【古妖狩人】猫と狸が騙されて
【古妖狩人】猫と狸が騙されて



 周りを雑木林に囲まれた神社の境内。普段は静寂に包まれたその場所に響くのは鋭い獣の怒声と人間の喚き声、そして銃声だった。
 フシャアアアア!
 猫が怒りの声を上げる。拘束具を掛けられた不自由な前足で自分を押さえ込もうとする狸を殴り飛ばし、振り回した尾で近くにいた人間をなぎ倒す。
 猫はこの神社に「お猫様」として祀られている古妖猫又。体長体高2m級と言う巨大な猫である。
 一方、狸の方は化け狸と呼ばれる狸の古妖。猫又と同じくらいの大きさに化けて対抗しているが、どうにも力負けしているようだった。
「おい何してるこのクソ狸! さっさとこの猫を大人しくさせろ!」
「拘束具もっと持って来い!」
「撃て撃て!」
 化け狸の側にいた人間が電磁警棒を押し付ける。鋭い痛みに化け狸がびくりと震えて猫又に噛みつきのしかかると、動きが鈍った猫又に向けて銃弾と拘束具が放たれる。
 猫又を捕縛しようとしている彼らは「古妖狩人」。古妖を自分達の欲望のために捕縛し利用する憤怒者である。
 この神社に祀られ近隣住民から「お猫様」と昔から親しまれている猫神が実在する古妖と知った彼らは、神社の神主一族を人質にとり猫又を捕らえに来たのだ。
 彼らの誤算は猫又が予想以上の戦闘能力を備えていた事だろう。猫又は一瞬の隙を突いて人質を奪還。彼らが逃げ切るまで自らの体を盾として古妖狩人と化け狸の攻撃を防ぎ、拘束具を掛けられながらも人質を逃がす事に成功していた。
 しかし、拘束具は次々と増やされ化け狸と古妖狩人の攻撃で体力も徐々に削られている。
 猫又が完全に囚われてしまうのも時間の問題だった。


「古妖狩人と名乗る憤怒者が活動を活発化させているようです」
 久方 真由美(nCL2000003)が持ってきた資料には、見慣れぬ憤怒者の記録が載っていた。
 古妖狩人は古妖を専門的に扱っているらしい。様々な手段で古妖を捕縛して戦力になるものは隷属させて対覚者に利用し、戦力にならない古妖は恐ろしい実験に使うと言う。
 今回その標的になったのは、とある神社に祀られていた猫又だった。
「この猫又は本来ならば憤怒者に負けるような個体ではないのですが、人質を取られ拘束具を掛けられてしまいました」
 それでも抵抗し人質を逃がす事には成功したのだが、自身は捕縛されてしまうのだ。
「猫又を捕縛した古妖狩人の数は多く、隷属させた古妖も連れています」
 隷属させられている古妖は化け狸。酷い目に遭わされてきたのか古妖狩人を非常に恐れ命令に従っている。戦闘力は低くどちらかと言えば大きく化けた体を盾や重石として利用するために連れて来られたらしい。
 古妖狩人は15人。銃火器を基本装備として他にも電磁警棒や手榴弾を携帯しているようだ。
「古妖狩人の目的は古妖の捕縛ですが、彼らは憤怒者です。覚者が現れれば撤退せずに戦うでしょう。猫又を救出するためには隷属している古妖を含め全員を撃破する必要があります」
 また捕縛された猫又の参戦は望めないが、こちらが攻撃を続行している限り古妖狩人に猫又を人質として使われる事もない。
 最も、多少銃弾を撃ち込まれたからと言って死んでしまうような猫又ではないが。
「この猫又は長年神社に祀られて土地を見守り、大事にされている存在です。どうか皆さんの手で、早めに救出してあげて下さい」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:
■成功条件
1.古妖狩人と化け狸の撃破
2.なし
3.なし
 皆様こんにちは、禾(のぎ)と申します。肌寒くなってきたと言うのに日差しがきついです。夏でもないのにこんがり日焼けをすると言う事態に。
 今回は囚われのお姫様ならぬお猫様を憤怒者「古妖狩人」から救出する依頼となっております。
 彼らは絶対に撤退しないので、依頼達成のために気合いを入れて倒して下さい。よろしくお願いします。


●場所
 某所にある神社の境内。覚者6人、憤怒者15人、古妖1体が縦横無尽に動き回ると少々手狭ですが、それなりに面積があり土がむき出しの地面も多少抉れているだけで戦闘に支障はありません。
 周囲を雑木林に囲まれており、雑木林の外から境内の様子を見る事はできません。雑木林を通る道から境内に入る門の正面に拝殿があり、その辺りに猫又が捕まっています。

●人物
・味方
 猫又(お猫様)/古妖
 体長体高2m級の巨大な三毛猫。神社に猫神として祀られ「お猫様」と親しまれています。
 戦闘能力は高いのですが、人質を取られて後手に回った結果捕縛されかけています。覚者の戦闘に合流する事は不可能です。

・敵
 化け狸/古妖
 古妖狩人に隷属している狸の古妖。元の大きさは普通の狸ですが、変身能力を使って猫又と同じくらいの巨体になっています。
 戦闘能力は低く重石や盾として扱われていますが、古妖狩人を非常に恐れ命令に従っています。

 古妖狩人/憤怒者
 覚者に対抗するために古妖を利用している憤怒者の一派。捕らえた古妖を道具として扱い、戦闘能力があるものは隷属させ、戦闘能力のないものは人間の所業と思えない実験に利用しています。
 猫又を救助しにいけば化け狸をけしかけ、一緒に攻撃して来ます。

●敵能力
・化け狸/古妖/前衛
 殴る(近単/物理ダメージ)
 噛みつく(近単/物理ダメージ+出血)

・古妖狩人警棒タイプ×10人/憤怒者/中衛
 機関銃(遠列/物理ダメージ)
 電磁警棒(近単/物理ダメージ+鈍化)

・古妖狩人手榴弾タイプ×5人/憤怒者/後衛
 機関銃(遠列/物理ダメージ)
 手榴弾(遠全/物理ダメージ/溜め1)


 情報は以上です。皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2015年11月17日

■メイン参加者 6人■



 重なる木々が視界を塞ぐ雑木林。その中に通る道を覚者達が駆け抜ける。
「憤怒者はクズの集まりだって知っていたけど、本当に根性の腐った連中だね」
 吐き捨てるように言う鳴海 蕾花(CL2001006)は怒りのこもった目で道の先を睨みつけた。
 この先にある神社では古妖狩人の古妖狩りが行われている。それも人質を取った挙句、隷属させた古妖を使ってと言う不愉快なやり方で。
「能力者にどんな恨みがあるかはしらないが、古妖を力づくで無理矢理隷属させようなど言語道断!」
 今まさにピンチに陥っている猫又と隷属させられている化け狸の事を考えると、ゲイル・レオンハート(CL2000415)の古妖狩人に対する怒りは増して行く。
「それに、戦う力のない古妖さん達を酷い実験に使っていると伺いました」
「何も悪いことをしていないのにお猫様や狸さん達に酷いことをするなんて許しませんよ!」
 ゲイルの怒りに同調してまだ見ぬ古妖狩人に怒りを表すのは賀茂 たまき(CL2000994)と猫屋敷 真央(CL2000247)。
「隔者に対する怒りや恨みは分からないでもないけどね……」
 九段 笹雪(CL2000517)は憤怒者に対して特別な感情は持っていない。それ故にか心無い隔者に対する復讐ならば一応の理解はあった。
「でも、その怒りの原因にお猫様も狸さんも関係ないはずだよ」
 ならば古妖狩人は復讐者ではなくただの犯罪者だ。
「早いとこ助けてやらないとな」
 坂上 壊良(CL2000523)が言い終わるか終わらないかと言う所で、雑木林の道が神社の門に繋がった。
 ひらけた視界に飛び込んで来たのは拝殿の前で拘束具に絡めとられもがく巨大な猫又と、それを取り囲む何人もの武装した人間、そして覚者達の出現にびくりと顔を上げた巨大な化け狸。
「そこまでだ!」
 勢いよく境内に突入した覚者達の登場に、拘束具と格闘していた猫又、この神社の「お猫様」が見覚えのある姿を見付けて目を瞬かせた。
 いくら拘束具をかけても銃弾を浴びせても反抗していた猫又が急に大人しくなった事に、拘束具を持っていた男達が怪訝な顔をして侵入者を見たが、はっと気付いて銃を構えた。
「こいつら覚者だ!」
「なんだと?!」
 覚者と言う言葉にその場にいた全員が銃口を向ける
 彼らは憤怒者の一派である古妖狩人。その反応は当然と言えるだろう。
「はーい! こんにちは、見ての通り覚者だよ」
 銃口を向けられているのも構わず笹雪が躍り出た。
「あなた達の怒りの理由は知らないけれど、存分にぶつけにおいでよ!」
 くいくいと挑発する指先とからかうように笑う金色の瞳が古妖狩人達を苛立たせる。
「チッ、狸前出ろ!」
 化け狸に押し付けられた警棒がバチッと音を立て、化け狸が慌てて古妖狩人の前に出てきた。古妖狩人と覚者を見る目は怯えきっている。
「戦いたく無い古妖の狸さんを無理やり使役して戦わせているなんて!」
 たまきの瞳が髪を飾る組紐の紅よりも鮮やかな赤に染まった。蔵王の鎧を纏い、古妖狩人達を見据える。
「こいつらにはキツイお灸を据えてやらないとな」
「ごめんなさいって謝るまでお仕置きですよ!」
 方肌を脱ぎ手甲を握り込むゲイルと、ネコクローをぎらりと光らせた真央。二人の因子を示す獣の耳と尾は怒りに呼応するかのように不穏に揺れている。
「黙れ化け物どもめ!」
 化け狸の後ろに並んだ古妖狩人達が立て続けに機関銃を撃ちまくる。その激しい弾幕の中、壊良は前に出る。
「狸。お前が何をされたのはわからない」
 足を止めたのは化け狸の目の前。身構えると言うよりは逃げたいのを必死にこらえているような化け狸に話しかける。
「今も何かされているのかもしれない。だから、お前がオレたちに攻撃せざるを得ないならば、するのは構わん」
 壊良はゆっくりと槍を構える。その穂先を向けるのは化け狸ではない。
「だが、一度だけ言っとくぞ。オレたちは、お前たちを助けに来た」
「このクソ狸! さっさと攻撃しろ!」
 壊良に被せるように古妖狩人の一人が叫んで警棒を化け狸に押し当てた。
 迷っていた化け狸は痛みと恐怖に押し出されて壊良に前足を振るうが、それはがっしりと受け止められる。
「狸はオレが止める。他任せたぞ」
「ああ、こいつらは任せな!」
 待ってましたとばかりに前衛を務める化け狸の横をすりぬけた蕾花が目を爛々と光らせ古妖狩人に迫る。繰り出された刃は疾風の如く古妖狩人を切り裂き、苦痛の呻きに蕾花は吐き捨てる。
「大人しい古妖相手に粋がってんじゃないよ。どうせなら凶暴な妖とでも戦ってろっての」
 蕾花の言葉に同意するかのように、奥にいる猫又がふんと鼻を鳴らす。拘束具に噛みついている口元がにやりと歪んで見えるのは気のせいか。
「ふん、どちらも化け物だろうが」
「古妖の前に覚者狩りだ!」
 次々に銃口を向けられる銃口。古妖狩人の台詞と共に吐き出される弾丸。本来であれば心安らぐような場所であった境内に戦いの気配が満ちて行く。


 化け狸を壊良に任せ、覚者達は化け狸の後ろにいる古妖狩人達と戦うべく距離を詰める。
「まとめてお仕置きです!」
 真央が放った二連撃が炸裂し、強烈な威力に居並ぶ古妖狩人が揃ってよろめいた。
「ぐっ、この……っ」
「まだまだ後に控えてるよ!」
 鼓膜が破れそうな騒音と鋭い痛みが古妖狩人に追い打ちをかける。笹雪の召雷は化け狸を巻き込まないように調整されていたが、その音にか雷を電磁警棒に連想させたのか体を固くしていた。
「大丈夫です。傷付けてしまう事があるかもしれませんが、必ず助けてみせますからね!」
 化け狸の怯えようにたまきはその思いをなお強くして、古妖狩人にプレッシャーをかけて行く。ただでさえダメージを受けていたところにこのプレッシャーは耐え難い。
 一人が呻いて体を沈ませるような様子を見せたが、落ちた顎を水礫に打ち上げられて今度はのけぞる羽目になった。
「おっと、いいのが入ったな」
 それを放ったゲイルが思わず口にしてしまうほどの一撃をもらった古妖狩人は足元もおぼつかない。立て続けにやりこめられて古妖狩人達は怒りに顔を歪め、機関銃を撃ちまくる。
 覚者と言えど無敵ではない。十を超える機関銃からの激しい弾幕は距離を詰めた覚者達をここぞとばかりに傷付けて行く。
「ぼさっとするな。お前も行け!」
「俺達に逆らえると思うなよ!」
 グルル……と、微かに化け狸が呻く。怯えた目をすがめて覚者達に向かって牙を剥いた。
 巨大な体はそれだけでも威圧感がある。体に合わせて大きく鋭くなった牙で目の前にいる壊良の肩に食らいつき、骨も砕かんばかりに力を込めた。ぎりりと軋むのは化け狸の顎か壊良の肩か。
 しかし、壊良の目は化け狸の向こう側に向けられていた。
「なるほど。戦略として、自分達の力の補強を行おうと言うのは理にかなっている。が、戦略として味方を作る以外にも敵を作ろうとする行為は利にならん」
 力任せに狸の牙を外し、壊良は化け狸の側にいた古妖狩人を薙ぎ払う。ちらと見た猫又は拘束具に噛みついたり爪を立てたりともがいているが、どうやら簡単に壊せるものではないらしい。
 巨大な古妖も拘束する物を作り出し捕らえては利用する。その執念と古妖を弄ぶ恐ろしさに壊良は問いかけずにはいられない。
「そこまで憎いか? 覚者が。何故お前らは覚者を憎む?」
 古妖狩人の一人が手榴弾を掲げたままゲイルの水礫に撃たれる。
 しかし隣でも用意されていた手榴弾を止める事まではできず、爆発が覚者達全員を巻き込んだ。
 古妖狩人は覚者達が強い痛みを感じた様子を見せる度に喜色を浮かべ、口から吐き出される言葉は覚者に対する憎しみと侮蔑が含まれていた。
「あなた達にも事情があるでしょう。ですが、古妖さん達に非道を働く人達は許せません!」
「古妖は人間のいざこざになんか関係ないんだよ!」
 効いているだけで心を削りそうな言葉に負けず、たまきと笹雪の攻撃が古妖狩人を打ち倒す。
 しかし、多少倒れた所で古妖狩人達の方が圧倒的に人数が多い。反撃は速やかに機関銃と手榴弾と言う形で行われ、舞い上がる土に血の飛沫が混じる。
 一対一であれば憤怒者である古妖狩人と覚者の能力は圧倒的な差がある。ただし数で勝り機関銃や手榴弾で武装した憤怒者を侮る事はできない。
 じりじりと体力は削られており、回復役はゲイル一人。誰かが一人に集中攻撃されれば、回復が間に合わず倒される可能性は十分にあった。
 戦闘は覚者に有利に傾きながらも決して油断できない緊張感を孕んで進んで行く。


「間に合わないか!」
「気を付けろ! まとめて来るぞ!」
 手榴弾の阻止が間に合わす、ゲイルと壊良が味方に注意を促す。
 次の瞬間、数個纏めて炸裂した手榴弾が土煙と爆炎を巻き上げ視界を塞いた。
「お前も突っ込め!」
 古妖狩人は尻を蹴り上げられた化け狸が土煙の中に突撃したのを見計らい、一斉に土煙に向けて機関銃を乱射する。
「化け物同士仲良く死ね!」
「お前たちに殺された者の無念と怒りを思い知れ!」
「こいつら……!」
 化け狸諸共蜂の巣にしようとでも言うのか。蕾花は怒りに歯を食いしばり、まだばらばらと土が落ち機関銃の弾幕が襲い掛かってくる中を疾走する。
 蕾花は古妖狩人の言葉にもその行動にも怒りを覚えていた。
「あたしだって憤怒者に家と家族を奪われたんだ!」
 自分達の復讐の為に一体どれほど周りを巻き込み犠牲を増やそうと言うのか。腸が煮えるような怒りを込めて獣の腕が翻り、古妖狩人を斬り倒す。
「無茶し過ぎだろ!」
 倒れた古妖狩人と同じくらいに傷口から血を噴き出した蕾花に、慌ててゲイルが癒しの雫を使う。
 ゲイルを含めて覚者側も負傷が重なってきたが、それ以上に古妖狩人達の被害が激しくなっている。すでに中衛は残っておらず、一番元気なのは壊良がずっと足止めしている化け狸だ。
 化け狸は最初の内は古妖狩人に命じられるままに壊良を攻撃し、古妖狩人達の盾にもなっていたが、彼らが半分以下になった辺りで変化が見られた。
 時折振り返っては古妖狩人の残りの数を確認しているように見える。そしてその奥にいる猫又が拘束具を外そうともがき、疲れて動きを止める様子を気にしているようだった。
 その変化に気付いたのは古妖狩人も同じだったらしい。
「このクソ狸、さっさと攻撃しろ!」
「俺達に逆らえると思っているのか!」
 警棒を持った連中が倒れたために、残った古妖狩人は狸を足で蹴り飛ばしていた。
「悔しいだろうね、こんな奴らのためにこんなことをやらされてるんだ」
 傷を癒すために一旦下がった蕾花がそう言うと、化け狸の目に古妖狩人に対する恐怖以外のものが見え隠れし始めた。
「待っていてくださいね、もうすぐ自由にしてあげますから」
「お猫様も、もう少しだけ頑張って!」
 たまきと笹雪の呼びかけに反応したのは化け狸と猫又の両方だった。化け狸は攻撃のために振り上げた前足をすとんとおろし、自分を蹴る古妖狩人の方を振り向く。
「チッ、役立たずめ」
「覚者共を片付けたら廃棄処分にしてやるからな!」
 化け狸はもう使えないと判断したのか残った古妖狩人が吐き捨てながら機関銃を構えたが、その台詞はただでさえ尽きかけている自分達の命運をさらに加速させるだけだった。
「どこまで古妖を道具扱いするつもりだ」
「あなた達にはとっても痛いお仕置きをしてあげます!」
 壊良の飛燕と真央の地烈が一人を倒し、そこから先は坂を転げ落ちるが如く。
 古妖狩人は退かず反撃するものの、人数が減ったせいもあって致命傷を与えるまではいかず逆に一人二人と斬り付けられ、金属の塊を叩き込まれるような一撃に沈み、三人四人と倒れて行く。
 そして遂に最後の一人。
「くそ、くそっ! 俺達が倒れても、必ず同胞達がお前ら覚者に引導を渡すぞ!」
 苦し紛れに放った機関銃の射線は覚者達から大きく外れて地面を抉るに留まる。そして笹雪の放った雷がとどめの一撃となり、古妖狩人の意識を刈り取った。


「こんなもんかな」
「もうちょっときつい方がいいんじゃない?」
 ゲイルと笹雪がああだこうだと言いながら古妖狩人を縛り上げ、最後に緩んでいる所はないか確認してようやく一息ついた。
 拘束された古妖狩人達は全員意識がなく、少々きつすぎる拘束にも文句を言う様子はない。
 お猫様を捕縛していた拘束具が使われているのは意趣返しなのだろう。
「後でAAAにでも突き出そう」
「何か古妖狩人に関する情報が手に入るかもな」
 縛られた状態で転がされる古妖狩人に少し溜飲が下がったのか、蕾花は拘束を解かれた猫又に近付いてみる。
「あんたがお猫サマか。噂には聞いていたけど、こんな形で合う事になるとはね」
 軽く触れただけでもふりと手が沈む柔らかな白地に二色の斑がある体は、古妖狩人との戦いのために血と土に汚れていた。大分消耗したのだろう。拘束が解かれた途端静かにじっとしている。
「到着が遅れてしまって、ごめんなさい……。大丈夫でしょうか……」
「結構派手にやられてるな……」
 たまきと壊良が労わるように撫でられる。その感触に気分が少し楽になるらしく、しっぽが期限良さそうにゆらりと揺れて先にある鈴と榊が小さく音を立てた。
 たまきと壊良は傷に触らないように気を付けながら顎の辺りや背中の方を撫でてみる。
 柔らかい手触りと少し穏やかになる猫又の表情を楽しんでいると、ふと足元に何かが近付いてくる気配。見下ろすと、そこには普通の狸と同じ大きさに戻った化け狸がいた。
 抱え上げてみるとびくりと固まったが、怖がらせないように撫でると少し安心したのかしきりと猫又の方を気にしている。
「狸の方も無傷ってわけじゃないが、お猫様の怪我も酷いからな。ちょっと待ってろ」
 その様子を見たゲイルは笹雪と協力し、残る気力で可能な限り猫又と化け狸の傷を癒す。
「ところで、狸さんはこの後どうするのでしょう? 元々住んでいた所に帰るんでしょうか?」
「そうだね……狸さん、山に帰る? 故郷とか遠いなら移動手段頼んでみるけど……」
 真央と笹雪の問いかけに化け狸はじっと動かない。どうやら言葉は理解できても話す事は出来ないらしい。
 そこで真央が以心を使うために触れてみると、伝わって来たのはまだ残る恐怖とどうしようもない諦めだった。
「もしかして、もう戻る場所はないんでしょうか」
 キュウと化け狸の鼻が鳴る。その反応で覚者達は化け狸が帰る場所も無くした事を知った。
「以前、大量発生したすねこすりを放した山がある。そこで保護できないか頼んでみよう」
 放っておいてはまた古妖狩人に狙われるかもしれないとゲイルが提案する。
 すねこすりを放った山ならば古妖狩人に狙われたと言う話も聞かないし、そうそう危険な事にはなるまい。
「お猫様もまた狙われたりしないでしょうか。お猫様さえ良ければ、狸さんもここにいてもってもいいかもしれません」
 真央の提案を聞き、覚者達の視線が猫又に集まる。
 今回猫又は人質を取られて後手に回ってしまったが、古妖が二匹もいれば流石に古妖狩人もうかつに手を出せなくなるかも知れない。
 化け狸の方は猫又を心配しているし、側に置いても問題はなさそうだが……。
「どうすんだい? お猫様次第みたいだけど」
 蕾花がぽふんと額に手を置くと、猫又はしっぽを揺らし化け狸を撫でるとにゃあと鳴いた。
 猫を祀る神社に一匹の狸の居候が増える事が決定した。
「お猫様と狸さんの事はこれで解決しましたけど、古妖狩人が大人しくならないと安心はできませんね……」
 猫又に許してもらえたと嬉しいのか、猫又の近くでうろうろしだす化け狸。
 たまきはその光景を微笑ましく眺めたが、そもそも古妖狩人が古妖達を狩らなければ化け狸は本来の場所で平和に過ごしていたかも知れないのだ。
「他にも古妖狩人が起こした事件に向かった人たちがいるし、この古妖狩人からも何か聞き出せるかもしれないよ」
「情報が得られれば、今度はこっちから仕掛けられるかもしれないな」
 笹雪とゲイルの言葉に蕾花がにやりと笑う。
「その時は古妖狩人の腐った根性ごと叩き潰してやるよ!」
 あまりに好戦的な様子に同意する者、苦笑する者といたが、全員が遠くから聞こえて来た人の声に気付いて雑木林の方を見た。
 それは人質にとられお猫様が逃がしたはずの神主一族のものだった。
 この後覚者達は人質に取られた事を涙ながらに悔しがり、お猫様の無事を喜び覚者達に感謝する神主とその一族に囲まれて、彼らを必死に宥めて回る羽目になる。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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