凍てつく大地、燃える魂
●氷の女王、そして立ち向かう人々
そこは最早、人が立ち寄れる領域ではなかった。
北海道のとある道路、そこに発生した妖。
氷で作られた女の像は伝承に聞く雪女のようであった。
彼女が鎮座する道路はとある街への生命線。そしてそこに立ち向かう男たちがいた。
「全く、俺たちも幸運だな、こんな寒いところに飛ばされて美女とご対面とはな、副長? あ、タバコ要るか? 」
「冗談は無精髭だけにしましょう、隊長。あ、頂きます」
煙草を吸う二人の男、その背後には10名の男達と一台の物々しい装甲車。
「こんな時に覚者でもいてくれればいいんですがね? 」
「まあ居ないものはしょうがないだろう、副長? こうやったLAV(軽装甲アヤカシ鎮圧車)が回ってきただけ幸運だ」
「どうせなら戦車くらい欲しいですね」
「副長、貴官の心情には深く共感するものがある」
隊長と呼ばれた男はそう答えると大きく笑って、タバコを地面に落とした。
「けどな、俺達だってこいつらを倒すために居るんだ、そして覚者には子供も居る」
「…………」
「子供を守るのが大人の役目だっていうのに情けないよな」
「しかし……」
「まあ、事実だ。役立たずかもしれない、時間稼ぎかもしれない、でも……」
「心だけでも共に戦いたい……ですか? 」
「よくわかってるじゃないか」
「毎日のように聞かされてますからね。そんなわけで総員準備完了です」
「分かった。それは諸君、今日は美女と乱痴気騒ぎと行こうか」
『了解!! 』
男達の声がこだました。
●F.i.V.E、力ある者達
「結論から言うと彼らは死にます」
久方 真由美(nCL2000003)はそう告げると机に資料を並べた。
「敵は自然系、ランク3相当、単体だが強く、氷の矢や槍で攻撃するほか足元を凍結させて動きを止めていく等の攻撃を行います。彼らに立ち向かっているのはAAAの戦闘部隊12名。一応戦闘車両はありますが、他はライフル」
さらに地図を広げると一点に赤い丸を書く。
「そしてこの辺りは昔からの豪雪地帯で寒く。足元は50センチくらいあります、それと防寒に気を付けてください」
一通り説明すると、真由美は皆を見回して一呼吸置き。
「そして、介入のタイミングと戦おうとしているAAAに対しては貴方たちにお任せします」
皆を見る真由美の瞳は何かを言おうとしていたが、被りを振るようにして。
「貴方達がF.i.V.Eであるならば……いや、言う必要はありませんね。必ず帰ってきてください」
そう言葉を告げる夢見の女の顔には信頼の笑みがあった。
そこは最早、人が立ち寄れる領域ではなかった。
北海道のとある道路、そこに発生した妖。
氷で作られた女の像は伝承に聞く雪女のようであった。
彼女が鎮座する道路はとある街への生命線。そしてそこに立ち向かう男たちがいた。
「全く、俺たちも幸運だな、こんな寒いところに飛ばされて美女とご対面とはな、副長? あ、タバコ要るか? 」
「冗談は無精髭だけにしましょう、隊長。あ、頂きます」
煙草を吸う二人の男、その背後には10名の男達と一台の物々しい装甲車。
「こんな時に覚者でもいてくれればいいんですがね? 」
「まあ居ないものはしょうがないだろう、副長? こうやったLAV(軽装甲アヤカシ鎮圧車)が回ってきただけ幸運だ」
「どうせなら戦車くらい欲しいですね」
「副長、貴官の心情には深く共感するものがある」
隊長と呼ばれた男はそう答えると大きく笑って、タバコを地面に落とした。
「けどな、俺達だってこいつらを倒すために居るんだ、そして覚者には子供も居る」
「…………」
「子供を守るのが大人の役目だっていうのに情けないよな」
「しかし……」
「まあ、事実だ。役立たずかもしれない、時間稼ぎかもしれない、でも……」
「心だけでも共に戦いたい……ですか? 」
「よくわかってるじゃないか」
「毎日のように聞かされてますからね。そんなわけで総員準備完了です」
「分かった。それは諸君、今日は美女と乱痴気騒ぎと行こうか」
『了解!! 』
男達の声がこだました。
●F.i.V.E、力ある者達
「結論から言うと彼らは死にます」
久方 真由美(nCL2000003)はそう告げると机に資料を並べた。
「敵は自然系、ランク3相当、単体だが強く、氷の矢や槍で攻撃するほか足元を凍結させて動きを止めていく等の攻撃を行います。彼らに立ち向かっているのはAAAの戦闘部隊12名。一応戦闘車両はありますが、他はライフル」
さらに地図を広げると一点に赤い丸を書く。
「そしてこの辺りは昔からの豪雪地帯で寒く。足元は50センチくらいあります、それと防寒に気を付けてください」
一通り説明すると、真由美は皆を見回して一呼吸置き。
「そして、介入のタイミングと戦おうとしているAAAに対しては貴方たちにお任せします」
皆を見る真由美の瞳は何かを言おうとしていたが、被りを振るようにして。
「貴方達がF.i.V.Eであるならば……いや、言う必要はありませんね。必ず帰ってきてください」
そう言葉を告げる夢見の女の顔には信頼の笑みがあった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃退
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は季節に合わせて雪女?と戦ってもらいます。
なお、オープニングにあった通り、50センチの降雪と氷点下の気温となっておりますので「ふんどし一丁」とか記載された場合、それなりの対処をいたしますのでご注意ください。
敵データは以下の感じです
氷の女
・ランク3相当
・氷の矢:遠単、【凍傷】
・氷の槍:遠列、【凍傷】
・地面凍結:全体、【鈍化】
・氷の衣:強化
・地面に叩きつける:近単
AAA戦闘員12名
・冬季戦における訓練された戦闘員(全員一般人ですが、戦い様によってはランク1~2アヤカシ単体とやりあえます)
・ライフル装備
・冬季戦用道具(スコップ、スキーなど)
LAV(軽装甲アヤカシ鎮圧者)
・装輪装甲車
・重機関銃装備
・積雪状態でも戦闘可能なように改修済みです
・戦場に到着するタイミング、AAAに対しての扱いは皆様にお任せします。
(2016.1.14 修正)
AAA戦闘員およびLAVはランク3との戦闘に置いて戦力として行動させる事が可能です。
※AAAの戦力が期待できる事により普通難易度での依頼となります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年01月25日
2016年01月25日
■メイン参加者 8人■

●覚者と人との共同戦線
「FiVE? 失礼を承知で言わせてもらえるなら、8人居ると思うんだが? 」
「いや、そういう組織名なんだ」
副隊長の言葉に『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は至極まともに訂正した。
AAA戦闘班との接触は時間に余裕があったのも手伝い、比較的容易に成功した。LAV(軽装甲アヤカシ鎮圧車)の周りで準備をしている男達を見つけた『RISE AGAIN』美錠 紅(CL2000176)は彼らのもとに駆け寄り、F.i.V.E.所属、美錠紅と名乗った。それに対して副隊長は先ほどの応対をしたわけである。
「あれを倒すために、手を貸してもらいたい」
紅が口を開き、奏空も共闘の意を表明する。
「覚者が来るのはありがたいけど、突然来られてもなあ……隊長どうします? 」
返答に窮した副隊長が上司に支持を仰ごうと振り向く。
「お嬢さん、そんな薄着で大丈夫ですか?よかったら自分が温め……」
視線の先で『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)にコナをかける上司の足元に副隊長は無言で拳銃をぶっ放した。
「いやいや、失礼した。AAA戦闘班の塩見ですよろしく」
改めて塩見と名乗ったAAA隊長に対して輪廻は夢見での話のギャップを感じる。
(でも、AAAのあんな会話を聞いてしまったら流石に守りたくなってきちゃうわねぇ~♪これはちょっと一肌脱いであげなきゃねん♪)
けれど心に秘めたものは表に出さずに様子を見守ることにした。
「私、AAAの皆さんと協力できるのが嬉しいんです」
『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)が声を出す。
「相手はかなりの強敵ですが、手を取り合えばきっと退治できます」
共闘に対する気持ちを表明し、撃退することを表明する鈴鳴に隊長は困った顔を浮かべながら聞いていた。それに納屋 タヱ子(CL2000019)が続く。
「覚者としての力は人を守る為にあるんです。きっとそう。だから、その為にわたしが必要ならとっても嬉しいんです」
「…………」
「AAAの人たちはわたし達みたいな子供と肩を並べて戦うの、よく思われない方もいらっしゃいますけれど……」
「違うよ、お嬢ちゃん」
タヱ子の言葉を遮るように隊長は口を開き、彼女と同じ目線の高さまでしゃがみ込む。
「子供だからじゃない、君達がこれから過ごすべき青春や時間を大人と一緒に費やしてしまうことが嫌なだけなんだ。それに……大人は格好つけたがるものでね」
笑いながら立ち上がると、副隊長へ視線を向けて。
「副隊長! どうやら彼等は敵に対しての情報を持っているようだ、情報交換の上、彼らとともに行動する。30分でブリーフィングを済ませ、全隊員に通達せよ! 」
「了解! 」
副隊長が敬礼する。
ここに覚者と人との共同戦線が成立した。
●白き野は死の風が吹いて
木々一つ無い平原、大地は雪で白く染まり、風は寒さではなく最早痛みを伴うものになっている。
その中をディーゼルエンジンの排気音とともにLAVが進む、その上空では鳥系の守護使役であるチカッポとライライさんがていさつで周囲を索敵し、車の後ろから8人の覚者とLAVに乗車している2名を除いたクロスカントリースキーを履いた10名のAAA隊員が続いていた。
(一緒に戦ってくれるAAAの皆と、大事な故郷さ守る為だら、気合い入れねばなんねぇべさ)
チカッポの主である『イランカラプテ』宮沢・恵太(CL2001208)は地元だという事もあり、決意を持って雪原を歩いていた。
覚者はLAVによる除雪性能を期待していたが、雪原用に改修されているとしても雪を掻きわける程度のもの。だが、それでもハイバランサーや輪樏を持っている者には足場の不自由をどうにかできるものであった。
寒さに関しても各々が水の心や防寒装備で対応しており、何ら支障なく思えた。
(北海道…あの大戦があった舞台かぁ)
過去の大戦に思いを馳せながら奏空も進んでいく。雪原に反射する光はゴーグルで遮り、防寒着を重ねたうえ、恵太のくれたカイロが身体を温める。
「今回の雪女さんって氷人間って感じなんすかね? あれっすか? 水もって凍らせたらナイスバディも自由自在とかっすかね? 」
水端 時雨(CL2000345)が冗談交じりにAAAの隊員に話しかける。パーカー姿はこの雪原では厳しいように見えるが水の衣がそれを守ってくれる。
「……整形も自由自在だな」
隊員が何かを言おうとするところを隊長が速度を合わせて口を挟めた。副隊長にLAVの車長を任せて、どうやら隊員の様子を見回っているようだ。
「ま、なんにしても頼りにしてるぜ」
「時雨ちゃん達がきたからにはもう安心っすよ(きらっ☆)」
笑って答える時雨の内心に痛むものがある。争い事が嫌いな少女。でも自分たちが戦わないと彼らが死ぬ。それはとても悲しいことであり、そして彼らは死ぬべきじゃないのだ。
「えっと……時雨ちゃんだったけな?」
「え、はい、なんすか?」
隊員の一人が声をかけた。
「もし、俺達が死ぬかも? とか思ってたら安心してくれ。俺達はやばいと思ったら遠慮なく君たちの後ろに隠れる。というか作戦もうちの隊長と副隊長が用意している」
内心を気遣っての事だろう隊員がかけた言葉に時雨が応えようとしたとき――
「こらぁ! お前、私語は慎め。若い娘と話すのは俺の特権だ! 」
「あ、隊長ずるい! 」
「ロリコン! 」
「エロおやじ! 」
隊長が口をはさみ、部下が次々と不平の声を上げる。その間も歩みは止まらない。
「隊長、やりすぎですよ」
LAVにキューポラから身を乗り出していた副隊長が苦笑しながら、その様子を眺めていた。
「それと守衛野さんだったかな?君の提案でやっていくつもりだから、戦闘が始まったら俯瞰して様子を見てくれ」
LAVに随伴して飛行している鈴鳴に副隊長が要請し、少女はそれに頷いた。
その時だった、チカッポとライライさんが何かを告げるように主の元に戻る。その様子を見て覚者と人間は武器を持ち、LAVが前進速度を落とした。
凍てつく空気が突風となって彼らを襲う。
そして彼らが見たのは『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)が氷の矢に貫かれ倒れるところだった。
――戦場は公平だ、何も備えず何も考えずにいたものにも分け隔てなく死の風を与える。
「LAVは下がってください」
鈴鳴の言葉がワーズ・ワースにより力を持って雪原に響き渡る。
同時にAAAの隊員が2名、誠二郎を抱え、後退する。
「散開! 」
隊長の号令一下、残りの隊員も散開し、そして覚者は前に進む。
その先にいる氷像を思わせる肌を持った凍れる美女へと……。
●積雪50センチの呪い
戦いの火蓋を切ったのは紅の地烈であった。
(ランク3か…このランクは、はじめてやりあう手合いだね)
地を這うような薙ぎ払いの連撃が氷の女へと叩き込まれる。
「あんたの相手はこっちだよ!! 」
自らが敵に張り付くことでAAAの隊員への攻撃をさせない判断だ。
そこへ恵太の召雷と鈴鳴のエアブリットが続き、氷で出来たアヤカシの身に傷をつける。
その間に奏空と時雨の連覇法、タヱ子の蔵王、輪廻の醒の炎で自らの身を強化し、戦闘への準備を整えていた。
LAVは後退した後、転進。恵太と時雨の背後を大きく横切るように移動しながら、重機関銃から弾丸を発射する。
氷の女は銃弾を左手で受け止めながら、彼らの様子を眺めていた。誰が脅威となり、何が出来るのか? 誰が動きが遅く、誰が容易く倒せるのか?
全員の行動を一通り眺めそして何をするかを決めると、まずは自らの身に吹雪を纏い、さらなる氷の衣で包み、防御力を上げることを選んだ。
防御力を上げたアヤカシが即座に動く。最初のは様子見でこれが本来の動きであろう。その速さは覚者の誰よりも速かった。
最初に女が狙ったのは輪廻であった。覚者、AAA隊員含めて足場の備えをしていない内の2名。
LAVや隊員の除雪による足場の確保を期待しての行動だったのだろうか?だが、誰もそんな作戦は提案せず、そして彼女自身もハイバランサーや輪樏、スキーといった道具を用意していなかった。脚のほとんどが雪に埋まり、思ったように動きが取れない所に女の手が伸び、その外見から想像つかない膂力を持って、地面に叩きつけられ、バウンドした。
「っ……あらあら♪ レディは大事にしてほしいかしらん? 」
軽口一つ、立ち上がった輪廻が放つは飛燕での拳打二撃!
だが、やはり足元の雪が踏み出す足に絡みつき、上半身だけの動きとなってしまう。氷の女にとってそれは容易くよけられるものであった。
その間隙に割り込むように紅の地烈が雪を舞わせ、恵太の雷が降り注ぐ、蒼鋼壁を展開したタヱ子が輪廻を庇う様にシールドを構え、鈴鳴と時雨が癒しの雫で回復させるが、ダメージを完全に打ち消すにはいかない。
LAVからはギアチェンジの音が鳴り、今度はバックしながら銃弾を打ち込んでいく。その一方ではAAAの隊員も数名ライフルで牽制し、何名かはスコップを取り出している。
無駄なあがきと思ったのだろう、女が笑ったその時、霧が舞い、その力を抑え込もうとする。奏空が放った纏霧であった。
自らの力を減じられたことに眉を顰めると、女は右手を掲げる。その意に応じてか氷で出来た無数の槍が生まれ、それが前衛陣に降り注いだ。
雪煙と轟音。
タヱ子が輪廻をガードすることで戦闘不能にならずに済んだが、今度は紅が、タヱ子が傷を負うことになる。
「がんばれ、がんばれ」
時雨が励ましの声とともに癒しの雫を注ぐ。口調は軽いが冷汗が頬を伝う。紅も鈴鳴によって回復を受けていた。
前衛陣の被害は甚大であった、HPを犠牲にしての攻撃を繰り出す紅、ガードに集中するタヱ子。そして足場の制限に苦しむ輪廻。ダメージが増える要素は複数あった。輪廻の飛燕がまた空を切る中、攻撃の中心は恵太、そして獣を思わす激しい雷を落とす奏空による遠距離スキルと自然になっていく。
雷獣の力により身体に感じる痺れ、そしてセーラー服の少女の蒼鋼壁による反射のダメージに氷の女が不快感を露わにする。そこへLAVの攻撃が今度は周回しながら打ち込まれる。しかしこれは味方への流れ弾を恐れて牽制射撃に伴うものだった。
LAVに対して視線を向ける女、輪廻がその隙を逃さずに攻撃する、だが……それより先に氷の矢が彼女の胸元を貫いていた。
●劣勢そして……
「これじゃラーニングする余裕もないわん♪ 」
膝を着く和服姿の女から出る軽口はいつも通りの口調。
――命数使用。
命の炎がかろうじて意識をつなぎとめた。すぐに回復が飛び、本人も癒力活性で自分を含め前衛陣の立て直しを図る。
HPを回復した紅が再度の地烈を振るう。女はその剣を左手で打ち払うと距離を取ろうと後ろに下がる。
追撃の雷が二本そこへ降り注ぐ。ダメージは与えているがまだ戦況を覚者達へと傾けるには至らない。
そして氷の女の右手が時雨を指すと、指先から生まれた氷の矢が音もなく放たれ彼女を貫く。
命数を使う覚悟はできていた、故に意識はあり、立ち上がることが出来る。しかし、彼女もまた足場対策を施しては居なかった、深い雪が手を地面に手を着くことを阻み、行動に苦慮する。
戦旗を振るい、鈴鳴が回復をすることで、どうにか立ち上がったが、回復手の命数使用は経戦能力の減少を証明している。
紅がナイトレイダーから刀身を引き抜き、二刀流で剣を振るう。輪廻も飛燕を放ち、深想水で凍傷を打ち消したタヱ子が時雨へのカバーに回るために盾を構える。
雷撃がさらに追い打ちをかけ、重機関銃が吠え、ライフル弾が飛ぶ。そこへ再び氷の槍が前衛陣に降り注ぎ、輪廻の意識を完全に断ち、紅の命数が燃やされた。
鈴鳴に続いて時雨が回復しようとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「FiVEのみんな、待たせたな! 」
同時に10発のライフル射撃と重機関銃が氷の女に一斉に叩き込まれた。一つ一つは弱くともそれが集中した場合、威力は覚者に並ぶものとなる。
予想外の攻撃に女が見た先にあったのは、掻き分けた雪と積雪量を利用した臨時の塹壕であった。
「お嬢ちゃん入んな! 」
隊長の声に時雨が塹壕に飛び込む。しゃがみ込めば姿を隠せるほどの高さ、そしてこちらからは視界が通るように巧妙に作られた射界。そして踏み固められた足元。
防御力は無くとも回避の困難を補うに十分なものであった。すぐに恵太も続き。そこからスキルによる支援を開始する。
その様子をみて鈴鳴が驚きの表情を隠せなかった、LAVによる周囲の走行を提案したのは彼女だったが、AAAの隊員はそれを利用して短時間で防御陣を作り上げたのだ。
練度、経験、そして覚者が作ってくれた時間。それが一般人であるAAA隊員に覚者を助ける力を作り上げた。
「次は足場の確保だ! 副隊長走らせろ! 」
「了解! 」
LAVが動き出し、積雪をかき分ける。それが足場になり覚者達の不利を消していく。その間に隊員の一人がスキーで滑走し、輪廻を回収する。紅は即座に剣を振るい牽制をかけてそれを助ける、同時に雷撃と銃弾がアヤカシに降り注いだ。
女の表情が変わった。
彼女なりに考えていた作戦を放棄して、全体を攻撃することを選んだのだ。たとえ見えにくくても地面を凍らせれば、関係ない。だが……
「わたしは……守ること専門です! 」
タヱ子が居た。守ることに特化した彼女がガードすることで攻撃は彼女のみに集中し、そして氷の女の力を反射する。
「そしてわたしはタンカー役です」
足元から凍結する様子を見ながら、彼女はそう言い放つと深想水の力がその氷を吹き飛ばした。
●凍れる女の命燃え尽きるとき、粉雪は舞う
反射とガードによる攻撃の失敗に氷の女は混乱していた、自分の狙いが上手く行かない事、そして身体を蝕む状態異常にダメージが積み重なり、為すべきことを定められなくなる。
――それを逃す覚者達ではなかった。
鈴鳴がタヱ子を時雨が紅を回復させ、再び地烈の連撃が走る。そこへ追い打つように恵太の雷撃が落ち、隊員達の銃が吠える。
女は忌々し気に腕を振るうと、氷の槍を雪濠めがけて雨あられと撃ち込み隊員達を戦闘不能に追い込む。
「状況! 」
「四名戦闘不能! LAVはあと二発でオシャカです! 」
隊長の声に副隊長が車上より状況を確認して報告する。
「無理しないでくださいね! 」
奏空が声を上げ、双刀を抜いた、桃色の瞳に移るは氷の女。
(誰一人、死んで欲しくない! 死んじゃダメだ! )
強い願いは意志となりそして刃が氷で出来た肌に十文字に亀裂を作る。
意思がある故に思考する、意志がある故に混乱する、猛攻を受け、恐慌状態に陥った氷のアヤカシは一番近くにいる紅へと腕を伸ばす。だがそれを防ぐのはタヱ子。代わりに地面に叩きつけられ、蔵王は砕けるが命数を以って、その砕けた土くれの中から立ち上がる。
彼女を庇うためにAAAによる一斉射撃が続く、人数が減った分威力は落ちるが牽制の効果は十分発揮された。
そこを好機とみた恵太が弓を引き、鈴鳴がエアブリットを撃つ。弾丸と矢は亀裂をさらに大きくし、穴を穿つ。
そこに二人の覚者が舞った――紅と奏空、二剣と二刀、地烈と飛燕が繰り出す斬撃がかつて女の形をしたアヤカシを氷の塊にし、そして塊は粉雪のように崩れると風に乗って、霧散した。
●帰り道は寒く、そして温かで
「うわぁー、すごい! でも寒いですね」
帰路、LAVのキューポラから身体を乗り出し、タヱ子はそこから見える風景に声を上げた。車上へと吹き付ける風は吸水性の乏しい油紙が血と汗を吸い取ってくれないため、余計に寒く感じるのだろう。
「快適性はそんなに考慮されてませんからね、そろそろ中に入った方が良いと思いますよ」
傍らに座っていた副隊長の言葉に少女は同意して車内に入る。
帰りにLAVに乗りたい。タヱ子の願いをAAAは快く応じ、そして少女は今車上の人となっている。他にも戦闘不能になった者も乗車しているので車内は狭いがそれでも未知の乗り物を乗れるという興奮がそれを上回る。
それを横目で見ながら鈴鳴は車と同じ高さで飛行している。
「……考え事かなお嬢ちゃん? 」
スキーで併走していた隊長が声をかけてきた。
「いえ……その、綺麗事かもしれませんが皆を守れてよかったと」
「綺麗事なんかじゃないさ。実際君たちが居なかったら俺達は死んでいた。ありがとう感謝する」
謝辞とともに敬礼するAAAの男の眼差しは真剣なものでカラーガードの少女はどう答えていいのか分からなかった。
「さて、帰ったら飯にしよう、よかったら食べていくかい? 」
助け船を出すかのように、隊長は他の覚者達にも声をかける。
「そうだね、F.i.V.E.に作戦完了の連絡もしないと行けないし」
紅が答えると鈴鳴も同意する。
「そうですね、ゆっくりと温まりたいですし」
「それじゃ、決定だ。楽しみにしていろよ」
そう言って笑って進む隊長。その先には街が見えていた…………。
「FiVE? 失礼を承知で言わせてもらえるなら、8人居ると思うんだが? 」
「いや、そういう組織名なんだ」
副隊長の言葉に『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は至極まともに訂正した。
AAA戦闘班との接触は時間に余裕があったのも手伝い、比較的容易に成功した。LAV(軽装甲アヤカシ鎮圧車)の周りで準備をしている男達を見つけた『RISE AGAIN』美錠 紅(CL2000176)は彼らのもとに駆け寄り、F.i.V.E.所属、美錠紅と名乗った。それに対して副隊長は先ほどの応対をしたわけである。
「あれを倒すために、手を貸してもらいたい」
紅が口を開き、奏空も共闘の意を表明する。
「覚者が来るのはありがたいけど、突然来られてもなあ……隊長どうします? 」
返答に窮した副隊長が上司に支持を仰ごうと振り向く。
「お嬢さん、そんな薄着で大丈夫ですか?よかったら自分が温め……」
視線の先で『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)にコナをかける上司の足元に副隊長は無言で拳銃をぶっ放した。
「いやいや、失礼した。AAA戦闘班の塩見ですよろしく」
改めて塩見と名乗ったAAA隊長に対して輪廻は夢見での話のギャップを感じる。
(でも、AAAのあんな会話を聞いてしまったら流石に守りたくなってきちゃうわねぇ~♪これはちょっと一肌脱いであげなきゃねん♪)
けれど心に秘めたものは表に出さずに様子を見守ることにした。
「私、AAAの皆さんと協力できるのが嬉しいんです」
『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)が声を出す。
「相手はかなりの強敵ですが、手を取り合えばきっと退治できます」
共闘に対する気持ちを表明し、撃退することを表明する鈴鳴に隊長は困った顔を浮かべながら聞いていた。それに納屋 タヱ子(CL2000019)が続く。
「覚者としての力は人を守る為にあるんです。きっとそう。だから、その為にわたしが必要ならとっても嬉しいんです」
「…………」
「AAAの人たちはわたし達みたいな子供と肩を並べて戦うの、よく思われない方もいらっしゃいますけれど……」
「違うよ、お嬢ちゃん」
タヱ子の言葉を遮るように隊長は口を開き、彼女と同じ目線の高さまでしゃがみ込む。
「子供だからじゃない、君達がこれから過ごすべき青春や時間を大人と一緒に費やしてしまうことが嫌なだけなんだ。それに……大人は格好つけたがるものでね」
笑いながら立ち上がると、副隊長へ視線を向けて。
「副隊長! どうやら彼等は敵に対しての情報を持っているようだ、情報交換の上、彼らとともに行動する。30分でブリーフィングを済ませ、全隊員に通達せよ! 」
「了解! 」
副隊長が敬礼する。
ここに覚者と人との共同戦線が成立した。
●白き野は死の風が吹いて
木々一つ無い平原、大地は雪で白く染まり、風は寒さではなく最早痛みを伴うものになっている。
その中をディーゼルエンジンの排気音とともにLAVが進む、その上空では鳥系の守護使役であるチカッポとライライさんがていさつで周囲を索敵し、車の後ろから8人の覚者とLAVに乗車している2名を除いたクロスカントリースキーを履いた10名のAAA隊員が続いていた。
(一緒に戦ってくれるAAAの皆と、大事な故郷さ守る為だら、気合い入れねばなんねぇべさ)
チカッポの主である『イランカラプテ』宮沢・恵太(CL2001208)は地元だという事もあり、決意を持って雪原を歩いていた。
覚者はLAVによる除雪性能を期待していたが、雪原用に改修されているとしても雪を掻きわける程度のもの。だが、それでもハイバランサーや輪樏を持っている者には足場の不自由をどうにかできるものであった。
寒さに関しても各々が水の心や防寒装備で対応しており、何ら支障なく思えた。
(北海道…あの大戦があった舞台かぁ)
過去の大戦に思いを馳せながら奏空も進んでいく。雪原に反射する光はゴーグルで遮り、防寒着を重ねたうえ、恵太のくれたカイロが身体を温める。
「今回の雪女さんって氷人間って感じなんすかね? あれっすか? 水もって凍らせたらナイスバディも自由自在とかっすかね? 」
水端 時雨(CL2000345)が冗談交じりにAAAの隊員に話しかける。パーカー姿はこの雪原では厳しいように見えるが水の衣がそれを守ってくれる。
「……整形も自由自在だな」
隊員が何かを言おうとするところを隊長が速度を合わせて口を挟めた。副隊長にLAVの車長を任せて、どうやら隊員の様子を見回っているようだ。
「ま、なんにしても頼りにしてるぜ」
「時雨ちゃん達がきたからにはもう安心っすよ(きらっ☆)」
笑って答える時雨の内心に痛むものがある。争い事が嫌いな少女。でも自分たちが戦わないと彼らが死ぬ。それはとても悲しいことであり、そして彼らは死ぬべきじゃないのだ。
「えっと……時雨ちゃんだったけな?」
「え、はい、なんすか?」
隊員の一人が声をかけた。
「もし、俺達が死ぬかも? とか思ってたら安心してくれ。俺達はやばいと思ったら遠慮なく君たちの後ろに隠れる。というか作戦もうちの隊長と副隊長が用意している」
内心を気遣っての事だろう隊員がかけた言葉に時雨が応えようとしたとき――
「こらぁ! お前、私語は慎め。若い娘と話すのは俺の特権だ! 」
「あ、隊長ずるい! 」
「ロリコン! 」
「エロおやじ! 」
隊長が口をはさみ、部下が次々と不平の声を上げる。その間も歩みは止まらない。
「隊長、やりすぎですよ」
LAVにキューポラから身を乗り出していた副隊長が苦笑しながら、その様子を眺めていた。
「それと守衛野さんだったかな?君の提案でやっていくつもりだから、戦闘が始まったら俯瞰して様子を見てくれ」
LAVに随伴して飛行している鈴鳴に副隊長が要請し、少女はそれに頷いた。
その時だった、チカッポとライライさんが何かを告げるように主の元に戻る。その様子を見て覚者と人間は武器を持ち、LAVが前進速度を落とした。
凍てつく空気が突風となって彼らを襲う。
そして彼らが見たのは『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)が氷の矢に貫かれ倒れるところだった。
――戦場は公平だ、何も備えず何も考えずにいたものにも分け隔てなく死の風を与える。
「LAVは下がってください」
鈴鳴の言葉がワーズ・ワースにより力を持って雪原に響き渡る。
同時にAAAの隊員が2名、誠二郎を抱え、後退する。
「散開! 」
隊長の号令一下、残りの隊員も散開し、そして覚者は前に進む。
その先にいる氷像を思わせる肌を持った凍れる美女へと……。
●積雪50センチの呪い
戦いの火蓋を切ったのは紅の地烈であった。
(ランク3か…このランクは、はじめてやりあう手合いだね)
地を這うような薙ぎ払いの連撃が氷の女へと叩き込まれる。
「あんたの相手はこっちだよ!! 」
自らが敵に張り付くことでAAAの隊員への攻撃をさせない判断だ。
そこへ恵太の召雷と鈴鳴のエアブリットが続き、氷で出来たアヤカシの身に傷をつける。
その間に奏空と時雨の連覇法、タヱ子の蔵王、輪廻の醒の炎で自らの身を強化し、戦闘への準備を整えていた。
LAVは後退した後、転進。恵太と時雨の背後を大きく横切るように移動しながら、重機関銃から弾丸を発射する。
氷の女は銃弾を左手で受け止めながら、彼らの様子を眺めていた。誰が脅威となり、何が出来るのか? 誰が動きが遅く、誰が容易く倒せるのか?
全員の行動を一通り眺めそして何をするかを決めると、まずは自らの身に吹雪を纏い、さらなる氷の衣で包み、防御力を上げることを選んだ。
防御力を上げたアヤカシが即座に動く。最初のは様子見でこれが本来の動きであろう。その速さは覚者の誰よりも速かった。
最初に女が狙ったのは輪廻であった。覚者、AAA隊員含めて足場の備えをしていない内の2名。
LAVや隊員の除雪による足場の確保を期待しての行動だったのだろうか?だが、誰もそんな作戦は提案せず、そして彼女自身もハイバランサーや輪樏、スキーといった道具を用意していなかった。脚のほとんどが雪に埋まり、思ったように動きが取れない所に女の手が伸び、その外見から想像つかない膂力を持って、地面に叩きつけられ、バウンドした。
「っ……あらあら♪ レディは大事にしてほしいかしらん? 」
軽口一つ、立ち上がった輪廻が放つは飛燕での拳打二撃!
だが、やはり足元の雪が踏み出す足に絡みつき、上半身だけの動きとなってしまう。氷の女にとってそれは容易くよけられるものであった。
その間隙に割り込むように紅の地烈が雪を舞わせ、恵太の雷が降り注ぐ、蒼鋼壁を展開したタヱ子が輪廻を庇う様にシールドを構え、鈴鳴と時雨が癒しの雫で回復させるが、ダメージを完全に打ち消すにはいかない。
LAVからはギアチェンジの音が鳴り、今度はバックしながら銃弾を打ち込んでいく。その一方ではAAAの隊員も数名ライフルで牽制し、何名かはスコップを取り出している。
無駄なあがきと思ったのだろう、女が笑ったその時、霧が舞い、その力を抑え込もうとする。奏空が放った纏霧であった。
自らの力を減じられたことに眉を顰めると、女は右手を掲げる。その意に応じてか氷で出来た無数の槍が生まれ、それが前衛陣に降り注いだ。
雪煙と轟音。
タヱ子が輪廻をガードすることで戦闘不能にならずに済んだが、今度は紅が、タヱ子が傷を負うことになる。
「がんばれ、がんばれ」
時雨が励ましの声とともに癒しの雫を注ぐ。口調は軽いが冷汗が頬を伝う。紅も鈴鳴によって回復を受けていた。
前衛陣の被害は甚大であった、HPを犠牲にしての攻撃を繰り出す紅、ガードに集中するタヱ子。そして足場の制限に苦しむ輪廻。ダメージが増える要素は複数あった。輪廻の飛燕がまた空を切る中、攻撃の中心は恵太、そして獣を思わす激しい雷を落とす奏空による遠距離スキルと自然になっていく。
雷獣の力により身体に感じる痺れ、そしてセーラー服の少女の蒼鋼壁による反射のダメージに氷の女が不快感を露わにする。そこへLAVの攻撃が今度は周回しながら打ち込まれる。しかしこれは味方への流れ弾を恐れて牽制射撃に伴うものだった。
LAVに対して視線を向ける女、輪廻がその隙を逃さずに攻撃する、だが……それより先に氷の矢が彼女の胸元を貫いていた。
●劣勢そして……
「これじゃラーニングする余裕もないわん♪ 」
膝を着く和服姿の女から出る軽口はいつも通りの口調。
――命数使用。
命の炎がかろうじて意識をつなぎとめた。すぐに回復が飛び、本人も癒力活性で自分を含め前衛陣の立て直しを図る。
HPを回復した紅が再度の地烈を振るう。女はその剣を左手で打ち払うと距離を取ろうと後ろに下がる。
追撃の雷が二本そこへ降り注ぐ。ダメージは与えているがまだ戦況を覚者達へと傾けるには至らない。
そして氷の女の右手が時雨を指すと、指先から生まれた氷の矢が音もなく放たれ彼女を貫く。
命数を使う覚悟はできていた、故に意識はあり、立ち上がることが出来る。しかし、彼女もまた足場対策を施しては居なかった、深い雪が手を地面に手を着くことを阻み、行動に苦慮する。
戦旗を振るい、鈴鳴が回復をすることで、どうにか立ち上がったが、回復手の命数使用は経戦能力の減少を証明している。
紅がナイトレイダーから刀身を引き抜き、二刀流で剣を振るう。輪廻も飛燕を放ち、深想水で凍傷を打ち消したタヱ子が時雨へのカバーに回るために盾を構える。
雷撃がさらに追い打ちをかけ、重機関銃が吠え、ライフル弾が飛ぶ。そこへ再び氷の槍が前衛陣に降り注ぎ、輪廻の意識を完全に断ち、紅の命数が燃やされた。
鈴鳴に続いて時雨が回復しようとしたとき、後ろから声が聞こえた。
「FiVEのみんな、待たせたな! 」
同時に10発のライフル射撃と重機関銃が氷の女に一斉に叩き込まれた。一つ一つは弱くともそれが集中した場合、威力は覚者に並ぶものとなる。
予想外の攻撃に女が見た先にあったのは、掻き分けた雪と積雪量を利用した臨時の塹壕であった。
「お嬢ちゃん入んな! 」
隊長の声に時雨が塹壕に飛び込む。しゃがみ込めば姿を隠せるほどの高さ、そしてこちらからは視界が通るように巧妙に作られた射界。そして踏み固められた足元。
防御力は無くとも回避の困難を補うに十分なものであった。すぐに恵太も続き。そこからスキルによる支援を開始する。
その様子をみて鈴鳴が驚きの表情を隠せなかった、LAVによる周囲の走行を提案したのは彼女だったが、AAAの隊員はそれを利用して短時間で防御陣を作り上げたのだ。
練度、経験、そして覚者が作ってくれた時間。それが一般人であるAAA隊員に覚者を助ける力を作り上げた。
「次は足場の確保だ! 副隊長走らせろ! 」
「了解! 」
LAVが動き出し、積雪をかき分ける。それが足場になり覚者達の不利を消していく。その間に隊員の一人がスキーで滑走し、輪廻を回収する。紅は即座に剣を振るい牽制をかけてそれを助ける、同時に雷撃と銃弾がアヤカシに降り注いだ。
女の表情が変わった。
彼女なりに考えていた作戦を放棄して、全体を攻撃することを選んだのだ。たとえ見えにくくても地面を凍らせれば、関係ない。だが……
「わたしは……守ること専門です! 」
タヱ子が居た。守ることに特化した彼女がガードすることで攻撃は彼女のみに集中し、そして氷の女の力を反射する。
「そしてわたしはタンカー役です」
足元から凍結する様子を見ながら、彼女はそう言い放つと深想水の力がその氷を吹き飛ばした。
●凍れる女の命燃え尽きるとき、粉雪は舞う
反射とガードによる攻撃の失敗に氷の女は混乱していた、自分の狙いが上手く行かない事、そして身体を蝕む状態異常にダメージが積み重なり、為すべきことを定められなくなる。
――それを逃す覚者達ではなかった。
鈴鳴がタヱ子を時雨が紅を回復させ、再び地烈の連撃が走る。そこへ追い打つように恵太の雷撃が落ち、隊員達の銃が吠える。
女は忌々し気に腕を振るうと、氷の槍を雪濠めがけて雨あられと撃ち込み隊員達を戦闘不能に追い込む。
「状況! 」
「四名戦闘不能! LAVはあと二発でオシャカです! 」
隊長の声に副隊長が車上より状況を確認して報告する。
「無理しないでくださいね! 」
奏空が声を上げ、双刀を抜いた、桃色の瞳に移るは氷の女。
(誰一人、死んで欲しくない! 死んじゃダメだ! )
強い願いは意志となりそして刃が氷で出来た肌に十文字に亀裂を作る。
意思がある故に思考する、意志がある故に混乱する、猛攻を受け、恐慌状態に陥った氷のアヤカシは一番近くにいる紅へと腕を伸ばす。だがそれを防ぐのはタヱ子。代わりに地面に叩きつけられ、蔵王は砕けるが命数を以って、その砕けた土くれの中から立ち上がる。
彼女を庇うためにAAAによる一斉射撃が続く、人数が減った分威力は落ちるが牽制の効果は十分発揮された。
そこを好機とみた恵太が弓を引き、鈴鳴がエアブリットを撃つ。弾丸と矢は亀裂をさらに大きくし、穴を穿つ。
そこに二人の覚者が舞った――紅と奏空、二剣と二刀、地烈と飛燕が繰り出す斬撃がかつて女の形をしたアヤカシを氷の塊にし、そして塊は粉雪のように崩れると風に乗って、霧散した。
●帰り道は寒く、そして温かで
「うわぁー、すごい! でも寒いですね」
帰路、LAVのキューポラから身体を乗り出し、タヱ子はそこから見える風景に声を上げた。車上へと吹き付ける風は吸水性の乏しい油紙が血と汗を吸い取ってくれないため、余計に寒く感じるのだろう。
「快適性はそんなに考慮されてませんからね、そろそろ中に入った方が良いと思いますよ」
傍らに座っていた副隊長の言葉に少女は同意して車内に入る。
帰りにLAVに乗りたい。タヱ子の願いをAAAは快く応じ、そして少女は今車上の人となっている。他にも戦闘不能になった者も乗車しているので車内は狭いがそれでも未知の乗り物を乗れるという興奮がそれを上回る。
それを横目で見ながら鈴鳴は車と同じ高さで飛行している。
「……考え事かなお嬢ちゃん? 」
スキーで併走していた隊長が声をかけてきた。
「いえ……その、綺麗事かもしれませんが皆を守れてよかったと」
「綺麗事なんかじゃないさ。実際君たちが居なかったら俺達は死んでいた。ありがとう感謝する」
謝辞とともに敬礼するAAAの男の眼差しは真剣なものでカラーガードの少女はどう答えていいのか分からなかった。
「さて、帰ったら飯にしよう、よかったら食べていくかい? 」
助け船を出すかのように、隊長は他の覚者達にも声をかける。
「そうだね、F.i.V.E.に作戦完了の連絡もしないと行けないし」
紅が答えると鈴鳴も同意する。
「そうですね、ゆっくりと温まりたいですし」
「それじゃ、決定だ。楽しみにしていろよ」
そう言って笑って進む隊長。その先には街が見えていた…………。
