに行くだけの罰ゲームである。
「光がなきゃあ超視力とか言ってる場合じゃねえしな。暗視もってこいってハナシになんぜ? ちょーやべーって、照明弾もってこいっての」
けらけら笑う名嘉 峰(CL2000013)。装備以外はほぼレジャーのテンションである。
「つーか僕ちゃんまってたんよコレ。困った人を救っちゃうやつ? 超能力つったらコレだよな、な!」
峰に背中をばしばし叩かれて、御影・きせき(CL2001110)は小さくつんのめった。
「あっ、うん! ぼくもわくわくしてるよー」
体勢を戻してはにかみ笑いをするきせき。
「あのね、頑張ればこわい妖と戦うヒーローになれるって言われたんだ。ドクターに」
「そっかそっか、がんばろーな!」
「ドクター? ふうん……」
スタッフが頑丈な鍵を外している間、手首や肩の筋を伸ばしながら待っていた春野 桜(CL2000257)は暇つぶしがてらに扉の向こう側を想像した。
一般交通に利用されているバスと同サイズの車両が通れるだけの広さに、それら全体を照らせる照明に、大量にわき出た1メートル大の妖の群れ……と。
「群体化したからこうして駆除できるけど、一個に集まっていたらと思うとゾッとするわね」
「ぞっとすると言いますか……その、本当に肌寒いですね、ここは。真夏なのに」
上靫 梨緒(CL2000327)は露わにした両肩をさすっていた。
「これだけの場所が観光できないのはもったいないですし、お店を出されている方も気の毒です。妖退治、頑張りましょうね」
「そうですね。お役に立てればいいのですが」
そんなことを言って、梓 時乃(CL2000893)は手を見つめて握ったり開いたりしていた。
顔を覗き込んでくる『Tyraan』ジア・朱汰院(CL2000340)。同じ女性とはいえ、彼女独特の迫力に時乃はつい気圧された。
「おう、どうしたよ。初めてのお仕事で緊張してんのか」
「ええと、まあ……ジア殿はその、気になりませんか?」
時乃は暗に『人間と覚者の間にある自己認識の違い』について聞いたのだが、ジアはそれを察したのか察していないのか、手のひらを翳した笑った。
「細かいこと気にすんなって。聞いた話じゃ宇宙だって今日イキナリ爆発すっかもしんねえんだから、いちいち考えてたってしょうがねえぞ。今を楽しもうぜ、な」
「……そうですね、いまは」
「そう! 楽しむ! ことこそ! 人生!」
アイススケートで一時期流行ったのけぞりに近い、どう形容していいんだか分かんないポーズをとりながら『今日も元気だド変態』明智 珠輝(CL2000634)は言った。
「観光地を邪魔するなんて野暮な妖さんですねえ、ふふ……私のモノ(魂・刀)をぶち込んであげましょう! いざ!」
ガチャンという音と共に、扉のロックが外れる。
スタッフは慎重にレバーを回し、扉に力を込めた。
「数秒間だけ開けます。その間に突入してください。いきますよ。いち、にの――」
●
さて、ここで視点を変えてみよう。
トロリーバストンネル内には大量の岩が転がっていた。
1メートル前後の球形だが、照明が一斉に点灯したことを受けてかたかたと揺れ始めた。
岩の一つから腕や足のようなものが展開し、のっそりと起き上がる。
呼応するように周囲の岩たちも立ち上がる。その数はあまりに多く数えることすらおっくうになる程だが、それらは一斉に、まるで一つの意志のもとに動いているかのように、現在封鎖中の防護扉を見た。
ガチャンという解錠の音がする。
このランクの妖が解錠のなんたるかを理解しているかどうかはあやしいが、攻撃できる対象が現われた音だとは察したようだ。
どれ様子を見てみるかとばかりに数体が扉に近づいた、その時である。
「遅い!」
勢いよく開かれた扉から静護が飛び出し、様子見に近づいてきた妖を蹴りつける。
通常攻撃程度で対応できるもろさである。静護のもつ覚者ならではの身体能力で蹴り飛ばされたならば、サッカーボールのように飛んで壁に激突し、結果真っ二つにかち割れたとて不自然ではない。
静護は流れるようなフットワークで近くの妖を踏み砕くと、足でにじった。
「徒手格闘は得意じゃないんだが」
親指と薬指で覆うように眼鏡を直す静護。
その両サイドから妖が飛びかかり、拳を繰り出そうと引き絞――った途端、静護の後ろから現われたジアの拳が妖を粉砕した。
「妖相手にサッカーしといてよく言うぜ」
すり足スウェーで静護の脇に回り込むと、反対側の妖にアッパーカット。
天井まで吹き飛んで砕け散る妖。ぱらぱらと落ちてきた砂利を、ジアはなんだか楽しそうにはたいた。
「っし、どいつもこいつもかかて来やがれ。自然循環のなんたらかんたらにしてやるぜ!」
妖たちは彼らの戦闘力を目の当たりにして不利を察したのか、一斉に回れ右をしてトンネルの奥へと書けだした。
「逃がしません! 明智、参ります!」
珠輝の放った深緑鞭が妖に叩き付けられる。転倒して真っ二つに割れた妖を飛び越えて、珠輝は鞭をぐるぐると振り回した。
「くふ」
右へ左へ叩き付け、鈍足ながらも逃げようとする妖を砕いては撥ね砕いては撥ねていく。
「くふふ、くふふふふはははははは!」
しまいには妖の足を掴んで直接壁に叩き付けた。
乱れた髪を砂だらけの手でかき上げ、振り返る。
「さあ皆さん、どうぞ続いて」
「ったく、奇妙なやつだよお前は」
せめてもの反撃にと珠輝に襲いかかった妖もいたが、その拳は彼を押しのけて前へ出た仁によって止められた。
いかな弱い妖とはいえ常人が食らえばひどい怪我をするであろう打撃、だが。仁はそれを盾ではねのけ、僅かに覗かせた隙間から突きだした剣によって貫いた。
それならばと妖が束になって殴りかかるが、どっしりとした姿勢で構えた仁の盾が歪むことはなく、ましてや押しのけられることもなかった。
防御姿勢を維持しながら周囲を見回す仁。
「広さもそれなりにあるみたいだな。これなら別に隆槍使っても問題ないかね」
「別に周囲数十メートルの地形が変動したまま戻らないと言うわけではないのですし、問題ないでしょう」
仁の後ろにつく時乃。
「前方の妖を片付けます。暫く壁になって頂けますか」
「任せといてくれ。得意分野だ」
「では」
時乃は仁の後ろから出ると、ほぼ直角な軌道で妖へ踏み込み、下段斬り。
返す刀で上段振り下ろし。更に壁際から飛びかかろうとした妖を水平に切り払い、すかさずバックスウェーで仁の後ろへと身を隠した。
ふう、と息をつく。
「岩相手なら、手応えもあまり……」
「……」
その様子を見て、静護ははたと『神具の刀で岩の妖を斬れるんだな』の事実に思い至った。事実というか、普通に常識なのだが、人間暮らしが長いとうっかりヒトの常識に引っ張られてしまうことがある。小さな翼ひとつで人体を空に飛ばすような世の中、五行は往々にして物理法則を超越するのだ。
「集中、だな」
「大丈夫ですか? 疲れたなら、一旦下がりますか?」
そう言いながら頭上を飛び越えていく梨緒。
ジャンプによってまたいだのではない。文字通り飛行して通過したのだ。
「いや、問題ない」
「ですか」
梨緒はほんのりと笑うと、術式護符をつまんだ。周囲の空気が圧縮されていく。
それが暴力として機能するほどの圧縮に至った段階で、梨緒は指先から連続で放出。護符はうねるように飛び、妖を次々に破砕していった。
少し視線を遠くに向けてみる。トンネルはキロ単位の長さがあるが、照明は端から端まで点灯している。そのせいでずっと遠くまで妖がいることがわかった。
これを全て撃破するとなるとさすがに氣力がもたない。一部の撃破だけで事足りるというのが、今回は救いだった。
「みんなすごいね。ぼくも頑張るよ!」
きせきは『やあ!』と言って刀を振り上げ、妖の群れへと飛び込んだ。
乱暴に叩き付け、粉砕。乱暴に殴りつけ、粉砕。
これをとにかく繰り返す。
「うわわ、本物の刀って重いんだね。なんだか振り回されちゃいそう」
「厳密には本物の刀じゃあないんでしょうけどね」
桜は森林キャンプに使用するようなサバイバルナイフを手に、妖をざくざくと切りつけていた。
岩らしき物体を、まるでぬいぐるみを包丁で切り裂くかのようにたやすく切断していくさまは見ていて不安にすらなるが、五行業界……とりわけ神具と妖に関しては珍しくない光景である。きせきにしたところで、日本刀の重みを自主的に感じているにすぎない。その気になれば片手でフォークやスプーンを振り回すような感覚で使えるものである。彼のふらふらとした振る舞いは、空想と妄執で塗り固めた御影きせきならではの世界感覚といったところだろうか。
「ふふふ。ヒトは世界の全てを認識できません。だから神がいて、心があるのです。神と心を通して世界に触れることで、ヒトは生きていけるのですよ。彼にとってはきっと病気こそが神であり、心なのでしょうね。あなたもまた同じ。空想と妄執によってかろうじて世界に触れていられるのでしょう。ゆめゆめ、こわすことなかれ」
ささやきが聞こえて振り返ると、そこには珠輝がいた。なんだか奇妙なポーズで鞭や刀を振り回しては妖と戯れている。
「今の、あなたが?」
問いかけてみたが、珠輝は『何がですかァフフフ!』と言ってくるくる回っていた。深く相手をするのはよそう。精神が摩耗しそうだ。
桜は気を取り直してナイフを握った。
「さて、もう半分まで来たわね。もうひとがんばりよ」
「うぇひひー! 任せといてよ僕ちゃんいま、サイッコーに仕上がってんの。最強パワーばりばりみてーな!?」
峰は古典RPGのように剣を振り上げると、雷を周囲にまき散らした。
一斉に砕け散って行く妖に、腹を抱えて笑う。
「アガっちゃってねー!? イケドンじゃねー!? こんなのー!」
峰は笑いながらトンネルを走り出し、右へ左へ剣を振り回しながら雷を乱発させた。
今の彼を止められるものなど、妖を含めてこの場にはいない。
●
後半戦、と表現してよいだろう。撤収予定地点まで半分を過ぎた段階で、トンネルの奥から一部の妖が寄ってきてはいるものの勢いが大幅に変わるということはない。
強いて気にするべき要素があるとすれば氣力の不足だが、ノーコストの通常攻撃で事足りる以上心配事には入らない。
「畳みかけます。いいですか」
「合わせる。好きにやれ」
アイコンタクトした時乃と静護は同時に頷き、妖の列へと飛び込んだ。
静護はあえて隙だらけの姿勢で正面から突撃。刀に白いオーラを纏わせると、大上段に振り上げた。
「――」
言葉はない。正面にきた妖を定規で測ったかのように美しく左右真っ二つに切断し、再び振り上げる。その単調な動きをただ繰り返すのみである。
正確かつ単調な動きというのは隙だらけのようで実は隙が無い。一定のリズムで上下するギロチン台でも想像して頂ければそれが相応しいだろう。当然、それはプレッシャーにもなりえる。
飛び込むのにためらった妖は、その片足だけを次々に切断され、転倒していった。
なぜか? 彼らの間を時乃がジグザグに駆け抜けていったからである。
時乃は刀を握る手を見つめ、そしていっそう強く握りしめた。
「代わるぞ。下がっとけ」
そんな時乃の内心をどうやら察したようで、仁が彼女の前に飛び出した。同じように前へ飛び出してくる峰。
「逃がしゃーしないぜヘイヘーイ! 僕ちゃん今すげーキてっからな! 強過ぎちゃったらマジごめんな!」
たじろぐ妖たちに、峰は勢いよく突撃。めちゃくちゃに剣を振り回す。
乱暴な動きではあるが、敵を一気に押しのけたいという意志を察した仁が黙って一緒に突撃。
まるでショベルカーのように妖たちを押しては返し、トンネルの奥側へとぐいぐい追いやっていく。
「でもってー、ずどーん!」
剣を突き上げる峰。一方仁は剣を地面に突き立てた。
妖の集まったエリアが一気にかき乱され、砕けて散って消滅する。あとに残ったのは綺麗に整ったレールと平らな地面だけだった。
だが妖はまだまだいる。奥側から妖の群が駆け寄ってくる。
「整地どうも! どんどん行くぜ!」
腰を低くして突撃するジア。
その左右を桜と珠輝が埋める。
「ぶん殴るのはアタシに任せな。射的ゲームだ、分かるか?」
「私のはこういうのだけど?」
手斧をくるりと回してみせる桜。ジアは肩をすくめると、改めて妖の中へと単身乗り込んだ。
ファイティングポーズから左へ右へパンチを繰り出し、フットワークで攻撃をかわしていく。
何発かもらいはしたが、苦しむどころかむしろ笑った。
「やべえ、楽しくなってきたぜ。こうなったらとことん殴りまくってやるぜ!」
「まったく。体力が尽きたらどうするつもりかしらね」
桜はよく狙いをつけると、手斧を勢いよく投擲。
斧は妖の正面にめり込み、壁にぶつかって止まった。
足をつっかえ、斧を引っ張り抜く桜。
「ほんとう、しょうがないんだから、ふふ」
好調なジアのことを述べているようにみえて、桜の焦点は別のところに定まっていた。別の所というよりは、もはや『別の世界』と言ったほうが正しいか。
「スキーに行きたいのよね、斉藤さん? ここはスキーがとってもさかんだそうだから、きっと冬はいい景色よ。こいつらがいたらきっと邪魔だから、お掃除しておかないと……お掃除、ふふ、ふふふふふふふふふふふふふ!」
恋人が来る前に部屋をかたさなくっちゃ。そんな調子で、桜は岩石の妖を次々に素手で捕まえ、斧で叩きつぶしていく。
「ふふ、その狂気……とても興奮しますよ、ふふ」
珠輝は垂れた前髪を指で撫でると、指の間に大きめの種を複数はさみ、投擲。
種はトゲを発し、妖たちを次々に破壊していく。
「ああ、できればもっと痛みが欲しいですねえ。生きている実感がもてる。ふふ」
そうこうしているうちに、撤収予定地点はすぐそばまで迫っていた。
きせきはようやく手慣れてきた刀をよいしょといって担ぐと、雑草でも刈り取るような動きで妖を切り払い始めた。
「えい! やー!」
たまに振り込む力が余って壁にめり込むが、ぐいぐいと引っ張ってそれを抜いた。
「わっと、ふう……みんなすごいなー。あんなに飛び回って」
「きせきさんも、無理はしないでくださいね。疲れたなら下がっても大丈夫ですよ」
丁度頭上にくる位置から、梨緒がほっこりと笑いかけた。
見上げて笑うきせき。
笑ってから、目をそらした。
「ねえ」
「はい?」
「ぼくの目、どうおもう?」
「目、ですか?」
きせきの目はずいぶんと赤く、運動のせいか少しぎらついていた。
梨緒は少し考えてからもう一度笑いかけた。
「綺麗な目だと思いますよ」
「……うんっ」
きせきも笑って、そして妖を蹴った。
「もうすぐ出口だね。行こっ」
「はい」
梨緒は撤収用の出入り口の上に陣取ると、凝縮した空気を周辺の妖へと乱射した。
妖たちは次々と倒れていくが、様子がおかしい。
それまで機敏に飛び回っていた妖たちがガタガタと軋むようになり、そして全てのあやかしが一斉に瓦解したのだった。無理に土をこねて作った人形のように、ぼろぼろと崩れて落ちたのだ。
妖が群体を維持できず、崩壊したものと思われる。
梨緒は胸をなで下ろした。
「また、皆が楽しく過ごせるようになりますように」
こうして、トロリーバストンネルの妖は退治された。
いずれまた、この場所をバスが走る日がくるだろう。
トロリーバストンネルの車両用入り口は現在閉鎖されているが、人間が通るためのドアが別に設置されている。
水蓮寺 静護(CL2000471)たちはそこに集められていた。
眼鏡を中指で押し上げる静護。
「そういえば説明がなかったが、トンネル内に電気は通っているのか? 照明が機能していないならと思って道具を持ち寄っては来たが」
「ああ、すみませんっ。説明不足で……」
ステーションの管理をしている若い女性スタッフは小さく頭を下げた。
「トロリーバスはパンタグラフ式の電動車両なので、内部には電気が通っています。照明も足下まで照らせるタイプのものを天井両端へ等間隔に設置されています。万が一機能していなかった戻ってきてください。投光器を入れますので」
「そうか。まぁ、真っ暗闇を懐中電灯で進む罰ゲームにならなくてよかったな」
『犬小屋の野獣』藤堂 仁(CL2000921)はバンダナを締め直して言った。口調こそ軽いが、光の全くない暗室で懐中電灯を頼りにする集団戦というのは、もはや的になりに行くだけの罰ゲームである。
「光がなきゃあ超視力とか言ってる場合じゃねえしな。暗視もってこいってハナシになんぜ? ちょーやべーって、照明弾もってこいっての」
けらけら笑う名嘉 峰(CL2000013)。装備以外はほぼレジャーのテンションである。
「つーか僕ちゃんまってたんよコレ。困った人を救っちゃうやつ? 超能力つったらコレだよな、な!」
峰に背中をばしばし叩かれて、御影・きせき(CL2001110)は小さくつんのめった。
「あっ、うん! ぼくもわくわくしてるよー」
体勢を戻してはにかみ笑いをするきせき。
「あのね、頑張ればこわい妖と戦うヒーローになれるって言われたんだ。ドクターに」
「そっかそっか、がんばろーな!」
「ドクター? ふうん……」
スタッフが頑丈な鍵を外している間、手首や肩の筋を伸ばしながら待っていた春野 桜(CL2000257)は暇つぶしがてらに扉の向こう側を想像した。
一般交通に利用されているバスと同サイズの車両が通れるだけの広さに、それら全体を照らせる照明に、大量にわき出た1メートル大の妖の群れ……と。
「群体化したからこうして駆除できるけど、一個に集まっていたらと思うとゾッとするわね」
「ぞっとすると言いますか……その、本当に肌寒いですね、ここは。真夏なのに」
上靫 梨緒(CL2000327)は露わにした両肩をさすっていた。
「これだけの場所が観光できないのはもったいないですし、お店を出されている方も気の毒です。妖退治、頑張りましょうね」
「そうですね。お役に立てればいいのですが」
そんなことを言って、梓 時乃(CL2000893)は手を見つめて握ったり開いたりしていた。
顔を覗き込んでくる『Tyraan』ジア・朱汰院(CL2000340)。同じ女性とはいえ、彼女独特の迫力に時乃はつい気圧された。
「おう、どうしたよ。初めてのお仕事で緊張してんのか」
「ええと、まあ……ジア殿はその、気になりませんか?」
時乃は暗に『人間と覚者の間にある自己認識の違い』について聞いたのだが、ジアはそれを察したのか察していないのか、手のひらを翳した笑った。
「細かいこと気にすんなって。聞いた話じゃ宇宙だって今日イキナリ爆発すっかもしんねえんだから、いちいち考えてたってしょうがねえぞ。今を楽しもうぜ、な」
「……そうですね、いまは」
「そう! 楽しむ! ことこそ! 人生!」
アイススケートで一時期流行ったのけぞりに近い、どう形容していいんだか分かんないポーズをとりながら『今日も元気だド変態』明智 珠輝(CL2000634)は言った。
「観光地を邪魔するなんて野暮な妖さんですねえ、ふふ……私のモノ(魂・刀)をぶち込んであげましょう! いざ!」
ガチャンという音と共に、扉のロックが外れる。
スタッフは慎重にレバーを回し、扉に力を込めた。
「数秒間だけ開けます。その間に突入してください。いきますよ。いち、にの――」
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さて、ここで視点を変えてみよう。
トロリーバストンネル内には大量の岩が転がっていた。
1メートル前後の球形だが、照明が一斉に点灯したことを受けてかたかたと揺れ始めた。
岩の一つから腕や足のようなものが展開し、のっそりと起き上がる。
呼応するように周囲の岩たちも立ち上がる。その数はあまりに多く数えることすらおっくうになる程だが、それらは一斉に、まるで一つの意志のもとに動いているかのように、現在封鎖中の防護扉を見た。
ガチャンという解錠の音がする。
このランクの妖が解錠のなんたるかを理解しているかどうかはあやしいが、攻撃できる対象が現われた音だとは察したようだ。
どれ様子を見てみるかとばかりに数体が扉に近づいた、その時である。
「遅い!」
勢いよく開かれた扉から静護が飛び出し、様子見に近づいてきた妖を蹴りつける。
通常攻撃程度で対応できるもろさである。静護のもつ覚者ならではの身体能力で蹴り飛ばされたならば、サッカーボールのように飛んで壁に激突し、結果真っ二つにかち割れたとて不自然ではない。
静護は流れるようなフットワークで近くの妖を踏み砕くと、足でにじった。
「徒手格闘は得意じゃないんだが」
親指と薬指で覆うように眼鏡を直す静護。
その両サイドから妖が飛びかかり、拳を繰り出そうと引き絞――った途端、静護の後ろから現われたジアの拳が妖を粉砕した。
「妖相手にサッカーしといてよく言うぜ」
すり足スウェーで静護の脇に回り込むと、反対側の妖にアッパーカット。
天井まで吹き飛んで砕け散る妖。ぱらぱらと落ちてきた砂利を、ジアはなんだか楽しそうにはたいた。
「っし、どいつもこいつもかかて来やがれ。自然循環のなんたらかんたらにしてやるぜ!」
妖たちは彼らの戦闘力を目の当たりにして不利を察したのか、一斉に回れ右をしてトンネルの奥へと書けだした。
「逃がしません! 明智、参ります!」
珠輝の放った深緑鞭が妖に叩き付けられる。転倒して真っ二つに割れた妖を飛び越えて、珠輝は鞭をぐるぐると振り回した。
「くふ」
右へ左へ叩き付け、鈍足ながらも逃げようとする妖を砕いては撥ね砕いては撥ねていく。
「くふふ、くふふふふはははははは!」
しまいには妖の足を掴んで直接壁に叩き付けた。
乱れた髪を砂だらけの手でかき上げ、振り返る。
「さあ皆さん、どうぞ続いて」
「ったく、奇妙なやつだよお前は」
せめてもの反撃にと珠輝に襲いかかった妖もいたが、その拳は彼を押しのけて前へ出た仁によって止められた。
いかな弱い妖とはいえ常人が食らえばひどい怪我をするであろう打撃、だが。仁はそれを盾ではねのけ、僅かに覗かせた隙間から突きだした剣によって貫いた。
それならばと妖が束になって殴りかかるが、どっしりとした姿勢で構えた仁の盾が歪むことはなく、ましてや押しのけられることもなかった。
防御姿勢を維持しながら周囲を見回す仁。
「広さもそれなりにあるみたいだな。これなら別に隆槍使っても問題ないかね」
「別に周囲数十メートルの地形が変動したまま戻らないと言うわけではないのですし、問題ないでしょう」
仁の後ろにつく時乃。
「前方の妖を片付けます。暫く壁になって頂けますか」
「任せといてくれ。得意分野だ」
「では」
時乃は仁の後ろから出ると、ほぼ直角な軌道で妖へ踏み込み、下段斬り。
返す刀で上段振り下ろし。更に壁際から飛びかかろうとした妖を水平に切り払い、すかさずバックスウェーで仁の後ろへと身を隠した。
ふう、と息をつく。
「岩相手なら、手応えもあまり……」
「……」
その様子を見て、静護ははたと『神具の刀で岩の妖を斬れるんだな』の事実に思い至った。事実というか、普通に常識なのだが、人間暮らしが長いとうっかりヒトの常識に引っ張られてしまうことがある。小さな翼ひとつで人体を空に飛ばすような世の中、五行は往々にして物理法則を超越するのだ。
「集中、だな」
「大丈夫ですか? 疲れたなら、一旦下がりますか?」
そう言いながら頭上を飛び越えていく梨緒。
ジャンプによってまたいだのではない。文字通り飛行して通過したのだ。
「いや、問題ない」
「ですか」
梨緒はほんのりと笑うと、術式護符をつまんだ。周囲の空気が圧縮されていく。
それが暴力として機能するほどの圧縮に至った段階で、梨緒は指先から連続で放出。護符はうねるように飛び、妖を次々に破砕していった。
少し視線を遠くに向けてみる。トンネルはキロ単位の長さがあるが、照明は端から端まで点灯している。そのせいでずっと遠くまで妖がいることがわかった。
これを全て撃破するとなるとさすがに氣力がもたない。一部の撃破だけで事足りるというのが、今回は救いだった。
「みんなすごいね。ぼくも頑張るよ!」
きせきは『やあ!』と言って刀を振り上げ、妖の群れへと飛び込んだ。
乱暴に叩き付け、粉砕。乱暴に殴りつけ、粉砕。
これをとにかく繰り返す。
「うわわ、本物の刀って重いんだね。なんだか振り回されちゃいそう」
「厳密には本物の刀じゃあないんでしょうけどね」
桜は森林キャンプに使用するようなサバイバルナイフを手に、妖をざくざくと切りつけていた。
岩らしき物体を、まるでぬいぐるみを包丁で切り裂くかのようにたやすく切断していくさまは見ていて不安にすらなるが、五行業界……とりわけ神具と妖に関しては珍しくない光景である。きせきにしたところで、日本刀の重みを自主的に感じているにすぎない。その気になれば片手でフォークやスプーンを振り回すような感覚で使えるものである。彼のふらふらとした振る舞いは、空想と妄執で塗り固めた御影きせきならではの世界感覚といったところだろうか。
「ふふふ。ヒトは世界の全てを認識できません。だから神がいて、心があるのです。神と心を通して世界に触れることで、ヒトは生きていけるのですよ。彼にとってはきっと病気こそが神であり、心なのでしょうね。あなたもまた同じ。空想と妄執によってかろうじて世界に触れていられるのでしょう。ゆめゆめ、こわすことなかれ」
ささやきが聞こえて振り返ると、そこには珠輝がいた。なんだか奇妙なポーズで鞭や刀を振り回しては妖と戯れている。
「今の、あなたが?」
問いかけてみたが、珠輝は『何がですかァフフフ!』と言ってくるくる回っていた。深く相手をするのはよそう。精神が摩耗しそうだ。
桜は気を取り直してナイフを握った。
「さて、もう半分まで来たわね。もうひとがんばりよ」
「うぇひひー! 任せといてよ僕ちゃんいま、サイッコーに仕上がってんの。最強パワーばりばりみてーな!?」
峰は古典RPGのように剣を振り上げると、雷を周囲にまき散らした。
一斉に砕け散って行く妖に、腹を抱えて笑う。
「アガっちゃってねー!? イケドンじゃねー!? こんなのー!」
峰は笑いながらトンネルを走り出し、右へ左へ剣を振り回しながら雷を乱発させた。
今の彼を止められるものなど、妖を含めてこの場にはいない。
●
後半戦、と表現してよいだろう。撤収予定地点まで半分を過ぎた段階で、トンネルの奥から一部の妖が寄ってきてはいるものの勢いが大幅に変わるということはない。
強いて気にするべき要素があるとすれば氣力の不足だが、ノーコストの通常攻撃で事足りる以上心配事には入らない。
「畳みかけます。いいですか」
「合わせる。好きにやれ」
アイコンタクトした時乃と静護は同時に頷き、妖の列へと飛び込んだ。
静護はあえて隙だらけの姿勢で正面から突撃。刀に白いオーラを纏わせると、大上段に振り上げた。
「――」
言葉はない。正面にきた妖を定規で測ったかのように美しく左右真っ二つに切断し、再び振り上げる。その単調な動きをただ繰り返すのみである。
正確かつ単調な動きというのは隙だらけのようで実は隙が無い。一定のリズムで上下するギロチン台でも想像して頂ければそれが相応しいだろう。当然、それはプレッシャーにもなりえる。
飛び込むのにためらった妖は、その片足だけを次々に切断され、転倒していった。
なぜか? 彼らの間を時乃がジグザグに駆け抜けていったからである。
時乃は刀を握る手を見つめ、そしていっそう強く握りしめた。
「代わるぞ。下がっとけ」
そんな時乃の内心をどうやら察したようで、仁が彼女の前に飛び出した。同じように前へ飛び出してくる峰。
「逃がしゃーしないぜヘイヘーイ! 僕ちゃん今すげーキてっからな! 強過ぎちゃったらマジごめんな!」
たじろぐ妖たちに、峰は勢いよく突撃。めちゃくちゃに剣を振り回す。
乱暴な動きではあるが、敵を一気に押しのけたいという意志を察した仁が黙って一緒に突撃。
まるでショベルカーのように妖たちを押しては返し、トンネルの奥側へとぐいぐい追いやっていく。
「でもってー、ずどーん!」
剣を突き上げる峰。一方仁は剣を地面に突き立てた。
妖の集まったエリアが一気にかき乱され、砕けて散って消滅する。あとに残ったのは綺麗に整ったレールと平らな地面だけだった。
だが妖はまだまだいる。奥側から妖の群が駆け寄ってくる。
「整地どうも! どんどん行くぜ!」
腰を低くして突撃するジア。
その左右を桜と珠輝が埋める。
「ぶん殴るのはアタシに任せな。射的ゲームだ、分かるか?」
「私のはこういうのだけど?」
手斧をくるりと回してみせる桜。ジアは肩をすくめると、改めて妖の中へと単身乗り込んだ。
ファイティングポーズから左へ右へパンチを繰り出し、フットワークで攻撃をかわしていく。
何発かもらいはしたが、苦しむどころかむしろ笑った。
「やべえ、楽しくなってきたぜ。こうなったらとことん殴りまくってやるぜ!」
「まったく。体力が尽きたらどうするつもりかしらね」
桜はよく狙いをつけると、手斧を勢いよく投擲。
斧は妖の正面にめり込み、壁にぶつかって止まった。
足をつっかえ、斧を引っ張り抜く桜。
「ほんとう、しょうがないんだから、ふふ」
好調なジアのことを述べているようにみえて、桜の焦点は別のところに定まっていた。別の所というよりは、もはや『別の世界』と言ったほうが正しいか。
「スキーに行きたいのよね、斉藤さん? ここはスキーがとってもさかんだそうだから、きっと冬はいい景色よ。こいつらがいたらきっと邪魔だから、お掃除しておかないと……お掃除、ふふ、ふふふふふふふふふふふふふ!」
恋人が来る前に部屋をかたさなくっちゃ。そんな調子で、桜は岩石の妖を次々に素手で捕まえ、斧で叩きつぶしていく。
「ふふ、その狂気……とても興奮しますよ、ふふ」
珠輝は垂れた前髪を指で撫でると、指の間に大きめの種を複数はさみ、投擲。
種はトゲを発し、妖たちを次々に破壊していく。
「ああ、できればもっと痛みが欲しいですねえ。生きている実感がもてる。ふふ」
そうこうしているうちに、撤収予定地点はすぐそばまで迫っていた。
きせきはようやく手慣れてきた刀をよいしょといって担ぐと、雑草でも刈り取るような動きで妖を切り払い始めた。
「えい! やー!」
たまに振り込む力が余って壁にめり込むが、ぐいぐいと引っ張ってそれを抜いた。
「わっと、ふう……みんなすごいなー。あんなに飛び回って」
「きせきさんも、無理はしないでくださいね。疲れたなら下がっても大丈夫ですよ」
丁度頭上にくる位置から、梨緒がほっこりと笑いかけた。
見上げて笑うきせき。
笑ってから、目をそらした。
「ねえ」
「はい?」
「ぼくの目、どうおもう?」
「目、ですか?」
きせきの目はずいぶんと赤く、運動のせいか少しぎらついていた。
梨緒は少し考えてからもう一度笑いかけた。
「綺麗な目だと思いますよ」
「……うんっ」
きせきも笑って、そして妖を蹴った。
「もうすぐ出口だね。行こっ」
「はい」
梨緒は撤収用の出入り口の上に陣取ると、凝縮した空気を周辺の妖へと乱射した。
妖たちは次々と倒れていくが、様子がおかしい。
それまで機敏に飛び回っていた妖たちがガタガタと軋むようになり、そして全てのあやかしが一斉に瓦解したのだった。無理に土をこねて作った人形のように、ぼろぼろと崩れて落ちたのだ。
妖が群体を維持できず、崩壊したものと思われる。
梨緒は胸をなで下ろした。
「また、皆が楽しく過ごせるようになりますように」
こうして、トロリーバストンネルの妖は退治された。
いずれまた、この場所をバスが走る日がくるだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
