自殺団地
自殺団地


●自殺団地
 セミが狂ったように鳴く。なのに、その団地だけは季節を忘れたかのように薄暗く、冷たく、存在していた。いまや住む人もいないがらんどうとした廃墟。そんな場所へ好んで行くのは、自殺志願者と好奇心旺盛な若者しかいなかった。
「なあ、あそこに誰かいないか?」
 小学生3人組みの一人が呟いた。
 市民プールが休みだったので、暇つぶしに幽霊が出ると噂の団地に探検にきた小学生達だ。
「大人……だよな? あれ」
 5階の廊下の端に背の高い男が突っ立っている。
「ヤバイ。叱られる! 逃げるぞ!」
3人は、いっせいに階段をかけおりた。5階から4階そして3階まで下りたところで、少年たちは足をとめた。男が目の前にいるのだ。
「なんで?」
 心臓が激しく鳴る。とても良くないことが起きている、本能が感じた。突然、体が動かなくなった。何が起きたのか分からずパニックになっていると、少年たちの目の前で、男が廊下の柵を飛越え、地上へ落下していった。飛び下り自殺だ。
「……!!」
 声帯を震わせるだけの声にならない悲鳴をあげる。いつの間にか、少年達の周りをカビに覆われた人らしきものが2体、地面を這い近づいてきた。そして、動けない少年達に襲いかかる。ゆっくりと口を開け、カビ人間はふくらはぎに喰らいついた。
「……っ!!」
 ポロポロと涙が頬をつたう。死の恐怖におびえる少年達の背後から、ズズ、ズズ、と何かが忍び寄ってきた。それは、先ほど飛び下り自殺を図った男だった。大きなダメージを負った体を引きずり、階段を一段、一段、上ってくる。そして、また目の前で飛び下り自殺を図った。何度も何度も、男は飛び下りる。
少年達が喰われ尽くすまで、男は死に続けた。
 
●自縛霊について
「廃墟の団地に怨霊があらわれたよ! 皆の力を貸してほしいの!」
 夢見の久方 万里(nCL2000005)が覚者に伝えた。
「場所は自殺の名所としても知られる廃墟の団地だよ。そこに住み着く自縛霊3体が少年を襲うの。自縛霊のランクは、ランク2のカビ人間が2体とランク1の自殺男が1体。心霊系の妖だから物理攻撃はあまり期待できないよ。……そのうえ今回の敵は不意打ちであらわれるよ」
 万里がすまなさそうに呟いた。久方3兄弟の中でも夢見の力が一番強いといわれる万里だが、全てが見えるわけではない。
「確かなのは、今日の午後2時過ぎに3人の少年が怨霊に襲われるということ。敵は3体でチームを組み、団地に来た人間を殺しているの。敵は、補助系の役割をしている自殺男が不意打ちで姿をあらわして、金縛りで体を動けないようにしてくるよ。その後、攻撃系のカビ人間があらわれるの。カビ人間は、動きがすばやくって天井や壁を這って攻撃をしかけてくるはずだよ」
 いったん、言葉をきり集まった覚者を万里は見わたした。
「この団地、興味本位で遊びに行く人が多いから、一階部分だけ出入り口から窓にかけて全て、厚いコンクリートで塞がれてしまったの。どこか一箇所、抜け道があるみたいなんだけど、それがどこかは分からないままなんだ。今から現地にむかえば、少年達が団地に入る前ぎりぎり到着できるよ。皆の活躍を期待しているね! ぜったい、未来を変えてきて!」
 


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:茶銅鑼
■成功条件
1.心霊系妖3体を退治
2.なし
3.なし
こんにちは! ホラーシナリオです。

今回は、スキルや工夫が必要です。
少年達より5分から3分前に覚者はギリギリ到着する予定です。
敵は不意打ちで姿を見せます。小学生は5階で遭遇しましたが、いつどこで現われるか分かりません。ただ、団地にいれば必ず会えます。
団地には少年達以外に人はいませんので、思う存分暴れてください。


敵情報
種類:妖 心霊系
・自殺男 ランク1 1体
性質:不意打ちで姿を見せる。攻撃力は低いが、バッドステータス付与率は極めて高い。
戦闘スキル:
●不気味な足音 遠距離からの全体攻撃+バッドステータス金縛り
回復スキル:
●対象者1人のHP吸収

・カビ人間 ランク2 2体
性質:不意打ちで姿を見せる。すばやい。
戦闘スキル:
●喰らいつく 近距離単体攻撃+バッドステータス毒
●振り落とす(対象者とともに高い場所から落ちる技です。落下中に対象者を殴りつづけながら地面に叩きつけます) 単体攻撃+バッドステータス出血

場所:廃墟の団地一棟
6階建て。中央に階段があり、左右に3部屋ずつ部屋がある。
エレベーター、非常階段はなし。
一階は窓も出入り口も全てコンクリートで塞がれているが、一箇所だけ抜け道がある。ただし、どこにあるかは不明。
半地下になった場所あり。(以前はボイラー室として使われていた)

時間:午後2時 (被害者が現場に現われる5分~3分前に現場に到着)
天気:曇り時々雨
被害者:小学生3人
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年08月30日

■メイン参加者 8人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『天衣無縫』
神楽坂 椿花(CL2000059)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『ロンゴミアント』
和歌那 若草(CL2000121)
『茶を愛する情報屋』
黒漆 夜舞(CL2000035)

●探索
 入道雲は、昼前についに溶けてしまった。いま、廃墟の団地の上空は、灰色の雲が空を覆っている。立ち入り禁止の敷地内。そこに足を踏み入れる複数の影を、団地の屋上に止まるカラスが見つめていた。
「椿花、大人だからオバケなんて怖くなんかないんだぞ! ほ、本当に、本当に怖くなんかないんだぞ……」
 『天衣無縫』神楽坂 椿花(CL2000059)は、ふんわりと広がるスカートをぎゅっと握りしめプルプル震えていた。少女の赤い瞳は涙でうるんでいる。
 そんな椿花の頭を撫でようか、手を握ってあげようか、迷うように信道 聖子(CL2000593)の手が空中をさまよう。
「ふにゅ?」
 何かに気づいた椿花が、そばにいる聖子を見上げた。聖子は小さく咳払いをすると、茶色の髪をかき上げる。成り行きを見守っていた『ロンゴミアント』和歌那 若草(CL2000121)は、微笑を浮かべ、小さくため息をついた。
「子供たちが探検に来るのも分かるけれどもね。妖の出る出ないは別にしても、こういう所で遊ばれたら、親としては心配だと思うわ」
 口調こそやわらかなもの言いだが、意志の強さを感じさせた。
「だ、だけどさ。妖のこと知る前は、……オバケとかすごく怖かったけど、頑張れば自分でも倒せる妖って知ったら……立ち向かう勇気……出てきたよ」
 そう言うのは『Mignon d’or』明石 ミュエル(CL2000172)だ。少し恥ずかしげに上目づかいで皆に話しかけていると、突然、バサバサバサッ羽ばたつ音とともに、
「ばぁ!」
「ひゃぁぁぁ!!」
 椿花とミュエルは互いに抱きしめあい、飛び退く。
「ほっほっほ、……驚かせてしまいましたか。これは失礼。反対側から団地を探索したのですが、これといった抜け道は見当たりませんでしたねぇ」
『茶を愛する情報屋』黒漆 夜舞(CL2000035)は、扇子で口元隠しながら笑った。その笑顔に聖子は若干引きつりながら若草に囁いた。
「夜舞、確実に椿花とミュエルを驚かせにかかっていたわよね……」
こくこくと、若草は無言で頷いた。


「……なんだか探索班はにぎやかだな」
 感情探査のスキルを使用する『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)に、探索班である女性陣の感情が伝わってくる。
「奏空、どうかしたか?」
『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)が、尋ねる。
「ううん。なんでもない。それより、例の小学生が来るよ!」
「おっそうか、……あれか。本当にギリギリのタイミングだったな」
 団地の手前で待ち構えていたトール・T・シュミット(CL2000025)は、自転車を飛ばし近づいてくる少年達を見つめていた。
「俺もあのくらいの時はさんざん探検して、泥だらけになって怒られたもんだ」
 トールは昔を懐かしむような楽しげな口調だった。だが、瞳は厳しい光を宿している。それは、行成も同じだった。
「ああ、好奇心は猫を殺す、というが……探検したい気持ちも分かる」
 小年達と目が合う。2メートル手前で自転車は急ブレーキをかけた。
「こら。ここは危ないから入っちゃダメだって言われなかったか?」
 少年はあきらかに動揺していた。そして、なぜか奏空を睨む。少年達の表情は、大人に喋ったな、と書かれていた。奏空はムッと頬を膨らませ、
「ここは危険なんだぞ! もの凄くな!」
 と叫んだ。
 少年達は互いに目配せし考え込む。ここは年上の男子から選ばれたヤツだけが遊ぶことが許された場所だ。ここを守りきれば、年上の男子に覚えがめでたい。だが、目の前には自分達より少し背の高い少年と、そびえたつモアイ像のような大人が2人いる。
「ここは危険だ。実際、襲われた人がいる、君達のような小学生がな」
「……」
「う、嘘だ」
「脅かす気はないんだが、だからこうやって俺たちが抜け道を塞ぎに来たんだよ」
 さっと顔色が変わる。
「……お、俺たちが喋ったって言うなよ」
 とうとう少年達は抜け道を教えてくれた。覚者が想像したとおり半地下のボイラー室だった。

 雨が降りそうだから帰るように、行成の言葉に少年達は素直に従う。
 その姿が見えなくなるまで覚者達は見送った。

●勘
 全員が揃ったところで、
「では、参りますか」
 夜舞と聖子が最初に潜り込む。危険がないことを確認し、次々と覚者達は団地内に潜入していった。覚者は潜入と同時に覚醒した。そして、抜け道を子供たちが入れないよう塞ぐ。
 太陽の明かりを失った室内を、持参の懐中電灯で照らした。ただ一人、椿花だけは守護使役のリドラをぎゅっと抱きしめている。
「り、リドラ、ともしびもっと明るくして……く、暗いの別に怖くないけど」
 震えながら言う椿花に、リドラは精いっぱい輝く。皆の顔がよく見える。が、一人知らない少女がいた。ツインテールの長い髪に西洋人形のような可憐な容姿。皆に緊張が走る。
「いや……警戒するなよ。オレだ、トールだ」
 陽に焼けた金髪の美丈夫な探偵は、覚醒すると可憐な少女のような姿になってしまうらしい。
「……と、とりあえず、一階から順に見てまわりますか」
 探偵になることを夢見る奏空は、目の前の探偵の姿に驚きを隠しつつなんとか言葉を口にした。

 不意打ちにそなえ、慎重に前へ進む。空はいつの間にかゴロゴロと雷が鳴っている。薄暗い団地内はさらに暗くなっていた。階段を上るとき、角を曲がるとき、天井すら、注意を払い前へ進んだ。
 二階へ進んだとき、何室か部屋の扉が空いていた。そのうちの一室に入る。念のため、扉は開けておいた。と、その時、夜舞と聖子の第六感がビリビリと反応した。
「皆、来た! 玄関に気をつけて!」
 2人は、ほぼ同時に叫ぶ。黒い影がゆらり動く。
 聖子はそのまま防御力をできるだけ上げる。その間にトールはスタッフを手に水礫を放った。
「何があったか知らねーけど、死にきれないならここで死ね!」
 姿をあらわした直後の自殺男に水礫は的中した。自殺男は体をおおきくのけ反る。
 覚醒し23歳の姿になった夜舞の冷たい視線が敵をとらえる。中性的な顔立ちは戦いの中でも笑みを浮かべていた。が、好意的な笑みではない。どこか皮肉めいた雰囲気が漂う笑みだ。細い指先に挟んだ術符を片手に、
「死にたいなら手伝いましょう」
 と、鷹揚に彼女が告げると雷が自殺男の体を貫いた。
「ア゛ア゛ア゛」
 大きく口を開け、覚者に近づこうともがく自殺男。手を伸ばした先は若草だった。緑色の瞳が咎めるように男を睨む。ガード部に4本の小型シリンダーを備えたロングソード、フローラルトリビュートを操る若草が水礫を放った。
 男は大きく目を見開き、そのまま消滅していった。
 が、危険は去ったわけではない。夜舞は前髪で隠れていない右目で辺りを見わたす。
「妖、1体成敗しましたね……あと残り2体」
 夜舞と聖子は周囲を警戒した。
「……来たわ! 構えて!」
 言葉が終る前に天井を這う2体の影が覚者めがけて襲ってきた。
 狙われたのは、行成だ。
 薙刀でカビ人間を威嚇する。が、カビ人間はするりと身をかわし、行成に襲いかかってきた。とっさに、体を横にひらき攻撃をかわす。しかし、わずかに肩をやられた。そこから毒が瞬く間に全身にまわった。
「くそっ!」
 金色の行成の瞳が揺らぐが、狙いを定め水礫を放つ。神秘の力を宿した水がカビ人間を襲う。これにはたまらずカビ人間は大きく跳躍し後退した。
「きゃぁ!!」
 行成と同じく前衛で戦う椿花が叫んだ。もう1体のカビ人間が椿花を襲ったのだ。
 ミュエルが深緑鞭で、椿花を襲うカビ人間を追い払った。
 しかし、椿花の細い腕から鮮血が流れる。紫色に輝く刺青が、どんどん赤く染まっていった。

●血と雨の匂い
「くぅぅぅ……」
 椿花の苦しげな声が漏れる。紫色の炎を纏った刀を支えになんとか立っていた。
「……お兄ちゃん」
 椿花の脳裏に頼もしいお兄ちゃんの顔が浮かんだ。とうとう涙がこぼれてしまった。毒が全身にまわる。その時、椿花の背後から声が聞こえた。
「私達を甘く見ましたか……。工藤様、私は神楽坂様を中心に回復します」
「わかった! 俺は志賀さんを中心に回復する!」
 夜舞が後衛に移動した奏空に声をかける。夜舞と奏空が次々と、演舞・舞衣を発動した。
 大気に含まれる浄化物質が、毒のまわった体を癒してくれる。こんな場所にも浄化物質があることが、椿花にはなんだか不思議に感じた。赤い瞳が強い光を宿す。
「感謝なのだ! 夜舞さん、奏空さん。椿花はオバケなんて怖くないんだぞ!」
 カビ男に邪魔されかけたが、無事に醒の炎により身体力を上げることに成功した椿花は、お返しとばかりに地烈を放つ。カビ男は身をひるがえし天井へ逃げる。が、そこへミュエルの深緑鞭がカビ人間を的確に打った。
「……こ、これ以上、人を傷つけるのは許さないよ」
 スラリとしたモデルのような少女は、ローラーブレードと化した足を巧みに動かし敵に挑んだ。
 若草は五織の彩を敵に放つ。俊敏に避けるカビ人間の行く手には、スタッフを片手に好戦的な笑みを浮かべるトールがいた。情け容赦なくB.O.T.を放つ。
 戦況は、演舞・舞衣をきっかけに好転した。
 奏空は身震いした。初めての戦場なのに自分のやるべきことを知っている。鼓動が早くなる。苦無を持つ手がわずかに淡い痺れを感じる。緊張していることにようやく気づいた。しかし、暦の力が彼を動かした。
「なめんな!」
 武器を手に立ち向かう。
 稲妻の光が室内を一瞬照らす。
 雨が降り始めた。

 雨粒は、激しく窓ガラスに叩きつけられる。暗い湿った室内で、妖との攻防は続いていた。団地前で少年達と会話したのが遠い昔の出来事のように感じた。
「く、思った以上に敵の動きが早いな」
 行成が、苦々しげに呟く。それも無理はない、団地の小さな部屋の中での戦いは想像以上にやりづらい。貫殺撃で敵を牽制するのが精いっぱいだった。
「家具がないだけ、儲けもんかもな」
 トールも同じことを感じていたらしい。
 ――その時、ふいに敵の姿が視界から消えた。
「危ない!」
 仲間の声のする方向へ2人は視線を向けた。
 声は、聖子だった。彼女は叫ぶと同時に、ミュエルを襲おうとするカビ男の前に立ちはだかった。スピードを落とすことなく獲物を狙うカビ男は、聖子と激突し、勢いのまま彼女もろとも窓ガラスを突き破り地上へ落下していった。
「キャァァァ!!」
 一瞬、皆の意識が落下する聖子に向けられた。その隙に、もう1体のカビ人間がすばやく動き、覚者を狙う。ハッと若草が息をのむ。目の前に、カビ人間の姿があった。五織の彩で応戦するも、若草もまた地上に落ちていった。

●雨のち……晴れろ!
「和歌那さん、信道さん!」
 ミュエルは、ローラーブレードとなった足で壁を駆け下りた。車輪が火花を散らす。体の動きを邪魔することのない体操服は、ミュエルの柔らかな体をしなやかに動かした。他の仲間も次々と、2階の部屋の窓から1階へ飛び降りた。
「俺にまかせて!」
 奏空は、地上に下り立つとすぐに召雷を放った。雨が打ちつけるコンクリートの上でカビ人間は体勢を崩す。
 その隙にミュエルとトールが、回復を発動した。
 殴られながら地上に叩きつけられた聖子と若草の傷が癒えていく。
「ん……ありがと。あいつらの攻撃なんてたいした事ないわ。痛いのは一瞬だけだったし」
 聖子はこともなげに言い、立ち上がった。
「狭い室内から出られたのは幸運だったわね」
 若草もまた唇を汚す血をぬぐいながら涼しげに言った。
「クアァァァ」
 カビ人間が2体よろけながら立つ。と、同時に覚者めがけて地面を這いよってくる。
「もう、容赦しない!」
 聖子が隆槍を発動した。瞬く間に地面が槍のように隆起する。
 ダメージを負ったカビ人間のスピードが鈍る。が、俊敏に行く手を変えせまってくる。
 フローラルトリビュートを構えた若草が水礫をカビ人間に放つ。
 地を這うカビ人間の頭や背中に被弾し、敵はコンクリートの上でもがくしかなかった。
「ふふふ、オバケ、バイバイなんだぞ!」
 刀を上段に構えた椿花が、大きく振り下ろす。風を切る音とともに紫色の炎を纏った刀は、カビ人間を切り裂いた。
「クゥアアァ!!」
 口の中までカビで覆われた1体の妖が消えていった。
 残る1体を、冷たい怒気をはなつ行成が見据える。メガネから見える金色の瞳は、冷酷な光を宿していた。無言で敵に向かう。後方の仲間がトドメをさせるよう、ガードに徹した。
「憐れだな……」
 目の前のカビ人間に囁く。
「悲しみの雨にならぬよう……私達が食い止める」
「ガァァァァ!!」
 カビ人間が行成に襲いかかろうと一歩前に出たとき、夜舞の放ったB.O.T.がカビ人間を貫いた。
「…………っ!!」
 衝撃で体をよじらせ地面に跳ねた。空を仰ぎ見る人型のそれは、雨に打たれながらだんだん姿を消していった。


「終った……な」
 トールが呟く。
「ええ、終ったわ……」
 聖子が胸を撫で下ろす。
 ミュエルが雨に濡れた髪を掻き揚げながら笑った。あほ毛が嬉しそうにピコピコ動く。
 くるくると踊る椿花が、空を指差す。
「ねぇ、空を見るのだ。雨が止んだぞ!」
「そろそろ、ここを離れますか? 休むのはここを出てからにしましょう。ここは、非常に空気が悪いですからね」
 もとの10歳の姿にもどった夜舞が、雨で濡れたパーカーの袖をぎゅっと絞りながら言った。
「そうね、抜け穴のことも……役所に報告しなくちゃね」
 若草の言葉にミュエルが頷く。
 
 雲の間から青空が見え始めた。まもなく虹も姿をみせるだろう。
 ほっとした様子の奏空が、戦場となった団地を振り返った。皆もそれに続く。覚者たちは静かに冥福を祈った。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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