暴虐の雷神
暴虐の雷神


●天より降りし迅雷
 『それ』は遥かより降り来たりし閃光。雲間を縫い、轟を纏いて穿つ輝きの奔流。人はそれを『いかづち』と呼ぶ。
 人里からは少しばかり離れた高原地帯。ごろごろと不穏な音を立てていた黒雲から、極大の雷光が一際高く聳え立っていた杉の木を裂いた。本来であれば、そこで雷は地へと吸われて消えてしかるべきだろう。
 だが、高熱に燃え盛る杉の木だったものの根元、太い幹の根幹に位置するそこに、稲光は依然として消えずにわだかまっていた。それどころか、バチバチと周囲に電光を発し、周囲の草木を根こそぎ焼いてゆく。
 『それ』は周囲をぐるりと見渡した。不恰好に揺れる頭をふらふらと巡らせて、不機嫌そうにぐるぐると唸る。草木に囲まれたピクニックに丁度良さそうなその情景も、『それ』にとっては不愉快極まりないらしい。
 詰まる所、『それ』は意思を持っていた。目に見えるもの全てを憎んでいるかのように吼え猛ると、その咆哮に呼応するようにして『それ』の周囲に稲妻が走る。四方20メートル程が焼け焦げ、木々は大音量と共に倒れ伏した。残る木片すらも踏みにじり、『それ』は歩を進める。
 全てを壊す為に。ただ、己の心に基づいて、無へと還す為に。

●疾風の如く地を駆けて
「割と緊急の依頼なんだ。ちょっと急いでほしい」
 落ち着かない様子で久方 相馬(nCL2000004)は覚者達を会議室へと招き入れて、やや早口で説明する。
「相手は自然系の妖で雷が変異したヤツだ。呼び方に困ったんで、適当に『雷電』と呼ぶことにしとくぜ」
 出現したのはとある高原地帯。夏場であれば避暑に訪れる人も多かったろうが、寒さを孕み始めた今時分では、好き好んで訪れる人はそういない。つまり、幸いなことに人的被害はない。今のところは、だが。
「皆に頼みたいのは、この『雷電』の討伐だ。それで……急いでほしいっていうのには、勿論理由がある」
 何でもこの『雷電』、何が気に入らないのか、周囲に電撃を降らせて焼き払いまくっているらしい。それも、自分の目の高さ以上のものを全て消し去ろうとしているかのように。乾燥し始めているこの季節、いつ山火事になってもおかしくないだろう。それに加えて。
「マズいことに、『雷電』の進行方向には町があるんだ……」
 ただでさえ周囲の全てを破壊対象としてしか見ない『雷電』が町に辿り着いたら……どう考えても惨劇しか起こらないだろう。しかも、町自体はそこそこの大きさがあり、とてもではないがすぐさま避難できるような規模ではない。
「今から急げば、町が見渡せるくらいのところで迎え撃つことが出来る。ぶっちゃけ、相手が周囲を焼き払ってるもんだから、正面切って戦うしかないと思う」
 その上で、自然系の妖の常として、物理攻撃は効果が薄いという。更には、全体を巻き込む広範囲の電撃の他、高威力の雷撃も放ってくる。単純に相手との戦力差と戦術が勝敗を分けるだろう。
「ごめん、俺には皆を信じて待つしか出来ない。けど、きっと無事に帰ってくるって信じてるから。だから──頼むな」
 相馬の真摯な眼差しに見送られ、覚者達は一路、戦場へと急ぐ。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:鉄機
■成功条件
1.雷電の討伐
2.町を守る
3.なし
鉄機です。
雷が変異した妖を討伐し、町の平和を守ってください。

■戦場
高原地帯です。
視界を遮りそうなものは粗方『雷電』によって焼き払われています。
また、見晴らしは良く、隠れたりするのは難しいでしょう。
足場に関しては良好で、若干小高い場所での戦闘になります。
現場に着くと、『雷電』が暴れているのが目に入ります。
なお、最寄の町までは2km程度の距離になり、遠目に見て見渡すことが可能です。

■討伐対象
雷電:妖(自然系)/ランク2(獣並みの知性です)
雷が変異した妖で、周囲の全ての物に対して破壊衝動を抱えています。
ある程度の範囲を壊してから移動、を繰り返しています。
その為、移動速度そのものはそこまで高くはありません。
ただし、戦闘に入るとその限りではないでしょう。
元が雷であるため、物理攻撃は効きにくく、効果が薄くなります。
攻撃方法は以下。
・高圧電撃:単   威力:大 付加効果:麻痺
・稲妻放射:単貫3 威力:中 付加効果:なし
・降雷  :全   威力:小 付加効果:痺れ
範囲が小さいほど高威力になります。
割合、強敵です。多少の被害は覚悟してください。

それでは、頑張ってください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
公開日
2015年12月01日

■メイン参加者 5人■

『ロンゴミアント』
和歌那 若草(CL2000121)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『イージス』
暁 幸村(CL2001217)

●雷神退治の鐘が鳴る
 現地にたどり着くと、焦げたような匂いが立ち込めている。雷電の焼き払った高原地帯はその様相を焼野原へと変容させ、緑色で埋め尽くされていた筈の一帯はこげ茶色のそれへと姿を変えていた。所々、燻った煙が白い糸のように天へと昇る。だが。
「グアアァァァッ!!」
 放射された稲光が、煙を吹き散らすように爆ぜた。雷電にとっては、例え一筋の煙であろうと破壊する対象でしかないようだ。そしてその目が、視界の端に動くものを捉えた。
「なかなか爽快な事してるじゃないの」
 言ってまっすぐに雷電へと突き進む『浄火』七十里・夏南(CL2000006)をはじめとする覚者達を確認し、敵意の咆哮を上げる雷電。その雄叫びに怯むことなく、『イージス』暁 幸村(CL2001217)が雷電の進路を塞ぐように立った。
「割とこういう猛獣系の敵は好きなほうだぜ。見てよし、戦ってよし……ってな」
 一方で、周囲の変わり果てた様相を目の当たりにした四条・理央(CL2000070)の口からも、思わず言葉が漏れ出す。
「……これは専門外だとかは言ってられないか……」
 これまでに雷電が進んできたと思われる進路には、まともな草木は一本たりとも見受けられない。こいつが町に入ってしまえば、どうなるものか。想像するだに恐ろしい光景になることは間違いない。
「絶対に、ここで食い止めなくちゃ」
 同じことを思ったのだろう、『ロンゴミアント』和歌那 若草(CL2000121)からも、決意が滲む。そんな仲間の様子を横目に、橡・槐(CL2000732)が口にした言葉が、開戦の合図となった。
「それでは、化物退治とまいりませうか」

●意思と決意と破壊衝動
 開戦直後、夏南は自らの身に宿る炎の力を燃え上がらせてその力を拳に乗せる。いつでも状況に反応できるようにと雷電の正面に立つ夏南の脳裏に、ある種の羨望が過った。
(何も考えずに好きなだけものを焼き払えるのは楽しそうで羨ましいわね)
 許されるのであれば、自分も思いのままに邪魔なものを焼き払えてしまえたら。そんな思いもふと浮かびはするが、目の前の妖にそれを許すつもりは毛頭ない。
(生きてるのかどうかもよくわからない相手だが……)
 拳に巻いた術符が、炎を纏う。
「死ぬまで、殺す」
 明確な殺意。それは、戦いの場においては最も有効とも言える最大級の覚悟のひとつ。迷いも逡巡もなく、ただ相手を滅することだけに特化したその意識は、極限の集中を生む。
 そんな夏南の殺気を受けてか、雷電は目の前の覚者達をただの破壊対象から『敵対存在』として認識したようだ。
「グオオオオオォォォォンッ!」
 雷電が天に向かって吠え猛れば、その上に巨大な雷球が生まれて散る。瞬間、周囲のすべてを焼き尽くさんとするかのように、全方位へと電撃が降った。覚者達全員を巻き込んだそれは、幸いなことに覚者達の運動機能を阻害することはなかったようだ。だが、思いの外威力は大きい。
「回復するわ!」
 すぐさま、若草と理央から癒しの霧が展開される。相手の強さを考えれば、半端な回復ではもたない算段もある。実際、事前に聞いていた中では最も威力の低い筈のこの攻撃ですら、結構なダメージを受けていた。手を抜けば、その分だけ被害が広がる。
「癒しが続く限りは、容易く倒されはしないよ」
 戦況からして、かなり厳し戦いになるだろうことは、この数秒間で理解できた。だからこそ、弱気になってはいけない。戦意を失ってはいけない。心が折れれば、それだけ戦えなくなる。
 かと言って、冷静さを欠いてもいけない。焦りもまた、戦況に隙を生み出す要因となる。
「くっそ、全体狙いの攻撃とかきついな」
 槐の生み出した清らかな香りによって周囲に立ち込めていた焦げた匂いから解放され、幸村はひとりごちた。万が一、先ほどの攻撃で全員が痺れるようなことがあったら。そう考えただけでもぞっとする。
 土の鎧を身に纏い、歩を前へと進める幸村。相手は確かに強大。故に、進めさせる訳にはいかない。
 背にした町を守り切るという決意と、全てを打ち壊すという執念のぶつかり合いは、長い戦いへと姿を変えていった。

●怒りの化身の如く
「ごめん、これで打ち止め!」
 理央の放った水礫が雷電の肩を打った。ダメージを受け、怒りに燃える雷電が右腕と思しきものを大きく引いたのを見て、夏南が叫ぶ。
「高圧! 来るよ!!」
 雷電と打ち合うこと暫しの間に、夏南は雷電の最大火力である高圧電流の予兆を見極めていた。結果として、右腕にあたる器官を大きく引いて打ち出してくることが判明したのだが、その射程は長い上に打ち出されるのは雷。光速で放たれる攻撃をどうにかするには、予備動作の内に行動を起こす必要がある。
 夏南の叫びに応じて、幸村が動いた。雷電と狙われた理央の間に身体を滑り込ませて盾を構える。ほぼ同時に、全身を貫く激痛が幸村を襲った。
「────!!」
 声にならない苦悶。完全に防御態勢を取っていたとしてもこの威力では、何の対策も取っていない状態であればひとたまりもないだろう。
 がくりと膝をついた幸村から、雷電の目を逸らすように若草が動く。
「こっちよ!」
 声を上げて注意を引きながら幸村を回復する若草を次の攻撃対象に選んだのか、雷電の視線は若草から離れようとしない。その直後、雷電の下腹部に大きな一撃が入り、その身体を揺さぶった。
「余所見とは余裕だな?」
 夏南の炎を纏った拳が、雷電の腹を焼く。怒りの色にその瞳を染める雷電を尻目に、大きく後ろへ跳ぶ夏南。その間に、槐が理央に向かって填気を施していった。
 回復手段がない以上、雷電にもダメージは蓄積している。だが、周囲の破壊を優先する雷電にとって、己のダメージというものは意に介する必要がないかのようにすら見える。
 若草や理央を中心とした回復手段も、そろそろ気力の切れ時が見えてきている。決着を急ぎたくはなるが、雷電に疲労の兆候が見えないせいもあって、余計に勝負を急くのが躊躇われてしまう。
 先の見えぬ持久戦。それは、覚者達にとっては辛い展開であった。

●そして散る雷
 戦況はじりじりと覚者達にとって厳しいものへと変わりつつあった。戦術の組み立ては間違っていない。後は、互いの彼我戦力差と気力の勝負。覚者達も相当に疲弊はしているが、それは相手も同じ筈。息のあがった身体で、槐は思考を巡らせる。
 これまでの行動から察するに、雷電の行動はこちらの行動に対する反応が主。特に目につく相手に対して高圧電撃を放ってくる率が高い。だが、それならば策の立てようはある。
「和歌那さん、でかいのに耐えられるです?」
「微妙、かもしれないわね」
 なるほど、とひとつ頷いて、槐は今度は理央へと声をかけた。
「四条さん、攻撃はお任せするですよ」
 槐の言葉に反応した理央は、その立ち位置を見て槐の意図を理解したようで。
「了解……気を付けて」
 その言葉を残して、理央は雷電の死角へと回り込んだ。雷電の動きは、幸村と夏南が纏わりつくことで抑えている。この期を逃す手はない。
「大声あげてやるですよ」
 若草も、槐のしようとしていることに合点がいった。と同時に、一瞬の迷い。だが、やるなら今しかない。
「わかったわ……すぅ……回復、するわ!!」
 大きく息を吸った若草が力の限り叫ぶと同時、癒しの霧が覚者達を包み、その体力を回復してゆく。そして。
「グォアァァァァッ!!」
 雷電は、若草へと標的を定め、そして雷電の右腕が動く。
 本来であれば若草を狙った一撃。だが、それは槐の思惑通り。予備動作が見えた一瞬に動き、雷電の前に立った槐の身体を、高圧電撃が引き裂いてゆく。
(これでひとつ、と)
 脳内の貸記録帖に何事か記帳し、身体を苛む激痛と痺れに槐は倒れ込んだ。そして、今こそが絶好の好機。
「しつこい。いい加減にしろ!」
 夏南の放ったエアブリットが、雷電の左腕に突き刺さる。高圧の空気の塊は、そのまま雷電の左腕を千切り飛ばした。流石に苦しそうな咆哮を上げる雷電に、覚者達が一斉に動く。
「絶対に町にはいかせねーぞ!」
 改めて決意の声を張り上げる幸村の樹の雫と、若草の演舞・舞衣が槐を癒す。動けるようになった槐が放つB.O.T.が雷電を怯ませると、そこに理央の水礫が追い打ちをかけて倒れ込ませた。不安定な体制のままで怒りに任せて放射した稲妻は、幸いなことに覚者達へと届くことなく地に吸われる。よろよろと立ち上がった雷電に向けられたのは、夏南の右手に圧縮された空気の塊。
「殺すって、言っただろ?」
 有無を言わさずに撃ち出されたそれは、雷電の姿を跡形もなく消し去った。

●誇りと勲章と
 不幸中の幸いと言うべきだろうか。周囲は雷電の雷によって焼野原になっていはしたが、逆に徹底的に破壊された為か、延焼するだけの燃料になり得るものがほぼ存在しなかったらしい。ざっと見た限りで、山火事になりそうな気配はない。
 しかし念の為と、若草は煙が出ている所を重点的に水をかけて消火活動を行っていた。他の覚者達も、思い思いに周囲を見遣る。身体中に激戦の痕が刻まれてはいるが、心中はどうにか出来たという安堵感と達成感で満たされている。
 そんな中で、槐は雷電の消え去った場所を眺めていた。何かしら記念になりそうなものでもないかと思ってのことだったが、きらりと光る何かを目に留める。慎重に拾い上げてみれば、それは薄黄色の宝石のような何か。今となっては力も何も残ってはいないが、恐らく雷電の欠片の結晶なのだろう。右腕が千切れ飛んだ時にでも落ちたのかも知れない。
 槐が懐に欠片を忍ばせた所で、若草が全員に向けて声をかけた。
「せっかくだし、喫茶店かどこかで休んでから帰りましょうか」
 守った町も見てみたいじゃない、と続ける若草に、理央と夏南が同意の意を示す。
「ボクも賛成。ちょっとこのまま帰るのも嫌だし」
「こんなに汚れているのは嫌ね。汚れ落としくらいはしときたいわ」
 何となく町に行ってみよう、という流れになったらしい。這う這うの体ではあるが、だからこそ一休みして行きたいのだ。そのくらいは、バチも当たらないだろう。
「じゃ、行くか!」
 町まではそこそこの距離。それをゆっくりとしたペースで、町の全体像を眺めながら向かう。自分達が守り切った町の様子を誇りに。何より、守り切った命の数を勲章に。
 これからも起こるであろう事件のことはひとまず置いておいて。覚者達に、ひと時の休息を。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『雷切』
取得者:和歌那 若草(CL2000121)
『雷切』
取得者:四条・理央(CL2000070)
『雷切』
取得者:橡・槐(CL2000732)
『雷切』
取得者:七十里・夏南(CL2000006)
『雷切』
取得者:暁 幸村(CL2001217)
特殊成果
『雷神結晶』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:橡・槐(CL2000732)




 
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