暑い中で熱い依頼
●くっそあっついのに、出てくんな!
そこは、『F.i.V.E.』の会議室。
エアコンが稼働していて室内は適温のはずなのだが、久方 相馬(nCL2000004)がソファーに寝そべってぐったりとしてしまっている。
「おー、適当に座ってくれよ」
人一番元気なはずの相馬。一体どうしたのかと覚者達が聞くと、彼はだるそうに体を起こして告げる。
「妖が出るんだ。炎の……ったく、熱いっつーか、暑いったらないぜ」
夢見の力を持つ相馬は、メラメラと燃え盛る炎の妖が被害を及ぼす様を未来視で見たという。彼がだらけているのも、未来視で熱いものを見たのが原因らしい。
「自然現象の一部が意思を持った……あれだ。自然系ってやつだな」
相馬はだらけた表情を引き締め、真面目な顔で語り始める。
この妖によって事件が起こるのは、滋賀県のとある住宅街。
ふらりと現れたその妖は、目についた住居を片っ端から燃やし、人間をも焼死させてしまうのだという。
この炎の姿をした妖はランク1で、3体が現れる。そいつらは見た目通りに炎での攻撃を行う。直接、体当たりを仕掛けてきたり、体から炎を噴き出したりするのが確認されている。
ここで、覚者から質問の声が上がる。確かに大まかな場所はその住宅街と分かっているのだろうが、具体的な場所が分からないのかと。
「うーん、そうだな……」
相馬には「送心」の能力で覚者達に映像として伝える能力はない。しかし、彼は「念写」によって自身の見た情報をプリントアウトする能力がある。
「こいつだ、複数枚欲しけりゃ言ってくれよ」
彼が渡してくれた写真には、黒い瓦葺で2階建て木造の家が写っている。ごく普通の一軒家ではあるが、周囲には密集するように家が立ち並ぶ。この家が燃えてしまうならば、周囲の家も被害は避けられないだろう。
「あ、悪いが、俺達、『F.i.V.E.』のことについては内緒で頼むぜ」
付け加えるように、相馬が言う。場合によっては、一般人が巻き込まれる可能性があるが、『F.i.V.E.』という組織については一般に口外する事は基本的に控えてほしい。
暑い中、走り回り、熱く燃え上がる敵と戦わねばならないという、なんとも難儀な依頼だが、妖による被害を食い止めてほしい。
「俺は知らせることしかできないけど、皆を信じてる。頼んだぜ!」
自身に戦う力を持たない相馬は、妖の殲滅、そして、一般人に被害が及ばないようにと覚者に託す。
それを了承した覚者達は、相馬に思い思いの言葉をかけ、依頼へと赴くのだった。
そこは、『F.i.V.E.』の会議室。
エアコンが稼働していて室内は適温のはずなのだが、久方 相馬(nCL2000004)がソファーに寝そべってぐったりとしてしまっている。
「おー、適当に座ってくれよ」
人一番元気なはずの相馬。一体どうしたのかと覚者達が聞くと、彼はだるそうに体を起こして告げる。
「妖が出るんだ。炎の……ったく、熱いっつーか、暑いったらないぜ」
夢見の力を持つ相馬は、メラメラと燃え盛る炎の妖が被害を及ぼす様を未来視で見たという。彼がだらけているのも、未来視で熱いものを見たのが原因らしい。
「自然現象の一部が意思を持った……あれだ。自然系ってやつだな」
相馬はだらけた表情を引き締め、真面目な顔で語り始める。
この妖によって事件が起こるのは、滋賀県のとある住宅街。
ふらりと現れたその妖は、目についた住居を片っ端から燃やし、人間をも焼死させてしまうのだという。
この炎の姿をした妖はランク1で、3体が現れる。そいつらは見た目通りに炎での攻撃を行う。直接、体当たりを仕掛けてきたり、体から炎を噴き出したりするのが確認されている。
ここで、覚者から質問の声が上がる。確かに大まかな場所はその住宅街と分かっているのだろうが、具体的な場所が分からないのかと。
「うーん、そうだな……」
相馬には「送心」の能力で覚者達に映像として伝える能力はない。しかし、彼は「念写」によって自身の見た情報をプリントアウトする能力がある。
「こいつだ、複数枚欲しけりゃ言ってくれよ」
彼が渡してくれた写真には、黒い瓦葺で2階建て木造の家が写っている。ごく普通の一軒家ではあるが、周囲には密集するように家が立ち並ぶ。この家が燃えてしまうならば、周囲の家も被害は避けられないだろう。
「あ、悪いが、俺達、『F.i.V.E.』のことについては内緒で頼むぜ」
付け加えるように、相馬が言う。場合によっては、一般人が巻き込まれる可能性があるが、『F.i.V.E.』という組織については一般に口外する事は基本的に控えてほしい。
暑い中、走り回り、熱く燃え上がる敵と戦わねばならないという、なんとも難儀な依頼だが、妖による被害を食い止めてほしい。
「俺は知らせることしかできないけど、皆を信じてる。頼んだぜ!」
自身に戦う力を持たない相馬は、妖の殲滅、そして、一般人に被害が及ばないようにと覚者に託す。
それを了承した覚者達は、相馬に思い思いの言葉をかけ、依頼へと赴くのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.全ての妖の討伐
2.目的の家に火の手が上がらないこと
3.なし
2.目的の家に火の手が上がらないこと
3.なし
このクソ暑い中、住宅街に炎の姿をした妖が現れました。皆様のお力で討伐を願います。
以下、詳細です。
●敵
妖:自然系 ランク1×3体。
炎の塊です。地上1~2メートルの間をふわふわと浮いています。近づくと熱さは感じますが、それによって体力が減ることはありません。
物理攻撃、火行スキルがやや効きづらい傾向があります。
・体当たり……特近単・火傷の効果があります。
・炎……特遠列・火傷の効果があります。
●状況
深夜に活動することになります。日が落ちたとはいえかなり暑く、熱帯夜を観測しております。猛暑日までいってないのが、多分気持ち程度の救い。
その中で住宅街一区画を探索し、妖が狙う家を特定する必要があります。ここは、200~300メートル四方くらいの区画です。
どの家かは相馬が念写した写真がありますので、写真と実物をにらめっこすればすぐわかります。ちなみに、黒い瓦葺で2階建て木造の一軒家です。
暑い中、走り回って探すことになりますが、頑張ってください!
それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年08月29日
2015年08月29日
■メイン参加者 8人■

●駆けつける覚者達
滋賀県にある、とある住宅街。
そこに駆けつけたのは、『F.i.V.E.』所属の覚者達である。
「この時間にしては、いやに暑い……」
『幻想下限』六道 瑠璃(CL2000092)は、うだるような暑さに辟易としていた。
「しかも、炎の妖だっていうし……我慢大会じゃないんだからさ。勘弁してもらいたいね」
瑠璃の言葉に、他のメンバーも同意する。皆、暑さで汗を流していたのだ。
「凜は暑いときに熱いのは、超メイワクやと思うんよ」
「この暑い中に炎の妖、確かにご勘弁願いたいですが……。起こるのが分かってる事件を見過ごすわけにいきませんよね」
茨田・凜(CL2000438)、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も暑い中で現れた、熱い妖の存在にうんざりとしていた。しかしながら、被害に合う一般人がいるとあらば、黙ってもいられない。
「火事が多発し、消防が繁忙となるのは乾燥する冬という印象だったが、神秘の前には季節も何もあったものではないな」
熱中症対策の為に、ドリンクなどで水分を取るべきだと、葦原 赤貴(CL2001019)は仲間達へと促す。その対策を行っていないメンバーの為に、彼は飲み物の分配も行っていたようだ。
「妖の退治がんばってみるんよ」
「行くよ、ペスカ」
準備も整い、依頼に当たり始める凛。ラーラも守護使役に優しく声をかけ、皆と一緒に駆け出していくのである。
●妖はどこだ?
さて、8人いる覚者達は、4人ずつ2班に分かれる。時計回り班と反時計回り班とに分かれた一行は、妖の被害に合う家の捜索を開始していた。
各班は用意してもらった写真を数枚持ち、目的の家を探す。また、同じく予め入手していた地図を使い、ラーラが2班で全域の探索ができるルートを決めていたようだ。
こちらは、時計回り班。瑠璃、凛、赤貴、紫堂・月乃(CL2000605)の4人。
一行は目的の家の写真と懐中電灯を手にし、住宅街の一区画の捜索を行う。
「時間的にも、場所的にも、あんまり騒がしくするのは好ましくない。早く見つけて、早く終わらせたいね」
瑠璃はそんな希望を口に出すが、メンバー達の持つ情報は限られる。
手がかりはないかと、写真をくまなく見回す一行。些細な情報でも得られないかと考えていたが、残念ながら、これといった決め手となる追加情報は得られない。
「『黒い瓦葺で2階建て木造の一軒家』を探してみるんよ」
「黒い瓦葺で2階建て木造……なんて、どこにでもあるだろうけど」
凛と瑠璃は一軒一軒確認していく。近くまでいけば、目標の妖の放つ光が視界に入るはずなのだ。
凛はその際、いつでも火が消せるようにと消火栓の位置もチェックしていたようだ。
赤貴は、事後処理連絡用に公衆電話の場所も確認する。やはり、彼も写真からできる限り情報を得ようとしていたが。
「番地が分かれば最上。隣家や電線・電柱の配置が分かるだけでも、絞りやすくなるんだがな」
生憎と、写真に写っているのは、家とそれを取り囲む塀だけ。やむを得ず、彼は一緒に捜索に当たっている月乃と共に、一定距離ごとに塀や電柱の上へ跳び乗り、カメラや双眼鏡で望遠し見渡すなどして、捜索を行う。
赤貴は手にするカメラで多少の補正を期待しつつ調べる。ダメモトでもと彼は判別を行うが、思った通り、暗い中では街灯周辺だけ調べるのがやっとだった。
瑠璃は捜索に当たり、香水と風船を持ち歩いていた。こちらが発見した際の合図にと考えていたのだ。
ただ、こちら側には、目的の家は見当たらない。
「そうなると……」
彼は守護使役ドゥーの力を借り、犬並みの嗅覚である匂いを嗅ぎ分けようと考える。
(まぁ、別に誰でもいいんだけど……、男の匂い覚えるのも、なんだかなぁって思って……)
それは、もう1班の女性メンバー、四条・理央(CL2000070)の匂い。その辺りの考えは、微妙で多感な思春期の男の子の感性によるものだろう。
一方、もう1班。反時計回りに捜索を行う、鈴白 秋人(CL2000565) 、理央、ラーラ、『犬小屋の野獣』藤堂 仁(CL2000921)の4人だ。
別班メンバーの匂いを覚える話を提案していたのは、秋人である。うまく、犬系の守護使役を持つメンバー、瑠璃と仁を2分し、合流を早めようという考えからだ。そして、秋人は自身にも化粧品と自身の匂いを混ぜた香水を纏う。
さらに、秋人は鳥系使役のピヨへ、上空から目的の家を探すようにと指示をしていた。
「今の時代、木造建築も珍しい気もするんですよね」
秋人の着目点に皆、なるほどと頷く。見渡せば、鉄筋コンクリート製の家が立ち並ぶ中、木造はさほど多くはない。理央は特殊な捜索方法もないと、その情報を頼りにして足を使って地道に探す。
「暗い中ですが、手分けして出来るだけ早く目的の家を見つけましょう」
ラーラも可能な限り早く妖を発見する為に、捜索に当たる。各班メンバーのルート作成を行っていた彼女は、通用路も含んでルートを決めていたが、通り抜ける際に班メンバーで左右の家を見る担当の分担も行っていた。
「今回の相手が火の玉ってことだから、焦げた臭いもするかもしれんな」
仁は嗅覚を頼りに、怪しい臭いがしないかと探す。もっとも、焦げた臭いがしたならば、アウトの可能性も濃厚だが……。
第六感を使い、捜索を続ける秋人。彼はその最中ついにそれを見つけた。
写真に写る家と全く同じ、『黒い瓦葺で2階建て木造の一軒家』である。
そして、ふわりと宙から湧き出るように現れる炎。それぞれ、人間の頭よりもはるかに大きい塊だ。それらはまさしく、一行が探していた妖に他ならない。
秋人は発見を察し、すぐに空を舞う守護使役ピヨへ指示を飛ばすと、ピヨは大きく円を描くように飛ぶ。どうやら、別班もそれにすぐ気づいてくれたようだ。
その場のメンバーは、すかさず妖の対応に移るべく、覚醒していく。
「まずは人払いっと、安眠妨害になりませんように」
赤く瞳を変色させた理央はすぐに、この近辺に結界を展開していった。これで外部の人間が近寄ることはしばらくないだろう。
ふわふわ浮かぶ妖に対しては、家屋を守る為にとラーラと仁が立ち塞がる。両腕、両足を犬のそれと化した仁は盾を取り出し、敵の攻撃に備えていた。
「そこまでです、火の玉さん達。ここから先は行かせません」
家の玄関の前に立ちふさがるように立つラーラは、炎の塊に対抗心を見せる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
銀の髪をなびかせて叫ぶラーラ。妖はふわふわと浮かびながらも、覚者が邪魔だと本能で感じ取ったのか、狙いを定めて突っ込んできたのだった。
●家を燃やさせはしない!
そこに駆けつけてくる別班メンバー達。守護使役ピヨと、瑠璃の感じた匂いとで、素早く合流することができたのだ。
駆けつけた瑠璃は、持っていた風船を宙に飛ばす。自分達が発見した場合にと考えて用意したものだったが、戦闘の邪魔だと判断してそれらを宙に放つ。浮かび上がった風船は、空高くに舞い上がっていった。
「消火栓は……」
覚醒してやや大人びた姿へと変わった秋人は、周囲に消火栓がないのを確認する。やや距離がある場所にあるのかもしれない。ならばと水蒸気を集めて壁を作ろうと試みていた。
同じく、駆けつけた凛。覚醒したことで、服の上からでも右肩付近の刺青が青く光っているのが分かる。凛も周りの家に被害がないようにと、秋人同様に水の壁を作ろうと立ち回ろうとするのだが、その2人を妖が襲う。高熱の火の玉による体当たり、そして、飛んでくる炎そのものが、秋人と凛の体を焦がす。
「ものすごく熱いんよ」
「妖の対処をする方が早いですか……」
家を守りたいのは山々だが、まずは妖の対応をせねばならない。傷を負いながらも、凛は下がって仲間の援護を図り始めた。秋人もそちらの対応に回ることにしていたようだ。
そこで、メンバー達は陣形を急いで組み、妖の討伐に改めて当たり始める。
(まだ、大丈夫)
瑠璃は青い瞳でちらりと家の方を見て被害がないことを確認し、英霊の力を引き出して自身の攻撃力を高めていく。
(今回は癒し手もいるし、火付け防止の為、迅速な討伐が望まれる)
その間、飛び出した赤貴。黒い髪は銀色に、その目は真っ赤に染まっていた。
(つまり、オレ自身への負荷は多めに許容すべき……倒しきるまで、走るぞ)
抜剣した赤貴は接敵し、瑠璃と同じく自身の力を強化していった。
理央もやはり先の2人と同様、攻撃前に力を高める。
「今回は、家屋への流れ弾にも注意しないとね」
赤く変色した瞳で、理央は戦況をくまなくチェックする。折角妖を倒しても、火事が発生するようでは冗談にもならないのだ。
後方に下がった凛は、改めて纏霧を使って妖の弱体化を図る。これには妖も抗いきれずにその力を弱められ、炎の勢いが弱まってしまっていた。
とにかく、目の前にある家を守らねばならない。
可能な限り敵を家に向かわせないようにと、覚者達は立ち位置を気遣って戦う。炎が妖と化した相手。熱さを感じる覚者達は汗を垂らしてその討伐に全力を尽くす。
「本当、この熱さは勘弁してほしいね」
瑠璃は強化した力をもって、ロングソードに力を篭めて斬撃を繰り出す。見た目は物理攻撃にも見えるが、覚者は敵の霊的な存在を見極めることでそれを攻撃することもできた。熱さに辟易としながらも、彼は妖を斬り伏せる。
「まだ大丈夫です。このまま攻めましょう!」
ラーラが仲間へと呼びかけて攻撃を仕掛けようとするが。残念なことに後ろからだと通常攻撃が届かない。彼女は仕方なく、少し前に出て通常攻撃を仕掛ける。
「真ん中の敵を先に狙いましょう!」
ラーラは仲間達へと呼びかけ、自身も狙いを定めて数珠を叩きつけんとする。
それに応じて、前に出て遊撃を行おうと考えたのは、月乃だ。普段は小学生の容姿の月乃だが、覚醒すれば大人の容姿へと変貌する。
こちらの前衛メンバーが多いのを幸いと、攻め込もうとする彼女。妖にハンドガンの弾丸をお見舞いする。
「……っ」
しかし、本能だけで動こうとする妖も、月乃が危険と判断したのだろう。冷静に月乃を見定め、連続して攻撃を浴びせかけてきた。
仁がカバーに入ろうとするが、一足遅く。度重なる攻撃に月乃は崩れ落ちてしまう。
仁は仲間1人をあっさり倒すほどの妖の攻撃に驚くも、仲間達へと蒼鋼壁を使って防御面の強化を図っていく。その際、気力の援護を瑠璃が行っていたようだ。
「これ以上やらせねぇ。俺を簡単に突破出来るとは思わないことだねぇ」
その後も、仲間達1人1人に反射攻撃を行う壁を張る仁は、妖に狙われる仲間を守るべく庇い続ける。
確かに、仁は特殊防御に優れる。それだけに特殊攻撃ばかりの妖の盾として機能してはいたのだが、攻撃を受け続けることで少しずつ体に追う火傷の数が増えていく。
「さすがにやるな……」
ランク1とはいえ、妖はやはり脅威だと覚者達は再認識を余儀なくされる。
凛が仲間達に癒しの滴での回復支援へと当たる間、覚者達の全力で妖に攻撃を仕掛けていく。
赤貴はとかく戦場を動き、周囲の高所に飛び乗るなどして範囲攻撃にうってつけの位置を確保し、ハイバランサーで足場の安定を確保しながらも疾風斬りで妖を攻めたてる。
「黒を好んで群がるのは、蚊だけで十分だ……分を弁え、消し飛べ」
赤貴は戦場を駆け抜け、妖の体を切り裂く。物理攻撃ではあったが、それでも、高めた火力での一撃は妖を見事に真っ二つに切り裂く。一瞬燃え上がったように見えた妖。だが、その炎はすぐに鎮火してしまった。
覚者達も疲弊はしてきていたが、残る妖の灯火も徐々に小さくなっている。
理央は流れ弾で家屋が焼けることも留意して立ち回り、神秘の力を持つ水のつぶてを浴びせかけていた。
(気力を使うからね。そう無駄撃ちは出来ないけれど)
ただ、思いのほかすぐには落ちない敵。彼女はさらに連射で仕掛ける。
そこで、妖のともし火が消えかけるのを見た理央は符術を投げつけた後、続けざまに飛剣を投げつける。炎の中心を貫かれた妖は蒸発するようにその場から消えていった。
秋人も水の壁を作ることを断念し、それまで仲間の回復に当たっていたのだが、攻撃を行おうと対象を貫通する波動弾を飛ばす。炎が小さくなってきたことを見た彼だが、生憎と気力が尽きてしまう。
「どんな経緯で現れたかは不明な自然系の妖ですが、容赦はしないし、逃がしませんよ」
彼はトンファーをふるい、仲間達の攻撃に合わせて妖へと叩きつける。その姿を維持できなくなった妖はついにそのともし火が消え、この場からなくなっていった。
妖の消えたその家。熱さが収まったことで、幾分か覚者達の暑さが和らいだのだった。
●くすぶる炎までも鎮火して
妖を倒した覚者達。
月乃が倒れ、秋人が戦いの最中で軽傷を負ってしまっているが、覚者達が善戦したことで家に火はつくことがなく、無事に澄んだようだ。
火の塊の妖がいなくなったとはいえ、まだまだ暑い。それでも、メンバー達は最後の一仕事と、水分補給をしながら動き回る。
「事後処理まで含めての任務だ、気を抜かずに」
赤貴は人がこの場に来てしまう前にと、戦闘で荒れたこの近辺の片づけを手早く行う。
実際、目的の家屋の家主が何事かと家から出てきていたが、理央の使役しているリーちゃんが記憶を吸い取っていた。これも、神秘の秘匿の為である。
瑠璃や凛は、回りに火種が飛び散っていないかと確かめていた。
「どんなに手早く妖を倒せたって、家が燃えてしまったら意味がなくなってしまう」
「あとで風が吹いて、燃えだしたら大変やん」
凛はたまたま、火種を発見する。消えそうではあったが、念の為にと使役のばくちゃんにその火種を食べてもらっていたようだ。
かくして、妖による事件は、覚者の手によって事なきを得る。
しかし、これは妖による事件の1つを解決したに過ぎない。覚者は新たなる事件に備え、その場を立ち去るのである。
滋賀県にある、とある住宅街。
そこに駆けつけたのは、『F.i.V.E.』所属の覚者達である。
「この時間にしては、いやに暑い……」
『幻想下限』六道 瑠璃(CL2000092)は、うだるような暑さに辟易としていた。
「しかも、炎の妖だっていうし……我慢大会じゃないんだからさ。勘弁してもらいたいね」
瑠璃の言葉に、他のメンバーも同意する。皆、暑さで汗を流していたのだ。
「凜は暑いときに熱いのは、超メイワクやと思うんよ」
「この暑い中に炎の妖、確かにご勘弁願いたいですが……。起こるのが分かってる事件を見過ごすわけにいきませんよね」
茨田・凜(CL2000438)、『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も暑い中で現れた、熱い妖の存在にうんざりとしていた。しかしながら、被害に合う一般人がいるとあらば、黙ってもいられない。
「火事が多発し、消防が繁忙となるのは乾燥する冬という印象だったが、神秘の前には季節も何もあったものではないな」
熱中症対策の為に、ドリンクなどで水分を取るべきだと、葦原 赤貴(CL2001019)は仲間達へと促す。その対策を行っていないメンバーの為に、彼は飲み物の分配も行っていたようだ。
「妖の退治がんばってみるんよ」
「行くよ、ペスカ」
準備も整い、依頼に当たり始める凛。ラーラも守護使役に優しく声をかけ、皆と一緒に駆け出していくのである。
●妖はどこだ?
さて、8人いる覚者達は、4人ずつ2班に分かれる。時計回り班と反時計回り班とに分かれた一行は、妖の被害に合う家の捜索を開始していた。
各班は用意してもらった写真を数枚持ち、目的の家を探す。また、同じく予め入手していた地図を使い、ラーラが2班で全域の探索ができるルートを決めていたようだ。
こちらは、時計回り班。瑠璃、凛、赤貴、紫堂・月乃(CL2000605)の4人。
一行は目的の家の写真と懐中電灯を手にし、住宅街の一区画の捜索を行う。
「時間的にも、場所的にも、あんまり騒がしくするのは好ましくない。早く見つけて、早く終わらせたいね」
瑠璃はそんな希望を口に出すが、メンバー達の持つ情報は限られる。
手がかりはないかと、写真をくまなく見回す一行。些細な情報でも得られないかと考えていたが、残念ながら、これといった決め手となる追加情報は得られない。
「『黒い瓦葺で2階建て木造の一軒家』を探してみるんよ」
「黒い瓦葺で2階建て木造……なんて、どこにでもあるだろうけど」
凛と瑠璃は一軒一軒確認していく。近くまでいけば、目標の妖の放つ光が視界に入るはずなのだ。
凛はその際、いつでも火が消せるようにと消火栓の位置もチェックしていたようだ。
赤貴は、事後処理連絡用に公衆電話の場所も確認する。やはり、彼も写真からできる限り情報を得ようとしていたが。
「番地が分かれば最上。隣家や電線・電柱の配置が分かるだけでも、絞りやすくなるんだがな」
生憎と、写真に写っているのは、家とそれを取り囲む塀だけ。やむを得ず、彼は一緒に捜索に当たっている月乃と共に、一定距離ごとに塀や電柱の上へ跳び乗り、カメラや双眼鏡で望遠し見渡すなどして、捜索を行う。
赤貴は手にするカメラで多少の補正を期待しつつ調べる。ダメモトでもと彼は判別を行うが、思った通り、暗い中では街灯周辺だけ調べるのがやっとだった。
瑠璃は捜索に当たり、香水と風船を持ち歩いていた。こちらが発見した際の合図にと考えていたのだ。
ただ、こちら側には、目的の家は見当たらない。
「そうなると……」
彼は守護使役ドゥーの力を借り、犬並みの嗅覚である匂いを嗅ぎ分けようと考える。
(まぁ、別に誰でもいいんだけど……、男の匂い覚えるのも、なんだかなぁって思って……)
それは、もう1班の女性メンバー、四条・理央(CL2000070)の匂い。その辺りの考えは、微妙で多感な思春期の男の子の感性によるものだろう。
一方、もう1班。反時計回りに捜索を行う、鈴白 秋人(CL2000565) 、理央、ラーラ、『犬小屋の野獣』藤堂 仁(CL2000921)の4人だ。
別班メンバーの匂いを覚える話を提案していたのは、秋人である。うまく、犬系の守護使役を持つメンバー、瑠璃と仁を2分し、合流を早めようという考えからだ。そして、秋人は自身にも化粧品と自身の匂いを混ぜた香水を纏う。
さらに、秋人は鳥系使役のピヨへ、上空から目的の家を探すようにと指示をしていた。
「今の時代、木造建築も珍しい気もするんですよね」
秋人の着目点に皆、なるほどと頷く。見渡せば、鉄筋コンクリート製の家が立ち並ぶ中、木造はさほど多くはない。理央は特殊な捜索方法もないと、その情報を頼りにして足を使って地道に探す。
「暗い中ですが、手分けして出来るだけ早く目的の家を見つけましょう」
ラーラも可能な限り早く妖を発見する為に、捜索に当たる。各班メンバーのルート作成を行っていた彼女は、通用路も含んでルートを決めていたが、通り抜ける際に班メンバーで左右の家を見る担当の分担も行っていた。
「今回の相手が火の玉ってことだから、焦げた臭いもするかもしれんな」
仁は嗅覚を頼りに、怪しい臭いがしないかと探す。もっとも、焦げた臭いがしたならば、アウトの可能性も濃厚だが……。
第六感を使い、捜索を続ける秋人。彼はその最中ついにそれを見つけた。
写真に写る家と全く同じ、『黒い瓦葺で2階建て木造の一軒家』である。
そして、ふわりと宙から湧き出るように現れる炎。それぞれ、人間の頭よりもはるかに大きい塊だ。それらはまさしく、一行が探していた妖に他ならない。
秋人は発見を察し、すぐに空を舞う守護使役ピヨへ指示を飛ばすと、ピヨは大きく円を描くように飛ぶ。どうやら、別班もそれにすぐ気づいてくれたようだ。
その場のメンバーは、すかさず妖の対応に移るべく、覚醒していく。
「まずは人払いっと、安眠妨害になりませんように」
赤く瞳を変色させた理央はすぐに、この近辺に結界を展開していった。これで外部の人間が近寄ることはしばらくないだろう。
ふわふわ浮かぶ妖に対しては、家屋を守る為にとラーラと仁が立ち塞がる。両腕、両足を犬のそれと化した仁は盾を取り出し、敵の攻撃に備えていた。
「そこまでです、火の玉さん達。ここから先は行かせません」
家の玄関の前に立ちふさがるように立つラーラは、炎の塊に対抗心を見せる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
銀の髪をなびかせて叫ぶラーラ。妖はふわふわと浮かびながらも、覚者が邪魔だと本能で感じ取ったのか、狙いを定めて突っ込んできたのだった。
●家を燃やさせはしない!
そこに駆けつけてくる別班メンバー達。守護使役ピヨと、瑠璃の感じた匂いとで、素早く合流することができたのだ。
駆けつけた瑠璃は、持っていた風船を宙に飛ばす。自分達が発見した場合にと考えて用意したものだったが、戦闘の邪魔だと判断してそれらを宙に放つ。浮かび上がった風船は、空高くに舞い上がっていった。
「消火栓は……」
覚醒してやや大人びた姿へと変わった秋人は、周囲に消火栓がないのを確認する。やや距離がある場所にあるのかもしれない。ならばと水蒸気を集めて壁を作ろうと試みていた。
同じく、駆けつけた凛。覚醒したことで、服の上からでも右肩付近の刺青が青く光っているのが分かる。凛も周りの家に被害がないようにと、秋人同様に水の壁を作ろうと立ち回ろうとするのだが、その2人を妖が襲う。高熱の火の玉による体当たり、そして、飛んでくる炎そのものが、秋人と凛の体を焦がす。
「ものすごく熱いんよ」
「妖の対処をする方が早いですか……」
家を守りたいのは山々だが、まずは妖の対応をせねばならない。傷を負いながらも、凛は下がって仲間の援護を図り始めた。秋人もそちらの対応に回ることにしていたようだ。
そこで、メンバー達は陣形を急いで組み、妖の討伐に改めて当たり始める。
(まだ、大丈夫)
瑠璃は青い瞳でちらりと家の方を見て被害がないことを確認し、英霊の力を引き出して自身の攻撃力を高めていく。
(今回は癒し手もいるし、火付け防止の為、迅速な討伐が望まれる)
その間、飛び出した赤貴。黒い髪は銀色に、その目は真っ赤に染まっていた。
(つまり、オレ自身への負荷は多めに許容すべき……倒しきるまで、走るぞ)
抜剣した赤貴は接敵し、瑠璃と同じく自身の力を強化していった。
理央もやはり先の2人と同様、攻撃前に力を高める。
「今回は、家屋への流れ弾にも注意しないとね」
赤く変色した瞳で、理央は戦況をくまなくチェックする。折角妖を倒しても、火事が発生するようでは冗談にもならないのだ。
後方に下がった凛は、改めて纏霧を使って妖の弱体化を図る。これには妖も抗いきれずにその力を弱められ、炎の勢いが弱まってしまっていた。
とにかく、目の前にある家を守らねばならない。
可能な限り敵を家に向かわせないようにと、覚者達は立ち位置を気遣って戦う。炎が妖と化した相手。熱さを感じる覚者達は汗を垂らしてその討伐に全力を尽くす。
「本当、この熱さは勘弁してほしいね」
瑠璃は強化した力をもって、ロングソードに力を篭めて斬撃を繰り出す。見た目は物理攻撃にも見えるが、覚者は敵の霊的な存在を見極めることでそれを攻撃することもできた。熱さに辟易としながらも、彼は妖を斬り伏せる。
「まだ大丈夫です。このまま攻めましょう!」
ラーラが仲間へと呼びかけて攻撃を仕掛けようとするが。残念なことに後ろからだと通常攻撃が届かない。彼女は仕方なく、少し前に出て通常攻撃を仕掛ける。
「真ん中の敵を先に狙いましょう!」
ラーラは仲間達へと呼びかけ、自身も狙いを定めて数珠を叩きつけんとする。
それに応じて、前に出て遊撃を行おうと考えたのは、月乃だ。普段は小学生の容姿の月乃だが、覚醒すれば大人の容姿へと変貌する。
こちらの前衛メンバーが多いのを幸いと、攻め込もうとする彼女。妖にハンドガンの弾丸をお見舞いする。
「……っ」
しかし、本能だけで動こうとする妖も、月乃が危険と判断したのだろう。冷静に月乃を見定め、連続して攻撃を浴びせかけてきた。
仁がカバーに入ろうとするが、一足遅く。度重なる攻撃に月乃は崩れ落ちてしまう。
仁は仲間1人をあっさり倒すほどの妖の攻撃に驚くも、仲間達へと蒼鋼壁を使って防御面の強化を図っていく。その際、気力の援護を瑠璃が行っていたようだ。
「これ以上やらせねぇ。俺を簡単に突破出来るとは思わないことだねぇ」
その後も、仲間達1人1人に反射攻撃を行う壁を張る仁は、妖に狙われる仲間を守るべく庇い続ける。
確かに、仁は特殊防御に優れる。それだけに特殊攻撃ばかりの妖の盾として機能してはいたのだが、攻撃を受け続けることで少しずつ体に追う火傷の数が増えていく。
「さすがにやるな……」
ランク1とはいえ、妖はやはり脅威だと覚者達は再認識を余儀なくされる。
凛が仲間達に癒しの滴での回復支援へと当たる間、覚者達の全力で妖に攻撃を仕掛けていく。
赤貴はとかく戦場を動き、周囲の高所に飛び乗るなどして範囲攻撃にうってつけの位置を確保し、ハイバランサーで足場の安定を確保しながらも疾風斬りで妖を攻めたてる。
「黒を好んで群がるのは、蚊だけで十分だ……分を弁え、消し飛べ」
赤貴は戦場を駆け抜け、妖の体を切り裂く。物理攻撃ではあったが、それでも、高めた火力での一撃は妖を見事に真っ二つに切り裂く。一瞬燃え上がったように見えた妖。だが、その炎はすぐに鎮火してしまった。
覚者達も疲弊はしてきていたが、残る妖の灯火も徐々に小さくなっている。
理央は流れ弾で家屋が焼けることも留意して立ち回り、神秘の力を持つ水のつぶてを浴びせかけていた。
(気力を使うからね。そう無駄撃ちは出来ないけれど)
ただ、思いのほかすぐには落ちない敵。彼女はさらに連射で仕掛ける。
そこで、妖のともし火が消えかけるのを見た理央は符術を投げつけた後、続けざまに飛剣を投げつける。炎の中心を貫かれた妖は蒸発するようにその場から消えていった。
秋人も水の壁を作ることを断念し、それまで仲間の回復に当たっていたのだが、攻撃を行おうと対象を貫通する波動弾を飛ばす。炎が小さくなってきたことを見た彼だが、生憎と気力が尽きてしまう。
「どんな経緯で現れたかは不明な自然系の妖ですが、容赦はしないし、逃がしませんよ」
彼はトンファーをふるい、仲間達の攻撃に合わせて妖へと叩きつける。その姿を維持できなくなった妖はついにそのともし火が消え、この場からなくなっていった。
妖の消えたその家。熱さが収まったことで、幾分か覚者達の暑さが和らいだのだった。
●くすぶる炎までも鎮火して
妖を倒した覚者達。
月乃が倒れ、秋人が戦いの最中で軽傷を負ってしまっているが、覚者達が善戦したことで家に火はつくことがなく、無事に澄んだようだ。
火の塊の妖がいなくなったとはいえ、まだまだ暑い。それでも、メンバー達は最後の一仕事と、水分補給をしながら動き回る。
「事後処理まで含めての任務だ、気を抜かずに」
赤貴は人がこの場に来てしまう前にと、戦闘で荒れたこの近辺の片づけを手早く行う。
実際、目的の家屋の家主が何事かと家から出てきていたが、理央の使役しているリーちゃんが記憶を吸い取っていた。これも、神秘の秘匿の為である。
瑠璃や凛は、回りに火種が飛び散っていないかと確かめていた。
「どんなに手早く妖を倒せたって、家が燃えてしまったら意味がなくなってしまう」
「あとで風が吹いて、燃えだしたら大変やん」
凛はたまたま、火種を発見する。消えそうではあったが、念の為にと使役のばくちゃんにその火種を食べてもらっていたようだ。
かくして、妖による事件は、覚者の手によって事なきを得る。
しかし、これは妖による事件の1つを解決したに過ぎない。覚者は新たなる事件に備え、その場を立ち去るのである。
