【古妖狩人】ヒメとバンカラ
【古妖狩人】ヒメとバンカラ


●天城山の幽霊夫婦

 種別で言えば、二人は古妖である。

 幽霊系とでもいうべきだろうか。『誰か』に似ていると言われたこともあり、その二人の魂が成仏せずに漂っているのだと、話のタネにされたこともある。
 だが、二人はそんなことはどうでもよくて、いつからともなく現れた瞬間から共に在れることのみを喜んでいた。

 時代が移れば、『誰か』のことも忘れられていく。
 それは二人には好都合で、その時代に見合った、自分達の見た目に相応しい服を纏って、街並みに溶け込んでいった。

 そんな静かな生活が、これまでも、そしてこれからも続いていくと思ったのに。
 小さな幸せは、荒々しい騒音と共に打ち破られた。

 突然現れた一般人に拘束され、トラックの荷台に押し込められた二人。殺されてしまうのだろうか、それとも何か酷い事をされてしまうのか。
 話し声の中には、治癒能力がとか、生きた傷薬などという単語が混じり、二人に不安をもたらす。
 確かに共に治癒能力を持つ身だが、本当に傷を直す程度のものでしかないし、一度に一人が精々だ。

 突然、ガタガタと揺れながら進んでいたトラックが止まった。
 どこか目的地に着いたのだろうか、それともどこかの中間地点なのだろうか?まだそれほど進んでいないようにも思える。
 二人の不安は尽きないまま、トラックの扉が開かれ、そして――


●静岡SA奇襲作戦

「最近頻発している古妖の誘拐事件が、静岡でも発生しました」
 会議室に久方 真由美(nCL2000003)の声が響く

 天城山に住んでいる古妖の夫婦が憤怒者に誘拐され、トラックに乗せられて連れ去られる光景を夢で見てしまったそうだ。
「数は8人、全体的に軽装で、重火器で武装しているものの、そこまでは強力なものではないようです」
 ただ、拐われた古妖のすぐ近く、二人の拘束されている荷台に、武装した憤怒者が居るのは危険かもしれませんね、と説明が続く。

 それと、と真由美は前置きし
「件の誘拐された古妖のお二人は、僅かながらですが治癒能力を持っているようです。そこを狙われたのかもしれません」
 回復のできる覚者が少ない場合は、助力をお願いしても良いだろう。

 真由美はこの事件に関する資料を皆に配り終え、無事を願うかのように一礼する。
「本当に最近多い案件ですね……皆さん、気をつけて行ってきて下さい」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:安曇めいら
■成功条件
1.幽霊系古妖【ヒメ】と【バンカラ】の生存
2.憤怒者の撃退、もしくは捕縛
3.なし
安曇めいらです。
今回は、某演歌の舞台の山由来の古妖さんを助ける依頼となります。


●シチュエーション
天城山に住む古妖カップルが、憤怒者に拉致されました。
トラックの中で手足を縛られた状態で転がされています。

FiVEの皆さんはトラックを先回りして待ち伏せし、東名高速の静岡サービスエリアで奇襲をかけていただく形になります。
時間は深夜、あまり人気が無いのですがまばらに一般人はいるようです。

●NPC
古妖【ヒメ】&【バンカラ】
思念が凝って生まれた古妖です。
天城山にかれこれ50年近く住んでいます。
服装は時代に応じて10代後半~20代前半程度の外見年齢に見合ったものを身に付けているようです。
といってもそこまで突飛なものは着ないもよう。
癒しの滴相当の回復能力はあるものの、戦闘力は皆無です。

【古妖拉致犯】
全部で8人居ます。
年齢も武装もまちまちですが、そこまで豪勢ではないようです。
リーダー等はいないもよう。
トラックの運転席に3人、荷台に5人います。
荷台に乗り込んでいる憤怒者は、いざとなれば古妖夫婦を害する可能性が大です。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
公開日
2015年12月17日

■メイン参加者 5人■

『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『アフェッツオーソは触れられない』
御巫・夜一(CL2000867)

●ヒメとバンカラの幽霊夫婦

 ひそひそと、停止したトラックの荷台で男女が喋っている。
「ねえバン、私たち……生きて帰れるのかしら……」
「どうだろう。風の噂では聞いていたけど、オレたちみたいな妖怪を攫っている連中。オレ達が攫われるなんてな……」
 後ろでに縛られ、荷台に転がされている幽霊古妖の夫婦。
「うるせえ!ヒトモドキがヒトの言葉を喋るんじゃねえ!」
 ささやき声すらも、憤怒者にとっては苛立つものらしく、ダンッ!と荷台の床を叩かれる。

 つい数時間前、いつもの観光案内のアルバイトを終えて帰ろうとしていたところを襲われ、今に至る。
「バケモノ風情だが、生きて歩ける薬箱位の価値はあると調べが付いてるからな。我々に加勢するならすぐには処分はしない。」
 目の前の武装した者達が、蔑みの視線で二人を射る。
 確かに自分達は、僅かながら治癒の力は持っている。だが、大怪我までは治せるものではないし、第一に連発できるようなものではない。
 道端の怪我をした犬や猫、通りがかりに膝を擦りむいて泣いている子供をその場で癒す程度のものだ。使用後の疲労感も大きく、もしも使いすぎれば……きっと、憤怒者からすれば、人でない者の生き死になど関係の無い事なのだろう。

 口をつぐんで、視線だけで会話をしていたその時、車全体がドシンと大きく揺れた。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
 思わず驚いて声を上げる二人。しかし、それに対する脅しは全く入らない。憤怒者も驚いていたからである。
「何だ!?」
「事故か!?襲撃か!?」
 只ならぬ揺れ方に、驚きを隠せぬ憤怒者達が、荷台のドアを開けて次々に出てゆき、荷台は二人だけになった。
 一体何事が、と不安げな幽霊夫婦。さらにその不安を煽るかのように、憤怒者たちが出て行ってそのままの荷台がキィ、と音を立てて再び開かれる。
 彼らが戻ってきたのだろうかと思い見れば、全く違う人物が視界に入ってきた。
 面識は、全く無い。

 片方は日本人離れした彫りの深い顔立ちに褐色肌、猫の獣相の少女。もう片方はスキンヘッドで一見厳ついものの、優しげな目の大男。
 守護使役のみらのんの『ふわふわ』で浮いて音も無く忍んできたククル ミラノ(CL2001142) と、ステルスで視認性を低めた田場 義高(CL2001151) だ。

「コレ、付けとくぜ。何かあったら一大事だからな」
 ふわりと二人を包む優しい瑠璃色の護り――義高の蒼鋼壁が齎される。
「あ、あの、助けてくださるのは分かるのですが、どちらさまで……」
 何よりも心強い援軍なのだが、何故自分達を助けてくれるのか、何処の誰なのかさっぱり分からず目をぱちくりする二人。
「挨拶が遅れてスマンな、あんたらを助けに来たもんだ」
「しーーーっ!きこえちゃうよっ!ミラノたちはたすけにきたんだよっ♪」
 愛らしい、猫の耳をぴこんと動かし、立てた人差し指を口元に当てるミラノ。
「こっちはしめとくよっ、だいじょうぶ!」
 巻き込まれるのを防ぐために、敢えて閉めておく、ということらしい。
 この少女、口調と容姿は幼いながらも、頭のキレは同年代以上に聡いようだ。
「また、あとでねっ!」
 と、荷台の扉を閉めながら笑った顔は、夏に咲く花のようだった。

 荷台から降りた五人の憤怒者が見たのは、運転席が覚者と思しき若者に襲撃されている光景だった。その時視界に飛び込んできたのは運転席の方の三人のものに違いない、悲鳴が聞こえてくる。
「嘘だろ……俺達何も悪いことはしてないのに……」
 一人が、がっくりとその場で膝を付いた。

●急襲!静岡SA!

 時は数分遡る。 
 ミラノと義高が、木の陰や他の車の隠密行動をしやすい配置に付いたのを確認し、左右で瞳の色が違う、大人しそうな青年、御巫・夜一(CL2000867)が動き出した 。憤怒者が飛び出した車の衝撃は、彼の投げたクナイによるものだ。タイヤが派手にパンクした揺れが、先程の状況に続く。

 夜空よりも明るい青の髪が揺れ、紫の右目と黄緑の左目が街路灯の光を受けて映える。
 荷台から駆けつけた憤怒者達は、その特異な色で相手が何者なのかを察知した。
「見たらわかるだろ?覚者だ」
 夜一は憤怒者をわざと煽る言動をとった。以前は肯定的に思えなかった、覚者ならではの色合いの身体に、今だけは感謝する他ない。煽ると同時に、蔵王を纏ってゆく。
「オレたちに楯突く阿呆が居ると聞いてな、顔を見に来たんだが…大したこと無いな」
「何だよバケモノ!お前達には関係の無い事だ!」
 突然現れた覚者へ、若干パニックになる憤怒者達。発砲するものの明後日の方向へ銃弾が向かう。
 正直、このサービスエリアという環境では危なすぎる。早く鎮圧しなければ。
 というか、彼らはこういったところで戦うことで自分と同じ【一般人】に危害が及ぶという認識は無いのだろうか?

 背中から白い翼を生やした、少女のように小柄な青年――指崎 まこと(CL2000087)が、好戦的な表情とともに一言。
「見逃すわけにはいかないね。この場で、叩き潰させてもらおうか」
 若干物騒な物言いだが、義憤に駆られているからこそのこと。穏やかに暮らしているだけの幽霊夫婦を痛めつける古妖狩人達は、まことにとっては相当頭に来る存在のようだ。
 彼は閂通しで運転席の憤怒者や、助手席に二人いる憤怒者よりもアクセルやハンドルといった機器の方を叩く。
 そちらの機器がメインといえど、無論彼らにもダメージは入る。
 助手席や運転席から逃げようと、もんどりうって武装した男達がボトボトと落ちてくる。
 運転席の者は、特にダメージがあったのか逃げるに逃げられないように見えるが……

 そこへ切り込むように突っ込んできたのは長身の女。猫のように音もなく近づいてきて、ドアごと叩き割るかのように右側の座席の運転手へ貫殺撃を放った!
 膝の辺りをやられたのだろうか、動かずにそのままの姿勢で呻いている。計器やハンドルも完全にズタズタになってしまっている。
 かなりダメージは入った感じに窺えるが、呻けるということは致命的ではないだろう。
「な、この女、いつの間に!?」
「しかし憤怒者共も次から次へとようやるなぁ。そのバイタリティだけは感心するわ。せやけど、しっかり懲らしめさせてもらうで」
 短髪で中性的。しかしその印象を裏切るように扇情的な肢体の女は焔陰 凛(CL2000119) 。緋袴姿に、煌く日本刀を構えた姿は、清廉さに満ちている。
 パートナーのにゃんたのしのびあし、更には暗視と鷹の目で、夜の闇により視認性の低い空間を迷わず進んできたのだ。
 彼女もまた、静かに暮らしている夫婦を拉致した憤怒者への怒りを隠せない。
 そのまま、流れるように飛燕を放つ。峰打ちだが、助手席から逃げてもんどりうっていた憤怒者には十分なダメージだったようで、やはりバッタリと地面に突っ伏して動かなくなる。

 まことは助手席から逃げた二人のうち、まだ動いている方へ近づき、注意を惹くように煽り立てる。
「君達が卑劣なテロリストだとは既に抑えてある。大人しく降伏するなら命だけは保証するよ。もちろん抵抗してもかまわない、所詮僕には敵わないだろうからね。」
 普段の穏やかそうな印象からは若干ギャップのある傲慢そうな口調で、白く大きな翼を見せ付けるまこと。
「は、はい、許してください……」
 この憤怒者は大人しく投降はしたが、念のためとまことの手によりガムテープでぐるぐる巻きにされる。
 仲間を放せとばかりに、そのまことへ発砲する別の憤怒者もいたのだが、ダブルシールドで軽く弾かれてしまう。
 ついでに、ダブルシールドそのものの物理的な攻撃により派手に吹っ飛び、同じくガムテープ巻きとなってしまった。

 荷台に行っていたミラノと義高が、敵味方入り混じる前方へ合流する。
「ふふふっ!ぶきをきょーかしたミラノのちから、ちょーーはっきするよっ!」
 尻尾とまじかるなすてっきをふりふりしながら、自信を漲らせて言い切るミラノ。
 手の中に棘一閃の種を発生させると、綺麗な弧を描くように夜一や凛と戦っている憤怒者へ向けて投擲した。
 少し距離はあるが、憤怒者の一人が痛いのか銃を取り落とし、バッタリと倒れこんだ。
 ミラノはよしっ!といった感じですてっきを持って一回転。

 そのミラノと対比するとかなり大きく見える義高は、その体格に負けない大振りな斧を担ぎ、構える。
 体格の差と、攻撃力に優れていると聞く精霊の文様持ちの覚者を目の前にして、すでに数名は脅えた表情になっている。
「やろうてのか?やめとけ、やめとけ、俺も無駄な殺傷はしたくないと気を遣ってやってんだぜ」
「二人の身柄はこっちが貰い受ける。今、降伏すんなら怪我しないですむぜ」
「う、うるせえ!化け物め!あの化け物の仲間なのか!あの化け物は返すから帰れ!」
 そうは言うが、銃を向けたままなので説得力が全く無い。しかも、脅えのあまりに一人が義高に向かって発砲する。
「おいおい、痛いじゃねぇか」
 とはいえ、覚者であることと、重装甲を纏っていたおかげで大したダメージには至らない。
 ニヤリと不適な笑みを浮かべて、反撃とばかりにアスファルトをひっくりかえし、隆槍をお見舞いする。
「うわあ、地面がぁ!や、やっぱりお前らは人間なんかじゃない!化け物め!」
 目の前の超常現象に慌てながらも、覚者への罵倒は忘れない辺りが憤怒者達の恨みの深さを感じさせる。
「だから言ったろう?やめとけって……自分と相手の力の差が、自身の置かれた戦況が読めない奴は、手がかかって困んだよね」
 胴体に強かにダメージを受け、ばったりと倒れた憤怒者を見て、義高が肩をすくめる。他の憤怒者にも聞こえるよう、敢えて挑発的な言葉を選んでいるが、古妖狩人の一連の事件に限って言えば、FiVEの面々も同じようなことを考えていることだろう。

 かなり攻撃的に動く面々の多い中、夜一は通常攻撃での戦闘に徹していた。
「まだ遊び足りないんじゃないか?」
 クナイとナイフの二刀流での軽快な動きから、覚者の身体能力で繰り出される攻撃は、何の神秘を帯びてないとしても相当な脅威である。
 倒れこんだり、投降する仲間を見て、怖気づいて逃げようとする憤怒者の足元へ、それを引き止めるかのようにクナイが刺さる
「逃げるなよ、これからが本番だろ?」
 きっちり捕まえるまで、戦いは終わらない。

 最初に膝を付いて、ずっとぽかんとしていた憤怒者へ、ミラノがとてとてと近寄る。
「ひいっ!動物の覚者!お助け!」
「わるいことするなら、おしおきだよっ!」
 ちょびっとだけ、深緑鞭の蔓を発生させながら、めっと精一杯の怖い顔をするミラノ。体格で言えば、彼女の方が大分小さいのだが……
「しません!しませんから!ごめんなさああい!」
 土下座して大泣きで懇願する憤怒者。正直、最初に棒立ちになっていなければ真っ先に戦闘不能か投降したのは彼ではないだろうか?

 ともあれ、全憤怒者の無力化はこうして終わった。

●皇女と硬派、その謂れ

 凛は縄やガムテープでぐるぐる巻きにされた憤怒者へ、刀を突きつけて脅しつつ軽く尋問している。
「あんたらの仲間や本拠地はどこや!あたしは甘くないで!」
「い、言うもんか……この、バケモノ女……」
 憤怒者は負けじと抵抗する。そんな彼らへ、まことは拘束を解くことなく手早く応急手当を施してゆく。
 現時点では知る由も無いながら、そう遠からず彼らの本拠地は発覚することとなる。
 彼らは後ほどFiVEかAAAのいずれかが回収していくだろう。

 かすり傷程度のものだが、前衛で暴れていた凛や義高の傷を、バンカラとヒメが力を合わせて癒してゆく。
「あまり強くないので、この程度しかお手伝いできませんが……」
 同じく傷のあった夜一へも、バンカラが手を伸ばして傷を消してゆく。
「いえ、重畳です。それにしても、とんだ目に遭いましたね」
 夜一は肩の力を抜ければと、お気に入りの飴を二人に渡す。

 その飴を早速食べながら、FiVEの覚者から、そういえば幽霊の古妖と聞いているが一体どういう古妖なのかと聞かれれば
「私たちは、天城山で以前あった心中事件のカップルによく似ているらしいんです。本人ではないんですけどね」
 どことなく気品を漂わせ、そう言いながらやわらかく微笑むヒメ。
「オレ達はその心中した二人に関する、色んな想いから生まれた、いわゆる【幽霊】の妖怪らしい」
 天城山の心中事件。幾分、昔のことなのでピンとくる者は居ないながらも、夫婦の説明で何となく理解するFiVEの面々。

「なにはともあれっ!おふたりにけががなくてよかったのっ!」
 頭の回転とは別の方向で、難しいことは分からないミラノは、よく分からないけど安堵の表情で耳と尻尾をパタパタさせる。

 戦闘の跡も残るサービスエリアの駐車場。跡を眺めつつ、義高がぽつりと
「古妖狩人、ってのは下種が多いんで嫌んなるな」
 と一人ごちるが、やはり先程の挑発同様、皆も思うようだ。

 今回のような何の罪も無い古妖を拉致する憤怒者組織。憤怒者ということは、覚者にもまたしかり。
 続く戦いの気配を感じて、FiVEの面々は少しばかり緊張を隠せないのであった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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