【古妖狩人】或いは、疾走激走鎌イタチ。
【古妖狩人】或いは、疾走激走鎌イタチ。


●疾走鎌イタチ
 森の中。風が走る。木漏れ日の中を、影が横切る。ほんの一瞬。紅葉した木の葉が舞い散る。風に踊って、真っ二つに裂ける木の葉。地面に散ったそれを踏みにじり、駆け抜ける男達。グレーの軍服を着込んだ集団で、その手には機関銃。腰には手榴弾を吊るしている。
 古妖狩人と呼ばれる組織の構成員達である。目下の目的は、古妖を捉え、自分達の戦力として調教することにある。
今回は、人里離れた山の中へと踏み込んで、静かに暮らしていた古妖(鎌イタチ)を捉えることが目的なようだ。鎌イタチの数は3体。動きが素早いおかげで、もう数時間ほどもこうして逃走を続けている。
 しかし、そろそろ限界だ。鋭い鎌を持っているとはいえ、元より争いごとを好まない穏やかな性格の鎌イタチ達は、狩人の銃弾に傷つき、既に満身創痍。
 本能のみで、逃走を続けている状態である。冷静な判断力を欠いているのか、時折、無意味に木や岩を切りつけることもある。
「もう少しだ。追い込め!」
 鎌イタチを追う狩人は6人。だが、鎌イタチの進行方向には、更に5名の狩人が待機している。無線を用いて、密に連絡を取り合い、時間をかけて鎌イタチを追いこんでいる。
 慣れたものだ。
 古妖を狩るのも、これが初めてではない。
「さぁ、狩りの仕上げだ!」
 機関銃の一斉掃射。驚いた鎌イタチが、周囲の木々をめちゃくちゃに切り裂く。動きが速くて視認はし辛いが、こうして何かを切断させれば、どこを移動しているのか一目瞭然だ。
 もくろみ通り、鎌イタチは仲間達の待つ森の奥へと逃げこんで行く。
 古妖狩人達の先頭を走るリーダー各の男は、マスクの下で口元を歪め、下卑た笑い声を上げる。
 弱者をいたぶり、追い詰める感覚。
 何度体験しても、これに勝る興奮はない。

●古妖救出指令
 倒れる木々の最中を、小さな影が駆け抜ける。モニター越しにそれを見て、久方 万里(nCL2000005)はほへぇ、と気の抜けた溜め息を零した。
「最近、物騒だね。また古妖狩人が、古妖を苛めてるよ。今回追われているのは、3体の(鎌イタチ)。動きが速くて、疲労と恐怖で正気を失ってるみたい」
 話かけても、聞いてくれはしないかも。
 なんて、困ったように万里は呟く。
 古妖を追いかけるのは、6人の狩人。更に、進行方向には5人の狩人が待ち伏せしている。
 追いかける6人は、機関銃と手榴弾を装備している。一方で、待ち伏せをしている5名の狩人の装備は、火炎放射機と、毒ガスだ。弾丸と爆音で脅し、追いたて、火炎放射機や毒ガスで追い詰める。
 そういった作戦で、今までに何体もの古妖を捉えてきたのだろう。
「もしかしたら、暴走している鎌イタチの攻撃に、皆も巻き込まれちゃうかもしれないね。低ダメージと(出血)に注意してね」
 追いかけられて、可哀そう。
 助けてあげて。
 そう言って、万里は仲間達を送り出す。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.古妖を助ける
2.なし
3.なし
こんばんは、病み月です。
今回は、森の中を逃げ回る鎌イタチと、古妖狩人にまつわる話。
それでは、以下詳細。

●場所
森の中。木々が生い茂っていて、視界が悪い。
疾走する鎌イタチの姿は視認し辛く、鎌イタチの切り倒した木々が進行の邪魔になることもある。
ゲリラ戦を得意とする古妖狩人にとって比較的有利な状況と言えるだろう。

●ターゲット
古妖(鎌イタチ)×3
小さな鎌イタチ。動きが素早く、姿は視認し辛い。散々狩人たちに追い回され、現在冷静さを失った、混乱状態にある。
がむしゃらに走りまわり、進路上にあるものを切り裂くように動く。
古妖狩人達のせいで、銃声に恐怖心を抱いているようだ。
狩人達をどうにかすれば、落ち着いてくれるだろう。
【鎌一閃】→物近単[出血]

●敵対ターゲット
古妖狩人×10
グレーの軍服に身を包んだ古妖狩人の一団。
リーダー格の男を中心とした、ゲリラ戦法や追い込み作戦に長けたチームであるようだ。
機関銃と手榴弾を持った6人の追い込み部隊と、火炎放射機と毒ガス兵器を持った5人の待ち伏せ部隊がいる。
【機関銃】→物遠列 
機関銃による掃射
【火炎放射】→特遠貫2〔火傷〕
火炎放射機による集中砲火
【手榴弾】→物遠敵全〔溜め1〕
手榴弾による爆破攻撃。場所が場所なので、ある程度開けた空間以外では使いたがらない傾向にある。
【毒ガス】→特遠敵全〔毒〕〔痺れ〕〔ダメージ0〕
設置済みの、毒ガスを散布する罠を発動させる。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年12月07日

■メイン参加者 8人■


●狩る者と狩られる者
 木々を揺らして駆け抜ける風。通り抜けた後には、切り刻まれた木の葉が散った。その風の正体は、鎌イタチと呼ばれる(古妖)である。
 3体の鎌イタチ達は、キィキィと悲鳴を上げながら逃げ続ける。錯乱した鎌イタチが大木切り倒す。音をたてて、木が倒れる。
 その音を聞きつけ、森の奥から数名の男達がやって来た。
『見つけたぞ。こっちだ! このまま追い込め』
 先頭を走っていた男が叫ぶ。
 男の声は、無線を通して遠方に待機する他の仲間達へと伝達された。
 男達は(古妖狩人)と呼ばれる憤怒者の集団だ。彼らの目的は、古妖を捕らえることだ。
 高速で移動する鎌イタチに対応する為に、狩人達は2つのグループに分かれて行動している。
 こうして、鎌イタチを追い詰めるグループと、鎌イタチの行く先に待機し、待ち伏せしているグループの2つ。
『あいつら、銃声に驚いて木を切り倒しながら移動してくれるおかげで、居場所が丸分かりだ』
 リーダー格の男がそう呟いた。その時だ。
 バキバキと、今度は彼らの右方向から木の倒れる音が響いた。
『今度はあっちか』
 一直線に逃げていた鎌イタチ達が、急に進路を変更したらしい。そう判断し、銃を構えた6人の狩人は、リーダー格の男を先頭に進路を変える。せっかく追い詰めた鎌イタチを逃がすわけにはいかないからだ。
『待ってろよ、鎌イタチちゃん。くっははは!』
 圧倒的強者の余裕。高笑いと共に、狩人達は駆けて行く。

●狩る者は狩られる者へ
「ったくやっかいな奴らだな、古妖狩人ってやつらは……」
 木の影に隠れ、工藤・奏空(CL2000955)は、小さな溜め息を零す。彼の視線の先には、根元から切り倒された1本の大木。
「自然破壊はちょっと気が引けるけれど、まぁ仕方ないわよね」
「ああくそ。ほんにこげな所まで出張ってきよってからに。しかもただの追いかけっこやけんネタにもならせんわ」
 ジル・シフォン(CL2001234)が木を撫でる。女性のような容姿服装をしているが、その実ジルの性別は男性だ。彼の隣では、神・海逸(CL2001168)が苛立たしげに頭を掻いた。
 狩人たちが、音を手掛かりに鎌イタチを追っている、との情報を元に、木を倒しながら移動し、こうして狩人が追いかけてくるのを待ち構えているわけだが、追手がここにまで来るか否かは運に任せるしかない。
 だが。
「シッ! 静かに!」
 奏空が、唇に指をあてジルと海逸へ声をかける。
「居ったか?」
 草影へ身を隠しながら、海逸は問うた。奏空が返事を返すよりも早く、3人の目の前へ狩人達が姿を現す。倒れた木の傍で足を止め周囲を見回す。
『くそっ。どっちだ? どっちへ行った?』
 必死に、鎌イタチの移動した痕跡を探すが、そんなもの見つかるはずはないのだ。鎌イタチはこのルートを通っていない。笑いを堪え、ジルはくっくと肩を揺らす。
 ドォン、と遠くで木の倒れる音。本物の鎌イタチが、また何処かで木を切り倒したのだろう。
『なっ!? どうして……』
 今まで順調だった追走に、此処に来て初めて綻びが生じた。音を頼りに追って来た結果、鎌イタチを見失ってしまったことに混乱を隠せない。
 リーダーが落ち着きを無くしてしまえば、もう終わりだ。それに従う5人の仲間達の間にも、混乱が広がっていく。
 さて、と鞭を握り直してジルはゆっくり、木の影から狩人達の前へと歩みでる。
「嫌がる相手を執拗に追いかけるなんてイケない子ねぇ。ふふ、きっとモテないでしょうね」
 機関銃を構えた6人を、ジル、海逸、奏空が囲む。
 
 無線を通し、鎌イタチの到着を待ち伏せしていた5名の狩人達は、何者かの乱入を知る。このまま待ち伏せしていると、鎌イタチを逃がしてしまうかもしれないと判断し、彼らは森へと突入した。
 幸い、鎌イタチの居場所は判明している。
 男達の視線の先で、木が倒れる。鎌イタチはすぐそこだ。
 森へと突入した狩人達。
 その先頭を進む男の頭上から、人影が飛び降りてきたのはその時だった。
『なっ!? ぶ、ゲぁ!?』
 ガスマスクの上から、両足を揃えた膝蹴りを喰らい、地面に倒れる。後ろに続いていた5名も足を止めた。
「風祭雷鳥、トロイ奴には興味ないんでヨロシク」
 先頭を走っていた狩人に、コンドルキックを叩きこんだのは『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)だ。
「古妖を追い立てて捕まえようとするなんてひどいことするなぁ。怖がっちゃってるみたいじゃない。逆に怖い思いをあたしがさせちゃうぞお?」
 狩人の背後から、更に1人。鳳 結衣(CL2000914)が飛び出した。拳に炎を纏わせて、手近に居た1人を殴り飛ばす。火炎放射機を盾にして男はそれを防御。背後に控えていた別の男が、火炎放射機の引き金を引いた。
 ゴウ、と音をたて火炎が放たれる。
「あっちち!」
 跳び退った結衣と入れ替わるようにして、『『恋路の守護者』』リーネ・プルツェンスカ(CL2000862)が前へ出る。結衣の身体を、蒼銀色のオーラが包み込んだ。蒼鋼壁が火炎を反射。地面を覆っていた木の葉が焼けて、炭と化す。
「ウー、古妖狩人の人達がまたイケナイ事やってマスネー」
「鎌イタチさんの為に、いつもより、頑張りますね!」
 リーネの頭上から、狩人達の中央へと飛び降りたのは賀茂 たまき(CL2000994)だ。守護使役の能力で足音を消し、ここまで接近していたらしい。
 地面に呪符を貼り付け、気力を注ぐ。土が隆起し、1本の巨大な槍と化した。狩人の1人が、槍に弾かれ、宙を舞う。
『い……一斉砲火!』
 そう叫んだのは、誰だっただろう。
 仲間を巻き込むかもしれない、なんて考える余裕もなかったようだ。都合4本の火炎放射機から、一斉に業火が噴き出した。

 離宮院・さよ(CL2000870)の背後で、火炎放射機が業火を噴いた。仲間達の安否が気になるが、今は鎌イタチの安全が優先だ。
「さよ達がきっと助けるからっまっててくださいっ」
 木の下で震える鎌イタチへさよは声をかけた。そっと伸ばしたさよの腕を、鎌イタチの鋭い爪が引き裂く。流れる鮮血を拭いもせず、さよはゆっくりとその場にしゃがみこんだ。鎌イタチの体毛は血で赤く濡れている。肩を激しく上下させ、恐怖と敵意に牙を剥く。機関銃の弾丸を浴び、鎌イタチは傷を負っていた。追いかけられる疲労と恐怖で、これ以上走ることが出来ないらしい。
 人間に対し、恐怖を抱くのも、仕方ない。
 さよは悲しげに目を伏せると、翼を広げて仲間達の元へと飛び立った。

 焼け焦げた木が、自重を支え切れずにへし折れた。対峙する、5人の狩人と、覚醒者達。仲間を庇ったリーネと、至近距離から火炎放射を浴びた雷鳥のダメージが大きい。
「回復はお任せ下さいですっ」
 戦場に降り立ったさよの周囲を、淡い燐光を散らす霧が包み込む。霧に包まれた仲間達の傷が回復していく。
『ちっ……。傷が治せるのか』
 だったら、と狩人の1人が手に握っていた小さなリモコンを操作する。
 ふしゅう、と奇妙な音。近くの木の幹と、雷鳥の足元から薄紫色の毒ガスが散布された。

 数の優位を活かすべく、狩人達は2人ずつに分かれて、機関銃を乱射。そのまま、2名は木の影へと跳び込んだ。狩人を追いかけ、奏空は苦無を投擲。地面に突き刺さった苦無目がけ、雷が落ちた。
 落雷を浴びた狩人が、気を失って地面に倒れる。傍にいたもう1人が、仲間の落とした機関銃を拾い引き金を引く。両腕に持った機関銃から、無数の弾丸が放たれた。
「おっと……。だったらこちらもゲリラ戦だ」
 奏空の肩や腕を弾丸が掠め、血飛沫が舞う。素早い身のこなしで木の影へと跳び込み、射程から退避。牽制として投げた苦無は、片方の機関銃の銃口へ突き刺さった。暴発を恐れ、狩人は機関銃を投げ捨てる。
 残った機関銃を構え直した狩人の側頭部へ、横方向から放たれた水の弾丸が命中。その意識を刈り取った。6名中、脱落者は2名。残る4人は、4方へと散開した。 こちらの数は3名。1人ずつ相手にしても、狩人が必ず1人は自由になる配置だ。
「詰まらん方法で密漁なんてするもんじゃなか」
 羽織の裾を翻しながら、海逸が舞う。時折放たれる水弾が、狩人を襲う。海逸を狙って機関銃を掃射するが、仲間への誤射を恐れ、その頻度は散発的だ。数発ほど命中したものの、動けないほどではない。
 水弾や苦無を警戒し、狩人達は木の影へと身を隠す。
 だが……。
「ふふ、追いかけっこは苦手だけど、隠れんぼは得意よ」
 死角から放たれる炎を纏った鞭の一撃が、狩人の手から機関銃を叩き落した。
 鋭い痛みに悲鳴をあげる狩人の背後に、ジルが迫る。狩人の背に手の平を押し当て、くすりと笑った。
 ほんの一瞬。狩人の全身を、地面から噴き上がった火炎の柱が飲み込む。
『が……あぁ』
 全身に火傷を負った狩人は、気を失ってその場に倒れ込んだ。

『ちっ……。使えねぇ!』
 倒れた仲間を罵って、リーダー格の男は機関銃の引き金を引いた。狙いは海逸。仲間への誤射を気にすることは止めたらしく、弾幕は途切れない。足を撃たれた海逸が、その場に膝を付く。
 弾丸を浴びたのは、海逸だけではない。
『うあ!』『いってぇ!』
 仲間達の悲鳴が上がるが、追い詰められたリーダー格の男は、狂ったように笑いながら機関銃を乱射している。
『あの野郎。付いていけねぇ!』
 仲間の1人が、銃を捨てて逃げ出した。
 その背を追うのは奏空だ。
「こうした隠密行動って……なんだか変に馴染むとかいうか……変な感じがする」
 木の枝から木の枝へ。ムササビのように跳び移る。一瞬で、逃げる狩人の頭上を追いぬき、空中でくるりと身体を躍らせる。逆さまになった視界の中央に狩人を捉えたその刹那、いつ放たれたとも分からない一刀の苦無が、狩人の背に突き刺さった。
 苦無が刺さった、その瞬間。
 落雷が、狩人の身体を貫いた。

 リーダー格の男に撃たれ、傷を負った狩人の眼前には、鞭を手に妖しく微笑むジルの姿。
『ま、待ってくれ……。降参だ。銃も捨てた。だから……助けてくれ。頼むよ、お姉さん!』
 機関銃を放り投げ、狩人はずるずると後退して行く。ジルの位置からは見えないが、その手には手榴弾を握っていた。
 ピンに手をかけ、狩人はそれを投げつけるタイミングを窺っていたのだ。
「お姉さん、ね」 
 と、ジルが呟く。今だ、とほんの僅かにジルの意識が自分から逸れた隙を狙って、狩人は手榴弾のピンを抜く。腕を大きく振り上げ、ジルへ向かって手榴弾を投げつけようとしたその瞬間。
 ぱし、と小さな音がして狩人の手首へジルの鞭が巻き付いた。狩人の手から手榴弾が零れ落ちる。
『あ……ぁァァァぁああああ!!』
 絶叫。手榴弾の爆発に巻き込まれ、男は意識を失った。着込んでいた防護服のおかげで、一命こそとりとめたものの、まともに動けるようになるにはどれだけの時間がかかるか分からない。
 気絶した男を見降ろして、ジルは小さく「お姉さんじゃ、ないけどね」と呟いた。

 残りは自分1人だけ。恐怖に足がガタガタ震える。だが、それと同時に、気分はかつてないほどに高揚していた。追い詰められ、脳内麻薬が溢れているのだ。
『ぁぁァ!! てめぇら全員、吹き飛ばしてやる!』
 機関銃を乱射しながら、リーダー格の男は飛び出す。腰に巻かれた数個の手榴弾から、次々とピンを抜いていく。 
「くだらん真似しよって。とっととお縄について貰おうかの」
 続けざまに放たれた海逸の水弾が、手榴弾を弾き飛ばす。遥か後方で、数個の手榴弾が続けざまに爆発。リーダー格の男は、機関銃を投げ捨てなりふり構わず海逸の元へと突撃していく。足を撃たれ、動けない海逸の身体にタックルを喰らわせ、男は狂ったよぅに笑い声を上げた。
 右手に握った手榴弾のピンを、口で咥えて引き抜いた。
 追い詰められた男のとった行動は、自爆。自分もろとも、せめて1人だけでも道連れにしようという考えか。
「こいつっ!」
 海逸の放った水弾が、手榴弾を弾いた。男の手から離れた手榴弾は、しかし縺れあう2人からさして遠ざかる前に、閃光と共に爆発した。
 轟音が、地面を揺らす。木の枝からは、鳥が飛び立つ。
 地面にくすぶる火のこと、地面に出来たクレーター。クレーターの中央に、意識を失った海逸と、事切れたリーダー格の男が倒れていた。
 至近距離で爆発に巻き込まれた男は命を失い、男の身体を盾にすることで海逸は一命を取り留めた。
 海逸を助けるため、奏空とジルはクレーターの中へと跳び込んで行く。

●鎌イタチ、激走
 火炎放射の直撃と、毒ガスを続けざまに浴びた雷鳥はふらふらとその場に膝を付く。朦朧とする意識の中、雷鳥の目に映ったのは、眼前に迫る安全靴の爪先だ。
 ガツン、と目の奥で火花が散った。力任せの一蹴りが、雷鳥の意識を刈り取る。
「離れなさーい!」
 気絶した雷鳥を庇う為、結衣が駆ける。姿勢を低く、矢のように。握った拳に炎を纏わせ、力任せに殴りかかる。火炎の軌跡を描きながら、拳を一閃。
 雷鳥を庇うように、両腕を広げた。
「自分の身体が盾、むむん」
 狩人達が火炎放射機を構える。だが、距離が近すぎる。先ほどのような一斉放火は、今度こそ自分達を巻き込んでしまう恐れがあった。
 動揺し、狩人達の足並みが僅かに乱れた。
 崩れた陣形の中へ、結衣に続いてたまきが駆け込む。
「私、頑張りますね!」
 鋼と化した拳が、狩人の側頭部を打つ。ガスマスクが砕け、狩人は周囲に残った毒ガスを吸い込み、苦悶の表情を浮かべた。
「さよ達が今まで追い回していた狩人たちと戦っているところを見ればきっとわかってくれはずですっ! このまま狩人を攻撃してくださいっ!」
「イタチを虐めるなんて感心しまセーン!! ヤッチャイマショー!」
 毒ガスと火炎放射でダメージを受けた仲間の治療を続けるさよとリーネは、狩人達の射程外へと退避する。毒ガスのよるダメージが身体を蝕むが、今は目の前の狩人達の撃退が優先だ。
 リーネの付与した蒼鋼壁と、さよの水衣が仲間の受けるダメージを軽減する。同士打ちを恐れ、火炎放射機を使えないでいるうちに、片を付ける心算である。
 鎌イタチを一網打尽にするために、火炎放射機しか装備していなかったことが仇となった。密集状態では、思うように戦えない。
『散らばれ!』
 混乱の最中、狩人の1人がそう叫んだ。男の腹部を、たまきの拳が打ちのめす。背後へと踏鞴を踏みながら、男は火炎放射機を構え直した。防護服のおかげで、受けるダメージをある程度軽減出来ているようだ。
 流石に訓練されているのか、狩人達は号令と共に散開。そのうち2人は、後方で援護に回るさよとリーネの元へと駆けて行く。
 2人の援護をするために、後衛へと引き返そうとする結衣の前に1人の狩人が回り込んだ。
 手元のリモコンを操作し、近くにあった毒ガスを散布する。咄嗟に口を押さえた結衣へと火炎放射機の銃口を向ける。
 狩人が引き金を引くと、銃口から業火が放たれた。
 炎に包まれた結衣は、しかし意を決して前へと駆ける。
「多少の負傷は! 気にしない!」
 火炎を纏った渾身の一撃が、狩人の顔面を打ち抜いた。

 火炎の壁を突き破り、鎌イタチの元へと向かう狩人を追うたまき。服は焼け焦げ、露出した肌は赤く火傷を負っている。
 走り続けるのも限界だ。火気を吸い込んだ喉が、ひゅーひゅーと悲鳴をあげる。
 咳き込む度に、口の中には血の味が広がった。 
 乾いた視界は霞んでいる。
 最後の力を振りしぼり、火炎の壁を突破。足がもつれ、倒れ込む寸前、たまきの手が狩人の足へ届いた。
「……鎌イタチさんのためにも、貴方達を倒さないといけませんね」
 握りしめた拳の中には一枚の呪符。地面が隆起し、土の槍を形成する。狩人を宙へと叩き上げ、土の槍は崩れ落ちた。意識を失った狩人が地面に落ちる。
 溜め息を零し、地面に横たわったたまきの傍へ、1匹の鎌イタチが近寄ってくる。
 たまきの頬を、鎌イタチは小さな舌でぺろぺろと舐めた。

「もうこれくらいしか出来ないのデース!!」
 書物を広げ、リーネは波動弾を放つ。空気を震わせ、リーネの放った波動弾が狩人を襲う。2人の狩人は、前後に並んでこちらへと駆けてくる。波動弾が先頭を走っていた狩人の胸へ直撃する。衝撃が体を貫き、狩人は意識を失った。
 倒れた仲間の頭上を飛び超え、最後の狩人がリーネの側頭部へ火炎放射機を叩きつけた。
「きゃっ!」
 悲鳴をあげ、リーネが地面に倒れ込む。倒れたリーネを尻目に、狩人は火炎放射機をさよへと向けた。
 回復に専念したいたさよは、回避も攻撃間に合わない。襲い来る火炎に備え、さよはきつく目を閉じた。
 しかし……。
『ぐ……ぁぁッぁァぁ!!』
 悲鳴をあげたのは狩人の方だ。
 恐る恐る目をあけたさよの視界に映ったのは、血塗れになった倒れ伏す狩人と、その周囲を飛びまわる鎌イタチの姿であった。
「あ……。助けて、くれた」 
 3匹の鎌イタチは、さよの足元へと駆け寄り、彼女の足へと頭を擦りつける。暫くして、鎌イタチは駆け出した。目にも止まらぬスピードで、一迅の風のように。
「さよは……。さよたちは鎌イタチさんたちと仲良くしたいですっ」
 さよの言葉は鎌イタチに届いただろうか。
 あっという間に、鎌イタチ達は、森の奥へと消え去った。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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