思想の毒
思想の毒



 その日、F.i.V.Eの会議室を二つ占領する依頼が出された。
 覚者達はそれぞれ自分が選んだ行動に合った場所へと別れて入る。
「誘導班にようこそ。集まってくれて感謝するぜ!」
 会議室の片方に入ると、久方 相馬(nCL2000004)が笑顔で出迎えた。
「依頼内容の前にまず皆に説明しておきたい事があるんだ。資料を見ながら聞いてくれ」
 先に配られていた資料を手に取ると、ある組織の情報が書かれていた。

『新人類教会』
 元は因子の力を得た能力者を選ばれた新人類と呼んで崇める新興宗教組織であり、現在は「新人類至上主義」を掲げる危険な武装集団である。
 能力者を敵視する憤怒者とは衝突が絶えず、その度に死傷者を出している。また憤怒者でなくとも能力者に否定的な一般人が標的になる事も少なくない。
 また周囲から孤立した能力者や幼い能力者を囲い込み構成員へと教育しているらしく、憤怒者との衝突でその姿が確認されたと言う情報もある。
 警察機構やAAAが検挙に乗り出しているものの、能力者がいる拠点では成果が上がらず苦戦が続いている。

「その組織から内部告発があった。しかも、このF.i.V.Eにだ」
 F.i.V.Eが存在の秘匿を止めたのは最近の事だ。にも関わらず内部告発がこちらに来たという部分に疑問は残るが、だからと言って放置できる内容でもなかった。
 その内容とは、新人類教会の情報を流す代わりに教会に監禁されている女性を救出して欲しいと言うものだ。
「事前にAAAの協力で出来る限り調査はした。流石に告発者の事は分からなかったが、どうも内部で今の組織のやり方に反対している一派がいる事が分かった。その一派の幹部が交換条件で救助して欲しいと言う女性だ」
 F.i.V.Eはこの要請を受ける事にした。
 新人類教会の活動は過激化の一途を辿っており、その活動に能力者――――その活動から考えれば隔者と言っていいだろう存在も関わっているとなれば放ってはおけない。
 女性を救出し情報を得られれば、新人類教会の拠点の活動に対処するのも格段に楽になるだろう。
「救出はもう一つの潜入班が担当する。皆は拠点にいる戦闘員を外に引き付けてもらう」
 潜入班の手引きは告発者が、誘導班の手引きに関しては告発者に協力していると言う人物が来る事になっている。
「目印になるのはこれだ」
 そう言って相馬が取り出したのは黒いフルフェイスのヘルメットとライダースーツだった。
「協力者はこの格好で合流地点にいるそうだ。教会関係者に正体を知られたくないらしい」
 それはF.i.V.E側の覚者にも言える事だった。
 新人類教会がどれだけ危険な組織でも、表向きは能力者の味方である。
 現時点で襲撃者がF.i.V.Eであるとばれるのは告発者にとっても都合が悪いと言う。
「こちらが正体を明かさない限り、この襲撃はF.i.V.Eとは関係ない教会の思想に反対する組織によるものだと誤魔化すのは向こうがやってくれる。皆もこの衣装で正体を隠すようにしてくれ」
 揃いの衣装にするのは素顔を隠す以外にも同じ組織によるものと錯覚させる意味もある。
 調査して分かった事だが、実際に新人類教会と敵対している能力者もいるらしい。知名度の低いF.i.V.Eであれば誤魔化しも効くと言う事だろう。
「誘導班の役目は敵をこちらに引き付ける事だ。早々に逃げ出されて拠点に戻られると潜入班が危険になる。その辺りに気を付けて戦ってくれ」
 それじゃあよろしく頼むと言い、相馬はずいと黒いフルフェイスのヘルメットとライダースーツを覚者達に差し出した。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:
■成功条件
1.教会戦闘員半数以上の撃破
2.FiVEだとばれない事
3.なし
 皆様こんにちは、禾(のぎ)と申します。
 今回の依頼は連動シナリオとなっております。


●注意
 【思想の綻び】に参加しているPCはこちらの依頼には参加できません。もし両方に参加するとどちらか片方の描写がすっぱりと無くなります。
 また今回の依頼は皆様がF.i.V.Eと分からないように正体を隠して頂きます。故意に正体を明かした場合はペナルティ対象となるのでご注意ください。

●補足
 シナリオ内での行動中、PCは基本的にオープニングで用意された衣装を着ている事になりますので、プレイングに衣装を着ると宣言する必要はありません。
 術式や神具を使ったらどちらにしろばれるのではと言う心配もあるでしょうが、その辺りは告発者が別組織だと誤魔化すため気にしなくても問題ありません。
 ただし思い切り武器に個人名が書いてある、F.i.V.Eだと分かる物が明記されているなどあれば布を巻くなりなんなりして隠して下さい。

●特殊ルール
 半数以上の教会戦闘員を逃がすと依頼失敗になった上に連動シナリオ【思想の綻び】にも影響が出ます。注意して下さい。
 また連動シナリオ【思想の綻び】が失敗すると、協力者が作戦は失敗したと撤退を促して来ます。
 戦闘を続行する事は可能ですが、その場合協力者は単独で撤退した上今後協力者としてF.i.V.Eの前に姿を現さなくなります。
 正体がばれても条件1が達成されれば依頼は成功となりますが、協力者は口封じのためだと戦闘不能になった教会戦闘員を殺してしまい、この場合も今後F.i.V.Eの前に姿を現さなくなります。
 結果外部での協力者が減り、新人類教会攻略が難しくなります。

●場所
 拠点は山の中にあり、周囲は道が敷かれた場所以外は草木が生えており視界は多少遮られます。
 教会のような外見をしていますが、十字架ではなく人と言う文字を意匠化したレリーフが飾られているのが特徴です。
 誘導班は基本的に教会の建物には入りません。

・合流場所
 時間は早朝。太陽が昇り始めるくらいのまだ暗い状態です。
 明かりをつけると目立ちますので、戦闘直前まで明かりを点けるのは控えた方がいいでしょう。
 教会の建物から約二十メートル離れた所にあり、協力者はここで覚者達と合流した後教会に襲撃を仕掛け、ここまで敵を誘導して来ます。
 外での集会やイベントに使われる拓けた場所で、地面は均されて所々に石畳も敷かれています。
 教会戦闘員と覚者全員が戦えるくらいの広さはあると考えて下さい。

●人物
・協力者/正体不明
 新人類教会の内部告発者に協力している人物。黒いフルフェイスのヘルメットとライダースーツと言う姿で合流地点に待機しています。
 教会関係者にもF.i.V.Eにも正体を隠しておきたいらしく、教会戦闘員の誘導後はどこかに隠れて次に必要な時まで出てきません。

・教会戦闘員/一般人
 拠点にいる内戦闘を担当するメンバーです。
 憤怒者との戦闘経験はありますが、覚者との戦闘経験はありません。
 教会の思想に染まっており、覚者の事を「教会の思想に反対する能力者」と見ているため説得や買収行為は不可能です。 

●能力情報
・教会戦闘員×12
 基本的には一般人のため、能力は憤怒者相当です。
 半数近くが戦闘不能になると撤退しようとするため、逃がさないよう注意して下さい。

・前衛×6
 ショットガン(遠列/物理ダメージ)
 スタンガン(近単/物理ダメージ+痺れ)

・中衛×4
 アサルトライフル(遠単/物理ダメージ)

・後衛×2
 アサルトライフル(遠単/物理ダメージ)


 情報は以上となります。
 皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2016年01月14日

■メイン参加者 8人■

『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『桜火舞』
鐡之蔵 禊(CL2000029)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『感情探究の道化師』
葛野 泰葉(CL2001242)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)


 日の出前の山の中は暗く、風が吹く度にがさがさと音を立てて揺れる木の葉や細い枝がどこか不気味な雰囲気を醸し出している。
 そんな中、所々を照らす月明かりもあえて避け、黒のライダースーツにフルフェイスのヘルメットを身に着けた覚者が歩く。
(ここまで厳重に姿を隠したのは初めてですね。忍者みたいです)
 ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は体に対して少し大きめのヘルメットのずれを直しつつ他の仲間を見る。F.i.V.Eの覚者と知られないため、全員この衣装だけでなく組織や個人情報を特定できそうな物は隠すと言う徹底ぶりだ。
『ちょっと待った。誰かいる』
 山の中に入ってどれくらい経ったか、暗視により周辺の状況を見ていた成瀬 翔(CL2000063)が全員に送受心を送る。
 木々が途切れて拓けた場所に、覚者達を出迎えるように立つ人影。
 月明かりの下に出てきたのは黒いフルフェイスのヘルメットにライダースーツ姿の人物だった。
 これが協力者か。
 同じヘルメットとスーツに身を包んだ覚者達は、周囲を警戒しながら向かい合う。
「作戦の概要は聞いているか」
 協力者の声は機械で加工されたものだった。よほど正体を知られたくないのだろう。
 風祭 雷鳥(CL2000909)はそれを察し、詮索は置いて協力者の問いかけに答える。
「きみが教会の連中をこっちまで誘導、後はこっちで撃破。合ってるかい?」
 協力者はこくりと頷き、近くに設置されていた時計を指差した。
「誘き出すまで少し時間が掛かる。予定は二十分。それまで待機を」
 言うが早いか協力者は身を翻し木々の間を抜けて行く。
「随分そっけない子だね。私達にも姿を知られたくないみたいだけど、名前くらいは教えて欲しかったかな」
「まあ今は作戦の事もあるから仕方ないだろうね。終わった後にでも話を聞いてみようか」
 共に戦う者としての協力関係のため、その感情を知りたいがため、それぞれ理由は違えど協力者とコンタクトを取ろうとした鳴神 零(CL2000669)と葛野 奏葉(CL2001242)は、肩透かしを食らった気分で消えて行く背を見送る。
 協力者が動く音も風で擦れる木々の音に紛れ、すぐに判別がつかなくなった。
「しかし、新人類教会ねェ」
 暗くてよく見えない新人類教会の建物を見やる風祭・誘輔(CL2001092)の声には少々含むものが感じられた。
「取材中にちらほら耳にしたがまさかこんな形で関わる事になるたァな」
 続く台詞に周囲はなるほどと納得する。
「どうにもその方針とやり方は気にくわないな」
 子供が利用されているという情報を聞いていた事もあり、三島 柾(CL2001148)の表情は厳しい。覚者の保護と言えば聞こえはいいが、新人類教会が武装化と共に実行しているのは幼い能力者の洗脳教育と言ってもいい。
「それを阻止する一歩のためにも、俺達は俺達の役目をはたすのみ……なんてな」
 自分の表情が厳しくなっていくのを少しふざけた調子でほぐし、時計を確認すると、協力者が予定した時間が迫っていた。
 その時、不意に教会の建物の方が騒がしくなる。
 誰ともなく始まったかと反応し、周辺の木立ちの中に身を隠した。
「今回は二面作戦なんだよね」
 鐡之蔵 禊(CL2000029)は木の葉の間から教会の建物を見詰める。
 禊達誘導班が戦っている間に別の場所で待機している潜入班があの建物の中に入るのだ。
 自分達の戦闘が失敗すれば、潜入班の作戦にも影響が出てしまう。
「私も、与えられた役目を全うするよう、頑張るよ!」
 その台詞が終わるか終わらないかの内に黒ずくめの協力者が広場に駆け込んで来た。
「後は任せた」
 覚者達がどこに隠れているのか分かるのだろうか、二手に分かれ身を隠す覚者達の間を通り過ぎざまに言い残し、協力者は近くの木々の間に姿を消してしまった。
 続いて聞こえて来たのは山中に響く騒々しい足音と怒声。
 武装した教会戦闘員がどかどかと広場に駆け込んで来る。
『ショットガンが六人。見えにくいけど腰の辺りにあるのが多分スタンガンだよ。あと六人はアサルトライフル。事前情報通りだね』
 木の葉の間から武装を確認していた雷鳥が翔に伝え、翔はその情報を送受心で全員に送る。
 そして最後尾の教会戦闘員が広場に入ったのを見計らい、作戦はいよいよ戦闘へと移行する。
「止まりなさい! えっとえっと、神様に代わってお仕置きよ!!」
 広場に駆け込んだ教会戦闘員が驚いて後ろを振り向くと、まるでタイミングを計ったかのように抜刀の瞬間を照らし出された零が台詞のぎこちなさに似合わぬ大太刀を構えて立っていた。


「さっきのヘルメットの仲間か!」
 教会戦闘員が零に向けて武器を構る。
 だが、その指が引き金を引く前に鋭い刺突が先行していた別の教会戦闘員を襲っていた。
 手にしたアサルトライフルごと腕を持って行かれそうな衝撃をこらえた教会戦闘員が見たのは、ランスを手にした雷鳥の姿。
「気を付けろ、まだいるぞ!」
 咄嗟に隊列を組んで反撃に移ろうとする教会戦闘員の周囲から、次々と覚者達が現れる。
「通りすがりの正義の味方! あなたの非道、裁きにきたよ!」
 名乗りを上げる禊の体からは活性化された炎が燃え上がっていた。
 その時点で敵が覚者であると気付いただろうが、教会戦闘員達は躊躇う事無く隊列を組んで対抗する意思を示した。
「能力者でありながら教会の敵になるとは、この不心得者め!」
「教会の敵は不心得者? 随分な言いようじゃない」
 暗闇の中雷雲が発生し、生まれ出た雷が獣の牙の如く零の近くにいた教会戦闘員達を引き裂いて行く。
 間を置かず、今度は先行していた教会戦闘員が攻撃を受け始めた。
 突然強烈な二連撃を受けた教会戦闘員が目を見開くと、歪む視界の端に奇妙な仮面の獣が一匹。
 道化の仮面を着けた獣、奏葉はしのびあしからの攻撃に目を白黒させる教会戦闘員の驚きようにひっそり笑う。
「能力者を崇めていてもその力に関しては不勉強のようだね」
 この場にいる教会戦闘員には覚者との戦闘経験はない。
 その代わり、彼等には憤怒者と死傷者を出す事も厭わぬ戦闘経験と信心があった。
「我等の敵を倒せ!」
「すべては新人類世界の為に!」
 自分達を取り囲む覚者達に対して先行した人員とその後ろにいた人員が背中合わせになり、反撃を開始する。
「テメエの信じるもの以外は全て敵か。はっ、笑わせやがる」
 嘲笑する誘輔に突き刺さる弾丸は強化された防御に阻まれ、致命傷にはほど遠い。
「宗教の押し売りはごめんだね」
 教会戦闘員のアサルトライフルを押し退けて誘輔の機関銃が銃弾を撒き散らす。
 ラーラにも教会戦闘員の攻撃は届いていたが、蔵王の効果がダメージを軽減している。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……」
 なるべく正体を隠すため、ラーラはいつもの文句をヘルメットの中で静かに呟く。
 ただし、その手に発生した雷の激しさは些かも変わらず。
「イオ・ブルチャーレ!」
 ラーラから放たれた雷が飛来する中、もう一つ別の激しい雷撃が続いた。
 視線を動かすと、長身の成人男性となった翔がいる。こちらも正体を隠すために喋らないようにしているのだ。その心が怒りに満ちていても。
(子供の能力者教育して戦闘員にしてるって、なんだよ、それ)
 新人類教会が擁する能力者は周囲から孤立した者や、身寄りのいない子供の能力者だ。
 特に子供の能力者であれば洗脳教育に影響されやすい。
(子供は大人に都合のいい道具じゃねーぞ!)
 翔の怒りを込められた雷獣はラーラの雷と共に教会戦闘員を薙ぎ払う。
 活性化した炎の尾を引きながら駆け出す禊。狙いをつけたのは最も体力を削られている戦闘員の一人だ。
「覚者の力を信仰するのは個人の自由だと思うけど……」
 教会戦闘員が手にした銃器は使いこまれており、それを扱う教会戦闘員達の手付も慣れた物だいかにこの武器を使ってきたか想像は容易い。
 何人の人間が傷つき、時に命を奪われたのだろう。
「だけど、それが他人を傷つけていいことにはならない!」
 鋭い蹴りが教会戦闘員達の脇腹にめり込み、口からく苦痛の声と押し出された空気が漏れる。
 仲間をフォローしようと禊を攻撃した戦闘員にも横合いから雷鳥の鋭い蹴りが炸裂した。
「宗教そのものが悪いとまでは言わないさ」
 宗教を支えにする人間は多い。それが悪いとは思わない。
「けど人を傷付ける方便にする奴は最低だ」
 声もなく沈んだ戦闘員を残し、蹄を鳴らして次の敵に向かって駆け出す。
「ま、難しい事は抜きにして、暴れましょうかね」
 この組織を内部告発した者や協力者には思惑があるのかも知れないが、こんな腹の立つ連中が一個でも減るならそれが一番なのだ。
 雷鳥は銃弾飛び交う中を勇ましくランスとスモールシールドを掲げて駆け抜ける。
 柾はその姿を視界に収め、大きくなったものだと一瞬だけ顔を綻ばせた。
 しかし、次の瞬間には突っ込んで来た教会戦闘員のスタンガンを腕ごと弾いて避ける。
 教会戦闘員が手にしたショットガンは広範囲に銃弾をばら撒き、スタンガンは体を痺れさせる。前衛側についた覚者四人には少なからず影響が出ていた。
「これはあまり舐めてかかれないか」
 柾がこぼす隣で回復役の翔が痺れを消すための演舞を行っている。
 回復役は翔一人。加えて二手に分かれた覚者同士の距離は開いており、後衛側に行った四人を回復しようとしても状況によっては断念せざるを得ない事が多々ある。後衛側には実質回復なしと言ってもいい。
 次々と撃ってくるショットガンの攻撃にスーツごと削られつつ、柾も広範囲に気の弾丸を作り出して一斉掃射する。
 倒れたのは二人。
 残り四人の教会戦闘員にも充分ダメージが蓄積されているようだったが、その目をぎらつかせる敵意は全く弱まらない。
「新人類の裏切り者め!」
「この程度の犠牲で私達を止められると思うな!」
 その叫びに柾は眉を顰める。
「新人類教会か……本当に気に食わないな」
 誘導の意味もあって派手に暴れようとは思っていたが、個人的な私情も絡んで暴れてしまいそうだ。


 まだ人数が残っている前衛側だが、後衛側はと言えば教会戦闘員側の最後尾を務めていた二人は一人が零の雷獣の餌食となり、もう一人は誘輔の貫殺撃で沈んだ。
 現在後衛側の覚者四人と戦っているのは中衛に位置していた二人の教会戦闘員である。
 こちらも前後を仲間の壁に挟まれていたからと言って先程まで無傷だったわけではない。
 翔のB.O.Tが、誘輔と零の貫殺撃が、目敏く味方同士が重なった所を狙って中衛にまで攻撃を届かせていたのだ。
 教会戦闘員の後衛二人が倒れた今、その攻撃に晒されるのは手負いの彼等である。
 しかし、中衛を務める二人の様子は憎たらしい敵を前に憤るでもなく、また危険に晒された事による恐怖でもない。
『向こうの二人、何か企んでそうだね』
 違和感を感じた雷鳥が送受心を持つ翔にメッセージを送る。
『何か話し合ってるようだ。細かい所までは聞こえないが、注意した方がいい』
 柾の鋭敏化された聴力にも何かしら届いたらしい。
 二人の言葉が全員に伝わると、他でも何かしら違和感か不審な行動に気付いたらしい。
 それまでとは違う緊張感が覚者と教会戦闘員の間に流れ始めた時、奏葉の爆裂掌が教会戦闘員の一人に多大なダメージを与える。
 その瞬間、残った教会戦闘員がバラバラの方向に走り出す。
「逃がすか!」
 翔のB.O.Tが一人の足を撃ち抜くが、他は振り向きもせずに逃げる。 
 奏葉も残りを追おうとしたが、先程奏葉の爆裂掌を受けた教会戦闘員が最後の力を振り絞るようにしがみついて来た。
 火事場の馬鹿力と言うものか、その両手はぎりぎりと腕を締め付けるが、奏葉の対応はごくあっさりしたものだった。
「君一人に手間をかけている場合じゃないんだ」
 腕を一振り。それだけであっさり離れ、倒れた背に投げるのは冷たい言葉。
「屑は屑らしく死んでくれ」
 動かなくなった教会戦闘員にはそれ以上目もくれず、他の覚者も逃げ出そうとする教会戦闘員の阻止に向かって行く。
 元より警戒していた逃亡だ。手負いな事もあってそれほど俊敏に動けない教会戦闘員は自前の速度と韋駄天足を存分に発揮した雷鳥に回り込まれる。
「無理に追うつもりはなかったんだが、これだけの人数を逃がす訳にはいかない」
 雷鳥に向かって銃を構えた教会戦闘員は追いかけて来た柾の攻撃を受けて膝を付く。もう立ち上がる力は残っていないだろう。
 別の所では他より木々が密集した所に駆け込もうとした者がいたが、刺々しい言葉が足を止めた。
「信者の質で神様のご威光が知れるな」
 嘲る言葉に思わず振り返れば、誘輔が白み始めた空にぼんやり浮かぶ新人類教会のレリーフに向かって実に挑発的なジェスチャーをして見せた。
「こ、こっ……のっ、なんと言う事を!」
 一瞬で顔を真っ赤にした教会戦闘員は憎たらしい誘輔の笑みに気を取られ、背後の存在についぞ気が付かなかった。
「教会には行かせないよ!」
 禊の声を聞き取る前にその蹴りに意識ごと蹴り飛ばされ、教会戦闘員はその場に倒れた。
 次々追い付かれ倒される仲間達の声を背に逃げ続けた残りの戦闘員が広場周辺の茂みを抜け、教会に繋がる道で合流していた。
「なんてことだ! 選ばれし者でありながら、信者を攻撃するなんて!」
「教会に敵対する能力者がこんなに多いとは……!」
 信じられないと嘆く教会戦闘員の声を、零はじっと聞いていた。
「選ばれし人類? 能力者の教会? どうしてそんなものに染まっているの」
 どこか寂しげに聞こえる声と共に振り下ろされた大太刀の刃が肉を断つ音がした。
 倒れて行く教会戦闘員の体ごしに運よく刃から逃れた二人の姿を見て、零は追跡するかどうかと少し考える。
「二人逃げたか」
 不意に聞こえる機械で加工された声。
 零から少し離れた木々の間に黒ずくめの人物が立っていた。
「追わなくてもいいの?」
「作戦は成功した」
 黒ずくめの協力者はそれ以上口にしなかったが、教会の方を見たその仕草からもう一つの作戦の成功を意味しているのだと分かった。
 教会の方へ逃げた戦闘員を追って来た他の覚者達も、零と協力者が慌てる素振りもなく立っているのを見て、自分達の役目が果たせた事を悟る。


 協力者は少しの間教会を見てから覚者達の方へと向き直る。
「向こうも終わる頃だ。協力感謝する」
 そのまま解散となりそうだったが、零が去ろうとする協力者を引き留めた。
「貴方は正体を隠したいみたいだけど私達に知られるのもまずいのかな。これからも協力するとしたらお互いわだかまりが無いようにしたいんだけど、どうかな?」
 零はそう言って自分達も被っている黒いフルフェイスのヘルメットを指す。
「もし次にこの格好の人が出て来ても貴方だって分からないもの。せめて、名前だけでも教えて欲しい」
 協力者の正体や思惑に関しては他にも気になっている者はいて、視線が協力者に集まる。
「秘密はどこから漏れるか分からない」
 それが協力者の答えだった。
 あくまで個人を特定できる情報を隠すつもりらしい。
「そこまで隠した上でこんな作戦を立てるんだ。協力者さんにとって、あそこにいた女性は特別な存在……恋人とかなのかな?」
 頑なに正体を隠されると逆に興味を惹かれるもの。
 それがなくとも人の感情を見る事には少々普通ではない興味を見せる奏葉には、協力者の思惑……と言うよりその感情が気になるようだった。
 その質問は予想外だったのか、協力者から「は?」と間の抜けた反応が出てきた。
 かと思うと頭に手をやり、ヘルメットに阻まれてすぐに下ろす。
「こちらにはこちらの都合がある。それだけだ」
 答えは少しばかり疲れたような感があった。
 その反応はそっけなかった協力者が見せた人間臭いものに思え、満足な答えは得られないながらも奏葉をそれなりに楽しませたらしい。
「そろそろ行け。後はやっておく」
 協力者は地面に倒れている教会戦闘員を肩に担ぎ、広場の方へ去って行く。
 空は大分明るくなり、山中にたむろう黒ずくめの覚者達は非常に目立つ。
 最後に仲間達が潜入した教会の建物を見ると、人と言う文字を意匠化したらしいレリーフが日に照らされて輝いていた。
「これでこの教会も片付くかね」
 雷鳥が見上げたレリーフを見て、零は教会戦闘員の罵る言葉を思い返す。
 彼等が染まる思考は他者を排除するものでしかない。
 世の中皆、手取り協力し合って生きて行くことはできないんだろうか?
 それが難しい事は分かっているが。
「信仰を血で証すのはテメエだけでいいとイエスは原罪を負ったのに皮肉な話だぜ」
 誘輔がまさに血で信仰の証を立てる新人類教会を皮肉る。
 記者として様々な社会を見て来た彼にとって、世界中で戦争の都合のいい口実にされている物を信じる気にもなれないのだろう。
「まあ、何を信じるか信じねえかはテメエの頭と心で考えて決めるさ」
「わけもわからないまま教会を信じさせられたやつもいるんだよな……」
 誘輔の言葉である事を思い出した翔が顔をしかめた。
「教会に利用されてる子供も、この先助けてやれるかな」
 人を排除し人を利用する新人類教会。
 翔の目に移る教会のモチーフはあまりにも空々しい物にしか見えなかった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『第一接近遭遇』
取得者:三島 柾(CL2001148)
『第一接近遭遇』
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『第一接近遭遇』
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『第一接近遭遇』
取得者:風祭・誘輔(CL2001092)
『第一接近遭遇』
取得者:ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『第一接近遭遇』
取得者:鳴神 零(CL2000669)
『第一接近遭遇』
取得者:葛野 泰葉(CL2001242)
『第一接近遭遇』
取得者:風祭・雷鳥(CL2000909)
特殊成果
なし




 
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