迫る妖、戦え覚者、此処に在り!
迫る妖、戦え覚者、此処に在り!



 1月も三が日を過ぎれば正月らしさも薄まってくる。そして、仕事に出てくれば次第に以前と同じ日常へと感覚が戻ってくるものだ。この工事現場でもそれは変わらない。
 新しい宅地を広げるため、まだ1月だというのに彼らは夜遅くまで働いていた。
「もうこんな時間かぁ」
「雪もちらついて来たし、今日はこの辺にするぞ。年末に隔者テロなんかもあったしな」
「あ、でもあれってテロを未然に防いだ連中がいたって話らしいですよ」
 就業時間も終わりに近づき、場には弛緩した空気が流れ始める。結局、彼らにとっては覚者も妖も、どこか遠く、ブラウン管の向こうで起きている事件でしかなかった。
 この瞬間までは。
「そう言えば、この辺で昔事故で沢山の人が死んだんだってさ。テロじゃなくて、幽霊とか出るかもな」
「はは、やめてくださ……い、よ……」
「どうした? 変な顔して?」
 笑い合っていた作業員たちの顔が恐怖に凍り付く。冗談と思って振り向いた作業員もすぐに同じものに変わる。
 彼らのいた作業場の奥に、突如として巨大な青く燐光を放つ雲のような塊が現れたのだ。塊の側面には人の顔のようなものが浮かび上がり、それぞれに唸り声のようなものを上げている。
 一目散に逃げ出そうとする作業員たち。
 しかし、その努力を嘲笑うかのように、妖は人々を蹂躙していくのだった。


「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
 集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。かつて覚者に命を救われ、最近五麟市へ引っ越してきた女の子だ。
 そして、人が集まったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、妖が暴れる夢を見たの。みんなの力を貸して!」
 麦の渡してきた資料には、雲のような半透明の塊が描かれていた。不気味なことに無数の人の顔が浮かんでいる。
「出てきたのは心霊系の妖、ランクは2だよ。数もいるから気を付けてね」
 どうやら、かつて災害で亡くなった人間達の苦痛が、妖となって実体化したものの様だ。土地開発が進み、工事によって垣根が取り払われ、人々の前に現れたのである。
「現場には働いている人達がいるよ。この人を絶対に助けないと!」
 現場にはまだ多数の作業員がいる以上、彼らの避難は必要だ。幸い妖は、立ち向かって来るものやより目立つ者を優先して攻撃してくる。変に避難作業に戦力を割くより、妖を引き付ける策を取る方が、結果として被害は減るだろう。
 また、救助に向かった時にFIVEの名を出すことは推奨されている。その名を知る者にはそれだけで救助に来たことが伝わるし、FIVEにしてみると広報活動の一環とも言える。
 説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:KSK
■成功条件
1.妖の討伐
2.一般人の被害を最小限にする
3.なし
皆さん、こんばんは。明けましておめでとうございます。
謹賀新年、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は幽霊っぽい妖を救っていただきたいと思います。
かっこよく名乗りを上げて戦っちゃって下さい。

●戦場
 とある工事現場。
 時刻は夕刻過ぎになります。
 既に空は暗くなっていますが、明かりがあるので戦闘に支障はありません。
 遮蔽物は多め。

●妖
 かつてこの土地に起きた災害で死んだ人々の苦痛が妖へと変じたものです。近くに来たものや目立った行動を取る者を優先して攻撃する傾向があります。
 ・『イタミクルシミ』
  心霊系の妖でランクは2。人の顔の浮かんだ雲のような姿をしています。災害で地面に生き埋めになった人たちの苦痛から生まれました。2体います。物理攻撃から受けるダメージを半減します。
  能力は下記。
  1.怨念の乱舞 物近列貫 貫:100%,50% 不運
  2.まとわりつく怨念 特近単 凶
  3.怨念の矢 特遠単 

 ・生首
  心霊系の妖でランクは1。人の生首のような姿をしています。物理攻撃に対して、若干高い防御力を持ちます。5体います。
  能力は下記。
  1.噛み付き 物近単 解除

●一般人
 工事現場で働いていた人たち。FIVEの存在を知る人もいるので、それを伝えれば協力的に動いてくれます。避難もスムーズに進むでしょう。


状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年01月26日

■メイン参加者 8人■

『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)
『ロンゴミアント』
和歌那 若草(CL2000121)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)


 つい先ほどまで日常が続いていた工事現場は、今や阿鼻叫喚の巷と化していた。決して全ての人が現状に満足していた訳でも無い。それでも、彼らは懸命に生きている。
 そんな世界をぶち壊し、死をばら撒くのが妖。そして、こうした景色は昭倭の世にあって珍しいこととは言えない。しかし、こうした非道を許せぬ者達もまた存在する。
 故に、此の時遅く彼の時早く、彼らはやって来た。
「Five参上! 好き勝手はさせねー!」
 派手にギターをかき鳴らし、背中の翼で空を翔けてやって来たのは『B・B』黒崎・ヤマト(CL2001083)だ。太古の昔より、高い所でギターを鳴らして出て来る奴は正義の味方と相場が決まっている。
「我ら、覚者組織FiVE! 妖の討伐に参上した! 現場作業者諸氏には、この場より一時退避をお願いしたい!」
 葦原・赤貴(CL2001019)の掲げる大剣が紅い輝きを放つ。
 余計なことをくっちゃべるのは趣味ではない。
 積まれていた機材を駆け上り高く跳躍すると、赤貴はそのまま妖達の元へと踊り込んでいった。その速さは正に韋駄天。因子の力によって強化された脚力は他者の追随を許さない。襲われていた作業員達も思わず目を奪われてしまう。
「アイツラは俺達が引き付ける! その間に落ち着いて、騒がず逃げて逃げて!」
 ヤマトの言葉で我に返った作業員達は、頷くと一目散に走り始める。この年若い少年達が自分達を助けに来たことははっきりと伝わった。そして、そのための力と覚悟を持っていること位、彼らにも確かに分かるのだ。
(私たちは目立てばいいのよね……あまりそういうのは、柄じゃないというか、得意ではないのだけれど)
 そんな中、勢いよく進む少年達を見る『ロンゴミアント』和歌那・若草(CL2000121)の顔にはどこか気後れが見えた。必要と分かっていても派手に動くのは苦手なのだ。ひょっとしたらそれは、過去の妖退治における経験が影響しているのかも知れない。
 であっても、若草は間違いなく覚者だった。
 大きく息を吸い込むと、キッと妖達を睨み、刃を向ける。
「私たちがお相手するわ! かかってらっしゃい!」
 現れた覚者達の姿に、妖ははっきりと反応を示した。低ランクの妖における常として、決して判断力が高い訳でも無い。立ち向かって来るものの姿があれば、そちらに攻撃の矛先を向けるのも道理だろう。
 その隙を突いて、『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は逃げ遅れた作業員達を避難させる。
「ここは僕達がちゃーんと安全な場所にするので! だから、おじさん達は落ちついて静かに外に避難してください!」
 年端のいかぬ少年だが、美久の誘導の手際はなかなかどうして堂に入ったものだった。物怖じせず、冷静に周囲を見渡している。そして、横目で覚者への攻撃を始めた妖の観察も始めていた。
「災害でなくなった方の苦痛が実体化……ですか?」
 まだまだ謎の多い妖であるが、敵は苦痛の想念に実体と禍々しい命が宿ったもの。当人らのものでないなら、躊躇などするに及ばない。気合を入れて武器である種子とスリングショットを構える。
「本人の嘆きなら聞かなくもありませんが、あくまでも思念。ならば、綺麗さっぱりさせるのが吉というもの。後腐れないよう、お片づけしましょうか!」
 美久が意気込んだ所で、妖も本格的に覚者に狙いを定めたようだ。言葉にならない恨みの声を上げ、覚者達に迫ってくる。その不気味な姿に四月一日・四月二日(CL2000588)は顔を引きつらせる。
「……あー。やっぱコワいなオバケ。コレ心霊写真とかで写ったらヤバイタイプのヤツじゃん!」
 別に覚者になったからと言って、無敵の勇気が身に付くわけではない。怖いものは怖いのだ。
 だが、赤祢・維摩(CL2000884)はそうやって、怖がることも許してはくれない。
「ああ、そこの馬鹿が適任だったか。馬鹿々々しい頓痴気騒ぎの非常識、湿気た妖相手には相応しい」
「非常識って失礼じゃねえ? オレなりに恐怖を誤魔化してんだって!」
 流れるような掛け合いと共に、維摩と四月二日は攻撃を開始する。すると、互いの考えることなど分かっている、と言わんばかりに鮮やかなコンビネーションを見せる。当人らは全力で否定するのだろうが。
「ふん、さっさと逃げろよ。邪魔で目障りで鬱陶しい」
「あーっと、どうも、FiVEでえす。もう大丈夫、キミたちの恐怖は俺が全部引き受ける。……てなワケで、出来るだけ静かに迅速に逃げてな」
 周りなど関係無いとばかりに攻撃を開始する維摩。四月二日は眼鏡をかけるとそれをフォローするかのように、妖と作業員の間に立って剣を握る。
「目立つと襲われるから静かに、ね」
 桂木・日那乃(CL2000941)は黒い翼を広げると、空に飛びあがる。
 声を掛けられた作業員は驚きの表情を見せたが、日那乃は気にしない。
 そして、全体を見渡しながらテレパシーを解放する。普段、五麟市以外の環境で使用するのは好きではないが、状況が状況なら話は別だ。狭い場所で覚者同士の情報共有を行うため、自分自身が中継点となる。
「過去の犠牲者の苦痛が妖化かぁ。工事の前に地鎮祭したろうけど、あれ土地の神様向けだっけ? 鎮魂祭? 慰霊祭? してたら被害なかったのかな。なかなか難しいね」
 どこか戦場にそぐわないふにゃふにゃした態度で、『調停者』九段・笹雪(CL2000517)は妖の前に立った。むしろ、この雰囲気が作業員を安心させるのに一役買っているのもまた事実ではあるのだが。
 そんな彼女の雰囲気がふっと変わる。
 ぼんやりとしていた瞳が金色に輝き出す。
「妖は引き受けるから、目立たないよう静かに避難しくださいね」
 笹雪は作業員達を背にして、形代を掲げるように持つ。そして、妖に向かって言い放った。
「さぁさ、ぶつけたい言葉も怨念も全部引き受けたげるよ! こっちにおいで!」


 作業員の避難は至ってスムーズだった。覚者達の派手な動きは、妖達を引き付けるのに十分なものだったからだ。
 また、年末の戦いについても笹雪が上手く利用したのが功を奏したと言える。
 しかし、これはまだ最初の段階が上手くいっただけの話。本番はここから始まるのだ。
 その合図と言わんばかりに雷鳴が轟き、妖達に降り注ぐ。
「ふん、何時までもウジウジと。さっさと消えてれば良いものを」
 人間嫌いの維摩にとっては、人の想念が生んだ妖も不快に映るのだろうか。不機嫌さを隠す事無く、雷を放って妖を攻撃する。
「だが出てきたからには有効活用してやる。精々いいサンプルになれよ?」
 それでもこんなセリフが出てくる辺り、やはり維摩の本質は学者ということなのだろう。実際、その眼は妖達を捉えて、細部に至るまで見逃すまいと鋭く光っていた。
「ま、大岩さんも頑張ってくれたんだ。共に戦って全力で守るって約束したしな。彼女の夢を悲劇で終わらせるかって」
 維摩とタイミングを合わせるようにして、四月二日もまた妖達に向かって雷を落とす。数が多めの敵である以上、なるべく早く数を減らしたい所だ。
 苦痛を抱いて死んだヒトたちが恐怖の対象になっている妖の在り方は、悲劇そのものだ。その悪夢を止めるために彼はやって来た。
 英霊の力を引き出し、一層の一撃を与える姿は先ほどまで怯えていた男と同じとは思えない。かつて命を救った少女と力を合わせて戦えることを、彼なりに喜んでいるのだ。
「火葬じゃなくてごめんね!」
 同じように雷を操りながら、笹雪は死人達の声と向き合っていた。
 厳密な意味で、この場にいる妖は死んだ者達と何ら関わりは無い。だが、笹雪の能力は死んだ者の声を聴くことだ。そうなれば、必然的に彼らの死ぬ時の痛みや苦しみが流れ込んでくる。
 だが、ここで恐怖に呑まれない程度に、彼女の心は強かった。元を正せば、古妖との繋がりが深い家系に生まれた娘だ。化外の存在に対しても心を開く素養は持っているのだ。
 そして、妖達がその苦しみを無差別に振り撒こうとしていることを知る。
 その刹那、怨念のエネルギーが覚者達を襲った。呪いの力は覚者達の体に纏わりつき、その動きを阻害しにかかる。だからと言って、赤貴の刃が止まることはあり得ない。
「負傷? 戦闘をすれば負傷はするものだ」
 嘯いた赤貴は小柄な体躯に合わない大剣を大振り気味に振る。妖が躱そうとすると、逆方向から剛腕の一撃を叩き込んだ。最初のはフェイントだ。心霊系の妖には元より物理的な攻撃が効きづらいことなど、先刻承知である。
「気力の続く限り叩き込む……人の住む場、妖にはくれてやらん」
「どちらへ向うつもりですか? あなたのお相手は僕ですよね!」
 怯んだ巨大な妖に対して、美久は種子を飛ばす。妖に付着した種子は急激な成長を遂げて、鋭い棘で妖を激しき傷付ける。
 美久は一族の中では落ちこぼれとして扱われていた。FIVEの中でも若輩であると理解しているし、自分よりも実力があるものがいることも知っている。
 だけど、侮られるのは心外だ。
「僕、心霊って初めてみましたが……もう、お化けを怖がるような年齢ではありませんよ? 可哀想にと言ってあげられるほど、僕は優しくないので!」
 一矢報いること位は出来るし、それで満足するつもりも無いのだ。
 悠々と人々を蹂躙するはずだった妖は、既にその目論みを崩されていた。覚者達は退かず、むしろ妖の方が不利な状況だ。雷が轟くたびに妖は数を減らしていく。最初拮抗していた戦いは、次第に次第に覚者の側に傾いていった。
 妖の呪いは覚者の身を縛ったが、それとて長続きするものではない。
 何故ならば、
「それじゃあ、ちゃんとお仕事しないと」
 日那乃が翼を広げると、場に水行の力が解放される。神秘の力は覚者の身を縛る邪気を洗い流すのだ。
 もし、妖の攻撃を止めるものが無ければ或いは、覚者達の攻撃の勢いは殺されていたのかも知れない。その幼い外見に反して、彼女の力は侮れるものではないのである。
「大岩さんも元気だったし、ね」
 日那乃もいつぞやの事件の時、夢見の少女を救うのに尽力した覚者の1人だ。表情を見せない彼女であるが、何かしら思う所があるのかも知れない。無いのかも知れないが。
 そして、束縛を逃れた赤貴は疾風の如く駆けると、そのまま刃で巨大な妖を切り伏せる。
 たとえ実体の希薄な相手であろうと、剣が届くなら殺せる。
「人の無念が素でも、人を殺す他種。だから殺す。生者が生きる為に」
 最後に残された妖が咆哮を上げる。いや、苦しみの叫びなのかも知れない。覚者達の体へ呪いが襲い掛かる。
 しかし当の妖の姿はいっそ、哀れですらあった。
「渡された資料にあった敵の表面には、たくさんの顔が浮かんでいた。事故で結構多くの方が亡くなったみたいね」
 妖の姿に哀惜の情を覚える若草。
 妖そのものにではない。妖を生み出すのに足る苦しみが、この地にあったことに対してだ。
「その人たちが、誰かを襲いたいわけではないはずだもの。倒してあげましょう。その人たちのためにも、今生きている人のためにも」
 若草の心には迷いも恐れも無い。
 あるのは、優しさと為すべきことを為すための勇気。左肩の文様が、ほんのわずか輝きを増す。
 集められた周囲の浄化物質が覚者達に力を与える。
「ぶつけてこいよ! 痛みも苦しみも、全部ここに置いていけ! 俺達があの世に送り届けてやる!」
 ヤマトがギターをかき鳴らすと、音が弾丸となって妖を刺し貫く。
 「妖に響かせろお前の魂!」をキャッチフレーズに開発されたギター型の神具、その性能は折り紙つきだ。
 持ち主であるヤマトはまだまだ年若く、覚者としても未成熟である。何かを救うために命を賭けられる口ではない。それでも正義感だったら人並みにあるし、そのためにだったら懸命になることだって出来る。
 人形代を展開させた笹雪が祈り、四月二日が剣を振り上げると稲光が奔る。
 覚者達は優しく慰めるように語りかける。かつてここで死んだ者達の霊が安らいでほしいと願って。
「形代は依り代、身代わり。痛みも苦しみも全部これに移しちゃおう。あなた達を埋めた土砂ももうない。だからもう大丈夫、安心して眠ってね」
「これからは弔って貰えるように。キミたちが怨念の象徴であるコトを、今ココで終わらせてやるよ」
 維摩もまた四月二日と共に雷を操り、妖への嘲りを込めた一撃を放つ。
 覚者達は激しく妖と戦う。人々を傷付ける邪悪を駆逐する為に。
「ふん、恨めしいな。恨み言を吐き出す口と目があればいい風情だな。もっとも二度と顧みられることなどないがな」
「さて、綺麗さっぱり、片付けてしまいましょう!」
 いずれも人の姿。そして、人間を根絶するため襲い来る妖に抗うことを選んだ、覚者達の姿だ。
 美久の声が明るく響くのに合わせて、ヤマトは奏でる曲を変える。
「お焚き上げってほどじゃないけどさ、まとめて炎で浄化してやる!」
 大地から炎が立ち昇る。燃え盛る炎は全てを焼き尽くさんばかりの勢いで妖の体を燃やして行った。
 ここで死んだ者達が痛みも苦しみも忘れて、天に昇れるように。
 怨念を忘れて、地面から解き放たれるように。
 そんな少年の願いを込めて。
「行くぜレイジングブル! 最高のレクイエムを届けてやろうぜ!」
 浄化は炎の持つ側面の1つだ。
 そして、炎が燃え尽きた時、そこに妖は一片たりとも残っていなかった。
 あたかも、怨念が全て清められたかのように。


 戦いが終わって、若草はかつて亡くなった人々へと祈りを捧げていた。
(当時も祈りは捧げられたのでしょうけれど、あらためて。どれだけ時間が経っていても、死者を悼む事に意味はあるもの)
 そして、一通り祈りを終えると、周りの片付けの手伝いに向かった。ヤマトも現場の人々の無事を確認し一安心という所だ。
「良かったらこの件報告する時に相談してみてください」
 笹雪は現場の主任を捕まえて、慰霊祭を行うことを提案していた。今後の対策と考えれば実に彼女らしい提案であるし、現場の者達も好意的に意見は受け入れてもらえたようだ。中には翌日にも簡易なものを行おうと言うものもいるし、FIVEに対する印象は悪くないと言えよう。
 一方、赤貴は浮かない顔だ。似た手法で大量の妖が発生する可能性を危惧しているのである。おそらくは、この件の報告も兼ねて夢見に相談することになるだろう。
 その後ろでは、四月二日が維摩を引きずって呑みに連れ出そうとしていた。
「ああ怖かった。こういう時は酔って忘れるに限る。赤祢くん、飲みに行くぞ!」
「ちっ、引き摺るな。清めの酒か?」
「なるほど、清めの酒。さすが頭イイなあ、キミ」
 維摩の皮肉をものともせず、四月二日は歩き始める。覚者だって人の子だ。戦いの後に一杯やらねば気が滅入ってしまう。
「煩悩ごと浄化されてあの世に行ってろよ」
「あの世? おう、イイぜ。でもキミの後にな!」
 こうして、覚者達は今日の戦いを終えた。
 明日も何処かで妖は現れるのだろう。それでも人々が絶望するに及ばない。此処には妖に抗う覚者達がいるのだから。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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