【魁英雄譚】悪しき古妖、残酷大将軍!
●悪しき古妖、残酷大将軍!
公民館から飛び出した彼らが見たものは、空に浮かぶ巨大な幻影であった。
骸骨を思わせる鎧武者。その胸から上が立体映像のように出現しているのだ。
『我は残酷大将軍! 人の世を憂うものである!』
「残酷……大将軍?」
『二代目カクセイジャーとその協力者たちよ。この村はじきに我のものとなる。おとなしく出て行くがいい。さすれば痛い目にはあわずにすむぞ。グワーッハッハッハッハッハ!』
「ま、まて!」
呼びかけるレッドを無視して、空の幻影は消え去った。
その後。
F.i.V.E覚者たちは一度五麟市へと戻り戦力の立て直しと、情報の収集をはかっていた。
「夢見からの情報はあるか?」
「望んだものが見られるわけじゃないからな。追加情報ゼロでも泣かない覚悟だったが……どうやら収穫アリだったみたいだぜ」
会議室に集まった覚者たち。
聖華はF.i.V.Eから回された資料をデスクに置いた。手に取る浜匙と翔。
「なになに……『残酷台将軍は山に古くから住む古妖』」
「『人々の恨みや憎しみを吸い取って膨らむ妖怪』か」
「古妖がなんだって村を欲しがるのかね。世界征服なんて理由は聞きたくないよ?」
心底嫌そうに首を振る逝。柾は資料をピンでとめて滑らせた。
「どうやらそう単純でもなさそうだ。数百年前、この村を実質的に支配していた豪族が死んだ際に大量の怨念が生まれたそうだ。それが核になってできたのが残酷台将軍らしい。要するに、失った者を取り返すのが目的ってところだな」
「迷惑な話なの」
ころんはぼやきながらページをめくり、その手をぴたりと止めた。
「待って。これってどういうこと?」
「なんや」
横から覗き込む時雨。
「『残酷大将軍はため込んだ怨念を放出することで、物体や土地に怨念を根付かせることができる』やて? そら迷惑な能力やけど……あっ!」
ばん、と時雨は机を叩いた。
「そないに怨念が詰まったら物体が妖化する可能性も上がるんやな!? 奴が村中に怨念をしみこませれば、これからも妖が出続けるようになるってことや!」
「妖の発生は偶然ってだけじゃなかったのか!」
妖発生のメカニズムは未だ不明。しかし怨念などの強いエネルギーから生まれることがあり、怨念が沢山渦巻いている土地にはそれだけ妖が発生しやすいという事例があるのだ。
「早く知らせてあげなきゃ! 現地へ行こう!」
資料を握りしめ、慈雨は立ち上がった。
一方その頃。水行ブルーは竹林で刀の稽古をしていた。
前回のチェンソー妖以来、まだ妖は発生していない。だが……。
『大切な人を守るのって、とても大切なことだぜ』
「くっ!」
前に聞いた言葉頭の中をよぎり、ブルーは剣を乱した。
あの時彼は、ヒーローを続けるのかと聞かれてこう答えたのだ。
『俺はもう戦わない。金にならない戦いなどな』
幼い頃から暦の因子をもっていたブルーは、カクセイジャーのメンバーに加わる条件として時給制を要求した。しかし労力に対して稼ぎが悪いことに、初陣で早速気づいてしまったのだ。
「都会に出て、妖ハンターのバイトでもするか……」
刀を鞘におさめ、竹林を出ようとするブルー。
そこへ、グリーンが息を切らして駆け寄ってきた。
「大変だブルー! 市の病院に妖が発生したんだ。心霊系が沢山!」
「ばあさんの病院が……!?」
市はこの村に比べて都会だ。そこなら安全だと思って入院させたのに……。
ブルーは我知らず、一人で駆けだしていた。グリーンの制止など聞こえていない。
彼の足が向かう先は、市立病院。
その一方で、レッドたちも市立病院へと向かっていた。ブラウンの運転する軽トラに乗って。
「しかしよかったのか、ブラウン。農作業のほうが好きだって言ってたのに」
「うん。戦いは嫌いだね。野菜作る方がずっと好きだよ。でもね」
ハンドルを握るブラウン。
「おじさんはね、子供たちの未来が守れるならそれでいいんだ……」
「そっか、助かるよ」
うつむくレッドに、イエローがカレー食いながら問いかけた。
「でも不思議なんだな。なんでそんなにメンバーをかき集めたかったんだな?」
「市は、戦える覚者が五人以上いない村を放棄するつもりなんだ」
「なんだって!?」
振り向くブラウン。乱れる軽トラ。カレーを死守するイエロー。
「市役所ビルの窓掃除バイトをしてるとき、俺は地域改革案の資料を見たんだ。そこに俺たちの村のことが……」
「そうだったんだな……」
「ならブルー君が抜けるのは、つらいね」
弱った顔をするブラウン。
けれど悩んでいる暇はない。
妖との戦いが、すぐ目の前まで迫っているのだから。
公民館から飛び出した彼らが見たものは、空に浮かぶ巨大な幻影であった。
骸骨を思わせる鎧武者。その胸から上が立体映像のように出現しているのだ。
『我は残酷大将軍! 人の世を憂うものである!』
「残酷……大将軍?」
『二代目カクセイジャーとその協力者たちよ。この村はじきに我のものとなる。おとなしく出て行くがいい。さすれば痛い目にはあわずにすむぞ。グワーッハッハッハッハッハ!』
「ま、まて!」
呼びかけるレッドを無視して、空の幻影は消え去った。
その後。
F.i.V.E覚者たちは一度五麟市へと戻り戦力の立て直しと、情報の収集をはかっていた。
「夢見からの情報はあるか?」
「望んだものが見られるわけじゃないからな。追加情報ゼロでも泣かない覚悟だったが……どうやら収穫アリだったみたいだぜ」
会議室に集まった覚者たち。
聖華はF.i.V.Eから回された資料をデスクに置いた。手に取る浜匙と翔。
「なになに……『残酷台将軍は山に古くから住む古妖』」
「『人々の恨みや憎しみを吸い取って膨らむ妖怪』か」
「古妖がなんだって村を欲しがるのかね。世界征服なんて理由は聞きたくないよ?」
心底嫌そうに首を振る逝。柾は資料をピンでとめて滑らせた。
「どうやらそう単純でもなさそうだ。数百年前、この村を実質的に支配していた豪族が死んだ際に大量の怨念が生まれたそうだ。それが核になってできたのが残酷台将軍らしい。要するに、失った者を取り返すのが目的ってところだな」
「迷惑な話なの」
ころんはぼやきながらページをめくり、その手をぴたりと止めた。
「待って。これってどういうこと?」
「なんや」
横から覗き込む時雨。
「『残酷大将軍はため込んだ怨念を放出することで、物体や土地に怨念を根付かせることができる』やて? そら迷惑な能力やけど……あっ!」
ばん、と時雨は机を叩いた。
「そないに怨念が詰まったら物体が妖化する可能性も上がるんやな!? 奴が村中に怨念をしみこませれば、これからも妖が出続けるようになるってことや!」
「妖の発生は偶然ってだけじゃなかったのか!」
妖発生のメカニズムは未だ不明。しかし怨念などの強いエネルギーから生まれることがあり、怨念が沢山渦巻いている土地にはそれだけ妖が発生しやすいという事例があるのだ。
「早く知らせてあげなきゃ! 現地へ行こう!」
資料を握りしめ、慈雨は立ち上がった。
一方その頃。水行ブルーは竹林で刀の稽古をしていた。
前回のチェンソー妖以来、まだ妖は発生していない。だが……。
『大切な人を守るのって、とても大切なことだぜ』
「くっ!」
前に聞いた言葉頭の中をよぎり、ブルーは剣を乱した。
あの時彼は、ヒーローを続けるのかと聞かれてこう答えたのだ。
『俺はもう戦わない。金にならない戦いなどな』
幼い頃から暦の因子をもっていたブルーは、カクセイジャーのメンバーに加わる条件として時給制を要求した。しかし労力に対して稼ぎが悪いことに、初陣で早速気づいてしまったのだ。
「都会に出て、妖ハンターのバイトでもするか……」
刀を鞘におさめ、竹林を出ようとするブルー。
そこへ、グリーンが息を切らして駆け寄ってきた。
「大変だブルー! 市の病院に妖が発生したんだ。心霊系が沢山!」
「ばあさんの病院が……!?」
市はこの村に比べて都会だ。そこなら安全だと思って入院させたのに……。
ブルーは我知らず、一人で駆けだしていた。グリーンの制止など聞こえていない。
彼の足が向かう先は、市立病院。
その一方で、レッドたちも市立病院へと向かっていた。ブラウンの運転する軽トラに乗って。
「しかしよかったのか、ブラウン。農作業のほうが好きだって言ってたのに」
「うん。戦いは嫌いだね。野菜作る方がずっと好きだよ。でもね」
ハンドルを握るブラウン。
「おじさんはね、子供たちの未来が守れるならそれでいいんだ……」
「そっか、助かるよ」
うつむくレッドに、イエローがカレー食いながら問いかけた。
「でも不思議なんだな。なんでそんなにメンバーをかき集めたかったんだな?」
「市は、戦える覚者が五人以上いない村を放棄するつもりなんだ」
「なんだって!?」
振り向くブラウン。乱れる軽トラ。カレーを死守するイエロー。
「市役所ビルの窓掃除バイトをしてるとき、俺は地域改革案の資料を見たんだ。そこに俺たちの村のことが……」
「そうだったんだな……」
「ならブルー君が抜けるのは、つらいね」
弱った顔をするブラウン。
けれど悩んでいる暇はない。
妖との戦いが、すぐ目の前まで迫っているのだから。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.心霊系妖を五割以上撃破する
2.取り残された患者を五割以上救出する
3.なし
2.取り残された患者を五割以上救出する
3.なし
シリーズ第二回。今回は市立病院が舞台となります。
正確には入院患者のいる市立病院B棟の地下霊安室から心霊系妖が大量にわき出る事件が発生した模様です。
どれも動きが遅く、近くの物を持って殴るといった単純な攻撃しかできませんがいかんせん数が多いため病院の覚者警備員でも対応しきれません。
なんとか歩くことの出来ない一部の入院患者を避難させましたが、まだ多くの患者が残されています。その中にはブルーのおばあさんも含まれているようです。
妖を倒し、患者を避難させることが今回の目的となります。
・心霊系妖
ランク1心霊系妖。患者の服を着た半透明な人型妖です。
動きはのろく攻撃も緩慢ですが、囲まれると厄介になるでしょう。
・棟の構造と避難ガイド
自力で歩ける患者たちは避難をしようとしていますが、階段がふさがれているため逃げることができません。これをまず倒すことが先決でしょう。
病院内は地下だけでなく、そこかしこの病室からもちらほらと妖が発生しており、全ての患者を救出するには病院内を隅々まで駆け巡っていく必要があります。
救出係と戦闘係をコンビ(もしくはトリオ)にして妖を倒しながら救出していくのが効率的でしょう。
病院は五階建てになっており、窓を割れば空中からでも侵入が可能です。なので翼人や面接着保持者等は上階の救出に有利になります。
・カクセイジャーの行動
レッド、イエロー、ブラウンは患者救出を目的に病院へ向かっています。
ブルーとそれを追いかけたグリーンも病院へ訪れますが、ブルーは人に頼らず闇雲に妖に挑むことが予想されます。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年01月20日
2016年01月20日
■メイン参加者 8人■

●
市立病院はパニックに陥っていた。
覚者警備員は多すぎる妖に対応しきれず重傷を負い、医者や看護婦たちが逃がせるだけの患者を逃がしはしたが……。
「行かせてくれ! まだ院内には患者が残ってるんだ!」
「だめです、妖が!」
何者かが勇気を出して飛び込もうとするも、入り口からは幽霊めいた妖たちが正面フロアの扉を破って外へ漏れ出していた。
「も、もうだめなのか……?」
「諦めんな!」
突然、空から雷が降り注いだ。
人垣を飛び越え、妖の前へ降り立つ少年。『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)。
この群れへ飛び込むのは自殺行為だと人が止めようとしたその声を、彼は背にうけたまま袖からスマートホンを滑り出した。アプリケーション起動。スワイプアンドタップによって護符データを読み込むと、顔の前に翳した。
「こっちの妖は引き受けた、みんなははやく逃げてくれ!」
彼を中心に雷が舞い、妖たちをはねのける。
「け、けれど君一人じゃ」
「一人じゃありません」
炎が空を飛んでいた。否、炎を纏った『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が妖の群れめがけて駆け込んだのだ。
「『よい子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を』イオ・プルチャーレ!」
炎が無数に拡散し、電流のスパークとなって妖たちへ襲いかかる。
入り口から漏れ出そうになった妖を押し返すと、ラーラはそのまま正面受付フロアへと滑り込んだ。
無数のベンチや観葉植物がひっくり返され、妖たちも吹き飛んでいく。
受付の裏に身を潜めていた看護婦がちらりと顔を出した。
「けが人は!」
「ここにも、少しだけ」
「では避難を。動ける方はご協力ください」
看護婦は頷くと、軽い怪我で病院へ来ていた患者たちと一緒に外へと駆けだしていく。
入れ違いに、三人の覚者が院内へ駆け込んできた。
カクセイジャーレッド、イエロー、ブラウンである。
翔の顔を見て顔を明るくする。
「君たちは……そうか、来てくれたのか!」
「そっちの人は仲間だね? 僕たちも皆を助けに来たんだ」
「よし、レッドとラーラさんはこのまま一階を。イエローとブラウンは一緒に二階へ行こう」
翔は二人を引き連れ、階段へと走り始めた。
「カレーダンスなんだな!」
「生産調整アタック!」
支援攻撃を織り交ぜながら妖を押し込んでいく翔たち。
だが大変なのはここからだ。
ラーラは息を呑んで、彼らの背中を見送った。
病院は五階建てである。地下以外から発生する妖は少数とはいえ、逃げ遅れた入院患者たちにとっては致命的な存在だ。
「こんな事態を引き起こすなんて、なんて卑劣な古妖なの」
「残酷大将軍。ろくなもんやないな」
『かわいいは無敵』小石・ころん(CL2000993)と『柔剛自在』榊原 時雨(CL2000418)は病院の壁を面接着によって素早くクライムし、窓を割って転がり込んだ。
「ひい!?」
ベッドの下に隠れていた老人がおびえすくむが、時雨が手を翳して落ち着ける。
「助けにきたんよ。協力して避難しよな」
「でも病室の外が……」
ハッとして扉を見ると、つっかえ棒をされた病室の引き戸ががたがたと乱暴に揺すられていた。棒がへし折れ、扉までもが粉砕されて妖が飛び込んでくる。
「ころんさん」
「返り討ちにするの」
ころんは身体の周囲にチョコレート色の膜を生み出しマントのように羽織ると、妖の群れへと突撃した。
掴みかかろうとする妖たちがよろめいていく。なぜならころんが発するココナッツめいた香りの気体が妖たちを毒殺していったからだ。
妖の一体を蹴り倒し、廊下へと出る。
すると、ちらほらとではあるが妖が発生していた。力が弱いのか這いずるように移動している。
人々は奥の病室に逃げ込んでいるようだ。
深緑鞭を放って妖を締め上げ、踏みつけて消滅させる時雨。
「今仲間が下の方で戦っとるからな。もう少しの辛抱や」
庇うように病室の扉前に立ち、時雨はそう呼びかけた。
病院に突入したのは四人とカクセイジャーたちだけではない。
『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)は右左にフットワークをかけ、妖のつかみかかりを回避。隙を見つけて鋭いボディーブローと顔面へのストレートパンチを叩き込む。
更に、靴底を加熱させて蹴りつける。
妖は吹き飛び、階段を転げ落ちていく。その際に後ろにいた妖たちを巻き込むが、それでも登ってくる数のほうが多かった。
「どれだけ沸いてくるんだ。地下まで侵攻しなくて正解だったな」
「目的は救出。上へ行くぜ!」
『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)は階段を駆け上がりながっていく。周囲から無数の妖が掴みかかり、魂を削り取るような攻撃をしかけてくる。
えもいえぬ苦しみに顔を歪めるが、聖華は歯を食いしばってこらえた。
「どけ! 人々の平和は俺が守る!」
刀を抜き放ち、思い切り振り回す。
妖を蹴散らしつつ、聖華と柾は二階フロアへと到達した。
地下から上がっていっただけあって、二階も結構な数の妖に侵食されている。
廊下の奥から女性の悲鳴が聞こえた。
「こいつら……!」
「いや、ここは任せろ」
空閑 浜匙(CL2000841)が大量の護符を掴んで前へ出た。さらなる上階を指さす。
「三階のみんなを」
「……頼む!」
階段を駆け上がっていく聖華や柾を背に、浜匙は大量の護符を紙吹雪のようにまき散らした。
袋状になった護符は空中ではじけ、中から二センチ四方の小さな紙が飛び散っていく。まさに紙吹雪だ。その小さな護符それぞれが一斉にスパークを放ち、妖たちへとぶつかっていく。
衝撃で開かれる道。
「今だ、つっこめ!」
「はい!」
賀茂 たまき(CL2000994)が背負ったリュックサックから筒巻きにしたポスターのようなものを二本まとめて引き抜いた。
ゴム止めしたピンを指で弾いて開放。開かれたポスターはなんと、びっしりと経文の書かれた護符であった。
妖の間にできた道が閉じようとしている。
たまきは妖を、いやそのずっと先をしっかりと見つめて加速した。
風が巻き起こり、彼女を中心として生まれた衝撃が妖たちをボーリングのピンよろしく弾いて飛ばしていく。
通路端で両足ブレーキ。扉を引き開けると、病室の奥で赤子を抱えた女性が妖に追い詰められていた。別の筒巻きを引き抜き、それを硬化。妖めがけて叩き付ける。
衝撃によって消し飛ぶ妖。
たまきは大きく細く息を吐き、赤子を見下ろした。
「もう、大丈夫ですよ」
●
病院の避難は進んでいる。一階フロアからブラウンに抱えられて逃げ出してきた子供は、駆け寄った母親によって抱きしめられていた。
そんな様子を横目に見るブルー。
「ここにはいない。まだ中か」
「ブルーじゃないか、来てくれたんだね!?」
「うるさい、どけ!」
ブラウンを突き飛ばし、病院内へ駆け込むブルー。
中では丁度翔が戦っている所だった。目が合う。
「お前、なぜここに」
「当然だろ。ここは協力しようぜ」
「……」
ブルーは顔をしかめた。協力というポジティブな言葉に対して、不自然なほどの嫌悪感である。
「お前らの世話にはならない!」
「待て、一人で行くな!」
「ブルーさん!」
ラーラが顔を見せたが、ブルーは上階へと走っていってしまった。取り残されたグリーンが、『ごめん』と言って後を追いかける。
子供を安全圏へ逃がしていたレッドが戻ってくる。
「ラーラ……」
「上にも仲間はいます。それよりレッドさん、まだ逃げ遅れた人たちはいるはずです。奥の部屋へ」
ラーラがきびすを返すと、妖がびっしりと廊下を埋めていた。地下からあふれてきた分だ。感覚からしてそろそろ打ち止めといったところだが、残り全てを倒しきるのは簡単ではないだろう。救助を平行させるとなれば尚のこと。
頬や腕にできた傷に布を巻き付けて止血をはかると、ラーラは群れへと腕を翳した。
「よい子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――!」
『ブルーとグリーンがそっちへ言った。任せられるか?』
翔からの送心呼びかけに、浜匙は耳へ手を当てた。
その手のすぐ脇を、折れた鉄パイプが通過していく。妖が突き込んだものだ。
スウェーでかわす浜匙。手の中に握り込んだ無数の護符チップを発動させつつ、妖の腹に拳を叩き込む。
電撃が走り、周りを囲んでいた妖もまとめて吹き飛んでいく。壁際では腕を怪我した医者がおびえすくんでいた。医者を抱え起こす。
「悪い、手が離せねえ! この人を運ばねえと……たまき、任せてもいいか」
「分かりました」
地面に敷き詰めた大量の大護符の上で、妖に体当たりをかけるたまき。
金属のように硬化したたまきの身体は妖を易々と突き飛ばす。
その横を、医者を抱えた浜匙は駆け抜けていった。
ブルーとすれ違う。ブルーは彼を、そしてたまきも無視して更に上へ行こうとしたが、それをたまきは呼び止めた。
「おばあさまが悲しみます」
「……なんだと?」
思わず足をとめるブルー。
それによって妖に首を掴まれ、壁際まで追いやられる。グリーンの射撃でそれを引き離し、たまきのそばへ寄るかたちで囲まれた。
「あなたが倒れたら誰がこの町を守っていくんですか」
「他に誰でもいるだろう。四人もいれば十分だ、俺は構ってる暇なんてないんだよ!」
「冷静になってください!」
妖に囲まれている状態でありながら、二人はキッとにらみ合った。
「私たちの戦力はギリギリです。けが人を運ぶ人が必要なんです。このままじゃ皆さんを助けられません」
「他のやつなんて……どうでも……」
言い切ろうとしたブルーの襟首を、たまきは低い身長でありながら掴み取った。
「カクセイジャーさんはこの町のヒーローですよ。戦いましょう、一緒に」
ブルーは自分の身体を硬い鎧が包んだのを感じた。
手を離すたまき。
「ここは引き受けます。おばあさんは、きっと上です」
「ブルー、僕もここに残るよ。この人を手伝う」
そう言って銃を構えるグリーンに。
「…………」
ブルーは歯を食いしばり、背を向けて走った。
三階では柾が戦っていた。四階への階段が妖によってふさがれ避難ができなくなっているのだ。
それを押しのけてでも進もうとするブルーの腕を、柾は強く掴んだ。
身体ごとひっぱられ、ブルーの眼前をスイングした鉄パイプが通過していく。
「離せ! お前の話を聞いてる暇は――」
「深呼吸しろ」
「!?」
「おばあさんの話は聞いてる。だが闇雲に突っ込んでいってどうする。おばあさんの病室と名前は」
「お前には関係ないだろ。俺の問題だ!」
「いいや違う。俺たちの問題だ。上にも仲間がいる。いいか、頼れ。お前の仲間も、俺の仲間も」
「勝手なことを……俺には、お前に払う金なんて」
言われて、柾は目を丸くした。
そして薄く笑う。
「そんなことを気にしていたのか。……安心しろ。金は取らない。命令もしない」
「嘘をつけ、なぜそんなことが」
「ヒーローだからだぜ、ブルー!」
廊下に群がる妖を切り払い、聖華が現われた。
「世の中は不条理ばっかりさ。だけど諦めて屈するなんて悔しいだろ」
「きれい事だ、そんなこと」
「きれい事さ、だからいいんだ」
柾は階段の妖を次々に殴り飛ばし、道を切り開いていく。
聖華も飛び込み、妖を右へ左へ切り開いていく。
「抗って戦って、全力を尽くすのが俺のスタイルだぜ。あんたが同じとは限らない。けど今動けば救える人がいるんだ」
刀を突き込む。
上への道が、小さくも開いた。
「不条理を倒そうぜ、ヒーロー!」
「お前……」
ブルーは走った。
「本当に金は払わないからな!」
「おう」
振り返り。
「けど、ありがとう」
そして見えなくなった。
「思ったより沢山上がってくるんやな……!」
廊下を進んでくる妖たちを薙刀で切り払い、時雨は粗く息をついた。
後ろで小さく身をすくめる老婆。
「無理をしないでおくれ。わたしなんか長くないんだ、お嬢ちゃんが怪我することなんて」
「やりたくてやってるんよ、構わんといて。お金とかそういうんやないし」
「……私の孫もね、そう言ってたよ」
「なんやて?」
妖を切り払い、老婆をつれて部屋の奥へと入る。
「けど、私に黙って何かしてるのは知ってるんだ。危ないことをしてるんじゃ無いかって、心配で」
「おばあさん、まさか」
その時突如、崩壊の音が聞こえた。
突き飛ばされ、壁に叩き付けられるころん。
口元の血をぬぐって、ステッキを構え尚した。
「きりがないの、こんなにいるんじゃ……」
物理攻撃にカウンターができていても、こちらのダメージがなくせるわけではない。ころんはじわじわと押されていた。
氣力もそろそろ底をつこうとしている。
毒の綿菓子をまき散らすころん。妖たちが触れたそばからはじけ飛んでいく。
だが全てではない。妖の群れが壁際のころんへと一斉に手を伸ばしてきた。
その時。刀の閃きが走った。
妖たちの上半身だけが横にスライドしていき、一斉にかき消える。
そのむこうに現われたのは、ブルーだった。
「おそいの」
「悪いな、仲間と話していた」
「ふうん……」
妖はまだまだ存在している。
全て倒しきれば、四階と五階の患者たちも安全に逃がすことができるだろう。
ステッキを妖たちに突きつけるころん。
「ころんも生活のために戦ってるの。だからお金のためって気持ちわかるの」
「……」
「この状況見てまだ『やめたい』って思うんだったら、もう止めるのはよそうと思ってたの」
「俺は……」
「どう思った?」
刀を構え、じりじりと妖に間合いをはかるブルー。
「やめたい気持ちは変わらない」
駆け込む。
「俺はヒーローなんかじゃない」
刀を握り、振り込んだ。
「けれど、『みんな』を守れるなら……そうしたい」
そんなきれい事が通るなら。
ブルーが妖を切り裂いたたいタイミングで、ころんは綺麗な香水瓶を取り出して後ろへ振りまいた。毒の香りが広がり、妖たちがぶくぶくとはじけ飛んでいく。
「そういうことなら、協力を惜しまないの」
こうして、市立病院に突如として発生した大量の妖は殲滅された。
警備会社から応援の覚者が駆けつけた頃には殆どの妖は消え、多少の怪我をおった人はいたものの命に別状はなく、患者たちは救出されたのだった。
そして物語は、次へと進む。
●次回の五行戦隊カクセイジャーは!
『残酷大将軍様の命により、貴様らを抹殺する!』
『残酷四天王!? ふざけやがって!』
『村人たちには爆弾をしかけさせてもらった。四天王を時間内に倒せなければドカンだ! さて、誰を見捨てて誰を助ける!?』
『俺たちは、ヒーローだ!』
市立病院はパニックに陥っていた。
覚者警備員は多すぎる妖に対応しきれず重傷を負い、医者や看護婦たちが逃がせるだけの患者を逃がしはしたが……。
「行かせてくれ! まだ院内には患者が残ってるんだ!」
「だめです、妖が!」
何者かが勇気を出して飛び込もうとするも、入り口からは幽霊めいた妖たちが正面フロアの扉を破って外へ漏れ出していた。
「も、もうだめなのか……?」
「諦めんな!」
突然、空から雷が降り注いだ。
人垣を飛び越え、妖の前へ降り立つ少年。『デジタル陰陽師』成瀬 翔(CL2000063)。
この群れへ飛び込むのは自殺行為だと人が止めようとしたその声を、彼は背にうけたまま袖からスマートホンを滑り出した。アプリケーション起動。スワイプアンドタップによって護符データを読み込むと、顔の前に翳した。
「こっちの妖は引き受けた、みんなははやく逃げてくれ!」
彼を中心に雷が舞い、妖たちをはねのける。
「け、けれど君一人じゃ」
「一人じゃありません」
炎が空を飛んでいた。否、炎を纏った『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が妖の群れめがけて駆け込んだのだ。
「『よい子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を』イオ・プルチャーレ!」
炎が無数に拡散し、電流のスパークとなって妖たちへ襲いかかる。
入り口から漏れ出そうになった妖を押し返すと、ラーラはそのまま正面受付フロアへと滑り込んだ。
無数のベンチや観葉植物がひっくり返され、妖たちも吹き飛んでいく。
受付の裏に身を潜めていた看護婦がちらりと顔を出した。
「けが人は!」
「ここにも、少しだけ」
「では避難を。動ける方はご協力ください」
看護婦は頷くと、軽い怪我で病院へ来ていた患者たちと一緒に外へと駆けだしていく。
入れ違いに、三人の覚者が院内へ駆け込んできた。
カクセイジャーレッド、イエロー、ブラウンである。
翔の顔を見て顔を明るくする。
「君たちは……そうか、来てくれたのか!」
「そっちの人は仲間だね? 僕たちも皆を助けに来たんだ」
「よし、レッドとラーラさんはこのまま一階を。イエローとブラウンは一緒に二階へ行こう」
翔は二人を引き連れ、階段へと走り始めた。
「カレーダンスなんだな!」
「生産調整アタック!」
支援攻撃を織り交ぜながら妖を押し込んでいく翔たち。
だが大変なのはここからだ。
ラーラは息を呑んで、彼らの背中を見送った。
病院は五階建てである。地下以外から発生する妖は少数とはいえ、逃げ遅れた入院患者たちにとっては致命的な存在だ。
「こんな事態を引き起こすなんて、なんて卑劣な古妖なの」
「残酷大将軍。ろくなもんやないな」
『かわいいは無敵』小石・ころん(CL2000993)と『柔剛自在』榊原 時雨(CL2000418)は病院の壁を面接着によって素早くクライムし、窓を割って転がり込んだ。
「ひい!?」
ベッドの下に隠れていた老人がおびえすくむが、時雨が手を翳して落ち着ける。
「助けにきたんよ。協力して避難しよな」
「でも病室の外が……」
ハッとして扉を見ると、つっかえ棒をされた病室の引き戸ががたがたと乱暴に揺すられていた。棒がへし折れ、扉までもが粉砕されて妖が飛び込んでくる。
「ころんさん」
「返り討ちにするの」
ころんは身体の周囲にチョコレート色の膜を生み出しマントのように羽織ると、妖の群れへと突撃した。
掴みかかろうとする妖たちがよろめいていく。なぜならころんが発するココナッツめいた香りの気体が妖たちを毒殺していったからだ。
妖の一体を蹴り倒し、廊下へと出る。
すると、ちらほらとではあるが妖が発生していた。力が弱いのか這いずるように移動している。
人々は奥の病室に逃げ込んでいるようだ。
深緑鞭を放って妖を締め上げ、踏みつけて消滅させる時雨。
「今仲間が下の方で戦っとるからな。もう少しの辛抱や」
庇うように病室の扉前に立ち、時雨はそう呼びかけた。
病院に突入したのは四人とカクセイジャーたちだけではない。
『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)は右左にフットワークをかけ、妖のつかみかかりを回避。隙を見つけて鋭いボディーブローと顔面へのストレートパンチを叩き込む。
更に、靴底を加熱させて蹴りつける。
妖は吹き飛び、階段を転げ落ちていく。その際に後ろにいた妖たちを巻き込むが、それでも登ってくる数のほうが多かった。
「どれだけ沸いてくるんだ。地下まで侵攻しなくて正解だったな」
「目的は救出。上へ行くぜ!」
『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)は階段を駆け上がりながっていく。周囲から無数の妖が掴みかかり、魂を削り取るような攻撃をしかけてくる。
えもいえぬ苦しみに顔を歪めるが、聖華は歯を食いしばってこらえた。
「どけ! 人々の平和は俺が守る!」
刀を抜き放ち、思い切り振り回す。
妖を蹴散らしつつ、聖華と柾は二階フロアへと到達した。
地下から上がっていっただけあって、二階も結構な数の妖に侵食されている。
廊下の奥から女性の悲鳴が聞こえた。
「こいつら……!」
「いや、ここは任せろ」
空閑 浜匙(CL2000841)が大量の護符を掴んで前へ出た。さらなる上階を指さす。
「三階のみんなを」
「……頼む!」
階段を駆け上がっていく聖華や柾を背に、浜匙は大量の護符を紙吹雪のようにまき散らした。
袋状になった護符は空中ではじけ、中から二センチ四方の小さな紙が飛び散っていく。まさに紙吹雪だ。その小さな護符それぞれが一斉にスパークを放ち、妖たちへとぶつかっていく。
衝撃で開かれる道。
「今だ、つっこめ!」
「はい!」
賀茂 たまき(CL2000994)が背負ったリュックサックから筒巻きにしたポスターのようなものを二本まとめて引き抜いた。
ゴム止めしたピンを指で弾いて開放。開かれたポスターはなんと、びっしりと経文の書かれた護符であった。
妖の間にできた道が閉じようとしている。
たまきは妖を、いやそのずっと先をしっかりと見つめて加速した。
風が巻き起こり、彼女を中心として生まれた衝撃が妖たちをボーリングのピンよろしく弾いて飛ばしていく。
通路端で両足ブレーキ。扉を引き開けると、病室の奥で赤子を抱えた女性が妖に追い詰められていた。別の筒巻きを引き抜き、それを硬化。妖めがけて叩き付ける。
衝撃によって消し飛ぶ妖。
たまきは大きく細く息を吐き、赤子を見下ろした。
「もう、大丈夫ですよ」
●
病院の避難は進んでいる。一階フロアからブラウンに抱えられて逃げ出してきた子供は、駆け寄った母親によって抱きしめられていた。
そんな様子を横目に見るブルー。
「ここにはいない。まだ中か」
「ブルーじゃないか、来てくれたんだね!?」
「うるさい、どけ!」
ブラウンを突き飛ばし、病院内へ駆け込むブルー。
中では丁度翔が戦っている所だった。目が合う。
「お前、なぜここに」
「当然だろ。ここは協力しようぜ」
「……」
ブルーは顔をしかめた。協力というポジティブな言葉に対して、不自然なほどの嫌悪感である。
「お前らの世話にはならない!」
「待て、一人で行くな!」
「ブルーさん!」
ラーラが顔を見せたが、ブルーは上階へと走っていってしまった。取り残されたグリーンが、『ごめん』と言って後を追いかける。
子供を安全圏へ逃がしていたレッドが戻ってくる。
「ラーラ……」
「上にも仲間はいます。それよりレッドさん、まだ逃げ遅れた人たちはいるはずです。奥の部屋へ」
ラーラがきびすを返すと、妖がびっしりと廊下を埋めていた。地下からあふれてきた分だ。感覚からしてそろそろ打ち止めといったところだが、残り全てを倒しきるのは簡単ではないだろう。救助を平行させるとなれば尚のこと。
頬や腕にできた傷に布を巻き付けて止血をはかると、ラーラは群れへと腕を翳した。
「よい子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――!」
『ブルーとグリーンがそっちへ言った。任せられるか?』
翔からの送心呼びかけに、浜匙は耳へ手を当てた。
その手のすぐ脇を、折れた鉄パイプが通過していく。妖が突き込んだものだ。
スウェーでかわす浜匙。手の中に握り込んだ無数の護符チップを発動させつつ、妖の腹に拳を叩き込む。
電撃が走り、周りを囲んでいた妖もまとめて吹き飛んでいく。壁際では腕を怪我した医者がおびえすくんでいた。医者を抱え起こす。
「悪い、手が離せねえ! この人を運ばねえと……たまき、任せてもいいか」
「分かりました」
地面に敷き詰めた大量の大護符の上で、妖に体当たりをかけるたまき。
金属のように硬化したたまきの身体は妖を易々と突き飛ばす。
その横を、医者を抱えた浜匙は駆け抜けていった。
ブルーとすれ違う。ブルーは彼を、そしてたまきも無視して更に上へ行こうとしたが、それをたまきは呼び止めた。
「おばあさまが悲しみます」
「……なんだと?」
思わず足をとめるブルー。
それによって妖に首を掴まれ、壁際まで追いやられる。グリーンの射撃でそれを引き離し、たまきのそばへ寄るかたちで囲まれた。
「あなたが倒れたら誰がこの町を守っていくんですか」
「他に誰でもいるだろう。四人もいれば十分だ、俺は構ってる暇なんてないんだよ!」
「冷静になってください!」
妖に囲まれている状態でありながら、二人はキッとにらみ合った。
「私たちの戦力はギリギリです。けが人を運ぶ人が必要なんです。このままじゃ皆さんを助けられません」
「他のやつなんて……どうでも……」
言い切ろうとしたブルーの襟首を、たまきは低い身長でありながら掴み取った。
「カクセイジャーさんはこの町のヒーローですよ。戦いましょう、一緒に」
ブルーは自分の身体を硬い鎧が包んだのを感じた。
手を離すたまき。
「ここは引き受けます。おばあさんは、きっと上です」
「ブルー、僕もここに残るよ。この人を手伝う」
そう言って銃を構えるグリーンに。
「…………」
ブルーは歯を食いしばり、背を向けて走った。
三階では柾が戦っていた。四階への階段が妖によってふさがれ避難ができなくなっているのだ。
それを押しのけてでも進もうとするブルーの腕を、柾は強く掴んだ。
身体ごとひっぱられ、ブルーの眼前をスイングした鉄パイプが通過していく。
「離せ! お前の話を聞いてる暇は――」
「深呼吸しろ」
「!?」
「おばあさんの話は聞いてる。だが闇雲に突っ込んでいってどうする。おばあさんの病室と名前は」
「お前には関係ないだろ。俺の問題だ!」
「いいや違う。俺たちの問題だ。上にも仲間がいる。いいか、頼れ。お前の仲間も、俺の仲間も」
「勝手なことを……俺には、お前に払う金なんて」
言われて、柾は目を丸くした。
そして薄く笑う。
「そんなことを気にしていたのか。……安心しろ。金は取らない。命令もしない」
「嘘をつけ、なぜそんなことが」
「ヒーローだからだぜ、ブルー!」
廊下に群がる妖を切り払い、聖華が現われた。
「世の中は不条理ばっかりさ。だけど諦めて屈するなんて悔しいだろ」
「きれい事だ、そんなこと」
「きれい事さ、だからいいんだ」
柾は階段の妖を次々に殴り飛ばし、道を切り開いていく。
聖華も飛び込み、妖を右へ左へ切り開いていく。
「抗って戦って、全力を尽くすのが俺のスタイルだぜ。あんたが同じとは限らない。けど今動けば救える人がいるんだ」
刀を突き込む。
上への道が、小さくも開いた。
「不条理を倒そうぜ、ヒーロー!」
「お前……」
ブルーは走った。
「本当に金は払わないからな!」
「おう」
振り返り。
「けど、ありがとう」
そして見えなくなった。
「思ったより沢山上がってくるんやな……!」
廊下を進んでくる妖たちを薙刀で切り払い、時雨は粗く息をついた。
後ろで小さく身をすくめる老婆。
「無理をしないでおくれ。わたしなんか長くないんだ、お嬢ちゃんが怪我することなんて」
「やりたくてやってるんよ、構わんといて。お金とかそういうんやないし」
「……私の孫もね、そう言ってたよ」
「なんやて?」
妖を切り払い、老婆をつれて部屋の奥へと入る。
「けど、私に黙って何かしてるのは知ってるんだ。危ないことをしてるんじゃ無いかって、心配で」
「おばあさん、まさか」
その時突如、崩壊の音が聞こえた。
突き飛ばされ、壁に叩き付けられるころん。
口元の血をぬぐって、ステッキを構え尚した。
「きりがないの、こんなにいるんじゃ……」
物理攻撃にカウンターができていても、こちらのダメージがなくせるわけではない。ころんはじわじわと押されていた。
氣力もそろそろ底をつこうとしている。
毒の綿菓子をまき散らすころん。妖たちが触れたそばからはじけ飛んでいく。
だが全てではない。妖の群れが壁際のころんへと一斉に手を伸ばしてきた。
その時。刀の閃きが走った。
妖たちの上半身だけが横にスライドしていき、一斉にかき消える。
そのむこうに現われたのは、ブルーだった。
「おそいの」
「悪いな、仲間と話していた」
「ふうん……」
妖はまだまだ存在している。
全て倒しきれば、四階と五階の患者たちも安全に逃がすことができるだろう。
ステッキを妖たちに突きつけるころん。
「ころんも生活のために戦ってるの。だからお金のためって気持ちわかるの」
「……」
「この状況見てまだ『やめたい』って思うんだったら、もう止めるのはよそうと思ってたの」
「俺は……」
「どう思った?」
刀を構え、じりじりと妖に間合いをはかるブルー。
「やめたい気持ちは変わらない」
駆け込む。
「俺はヒーローなんかじゃない」
刀を握り、振り込んだ。
「けれど、『みんな』を守れるなら……そうしたい」
そんなきれい事が通るなら。
ブルーが妖を切り裂いたたいタイミングで、ころんは綺麗な香水瓶を取り出して後ろへ振りまいた。毒の香りが広がり、妖たちがぶくぶくとはじけ飛んでいく。
「そういうことなら、協力を惜しまないの」
こうして、市立病院に突如として発生した大量の妖は殲滅された。
警備会社から応援の覚者が駆けつけた頃には殆どの妖は消え、多少の怪我をおった人はいたものの命に別状はなく、患者たちは救出されたのだった。
そして物語は、次へと進む。
●次回の五行戦隊カクセイジャーは!
『残酷大将軍様の命により、貴様らを抹殺する!』
『残酷四天王!? ふざけやがって!』
『村人たちには爆弾をしかけさせてもらった。四天王を時間内に倒せなければドカンだ! さて、誰を見捨てて誰を助ける!?』
『俺たちは、ヒーローだ!』
■シナリオ結果■
大成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
