【古妖狩人】暴力反対なんだゾ!
【古妖狩人】暴力反対なんだゾ!


●狙われた一つ目小僧
 そこは岡山県にある小さな神社。
 普段は無人であるこの場所には、古妖、一つ目小僧がひっそりと隠れ住んでいた。
 この間、参加したハロウィンパーティーは楽しかった。しばらくは悪戯を控え、その余韻に浸っていた一つ目小僧である。
「今日は何して遊ぶんだゾ」
 誰も来なければ、このまま境内で日向ぼっこでもしようかと考える。
 人気のないはずの神社。だが、その日は違った。
「あれか……」
 ガタイのいい男が2人。ゆっくりと神社に現れた。彼らの狙いは、一つ目小僧だ。
「相手は古妖とはいえ、小さなガキ……楽勝じゃねぇか」
 その2人はどことなく、表情が似通っている。それもそのはず、2人は兄弟なのだ。室谷兄弟は己の筋肉を誇示しつつ、一つ目に近寄っていく。
「な、なんだゾ!?」
 近づいて来る人影に驚き、飛び起きる一つ目。だが、いつの間にか現れた、20人程の男達がずらりと一つ目を囲んでいた。
「逃げるんだゾ!!」
 一つ目は己の力で男性達を驚かし、混乱させようとするのだが、数が数だ。彼はすぐに室谷兄弟に捕まってしまう。ジタバタと抵抗する一つ目だが、男達に殴られ、抑え込まれ、そして……。
「……だ、ゾ……」
 一つ目はぐったりとうな垂れてしまう。全身傷だらけにはなっていたが、まだ息はあるようだ。
「思った以上に楽だったな」
「まあな。あとは……」
 憤怒者たる2人は、淀んだ瞳で気を失った一つ目を見つめてこう告げた。
「死ぬまで俺達の役に立ってもらおうか」

●古妖を救え!
 会議室へと向かった覚者達。そこにはすでに、久方 真由美(nCL2000003)が待っていた。
「皆さんは、『古妖狩人』を知っていますか?」
 最近、頻発している、古妖を狙う憤怒者組織『古妖狩人』。
 彼らは捕らえた古妖を覚者を襲わせるよう調教し、戦力にする。また、戦力にならない古妖は、非人道的な実験に使用される為に、日の届かぬ牢に投獄されてしまうという。
「中には、この組織と交戦する、謎の覚者の存在も確認されていますが……」
 今回は残念ながら、真由美が夢見で視る限りでは現れる様子はない。できる限り早く現場に到着し、古妖を助けてあげたい。
「今回狙われているのは、一つ目小僧です」
 覚者の中にはハッとした表情を浮かべる者もいる。ハロウィンの時に悪戯をしてきたのが一つ目小僧だった。
 彼は小さな坊主の姿をしており、人を驚かせるだけを楽しみとしている古妖だ。文字通り、顔には大きな一つ目があり、舌を出していることが多いのが特徴である。
「その時の古妖に間違いなさそうですね。彼は普段寝床にしている神社で、憤怒者に捕まってしまうのです」
 そこは、岡山県にある小さな神社だ。鳥居と社があるだけで、普段は無人で近寄る者も少ない。境内はそれなりの広さがあるので、まれに子供達が遊んだり、小規模な催しが行われるくらいだ。
 そこに現れるのは、『古妖狩人』の所属員、室谷兄弟とその配下達だ。
「彼らは、己の力を誇示しようとする憤怒者です」
 覚者達が持つ力を、自らの力で勝ち取ったものではないと、敵視しているこの兄弟。覚者は倒すべしと心底から思っている為、覚者が現れれば襲ってくるとは思われるが……。
「組織として、古妖の回収を優先事項として命じられています。ですので、一つ目の捕縛を行い、逃走することも大いに考えられます」
 敵がどう動くかは分からない。様々な状況を想定して動くといいだろう。
「どうか、心無い憤怒者から、古妖を守ってあげてください」
 真由美は丁寧に覚者へと頭を下げ、古妖の保護を願うのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.古妖、一つ目小僧を助けること。
2.なし
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 ハロウィン時に悪戯していた一つ目小僧が、古妖狩人に狙われております。皆様の力で助けてあげてください。

●敵
○室谷兄弟……憤怒者組織『古妖狩人』の一員です。
 いずれも20代。兄、克司(かつじ)は赤いズボン。 弟、高司(こうじ)は緑のズボン。いずれも上半身は白いタンクトップを着ており、己の筋力を誇示しております。
 タンクトップを来た2人組で、己の筋力を誇示し、力を振るう者達です。
 ナックルをつけた拳で物理攻撃を叩き込んでくる他、覚者対策として、機関銃(物遠列)、手榴弾(物遠敵全〔溜め1〕)も所持しております。

○組織員……20名。兄弟と同年代の者達で、兄弟ほどではないですが、ガタイがいい男達です。
 彼らが使う武器は以下の通り。
・前衛5人……ナイフ(物近単〔痺れ〕)
・中衛10人……火炎放射 特遠貫2 〔火傷〕
・後衛5人……毒ガス(特遠敵全〔毒〕〔痺れ〕〔ダメージ0〕)

●NPC
○一つ目小僧……小学生低学年くらいの体型の坊主です。
 捕まえられるのが嫌なのか、抵抗を図るようです。助けてあげれば、覚者の手助けをしてくれます。
・おどかし……特近単・混乱
・舐め回し……物近列・虚弱
・睨み付け……特全・痺れ
・お豆腐……自・体力回復
 彼については、『<南瓜夜行>びっくらこかせるゾ!』もご参照下さい。

●状況
 状況によって前後はしますが、基本的には憤怒者達が境内に現れ、一つ目を捕らえようとしているタイミングでの到着となります。

 それでは、今回も楽しんでいただければ幸いです。よろしくお願いいたします!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2015年12月03日

■メイン参加者 6人■

『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『アグニフィスト』
陽渡・守夜(CL2000528)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)

●古妖を狙う憤怒者達
 『F.i.V.E.』の覚者の姿は、岡山県にあった。
 とある小さな神社。そこで、古妖が憤怒者達に捕らえられてしまう事件が起こるという。
「あの時の一つ目小僧が攫われそうになってるのか」
 『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)が言うあの時とは、ハロウィンパーティのこと。その時、パーティの参加者を驚かせる悪戯をしてきていたのが、今回、狙われている一つ目小僧だった。
「ふむ。あの一つ目か」
 指崎 心琴(CL2001195)も、その時の依頼に参加していた。悪戯者ではあるが、悪い奴ではないと思ったものだ。
「いたずらっ子だけど素直ないい子だったし、助けに行かないと」
「困っている者を助けるのが、正義の味方だ」
 同じことを考える亮平の言葉に、心琴は同意する。
 丁度その時、小さな神社に駆けつけたメンバー達は、長い階段を見上げながら境内へと駆けあがっていく。
「待て、クソガキ!」
「大人しくしやがれ!」
 そこでは、子供相手に、大勢の男達が、ナイフを振るい、毒ガスをばら撒き、機関銃を撃ち放っていた。
「逃げるんだゾ!!」
 傷を負いながらも逃げる一つ目。その様子はあまりに痛々しい。
「大勢で寄ってたかって、可愛らしい一つ目ちゃんをいじめるなんて、あんまりなんよ」
 茨田・凜(CL2000438)も、不快感を露わにする。
「大人しくしろ!」
「兄貴、そっちだ!」
 その中に、タンクトップを着た筋肉隆々の兄弟がいる。この2人が室谷兄弟。赤いズボンの兄、克司と、緑のズボンの弟、高司に間違いないだろう。
「……憤怒者って色々いるけど、……あいつら見てると、あいつらなら思いっきり殴ってもいいかな、なんて思えるな」
 古妖とはいえ、小さな子供の姿の一つ目小僧を、大の男が20人がかりで追い回している姿は、見ていて気持ちのいいものではないと、和泉・鷲哉(CL2001115)も感じていた。
(まぁ、今回依頼で色々出てんの、そういうゲスなのばっかだけどさ)
 現在、これに似た事件は各所で発生している。暴力で圧倒する憤怒者達。まさに外道だ。
「由来はともあれ、憤怒者は人にも妖しにも害をなす、世界の敵です」
 『アグニフィスト』陽渡・守夜(CL2000528)は古妖が襲われている事件を憂い、古妖を守る為、そして憤怒者に怒りをぶつける為に、この依頼に参加していた。
「一つ目小僧……貴様達に渡してたまるか」
 『浅葱色の想い』志賀 行成(CL2000352)も、一つ目との面識がある。だからこそ、その生を弄ぶ憤怒者の手に、渡すことはできないと考えていた。
「一つ目ちゃんの救出がんばってみるんよ」
 凜の言葉に、覚者達は頷く。メンバー達は境内に散り、一つ目を助ける為、そして、憤怒者達を倒す為に動き始めたのだった。

●一つ目を助け出せ!
「捕まるのは嫌なんだゾ!」
 一つ目は20人もの覚者を相手に、なんとかこの場から逃れようと動き回る。
 だが、多勢に無勢とはまさにこのこと。多少抵抗をしたところで、一つ目に勝ち目などない。
「兄貴、そっちだ」
「おう、高司、挟み込むぞ」
 前面に立つ兄弟がポージングしながらも、一つ目を挟み込んでいる形。それをさらに『古妖狩人』組織員が取り囲む。
 そこへ、介入する6人の覚者達。
 亮平は後に備え、送受心を発動させ、自分経由で仲間同士の伝達を可能にしていた。
 他のメンバー達は憤怒者の群れの中へと切り込んでいく。
「一つ目、息災だったか? 今回はまた厄介事に巻き込まれてるようだな」
 その群れの中心にいる一つ目へ、心琴が呼びかける。
「助けに来たぞ。ここを乗り切ったら、また一緒にお菓子を食べよう。甘いものは美味しいものな」
 聞き覚えのある声に、こわばっていた一つ目の表情が和らぐ。忘れもしない。ハロウィンの時に優しく接してくれた人間達だ。
「来てくれたんだゾ!」
 一つ目は、憤怒者達に囲まれていることも忘れ、両手を上げてはしゃぎ始める。
「まずは自分の回復をするといい。時間は作るぞ」
「うんだゾ!」
 一つ目は飛んでくる銃弾に苦しみつつも、豆腐を取り出して食べることで、自らの傷を癒す。
 心琴はその返事を聞き、憤怒者達目がけて絡みつくような霧を放つ。
「覚者だ!」
「やれ、やってしまえ!」
 室谷兄弟はやってきた覚者に気づき、古妖を囲いながらも、覚者の相手を行うことにしたようだ。
 古妖を手助けする覚者が現れたとしても、数の優位は揺らがないと、憤怒者達は強気な態度を崩さない。
 水のベールを纏って自らの防御を高め、錬覇法で自身の力を高めた行成。彼は大きく薙刀を振るい、後ろに続くメンバーの為に道を切り開く。
 鷲哉は外側にいる組織員の足元から、炎を出現させる。燃え上がる炎が、ナイフを持った組織員の体を焼き払った。
 そんな炎の熱さ以上に、鷲哉にとっては室谷兄弟の姿が暑苦しくすら思えて。
「うーわ、マジで暑苦しいわ、アレ。しかも、赤と緑って、どっかの配管工兄弟みたいなカラーリングだな……」
 確かに、そんな兄弟を彷彿とさせはする。だが、行っていることは、それらの人物達とはあまりにもかけ離れていた。
「憤怒者め、奴らの所業は許せない。本当に怒っているのは、俺達だ」
 仲間によって切り開かれた道を走る守夜は、覚者や妖を人と思わぬ憤怒者に対し、怒りを露わにする。
 ――術とか使えても、覚者も人間であることに変わらない。
 ――術とか力なんて、携帯電話とかの道具と変わらない。
「憤怒者の所業は隔者と変わらないし、奴らが憤怒者というのもおこがましい……!」
 まさに、その時だ。
「そこだ!」
「よし、捕らえろ!」
 組織員の1人が室谷兄弟の命で、豆腐を食べる一つ目を捕まえてしまう。そいつ目がけ、守夜は炎の塊を放つ。
「ぐあっ!」
 倒れ伏す憤怒者に、ふうと息をつく守夜。顔見知りの仲間へと一つ目との接触を託す。
「ハロウィンの時一緒に遊んだ人間だよ。覚えてるか?」
 亮平は1枚の写真を差し出す。これは、その時に撮った記念写真だ。
「うんだゾ!」
 亮平の問いに、一つ目は嬉しそうに頷く。人と接する機会の少なかった彼にとって、よほど楽しい時間だったのだろう。亮平は彼の坊主頭を優しく撫でる。
「よかったんよ」
 凜もそのやりとりにほっこりとした表情を見せ、仲間の傷を癒しの滴で癒していたようだ。
「よぉ、ハロウィン以来だな。助太刀するぜ」
 その後ろから声をかけてきた鷲哉。彼も一つ目との交流を再び楽しみたいと考えたのだが。
「おい、なにしてんだ!」
「早くやってしまえ!」
 ふがいない組織員に悪態を尽きながらも、室谷兄弟が叫ぶ。彼らは機関銃を連射し、覚者達に傷を与えるのと同時に、威嚇を行う。組織員達も同じく、ナイフを振るい、あるいは炎やガスを噴射して、攻撃を仕掛けてくる。
「ワッショイして逃げられたら、楽なんだけどな」
 鷲哉はそう苦笑する。ハロウィンの時は、そうして強引に一つ目を運んだものだ。
 とはいえ、今回はそうした場合、後ろから憤怒者のナイフに貫かれる危険すらある。彼は力を高めつつ、一つ目を守るよう位置取りを行う。
「手伝うんだゾ!」
 同じく、一つ目を守ろうとする亮平に、一つ目が訴える。
「危険なので前に出ないように、あと、やり過ぎないようにね」
 彼はそうして、一つ目を後ろに下がらせ、睨み付けでの援護を頼む。
「仕方ないな」
「俺達の力を存分に見せつけるいい機会だ」
 元より、室谷兄弟は、今回の任務にさほど力を入れていたわけではない。だが、覚者がいるならば、話は別だ。
「『古妖狩人』……。古妖を兵器利用したり、実験に使ったりすると聞いた」
 心琴は敵に向かって呼びかける。その行為は、痛いし、しんどいし、良くないこと。そうした過去を自らも持つ心琴は、胸の中のもやもやを自覚する。それはおそらく、どうしたらいいのか分からないほどの怒り。
「……それでも、命は大事だ」
 心琴は一つの命を守る為、全力を尽くすのである。

●誇示すべき力とは
 憤怒者の数はいまだに15よりも多い。先程、心琴が纏霧を敵に放っていたのだが、それで敵が無力化するわけでもない。
 覚者達は一つ目を守るように陣形を組む。
「こいつらは許せません……」
 守夜は敵の火炎放射を防ぎながらも、ナックルでその敵を殴りつける。
「でも、殺したら魂が淀むのが嫌なので、殺しません」
 それによって、自分や仲間の日常が汚れて淀むのは、彼にとっては忌避すべきこと。可能な限り殺さないように、敵の無力化を図る。
 鷲哉は仲間が攻撃した敵を確実に戦闘不能に追い込むべく、またも火柱を敵に浴びせる。炎を浴びた敵は耐えることができず、倒れてしまう。
 そんな彼は、己の肉体で殴りかかってくる室谷兄弟の姿を見る。
(あれ相手に、肉体誇示の対抗は出来る気しないわー。……つか、あんなにいらないわー……)
 ムキムキになったその体。鍛え上げたその身体は、鷲哉にとっては不要とすら感じてしまう。
「力の誇示ねぇ……。俺自身に大した力なんてないけどさ。お前等の言う『自らが勝ち取った力』ってのは、古妖達を捕まえて奪う力がそれな訳?」
 鷲哉の問いかけに、兄弟は揃って首を振る。
「皆、俺達のように鍛え上げているわけではない」
「あくまでも、お前らに対抗する一つの手段だ」
「そうだとしたら……、お前等の望む力なんて、誇示してもなんの意味もないクズみたいなもんだな」
「なんだと……?」
「言わせておけば……!」
 兄弟は鷲哉に狙いを付けるが、それは彼の思惑通り。
(一つ目小僧より、こっちに目向けてくれた方がいいしな)
 殴りかかる弟。それを、行成が受け止める。
「良い筋肉を持っているようだが、小学生程度の者を囲うだけにしか使用できないなら、その程度の中身ということだ」
「覚者が……何をほざく!」
 さらに、兄が殴りかかってきたが、行成は血を吐きつつも平然と答える。
「気に障ったか?」
 彼もまた、室谷兄弟を挑発し、この2人を叩くことで、憤怒者の一団の無力化を狙うのだった。

 敵の数は多い。
 さすがに、幾ら覚者ではない人間とはいえ、相手は覚者を殺そうと考える憤怒者達だ。
「回復は凛におまかせなんよ」
 後衛に立つ凜は、仲間達の回復に当たっていたのだが。前に立つ組織員がナイフを落としたのを見はからいすかさず、使役のばくちゃんにそれを食べさせる。これでこの敵は無力化したはずだ。
 だが、凛は戦闘に対する考えが甘かったと言わざるを得ない。後ろにいる敵が、毒ガスを凜へと浴びせかけてきたのだ。
 痺れを覚える彼女へと、さらに炎が浴びせかかる。彼女は対策を立てる間もなく、崩れ落ちてしまった。
 一方、倒れることはないが、亮平の身体にもかなりの傷が。命を少し削り、対応せざるをえなかった。一つ目を守る余り、敵に対する対策がやや疎かになってしまっていたのが響いていたのかもしれない。
「その力は危険すぎる!」
 火炎放射を行う敵へ、亮平は叫びかける。
「古妖を攫って力を得ようとする組織に属してる君達こそ、矛盾してないか?」
 亮平は炎で身を焦がしながらも、さらに訴える。
「こんな小さい子や、無害な古妖から無理矢理絞り取った力を得て、君達は誇れるのか?」
「覚者が……説教すんじゃねーよ!」
 だが、憤怒者が持つ闇は底知れない。力を持った覚者が何を言おうとも、彼らの心に届くことは無いのかもしれない……。亮平はそれでも、自身の言葉で訴え続けるのである。
 一方、室谷兄弟。
 確かにその肉体は鍛え上げられており、繰り出される攻撃はかなりの威力だ。時折飛ばしてくる手榴弾や、機関銃での殺傷力は、覚者といえ、ただでは済まない殺傷力がある。
 踊りかかってくる兄、克司。
「覚者も古妖も……持たざる俺達の贄になるべきだ!」
 死角を突いて剛腕を叩きつける彼の攻撃。だが、鷲哉はそれにすぐさま対処し、攻撃を受け止める。
 反撃とばかりに、彼は苦無に炎を纏わせた一撃を見舞う。火傷を負った兄へ、行成が続く。
「自身の行う非道行為の免罪符に、覚者を使ってくれるな……!」
 行成は裂くような鋭い蹴りをくらわし、兄を蹴り倒す。
「兄貴!」
「殺しはしない」
 叫ぶ弟の頭上へ、心琴が雷を落とす。刹那、打たれた弟は叫び声を上げるが、彼もまた、煙を吐き、地面へと倒れたのである。
 そうして、心琴はゆっくり、残る組織員へと呼びかけた。
「投降しろ。これ以上削り合っても痛いだけだ。お互いになにも得をしないぞ」
 ただ、リーダーが捕らえられたことで、これ以上抵抗しようとする者はいなくなった。投降する者もいたが、中には逃げ出す組織員もいたようだ。
 メンバー達は、亮平が持ってきた大量のロープで縛りつけていくのである。

●同じ『ヒト』なのに……
 戦いが終わり、一息つく覚者達。凜も意識を取り戻していたが、その体にやや傷が残ってしまっていたようだった。
 武器を奪い、拘束して無力化したことで、暴れようとする者は皆無だった。
 守夜は捕らえた15、6名の憤怒者達を睨み付けるようにして見回す。
 捕らえたからといって、憤怒者達は今もなお、覚者達を敵視していたようである。
「なんでお前達は、それほどまでに覚者を憎む?」
 そんな傷つく憤怒者達に問いかけながらも、心琴は癒していく。
「同じ『ヒト』なのに、争うなんてなんか変だ。悪い奴もいるかもしれない。けど、いいやつもちゃんといる。だから、それをわかってほしい」
 だが、憤怒者達はその言葉を聞き入れることはなく。
「何が同じ人だ」
「力を持てば、必ず、そいつは持たないものを蔑む……」
 室谷兄弟は忌々しそうに覚者達に敵意を向けたまま。
「お前らがやってる苦しい実験なんかは悪いことじゃないのか?」
「快楽で人を殺す覚者もいる」
「それに比べれば、よっぽど有意義ってもんだぜ」
 鼻で笑う室谷兄弟。全く持って反省する様子は見られない。
 そんな反応を示す兄弟からは情報など得られようはずもなく。メンバー達は目覚めた組織員達に『古妖狩人』の本拠地が何処かを聞き出そうとする。
 しかし、組織員が口に出した場所は、おそらく中継地点でしかない。彼ら自身も本拠地の場所を知らないようだった。室谷兄弟ならば、何か知っているのかもしれないが……。
「AAAに引き渡せば、口を割ることだろう」
 行成の提案は守夜も考えていたことのようで、すぐに同意する。
 さて、ここに残された一つ目小僧。
「た、助かったんだゾ……」
 まさか助けてくれるとはと、一つ目は大きな目を潤ませた。それになんとも可愛らしさを覚える覚者達である。
「また狙われるかもしれないから神社には戻れないだろうし、保護出来る場所を調べておきたいな」
 この場所は少なくとも、『古妖狩人』に知れ渡っている。『F.i.V.E.』での保護も考える必要があるかもしれないと、亮平は考えていた。
「一つ、お願いしてもいいかい?」
 傷つく亮平は最後に、一つ目にこう頼む。
「豆腐を……豆腐を食べてみたいんだ」
 一つ目自身を回復する為の食べ物なのだが。懇願する彼へ、一つ目は隠し持っていた豆腐をちょっとだけ差し出す。その味は、普通の豆腐よりもちょっとだけほんのりと甘い気がしたのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『一つ目小僧の豆腐』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:阿久津 亮平(CL2000328)



■あとがき■

覚者の皆様、お疲れ様でした。
皆様の活躍もあり、
無事に、古妖、一つ目小僧を助けることができました。
MVPは身を張ってくれた上、
最も、一つ目小僧を気にかけてくれたあなたへ。
参加していただいた皆様、
本当にありがとうございました!




 
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