<黎明>動き出した雪だるま
<黎明>動き出した雪だるま


●動き出した雪だるま
 そこは、山形県某所。
 今年は暖冬だと言われてはいるが、山間などはいつもより降雪量が少ないものの、雪が積もっている。しんしんと降る雪は、辺り一面を白く覆い尽くしていた。
 冬休みになったことで、子供達が積もった雪で遊ぶのは毎年のこと。広場では雪合戦をして遊び、かまくらを作り、雪だるまを作る。
 子供達は日が暮れるまで全力で遊ぶ。自分達が作った4つの雪だるまの前で。
 日が傾く頃、子供達は自分達の家へと帰宅していく。夕闇……妖が生まれる時間帯となる前に。
 事実、そいつらは闇が周囲を染めると急に目覚め、その体を大きく膨れ上がらせた。そして、何かを求めてゆっくりと動き出す。
「…………」
「…………」
 それらは、子供達が作った雪だるま達だ。彼らは何かに突き動かされるように無言で歩く。
 そこで、運悪く、会社帰りのOLが広場横の道を通りがかってしまう。彼女はその異様な雰囲気の広場を見て、足がすくんでしまう。
 一方の雪だるま。妖になって巨大化、そして凶暴な性格を持ってしまったそいつらは、初めての獲物としてそのOLを見定めていた。
「い、いやああああっ!」
 4体の雪だるまに囲まれ、逃げられなくなった女性。彼女はそのまま、成す術なく……。

●初めての説明依頼、なのじゃが……
 『F.i.V.E.』へとやってきた覚者達が会議室へとやってくると、菜花・けい(nCL2000118)が出迎えてくれた。
「いらっしゃいなのじゃ。……あと、粗茶ですまんの」
 彼女、もとい、一見女の子ではあるが、れっきとした男の子であるけいは、覚者へと熱いお茶を振るまう。寒い中、やってきた覚者達はそれで温まり、一時の安らぎを覚える。
 だが、けいがこれから語るのは、一般人が被害に遭う事件。覚者達は緊張感を持って、彼の話に聞き入る。
「時期的とも言えるかもしれんのじゃが、雪だるまの妖が生まれてしまうのじゃ」
 山形県の某所、とある広場で子供達が作った4つの雪だるまが、妖となって動き出してしまう。どうやら1体が妖として目覚めたのに、残りの4体が呼応してしまったようだ。
 動き出した雪だるま。それだけを聞くとほっこりしてしまいそうだが、妖となったことで、その全てが2~3メートルもの大きさに膨れ上がっている。その大きさの雪だるまが迫ってくるのは、力を持たない者からすれば、脅威でしかない。
「妖は、ランク2が4体じゃ。皆なら、油断さえなければ、倒せる相手だと思うのじゃ」
 雪だるまは、雪を飛ばす他、その巨体を生かした踏み潰しで攻撃を仕掛け、自分達が傷つくと、新たなる生み出した雪で自分達の体を修復する。
 場所はとある広場だ。公道に面しており、仕切りなどはなく、邪魔をする物もない。
「じゃが、この近くを無関係のOLが通りがかってしまうから、皆に助けてほしいのじゃ」
 妖の被害に遭うOLは、けいの未来視では凍死体となって発見されるのだという。
 ところで、以前は『F.i.V.E.』について秘匿を行っていたが、今はその必要もなくなっているので、この点を気遣う必要はないとけいは告げた。
「以上じゃ、皆なら、とりわけ問題ない依頼だと思うのじゃが……」
 しかしながら、そこまで説明を行ったけいは、覚者達へと頭を下げる。
「すまんの、故あって、うちはここまでなのじゃ」
 そう言って、けいはよろしくお願いするのじゃと丁寧に頭を下げ、この場を去っていく。
 しばらくして、代わりに入ってきたのは、1人の少年。
「ちょっといいかな」
 それは、『日ノ丸事変』の際、覚者が助けた少年、霧山・譲だった。
「僕にも協力させてほしいんだ。その依頼」
 一見、優男にも見えるその男。彼は、新興組織『黎明』の一員である。現状、『F.i.V.E.』の措置として、夢見と直接の接触はないようにと配慮を行っているそうなのだ。だから、けいもそれに従ってこの場を離れている。
「さすがに、僕らもこのままではいけないからね。君達の信頼を勝ち取らなければと思うわけさ」
 彼らには、『F.i.V.E.』内において監視の目が常にある。それを払拭しようと、霧山は義理を果たす為の機会を狙っていたのだそうだ。
 ここで彼の申し出を無下にすれば、問題が出る可能性もある。覚者達はその申し出を受け、事件を解決すべく霧山と共に出発するのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.全ての妖の討伐。
2.一般人の生存。
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 冬といえば、雪。雪と言えば、雪だるま。
 冬の風物詩、雪だるまが妖として目覚め、一般人へと襲い掛かってきてしまいます。皆様、覚者の手で、妖としての生を終わらせていただきますよう願います。
 以下、補足です。

●敵
○妖……雪だるま4体。2m50くらいの雪の塊です。
 子供達は可愛らしい目と口を付けていましたが、妖となったことで、その表情は鬼面のようになっています。
 いずれも物質系、ランク2、氷結無。
・雪玉……[攻撃]物遠単貫3・凍傷
 身体から貫通力のある雪玉を飛ばしてきます。
・踏み潰し……[攻撃]物近単・負荷
 その体で相手を潰そうとしてきます。
・癒しの雪……[回復] 特遠味単
 仲間や自分に生成した雪を付けることで、傷を塞ぎます。

●状況
 場所は公道が近くにある広場です。広場を仕切る壁などはありません。
 私有地ではありますが、地主は子供達が遊ぶのを黙認しているようです。
 昼間、子供達が作った4つの雪だるまが動き出し、たまたま近場を通ったOLへと襲い掛かるようです。
 覚者の到着は基本的にその直前。乱数や皆様の状況によっては、前後することがあります。

●NPC
・OL……20代女性1人。
 スレンダーな体格をした一般人の女性です。

 また、今回の依頼には、霧山・譲がお邪魔させていただきます。

・霧山・譲(きりやま・ゆずる)……18歳。暦の因子、天行。飛苦無を所持。鋭聴力、面接着を所持。
 新興組織『黎明』の覚者。大人しそうな印象の青年です。
 また、霧山の生死は成功判定には含まれませんが、名声などに影響が出る可能性はございます。
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「相手は雪だるまか。なんともクールなことで」
「さて、どうやって料理しようかな」

 それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
公開日
2016年01月10日

■メイン参加者 7人■

『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『淡雪の歌姫』
鈴駆・ありす(CL2001269)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)

●雪だるまと『黎明』の男
 山形県の山間へ向かう『F.i.V.E.』の覚者達。
「これが、俺が『F.i.V.E.』に来て初めての依頼になる」
 怪の因子に目覚め、覚者となった日ノ本 紫亜(CL2001270)は、仮面の下から周囲を見渡す。平和の為にここにいるんだと燃え上がる彼は、この依頼でそれを証明してみせると意気込む。
「あ~……、せっかく子供達が作った雪だるまさんに、妖が憑いちゃうとは……」
 同じく、怪の因子持ちの阿久津 ほのか(CL2001276)が呟いたのがきっかけで、メンバー達はしばし今回の妖について語り合う。
「雪だるまさんが妖になるなんて、驚きなんよ」
 驚く茨田・凜(CL2000438)だが、その反応はまったりとしている凜である。
「でも、放っておいたらOLさんの命が危ないし、倒さないとだよね」
 ゆるふわ三つ編み少女のほのか。兄の知り合いである、菜花・けいが視た事件ということで、彼女は駆けつけてくれていた。さほど話はできなかったが、けいと仲良くなれたらとほのかは密かに考えている。
「雪だるまの妖……嫌いね。アタシとは相性悪いわ。燃やせないものは嫌いよ」
 感情として、鈴駆・ありす(CL2001269)は嫌悪を示すが、妖はこちらの都合に合わせてはくれない。好き嫌いを言ってもいられないかとありすは割り切る。
「作り手の想いは全く関係なく、動き出すのね」
 今回の相手は物質系の妖だが、魂のようなものが入りこむのだろうかと、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は興味深そうに考えていた。
「後、何? 余所者がいるの?」
「うむ、今回は黎明の霧山と共に女性を助け、雪だるまの妖を討つのが役目じゃ」
 ありすの言葉に、『樹の娘』檜山 樹香(CL2000141)が頷く。
「どうも」
「あら。ユズルと一緒の依頼なのね」
 言葉を返す霧山に、エメレンツィアは笑顔を見せた。
 だが、『黎明』に所属している男、というのが引っ掛かるメンバーも多い。
「以前、『黎明』の女性と共に戦ったのじゃが……。まあ、あまり印象が良いとは言えぬ女性じゃったな」
「正直、内輪揉めとかどうでもいいんだけど。アタシとしては、依頼の邪魔にならなければ、ね」
 樹香は別の『黎明』メンバーとの思い出を語ると、ありすは若干面倒そうに告げるものだから、霧山も少しこの場にいづらそうだ。
「オレは、『F.i.V.E.』と『黎明』はまだ、仲間ではないと思っている」
 監視や情報制限をする対象は『仲間』じゃない。葦原 赤貴(CL2001019)は、対組織協議の場でもそう主張している。『F.i.V.E.』側の警戒は道理だが、『黎明』側の反発もあって当然だろうと彼は考えていたのだ。
「だが、状況を改善する意志には、協力していく」
 その関係改善に組織のTOPが乗り出さない以上、現場から変えるしかないと、赤貴はそんな心づもりで今回の依頼に臨む。
「全力で一般人を助け出すのに、変わりはないの」
 ともあれ、この1件を解決せねば。樹香に同意した覚者達は、自分達の役目を果たすべく動き始めるのである。

●妖に怯えるOL
 さて、事件が起こる時刻も近い。
 一足早く、赤貴が韋駄天足を使い、現場へと急行する。
 暖冬と言われる今年の冬だが、それでも山間だと雪が降り積もっており、足を取られることもある。その為、彼はハイバランサーで体勢を整えつつ、懐中電灯をつけて視野を確保し、進んでいく。
 それからやや遅れ、他のメンバー達が全力で後を追う。
「足元に気を付けるしかないかの」
 路上は凍結している部分もある。樹香は雪上でも動きやすい靴を履いてきていた。
 ありすが懐中電灯を点け、暗がりを照らす中を覚者達は進む。
「……あの時を思い出すわね。あの時もセキ達が先行してユズルを助けに行ったんだったわね」
 エメレンツィアは、霧山へと告げると、彼はそうだねと笑う。それは、日ノ丸事変での1件、霧山を助けたときのことだ。
「ふふ、どう、ユズル。今度は追いかける側よ?」
「別に追う相手を倒すわけじゃないよ」
 霧山は笑顔を崩すことなく、エメレンツィアへと返した。
 メンバー達の視界の奥に、現場となる空き地が見えてくると、ありすは体内に眠る炎を活性化させる。
「……別に、寒さ対策とかじゃないわよ」
 見た目はクールに見えるが、火行術式を操るありす。彼女は仲間の視線を受け、そう反論して見せたのだった。

 一足先に現場へと到着していた赤貴は、向かい側からやってくるOLと接触し、『妖事件を予知して来た覚者組織の者だ』と状況説明を行い、理解を求める。
 見れば、そばの空き地からは怪しげな気配が漂う。こちらに向かってきている白い塊……妖と化した雪だるまだ。しかも、それが4体。動かなければ可愛らしくすら思えるが、じりじりと詰め寄ってくるその塊は、一般人からすると恐怖すら覚える。OLは怯えて身がすくんでしまっていたようだ。
 間に合わないと判断した赤貴は、雪の下の地面から土を呼び起こし、鎧のように纏っていく。
 彼目がけ、雪だるま達は雪玉を飛ばし、あるいは巨体で踏み潰そうとしてくる。さすがにランク2が4体だと、その攻撃もなかなかのもの。依頼で力をつけていなければ、あっさりと倒されていたかもしれない。
 だが、仲間達がすぐ、この場へと駆けつけてくれた。
「相変わらず無理をするわね。大丈夫?」
 エメレンツィアはすでに傷ついてしまっている赤貴へ、癒しの滴を振りまいていく。
(一生懸命な子は可愛いわね♪)
 気丈に耐えている彼に対し、エメレンツィアはそんな印象を抱いていた。
 その後ろでは、群がる妖に怯えるOLへ、紫亜が呼びかける。
「大丈夫だ!! 怖くないぜ!! こんな雪ん子、すぐに俺達がかき氷にして食ってやろうぜっ」
「は、はい……」
 OLにとって年下ではあるが、覚者である紫亜の言葉は頼もしく覚えたことだろう。
 OLのヒーローでありたいと格好つける紫亜ではあるのだが、初依頼でもある彼の力では、なんとかなるかはわからない。
「霧山・譲……だっけ? なあ、悪いんけど、俺の援護頼むわ……」
「了解したよ」
 紫亜からこっそりと願いを受けた霧山ははにかみ、雪だるまへと苦無を飛ばす。
 赤貴は事前の打ち合わせ通りに、OLの保護、避難をほのかに頼む。ほのかもまた土の鎧に身を包みつつ、それを引き継いでいたようだ。
「ふん。一般人は任せるわよ」
「気を引き締めてがんばってみるんよ」
 ありすもほのかにそう告げ、自らは仲間の中央に立つ。凜も4体いる敵に死角から襲われないようにと気を付け、後方に立っていたようだ。
 これ以上、この場に一般人の立ち入りがないようにと、結界を張っていた樹香が仲間達へと呼びかける。
「さあ、始めようかの、お前様方。戦いを始めようぞ!」
 物言わぬ雪だるま達は覚者達を敵と認め、鬼面のような顔で覚者へと襲い掛かってきたのだった。

●vs 雪だるま
 仲間達が雪だるまに対してくれている間、ほのかはOLに付き添う。凶悪な顔で襲い掛かってくる妖に、恐怖していたようだ。
(ん~、いきなり動かない筈のものが動いたら、やっぱり怖いよね……)
 まだ、怖くてうまく走れないかもしれない。まして、雪が積もり、所によっては凍結している道で、足場も不安定だ。転んでしまうことも十分に考えられる。
 そう考えたほのかは、OLへとそっと手を差し伸べた。
「足場が危ないから、手を繋いでもいいですか?」
「は、はい」
 同意したOLも手を差し出すと、ほのかはその手をぎゅっと繋ぎ、懐中電灯で足元を照らしつつ避難していった。
 それを横目に見ていた樹香。雪だるまがそれを追わぬようにと立ち塞がり、進攻の邪魔をする。
(頭は冷静に、心は自然に。泰然自若じゃよ)
 判断ミスは命取り。超直観を使用し、彼女は戦況を確認しつつ、両手に持った薙刀を真横に薙ぎ払った。
 赤貴は一旦体勢を整え直す。英霊の力を呼び寄せ、自らの力を高めてから攻撃へと打って出た。
 紫亜は覚醒し、額に現れた瞳で敵を見据える。
「かかってこいよ、おらあ! 雪だるま共!! てめぇらなんざ、俺の炎で溶かしてやんよ!!!」
 彼は雪だるまに呼びかけ、そのうちの1体へと張り付く。敵の移動を阻害しつつ、注意を自分へと向ける。
(誰も怪我をさせない。誰も傷つかない)
 スキルでバランスを取るのはともかく、戦闘中に懐中電灯で光源を確保するのは難しい状況ではあるが。ともあれ、そいつの気を引き続ける為、彼はトンファーに炎を纏わせて叩き付けていく。
 雪だるま達も雪玉を飛ばし、反撃を行う。覚者達は立ち回りに気を付けてはいたが、敵は覚者達の並びを見定め、後衛にも届くようにと貫通力のある雪玉を撃ち放つ。子供達が作った雪だるまのはずなのに、妖となったそれらには、生ある者への殺意があるようにしか見えない。
「……どういう気持ちで動き出したのでしょうね」
 同じく、炎の使い手であるありすは改めて、鬼のような顔をした妖を見つめる。折角動いたというのにこの有様では。子供が作った雪だるまに対し、こんな風に暴れてほしいとは絶対に思ってはいなかっただろう。
「ふん……。悲しい事を起こす前に、終わらせてあげるわ」
 ――悲しみの連鎖なんて、見たくないから。
 ありすは雪の下、地面から燃え上がる炎を呼び起こす。その炎は雪だるまを包み込む。
「アタシの炎は雪でも燃やすわ」
 敵が手前側に並んでいる雪だるまはやや苦しそうにしてはいるが、それでもランク2の妖。なおもそいつらは、怒りに満ち溢れた表情で覚者へとのしかかってくる。
「溶かすなんて生ぬるい事は言わないわ。燃やすわ」
 例え、相手が雪だろうと。ありすは燃やし尽くすと断言した。
「中々大きな雪だるまね。気をつけなさいよ?」
 赤貴を癒したエメレンツィアは手すきと判断し、自らの力を高め、手にする術符を叩き付けていく。
「後方支援がんばるんよ」
 妖と戦う仲間を援護すべく、凜は水行の力で支援を行う。味方を水のベールで包んで防壁と成し、また、敵全体へと絡みつくような霧を発生させ、雪だるまを弱体させる。
 凜はさらに、他のメンバーの状態も確認する。ほのかはうまくOLを避難させているらしく、この場からいなくなっていた。
 そして、霧山はというと。
「どうしたものかな」
 霧山は、赤貴からは前から中衛に立って攻撃をと、そして、ほのかには後衛に立って援護をと言われている。『F.i.V.E.』メンバーと攻撃を合わせたり、援護したりするのはいいが、立ち位置をしばし考える。
「まあ、俺のスタイルでやらせてもらうよ」
 彼は後ろから、苦無を飛ばすことにしていたようだった。

●覚者として、力の限り
 OLを避難させていたほのか。凍結した路面はやはり滑りやすい。その為、守護使役ぷわ~んのふわふわで浮かび、転ばないように注意を払っていた。
(できれば、私も皆さんのお手伝いに向かいたいけど)
 しかしながら、震えるOLが気になるほのかは放っては置けず、しばらくそばにいることにしていたようだった。

 敵がOLを追うことはなさそうだ。牽制も考えていた樹香だったが、敵の殲滅に全力を尽くすことにする。
 妖の力はランク2が4体と、数も質も脅威だ。対してこちらは、戦いの経験の浅い者が2人(避難に当たるほのか込みなら3人か)。
「身体が熱い!!!! 故郷でチンピラと抗争するよりも遥かに、チリチリしやがる……っ!」
 敵の攻撃で、紫亜は己の身体が火照ってしまうのに気づく。冷たいはずの攻撃だが、痛む身体は燃え上がるように感じるのだ。
 ――そうだ、例え命を燃やしたとしても俺は護るんだ。女性を、そして、仲間を。
 紫亜はその身を激しく燃え上がらせた。
「オオオオオ!! 心、燃やして戦ってやるよ!! 俺は命を懸けて、ここに立つ!」
 雄たけびをあげ、彼はさらに炎撃を敵に叩き付けていく。
 戦いは楽なものではない。『F.i.V.E.』創設当初だったなら、覚者達は敗北すらあったかもしれない。
 だからこそ、赤貴は積極的に、仲間を雪だるまの攻撃から庇おうと立ち回る。自身がふんばることで、戦闘経験のないメンバーの負荷を少なくすべきと彼は考えていた。
 だが、やはり無理がたたったのか、雪だるまに連続して全身を潰され、一度は意識を失いかけた赤貴。しかし、彼は命の力で意識を繋ぎ止める。
「殺さねば死ぬだけだ。少なくとも、この場でオレに他の選択肢はない」
 自身を気遣う仲間に、赤貴はそう告げる。
 癒し手の数は十分。ならば、自身は殺し手であればいい。繰り返して放つ、大剣『燦然たる銀光の残滓』。疾風の如き一撃は、雪だるまの体を2つの雪の塊と化してしまった。
 凜は敵の攻撃に注視しつつ、仲間の支援に当たる。
 端的に自身の役割を考え、それを果たしてはいるのだが、戦略としては残念ながら浅い。正面から飛んでくる雪玉に彼女は撃ち抜かれてしまっていた。ギリギリのところで彼女はなんとか踏みとどまっていたが、手傷を負ってしまっていたようだ。
「ユズル、大丈夫? 無理はしていない?」
 戦う最中、声を掛けるエメレンツィア。
 ただ、霧山は表情を変えることなく戦っている。被害も意外に軽微なようだ。
(あの時の傷は引き摺ってないようね)
 エメレンツィアは仲間に癒しの滴を飛ばし、時には霧で包んで傷を癒す。こうして、霧山と戦うのが嬉しいエメレンツィアは、その姿に安堵もしていたようだ。
(ヒノマル陸軍を退けた私達が、このくらいの妖に負けはしないわ)
 彼女はそんな自信を持って、傷つく仲間が倒れないようにと癒し続ける。
(霧山サン、って言ったかしら)
 ありすもそんな姿を目にしながら、考える。さすがに、自分が守るほどのものではないと。彼女もまだまだ戦闘経験が浅い1人。集中攻撃を受けないようにと立ち回る。
(そもそも他の人と比べると、見劣りするのは否めないもの。……アタシはやれることをやるだけ)
 ちょうど、霧山の苦無が敵の身体の繋ぎ目にヒットする。ここぞとありすは、燃え上がる拳を正面から叩き付けた。
「アタシの炎は雪だろうと何だろうと、燃やし尽くすわ」
 ありすがそう言い放つと、雪だるまは霧散するように飛び散った。
 赤貴は樹香と狙いを同一にしていた。繰り出す大剣によって、雪だるまの身体が徐々に削れていくのが分かる。そいつは周りの雪で傷を塞ごうとするが、間に合わない。
 戦闘経験のある樹香もまた、前に立っていた。妖の数が多いと考えていたが、仲間達が数を減らしてくれているおかげでずいぶん戦いやすくなった。
 これなら、全員無事で帰ることができる。もちろん、霧山も含めて。
 樹香は木行の力を最大限に発揮し、薙刀での一振りと同時に幾本もの蔦を妖の身体へと突き出す。身体が維持できなくなった雪だるまは、大きな雪の塊となって崩れ落ちていった。
 残るは、紫亜がブロックし続けていた雪だるま1体。
 しつこくそいつをマークしていた彼は、最後まで自身のテリトリーから逃がすことはなかった。
 もちろん、雪だるまも抵抗を計っている。大きな体でのしかかり、紫亜を潰そうとするのだが、彼は意に介する様子が見られない。
「負けるなんざ思わんよ。潰されたって痛くねえかんな!」
 紫亜はまたもトンファーに炎を篭める。それは、彼の最後の気力によって生み出した炎。これで倒せなければ、後は……。
「俺の中で燻るこの熱、お前等の身体で受けてみな!!」
 強かに叩き付けたトンファー。燃え上がるそれを雪だるまの体内へと突き出す。
 その一撃に耐えられなくなった妖は、弾け飛ぶようにしてこの場から消え失せてしまったのだった。

●長閑なる一時
 程なく、OLを帰したほのかも合流し、一行は全ての妖の討伐を確認し合う。
 赤貴は戦闘で負った傷を押して、戦闘によって荒れた現場の修繕に当たっていた。
「これが『F.i.V.E.』の戦いじゃが、どうかのぅ? ワシ等は仲良く、できるかのぅ?」
「……できるといいね」
 笑みを崩さぬ霧山。凜もまた傷を負ってはいたが、彼に対してお食事のお誘いなど試みていたようだ。
「それにしても、可哀想な事になってしまったわね」
 エメレンツィアが空き地を見やると。子供達が作った雪だるまは影も形も残されてはいない。
 何でこんな悲しい事になってしまうのか。ツクモガミのように想いがしっかり伝わるものであれば。妖化するメカニズムが分かればよいのだけれどと、エメレンツィアは願わずにはいられない。
 せめて作り直したいと考えるほのか。
「4体もだと、む、無理かなぁ」
 彼女は、小さな雪だるまでもと雪玉を転がし始める。
「子供達が作ったものが無くなってたら、泣いちゃうんじゃねっかなって思って」
 紫亜も子供達を気遣い、似たような雪だるまを作り始める。
 そうして出来上がった2つの雪だるま。子供達はどんな気持ちでそれらを見るのだろうか。覚者達は子供達が気落ちしないようにと願いつつ、この場を後にしていくのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

なちゅいです。妖の討伐、お疲れ様でした。
MVPは先行し、身を張ってOLや仲間を庇ってくれたあなたへ。

霧山も戦いに貢献してくれました。
霧山と仲良くなったメンバーもいて何よりです。
これで、彼が『F.i.V.E.』へと近づくことができればいいのですが。
果たして……。

参加された皆様、
本当にありがとうございました!




 
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