大掃除のための大捕物
●
何かにつけて慌ただしくなる十二月。
今年色々あったとある神社では、またしても何やら騒ぎが起こっていた。
「足元気を付けろ、塵取りに下から掬われるぞ!」
「竹箒とタッグを組ませるな!」
ばたばた走り回るのはこの神社の神主一族。全員がどこの時代劇だと言いたくなるような刺又と網を持っている。
彼等は年末の大掃除に向けて普段より多くの掃除道具を出してきたのだが、突然それが動き出したのだ。
何事かと慌てたものの、彼等も身近に古妖を見て来ただけあって掃除道具が付喪神となったのだと理解した。
しかもこの付喪神、自力で動けるようになってテンションが上がっているのか好き放題に暴れている。
「お猫様」
にゃん……。
「狸様」
キュウ……。
暴れる付喪神と格闘している一族を前に、彼等の長であり神主である中年男性は己が仕える猫神とその子分の化け狸の前に仁王立ちした。
狸は器用に二本足で立っている以外は普通の狸に見えるものの、猫神……神社に長年住み着き、今では守り神として祀られている猫又は二メートル級の巨大猫なのだが、神主を前に二匹揃って小さくなっている。
「この際責任云々は追求しません。とにかく、付喪神を柵の外に出さないようお願い致します」
よろしいですね?
胃を押さえながらの神主の言葉に、猫又とその子分である化け狸は人間臭くコクコクと首を縦に振った。
「新手が来たぞ!」
「あれは天井掃除用の梯子!」
「リーチがまるで違う……!」
背後では付喪神となった道具と神主一族の攻防がますます盛り上がっていた。
●
「付喪神にも色々あるんだな」
久方 相馬(nCL2000004)が見た予知は、何とも奇妙な付喪神だった。
その事件は三毛の猫又を守り神として祀っていると言う、一風変わった神社で起きた。
「猫又には同じ古妖の子分がいるんだが、どうやらそっちが何かしたらしいな」
その古妖は最近猫又の子分として神社に居候している化け狸。
この化け狸、元は自分の体の大きさを変えられる以外は大した力はなく、今回の事もそんな大事になるとは思っていなかっただろう。
「まあ古妖が長年住み着いたような神社だ。元から何らかの影響を受けていたのかもな」
そうして生まれた付喪神は主に神社の掃除に使われる道具だ。
竹箒、塵取り、梯子と言った具合である。
暴れ回る付喪神は神社の外にも飛び出そうとしているが、それを押し留めるために神社を預かる神主一族と一緒に猫又と化け狸も奮闘しているようだ。
「この付喪神は攻撃力が低い。一般人である神主の一族でも対抗できているんだが、下手に強い力で殴り飛ばすと付喪神が抜けた後壊れてしまうようだ」
そのため力の弱い付喪神程度一蹴できる猫又も、巨大化できる化け狸も、柔らかいしっぽや肉球で叩いて付喪神を追い払う程度の事しかしていない。
「皆にはこの付喪神達をなるべく壊さず捕縛して欲しい」
一般人なら壊さず無力化するのは難しいだろうが、覚者であれば不可能ではないだろう。
手加減を間違えて壊してしまう危険はあるので、その辺りは充分注意して欲しい。
「多少壊しても大掃除に支障が出ない程度なら問題なさそうだが、できるだけ壊さないでくれ」
この後神社は年末年始の行事やらなにやらで神主一族は忙殺されるため、この騒ぎが起きただけでも神主の胃は大きなダメージを受けているらしい。
この上掃除道具が軒並み破壊されたとなれば穴が開くかもしれない。
「全部破壊しても神主は怒ったりしないだろうが、なるべく壊さないよう注意して神主の胃も守ってもらいたい。それじゃ皆、よろしく頼むぜ!」
何かにつけて慌ただしくなる十二月。
今年色々あったとある神社では、またしても何やら騒ぎが起こっていた。
「足元気を付けろ、塵取りに下から掬われるぞ!」
「竹箒とタッグを組ませるな!」
ばたばた走り回るのはこの神社の神主一族。全員がどこの時代劇だと言いたくなるような刺又と網を持っている。
彼等は年末の大掃除に向けて普段より多くの掃除道具を出してきたのだが、突然それが動き出したのだ。
何事かと慌てたものの、彼等も身近に古妖を見て来ただけあって掃除道具が付喪神となったのだと理解した。
しかもこの付喪神、自力で動けるようになってテンションが上がっているのか好き放題に暴れている。
「お猫様」
にゃん……。
「狸様」
キュウ……。
暴れる付喪神と格闘している一族を前に、彼等の長であり神主である中年男性は己が仕える猫神とその子分の化け狸の前に仁王立ちした。
狸は器用に二本足で立っている以外は普通の狸に見えるものの、猫神……神社に長年住み着き、今では守り神として祀られている猫又は二メートル級の巨大猫なのだが、神主を前に二匹揃って小さくなっている。
「この際責任云々は追求しません。とにかく、付喪神を柵の外に出さないようお願い致します」
よろしいですね?
胃を押さえながらの神主の言葉に、猫又とその子分である化け狸は人間臭くコクコクと首を縦に振った。
「新手が来たぞ!」
「あれは天井掃除用の梯子!」
「リーチがまるで違う……!」
背後では付喪神となった道具と神主一族の攻防がますます盛り上がっていた。
●
「付喪神にも色々あるんだな」
久方 相馬(nCL2000004)が見た予知は、何とも奇妙な付喪神だった。
その事件は三毛の猫又を守り神として祀っていると言う、一風変わった神社で起きた。
「猫又には同じ古妖の子分がいるんだが、どうやらそっちが何かしたらしいな」
その古妖は最近猫又の子分として神社に居候している化け狸。
この化け狸、元は自分の体の大きさを変えられる以外は大した力はなく、今回の事もそんな大事になるとは思っていなかっただろう。
「まあ古妖が長年住み着いたような神社だ。元から何らかの影響を受けていたのかもな」
そうして生まれた付喪神は主に神社の掃除に使われる道具だ。
竹箒、塵取り、梯子と言った具合である。
暴れ回る付喪神は神社の外にも飛び出そうとしているが、それを押し留めるために神社を預かる神主一族と一緒に猫又と化け狸も奮闘しているようだ。
「この付喪神は攻撃力が低い。一般人である神主の一族でも対抗できているんだが、下手に強い力で殴り飛ばすと付喪神が抜けた後壊れてしまうようだ」
そのため力の弱い付喪神程度一蹴できる猫又も、巨大化できる化け狸も、柔らかいしっぽや肉球で叩いて付喪神を追い払う程度の事しかしていない。
「皆にはこの付喪神達をなるべく壊さず捕縛して欲しい」
一般人なら壊さず無力化するのは難しいだろうが、覚者であれば不可能ではないだろう。
手加減を間違えて壊してしまう危険はあるので、その辺りは充分注意して欲しい。
「多少壊しても大掃除に支障が出ない程度なら問題なさそうだが、できるだけ壊さないでくれ」
この後神社は年末年始の行事やらなにやらで神主一族は忙殺されるため、この騒ぎが起きただけでも神主の胃は大きなダメージを受けているらしい。
この上掃除道具が軒並み破壊されたとなれば穴が開くかもしれない。
「全部破壊しても神主は怒ったりしないだろうが、なるべく壊さないよう注意して神主の胃も守ってもらいたい。それじゃ皆、よろしく頼むぜ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.すべての付喪神の捕縛
2.破壊数を半分以下に抑える
3.なし
2.破壊数を半分以下に抑える
3.なし
この依頼は非常にコメディ色が強くなっておりますので、シリアスな雰囲気がお好きな方はご注意ください。
年末大掃除の時期がやってまいりました。
まずは掃除道具を捕まえる所から始めましょう。
●補足
付喪神の体は普通の掃除道具と変わりません。
付喪神が憑いている間は問題ありませんが、覚者が力いっぱい攻撃し続ければ体力がゼロになって付喪神が抜けると同時に壊れてしまいます。
それを防ぐためには体力が残っている間に捕縛しなければいけません。神社側と協力し、上手い事捕縛して下さい。
掃除道具が半分以上壊れても神主は怒りませんが、依頼は失敗になります。
ちなみにこの依頼で神主と一族が怪我をしても依頼の成否には関係ありません。
●場所
某所にある神社の境内。時間は朝方、日は昇っているので照明は必要ありません。
地面は土がむき出しになっていますがきれいに均されています。
境内の外周は柵で囲まれ外側も雑木林になっており、敷地の外から境内の様子は見えません。
また今回の騒ぎが起きた直後、神主が素早く神社に繋がる道に立ち入り禁止の看板を立てたため、参拝者が来て巻き込まれる心配もありません。
●人物
・猫又(お猫様)/古妖
しっぽの先に鈴と榊をつけた2m級の巨大な三毛の猫又。
神社に「猫神様」として祀られ、この地域一帯の守り神として土地を見守っています。
子分の化け狸の監督不行き届きとして怒られましたが、自覚はあるので真面目に柵に近付いた付喪神を追い払っています。
手加減が苦手なため、壊してしまわないようそれ以上は手を出しません。
・化け狸(狸様)/古妖
猫又の子分になっている化け狸。二足歩行と巨大化する以外は普通の狸とあまり変わりません。
今回の騒動の犯人ですが、ちょっと掃除道具を動かしてビックリさせようとしただけらしく、本人も予想外の展開に驚いています。
力は弱いのですが要領も悪いので、柵に近付いた付喪神を追い払うだけで手一杯です。
・神主/男/一般人
柔和な印象の中年男性。最近胃薬が相棒になりました。
気さくな人柄で一旦状況に慣れればユニークな一面も発揮するようですが、基本的には真面目で苦労人です。
「お猫様」を大事にしており、お猫様のためなら体を張る事を厭いません。
一族を指揮しつつ自身も刺又と捕縛用の網を持って付喪神に対抗しています。
・神主一族×5/二十半ば~五十絡み/一般人
神主と血筋を同じくする一族。若者二人、中年三人。
異常事態に慣れたのか、掃除道具が暴れていると言うのにごく普通に対処に走り回っています。
全員神主と同じく刺又と捕縛用の網を持っています。
・付喪神×8/古妖
化け狸の悪戯が切っ掛けで意志を持って動き出した掃除道具。
あちこち手当たり次第に走り回ったり神主一族を掃除しようとしたりしていますが、悪意からではなく単に自分で動けるようになってテンションが上がっているだけのようです。
●能力
・付喪神×8/古妖
竹箒、塵取り、梯子と種類はありますが、全員攻撃力は非常に弱く一般人である神主一族でも何とか対抗できるくらいです。
ただしとにかく暴れまわるので、壊さないよう捕縛するのは少々骨が折れるでしょう。
・竹箒×3
槍のような攻撃をしてくる付喪神。
塵取りとタッグを組むと塵取りが盾、竹箒が槍と言う行動を取ります。
主に境内の西側で走り回っています。
スキル
・突く(近単/物理ダメージ)
・地面を掃く(近列/物理ダメージ+確率で砂埃が目に入り5ターン命中が下がります)
・塵取り×3
守っては盾、攻めては段平、と格好をつけても塵取りです。能力は他と変わりません。
主に境内の東側で足を掬って転倒させようと走り回っています。
スキル
・塵取りビンタ(近単/物理ダメージ)
・足を掬う(近単/物理ダメージ+確率で転倒し1ターン行動不能になります)
・梯子×2
天井掃除用に使われる4mの木製の梯子。
リーチが長い上にうっかりすると梯子の間にはまってしまうと言う厄介な形状です。
更に他の付喪神と組まれると間にはまった所を狙われる危険もあります。
主に境内中央で横倒しになった状態でぐるぐる回っており、一般人が下手に足を踏み入れると転倒するか脛に一撃くらって痛い思いをします。
スキル
・脛を狙う(近単/物理ダメージ+鈍化)
・覆いかぶさる(遠単/物理ダメージ+確率で1ターン行動不能になります)
情報は以上となります。
皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2016年01月01日
2016年01月01日
■メイン参加者 8人■

●今年の騒ぎ今年の内に
それを何といったものか。超常の力を持ち様々な事件や怪異を目にしてきた八人の覚者達も、適当な言葉を見付けるのに苦労するような光景が広がっていた。
神社の境内を竹箒が走り回り、塵取りが近付いて来た神主一族を足元から掬い上げ、梯子が風を切って回転する。
それを追いかけ回し、あるいは追いかけ回される神主一族は刺又に網を装備している。
「ぼくこういうのアニメ映画でみたことあるよー!」
竹箒が砂埃を上げながら地面を掃いているのを見た御影・きせき(CL2001110)が、顔を輝かせて楽し気に言う。
「掃除道具の付喪神かあ。どうせ動くんだったら勝手に掃除してくれれば楽なのになー」
と、笑っている成瀬 翔(CL2000063)の背後で誰かが脛を強打され悶え苦しむ声が上がった。
「付喪神さんがハッスルしちゃって大変!」
迷家・唯音(CL2001093)の言う通り。今神社は動き出した掃除道具の付喪神の大ハッスルによって、大変な事になっているのだ。
「猫と狸の次は掃除道具か……ほんに賑やかな神社だのぉ」
由衣 久永(CL2000540)が視線を動かせば、境内の柵の前に陣取り外に出ようとする掃除道具を追い払う巨大な猫と狸の姿があった。
「はは、狸様はずいぶん悪戯な守り神なんだな」
工藤・奏空(CL2000955)は思わず悪戯したくなるのもわかるなどと笑っているが、当事者である神主一族にとっては笑いごとでない。
年末なのだ。大掃除に初詣、準備しなければいけない事は山ほどある。
相手は付喪「神」だと言うのに問答無用で刺又を振り回し大立ち回りをしている神主一族の様子が、その余裕のなさを物語っている。
「年末大掃除。古妖、掃除に参戦」
単語を繋げたように喋っていた岩倉・盾護(CL2000549)は塵取りに躓き転んだ五十がらみの男性を見て「けどこれは迷惑」と締める。その通りである。
「ひとまず神主さんに声を掛けて安心して貰いましょう。付喪神より先に神主さんが倒れかねません」
事前の情報で胃薬が相棒と聞いた神主が気にかかるのか、クー・ルルーヴ(CL2000403)が周囲を見回す。
付喪神を追い払う神社の「お猫様」の肉球の所で一瞬視線が止まった気がするが、すぐに別の場所で指示を出している神主服の男性を発見した。胃の辺りを押さえているので間違いないだろう。
「このお仕事が終わったら、私もお掃除を頑張らないといけません」
なので早めに解決しようとでも言うように、柳 燐花(CL2000695)も他の七人と共に神主のもとへと向かう。
大立ち回りをしていても流石に八人もいれば気付かない訳もなく、一番近くにいた神主一族の若者がはっとした顔をする。
「もしかして、そちらはいつかの……」
と、声を掛けたのは久永だった。どうやら以前見かけた事があるらく、久永の顔を確認するとぱっと顔を輝かせて神主の所に走って行った。
「おお! これはこれはお見苦しい所を……ご覧の通り少々立て込んでおりまして……」
若者と一緒に戻って来た神主は、よく見れば顔に何かが打ち付けられたような痕があったり神主服が砂埃で汚れていたりと、隣にいる若者と大差ない荒れ具合だった。
「実はそれを聞いてな。手伝いに来たのだよ」
「すごく困ってるみたいだし、俺達も付喪神の掃除道具の回収手伝うよ!」
久永が頷き奏空が張り切って宣言すると、神主が救いの神でも見るような目になった。
「ありがとうございます! どうかお力添えをお願い申し上げます!」
神主と一緒に若者も頭を下げる。
その声が聞こえていたのか、周囲からも「助けがきた!」などと喜びの声と一緒に、にゃーなどと鳴き声も聞こえて来た。
よし! と気合いを入れた翔の姿が少年のものから長身の青年へと変わって行く。
おお……と思わず声が出た神主と若者に、翔はにっと笑った。
「オレらも協力するぜ! 神主さんの一族の人も一緒に来てくんねーかな」
「勿論です。これは私どもが扱う掃除道具ですから、喜んで働かせていただきます」
翔にそう答えると、神主の号令一下周囲に散らばっていた一族が集まって来た。
その前に柵の所にいる「お猫様」と「狸様」にアイコンタクトを取る。それを受けた猫又と化け狸は任せろと言った仕草を返す。
自分達を捕まえようとしていた人間が離れたため外に出ようとした付喪神達は尻尾と肉球でぽふぽふと追い払われて行く。
その間に覚者達と神主一族はそれぞれが担当する掃除道具を決め、混成チームを組んだ。
「では今年最後の大捕物を始めるとするか」
久永の一言に、覚者と神主一族から応と声が上がった。
●vs塵取り
境内の東側、塵取りたちは近付いて来た燐花ときせきに向かって低空で突撃してくる。
足を掬おうとする攻撃をひらりとかわし、二人はそれぞれの武器を構える。
「よーし、掃除用具さんたちを捕まえるよー!」
「私達が弱らせますので、捕獲はお任せします」
きせきが笑顔で張り切れば、燐花は常と変わらぬ様子で神主一族に言う。
神主一族は大分年下の二人にも真剣な顔で頷いた。
「壊すといけないというのであれば、スキル使用は控えておきましょうか」
燐花は術式を纏わぬ苦無と自身の力で塵取りと戦う。
先程の相手とは勝手が違う威力に押されつつも、スパーン! と平で叩く攻撃を仕掛ける塵取り。
「うねうね蔓攻撃だー! えーい!」
頑張る塵取りにきせきが呼び出した蔓が絡みついた。
「あはは、なんかゲームみたーい!」
きせきの目にはエネミースキャンによる竹箒の体力ゲージが見えている。
「燐花ちゃん、そっちの塵取り弱ってきたよ!」
「こちらですね」
塵取りはじたばたと暴れるが、蔓で動きが鈍り上手くいかない。
が、一体が上手く抜け出したのか暴れる仲間を庇うように飛び出し、後ろから燐花に攻撃をする。平で。
スパーン!
と、いい音を立てて叩かれたのは……。
「……許しません」
衣服の後ろを押さえて振り返った燐花。
もし塵取りに悲鳴を上げる口があれば、間違いなく境内に凄まじい悲鳴が響いただろう。いや、見ていたきせきと神主一族が若干引いてしまうほどの打撃音は響いていたが。
「これ以上やると壊してしまいそうなので、捕まえて頂けますでしょうか?」
「は、はい!」
「燐花ちゃん、もうゲージほとんど残ってないよ」
慌ててお縄にされた塵取りの中で一体がやたらボロボロにされていたが、体力が残っているので問題ない。
●vs竹箒
境内西側に陣取る竹箒達はなかなか好戦的だった。
ちくちくとした穂先を突き出して突撃してきたかと思えば、穂先を足にして踏ん張り硬い柄の部分で攻撃を受け止める。
「ゆいねたちが捕まえるから、神主さんも手伝ってね!」
「勿論です。精一杯努めさせて頂きましょう」
桃色の髪に白とピンクの衣装。ゆいねは可愛らしい雰囲気にそぐわぬ鞭でびゅんびゅん風を切る。
「ご無理はせずに。大掃除の前に体力を使っても辛いでしょう」
「お気遣いありがとうございます」
きりりと竹箒を見据えるクーも竹箒の攻撃をガードしつつ、びしばしと鞭を振り回す。
二人とも普段は違う武器を使っているようだが、なかなかの鞭捌きであった。
そんな二人を見る神主とついてきた五十絡みの一族の目は、娘か孫に向けるほっこりしたものだった。
「俺は覚えたてのスキルでも試させて貰おうかなっと!」
奏空が発生させた雷雲から雷鳴と共に放たれた光が竹箒を纏めて薙ぎ払う。
ゆいねとクーの鞭により既に動きを鈍らせていた竹箒は、凄まじい雷を避ける事ができなかった。
「箒、動き回る、チョット迷惑」
ラージシールドを構え、突撃してくる盾護の体当たりはシールドバッシュと言ってもいいだろう。
実に景気よく竹箒が宙を舞う。
二人を見ていた神主と一族が、息子や孫の試合を応援するような顔をしている。
そんなほのぼのしたまま終わろうとする戦いで、竹箒達の最後の足掻きの砂埃が炸裂する。
「うわ、目に入った!」
「口のなかもジャリジャリするー!」
「こするの駄目。後で洗う」
巻き上がった砂埃は覚者達の目にダメージを与えたが、逆にクーを滾らせてしまったようだ。
「掃除道具が散らしてはいけません!」
メイド服の裾を翻し、クーが鞭を振るう。
その鞭捌きで竹箒はおしおきされ、砂埃のダメージから回復した三人も加わってあえなくお縄になってしまった。
●vs梯子
境内中央。翔と久永の前でぶんぶんと梯子が回転している。
「付喪神が宿る程だ。大事にされてきたであろう。なるべく破壊せぬようにな」
四メートルの長さがある木製梯子。それが二本回っているとなかなかの風圧であるが、久永と翔は怯まない。
「オレらが取り押さえたら網被せて捕獲すんの頼むぜ!」
翔は言うが早いか寄れるものなら寄ってみろと回転する梯子に向かって召雷を放った。
その後を追うように落ちるのは、激しく荒れ狂い体を痺れさせる久永の雷獣。
「む、少々強すぎたか?」
二種の雷に撃たれびくんびくんと痙攣しつつ、梯子もやられっぱなしではなかった。
「おっと、そうきたか!」
塵取りのように低空で突撃してきた梯子を避ける翔。久永は飛行能力を使って宙を飛んで避けた。
覆い被さる攻撃も直線にしか動けない梯子の悲しさか、横に移動されれば自身が地面に倒れるのみ。
逆に梯子の頭上から落ちる翔と久永の雷の威力はどんどん梯子の体力を削ったが、めげない攻撃がついに翔を捉えた。
スコーン! と、実にいい音が鳴る。
覚者は頑丈ではあるが、血も流れるし苦痛も感じる。
「……!……っ!」
かの武蔵坊弁慶すら泣く箇所へのクリティカルヒット。蹲る翔を誰が責められようか。
「痛いそうだのぅ。動けそうか?」
「こ、これくらい大丈夫だぜ!」
がばりと立ち上がる翔。神主一族が拍手している。
その一撃がこの戦いの一番の攻撃だったのか、脛を強打されたせいか若干攻撃の威力が増した翔と久永により、梯子二本も長い体を網と縄でぐるぐる巻きにされ動きを止めた。
「やれやれ、これでひと段落したかの」
いつものように羽扇を揺らそうとした手は馴染んだ手応えがなく、仕方なく鞭の柄を顎に当てる。
境内にいた掃除道具はそれぞれの班によって捕縛され、神社を騒がせた大捕物は一先ず完了となった。
●我が身を振り返りましょう
「ひび割れなし、歪みなし!」
「これならまだ充分使えるな」
ガッチリ縛り付けられた竹箒の穂先を確認し、神主一族は掃除道具の点検を終えた。どうやら壊れそうな道具はなかったようだ。
「誠にありがとうございます。皆様のおかげで捕まえる事が出来ました」
深々と頭を下げる神主に合わせ、点検を終えた一族と猫又と化け狸も一緒に頭を下げる。
「さて、付喪神についてだが……」
と、久永が口を開く。
掃除道具達が揃ってびくりとなった。
ちらと様子を見ると先程までのハッスルぶりは何だったのかと言うくらいしおれている。
それを見て困った奴らよと羽扇の代わりに鞭をとんとんと顎にあてつつ提案する。
「彼らはそのままで良いのではないか? 各々役目を果たしてくれるのなら、掃除も随分と楽になるだろうて」
「テンションを少し下げて、これからはこちらの神主さんと一緒にいるのであればそのままの状態でもいいのじゃないでしょうか」
「オレも賛成! 話が通じるなら、きっと上手くやれると思うぜ!」
「付喪神さんも悪気はなかったんだし、きちんとお掃除できればはかどるよね」
久永に続いて燐花、翔、ゆいねが支持し、他の四人もその方がいいと反対する者はいなかった。
「ふむ……確かにそうですな。彼等は長年使ってきた大切な物です」
覚者達と神主の言葉に、掃除道具達がはっとしたように起き上がる。
が、そこに釘を刺すクー。
「あまり仕事せずに神主さんに迷惑かけると、掃除機に取って代わられるかもしれませんね」
びくん! と、主に竹箒が反応した。
「最近は落ち葉も綺麗にできる室外用掃除機もあるんですよ?」
な、なんだってー!
そんな声が聞こえそうな勢いで竹箒が震える。
「梯子だって今は軽いのに頑丈で折り畳みもできる便利なのがいっぱいあるね」
奏空の言葉に打ちのめされたのは梯子である。
四メートルの木製。折り畳めないし、重い。
「掃除機使う。塵取り不要」
盾護がまだショックが軽そうな塵取りに一撃。
がーん! と、打ちのめされる塵取り。
「そう言えば。掃除道具が付喪神になったのって狸さんがやったんだっけ?」
特に他意はないきせきだったが、びくりと化け狸が震える。
「そうですな……狸様も交えて少しお話しいたしましょうか」
怯える化け狸ににっこりと笑う神主。
「悪戯の罰はおとなしく受けるものだぞ」
あまりの怯えように思わず化け狸を撫でて宥めた久永だったが、助けてくれとしがみついてくるのを抱き上げ渡した先は神主の手だった。
●新しい年に向けて
「雑巾がけ競争だー!」
「負けるかー!」
きせきと翔の元気な声が拝殿の縁側を往復する。
負けじとばかりに雑巾がけをするのは熟練の足捌きを見せる五十絡みの神主一族。
「お猫様、もうちょっと右にお願いします」
にやー。
クーを乗せた猫又がゆっくりと右に動く。
「ゆいねもお手伝いするよー」
一緒に乗せてと掃除道具を抱えてきたゆいねを乗せたのは、神主の説教を無事終えた化け狸だった。
大きな猫と狸に乗った二人はしっかりと鴨などに積もった埃を拭き取って行く。
盾護と奏空は長い板とロープを持って梯子を登っていた。
「よーし、もうちょっと……届いた!」
「板固定。これで便利」
二本の直立した四メートルの間に長い板を渡して足場を作っていたのだ。
「おー、これいいな!」
歓声を上げる神主一族の若者。
固定せずとも直立できるのはこの梯子が付喪神だからだ。二本の梯子の付喪神は足場に乗って天井掃除する者達に喜ばれ、嬉しそうにしていた。
「そちら終わりましたか?」
掃き掃除をしていた燐花が声をかけたのは、タッグを組んで掃除をしていた竹箒と塵取りである。
ただの道具であった頃からセットで使われていただけあって息が合っている。
「綺麗になったのぅ。では次はあちらに行こう」
久永に促され、とことこと次の掃除場所に向かう竹箒と塵取りの足取りはとてもイキイキとしていた。
「大掃除ぴっかぴかだよー!」
しばらくしてゆいねの声が大掃除の終了を告げた。
十四人に古妖、しかも内八体は自分で動く掃除道具。毎年の大掃除と比べるとあっと言う間に終わってしまった。
「結構楽しかったな!」
「掃除も、みなでやると案外楽しいのですよ」
「うん、意外と楽しかった!」
捕り物と掃除をこなした体に暖かいお茶と菓子の甘味がよく沁みる。
翔ときせきはクーの言葉に頷いて菓子を頬張った。
「お猫様と狸様もおつかれさまー」
「マッサージでもしましょうか」
むにむにもふもふ。
ゆいねとクー猫又と化け狸を労いつつ肉球やしっぽを堪能していると、神主がやって来た。
「皆様、お茶のおかわりをお持ちしました。お菓子もまだまだありますよ」
「おお、ありがたい。所で胃の方はどうかの」
久永に聞かれると神主は笑顔で頂いた薬がよく効いたようですと答えた。
その胃痛の原因となった化け狸が申し訳なさそうにしている。
「悪戯好きが増えては神主の胃ももたぬ。反省せねばならんのぅ」
「そうそう、あんまり神主さん達に迷惑かけちゃダメだよー」
久永と奏空に注意されながら撫でられて、化け狸は頷く。
後ろでこれまで何度も騒ぎを起こしていた猫又が誤魔化すように顔を洗っていたが、久永は突っ込みを入れないでおいた。
「大掃除はやはり大切ですね。普段できていないところもしっかり磨き上げることで、観も引き締まるような気がします。」
「年内の汚れ、年内の内に」
自分達も加わって掃除した神社を見渡し、満足そうにお茶を飲む燐花と盾護。
「付喪神も。お疲れ様」
「流石は掃除道具の付喪神です」
掃除道具付喪神は大掃除が終わると自分から仕舞われていた場所へと戻っていった。
大掃除に加わったことで自分達の本来の役目を振り返ったのだろう。
本来ならまた来年までその場所で出番を待つ事になるだろうが、覚者達はそれはないだろうなと思っていた。
クーが言ったように、大変な掃除も皆でやれば楽しい。
人と一緒に掃除する楽しみを覚えた付喪神達は、またその楽しさを味わうために出てくるような気がしていた。
「何はともあれ、これで新しい年も気持ちよく迎えられますね」
早朝から始まった大捕物と大掃除。
日は高くなり、今年最後の一日は穏やかに過ぎて行こうとしていた。
それを何といったものか。超常の力を持ち様々な事件や怪異を目にしてきた八人の覚者達も、適当な言葉を見付けるのに苦労するような光景が広がっていた。
神社の境内を竹箒が走り回り、塵取りが近付いて来た神主一族を足元から掬い上げ、梯子が風を切って回転する。
それを追いかけ回し、あるいは追いかけ回される神主一族は刺又に網を装備している。
「ぼくこういうのアニメ映画でみたことあるよー!」
竹箒が砂埃を上げながら地面を掃いているのを見た御影・きせき(CL2001110)が、顔を輝かせて楽し気に言う。
「掃除道具の付喪神かあ。どうせ動くんだったら勝手に掃除してくれれば楽なのになー」
と、笑っている成瀬 翔(CL2000063)の背後で誰かが脛を強打され悶え苦しむ声が上がった。
「付喪神さんがハッスルしちゃって大変!」
迷家・唯音(CL2001093)の言う通り。今神社は動き出した掃除道具の付喪神の大ハッスルによって、大変な事になっているのだ。
「猫と狸の次は掃除道具か……ほんに賑やかな神社だのぉ」
由衣 久永(CL2000540)が視線を動かせば、境内の柵の前に陣取り外に出ようとする掃除道具を追い払う巨大な猫と狸の姿があった。
「はは、狸様はずいぶん悪戯な守り神なんだな」
工藤・奏空(CL2000955)は思わず悪戯したくなるのもわかるなどと笑っているが、当事者である神主一族にとっては笑いごとでない。
年末なのだ。大掃除に初詣、準備しなければいけない事は山ほどある。
相手は付喪「神」だと言うのに問答無用で刺又を振り回し大立ち回りをしている神主一族の様子が、その余裕のなさを物語っている。
「年末大掃除。古妖、掃除に参戦」
単語を繋げたように喋っていた岩倉・盾護(CL2000549)は塵取りに躓き転んだ五十がらみの男性を見て「けどこれは迷惑」と締める。その通りである。
「ひとまず神主さんに声を掛けて安心して貰いましょう。付喪神より先に神主さんが倒れかねません」
事前の情報で胃薬が相棒と聞いた神主が気にかかるのか、クー・ルルーヴ(CL2000403)が周囲を見回す。
付喪神を追い払う神社の「お猫様」の肉球の所で一瞬視線が止まった気がするが、すぐに別の場所で指示を出している神主服の男性を発見した。胃の辺りを押さえているので間違いないだろう。
「このお仕事が終わったら、私もお掃除を頑張らないといけません」
なので早めに解決しようとでも言うように、柳 燐花(CL2000695)も他の七人と共に神主のもとへと向かう。
大立ち回りをしていても流石に八人もいれば気付かない訳もなく、一番近くにいた神主一族の若者がはっとした顔をする。
「もしかして、そちらはいつかの……」
と、声を掛けたのは久永だった。どうやら以前見かけた事があるらく、久永の顔を確認するとぱっと顔を輝かせて神主の所に走って行った。
「おお! これはこれはお見苦しい所を……ご覧の通り少々立て込んでおりまして……」
若者と一緒に戻って来た神主は、よく見れば顔に何かが打ち付けられたような痕があったり神主服が砂埃で汚れていたりと、隣にいる若者と大差ない荒れ具合だった。
「実はそれを聞いてな。手伝いに来たのだよ」
「すごく困ってるみたいだし、俺達も付喪神の掃除道具の回収手伝うよ!」
久永が頷き奏空が張り切って宣言すると、神主が救いの神でも見るような目になった。
「ありがとうございます! どうかお力添えをお願い申し上げます!」
神主と一緒に若者も頭を下げる。
その声が聞こえていたのか、周囲からも「助けがきた!」などと喜びの声と一緒に、にゃーなどと鳴き声も聞こえて来た。
よし! と気合いを入れた翔の姿が少年のものから長身の青年へと変わって行く。
おお……と思わず声が出た神主と若者に、翔はにっと笑った。
「オレらも協力するぜ! 神主さんの一族の人も一緒に来てくんねーかな」
「勿論です。これは私どもが扱う掃除道具ですから、喜んで働かせていただきます」
翔にそう答えると、神主の号令一下周囲に散らばっていた一族が集まって来た。
その前に柵の所にいる「お猫様」と「狸様」にアイコンタクトを取る。それを受けた猫又と化け狸は任せろと言った仕草を返す。
自分達を捕まえようとしていた人間が離れたため外に出ようとした付喪神達は尻尾と肉球でぽふぽふと追い払われて行く。
その間に覚者達と神主一族はそれぞれが担当する掃除道具を決め、混成チームを組んだ。
「では今年最後の大捕物を始めるとするか」
久永の一言に、覚者と神主一族から応と声が上がった。
●vs塵取り
境内の東側、塵取りたちは近付いて来た燐花ときせきに向かって低空で突撃してくる。
足を掬おうとする攻撃をひらりとかわし、二人はそれぞれの武器を構える。
「よーし、掃除用具さんたちを捕まえるよー!」
「私達が弱らせますので、捕獲はお任せします」
きせきが笑顔で張り切れば、燐花は常と変わらぬ様子で神主一族に言う。
神主一族は大分年下の二人にも真剣な顔で頷いた。
「壊すといけないというのであれば、スキル使用は控えておきましょうか」
燐花は術式を纏わぬ苦無と自身の力で塵取りと戦う。
先程の相手とは勝手が違う威力に押されつつも、スパーン! と平で叩く攻撃を仕掛ける塵取り。
「うねうね蔓攻撃だー! えーい!」
頑張る塵取りにきせきが呼び出した蔓が絡みついた。
「あはは、なんかゲームみたーい!」
きせきの目にはエネミースキャンによる竹箒の体力ゲージが見えている。
「燐花ちゃん、そっちの塵取り弱ってきたよ!」
「こちらですね」
塵取りはじたばたと暴れるが、蔓で動きが鈍り上手くいかない。
が、一体が上手く抜け出したのか暴れる仲間を庇うように飛び出し、後ろから燐花に攻撃をする。平で。
スパーン!
と、いい音を立てて叩かれたのは……。
「……許しません」
衣服の後ろを押さえて振り返った燐花。
もし塵取りに悲鳴を上げる口があれば、間違いなく境内に凄まじい悲鳴が響いただろう。いや、見ていたきせきと神主一族が若干引いてしまうほどの打撃音は響いていたが。
「これ以上やると壊してしまいそうなので、捕まえて頂けますでしょうか?」
「は、はい!」
「燐花ちゃん、もうゲージほとんど残ってないよ」
慌ててお縄にされた塵取りの中で一体がやたらボロボロにされていたが、体力が残っているので問題ない。
●vs竹箒
境内西側に陣取る竹箒達はなかなか好戦的だった。
ちくちくとした穂先を突き出して突撃してきたかと思えば、穂先を足にして踏ん張り硬い柄の部分で攻撃を受け止める。
「ゆいねたちが捕まえるから、神主さんも手伝ってね!」
「勿論です。精一杯努めさせて頂きましょう」
桃色の髪に白とピンクの衣装。ゆいねは可愛らしい雰囲気にそぐわぬ鞭でびゅんびゅん風を切る。
「ご無理はせずに。大掃除の前に体力を使っても辛いでしょう」
「お気遣いありがとうございます」
きりりと竹箒を見据えるクーも竹箒の攻撃をガードしつつ、びしばしと鞭を振り回す。
二人とも普段は違う武器を使っているようだが、なかなかの鞭捌きであった。
そんな二人を見る神主とついてきた五十絡みの一族の目は、娘か孫に向けるほっこりしたものだった。
「俺は覚えたてのスキルでも試させて貰おうかなっと!」
奏空が発生させた雷雲から雷鳴と共に放たれた光が竹箒を纏めて薙ぎ払う。
ゆいねとクーの鞭により既に動きを鈍らせていた竹箒は、凄まじい雷を避ける事ができなかった。
「箒、動き回る、チョット迷惑」
ラージシールドを構え、突撃してくる盾護の体当たりはシールドバッシュと言ってもいいだろう。
実に景気よく竹箒が宙を舞う。
二人を見ていた神主と一族が、息子や孫の試合を応援するような顔をしている。
そんなほのぼのしたまま終わろうとする戦いで、竹箒達の最後の足掻きの砂埃が炸裂する。
「うわ、目に入った!」
「口のなかもジャリジャリするー!」
「こするの駄目。後で洗う」
巻き上がった砂埃は覚者達の目にダメージを与えたが、逆にクーを滾らせてしまったようだ。
「掃除道具が散らしてはいけません!」
メイド服の裾を翻し、クーが鞭を振るう。
その鞭捌きで竹箒はおしおきされ、砂埃のダメージから回復した三人も加わってあえなくお縄になってしまった。
●vs梯子
境内中央。翔と久永の前でぶんぶんと梯子が回転している。
「付喪神が宿る程だ。大事にされてきたであろう。なるべく破壊せぬようにな」
四メートルの長さがある木製梯子。それが二本回っているとなかなかの風圧であるが、久永と翔は怯まない。
「オレらが取り押さえたら網被せて捕獲すんの頼むぜ!」
翔は言うが早いか寄れるものなら寄ってみろと回転する梯子に向かって召雷を放った。
その後を追うように落ちるのは、激しく荒れ狂い体を痺れさせる久永の雷獣。
「む、少々強すぎたか?」
二種の雷に撃たれびくんびくんと痙攣しつつ、梯子もやられっぱなしではなかった。
「おっと、そうきたか!」
塵取りのように低空で突撃してきた梯子を避ける翔。久永は飛行能力を使って宙を飛んで避けた。
覆い被さる攻撃も直線にしか動けない梯子の悲しさか、横に移動されれば自身が地面に倒れるのみ。
逆に梯子の頭上から落ちる翔と久永の雷の威力はどんどん梯子の体力を削ったが、めげない攻撃がついに翔を捉えた。
スコーン! と、実にいい音が鳴る。
覚者は頑丈ではあるが、血も流れるし苦痛も感じる。
「……!……っ!」
かの武蔵坊弁慶すら泣く箇所へのクリティカルヒット。蹲る翔を誰が責められようか。
「痛いそうだのぅ。動けそうか?」
「こ、これくらい大丈夫だぜ!」
がばりと立ち上がる翔。神主一族が拍手している。
その一撃がこの戦いの一番の攻撃だったのか、脛を強打されたせいか若干攻撃の威力が増した翔と久永により、梯子二本も長い体を網と縄でぐるぐる巻きにされ動きを止めた。
「やれやれ、これでひと段落したかの」
いつものように羽扇を揺らそうとした手は馴染んだ手応えがなく、仕方なく鞭の柄を顎に当てる。
境内にいた掃除道具はそれぞれの班によって捕縛され、神社を騒がせた大捕物は一先ず完了となった。
●我が身を振り返りましょう
「ひび割れなし、歪みなし!」
「これならまだ充分使えるな」
ガッチリ縛り付けられた竹箒の穂先を確認し、神主一族は掃除道具の点検を終えた。どうやら壊れそうな道具はなかったようだ。
「誠にありがとうございます。皆様のおかげで捕まえる事が出来ました」
深々と頭を下げる神主に合わせ、点検を終えた一族と猫又と化け狸も一緒に頭を下げる。
「さて、付喪神についてだが……」
と、久永が口を開く。
掃除道具達が揃ってびくりとなった。
ちらと様子を見ると先程までのハッスルぶりは何だったのかと言うくらいしおれている。
それを見て困った奴らよと羽扇の代わりに鞭をとんとんと顎にあてつつ提案する。
「彼らはそのままで良いのではないか? 各々役目を果たしてくれるのなら、掃除も随分と楽になるだろうて」
「テンションを少し下げて、これからはこちらの神主さんと一緒にいるのであればそのままの状態でもいいのじゃないでしょうか」
「オレも賛成! 話が通じるなら、きっと上手くやれると思うぜ!」
「付喪神さんも悪気はなかったんだし、きちんとお掃除できればはかどるよね」
久永に続いて燐花、翔、ゆいねが支持し、他の四人もその方がいいと反対する者はいなかった。
「ふむ……確かにそうですな。彼等は長年使ってきた大切な物です」
覚者達と神主の言葉に、掃除道具達がはっとしたように起き上がる。
が、そこに釘を刺すクー。
「あまり仕事せずに神主さんに迷惑かけると、掃除機に取って代わられるかもしれませんね」
びくん! と、主に竹箒が反応した。
「最近は落ち葉も綺麗にできる室外用掃除機もあるんですよ?」
な、なんだってー!
そんな声が聞こえそうな勢いで竹箒が震える。
「梯子だって今は軽いのに頑丈で折り畳みもできる便利なのがいっぱいあるね」
奏空の言葉に打ちのめされたのは梯子である。
四メートルの木製。折り畳めないし、重い。
「掃除機使う。塵取り不要」
盾護がまだショックが軽そうな塵取りに一撃。
がーん! と、打ちのめされる塵取り。
「そう言えば。掃除道具が付喪神になったのって狸さんがやったんだっけ?」
特に他意はないきせきだったが、びくりと化け狸が震える。
「そうですな……狸様も交えて少しお話しいたしましょうか」
怯える化け狸ににっこりと笑う神主。
「悪戯の罰はおとなしく受けるものだぞ」
あまりの怯えように思わず化け狸を撫でて宥めた久永だったが、助けてくれとしがみついてくるのを抱き上げ渡した先は神主の手だった。
●新しい年に向けて
「雑巾がけ競争だー!」
「負けるかー!」
きせきと翔の元気な声が拝殿の縁側を往復する。
負けじとばかりに雑巾がけをするのは熟練の足捌きを見せる五十絡みの神主一族。
「お猫様、もうちょっと右にお願いします」
にやー。
クーを乗せた猫又がゆっくりと右に動く。
「ゆいねもお手伝いするよー」
一緒に乗せてと掃除道具を抱えてきたゆいねを乗せたのは、神主の説教を無事終えた化け狸だった。
大きな猫と狸に乗った二人はしっかりと鴨などに積もった埃を拭き取って行く。
盾護と奏空は長い板とロープを持って梯子を登っていた。
「よーし、もうちょっと……届いた!」
「板固定。これで便利」
二本の直立した四メートルの間に長い板を渡して足場を作っていたのだ。
「おー、これいいな!」
歓声を上げる神主一族の若者。
固定せずとも直立できるのはこの梯子が付喪神だからだ。二本の梯子の付喪神は足場に乗って天井掃除する者達に喜ばれ、嬉しそうにしていた。
「そちら終わりましたか?」
掃き掃除をしていた燐花が声をかけたのは、タッグを組んで掃除をしていた竹箒と塵取りである。
ただの道具であった頃からセットで使われていただけあって息が合っている。
「綺麗になったのぅ。では次はあちらに行こう」
久永に促され、とことこと次の掃除場所に向かう竹箒と塵取りの足取りはとてもイキイキとしていた。
「大掃除ぴっかぴかだよー!」
しばらくしてゆいねの声が大掃除の終了を告げた。
十四人に古妖、しかも内八体は自分で動く掃除道具。毎年の大掃除と比べるとあっと言う間に終わってしまった。
「結構楽しかったな!」
「掃除も、みなでやると案外楽しいのですよ」
「うん、意外と楽しかった!」
捕り物と掃除をこなした体に暖かいお茶と菓子の甘味がよく沁みる。
翔ときせきはクーの言葉に頷いて菓子を頬張った。
「お猫様と狸様もおつかれさまー」
「マッサージでもしましょうか」
むにむにもふもふ。
ゆいねとクー猫又と化け狸を労いつつ肉球やしっぽを堪能していると、神主がやって来た。
「皆様、お茶のおかわりをお持ちしました。お菓子もまだまだありますよ」
「おお、ありがたい。所で胃の方はどうかの」
久永に聞かれると神主は笑顔で頂いた薬がよく効いたようですと答えた。
その胃痛の原因となった化け狸が申し訳なさそうにしている。
「悪戯好きが増えては神主の胃ももたぬ。反省せねばならんのぅ」
「そうそう、あんまり神主さん達に迷惑かけちゃダメだよー」
久永と奏空に注意されながら撫でられて、化け狸は頷く。
後ろでこれまで何度も騒ぎを起こしていた猫又が誤魔化すように顔を洗っていたが、久永は突っ込みを入れないでおいた。
「大掃除はやはり大切ですね。普段できていないところもしっかり磨き上げることで、観も引き締まるような気がします。」
「年内の汚れ、年内の内に」
自分達も加わって掃除した神社を見渡し、満足そうにお茶を飲む燐花と盾護。
「付喪神も。お疲れ様」
「流石は掃除道具の付喪神です」
掃除道具付喪神は大掃除が終わると自分から仕舞われていた場所へと戻っていった。
大掃除に加わったことで自分達の本来の役目を振り返ったのだろう。
本来ならまた来年までその場所で出番を待つ事になるだろうが、覚者達はそれはないだろうなと思っていた。
クーが言ったように、大変な掃除も皆でやれば楽しい。
人と一緒に掃除する楽しみを覚えた付喪神達は、またその楽しさを味わうために出てくるような気がしていた。
「何はともあれ、これで新しい年も気持ちよく迎えられますね」
早朝から始まった大捕物と大掃除。
日は高くなり、今年最後の一日は穏やかに過ぎて行こうとしていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
