鬼子奇譚 ヴィオニッチ交換児童複製体
鬼子奇譚 ヴィオニッチ交換児童複製体


●取り替えられた子供
 北陸地方にある山沿いの町に、一人の少女が住んでいた。
 とはいえ、彼女の住居は家屋ではない。
 寺。それも廃寺である。
「――――、――、――。――……」
 少女は何の言語ともとれないような奇っ怪なことをぼやいて、床にぶちまけた緑色の絵の具を撫でた。
 手にべったりと付いた緑色を、壁になでつけていく。
 葉っぱのような、人間のような、それが渦を描くような、不思議な絵柄を幾度も幾度も繰り返していく。
 それは壁一面に広がり、そういう柄の壁紙であるかのようにピッタリと均一に描かれていた。
 そんな時間がいつまでもいつまでも続くかのように思われた。
 しかし。
 がらりと扉が開く。
「……」
 おかしな仮面をつけた男が、寺の中へと土足で踏み込んできた。
 とても小柄な男である。いや、仮面とローブで姿を覆っているがゆえ、男かどうかすら判別がつかない。
 おびえるようにすくむ少女。
「交換児童複製体。識別名称『びおにいち』。あなたを確保します――嘘です」
 仮面の男は急速に走り出し、少女の顔面を鷲づかみにした。
 そして。
「――!」
 なにごとかわからない少女の呻きを無視して、彼女の頭部をちぎり取った。

●鬼子を産みし事
「みなさん、よくあつまってくれました。依頼のお話をしても、いいですか?」
 久方 真由美(nCL2000003)は真剣な口調で依頼資料をモニターに表示し始めた。
「隔者と思われる存在が、非覚者と思われる存在を殺害する事件が起きます。これを阻止するのが、今回の依頼内容です」
 よくある内容を述べているかのように見えて、違和感が差し込まれている。
 分からないまま話を聞いていると、真由美はこのように述べた。
「どうやら行きずりの殺害や金品目当ての強盗殺人ではなく、『頭部を持ち去ること』を目的として動いていたことが、分かりました」
 誰の頭部でも良かったのなら、わざわざ廃寺なんて場所まで上がり込んでいく必要はない。それこそ行きずりの誰かや、押し込み強盗のように家を狙えばいい。
 しかも。
「隔者と思われる存在は全部で8名います。一人は寺の中へ押し入り、他の七人はその周囲を固めるといった具合です。何らかの作戦行動、ないしは何らかの命令のもとで組織行動をとっているものと思われます。これらを撃退し、襲われている存在を救出して下さい」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.非覚者と思われる存在の救出
2.なし
3.なし
 八重紅友禅でございます

 戦闘の状況と介入可能なタイミングについて補足します。

・現場
 廃寺です。
 山の斜面を切り崩した、小高い場所に存在しています。林に囲まれているため日中でもやや薄暗いでしょう。
 建物は堂一棟のみで、他はあらかた崩れています。がれきは多少残っていますが草木に呑まれている状態です。
 残った建物も所々穴やくずれがあり、間違っても人が住むような環境ではありません。

・戦闘状況
 仮面の男が一人建物内に入り、他七名は周囲をぐるりと囲むように警戒しています。
 いずれも覚者と思われ、皆さんが取得しているうな高度な聞き耳、拡張視野、異常直感といったたぐいの能力を有しています。
 火行から土行まで混合、体術を主に使う現主体のメンバーと思われます。
 これらを撃退することが今回の任務です。
 倒し方やその後の工夫によっては捕縛や殺害も可能ですが、大抵の場合(PC側の敗北撤退がそうであるように)敵は逃げおおせるでしょう。

・介入のタイミング
 ちょうど仮面の男が屋内に入り込む頃に戦闘開始となる模様です。
 きわめて早く現場に到着した場合は先回りが可能ですが、その際の移動プレイングはやや厳しめに判定します。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年12月13日

■メイン参加者 8人■

『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『かわいいは無敵』
小石・ころん(CL2000993)
『『恋路の守護者』』
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)

●子供を助けなければならぬ
 山沿いの坂を駆ける集団あり。
 廃寺を囲んでいた仮面の男たちはそれをいち早く察知し、戦闘態勢へと入った。とはいえ彼らも愚かではない。
 接近する集団が敵である確証がないまま動くのは自殺行為だ。ここは受けるしかない。さらには陽動を警戒し、寺を囲んだ陣形を保たねばならなかった。
 そこへ彼らは、あまりに堂々とした、かつ迅速な正面突破を仕掛けたのだった。
 完全戦闘圏内へ侵入しても速度を緩めない彼らに、仮面の男たちは応戦の構えをとる。他に選択肢は無い。
 そこへ『蒼炎の道標』七海 灯(CL2000579)は鎖分銅を投擲。男は紙一重でかわし、鎖を掴み取る。男の手には刺青。精霊顕現だ。
 力強く引き寄せられるも、灯は分離させた草刈鎌を振り込んだ。翳した腕を貫通。刃が反対側から露出する。
 さすがに攻撃が正面からだけだと判断した仮面の男たちは戦力の集中を開始するが、既に灯たちの行動は次の段階に進んでいた。
 『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が手の中に空気を圧縮。突撃しながら空圧弾を乱射する。
 対する仮面の男も両手の指間に空圧弾を複数生成し、次々に発射してくる。
 至近距離での撃ち合いが始まる中、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)と『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)が彼らの頭上を飛び越えていく。
 着地からすぐにダッシュ。狙いが建物内への侵入だと気づいたときには既に遅い。
 跳び蹴りを繰り出してきた仮面の男へ、割り込むように宮神 早紀(CL2000353)がトンファーアタックを仕掛ける。
 打撃を腕で受ける仮面の男。
 手応えからして互角かそれ以上だ。今のところ、F.i.V.E覚者チームと大きな戦力差は見られない。
 彼女の脇を二人ほど抜けようとしたが、廃寺の正面入り口に立ち塞がる形で『かわいいは無敵』小石・ころん(CL2000993)が覚醒。
 自らの身体と巨大なキャンディケインに毒の皮膜を発生させると、仮面の男のパンチをはじき返した。
「ここで足止めさせてもらうの」
 ころんが言わずとも、既に目的は知れている。知れた上で達成されていた。
「こっから先は行かせない!」
 工藤・奏空(CL2000955)がクナイを空へと放り投げると、大きなスパークを起こして仮面の男たちを牽制した。
 まるで水を差すようで申し訳ないが、はっきりと説明を加えておこう。建物の周囲を守っていた敵を突破させる判定においてブロックルールは適用されていない。現エリアの敵に充分な戦力でもって戦闘を仕掛けつつ、一部を隣接エリアへ移動させるという行為判定である。『戦闘を引き受けて市民を逃がす』や『ここはまかせて先へ行け』と同じ判定だ。
 この判定において、敵の警備をほぼノーロスで突破するという、高い結果を出した。とにかく二名だけを屋内に送り込むという作戦のたまものである。
 勿論、同じ理屈で仮面の男が屋内へ移動できるため、足止めをするにはどれだけ『放って置いたらまずそう』と思わせるかが重要だ。
 建物の裏側から合流した仮面の男たちに対応するように剣を抜く『想い受け継ぎ‘最強’を目指す者』天楼院・聖華(CL2000348)。
「無視なんてさせないぜ。なあ奏空にぃ!」
 初速からトップスピードに入り、横切るように次々と斬りつける。
 仮面の男に刃を握られ動きを止められるがそれで十分だ。
 聖華を含む六人で、仮面の男七人を囲んだ状態になったからだ。
 6対7。個体戦力に大きな差が無い以上、やや不利だ。
 けれど仮面の男が一人抜ければ有利が崩れる。お互いに頭数を減らし合い、せめて2対3程度になってからでないと移動は難しいだろう。
 逆に言えば、聖華たちはそれだけの時間をネバればいいということになる。
 あとは送り込んだ二人がうまくやってくれることを信じるのみだ。

 さて。
 屋内に突入した二人は早速仮面の男と例の少女を発見した。
 戦闘の音を聞いて足を止めていた仮面の男だが、二人を見て再び少女へターゲッティング。彼女の顔面を掴み取るべく駆け出す。
 しかし走る速さは既にトップスピードに乗っていた千陽の方が早かった。手が少女に触れる寸前の所で体当たりをしかけ、もつれるように転がる。
 先に起き上がったのは仮面の男だが、起き上がりを狙ったかのように禊の回し蹴りが叩き込まれた。
 はじき飛ばされ、壁に激突する仮面の男。
 禊は細く息を吐いて、蹴りの姿勢をとりなおした。
「よかった、間に合った」
 彼女の後ろで少女を庇うように立ち、銃を抜く千陽。
 ちらりと振り返り、少女を見た。
「助けに来ました。もう大丈夫です」
 念のため送受心でも同じメッセージを送心してみたが、相手からの反応は特にない。
「――、――」
 意味不明のなにかを述べるのみだ。意志の受心もない。
 ただ表情を見る限りは、咄嗟の事態にひどく驚き、おびえている様子だ。
 千陽は仮面の男に銃の狙いを定め呼吸を整えた。
 2対1。少女を守りながらとはいえ、圧倒的に有利だ。

●仮面の男
「イマイチ何を考えてるのか分からない人たちデス……!」
 空圧弾を乱射しながら走るリーネ。併走する仮面の男は同じように空圧弾を乱射。
 お互いの地面や背後のがれきが次々とはじけ飛んでいく。
 ほぼ同時に互いの射撃が着弾。バランスを崩した所に、早紀が飛びかかった。
 まっすぐに突撃しながら火炎弾を発射。咄嗟に防御姿勢を取ったところに飛び膝蹴りを叩き込む。
 吹き飛び、転がる仮面の男。
 ファイティングポーズをとりなおす早紀。
「キミたちどこの組織の人!?」
「……」
 無言で起き上がりながら空圧弾を乱射してくる。もちろんのっそりと数秒かけて起き上がるような愚鈍さはない。転がりから素早く受け身をとり、膝とつま先飛び退くように距離をとりながらの射撃である。戦闘訓練を受けた人間の動きのようだが。どうにも教科書通りな動き方である。
 訓練は積んだが実戦投入はあまりされていない。そういった印象をリーネは受けた。
「隙ありだ、ぜ!」
 背後に回り込みホールドし、剣を首に押し当てる聖華。
「お前らなんであの子を狙ってるんだよ。あの子の頭に何があるわけ? 宝のありか? 誰かの秘密? それとも失われた秘術か? とにかくあの子の頭んなかにお前らが命をかけるレベルの何かがあるって感じだな!」
 言っている間に、別の男が凄まじいスピードで接近してきた。
 ストレートパンチを繰り出してくる。
 ホールドしていた敵を放り投げ、飛び退く聖華。
 避けきれず、腹を貫通していく衝撃。聖華は喀血しながら地面を転がった。
「だいじょぶ? 立てる?」
 スウェーで滑りこむようにして庇いに入る早紀。
「さっきの挑発? にしては長く喋ってたけど」
「いや、そういうわけじゃ……」
 早紀が敵に呼びかけているのは精神を乱して隙を作るためのいわば挑発行為だが、聖華は純粋に何か情報が欲しくて行なった質問である。本人は『カマかけ』をやってみたかったようだが、イエスと言われてもノーと言われても何かしらの誤認をしてしまう聞き方である。もっと言えば、敵に質問するということは情報戦の主導権を相手に渡すようなものなので、あまりやるべきではない。
 聖華は自分でそれに気づいて顔をしかめた。
「慣れてないことはするもんじゃないな。コレで聞くしか無いか」
 剣を取り直し、聖華は敵へと突撃した。

 一方。
「貴様らはどういう理由で彼女の頭部を狙う? まさか彼女の頭部に神具が?」
 独り言のように呟きながら、千陽は仮面の男の足下を銃撃。
 弾頭に込められた術式が発動し、地面が槍のように次々と隆起した。
 それをダッシュとジャンプでかわしていく仮面の男。
 情報戦云々の話をしたばかりだが、このケースに関しては仮面の男にそんな余裕があると思えない。
 なぜなら。
「そこ!」
 千陽の発動させた隆起から飛び退いた所を狙って、禊がムーンサルトキックを叩き込んだ。
 空中で受け身もとれずに蹴り飛ばされ、地面を転がる。起き上がった所へ、千陽がすかさず銃撃。仮面に命中し、小さなヒビが入った。
 咄嗟にヒビを手で押さえる男。
 千陽はその動作に目をこらした。
 彼らの被っている仮面はバタフライマスクやアノニマスマスクのようなそれらしいものではなく、能面から一切の凹凸と墨を取り除いたような、ともすればどこから視界を確保しているのかも怪しいほどののっぺりとした仮面だった。
 かさも大きく、顔のほぼ全てを覆っている。
 だが確信できたものもある。男だと思っていた……というより『男かどうかもわからなかった』彼らだが、ローブから時折見える身体のラインを見る限り女性のようだ。
 それを察しているのかいないのか、禊は飛び込み旋風脚を繰り出した。むしろ360度キックだが。
 彼女の踵が直撃し、仮面の男は大きく吹き飛んだ。仮面を押さえるほどの隙を見せていたのだから当然といえば当然だが、受け身もまともにとれずに壁に激突。そのまま壁を破壊して野外へ転がり出る。
 仮面の男はこちらを一瞥すると、そのまま走って逃げ出した。
「あっ、待――たなくてもいいや」
 反射的に追撃しそうになった禊だが、自主的にブレーキをかける。今は少女の保護が優先だった。

「ああもうこいつら、しつこいな!」
 奏空は連続で繰り出される手刀をスレスレのところでかわしながら、癒しの滴を自分の身体にねじ込んでいた。
 いくらなんでもスタミナがもたない。『かわしながら』とは言ったが結構な頻度で貰っている。服は所々が裂け、肉もだいぶ持って行かれている状態だ。
「奏空にぃ!」
「だ、大丈夫だって! 下がってろ!」
 聖華が援護に加わろうとするが、奏空はそれを腕を翳してとめた。
 戦闘が始まって随分経っている。リーネと早紀が戦闘不能になって戦域を離脱し、仮面の男も何人か離脱している。
 聖華や奏空は命数を削ってホバリングをかけているので頭数では勝っているが、いつまでも続けたい戦いではない。
「これでもくらえ!」
 奏空は一度相手の手刀をわざとくらうと、掌底を胸に押し当てつつ召雷を発動。
 相手を中心に激しい電撃をまき散らしつつ、思い切り吹き飛ばしてやった。
「……ん、えっ!?」
 手に残った柔らかい感触に、思わず手と相手を交互に見てしまう奏空。
 その途端、背後に回り込んだ仮面の男が素早く彼を足払い。宙に浮いたとこに後頭部を肘で破壊しにいった。
 高速できりもみ回転し、うつ伏せに倒れる奏空。
「奏空にい!」
「ちょっと……まずくなってきたの」
 杖をくるりと回し、迎撃の姿勢をとるころん。
 彼女が(恐らく敵から見て未知と思われる)カウンタースキルを常駐させていることを察した敵は、あからさまにころんをターゲットから外していた。おかげで回復に専念できるが、この状況はあまりよろしくない。
 ころんを含めて戦える味方は味方は三人。対して仮面の男は二人。相手も相手で消耗の激しい体術スキルを多様しているのでスタミナ切れも近い筈だが、退く様子がない。
 逆に言うと、それだけ豊富な体力を備えているということだろうか。術式の運用を切り捨てて体術と体力にスペックを傾ける覚者は少なくない。彼らもそういうタイプだろうか。
 と思っていると。
「……」
「……」
 仮面の男たちは互いに顔を見合わせ、素早くきびすをかえすと逃走を始めた。
 丁度、屋内で禊が仮面の男を倒したタイミングである。
「逃げるの。灯ちゃん!」
「はい!」
 灯は鎖分銅と鎌を連結。素早く鎌部分を投擲すると、仮面の男の足首へと巻き付けた。分銅の代わりに鎌がふくらはぎへ突き刺さり、アンカーのように固定する。
 それによって転倒した仮面の男を、聖華ところんは協力して殴りつけ、無力化した。
「なんとか一人は捕らえられましたね」
 振り向くと、廃寺から禊が顔を覗かせた。
「こっちは終わったよ。そっちは……うん、上々だね!」
 灯は頷き、後のことを任せて寺の中へと向かった。

●『交換児童複製体』とは……?
 廃寺の中は異様な空間になっていた。
 完全に廃墟化した建物というものを見慣れていなければ、それだけで既に異様ではあるのだが、壁一面にびっしりと描かれた緑色の模様が異様さを際立たせている。
 近づいてよく調べてみると、それらが寸分違わずまったく同じ形に描かれていることがわかる。計測すればもっとよくわかると思うが、見立てた限りではまるでコピー機でも使ったように全く同じだ。
 それを手書きしていたのだとすれば……。
 灯はそれを写真に納めると、少女の方へと向き直った。
「F.i.V.Eに話をしてみましたが、あの子の保護はしてくれるそうです。児童施設などに入れてあげればあの子も……ええと、時任さん?」
 見れば、千陽が少女の肩に両手を置いたまま、そして膝立ち姿勢のまま微動だにしていない。
 近づいて見てみると、千陽は目を大きく見開いたまま表情までもを凍り付かせていた。
「あの、いったい」
「『ちぇんじりんぐ』」
 そう呟いたきり、千陽は崩れ落ちるように気絶した。
「え――あの」
「時任! ちょっと時任!?」
 駆け寄ってゆする禊の声も、届かぬらしい。
 一方の少女は、突然の目の前の男が倒れて驚いているといった様子だ。
「――、――?」
「大丈夫」
 覚醒状態を解いたころんが寄り添い、少女の肩を暖かく掴んだ。
「恐くなかったの?」
「――」
 少女は安堵したような笑顔で頷いた。
「なんだ、普通の子じゃない。時任もどうしたの? 疲れたの?」
「激しい戦闘の後なの。仕方ないの」
 そう言って、ころんは少女の手を引いた。
「車は停めてありマス。道中に心配はないデスヨー」
 リーネが不自然な日本語で語りかけ、笑いかけてやる。
 少女は自然な、突如知らない人間に命を狙われたがまた別の人間に保護されて安堵している子供の表情で、笑った。

「なんだ、思ったより普通だな」
「ん? うん」
 手を引かれて廃寺を出て行く少女を横目に、奏空はため息をついた。
「今感情探査したんだけどさ、かなり普通。てっきりこう……すごいショックとかが押し寄せてきて気絶しちゃうかと思ったんだけど」
「奏空にぃは感情探査をなんだと思ってんだよ。『恐い』とか『安心』とか、そういうのをこっちからちらっとのぞき見るだけだろ? 思考を読み取るわけじゃないんだからさ」
「いや、沢山の感情に囲まれてるとつらいぞ?」
「沢山の人に囲まれたら誰だってつらいって」
 奏空にぃは便利に使おうとしすぎなんだよなーと言いながら、聖華はぱたぱたと手をはたいた。
「で、そっちは? 何か分かった?」
「何かっつーか……なんもないっつーか……」
 聖華が見た限り、生活感は一切無かった。
 食べ物の痕跡。衣服を含む生活用品。トイレの様子。どこを見ても人間が生活していた風では無い。
 それを告げると奏空は首を傾げた。
「は? あの子住んでたんだろ?」
「らしいな。夢見がちゃんと証言してるし、それは確実だと思うぜ。それとさ……」
 聖華は、口ごもって言った。
「緑色の絵の具? あんだけ沢山使ってるのに、容器がどこにもないぞ」

 一方、早紀。
 戦闘不能にした仮面の男を結束バンドで拘束していた。
 強盗が人質を無力化するときに使う手だ。お手軽かつ確実。
 戦闘不能にしたといっても全力疾走くらいはできたりするものなので(自分たちが敗走するときがまさにそうだ)、このくらいはしておきたい。
「ん、例の子?」
 廃寺から出てきた少女を見て、にっこりと笑いかける。
 すると足下で、何かが割れて砕ける音がした。
 見下ろす。
 仮面が砕けている。
 と同時に。
 術式によって自らの頭部を破壊したらしい仮面の男だったものが、転がっていた。

 後日談ではない。
 精神鑑定の結果、千陽は重度のストレスとショックによって拒絶反応を起こしたのだと判定された。何を感じてそうなったのか、精神の自己防衛機能によって強く記憶にフタをしてしまったせいで判別しない。
 この件を鑑みて、少女の保護先は児童施設ではなく、隔離個室になるそうだ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『ヴィオニッチペイント』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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