【古妖狩人】姉想う冷たい風が荒れ狂う
【古妖狩人】姉想う冷たい風が荒れ狂う


●雪女と憤怒者
 姉が拘束具につながれていた。
 その周りには数名の男。修正されているのか、その顔は判別がつかない。音声はないが、その表情が悲痛で歪み叫んでいるのがわかる。姉が何をされているのか。まだ若く拙い知識でも、それが非道な事であることはわかる。
「涼香姉さん……」
 絶望の色深く姉の名を呟く少女。
「残念だが、この映像は事実だ。君のお姉さんは……このような目にあっている。雪女というだけでこのような目にあっているのだ……」
 その傍らに立つ一人の男。彼が持ってきた映像は、少女に姉がどのような扱いを受けていたかを教えてくれた。もっとも――
「覚者……その人たちが涼香姐さんをこんな目に合わせているの?」
「ああ、彼らは源素という力を振りかざし、弱き者を虐げる愚劣な奴らだ。彼らに捕まった姉を助けようとしたのだが、私たちでは力及ばず……!」
 もっとも、事実はかなり歪めて伝えれられていた。実際に姉に暴行を加えたのは男の仲間であり、覚者は姉を憤怒者の支配から解放したのだ。だがそんなことを知る由はない。
 そして正確に物事を判断できる状態ではない。それは姉に暴行を加える者への怒りもある。だが、日々与えられた食事の中に含まれていた薬剤の影響が大きかった。
「酷い……」
「ああ、そんな覚者がもうすぐここにやってくる。お姉さんをあんな目に合わせた奴らを許せるかい?」
「許せない……」
「そうだ。許せない。私達だけではかなわないが、君が手伝ってくれるならそれができるよ涼音。
 さあ、この薬を飲んでヘルメットをかぶりなさい。そうすることで雪女の力を増幅できるから」
 男は雪女に薬を飲ませて、顔半分が隠れるバイザー付きのヘルメットかぶせる。バイザーから眼球に送られる光の明滅と、鼓膜を震わせる音波。飲み込んだクズリの効果と相まって、雪女の力を増してゆく。
 だがそれは身体に負荷をかける力の放出。常時は肉体と精神への負荷をなくすために無意識に行われているリミッターを解除する行為。
(これで良し。バケモノ同士潰しあえ。その間に迎えが来るだろう)
 歪んだ笑みを浮かべる男。これで攻めてくるであろう覚者に対する戦力は得た。あとは『本部』への情報を完全に処分し、逃げるだけだ。部下に指示を出し、連絡を入れる。
 こんなところで死ぬわけにはいかない。私の頭脳はまだ生かされるべきなのだ。古妖狩人の理念や恨みなどどうでもいい。すべてを利用してやりたいことをやるのだ。
 
●FiVE
「古妖狩人の拠点の一つが見つかった」
 久方 相馬(nCL2000004)は集まった覚者を前に説明を開始する。
 古妖狩人。最近活動が激しくなってきている古妖を狩る憤怒者集団だ。彼らに狩られた古妖は覚者への戦力となる。先日古妖狩人の集団を撃退して、そこから得た情報からその拠点を割り出した所だ。
「そこには古妖狩人に捕らわれた雪女がいる。だけど古妖狩人に薬を投与され、覚者が悪者だと洗脳されたみたいだ。氷の防壁を作り、拠点を強化している。そして洗脳した憤怒者たちは戦闘のスキを突いて逃げる算段をしているんだ」
 地図上に拠点周りの図を描く相馬。その声には明らかな怒りが含まれていた。
「雪女の洗脳を解くには憤怒者の持つ解毒剤と機械の破壊が必要になる。時間的な問題もあるので、出来るだけ早く抑える必要があるんだ。
 ……そりゃ本命は憤怒者を倒すことだろうけど、できるなら助けたいじゃないか」
 自らの生命を削って戦う雪女は放置すれば自滅する。その後、精神が崩壊するか肉体に後遺症が残るかはわからない。
 冷たい言い方をすれば、それは憤怒者を捕らえることを最重要視すれば雪女を助ける理由はない。洗脳されているとはいえ、雪女は敵なのだ。放置し、倒れるのを待てば苦労なく氷の壁は破壊できる。
 最終的にどうするかは覚者達に委ねられる。古妖狩人が撤退する前に、身柄と情報を確保するのが最重要項目だ。
 貴方はこの戦いを――


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:どくどく
■成功条件
1.二十一ターン以内に憤怒者『赤松秀樹』を戦闘不能にする。
2.なし
3.なし
 どくどくです。
「妹に対して『君と同じ事』はしないと約束しよう。その約束『は』守ったよ」

●敵情報
 憤怒者
・赤松秀樹(×1)
『古妖狩人』の一人。研究者。四十歳前半の男性。OPで喋っていた男はこの人。拙作『【古妖狩人】哀しみの涙が凍る雪女』に出ていますが、作品を知っている必要はありません。倒すべきクズという認識で十分です。
 拠点を引き払うための証拠隠滅等を行っていたため、逃げ遅れました。戦闘開始から二十一ターン目にヘリが到着し、それにより逃げる予定です。

 攻撃方法
 毒ガス 特遠列 〔毒〕〔痺れ〕〔ダメージ0〕
 電磁装甲 P  体力、物防&特防UP

・狩人チーム(×6)
『古妖狩人』の戦闘部隊。全員寒冷用の防具に身を包んでいます。
 覚者に強い恨みを持っているため、撤退はしません。

 攻撃方法
 スパイク小銃 物近単 
 射撃     物遠単 
 寒冷用防具  P   氷上戦での不利な効果をすべて打ち消します。

・ライトバン(×1)
 ワンボックスタイプのライトバン。寒冷地仕様です。窓の隙間から機関銃やらを掃射してきます。物理防御高め。

 攻撃方法
 機関銃  物遠列
 音波兵器 特遠敵全 〔ダメージ0〕〔Mアタック20〕
 寒冷地仕様 P   氷上戦での不利な効果をすべて打ち消します。
 
古妖
・雪女(×1)
 名前は涼音。白無垢の服を着ています。見た目は一三歳ぐらいの少女です。
 頭のヘルメットにより能力を増幅されています。代償としてターン終了時(BS処理時)に気力が消費されます。この消費により気力が0になると戦闘不能になり、身体と精神に後遺症が残ります。
 ヘルメットを物理的に破壊する(ヘルメットのみを狙う場合は、若干命中が下がるものとします)か特定の技能で無効化すれば、気力の消費はなくなります。ですが洗脳は残っているため、戦闘状態は続きます。
 
 攻撃方法
 氷柱舞  物近貫2 鋭い氷柱を突き刺してきます。
 粉雪刃  特近列  細かい雪の粒子で周囲の人間を切り刻みます。〔凍傷〕
 吹雪   特遠敵全 冷えた風が荒れ狂います。〔弱体〕〔鈍化〕〔凍傷〕
 雪女    P   冷気を操る古妖。氷上戦での不利な効果をすべて打ち消します。〔氷結無〕 

・氷壁(×2)
 雪女が作った氷の壁です。基本行動せず、立っているだけです。HPが存在し、HPが0になるか雪女が戦闘不能になると破壊されます。
 二名までをブロックします。

●場所情報
 山奥の研究所。時刻は夕方。明かりは必要です。雪女の暴走により足場が凍り付き、滑りやすくなっています。戦闘に支障がない程度に温度は低いです。
 戦闘開始時、敵前衛に『雪女』。中衛に『氷壁(×2)』『ライトバン』。後衛に『赤松』『狩人チーム(×6)』がいます。
 事前付与は可能ですが、その間にも時間は流れます。それが有利になるかどうかは、わかりません。
 
●重要な備考
 この依頼の成功は、憤怒者組織『古妖狩人』の本拠地へのダメージとなります。
 具体的には古妖狩人との決戦時に出てくる憤怒者数や敵古妖数が、成功数に応じて減少します。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年12月13日

■メイン参加者 8人■

『弦操りの強者』
黒崎 ヤマト(CL2001083)
『水の祝福』
神城 アニス(CL2000023)
『F.i.V.E.の抹殺者』
春野 桜(CL2000257)
『追跡の羽音』
風祭・誘輔(CL2001092)
『緋憑の幻影』
瀬伊庭 玲(CL2000243)
『自称サラリーマン』
高橋・姫路(CL2000026)


 名乗りの必要も義理もない。共に互いを敵と認識し、許す余地など何処にもない。
 故に戦闘は、互いを目視した瞬間から始まっていた。

「わしが押さえておく。早う突っ込むんじゃ」
 半月斧を手にして『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)が雪女を押さえる。洗脳され、憤怒者に利用される雪女。雪女をさらったのは人間で、洗脳を行ったのも人間だ。だが、それを救うことができるのも人間だと姫路は信じている。
 子供姿の雪女に手を出すのは心が引けるが、事情が事情だ。心の炎を燃やして肉体を活性化し、斧を握りしめた。赤く光る精霊顕現の入れ墨。それが神具に炎を纏わせる。心の中で謝罪しながら、姫路は斧を雪女に向かって振り下ろした。
「ふむ、物理的な防御は得意じゃないようじゃな」
「どっちにしても洗脳を解くのが先だ!」
『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)も真っ直ぐに雪女に向かった。雪女が被るヘルメットを見て、その構造を理解しようと頭を動かす。薬物と音響と明滅。それによる洗脳。無垢な古妖の心に付け入る悪行を許すつもりはない。
 ヘルメットに伸ばしたヤマトの手を遮るように雪女の氷柱が形成される。即席の盾を避けるように翼をはためかせて雪女の横に回り、ヘルメットの構造を見た。最短で期間を止める方法は、その動力源をカットすること。配線からバッテリーの場所を探る。
「見つけた! ここを外せば!」
「そっちは任せた! ぐずぐずしている時間はねぇ」
 紫煙を吐きながら『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は雪女を超えて前に進む。狙いは古妖狩人。そしてその研究者である赤松。その所業を許すつもりはない。ここで捕らえて、三発殴ると心に誓う。
 氷の上でバランスを取り、手にしたランチャーを構える。制限時間を心の中で刻みながら、しかし焦らず標準を合わせる。確実に、一撃一撃を叩き込む。それが最短の道だと理解していた。引き金を引く誘輔。破壊音が戦場に響き渡る。
「流石に氷の壁は硬いか」
「構わん。予定通り力押しだ」
 霜を安全靴で踏み砕くようにして『星狩り』一色・満月(CL2000044)が歩を進める。若干歩きづらいが、足場は確保できる。交わした約束を守る。その思いを込めて抜刀し、首の刺青を光らせる。宣告通り強引に押し通る。
 しゃり、と霜を踏む音が耳に届く。さらに踏み込み、耳にもう一度音が響いた。手にした刀を握りしめ、全身を弓の如く引き絞り、一気に開放して斬りかかる。三度目の霜を踏む音と、敵を切り裂く音が同時に満月の耳に届く。
「必ず妹を助けると約束した。約束は守ってみせる」
「うむ。殲滅してやろう古妖狩人よ……さむい」
 寒さに体を震わせながら『緋憑の幻影』瀬伊庭 玲(CL2000243)は憤怒者達に立ち向かう。強気に銃を構えるが、それが意地を張っていることは自分でもわかっている。それでも玲は戦場に出ることを拒否しなかった。
 両手にハンドガンを構え、安全装置を取り外す。ライトバンに向かいながら右の銃で一発。左の銃で一発。そして両手を突き出し、同時に一発。引き金を引くたびに伝わる銃の反動。痛みを顔に出すことなく、玲は強気に笑みを浮かべた。
「貴様等! 妾の華麗なる一撃を食らうがよいわ!」
「ふふふ。そうね殺しましょう」
 どこか虚ろな瞳で憤怒者達を見ながら春野 桜(CL2000257)が口を開く。どこか優しそうに微笑みながら、しかしその思考は殺意に染まっていた。クズは殺すことが当然である。それが当然だから、殺意の中で優しくほほ笑むことができる。
 手にした斧をライトバンに投げつける。そのまま投げた手を振りかぶって植物の蔓を生み出す桜。ねえどうして生きているの害虫。ねえどうして。どうして。問いかけながら鞭を振るう。その度にライトが割れ、車体が軋んでいく。
「ねえ死んで。すぐに死んで。私達急いでいるの、だから早く」
「…………」
 瞳に強い決意を込めて十一 零(CL2000001)は戦場を見る。古くからの友人である古妖を狩る憤怒者達。彼らに対する怒りは確かにある。だからこそ静かに、そして確実に場を整える。時間は少ない。だけど確実にある。
 周囲に霧を放ち憤怒者の視界を遮る。その後に前世との繋がりを強く意識して精神力を増し、源素の力を籠める。意識すると同時に放たれる稲妻。それが敵陣を走り、邪魔者を砕いていく。敵を守る壁が、少しずつ崩れていく。
「今度は遠慮なく攻撃させてもらうよ」
「赤松……あなただけは許せません……」
 憎しみの感情を隠すことなく『水の祝福』神城 アニス(CL2000023)は口を開く。その身に纏う水は毒衣。古妖狩人に捕らわれそうになった大蝦蟇の術法。憤怒者達の放つ銃弾に反応し、毒の一矢を放つ守りにして攻めの衣。
 いつもは後ろに控えて回復を行うアニスだが、その怒りを示すかのように攻勢に出る。憤怒者の車を貫けとばかりに意識を込め、その後ろにいる憤怒者を巻き込むように衝撃波を放つ。鋭い一撃が車体を揺るがした。
「絶対に逃がさない……そして絶対雪女さんを助け出します」
「はっ! その雪女が覚者の敵なんだよ。そうだよな涼音。姉の敵が目の前にいるぞ!」
「覚者……お姉ちゃんの……う、あああああああ!」
 赤松の煽りにより、狂ったように怒りの声をあげる雪女。そこには肉体負荷による苦悶の悲鳴も混じっていた。その悲痛な叫びに眉を顰める覚者達。
 砂時計の針は落ちる。雪女の洗脳を止めるには、まだ手が届かない。


 覚者は気力を削られることを恐れて、音波装置を持つライトバンを先行して狙う。車体の装甲がある程度硬いとはいえ、覚者の猛攻を受けて耐えられるものではない。中にいる憤怒者ごと、あっさり戦闘不能になる。
 だが憤怒者や雪女もそれを黙ってみていたわけでは無い。ライトバンを狙う覚者を中心にスパイク小銃が火を噴いた。
「ぐぬぅ! 妾はこの程度では負けんのじゃ!」
「流石にきついぜ」
「やれやれ。加減なしだな」
 玲、誘輔、満月が憤怒者の攻撃を前に膝をつく。命数を燃やして、戦場に留まった。
「まだオレは負けるつもりはない!」
「きついのぅ。じゃがまだまだこれからじゃ」
 雪女を押さえていたヤマトと姫路が氷の粒子に体を刻まれる。二人も命数を燃やし、氷の眠りを遮った。
「やあ、この前振りだね。随分と諦めが早かったのは換わりがいたからかい?」
 零が赤松に向けて言葉を放つ。以前の戦いのときは後を追うために気配を消していたが、今はその必要はない。稲妻を放ちながらと言葉を放つ。
「あの時点では涼香殿が私達を抑えて戻る可能性もあっただろうに」
「涼香は聡いからな。あそこが切り捨て時だったのさ」
「だから洗脳か。人心掌握ができていない自覚はあるようだな」
 零の言葉に激昂して何かを言いかけるが、言葉なく唇をかむにとどまる赤松。そこにかぶせるようにアニスが口を開く。
「こんなこんな非道な事をして……それでもなお罪を償わずに逃げるなんて。絶対に逃がさない……そして絶対雪女さんを助け出します」
「罪? 人間の発展のためにこいつらを使って何が悪い」
「貴方達と雪女さんと私達。違いなんてほんのちょっとだけですのに……」
「それは力在る者の言い分だ! 上から語っていい気分だろうよ!」
 答えたのは赤松ではない。別の憤怒者だ。アニスの言うようにそれはほんのちょっとの差。だがその差は嫉妬と劣等感を生むのに十分なものだった。少なくとも憤怒者達には。
「貴様等がなんの恨みを持って立っているか俺は知らん」
 満月は怒りの声を受けて、憤怒者達に返す。その怒りを真正面から受けて。
「だが俺も恨みを持つ人間でな気持ちはわからんでも無い。だから全力で来い、俺もそれに全力で対抗しよう」
 隔者に親を殺され、復讐を誓う満月。因子が発現しなかったら、もしかしたら憤怒者になっていたかも知れない。ここでFiVEに刃を向けていたかもしれない。……あくまで、もしの話だ。
「俺等を殺すつもりで来ないのなら、退け。恨みの連鎖なんぞくだらない理由で一緒にぶつかってやる」
 故に真剣にその怒りを受ける。怒りも嫉妬も人間の感情だ。
「くそ……! せめて動きが止まってくれれば!」
 ヤマトは雪女の洗脳ヘルメットのバッテリーコードを外そうとして、悪戦苦闘していた。コードを接続部から引っこ抜けば装置は止まる。その知識がある。だが動き回る雪女のヘルメットからコードを抜く行為は、別の技術が必要になる。
「聞いてくれ、お姉さんなら無事だ!」
 姉という単語に雪女の動きが一瞬止まる。だがそれだけだ。
「信じてもらえなくても、これだけは言える。お姉さんは、お前を傷つけないために、守るために頑張ってた。その願いを、俺は叶えたい!」
「戯言だな。自分たちで誘拐していいように言っているだけだ」
 ヤマトの言葉を否定する赤松。確かに戯言だ。雪女を誘拐していいように言っているのは赤松本人なのだから。
「黙れ赤松! お前がそれを言うな!」
「うむ。これはまさに『ぶーめらん』というやつじゃな」
 赤松の言葉を玲を受けて。玲がうむりと頷いた。赤松とFiVEが交戦した記録は目を通し、彼がどのような人物なのかは知っている。
(涼音殿の姉君とは面識はないが……家族を失う辛さは理解できるからの)
 玲は謎の事故で両親を亡くしている。その悲しみを知っているがゆえに、引き裂かれる姉妹の痛さも理解できる。その悲しみを止めるために、引き金を引く。
「にゃーっはっはっは! そこをどけい。妾が通るのじゃ!」
 そんな痛みを出すことなく、二丁の銃で玲は敵陣を突き進む。
「ええい! 涼音、姉の仇を討つためにもう少し頑張れ!」
「いけしゃあしゃあと言いやがるな」
 怒りの表情のままに誘輔が言う。今まで新聞記者として多くの人を見てきた。何かしらの理由があって悪事に走る人はいた。それは大なり小なりだが、理由は納得できた。だが赤松は違う。本当に自分の為だけに他人を利用しているのだ。
「一方的たァいえ雪女と……涼香と約束しちまった。妹を無事連れ帰らなきゃ口だけ野郎だ。ンなのごめんだね俺は」
 妹を守るために悪事に走った、姉の雪女。姉を助けようとする心を赤松に利用された、妹の雪女。二人は犠牲者だ。それを助けると誓った誘輔。こんな悲劇は記事にならない。悲劇を覆して初めて記事になる。
「俺達が姉貴の仇? とんだデマだぜ。涼香はな 赤松からねんねの妹を守る為に戦ったんだよ!」
「真実は自分の目で見ないとわからんということじゃ」
 斧を振るいながら姫路が雪女に語り掛ける。時々霜で足を滑らせながら、しかし確実に雪女にダメージを蓄積させていた。
「大切に思う人を助けたいという気持ちを利用されるのは、それだけでも胸が痛い話じゃよ」
 ため息交じりの姫路の言葉に、赤松が反論の声をあげる。
「こいつらは古妖だ。人間じゃない奴らが人間みたいな愛情を持っているわけがないだろうが」
「こりゃあ、一度痛い目を見ないとわからんようじゃな」
 先ほどよりも深くため息をつく姫路。赤松に活を入れたいが、今すぐというわけにはいかない。この場を離れれば、雪女を押さえる者が少なくなる。
「痛い目に合わせればいいのね」
 破壊された氷壁を超えて、微笑ながら桜が歩を進める。憤怒者達のいる後衛にたどり着き、赤松の元にたどり着く。
「よくもまあ、生き残ってくれたわね」
 じくり。心に音が響く。心が痛む音。
「クズというより害虫ね」
 じくり。じくり。大切な人を失った時の桜の心の痛み。
「殺しましょう殺しましょうゴミクズは殺しましょう」
 じくり。じくり。じくり。敵がいるからあの人はいなくなる。だから殺そう。
 毒でじわりじわりと殺そう。失血の恐怖に怯えさせながら殺そう。痛みでのたうち回らせてから殺そう。殺そう。殺そう。殺そう。
(……ああ、でも情報と解毒剤は回収しないといけないわね)
 それを思い出す桜。ああ、つまらない。他のゴミクズを殺そうかしら。
 憤怒者達はスパイク小銃を構えて、迫ってきた覚者達に襲い掛かる。覚者の怒りで血走った彼らは赤松を守るつもりはないらしい。
 砂時計はもう半分以上落ちている。悲しくも冷たい風は未だ荒れ狂っていた。


「止まれぇ!」
 ヤマトがヘルメットに手を伸ばし、炎の一撃でバッテリーコードを燃やす。多少強引だったが、ようやく洗脳ヘルメットを止めることができた。
「赤松覚悟!」
「ぐ……!」
 敵陣になだれ込む桜と満月。誘輔と玲と零、そして雪女のヘルメットを無力化したヤマトは遠距離から憤怒者に向けて攻撃を放つ。数で劣るとはいえ、憤怒者の耐久力は高くない。このまま一気に攻めれば――
「お……?」
 冷気が荒れ狂う。低温の嵐に耐えきれず。玲が膝をついた。
「お姉ちゃんを……苛めるな……あぁ!」
 吹雪を放ったのは雪女・涼音。洗脳のヘルメットこそ壊されたが、それでも洗脳状態なのは変わらない。
「お願いです、やめてください……貴女を傷つけたくないのです……」
「じゃがこのままだと全員冷え切ってしまうぞ」
 膝をつき、命数を削るアニス。熱気を纏った斧を振るいながら姫路が雪女に攻撃を加えている。
 だが、雪女の体力を削り切るには姫路の斧だけでは足りない。粉雪と氷柱が憤怒者を攻めている覚者を後ろから襲う。
「これ、は」
「ふふふふ。まだやれるわよ」
「……無念」
 氷と銃。その波状攻撃で零と桜が命数を削り、満月が力尽きる。だが覚者の決死の猛攻は、赤松の電磁装甲を裂き、地に伏す事に成功した。
「解毒剤……解毒剤……これか!」
 誘輔は赤松の白衣をまさぐり、小型のアンプルケースを見つける。注射器を使うタイプだ。暴れまわる雪女に投与するのは難しいだろう。一度落ち着かせる必要がある。
 問題は――
(前半飛ばしすぎて気力が残っていないことか。氷壁で手間取りすぎた)
 覚者の戦略は正面突破による速攻である。それは作戦の都合上、かなりのエネルギーを消費することになる。憤怒者はそれを予測して雪女に壁を作らせた。時間稼ぎの意味もあったが、覚者達が攻撃で疲弊すればその役割は十分に果たせただろう。
 雪女を戦闘不能にすれば、氷の壁は消える。それを知ってなお覚者達は雪女に可能な限り刃を向けなかった。それは操られる雪女を憐れんでの判断なのだろうが、結果として氷の壁は残り、覚者の足止めと消費は激しいものとなる。
 その消費が、ここに響いていた。体力も気力も、覚者に家族を奪われたと思い込んでいる雪女の昂ぶりを止めるには不足していた。
 そして憤怒者の銃撃も無視できない。覚者に殺意を抱く彼らは、弱った覚者達を追い込むために攻撃を続けてくる。
「貴女のおねぇさまは……無事です……必ず再会……を……」
「ここまでか……くそ……!」
 アニスと誘輔が膝をつく。戦える覚者の数はヤマト、桜、姫路、零の四名。
 雪女や憤怒者も疲弊しているが、趨勢は明らかだ。このまま攻め続ければこちらが先に倒れる。そして憤怒者が覚者に慈悲を与えることなど、ありえない。
「撤退じゃな。赤松を連れて逃げるぞ」
 指示を下したのは姫路。とりあえずの目的である赤松の打破はなった。ここが潮時だ。反論しかけた覚者達は口をつぐんで倒れている仲間と赤松を連れて踵を返す。雪女と憤怒者がその背中に攻撃を仕掛けてくるが、なんとか逃げおおせる覚者達。
 風は冷たく、そして悲しく荒れ狂う。


 捕らえた赤松の情報と協力――むしろ裏切行為と言ってもいいほど、手のひらを返した――により、中継点から本拠地に移される物資ルートを算出し、これを押さえ込んだ。これにより本拠地への援軍が滞ることになる。
 明らかに違法の医療行為を行っていた赤松は、この後法の裁きを受けることになる。社会的にはほぼ終わったも同然だが、覚者に殺されるよりはましだと悪態をついていたとか。
 怪我を癒した覚者達は中継点に足を運ぶが、雪女の姿はなかった。本拠地に移送されたか、あるいは姉を求めて暴走しているのか。その情報は掴めない。
「私は……無力ですね……」
 俯き呟くアニスの声が、覚者達の耳に確かに響いた。

 嵐のような冷たい風が今日も吹く――


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。

 プレイングでやりたいこと、その気合などは十分に伝わりました。
 それらを加味したうえでの結果です。ご了承ください。

 古妖狩人も決戦間際です。皆様、頑張ってください。
 それではまた、五麟市で。




 
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