≪聖夜2015≫幻光雪のパラディーゾ
≪聖夜2015≫幻光雪のパラディーゾ


●迷子おばけの物語
 ――ねぇ、知ってる? 街外れの教会に居る、おばけの話。
 そのおばけはね、まっくらやみの夜におばけになったから、自分がどこへ行けばいいのか分からなくなっちゃったんだって。
 天国への行き方も分からない、地獄にだって行きたくないけど――やっぱり行き方は分からない。困ったおばけはあちこち迷子になって、そしてクリスマスの夜にちいさな教会に辿り着いたの。
 月の光を受けて、鮮やかに浮かび上がるステンドグラス。幾つもの蝋燭の灯りに照らされながら、ぴかぴかと輝く立派な十字架。そして――まるで天使が歌っているような、子供たちのクリスマスソング。
 ――其処で、おばけは思ったんだ。ああ、ここが天国なんだって。
 それからおばけは、その教会で暮らすことにしたんだ。教会からひとが居なくなって、廃墟になって荒れ果ててもずっと。
 だからおばけは、今も居るんだよ。それで、特別なクリスマスの夜にはそっと――教会を訪れた客人に、ささやかなお祝いをしてくれるんだ――。

●聖夜にみる夢
「……これが、子供たちの間で囁かれている、可愛らしい噂。おばけのお話は本当なのかどうか分からないけど、教会に何かが居るって言うのは本当なんだ」
 ちょっぴり悪戯っぽい微笑みを浮かべて、『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)はF.i.V.E.の仲間たちに囁いた。今は廃墟になった街外れの教会――其処を住処にしている古妖が居るようなのだと。
「ぼぅっと仄かに光る、球体……みたいな感じかな。人魂とはまた違うんだけど、妖精の一種なのかもね」
 その姿から、恐らくウィルオウィスプなのかもしれないと瞑夜は言う。……と言うのも『彼』は言葉を発することも無く、また酷く恥ずかしがり屋で、人前に姿を現わすことがほとんどないからだ。
「でもね、クリスマスの夜に教会を訪ねてくれたひとに、彼はささやかな祝福を与えてくれるみたいなんだ」
 ――それは、ウィルオウィスプが見せる一夜のまぼろし。廃教会に一歩足を踏み入れて、そっと色硝子の窓を見上げれば――屋内にふわふわと、光の雪が舞い落ちるのだと言う。それはまるで季節外れの蛍の群れのようでいて、手を差し伸べると仄かにあたたかく、やがて静かに溶けて消えていくのだ。
「きっと、とても幻想的で綺麗な光景なんだろうね。恥ずかしがり屋の古妖さんは、みんなの前に姿を見せるか分からないけど、折角だから此処でクリスマスのお祝いをするのも素敵なんじゃないかなって思って」
 彼が一夜の夢を見せてくれるのなら、此方も存分に楽しんで、教会に賑わいを取り戻すのも良いだろう。歌を歌うのもいいし、プレゼントを交換したりケーキを食べたり――などなど。
「もしケーキを準備するひとが居たら、古妖さんの分を切り分けておくのもいいかも。天使の取り分、じゃないけど、いつの間にかほんの少しケーキが減っている代わりに、ちょっぴり素敵な贈り物をしてくれるみたいだから」
 それは身に纏う、色とりどりの光のヴェールであったり――或いは、ある筈もない光景が、鮮やかな幻となって目の前に広がったりもするらしい。
「例え儚く消えてしまう光でも、思い出の一夜を過ごせるのなら、きっと古妖さんも喜ぶと思うから」
 そう言って瞑夜は、ふわりとした笑みを浮かべて皆を見送る。――どうか聖夜に良い夢を、と呟きながら。


■シナリオ詳細
種別:イベント
難易度:楽
担当ST:柚烏
■成功条件
1.廃教会で楽しくクリスマスパーティをする
2.なし
3.なし
 柚烏と申します。順番が前後してしまったような気もしますが、年末の大掃除もあればクリスマスもありますよね! と言うことで、聖夜のパーティのお誘いになります。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。

●こんな事ができます
・廃教会でしんみり/わいわいひとときを過ごす
・クリスマスケーキを食べつつ、祝福を受ける
・どきどきのプレゼント交換

●古妖ウィルオウィスプ
廃教会に何時しか住み着いた古妖です。青白い光を放つ球体をしているみたいです。恥ずかしがり屋のようで、人前に姿を見せることは滅多にありませんが、クリスマスの夜に教会を訪れたものに、ささやかな祝福を与えるみたいです。
※基本は『教会の中に光の雪を降らせる』演出をしてくれますが、神具庫の『クリスマスケーキ』を装備しており、ウィルオウィスプにケーキを差し入れする方は、大きさに応じて更に恩恵を受けられます(ウィルオウィスプがお礼に力を使ってくれます)。
・(4号)……自分の周りに暫くの間、ヴェールのように光の雪が舞い続ける。
・(6号)……上記に加え、光の色を自由に変えられる。簡単な模様や絵を浮かび上がらせることも可能。
・(20号)……上記に加え、自分と望んだ相手に『思い描いた光景』を見せることが出来る(自分が憶えているのなら、過去に起きた出来事なども可能)。

●プレゼントについて
プレゼントを持ってきて渡すと言う行動は、神具庫の『プレゼントボックス』を装備している方のみ可能といたします。

●その他補足
パーティ開始は夜から、場所は街外れの廃教会です。おばけが住んでいると噂の場所で、実際は古妖のウィルオウィスプが住み着いています。

 ちょっぴり幻想的な夜を過ごすお手伝いが出来ればと思います。ぜひ、素敵な思い出を作ってみてくださいね。それではよろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
22/30
公開日
2016年01月01日

■メイン参加者 22人■

『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)
『海の底』
円 善司(CL2000727)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『デウス・イン・マキナ』
弓削 山吹(CL2001121)

●聖夜の贈り物
 ――聖夜の夜にふと、廃教会に住むおばけの話を、何とはなしに思い出してみる。まっくらやみの夜に天国へも地獄へも行けなくなったおばけは、ちいさな教会から零れる光を見て、此処が天国なのだと思ったお話。
 それはきっと、可愛らしい作り話で。けれど、廃教会には確かに、恥ずかしがり屋の古妖が住み着いていて――聖夜に訪れる客人へ、光の雪を降らせて祝福をしてくれるのだ。
(ずいぶんとかわいらしい、おばけさんの噂ですね)
 かつん、と優雅な靴音を響かせて、誡女はゆっくりと静謐な雰囲気が漂う廃教会を見渡した。思い思いに聖夜を過ごす仲間たちと協力し、埃の積もった教会内の掃除やパーティの準備を終えた後――彼女はそっと、廃教会内の一角へと足を踏み入れる。
(……想いを知るためにも、自ら縁を結ぶことを望むのも、悪くないですね)
 ――やがて誡女の唇から紡がれるのは、楽しくも優しき声なき歌。のんびりと気ままに、ゆっくり過ごすのも悪くないと、瞳を細める彼女の周りには何時しか、淡い緋色の光が舞う。それはやがてまぁるい光球――古妖ウィルオウィスプの姿を取り、誡女はちいさな奇跡のお礼にと、可愛らしいプレゼントの箱を足元に置いたのだった。
「むおー! ミラノもケーキもってくればよかったぁ」
 ウィルオウィスプが見せるまぼろしの光を遠くから眺め、ミラノはちょっぴり残念そう。けれど、みんなとわいわい過ごすクリスマスはとってもハッピーで、ご馳走を食べたりお喋りしたりと、彼女はパーティを満喫していた。
「へいへーい! ミラノのプレゼントはもりだくさんっ! なのっ!」
 やがてプレゼント交換が始まり、ミラノは自分のプレゼントが超いいものだとアピールをする。実は中身は沢山のお菓子で、ひときわ箱が大きい割に軽かったけれど――そんなミラノの手元には、誰のものか分からない不思議な箱が回ってきた。
「こ、これは――っ!!」
 驚愕の声を上げる、彼女が見たその中身とは――。
(……さて、どうなるか)
 服の下の傷痕をそっとさすりながら、行成は守護使役のもちまると一緒に、教会の隅に佇んでいた。とっておきのケーキを、恥ずかしがり屋の古妖に差し入れして――もちーんとしているもちまるを撫でつつ待っていると。
「美しいな、これは……」
 サァと天井の薔薇窓を仄かに照らしながら、降り注ぐのは無数の光。行成がその光景に見惚れていると、その中にひとつ、朱い光が瞬いているのが見える。
 ――それはやがて、人の姿に。長い黒髪をなびかせた女性の後ろ姿になって、気付けば彼は見知った公園の桜並木の中に立っていた。ああ、女性が振り返る。そうして微笑んだ彼女の顔は――。
「……!」
 我に返った其処は、先程と変わらない静寂の教会。束の間のまぼろしに、行成はそっと瞳を和らげて――想像以上の恩恵を得た礼だと、ケーキの横にポインセチアのリースを飾る。
「さぁ、帰ったら私達もケーキを食べよう」
 ――今宵は寝るのが惜しい。付き合ってくれるだろうかと、行成は腕の中のもちまるに問いかけた。

●大切なひとと、思い出を
 古妖狩人との戦いで助けた少年たちとも、一緒に過ごしたいと数多は思っていたのだが――本格的な治療が始まったばかりと言うことで、暫くは絶対安静だと告げられていた。
「そう言うことなら、やっぱり身体を優先してほしいわ。お見舞いに行くならもちろん、一緒に行かせて頂くわ」
 小さなツリーを手に頷く大和に、数多は温かな紅茶を差し入れしつつ告げる。
「そうね、このあと病院に行って、夜爺も心配してたって伝えるわ。……一緒に遊ぼうって言ったんだもの」
 ――ならば、今は気持ちを切り替えてクリスマスを楽しもう。プレゼント交換をする、数多が大和へ贈ったのはふわふわの雪のような髪飾りだ。黒い髪に似合うと思って、と――その言葉に大和は微笑み、お返しにと数多へふわふわのマフラーを渡す。
「メリークリスマス、数多さん」
「うん、ありがとう大和さん……あったかい」
 そうだ、と其処で数多は、こうした方がと呟きマフラーをふたりの肩に巻いた。そうして穏やかなぬくもりに包まれながら、大和は持参したケーキをそっと古妖に捧げる。
「……あら。雪の結晶がピンク色に輝いて、数多さんみたいにかわいい色に変わったわ」
「ま、まあ、桃色の雪が綺麗なのは認めるわよ、うん」
 少し気恥ずかしそうにしつつ、数多はまるで桜の花びらのような光の雪を見上げ――やがて静かに、クリスマスソングを口ずさんだ。
「来年もこれからも、ずっとよろしくね」
 一方、廃教会で古びたパイプオルガンを見つけた御菓子は、簡単に調律を終えてから鍵盤へと指を滑らせる。奏でるのは、聖夜に相応しいクリスマスソングのメドレー。御菓子のオルガンを伴奏に、結鹿は歌声を響かせようとするも――人前で歌う機会が殆ど無かった為、若干緊張しているようだ。
(あ、お姉ちゃん……)
 しかし、此方を見て御菓子が微笑んでくれたのに気付くと、不思議と結鹿の心は落ち着いていった。自分は現代の楽聖、なんて言われている姉の、一番身近に居る人間で――音楽に大切なことは技術より何より、音を楽しむという気持ちだと教わった一番弟子なのだ。
(……そうだ、昔から上手くはなかったかもしれないけれど、歌うことは好きなんでした)
 そう思うといつしか結鹿の胸は弾み、気付けば手拍子をしながらノリノリで歌っていた。やがてうつくしい余韻を残して曲は終わり、御菓子はにっこりと微笑んで結鹿へ向き直る。
「フフッ♪ 一緒に歌ってくれて、本当によかったぁ」
 普段一緒に歌ってくれないから、キーを合わせるのが大変だったと御菓子は悪戯っぽく笑って――そして、初の姉妹リサイタルの記念に、とプレゼントを渡した。
「これからはもっと一緒に、音を楽しむ時間持ってもらうんだからね。覚悟してよね♪ 結鹿ちゃん」
 そんな中、パーティに食べるご馳走をと、亮平は持参した手作りのミートローフを皆に配っていく。
「こうして笑顔で、ケーキ食べたりできるのっていいね」
「ふぁっふぁりくりふふぁすはふぇーひれすおね!」
 育ち盛りの奏空は、満面の笑みでケーキを頬張っているが――多分、『やっぱりクリスマスはケーキですよね!』と言いたかったのだろう。
「そう言えば、可愛らしい噂があったっけ」
 ふとそのことを思い出した亮平は、用意したケーキをそっと切り分けて。そうするとやがて、はらはらと天から金色の光が降り注いできた。それは亮平の守護使役――ぴよーて3世の姿を浮かび上がらせ、きらきら輝く金の雪に、奏空も「わー……」と言葉を無くして宙を見上げているようだ。
(これまで色々あったなぁ。自分が発現して半年……ドタバタと過ぎて行って、振り返る暇なんてそう言えばなかったな……)
 意識するとダメになっちゃう気がして、ただ前を見てた――そんな奏空たちの瞳に映るのは、皆で復興を頑張った時の光景だった。
「……この時、みんなが作ってくれたおにぎりも豚汁も美味かったなぁ」
 当時の様子を思い出した亮平は、こっそりと帽子を取ってお祈りをする。これから先も悔いを残さず、少しでも皆の支えになれますようにと――だから彼は、その隣で奏空が、瞳に滲んだ涙をそっと拭ったことに気付かなかっただろう。そう、願わくば――奏空もまた、思い出の光景を眺めつつ、ただひたすらに祈る。
(皆がこれからも、無事でありますように……)

●あなたとの距離
 寒くないかと善司は、隣で白い吐息を零すミュエルを気遣い――それでもクリスマスらしいパーティに、彼女と一緒に来る事が出来て良かったと思う。
「大丈夫、だよ……。そうだ、古妖さんに……お願い、しようかな……?」
 ケーキを手にミュエルが願うのは、電球の光のような温かい淡金色の雪。そして――舞い落ちる光の雪がふたりを包み込んだと思った瞬間、古びた教会はあたたかくも懐かしい、クリスマスの食卓の光景へと変じていた。
 部屋には大きなツリーが飾られて、テーブルの上には大きなチキンと、白いブッシュドノエル。それはミュエルの故郷で、パパとママと過ごしたクリスマスだ。
「円くんに、家族とのクリスマス……プレゼントしたくて……余計なおせっかい、かな?」
 ――そんな訳ない、と善司は真っ直ぐにミュエルと向き合った。そして彼女にそっと、プレゼントの箱を握らせる。
「この間行った水族館で買った奴なんだけど、気に入ってくれたら……」
 その中身は、ドルフィンリングのネックレス――銀色の二頭のイルカと、紫硝子の宝石がついた指輪にチェーンを通したものだった。本当は指輪だけだったけれど色々考えて、急いでチェーンを通したことは秘密だ。
「これ、俺につけさせてくんない。……良かったら。きっと似合うと思う」
 ふたりを祝福するように、ステンドグラスの下――しんしんと淡金の雪は降り注ぐ。善司は恭しくミュエルの首元にネックレスを飾ると、彼女もまた大切な人へ、イニシャル入りの皮のブレスレットを手渡したのだった。
「若様、外に行きましょう。若様でも出来る、簡単なお仕事がありますよ」
 己の仕える主――成明の出不精をどうにかしようと、加奈が告げた『お仕事』とは。
「教会で過ごすだけなんですけど……駄目、ですか?」
「簡単なれど重要な仕事、か……いいよ、行こうじゃないか」
 まったく、そんな風に頼まれては断れるはずもないだろうにと、成明は思う。自分に付き合わせて、家に篭もりっぱなしにさせるのも健康的じゃないし――メイドの加奈に外の空気を吸ってもらうためにも、と言うことでふたりは廃教会で静かな夜を過ごすことにした。
(騒ぐよりは静かにしている方が、らしい気がします)
 すみっこで雑談をしつつ、それでも流石に寒さは堪える。そっと身体を抱きしめる加奈へ、成明はもっとこっちに来いと、少し寄せられた身を更に抱き寄せて。
「……仕方なくですよ」
 そうして加奈は、成明の為に編んだマフラーをプレゼントとして手渡す。そんなに上手な出来ではないけれどと呟く加奈へ、成明は何も言わなかったが――感謝をしていると告げるように、彼女を抱きしめる手に力をこめた。
「クリスマスの夜に小さな贈り物、か……なんか素敵だね」
「ええ、おばけたちも楽しめるといいですね」
 適当な場所に腰を下ろした紡と千陽は、ふたりだけのささやかなクリスマス会を始める。淋しい場所であっても、思い出は色あせずに残っていたと言うことでしょうか――そう呟いた千陽へ、紡は魔法瓶からココアを注いで手渡した。其処へ可愛いマシュマロを放り込みつつ――ケーキはみっつに切り分けて、残りひとつは恥ずかしがり屋の古妖さんへ。
「マシュマロをココアに浮かべると、美味しいんでしたっけ?」
「ココアとましまろさんは良いコンビだよ?」
 そう言って微笑む紡は、確りココアも三人分用意していて。やがてしんしんと降る光の雪に、ふたりはどちらからともなく目を細めて頭上を仰いだ。
「なんか、花嫁のベールみたいだね……?」
「……雪の結晶は一つとして、同じものはありません。それすべてが美しくて尊いものだと、詠んだ方がいらっしゃるそうです」
 やがて千陽の手が、紡と重ねられ――其処に握られていたのは、雪の結晶のかたちをした銀の栞。自分にとって特別である意味を込めて、親愛なる本の虫へと。呟く千陽に向けて紡は「ありがとう」と照れくさそうにはにかみ、貰った栞をぎゅっと胸元で抱きしめた。
(鳥篭に入る小鳥の意味は、届かないだろうけど……)
 ――離れていく千陽の指を、自分から追いかけていくことは出来なかったけれど。紡は千陽の指が触れる場所にそっと、鳥篭を模したオルゴールが入った箱を置く。
「ありがとう、紡」
 自分だけで楽しむのが勿体ないから――彼女がそうしたように、願いの恩恵をお裾分けしようか。ゆっくりと自鳴琴が優しい音色を奏でる中、紡は切ないまでの祈りを天に捧げていた。
(触れそうで触れられない、指先の距離を縮める勇気をボクに下さい……)

●楽園の記憶
 皆で手分けして教会のお掃除をしてから、クリスマスの飾り付けを行って。酔狂だなと言いつつも、ウェイターのバイトをやっていたと言う誘輔は、皿を並べる手伝いをしてくれていた。けれど、つまみ食いも準備の一環と呟く雷鳥へは、容赦なく突っ込みを入れる。
「あと、ロウソク立ててみんなで歌ったら楽しいよな!」
「歌? えっと、……」
 あたたかな蝋燭の灯が教会を包み込むと、翔はクリスマスソングを歌おうと皆に声を掛け――お菓子を手にした日那乃はぱちぱちと、瞳を瞬きさせつつ合唱に加わった。
(クリスマスはやはり皆で楽しくが、一番よね)
 翼を広げて天辺に輝く星を飾る椿の真ん前に、皆の楽しそうな歌声に惹かれたのか――その時古妖ウィルオウィスプが、ぼぅと姿を現わす。ふるふると、彼は恥ずかしそうに震えているようだったが、青白い光はぽんと椿の胸に飛び込んで来た。
「ふふ、古妖と一緒になんて嬉しいわ」
 有難う、と囁く彼女にウィルオウィスプは祝福を与え、教会の天井をきらきらとした光で彩っていく。彼の分もケーキを並べ終えた翔は、守護使役の空丸を頭上に飛ばし、上からクリスマスの教会を見下ろしていた。
「わぁ、やっぱり綺麗だなぁ。この光景……妹にも見せてやりてーなあ」
 一方の日那乃は、守護使役のマリンにも光の雪を見せてあげたいと言って、ケーキを差し入れしてそっと深呼吸をする。
「光の雪、見せてくれる? 少しあたたかくて消える雪」
 やがてふわりと、日那乃たちの周りに淡い光が舞いだした。手を差し伸べるとほんのりあたたかく、マリンとふたり、まるで光のヴェールに包まれたよう。
(あれ、ケーキの効果かな? 去年の、まだ発現する前のクリスマスの光景が見える)
 と、何時しか翔は、懐かしいまぼろしを目にしていて――若干寂しい気持ちになり、ホームシックかと思うものの、慌てて普段通りの笑みを浮かべた。
「へへっ、らしくねーや! みんな、オレは元気だぜ!」
「はい、翔。いつもお世話になっているから、プレゼントよ」
 そんな翔へ、プレゼントを贈るのは椿。中身は彼に似合うと思って買ったマフラーだ。
「ありがと! オレからもお返し!」
 早速翔もプレゼントを交換――それは妹に贈ったのと一緒の、首にベルのついたリボンが巻かれた、クマのヌイグルミだった。
「あ……」
 そして誘輔は雷鳥とふたり、薔薇窓を見上げている内に懐かしい情景が甦り――その意識は過去へと飛んでいく。
 それは子供の頃、ふたり手を繋いで商店街の安っぽいクリスマスツリーを見に行った思い出。家にはツリーなんてなくて、両親は相変わらず飲んだくれて、親父にぶたれた頬が火みたいに熱くて――。
(あの時は俺も雷鳥も小学生で、妹連れて家出しようとしたのか、一緒に死のうとしたのか覚えてねーけど)
 ――それでも自分は、ツリーの灯に見惚れてぼーっと立ち尽くしていたのだ。
(子供の頃、サンタさんはいないって言われてから一度も、プレゼントを貰った事はなかった)
 雷鳥の胸に過ぎるのも、子供の頃の記憶で――しかしそれは、辛いことばかりではない。ある日、ずっと欲しかったお兄ちゃんがやってきたから、だから自分は奇跡の事は信じている。
 あの時から変わらず自分は馬鹿で、誘兄はしかめっ面だけど――その横顔があの時と違って、純粋に今を楽しんでるように見えたから。
(昔よりは、幸せになってるよね、誘兄……)
 そう思う雷鳥へ、その時不意に誘輔が投げてよこしたのはクリスマスのプレゼント。メリークリスマス、と呟いた彼は、にやりと口角を上げて不敵に笑う。
「チョーカーだ、やるよ。じゃじゃ馬の手綱だ」
「……手綱ってますます馬扱いじゃーん、もっと妹的取り扱いを所望する!」
 面喰いつつも雷鳥もお返しに、メッセージカードつきのメガネケースを誘輔へ渡した。いつもありがとね、と精一杯の感謝をこめて。

 ――それは、聖夜に見るささやかな夢。光の雪はやがて消えても、思い出はいつまでも心に降り積もる。
 ああ、きっと。その夜、此処は確かにパラディーゾ――楽園であったのだ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『光雪のスノードーム』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ククル ミラノ(CL2001142)




 
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