前夜祭に舞踊る
●撮影者と招かざる舞手
夏の夜は、どうしてこうも心躍るのだろう?
熱気を孕む風が頬を撫でても清々しくなるのは、眼前に広がる光景のせいだ。
その神社は石畳の階段を登り辿り着いた先、満天の星空の下にあった。
真っ直ぐ伸びる砂利の道、両脇で聳える木々に連なる紅い提灯の群れが、淡い輝きを以って辺りを白と赤を混ぜた光で染め上げている。
傍には「お好み焼き」「わたあめ」等ポップな文字で描かれた屋台が並ぶも、皆揃って開店準備中の状態。
――明日はこの場所で、とても素敵な事が起きる。
「当日だって、好きだけど」
彼女は呟いた。その手には、使い古しの一眼レフカメラ。
慣れた手つきで何度もこの風景を切り取った。然し幾らフィルムに焼き付けても手が止まらない。
太鼓に笛の音、童の燥ぐ声も無くただ静かに提灯が照らすだけの空間なのに、何故こんなにも月夜に映えるのだろう?
少しだけ現実離れした幻想の中に居る錯覚を覚えて、切ない程焦がれてしまう。
だから大好きなんだ、この瞬間が。
今日だって、一年に一度しかない夏の宵。
導かれるように歩いた先は本殿がある開けた場所。
中央に設置された大きなやぐらは、明日の舞手達が思う存分踊るためのもの。
迷うこと無くそこへ視界とレンズを重ね合わせ……ふと何かが映る。
(あれは……?)
覗きこむ視線で辛うじて確認できる3つの影がやぐらの中で動き回る。
円を描くようにくるりくるり、それは舞い踊るかのような仕草だった。
明日の宴を盛り上げる人達が練習をしているのだろうか?ただそれだけが頭を過って。
良ければ記念に――なんて、安易な考えで近づき一度シャッターを切った。
「……っ!?」
ここまで来て漸く彼女は気付いた。
音に気づいて舞を止めた3匹の、鋭い視線が人のものではない事を。
●前夜祭を夢視て
「夏祭り、素敵ですね。皆さんは好きですか?」
『FiVE』に所属する夢見の一人、久方 真由美(nCL2000003)は穏やかな笑顔で覚者達に問いかける。
曰く、京都府のある神社で夏祭りが明日に控えているのだそう。
当日となれば屋台に活気が溢れ、本殿広場では舞台で演舞が披露される。
「私が見たのはその前日ですが……始まる前も、大変趣きのあるものなのですね」
頬に手を添え、ほぅ……と感嘆の溜息を零す。
直ぐに顔を上げ、今度は眉尻を少しだけ下げた。
「ですが私にその夢を見せて下さった写真家の女性が、鼬の妖に襲われてしまいます」
「妖は3匹。どれも子供並みの大きさで、特に1匹が大きく残り2匹がそれより一回り小さい鼬でした」
妖は祭用に設置された広いやぐら舞台の中に居り、シャッター音で女性に気付き襲いかかる……というのが夢見の内容だ。
「広場はもとより、やぐらも丈夫そうでしたので乗り込んで戦う事もできそうです」
ただ折角準備万端な祭り会場を、戦闘で大きな被害を出しては祭りが中止になる可能性もあると付け加えた。
後は~と思い返すその顔が、にっこりと笑顔をみせる。
「他に人の気配はなさそうでした。ですがあまり長引かせず倒して下さいね、女性が来てしまいますから」
今から向かえば日が暮れて間もない時刻に到着できるだろう。
人払いはあまり考えなくても良さそうだが、戦闘が長引けば万一はあり得る。
「万が一誰かに出会っても、『FiVE』に関する発言は基本的に控えて下さい」
内緒ですよ、と人差し指を立てる真由美は相変わらず笑顔を浮かべていた。
「女性と、お祭りを無事に開催させるためにも……よろしくお願いします」
最後にそう締めくくると、彼女は覚者達へ静かに頭を下げた。
夏の夜は、どうしてこうも心躍るのだろう?
熱気を孕む風が頬を撫でても清々しくなるのは、眼前に広がる光景のせいだ。
その神社は石畳の階段を登り辿り着いた先、満天の星空の下にあった。
真っ直ぐ伸びる砂利の道、両脇で聳える木々に連なる紅い提灯の群れが、淡い輝きを以って辺りを白と赤を混ぜた光で染め上げている。
傍には「お好み焼き」「わたあめ」等ポップな文字で描かれた屋台が並ぶも、皆揃って開店準備中の状態。
――明日はこの場所で、とても素敵な事が起きる。
「当日だって、好きだけど」
彼女は呟いた。その手には、使い古しの一眼レフカメラ。
慣れた手つきで何度もこの風景を切り取った。然し幾らフィルムに焼き付けても手が止まらない。
太鼓に笛の音、童の燥ぐ声も無くただ静かに提灯が照らすだけの空間なのに、何故こんなにも月夜に映えるのだろう?
少しだけ現実離れした幻想の中に居る錯覚を覚えて、切ない程焦がれてしまう。
だから大好きなんだ、この瞬間が。
今日だって、一年に一度しかない夏の宵。
導かれるように歩いた先は本殿がある開けた場所。
中央に設置された大きなやぐらは、明日の舞手達が思う存分踊るためのもの。
迷うこと無くそこへ視界とレンズを重ね合わせ……ふと何かが映る。
(あれは……?)
覗きこむ視線で辛うじて確認できる3つの影がやぐらの中で動き回る。
円を描くようにくるりくるり、それは舞い踊るかのような仕草だった。
明日の宴を盛り上げる人達が練習をしているのだろうか?ただそれだけが頭を過って。
良ければ記念に――なんて、安易な考えで近づき一度シャッターを切った。
「……っ!?」
ここまで来て漸く彼女は気付いた。
音に気づいて舞を止めた3匹の、鋭い視線が人のものではない事を。
●前夜祭を夢視て
「夏祭り、素敵ですね。皆さんは好きですか?」
『FiVE』に所属する夢見の一人、久方 真由美(nCL2000003)は穏やかな笑顔で覚者達に問いかける。
曰く、京都府のある神社で夏祭りが明日に控えているのだそう。
当日となれば屋台に活気が溢れ、本殿広場では舞台で演舞が披露される。
「私が見たのはその前日ですが……始まる前も、大変趣きのあるものなのですね」
頬に手を添え、ほぅ……と感嘆の溜息を零す。
直ぐに顔を上げ、今度は眉尻を少しだけ下げた。
「ですが私にその夢を見せて下さった写真家の女性が、鼬の妖に襲われてしまいます」
「妖は3匹。どれも子供並みの大きさで、特に1匹が大きく残り2匹がそれより一回り小さい鼬でした」
妖は祭用に設置された広いやぐら舞台の中に居り、シャッター音で女性に気付き襲いかかる……というのが夢見の内容だ。
「広場はもとより、やぐらも丈夫そうでしたので乗り込んで戦う事もできそうです」
ただ折角準備万端な祭り会場を、戦闘で大きな被害を出しては祭りが中止になる可能性もあると付け加えた。
後は~と思い返すその顔が、にっこりと笑顔をみせる。
「他に人の気配はなさそうでした。ですがあまり長引かせず倒して下さいね、女性が来てしまいますから」
今から向かえば日が暮れて間もない時刻に到着できるだろう。
人払いはあまり考えなくても良さそうだが、戦闘が長引けば万一はあり得る。
「万が一誰かに出会っても、『FiVE』に関する発言は基本的に控えて下さい」
内緒ですよ、と人差し指を立てる真由美は相変わらず笑顔を浮かべていた。
「女性と、お祭りを無事に開催させるためにも……よろしくお願いします」
最後にそう締めくくると、彼女は覚者達へ静かに頭を下げた。
■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖3匹全ての討伐。
2.被害女性が無事であること。
3.なし
2.被害女性が無事であること。
3.なし
これからよろしくお願いします。
βシナリオもある意味前夜祭な気がしました。
▼成功条件補足
祭りが開催できるかは成功条件に含まれませんが、後味が悪くなります。
▼敵詳細
【妖:生物系】3体
・大鼬×1 ランク2
突然変異で大きな個体になった鼬の親分。
1m超える程度の大きさ。
『疾風斬り』『烈波』に似た技を使用します。
・小鼬×2 ランク1
親分より一回り小さい。
『鋭刃脚』に出血のバッドステータスが付いた技を使用します。
『飛燕』に似た技も使用します。
最初は周囲を見ておりません。
物音等に気付けば好戦的のため、襲いかかってきます。
素早く動き、弱っている敵を集中して狙うようです。
▼場面
神社の本殿がある大きな広場です。
夜ですが提灯がそこかしこで揺れているため、暗いという印象はありません。
中央のやぐらは屋根がない、だだっ広いステージのようなものとお考え下さい。
四角い形で四方に1つずつ階段があり、8人が全員乗り込める広さです。
広場の周囲は樹木が密集しており他に広い場所はなさそうです。
また祭り自体は明日開催のため、今回祭りを楽しむ事は残念ですができません。
皆様のプレイング、お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年08月16日
2015年08月16日
■メイン参加者 8人■
●前夜祭に踊り出る
提灯が微かに涼を齎す風と供に揺れる。
真夏夜空の下、仄明るい灯火に照らされ8名の覚者達が参道を走っていた。
砂利を踏みつける音を聞き、見送る灯を1つ2つ追い越す度に、目的地が見えてくる。
「お祭りといったらラムネですよね。暑い日には必須だと思います」
――あぁ、本当に、前日なのが口惜しい位です。
『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は藍色の眼を宵に染め一息逃した。
同じく、黒に沈むも仄かな紫色を灯に反射させる髪を揺らし藤 咲(CL2000280)は淑やかな雰囲気を損ねない侭ゆるりと微笑む。
「今宵はお祭り前夜、浴衣でも着ていればロマンスの一つでも起こりそうなところですが…」
残念ながら今回の目的には不向きと、眉尻を下げた。
「お祭りを楽しみにしているたくさんの人達のためにも、私たちがこっそりと頑張らないといけないですよね」
本来の目的を口にするのは、三峯・由愛(CL2000629)のまっすぐな声。
僅かに幼さを残しながらも芯の在る眼差しは、一心に先を見つめていた。
そんなやりとりを傍で静かに聞いていた『ただ護るためだけに』瑠璃垣 悠(CL2000866)も僅かに口を開く。
「お祭り…なんて、覚者として目覚めてからは、無縁だと思っていたから…」
確かに今日は前夜祭。それでも、舞台はほぼ整っている。
場に来れた事へ素直に喜びながらも、儚げな瞳の中に強い思いを秘めていた。
「女性を助けて、そして、皆がお祭りを楽しめるように…そのためにも、『頑張らなきゃ』」
不意に台詞が重なって、悠が顔を上げる。
隣で『モップ。』町田・文子(CL2000341)が笑顔いっぱいで手にしたながれぼし2号を握っていた。
「大丈夫です♪ 心強い仲間もいるから、いけますよ!」
それはまるで自分にも言い聞かせるように、勇気付ける言葉は軽く弾んだ。
開店前の屋台を幾つも通り越せば、灯火の光が増えてくる。
辺りを見回すのはゴスロリで身を飾る少女、『愛と正義の小悪魔』切金・菖蒲(CL2000272)。
「ふむ、せっかくの祭だ。中止になるのもしのびないので、犠牲も被害も出すわけにはいかないな」
甘い服装と容姿にギャップの在る、涼し気な表情で淡々と告げる。
隣で長い三つ編みを揺らして先を急ぐ納屋 タヱ子(CL2000019)が同意を示すために深く頷いた。
「夢見の方が見られた、被害者…出すわけにはいきません」
お祭りは皆が楽しむもの。それに水を差す妖は倒さねば。
覚者達の意思は、皆同じだ。
最後尾に付いていた『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が立ち止まる頃には皆目的地、本殿のある広場へ到着していた。
見据える先には、今夜の戦いの場……やぐらが見える。
銀仮面越しにも彼の舞台は淡い光に包まれ、開演を待っているようだった。
これからあの場で沢山の声が聴こえる筈――そう思えば、自然と軍服男の笑みは深くなる。
客など要らない。
喝采の無い戦いこそが彼等の使命なのだから。
●かくして舞台へ飛び込んで
「ラピス、しっかりとお役目頼みましたよ?」
美久の命を受け彼の守護獣が、同じく悠の繭も指示通り小さな羽を広げ祭りの空へと舞い上がる。
これを合図として仲間達が一斉に駆け抜け、勢い良くやぐらへ飛び込めば舞に興じていた先客――今夜の目標達が驚いた様子で足を止めていた。
駆け上がる音に気付きはしたが攻めこまれたのは想定外だったのだろう。
覚者達が舞台に勢揃いした頃に漸く大小3匹の妖達も大を中央やや後方に、大の前方左右に小が並ぶ形で戦闘態勢に入っていた。
「目標、妖鼬3匹のすみやかな殲滅。ミッションスタート♪」
確実に殲滅を「みなごろし☆」と呼び変えながらも、その表情は最初と然程変わらず。
撓る鞭ひとつ鳴かせ、リボンとレースを揺らし菖蒲は小さい鼬の一匹へ踏み込んでいた。
人形の様な少女の舞踏、間近で見た小鼬へお代は痺れる程食い込み絡む革紐の一撃。
「人は誰も呼ばないが、自称して愛と正義の小悪魔惨状☆」
苦しむ妖の啼き声を受けても、リトルデビルと称した声は何処か抑揚無く。
続き飛び出した自称落ちこぼれのメイドさん、文子は菖蒲が狙ったのとは別の小鼬へと向かっていく。
「久々の戦い……でも、勘は鈍ってないはず!」
其の身に宿す彩――刺青から溢れ出る空色の輝きを纏い接敵すれば棒術を扱うが如く武器を振るう。
ステージを照らす提灯の淡い暖色に文子の彩が鮮やかに混ざれば、威力故かその輝き故か……小鼬が蹌踉めいた。
「わたしも前へ出ます!」
勇ましく声を上げ、タヱ子は童子切を手に文子と同じ敵に立ち塞がるも彼女は刀を抜かず源素の力、土行の護りを呼び起こした。
蒼鋼の壁がセーラー服の少女を包み込む。だが、味方の先手は此処までだった。
痛みを怒りに変えた小鼬達が牙を剥き高らかに声を上げ、其々己を攻撃した者へと復讐を開始する。
連続した爪の乱舞が、切り裂く刹那の一閃がタヱ子と菖蒲を襲いかかった。
「いっ!」
「っく……これくらい!」
更に大鼬も軽い身のこなしで体を捻り、追い打ちの如く掛けるそれは空気を圧縮したような弾丸の波。
素早い鼬達の攻撃にやぐらを飾る提灯達が大きく揺れ動く。そんな荒風も耐え凌いだ前衛の二人は獲物を構え直した。
「怪我は大丈夫ですか?」
防護壁を張っていたタヱ子は「へいき、へっちゃらです」と返すも直撃を受けた菖蒲に多少の疲労が伺える。
中衛位置を取っていた美久は脚を前へ、前衛と並び鼬を見据えた。
「交代しましょう、任せて下さい……お祭りを台無しにしようとしているだなんて、悪い子達ですね」
好戦的とは実に奇遇だと、冷静を装っていた顔に僅かな高揚感を孕んだ笑みを浮かべる。
その手がゆらり、空を払えば何時の間に付着させたのか小鼬から棘が生えその体を蝕んだ。
弱々しく啼く声に好機を見て咲も同じ獲物へ向け、片手を差し伸べる。
戦う前と然程変わらない咲の姿、然し確実に発動している現の力を宿した弾丸が確実に獲物を貫いた。
「ひらり、ひらりと舞踊れ」
今宵は前夜に捧げる覚者達の宴舞。唄う咲の言葉と鼬の悲鳴が交差し、それを少し後ろで聴いていたエヌが感嘆の息を零した。
「――素晴らしい」
勇ましき人の言葉、連携する仲間達の掛け声――響き渡る音色は実に彼の好みばかり。
然し観戦ばかりでも宜しくない、とエヌはふらつく小鼬へ返す掌を差し伸べた。
その手に招かれた雷が容赦無く獲物へ喰らい付く。断末魔に似た其れは一際高く、かの耳へと届いた。
崩れ落ちる片腕を見て大きな鼬が怒りの唸り声を仮面の男へ吼え叫ぶ。
「おや、おや。其の声意外と奥ゆかしい。そういったものも、嫌いではありませんよ」
余裕ある返事も当然。大鼬の前には既に2名の堅き盾が立ちはだかって居たから。
「私の前で。もう、誰も」
少ない言葉の代わりは目に見える意思に変えて。悠の腕や脚が因子の力を呼び覚ますと硬化し威圧感を増していく。
「私達がいる限り、この場所もお祭りも守り抜かせてもらいます」
同じ付喪の由愛は変異した左手から蒸気のような霧を吹き出し、辺りに纏い付かせる。
鼬達の眼には淡い灯火が所々に光る霧の中、立ち塞がる二人が揺らめく恐ろしいモノに見えたのか僅かに勢いを弱めた。
強固なのは防御の強さだけではない。確実な決意が、獲物を追い詰める。
「失わないために。そのために私は……」
――いくら傷付いても構わない。
●カーテンコールは必要ない
立て続けの攻撃を受け瀕死の一匹は兎も角、文子が相手をしている方は未だ余裕がありそうだ。
負傷し出血している菖蒲を見過ごす事も出来ない……然しタヱ子一人に任せるのは。
「悲鳴も苦鳴も実にイイですが。倒れられるのは、よろしくないですね」
戯けた口調で文子の前に出たエヌは「私も壁になりましょう」と精密な両手をより頑丈な物へと変えていく。
「さんきゅねー♪よし、それじゃちょっと染みるかも。我慢して下さいね!」
明るい笑顔で礼を告げ急ぎ菖蒲に癒しの滴を施せば顔色が良くなったようでほっとする。
弱った獲物が回復され唸る小鼬の次なる一手には返す刀でタヱ子が迎え撃つ。
霧の中から浮かぶ漆黒の髪と制服に、紅いリボンもゆらり揺れ。鈍く光る刀の銀色だけが何重にも弧を描き鼬の爪と交互に舞う。
「こちらはわたし達が抑えます!」
「了解よ、なら弱ってる方を仕留めるわね」
咲がスタッフを掲げると合わせるように美久もスリングショットを構えた。
「そろそろお休みの時間ですよ?」
掛け声重なり、うち放たれた衝撃と鉛の連弾が違わず小鼬を打ち抜く。最期は声すら上げず、一匹は遂に絶命した。
「一匹倒しましたわ、町田さん氣力は?」
艷やかな髪を靡かせ咲が振り向けば「だいじょうぶ!」と元気なブイサインが帰ってきたので一安心。
直後に耳を劈いたのは弱りながらも霧を払うかのような大鼬の怒号、だが。
「そうはさせない……!」
悠の一切怯まぬ視線が相手を阻む。冷静に、ただ己がすべき事を実行する。
盾を眼前に、土行の力を呼び起こし更なる壁を構築。護る為の力は何処までも使う、その深緑の瞳に迷いは無い。
大鼬が放つ疾風の一閃にも盾は崩れなかった。隣に立つ由愛も硬化させた自身の体で受けきっている。
「あまり暴れないで欲しいな、お祭り……台無しにしたくないから」
「これ以上の破壊は、させません」
舞台すら気遣う言葉には余裕すら伺える。頼もしい壁を務める二人に死角はない。
「ごにゃ……ふむ。ボクも続かねばな」
回復した菖蒲が護りの厚さに感嘆しかけて気を取り直し、素早く地を蹴るともう一匹の小鼬へ回り込み再び鞭を叩き込む。
灰の刺青から輝く光は違わず鞭へ反映し、軽快な音を立て強かに敵を打ち据える。
合わせるように美久が銀弾を弾き、エヌの指が乾いた音を鳴らせば雷の光が視界と小鼬を白く焼いた。
連携した攻撃の合間を縫い、もう一度文子が飛び出し距離を詰める。
「許して、とは言わない…よっ!」
突き付けるような一撃は唯一点、鼬を貫き彼もまた声無く討たれた。
残るは鉄壁の壁に阻まれ続ける親玉一匹。
「町田さん、わたしの後ろに!」
入れ替わりにと土鎧を具現化させたタヱ子が最前列へ並ぶ。
例え小よりも強いといえど、多数に鉄壁の前では思うように動けない。
何度衝撃波に弾丸を重ねても硬化した前衛達は倒れる事はなく、奥で護られる回復役に修復される。
その度覚者達の集中攻撃を受け続ければ後ろ盾のない妖が膝をつくのは時間の問題だった。
「ほぅら、こっちの水は甘いですわよ……なんちゃって」
咲が胸に下げていた虫笛を回し鳴らせば奇妙な音に鼬の気が散り視線が外れる。
金色の瞳が勝機を逃さず、片手斧を構えた由愛が大きく踏み込んだ。
藍色の長い髪が、ゆっくりと淡い煌きを含みながら広がる。
「これで……終わりです!」
華奢にも見える女性が繰り出した薙ぎ払いは見事、満身創痍の敵を引き裂いた。
最後の一匹すら――何も響かず事切れた。
●そして静かな宵が舞戻る
「そう言えばエヌさんは?」
大鼬を討伐中から姿が見えなくなっていた彼を探しにぐるりと視界を巡らせると偵察をしていたラピスと繭が戻ってきた。
主人の服をくいくい引っ張りきた道の方を示している。
全員がやぐらから覗けば既に女性と会話している仲間の姿があった。
「ええ、こう見えて僕は役者でしてね。祭りのサプライズで行うステージの予行練習を……」
「で、でも何だか凄い音とかして……」
慌てたタヱ子も傍に行き、「ああ……えっと、そう!文化祭の出し物です!」とフォローを重ねる。
それでも怪訝そうな顔をする女性にふぅと緩い息を一つ、咲がゆっくり近寄って。
「名すら騙れぬ名無き縁者。――呼応によりて、現とす」
エヌも密かに招く言葉を口にすれば女性の後ろに二匹の植物型守護使役が顔を出した。
「楓、お願いね?」
楓とエフが仲良く女性の記憶をすいとると呆然としていた顔が純粋に不思議そうな色へ変化する。
「あ……あれ?私、は」
「準備中の祭り会場を見に来たのでしょう?」
状況が変わっても動じず場面に合わせ演技するエヌにタヱ子も大真面目に何度も頷く。
「広間に来た時の記憶が無い?きっと風景に見とれていて気付かなかったんですわ♪」
咲の笑顔もかかれば、女性は納得したのかそれ以上疑問を口にする事はなかった。
それは真顔の菖蒲が「ミッションコンプリート☆」と告げるに十分な結末。
「そうだ、折角来たしお参りしたいです」
小銭あったかなと探す由愛に、ふらりと悠が近寄ってこてんと首傾け。
「あの……私も、雰囲気味わいたい、から……」
共にと提案すると、黙祷を終えやってきた文子が眼を輝かせながらぱんと手を合わせた。
「だったら!皆、お祭り始まったら行きません?折角の初仕事で守ったお祭りだし♪」
幸い戦いの場としたやぐらは多少提灯が激しく揺れ動いたものの、注意して戦ったお陰か被害は少ない。
問題なく明日は華やかな日となるだろう、今宵は皆頑張ったのだ楽しむ権利は当然。
「僕も明日は行きますよ、ラムネ飲めますからね」
「時間が取れたらボクも行きたいところだ」
初志貫徹と言わんばかりに美久が歳相応の笑みを見せる。
菖蒲も頷いている辺り、十分乗り気だ。
「また、明日逢おう」
それは誰かが言った約束の言葉。
前夜祭はこれにて終幕、淡い提灯の光が優しく舞台からはける者達を見送っていた。
提灯が微かに涼を齎す風と供に揺れる。
真夏夜空の下、仄明るい灯火に照らされ8名の覚者達が参道を走っていた。
砂利を踏みつける音を聞き、見送る灯を1つ2つ追い越す度に、目的地が見えてくる。
「お祭りといったらラムネですよね。暑い日には必須だと思います」
――あぁ、本当に、前日なのが口惜しい位です。
『Overdrive』片桐・美久(CL2001026)は藍色の眼を宵に染め一息逃した。
同じく、黒に沈むも仄かな紫色を灯に反射させる髪を揺らし藤 咲(CL2000280)は淑やかな雰囲気を損ねない侭ゆるりと微笑む。
「今宵はお祭り前夜、浴衣でも着ていればロマンスの一つでも起こりそうなところですが…」
残念ながら今回の目的には不向きと、眉尻を下げた。
「お祭りを楽しみにしているたくさんの人達のためにも、私たちがこっそりと頑張らないといけないですよね」
本来の目的を口にするのは、三峯・由愛(CL2000629)のまっすぐな声。
僅かに幼さを残しながらも芯の在る眼差しは、一心に先を見つめていた。
そんなやりとりを傍で静かに聞いていた『ただ護るためだけに』瑠璃垣 悠(CL2000866)も僅かに口を開く。
「お祭り…なんて、覚者として目覚めてからは、無縁だと思っていたから…」
確かに今日は前夜祭。それでも、舞台はほぼ整っている。
場に来れた事へ素直に喜びながらも、儚げな瞳の中に強い思いを秘めていた。
「女性を助けて、そして、皆がお祭りを楽しめるように…そのためにも、『頑張らなきゃ』」
不意に台詞が重なって、悠が顔を上げる。
隣で『モップ。』町田・文子(CL2000341)が笑顔いっぱいで手にしたながれぼし2号を握っていた。
「大丈夫です♪ 心強い仲間もいるから、いけますよ!」
それはまるで自分にも言い聞かせるように、勇気付ける言葉は軽く弾んだ。
開店前の屋台を幾つも通り越せば、灯火の光が増えてくる。
辺りを見回すのはゴスロリで身を飾る少女、『愛と正義の小悪魔』切金・菖蒲(CL2000272)。
「ふむ、せっかくの祭だ。中止になるのもしのびないので、犠牲も被害も出すわけにはいかないな」
甘い服装と容姿にギャップの在る、涼し気な表情で淡々と告げる。
隣で長い三つ編みを揺らして先を急ぐ納屋 タヱ子(CL2000019)が同意を示すために深く頷いた。
「夢見の方が見られた、被害者…出すわけにはいきません」
お祭りは皆が楽しむもの。それに水を差す妖は倒さねば。
覚者達の意思は、皆同じだ。
最後尾に付いていた『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が立ち止まる頃には皆目的地、本殿のある広場へ到着していた。
見据える先には、今夜の戦いの場……やぐらが見える。
銀仮面越しにも彼の舞台は淡い光に包まれ、開演を待っているようだった。
これからあの場で沢山の声が聴こえる筈――そう思えば、自然と軍服男の笑みは深くなる。
客など要らない。
喝采の無い戦いこそが彼等の使命なのだから。
●かくして舞台へ飛び込んで
「ラピス、しっかりとお役目頼みましたよ?」
美久の命を受け彼の守護獣が、同じく悠の繭も指示通り小さな羽を広げ祭りの空へと舞い上がる。
これを合図として仲間達が一斉に駆け抜け、勢い良くやぐらへ飛び込めば舞に興じていた先客――今夜の目標達が驚いた様子で足を止めていた。
駆け上がる音に気付きはしたが攻めこまれたのは想定外だったのだろう。
覚者達が舞台に勢揃いした頃に漸く大小3匹の妖達も大を中央やや後方に、大の前方左右に小が並ぶ形で戦闘態勢に入っていた。
「目標、妖鼬3匹のすみやかな殲滅。ミッションスタート♪」
確実に殲滅を「みなごろし☆」と呼び変えながらも、その表情は最初と然程変わらず。
撓る鞭ひとつ鳴かせ、リボンとレースを揺らし菖蒲は小さい鼬の一匹へ踏み込んでいた。
人形の様な少女の舞踏、間近で見た小鼬へお代は痺れる程食い込み絡む革紐の一撃。
「人は誰も呼ばないが、自称して愛と正義の小悪魔惨状☆」
苦しむ妖の啼き声を受けても、リトルデビルと称した声は何処か抑揚無く。
続き飛び出した自称落ちこぼれのメイドさん、文子は菖蒲が狙ったのとは別の小鼬へと向かっていく。
「久々の戦い……でも、勘は鈍ってないはず!」
其の身に宿す彩――刺青から溢れ出る空色の輝きを纏い接敵すれば棒術を扱うが如く武器を振るう。
ステージを照らす提灯の淡い暖色に文子の彩が鮮やかに混ざれば、威力故かその輝き故か……小鼬が蹌踉めいた。
「わたしも前へ出ます!」
勇ましく声を上げ、タヱ子は童子切を手に文子と同じ敵に立ち塞がるも彼女は刀を抜かず源素の力、土行の護りを呼び起こした。
蒼鋼の壁がセーラー服の少女を包み込む。だが、味方の先手は此処までだった。
痛みを怒りに変えた小鼬達が牙を剥き高らかに声を上げ、其々己を攻撃した者へと復讐を開始する。
連続した爪の乱舞が、切り裂く刹那の一閃がタヱ子と菖蒲を襲いかかった。
「いっ!」
「っく……これくらい!」
更に大鼬も軽い身のこなしで体を捻り、追い打ちの如く掛けるそれは空気を圧縮したような弾丸の波。
素早い鼬達の攻撃にやぐらを飾る提灯達が大きく揺れ動く。そんな荒風も耐え凌いだ前衛の二人は獲物を構え直した。
「怪我は大丈夫ですか?」
防護壁を張っていたタヱ子は「へいき、へっちゃらです」と返すも直撃を受けた菖蒲に多少の疲労が伺える。
中衛位置を取っていた美久は脚を前へ、前衛と並び鼬を見据えた。
「交代しましょう、任せて下さい……お祭りを台無しにしようとしているだなんて、悪い子達ですね」
好戦的とは実に奇遇だと、冷静を装っていた顔に僅かな高揚感を孕んだ笑みを浮かべる。
その手がゆらり、空を払えば何時の間に付着させたのか小鼬から棘が生えその体を蝕んだ。
弱々しく啼く声に好機を見て咲も同じ獲物へ向け、片手を差し伸べる。
戦う前と然程変わらない咲の姿、然し確実に発動している現の力を宿した弾丸が確実に獲物を貫いた。
「ひらり、ひらりと舞踊れ」
今宵は前夜に捧げる覚者達の宴舞。唄う咲の言葉と鼬の悲鳴が交差し、それを少し後ろで聴いていたエヌが感嘆の息を零した。
「――素晴らしい」
勇ましき人の言葉、連携する仲間達の掛け声――響き渡る音色は実に彼の好みばかり。
然し観戦ばかりでも宜しくない、とエヌはふらつく小鼬へ返す掌を差し伸べた。
その手に招かれた雷が容赦無く獲物へ喰らい付く。断末魔に似た其れは一際高く、かの耳へと届いた。
崩れ落ちる片腕を見て大きな鼬が怒りの唸り声を仮面の男へ吼え叫ぶ。
「おや、おや。其の声意外と奥ゆかしい。そういったものも、嫌いではありませんよ」
余裕ある返事も当然。大鼬の前には既に2名の堅き盾が立ちはだかって居たから。
「私の前で。もう、誰も」
少ない言葉の代わりは目に見える意思に変えて。悠の腕や脚が因子の力を呼び覚ますと硬化し威圧感を増していく。
「私達がいる限り、この場所もお祭りも守り抜かせてもらいます」
同じ付喪の由愛は変異した左手から蒸気のような霧を吹き出し、辺りに纏い付かせる。
鼬達の眼には淡い灯火が所々に光る霧の中、立ち塞がる二人が揺らめく恐ろしいモノに見えたのか僅かに勢いを弱めた。
強固なのは防御の強さだけではない。確実な決意が、獲物を追い詰める。
「失わないために。そのために私は……」
――いくら傷付いても構わない。
●カーテンコールは必要ない
立て続けの攻撃を受け瀕死の一匹は兎も角、文子が相手をしている方は未だ余裕がありそうだ。
負傷し出血している菖蒲を見過ごす事も出来ない……然しタヱ子一人に任せるのは。
「悲鳴も苦鳴も実にイイですが。倒れられるのは、よろしくないですね」
戯けた口調で文子の前に出たエヌは「私も壁になりましょう」と精密な両手をより頑丈な物へと変えていく。
「さんきゅねー♪よし、それじゃちょっと染みるかも。我慢して下さいね!」
明るい笑顔で礼を告げ急ぎ菖蒲に癒しの滴を施せば顔色が良くなったようでほっとする。
弱った獲物が回復され唸る小鼬の次なる一手には返す刀でタヱ子が迎え撃つ。
霧の中から浮かぶ漆黒の髪と制服に、紅いリボンもゆらり揺れ。鈍く光る刀の銀色だけが何重にも弧を描き鼬の爪と交互に舞う。
「こちらはわたし達が抑えます!」
「了解よ、なら弱ってる方を仕留めるわね」
咲がスタッフを掲げると合わせるように美久もスリングショットを構えた。
「そろそろお休みの時間ですよ?」
掛け声重なり、うち放たれた衝撃と鉛の連弾が違わず小鼬を打ち抜く。最期は声すら上げず、一匹は遂に絶命した。
「一匹倒しましたわ、町田さん氣力は?」
艷やかな髪を靡かせ咲が振り向けば「だいじょうぶ!」と元気なブイサインが帰ってきたので一安心。
直後に耳を劈いたのは弱りながらも霧を払うかのような大鼬の怒号、だが。
「そうはさせない……!」
悠の一切怯まぬ視線が相手を阻む。冷静に、ただ己がすべき事を実行する。
盾を眼前に、土行の力を呼び起こし更なる壁を構築。護る為の力は何処までも使う、その深緑の瞳に迷いは無い。
大鼬が放つ疾風の一閃にも盾は崩れなかった。隣に立つ由愛も硬化させた自身の体で受けきっている。
「あまり暴れないで欲しいな、お祭り……台無しにしたくないから」
「これ以上の破壊は、させません」
舞台すら気遣う言葉には余裕すら伺える。頼もしい壁を務める二人に死角はない。
「ごにゃ……ふむ。ボクも続かねばな」
回復した菖蒲が護りの厚さに感嘆しかけて気を取り直し、素早く地を蹴るともう一匹の小鼬へ回り込み再び鞭を叩き込む。
灰の刺青から輝く光は違わず鞭へ反映し、軽快な音を立て強かに敵を打ち据える。
合わせるように美久が銀弾を弾き、エヌの指が乾いた音を鳴らせば雷の光が視界と小鼬を白く焼いた。
連携した攻撃の合間を縫い、もう一度文子が飛び出し距離を詰める。
「許して、とは言わない…よっ!」
突き付けるような一撃は唯一点、鼬を貫き彼もまた声無く討たれた。
残るは鉄壁の壁に阻まれ続ける親玉一匹。
「町田さん、わたしの後ろに!」
入れ替わりにと土鎧を具現化させたタヱ子が最前列へ並ぶ。
例え小よりも強いといえど、多数に鉄壁の前では思うように動けない。
何度衝撃波に弾丸を重ねても硬化した前衛達は倒れる事はなく、奥で護られる回復役に修復される。
その度覚者達の集中攻撃を受け続ければ後ろ盾のない妖が膝をつくのは時間の問題だった。
「ほぅら、こっちの水は甘いですわよ……なんちゃって」
咲が胸に下げていた虫笛を回し鳴らせば奇妙な音に鼬の気が散り視線が外れる。
金色の瞳が勝機を逃さず、片手斧を構えた由愛が大きく踏み込んだ。
藍色の長い髪が、ゆっくりと淡い煌きを含みながら広がる。
「これで……終わりです!」
華奢にも見える女性が繰り出した薙ぎ払いは見事、満身創痍の敵を引き裂いた。
最後の一匹すら――何も響かず事切れた。
●そして静かな宵が舞戻る
「そう言えばエヌさんは?」
大鼬を討伐中から姿が見えなくなっていた彼を探しにぐるりと視界を巡らせると偵察をしていたラピスと繭が戻ってきた。
主人の服をくいくい引っ張りきた道の方を示している。
全員がやぐらから覗けば既に女性と会話している仲間の姿があった。
「ええ、こう見えて僕は役者でしてね。祭りのサプライズで行うステージの予行練習を……」
「で、でも何だか凄い音とかして……」
慌てたタヱ子も傍に行き、「ああ……えっと、そう!文化祭の出し物です!」とフォローを重ねる。
それでも怪訝そうな顔をする女性にふぅと緩い息を一つ、咲がゆっくり近寄って。
「名すら騙れぬ名無き縁者。――呼応によりて、現とす」
エヌも密かに招く言葉を口にすれば女性の後ろに二匹の植物型守護使役が顔を出した。
「楓、お願いね?」
楓とエフが仲良く女性の記憶をすいとると呆然としていた顔が純粋に不思議そうな色へ変化する。
「あ……あれ?私、は」
「準備中の祭り会場を見に来たのでしょう?」
状況が変わっても動じず場面に合わせ演技するエヌにタヱ子も大真面目に何度も頷く。
「広間に来た時の記憶が無い?きっと風景に見とれていて気付かなかったんですわ♪」
咲の笑顔もかかれば、女性は納得したのかそれ以上疑問を口にする事はなかった。
それは真顔の菖蒲が「ミッションコンプリート☆」と告げるに十分な結末。
「そうだ、折角来たしお参りしたいです」
小銭あったかなと探す由愛に、ふらりと悠が近寄ってこてんと首傾け。
「あの……私も、雰囲気味わいたい、から……」
共にと提案すると、黙祷を終えやってきた文子が眼を輝かせながらぱんと手を合わせた。
「だったら!皆、お祭り始まったら行きません?折角の初仕事で守ったお祭りだし♪」
幸い戦いの場としたやぐらは多少提灯が激しく揺れ動いたものの、注意して戦ったお陰か被害は少ない。
問題なく明日は華やかな日となるだろう、今宵は皆頑張ったのだ楽しむ権利は当然。
「僕も明日は行きますよ、ラムネ飲めますからね」
「時間が取れたらボクも行きたいところだ」
初志貫徹と言わんばかりに美久が歳相応の笑みを見せる。
菖蒲も頷いている辺り、十分乗り気だ。
「また、明日逢おう」
それは誰かが言った約束の言葉。
前夜祭はこれにて終幕、淡い提灯の光が優しく舞台からはける者達を見送っていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし








