≪初夢語≫伝説の竜王戦
●夢のクエスト
気が付いたらあなたはそこにいた。否、あなた方は……だ。見回しても誰も居ない。けれどこの世界のどこかにあなたと同じニオイのする者達がいる。それは確信だった。そして、彼等と合流してこの世界を統べるモノを倒さなくては元の世界にもどれそうにないこともわかる。あなた方の望む力が強すぎてあなた方は夢を介してここに引き寄せられ、そのモノの望む思いが強すぎてあなた方はここから戻れない。であれば、そのモノを倒せばあなた方はここから夢を介して元に戻れるのだ。
しかし、それには1人だけの力では心許ない。皆の力が結集されなくては戦いに勝つことは厳しいだろう。
あなたは1人の老婆と出会った。うずくまり互いに身を寄せ合う3人の老婆だ。どこかで見たような聞いたような気がしなくもない。
「おまえ様は竜王を倒しにいきなさるのかい?」
「あー。答えずともよい。わし等にはわかるのじゃから」
「このままでは竜王には勝てますまい。よい武具が必要だわい」
「良い馬が必要だわい。空を駆ける馬じゃ」
「炎を防ぐ盾じゃ」
「堅い鱗を貫く剣じゃ」
老婆達はあなたをそっちのけで言い合っている。
「馬が欲しくば右じゃ」
「盾が欲しくば左じゃ」
「剣が欲しくばここから下へといくがいい」
なるほど、道は左右に分かれ老婆達の背後には断崖絶壁があり縄ばしごが掛けてある。
「じゃがのぉ。3つは選べぬよ」
「おまえ様が望めるのは2つまでよ」
「この世界のどこかにおるおまえ様のお仲間も、3つを望めば欲に身体が沈む筈」
「さぁさぁ、急がれよ。竜王の力はどんどん増すばかり。今すぐ行けば生まれたての竜」「1つを望めばこわっぱの竜」
「2つを望めばそこそこ強き竜になる」
老婆達は唄うように声を揃える。
それでもあなたはさっぱり現実感がない。ふわふわとまるで醒めない夢に囚われている様にぼんやりとしている。風景も、老婆達も、彼女たちの言う敵やその能力も……なにより自分の思考さえも。
「それはそうじゃ」
「ここはお察しの通り夢じゃもの」
「したが、心が死ねば身体も死ぬるぞえ」
老婆達はフェフェフェと下卑た笑いを繰り返した。
「けったいな夢やなぁ。お正月はナンパに勤しもうと思うとったのに……勘弁して欲しいわ」
風間 颯(nCL2000077)は心底難儀そうに盛大なる溜息をついた。
気が付いたらあなたはそこにいた。否、あなた方は……だ。見回しても誰も居ない。けれどこの世界のどこかにあなたと同じニオイのする者達がいる。それは確信だった。そして、彼等と合流してこの世界を統べるモノを倒さなくては元の世界にもどれそうにないこともわかる。あなた方の望む力が強すぎてあなた方は夢を介してここに引き寄せられ、そのモノの望む思いが強すぎてあなた方はここから戻れない。であれば、そのモノを倒せばあなた方はここから夢を介して元に戻れるのだ。
しかし、それには1人だけの力では心許ない。皆の力が結集されなくては戦いに勝つことは厳しいだろう。
あなたは1人の老婆と出会った。うずくまり互いに身を寄せ合う3人の老婆だ。どこかで見たような聞いたような気がしなくもない。
「おまえ様は竜王を倒しにいきなさるのかい?」
「あー。答えずともよい。わし等にはわかるのじゃから」
「このままでは竜王には勝てますまい。よい武具が必要だわい」
「良い馬が必要だわい。空を駆ける馬じゃ」
「炎を防ぐ盾じゃ」
「堅い鱗を貫く剣じゃ」
老婆達はあなたをそっちのけで言い合っている。
「馬が欲しくば右じゃ」
「盾が欲しくば左じゃ」
「剣が欲しくばここから下へといくがいい」
なるほど、道は左右に分かれ老婆達の背後には断崖絶壁があり縄ばしごが掛けてある。
「じゃがのぉ。3つは選べぬよ」
「おまえ様が望めるのは2つまでよ」
「この世界のどこかにおるおまえ様のお仲間も、3つを望めば欲に身体が沈む筈」
「さぁさぁ、急がれよ。竜王の力はどんどん増すばかり。今すぐ行けば生まれたての竜」「1つを望めばこわっぱの竜」
「2つを望めばそこそこ強き竜になる」
老婆達は唄うように声を揃える。
それでもあなたはさっぱり現実感がない。ふわふわとまるで醒めない夢に囚われている様にぼんやりとしている。風景も、老婆達も、彼女たちの言う敵やその能力も……なにより自分の思考さえも。
「それはそうじゃ」
「ここはお察しの通り夢じゃもの」
「したが、心が死ねば身体も死ぬるぞえ」
老婆達はフェフェフェと下卑た笑いを繰り返した。
「けったいな夢やなぁ。お正月はナンパに勤しもうと思うとったのに……勘弁して欲しいわ」
風間 颯(nCL2000077)は心底難儀そうに盛大なる溜息をついた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.夢の世界から脱出すること
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
基本的にお仲間とは竜王の待つ戦場で合流となります。あまり緊密な相談は出来ないかもしれませんが、なんとかしちゃいましょう。ちなみにNPCの風間も一緒に夢に取り込まれています。足を引っ張りそうですが……ごめんなさい。
スキルやバッドステータスは有効です。
この世界の馬や盾や剣はあれば皆様の反応速度、体力、気力をアップさせます。
■初夢依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
4/8
公開日
2016年01月18日
2016年01月18日
■メイン参加者 4人■

●待っていた剣
「わたくしにここを降りろとおっしゃいますの?」
西荻 つばめ(CL2001243)は老婆達に丁寧に尋ねた。
「その通りじゃ。金の目の乙女よ」
「剣が欲しいのなら下じゃ」
「別の物を望むかえ?」
「……いいえ!」
きっぱりとつばめは言う。
「わたくし、一度決めたことを変えるのはあまり好きではありません。それでどのような結果となっても、誰かに責任を押しつけるような真似は致しません」
荷物もないつばめは断崖絶壁に掛けられている縄ばしごに足を掛け、ゆっくりとさがってゆく。ちらりと下を見るが、あまりにも遠くてどこまで続いているのか見えてこない。慎重にしかし大胆に、つばめはどんどん下へと降りる。いつしか周囲は明るくなり、風にゆれる草原が見えてくる。
「まぁ……」
老婆達がいた上とは違う別世界につばめはびっくりする。縄ばしごから降りると、ふわりとした土の感触があった。風に切りそろえた黒髪が揺れ、長い袖がひるがえる。海原の様に風で緑の草がうねる美しい光景に見入っていると、はるか向こうに何かが光った。
「あれは?」
ゆっくりと歩き始めたつばめだが、いつしか小走りに急ぎ出す。大きな岩につきささる細身だが美麗な透き通るような剣。それは伝説のようにここから引き出す者を待っているかのようで……思わず両手が柄にかかる。
「わたくしに力を貸してください」
すると、あっけないくらいに剣は岩から解き放たれつばめの手へと自分をゆだねた。
「ありがとう、ございます」
水晶のように輝く剣を袖にくるみ、つばめは元来た方角へと引き返す。まだ彼女には馬を手に入れなくてはならないのだ。
●馬って馬ですよ?
「馬ってどんな馬がいるんです?」
「……」
『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)の問いに老婆達は顔を見合わせる。どうも紡の問いに見合う答えは用意されていなかったらしい。
「馬といえば馬じゃ」
「そうじゃ、そうじゃ」
「馬が欲しくば右じゃ」
焦った老婆達が追い立てるので、右へと続く道を紡は歩く。実は彼女の歩く速さはとてつもなく遅い。理由は穿いているのがガラスの靴だからだ。
「歩きにくいですねー自分で考えときながら、すげー脱ぎたいです……」
中世のコルセットのように、真冬に生足の女子高生のように、オシャレには犠牲がつきものであるが、ガラスの靴は難易度が高い。
「このままじゃ外反母趾になりますよ! その前に靴擦れで歩けなくなっちゃいます」
もはや馬のゲットは靴擦れになるか、ならないかの死活問題でもあるし、実際歩きたくないし靴を脱いで足が汚れるのも嬉しくない。困った紡の視界に白く小さな点が彼方に見え、それはすぐにこちらに向かってやってくるにつれ大きくなる。
「嘘! ユニコーン?」
それは馬によく似ていたが額に立派な細い角のある一角獣だった。紡の眼前で静かに止まる。
「乗せてくれるの?」
両手を差し出すと一角獣はぷいっとそっぽを向く。
「……ん? ユニコーンは清らかな乙女じゃないとダメですか?」
なんとなく相手がそうだと思っている気がする。
「……あーあ、うんたぶん大丈夫ですよ、清らかです」
疑わし気な目でじっと視られる。
「清 ら か で す! なんですか、あたしのどこが清らかじゃないっていうですか」
紡は強く一角獣のたてがみを掴み、強引にその背に乗り上がった。
●夢の世界のことわり
「お前の様な子供が竜王と戦いなさるか?」
「それは不憫じゃ。新しい年のことわりとはいえ、この様にかわいらしい」
「ほんに、ほんに。このまま婆達とここで待っていてもいいんじゃぞ」
「ふぇふぇふぇ」
3人の老婆ににた~っと笑うのがかなり怖くて、離宮院・太郎丸(CL2000131)は首を振る。
「いいえ、ボクは盾が欲しい。仲間を炎から守る盾が……だから左の道を行きます」
仲間達に任せて戦場から逃げるような卑怯な真似はしたくないし、ここにいるよりは竜王と戦う方が安全な気がする。
「しようがないのぉ」
しぶしぶと老婆達は太郎丸の側から離れ、道を示す。ほどなく分かれ道のところにしゃがみ込んでいる男を見つけた。
「風間さん」
太郎丸が呼ぶ通り、それは風間 颯(nCL2000077)だった。
「あの婆さんたちから無事に脱出するとは、なかなかヤルやないか?」
颯はニヤニヤしながら太郎丸を見つめている。
「あの、ぶしつけですけど風間さんにお願いがあります」
颯の軽口にはつきあわず真剣な口調で太郎丸は話し出す。
「ボクはこれから盾を取りに行きます。もし使われなかったアイテムがあった場合にそれを使用していただく役割をお願いたいんです」
「なんでや?」
「この世界、きっとここの強さよりも、いかにこの世界の住人として役割を果たせるかにかかっている気がします。そのためにも与えられたアイテムはすべからく使用しつつ、必要以上にはかぶらせずに竜が強くなるのを抑止する……そんな作戦なのですっ」
「わかった! ボンの言うことはようわからんけどとにかく引き受けた」
しばらくこの場に留まって様子を見るという颯を残し、太郎丸は先を急ぐ。しばらく行くと潮の香りと波の音が聞こえてくる。
「海?」
道を曲がるとまったく予想しなかった光景が飛び込んでくる。灰色の海が広がっていた。白い波が砂浜に打ち寄せ、一カ所がまぶしく光輝いている。
「なんでしょう?」
好奇心が危機感を上回り、太郎丸はそっと歩み寄る。よくよく見れば、それは光を強く弾いて輝くまぁるい盾であった。
●生まれたての竜王
「それでは張り切っていきましょーかっ。武具が戦力の決定的差ではないのですっ。為すべき意思があればっ」
気合いもテンションもあがりきっている。いかにもそれらしいファンタジーRPG的戦士の装備を身に着けた『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は走り出す。
「行くと言うが何処へじゃ?」
「選択はもちろん今すぐ行く一択ですって! 竜王のもとへ馬よりも何よりも早く駆け付けるのですよっ」
空気に溶けるように浅葱の姿が老婆達の前から消える。
「ひええぇ。行ってしもうた」
あたふたする老婆達の少し遠くでも、颯があたふたする。
「マジで? 1人で? ど、どないしよっ」
転移した浅葱は重苦しく灰色の雲がたれ込めた広い山頂とおぼしき場所に来ていた。白く長い髪と同じく白く長いマフラーが強い風に吹き上げられる。
「うわ~! なんかそれっぽいラストステージじゃないですかっ!」
中央には赤く光る溶岩がこぽこぽと泡をたて、その端っこになにやら小さな影がある。
「ん?」
なんだろう? と浅葱が1歩足を踏み出す。
「ふ、ふんぎゃあぁぁぁぁ!!」
とんでもない絶叫がその小さな影からほとばしり出る。
「み、耳ぃいい」
あまりの大音量に耳を塞ぐがそれでも頭が痛くなりそうな程圧倒的な音声だ。
「こ、こうなったらこっちも負けないのですっ」
眩い閃光と凄まじい爆音がたった今まで浅葱がいた場所から周囲へと放たれ、同時にあの激しい音がぴたりと止まる。
「ふっ 天が知る地が知る人知らずっ……竜王退治のお時間ですっ」
一瞬で戦闘モードへと変身した浅葱が不敵な笑みを浮かべて立つ。
「君が悪の竜王くんですねっ。生まれたばかりの君を善導するのが勇者であり正義の味方である私の使命です!」
ビシッと浅葱が指を突き付けると暗雲から雷光が輝き、暗い山頂が一瞬強く照らし出され影が払拭される。
そこにいたのは、柔らかそうな白い鱗のある手足と尾、しかし顔と身体はすっかり人間的――いや、人間ならば幼稚園児ほどの幼女の竜王……その幼生だった。
●どうしてこうなった?
「どうするんですか?」
高貴なる姫騎士の装備で一角獣にまたがった紡はひらりと白いマントをなびかせ下馬する。すると、一角獣はすぐに身を翻し、元来た道を引き返したかと思うと背から大きな翼を広げそのまま空へと飛び去って行く。
「あ、信じられないですっ。まさか飛べたなんて!」
さすが夢の世界です。ペガサスと混じっているみたいです。
「ボクも途方に暮れている状態です」
一足先に山頂についた太郎丸がカフェのお盆を一回り大きくした様な丸い盾を手にしながら言う。
「すみませんっ、竜王を調教……じゃなくて躾し直したらなんとかなると思ったんですけどっ」
てへっ! っと浅葱が詫びを言う。幼女であった竜王は太郎丸と浅葱が到着する少し前に第2形態に変化した。
「っていうか、うぬらと戦うのが妾の宿命、存在意義じゃ。四の五の言わずに向かってくるがいい」
と言う竜王は人間でいうと高校生くらいで、視線は己の長い爪に落としたままだ。どうにか形よく削れないかと思案しているらしい。
「やりにくいですねー」
「やりにくいですっ」
「ボクには到底出来ません」
紡も浅葱も太郎丸も、もっとこう荒々しくふてぶてしくおどろおどろしい竜王を想定していたのだ。申し訳程度に手足と尾だけ爬虫類ぽくて後は女子高生みたいな敵じゃない。
「あの~どうなっているのか説明していただけますかしら?」
しとやかに横座りで乗ってきた馬からストンと下りたつばめは大事そうに袖で剣を抱えながら言う。その頃には竜王はOL風のむちむちおねぇさんに成長していた。先に到着していた3人が説明すると、つばめから少し遅れて来た颯がか~と言いながら天を仰ぐ。
「残念すぎる~即席光源氏傍観できたやなんて!」
「やめてください。ボクまで冷たい目で見られます」
太郎丸が切実に訴える。
「でもね、私と戦わないとあなた達は帰れないんでしょうぉ? なら仕方がないわぁ」
無駄に色っぽいOL風竜王が寄せてあげるように身体を抱いていた両腕を広げると、カァッと閃光が皆の目を焼く。
「さぁ、いらっしゃい~」
遥かなる高みから野太くOL風竜王の声がする。そこには最終形態へと進化(?)した巨大なる究極の姿、あの道ばたにうずくまっていた老婆達が合体した姿をしている。
「ふぇふぇふぇふぇ」
驚く5人へと竜王が火を噴いた。紡が白いドレスの裾を揺らしひらりと跳び、その背後で太郎丸があの盾を構える。
「本気なのですか?」
竜王に向かって問い掛ける紡。
「我が備えるこの盾はどんな灼熱の炎も通さぬものなり。その灼熱、すべて受けきって見せよう!」
炎を退けた太郎丸が言い放ち、いつの間にか背後にまわっていた浅葱の拳が竜王の羽の付け根あたりへと1撃、2撃と連打する。
さあっ問題ですっ
「私の一番の武器は何でしょうかっ。1左の拳っ2右の拳っ正解は?」
反動で離れてゆく浅葱へと振り返った竜王の拳が空から振ってくる。
「フェフェフェ、空中では避けきれまいて」
その巨大な腕が途中で斬り裂かれ血の雨が降る。一角獣に乗った紡の剣、レッドラムが竜王の腕を深く激しく切り裂いていたのだ。
「それは……仲間の攻撃ですねっ」
ボタボタを振り注ぐ血の雨をかいくぐり浅葱が走り、地面スレスレを併走するように一角獣に騎乗した紡が飛ぶ。
「いいですね、ファンタジーな戦闘、いつものとは違うスリルがあるですよ!」
二人を追う竜王のもう1片方の腕に長くしなる強靱なツルが絡みついた。
「竜王といえど、自由にさせるわけにはまいりませんわ」
つばめの力が植物のツルを武器に変えている。
「ちょこざいなぁああ!」
竜王が大きな口を開け、今度はつばめへと攻撃が向く。思いっきり放たれた炎の奔流を今度も退けたのは太郎丸とその盾だった。
「どんな攻撃にも負けずに耐えきってみせる!これがボクの戦い方ですっ!!」
「よくやった!」
遥か遠くで颯の声がする。
「ほら、足下がお留守なのですっ」
「上も注意力散漫です!」
浅葱と紡が上と下からほぼ同時に仕掛けてゆく。
「うわあああっ」
バランスを崩した竜王。そこにつばめが間合いを詰める。
「爆ぜろ! 鬼丸!!」
何時の間に突き立てたのか、双刀の奥から急成長した棘あるツルが竜王の身体を引き裂いてゆく。
「見事じゃ」
柔らかい声と共に世界は暗転し、夢の世界に囚われた者達はあるべき世界へと戻っていった。
「わたくしにここを降りろとおっしゃいますの?」
西荻 つばめ(CL2001243)は老婆達に丁寧に尋ねた。
「その通りじゃ。金の目の乙女よ」
「剣が欲しいのなら下じゃ」
「別の物を望むかえ?」
「……いいえ!」
きっぱりとつばめは言う。
「わたくし、一度決めたことを変えるのはあまり好きではありません。それでどのような結果となっても、誰かに責任を押しつけるような真似は致しません」
荷物もないつばめは断崖絶壁に掛けられている縄ばしごに足を掛け、ゆっくりとさがってゆく。ちらりと下を見るが、あまりにも遠くてどこまで続いているのか見えてこない。慎重にしかし大胆に、つばめはどんどん下へと降りる。いつしか周囲は明るくなり、風にゆれる草原が見えてくる。
「まぁ……」
老婆達がいた上とは違う別世界につばめはびっくりする。縄ばしごから降りると、ふわりとした土の感触があった。風に切りそろえた黒髪が揺れ、長い袖がひるがえる。海原の様に風で緑の草がうねる美しい光景に見入っていると、はるか向こうに何かが光った。
「あれは?」
ゆっくりと歩き始めたつばめだが、いつしか小走りに急ぎ出す。大きな岩につきささる細身だが美麗な透き通るような剣。それは伝説のようにここから引き出す者を待っているかのようで……思わず両手が柄にかかる。
「わたくしに力を貸してください」
すると、あっけないくらいに剣は岩から解き放たれつばめの手へと自分をゆだねた。
「ありがとう、ございます」
水晶のように輝く剣を袖にくるみ、つばめは元来た方角へと引き返す。まだ彼女には馬を手に入れなくてはならないのだ。
●馬って馬ですよ?
「馬ってどんな馬がいるんです?」
「……」
『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)の問いに老婆達は顔を見合わせる。どうも紡の問いに見合う答えは用意されていなかったらしい。
「馬といえば馬じゃ」
「そうじゃ、そうじゃ」
「馬が欲しくば右じゃ」
焦った老婆達が追い立てるので、右へと続く道を紡は歩く。実は彼女の歩く速さはとてつもなく遅い。理由は穿いているのがガラスの靴だからだ。
「歩きにくいですねー自分で考えときながら、すげー脱ぎたいです……」
中世のコルセットのように、真冬に生足の女子高生のように、オシャレには犠牲がつきものであるが、ガラスの靴は難易度が高い。
「このままじゃ外反母趾になりますよ! その前に靴擦れで歩けなくなっちゃいます」
もはや馬のゲットは靴擦れになるか、ならないかの死活問題でもあるし、実際歩きたくないし靴を脱いで足が汚れるのも嬉しくない。困った紡の視界に白く小さな点が彼方に見え、それはすぐにこちらに向かってやってくるにつれ大きくなる。
「嘘! ユニコーン?」
それは馬によく似ていたが額に立派な細い角のある一角獣だった。紡の眼前で静かに止まる。
「乗せてくれるの?」
両手を差し出すと一角獣はぷいっとそっぽを向く。
「……ん? ユニコーンは清らかな乙女じゃないとダメですか?」
なんとなく相手がそうだと思っている気がする。
「……あーあ、うんたぶん大丈夫ですよ、清らかです」
疑わし気な目でじっと視られる。
「清 ら か で す! なんですか、あたしのどこが清らかじゃないっていうですか」
紡は強く一角獣のたてがみを掴み、強引にその背に乗り上がった。
●夢の世界のことわり
「お前の様な子供が竜王と戦いなさるか?」
「それは不憫じゃ。新しい年のことわりとはいえ、この様にかわいらしい」
「ほんに、ほんに。このまま婆達とここで待っていてもいいんじゃぞ」
「ふぇふぇふぇ」
3人の老婆ににた~っと笑うのがかなり怖くて、離宮院・太郎丸(CL2000131)は首を振る。
「いいえ、ボクは盾が欲しい。仲間を炎から守る盾が……だから左の道を行きます」
仲間達に任せて戦場から逃げるような卑怯な真似はしたくないし、ここにいるよりは竜王と戦う方が安全な気がする。
「しようがないのぉ」
しぶしぶと老婆達は太郎丸の側から離れ、道を示す。ほどなく分かれ道のところにしゃがみ込んでいる男を見つけた。
「風間さん」
太郎丸が呼ぶ通り、それは風間 颯(nCL2000077)だった。
「あの婆さんたちから無事に脱出するとは、なかなかヤルやないか?」
颯はニヤニヤしながら太郎丸を見つめている。
「あの、ぶしつけですけど風間さんにお願いがあります」
颯の軽口にはつきあわず真剣な口調で太郎丸は話し出す。
「ボクはこれから盾を取りに行きます。もし使われなかったアイテムがあった場合にそれを使用していただく役割をお願いたいんです」
「なんでや?」
「この世界、きっとここの強さよりも、いかにこの世界の住人として役割を果たせるかにかかっている気がします。そのためにも与えられたアイテムはすべからく使用しつつ、必要以上にはかぶらせずに竜が強くなるのを抑止する……そんな作戦なのですっ」
「わかった! ボンの言うことはようわからんけどとにかく引き受けた」
しばらくこの場に留まって様子を見るという颯を残し、太郎丸は先を急ぐ。しばらく行くと潮の香りと波の音が聞こえてくる。
「海?」
道を曲がるとまったく予想しなかった光景が飛び込んでくる。灰色の海が広がっていた。白い波が砂浜に打ち寄せ、一カ所がまぶしく光輝いている。
「なんでしょう?」
好奇心が危機感を上回り、太郎丸はそっと歩み寄る。よくよく見れば、それは光を強く弾いて輝くまぁるい盾であった。
●生まれたての竜王
「それでは張り切っていきましょーかっ。武具が戦力の決定的差ではないのですっ。為すべき意思があればっ」
気合いもテンションもあがりきっている。いかにもそれらしいファンタジーRPG的戦士の装備を身に着けた『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)は走り出す。
「行くと言うが何処へじゃ?」
「選択はもちろん今すぐ行く一択ですって! 竜王のもとへ馬よりも何よりも早く駆け付けるのですよっ」
空気に溶けるように浅葱の姿が老婆達の前から消える。
「ひええぇ。行ってしもうた」
あたふたする老婆達の少し遠くでも、颯があたふたする。
「マジで? 1人で? ど、どないしよっ」
転移した浅葱は重苦しく灰色の雲がたれ込めた広い山頂とおぼしき場所に来ていた。白く長い髪と同じく白く長いマフラーが強い風に吹き上げられる。
「うわ~! なんかそれっぽいラストステージじゃないですかっ!」
中央には赤く光る溶岩がこぽこぽと泡をたて、その端っこになにやら小さな影がある。
「ん?」
なんだろう? と浅葱が1歩足を踏み出す。
「ふ、ふんぎゃあぁぁぁぁ!!」
とんでもない絶叫がその小さな影からほとばしり出る。
「み、耳ぃいい」
あまりの大音量に耳を塞ぐがそれでも頭が痛くなりそうな程圧倒的な音声だ。
「こ、こうなったらこっちも負けないのですっ」
眩い閃光と凄まじい爆音がたった今まで浅葱がいた場所から周囲へと放たれ、同時にあの激しい音がぴたりと止まる。
「ふっ 天が知る地が知る人知らずっ……竜王退治のお時間ですっ」
一瞬で戦闘モードへと変身した浅葱が不敵な笑みを浮かべて立つ。
「君が悪の竜王くんですねっ。生まれたばかりの君を善導するのが勇者であり正義の味方である私の使命です!」
ビシッと浅葱が指を突き付けると暗雲から雷光が輝き、暗い山頂が一瞬強く照らし出され影が払拭される。
そこにいたのは、柔らかそうな白い鱗のある手足と尾、しかし顔と身体はすっかり人間的――いや、人間ならば幼稚園児ほどの幼女の竜王……その幼生だった。
●どうしてこうなった?
「どうするんですか?」
高貴なる姫騎士の装備で一角獣にまたがった紡はひらりと白いマントをなびかせ下馬する。すると、一角獣はすぐに身を翻し、元来た道を引き返したかと思うと背から大きな翼を広げそのまま空へと飛び去って行く。
「あ、信じられないですっ。まさか飛べたなんて!」
さすが夢の世界です。ペガサスと混じっているみたいです。
「ボクも途方に暮れている状態です」
一足先に山頂についた太郎丸がカフェのお盆を一回り大きくした様な丸い盾を手にしながら言う。
「すみませんっ、竜王を調教……じゃなくて躾し直したらなんとかなると思ったんですけどっ」
てへっ! っと浅葱が詫びを言う。幼女であった竜王は太郎丸と浅葱が到着する少し前に第2形態に変化した。
「っていうか、うぬらと戦うのが妾の宿命、存在意義じゃ。四の五の言わずに向かってくるがいい」
と言う竜王は人間でいうと高校生くらいで、視線は己の長い爪に落としたままだ。どうにか形よく削れないかと思案しているらしい。
「やりにくいですねー」
「やりにくいですっ」
「ボクには到底出来ません」
紡も浅葱も太郎丸も、もっとこう荒々しくふてぶてしくおどろおどろしい竜王を想定していたのだ。申し訳程度に手足と尾だけ爬虫類ぽくて後は女子高生みたいな敵じゃない。
「あの~どうなっているのか説明していただけますかしら?」
しとやかに横座りで乗ってきた馬からストンと下りたつばめは大事そうに袖で剣を抱えながら言う。その頃には竜王はOL風のむちむちおねぇさんに成長していた。先に到着していた3人が説明すると、つばめから少し遅れて来た颯がか~と言いながら天を仰ぐ。
「残念すぎる~即席光源氏傍観できたやなんて!」
「やめてください。ボクまで冷たい目で見られます」
太郎丸が切実に訴える。
「でもね、私と戦わないとあなた達は帰れないんでしょうぉ? なら仕方がないわぁ」
無駄に色っぽいOL風竜王が寄せてあげるように身体を抱いていた両腕を広げると、カァッと閃光が皆の目を焼く。
「さぁ、いらっしゃい~」
遥かなる高みから野太くOL風竜王の声がする。そこには最終形態へと進化(?)した巨大なる究極の姿、あの道ばたにうずくまっていた老婆達が合体した姿をしている。
「ふぇふぇふぇふぇ」
驚く5人へと竜王が火を噴いた。紡が白いドレスの裾を揺らしひらりと跳び、その背後で太郎丸があの盾を構える。
「本気なのですか?」
竜王に向かって問い掛ける紡。
「我が備えるこの盾はどんな灼熱の炎も通さぬものなり。その灼熱、すべて受けきって見せよう!」
炎を退けた太郎丸が言い放ち、いつの間にか背後にまわっていた浅葱の拳が竜王の羽の付け根あたりへと1撃、2撃と連打する。
さあっ問題ですっ
「私の一番の武器は何でしょうかっ。1左の拳っ2右の拳っ正解は?」
反動で離れてゆく浅葱へと振り返った竜王の拳が空から振ってくる。
「フェフェフェ、空中では避けきれまいて」
その巨大な腕が途中で斬り裂かれ血の雨が降る。一角獣に乗った紡の剣、レッドラムが竜王の腕を深く激しく切り裂いていたのだ。
「それは……仲間の攻撃ですねっ」
ボタボタを振り注ぐ血の雨をかいくぐり浅葱が走り、地面スレスレを併走するように一角獣に騎乗した紡が飛ぶ。
「いいですね、ファンタジーな戦闘、いつものとは違うスリルがあるですよ!」
二人を追う竜王のもう1片方の腕に長くしなる強靱なツルが絡みついた。
「竜王といえど、自由にさせるわけにはまいりませんわ」
つばめの力が植物のツルを武器に変えている。
「ちょこざいなぁああ!」
竜王が大きな口を開け、今度はつばめへと攻撃が向く。思いっきり放たれた炎の奔流を今度も退けたのは太郎丸とその盾だった。
「どんな攻撃にも負けずに耐えきってみせる!これがボクの戦い方ですっ!!」
「よくやった!」
遥か遠くで颯の声がする。
「ほら、足下がお留守なのですっ」
「上も注意力散漫です!」
浅葱と紡が上と下からほぼ同時に仕掛けてゆく。
「うわあああっ」
バランスを崩した竜王。そこにつばめが間合いを詰める。
「爆ぜろ! 鬼丸!!」
何時の間に突き立てたのか、双刀の奥から急成長した棘あるツルが竜王の身体を引き裂いてゆく。
「見事じゃ」
柔らかい声と共に世界は暗転し、夢の世界に囚われた者達はあるべき世界へと戻っていった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
