【古妖狩人】引っ越し道中の罠
【古妖狩人】引っ越し道中の罠


●夜の畑の夢
 静かなはずの畑を、裸の足が駆け抜ける。
「やっぱりあのおねえさんたちにきてもらえばよかった」
「そらもとべたのに。たたかってくれたのに」
 べそをかく女の子2人を、4人の老婆が守るように囲んで走っていた。その足元は、煌々とライトに照らされている。
「泣くじゃない。逃げること考えんと」
「そうじゃ。まず逃げよう。な」
「逃げたらすぐ、あの子らも探しに行くで」
「8人一緒に、山のすねこすりに聞かねばな、『は」
「『半殺し? 皆殺し?』って?」
 老あずきとぎたちの励ましを、軽薄な声が遮った。同時に1台の装甲トラックが、ブレーキ音も荒く6人の前に回り込む。運転席の男はにやりと笑うと窓から拳銃を突き出し、少女あずきとぎの足元を射抜いた。
「そうだね、半殺しかな。でもあっちに行って7日も経てば、皆殺しのがよかったって思うかもだけど」
 足を止めたあずきとぎたちを、もう3台のトラックが土を跳ね飛ばしながら取り囲む。靴音を立てて憤怒者たちが下りてきた。迷彩の防護服とヘルメット、顔を覆うマスクで、体型も髪型も表情もわからない12人。長く耕されていない土の表面を、ブーツが砕く。
「バトル向きじゃない奴らだけど、生きたのを届ければボーナスアップだ。殺らない程度にボコって、人間様の怖さを思い知らせとこうよ」
 唯一顔を見せている男は運転席でけたけたと笑うと、さっと指を折った。ハンドサインに反応して、『狩人』たちの半数が一斉に引き金に指をかける。残りは腰につけていた特殊警棒を伸ばして構えた。
「ま、2匹は確保できてるからいいけど」
「お前たち……!」
「いっけー!」
 男が空に向けて号砲を鳴らす。あずきとぎたちに噴射された炎が夜空を焦がした。

●朝の会議室
「引っ越し中のあずきとぎたちが『古妖狩人』に襲われるようですー」
 会議室に集まった覚者たちに、久方 真弓(nCL000003)はこわばった顔でそう告げた。
 『古妖狩人』。古妖を狩る憤怒者の集団。攻撃能力のある古妖は覚者に対抗する武器に、そうでないものは対妖戦や神秘解明のための実験動物にするのが、彼らの目的だという。
「人間のグループですが、説得や買収に応じるとは思えませんー。古妖を捕まえるためにトラックで追い回すような人たちです。それなりの装備は持っているでしょうし、皆さんに対しても容赦はしないでしょうし……」
 何より8人のはずのあずきとぎたちが6人に減っていたことが気にかかる。両手を胸の前で組んで、真由美は覚者たちをまっすぐ見つめた。
「幸いこの夢は、今日の夜の出来事です。2人がどこではぐれたのかまではわかりませんが、6人が捕まる畑の目星はつきましたー。手ごわい相手ですが、あずきとぎさんたちを、どうか守ってあげてくださいね」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なす
■成功条件
1.古妖『あずきとぎ』の保護。
2.憤怒者を無力化、もしくは退却させること。
3.なし
こんにちは。なすです。
力に対抗する力を同じ超常のものに求めて、人間の『狩人』たちが動き出しました。


●古妖狩人たち
 古妖を捕えるために動いている憤怒者集団。
 生け捕りにしようとしているが、抵抗された場合や邪魔が入った場合は殺す用意もしている。
 防護服を着ているため俊敏な動きはできないが、ある程度の衝撃には耐えられる。
 武器の扱いにも慣れていて、もたつくことはない。

・リーダー
 ノリの軽い男。化け物を殺してお金がもらえる組織にいることを喜んでいる。射撃が得意。
 武器は、拳銃(遠距離単体攻撃)と装甲トラックの突進(近距離単体攻撃、ノックバックを与える)。
 味方が4人以下になると、トラックで逃げようとする。

・火炎放射班6人
 火炎放射器(近距離列攻撃、火傷のバッドステータスを与える)で古妖への攻撃と威圧を担当。

・特殊警棒班(兼トラック運転手)6人
 電気の流れる特殊警棒(近距離単体攻撃、麻痺のバッドステータスを与える)で古妖の捕縛を担当。
 装甲トラックの運転もできるため、形勢が不利と見れば乗り込んで突進してこようとする。

※武装はしていますが人間です。プレイングに『殺す』と明記されていない場合は、相応の力加減をしたものとみなします。


●あずきとぎたち
 以前F.i.V.E覚者に助けられた古妖。
 Y県山奥からの移住を勧められ、すねこすりの住む山へ引っ越そうとしている。
 山中をトラックに追い回され、隠れられなくなった畑で追い詰められた。
 少女4人、老婆4人の8人だったが、少女2人とは逃げる途中にはぐれてしまったらしい。


●場所
 Y県の県境に近い山中。長期休耕中の畑が広がっている。
 周囲に民家はなく、ほぼ車の通らない舗装道路が真ん中を南北に貫いている。
 急いで向かえば、あずきとぎたちが畑に逃げ込んでくる瞬間に居合わせることができる。

皆様、ふるってご参加くださいませ。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月29日

■メイン参加者 8人■



「『半殺し? 皆殺し?』って? そうだね、半殺しかな」
 息も絶え絶えの4人の老婆と2人の少女。あずきとぎたちを、男は装甲トラックの運転席から見下ろした。
「でもあっちに行って7日も経てば、皆殺し」
「おいおい」
 赤銅色の風が言葉をさえぎる。あずきとぎたちの前に、スキンヘッドの大男が斧の刃を見せて立ちはだかっていた。
「おとなしい古妖、それも女性を追い回して襲おうなんざ男として下衆の極みだぜ。お前ら、妖以下だわ。いや、妖に失礼かな?」
「何だと?」
 『家内安全』田場 義高(CL2001151)は軽蔑したように吐き捨てる。
「ゴミクズ以下だな」
 地面を強く踏むと、トラックの右後輪を土の槍が貫いた。破裂音とともに車体が傾き、運転席の男が拳銃を抜く。
「お前、覚者かよ!?」
 弾丸を土の鎧で受けて、義高は平然と聞き返した。
「だとしたら?」
「殺す! 仲間ももう追いつくよ」
 言葉通り、義高からあずきとぎ達を挟んで別の装甲トラックが停まる。が、同じく左前輪を潰されていた。
「おねえさん!」
 少女のあずきとぎが歓声をあげる。降りてくる迷彩服達の前に、3人の小柄な女性が立ちふさがった。
「またお会いしましたねっ。もう大丈夫ですっ」
「かならず助けますから、安全なところに下がってください」
 水のベールをまとった離宮院 さよ(CL2000870)が翼を広げ、老婆を炎から庇う。隆槍でタイヤをつぶした菊坂 結鹿(CL2000432)は抱きついてきた少女を隣の女性に託し、振り下ろされた特殊警棒を体当たりで止めた。義高と同じ土の鎧が全身を覆っている。
「お姉ちゃん、あずきとぎさんをお願いします」
「はい。先日は結鹿ちゃんがお世話になりました。今回は結鹿ちゃんともども皆さんをお守りさせてくださいね」
 『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)はにこやかに語りかけ、少女を抱いたまま演舞を始めた。大気の癒しの力が集まり、御菓子を中心に広がっていく。
「ガキもいるのかよ。でも数は俺らの方が」
 男の台詞を、今度はタイヤの擦れる音が遮る。フロントガラスに真っ白にひびが入れられた3台目のトラックが、突っ込んでくるところだった。ガラスを割った桂木 日那乃(CL2000941)が同じ空気の弾丸で左前輪を狙うが、勢いは止まらない。
「トラック、止めるの引き受けようと……思ったんだけど」
「任せてください」
 車体を止めたのは『イッパンジン』風織 歩人(CL2001003)の目にもとまらぬ斬撃だった。正しい姿勢から繰り出された刃は、右側の前後輪を2つとも切り裂いている。残った車輪のゴムも念入りに大きく切り取った。
「くそ!」
 装甲トラック3台が一気に走行不能にされてしまった。男が歯噛みする間もなく、4台目のブレーキ音に重なって、金属の砕ける音がする。
「やっほー! 楽しそうな追いかけっこだね☆ 混ぜてよ」
 『裏切者』鳴神 零(CL2000669)が3台を追うトラックの前に躍り出、急停止した前輪を車軸ごと刀で貫いたのだ。大太刀を振るうと、折り取られたタイヤが土に落ちる。
「装甲だろうが、タイヤはアレでしょ、どうせゴムでしょ!」
「そんやり方じゃと、もうゴムかどうかは関係なかろう」
 愉快そうにツッコんだのは、屋根に上がった神・海逸(CL2001168)だった。
「誘拐。古典的じゃのう。もちっとセンセーショナルなやり口の方がインスピレーションは働くんじゃが」
 ネタにもならんぜよ、と愚痴りつつ、海逸は手にした『抱朴子』に触れた。医療術式を網羅した本が前世の力を引き出し、海逸に与えてくれる。撃ち出した水の弾は降りてきた迷彩服の肩口に命中し、ずぶ濡れにしてよろめかせた。
「頭冷せいや、この痴れモンが」


「邪魔……いや、ボーナスアップチャンス、だ」
 男は空に向けて号砲を鳴らす。使い物にならなくなったトラックから降りた『狩人』達は、リーダーの合図で得物を取り出した。
「古妖はどうせ動けないでしょ。覚者を狙え!」
「馬鹿真面目に相手してくれるんだ☆」
 狐面の下で歯を見せた零は、黒光りする球体関節の腕で大太刀鬼桜を振り回した。ぶん、と一振りで白い霧が湧き立つ。動きの鈍った『狩人』達を海逸が鋭い視力でとらえ、次々と水礫を放った。車の屋根に這いあがった1人が特殊警棒を向けるが、痺れをものともせずに突き落し、気絶させた。
「軽いのう……悪役にゃあ悪役らしく居て欲しいぜよ」
「誰が悪役だ化物!」
「誰が化物だってー?」
 わめく迷彩服に零は再度大太刀を振るう。切っ先から放たれた気が、向かってきた1人を警棒もろとも弾き飛ばした。衝撃でコンテナがばたんと開く。海逸がのぞきこむが、中にあるのは檻と燃料タンク、工具や弾薬の箱だけだった。
「空っぽじゃ」
 舌打ちの音とともに零の腕の振りが大きくなる。2発目の気の弾丸が炸裂し、火炎放射器の炎を散らして『狩人』を昏倒させる。
「殺すのは聞きたいことを聞いてからにして欲しいのう。口は多い方が聞き出し易いじゃろ」
「じゃ起きたら聞こうかな?」
 あっけらかんと言うと、零は空になった装甲トラックを1つ蹴ってあずきとぎたちの方へ向かった。味方を癒す香りを呼び起こしながら海逸も後を追う。
「あと10人、さっさと終わらせるぜよ」

 狙いを覚者に変えはしたものの、迷彩服達は古妖の周りから離れなかった。トラック3台で『コ』の字に囲まれた真ん中に、古妖を背に庇う覚者たちは閉じ込められる。日那乃、歩人、結鹿、さよは、それぞれ特殊警棒を握る相手とにらみ合っていた。義高に銃口を向けたまま、リーダーが叫ぶ。
「化け物同士、古妖と一緒に死ね!」
「言ったな? やろうってんなら、その腐った性根叩き潰してやんよ」
 銃声にひるまず、義高が男の立つ運転席へ突進する。それを皮切りに、4人の『狩人』達は覚者へと襲い掛かった。

「死ね!」
「死にませんよ。殺しもしません」
 つき出された警棒を臆することなく左手でつかみ、歩人は右手で横なぎに刀を振り抜いた。腿を裂かれた『狩人』が、悲鳴を上げて武器を手放す。
「化け物を殺して何が悪い!」
「化け物じゃない、から」
 迫ってきた別の1人を、日那乃は翼を振るって吹き飛ばし、腿を押さえた『狩人』に衝突させる。すかさず歩人の刀が無事な足を斬りつけた。
「うぎゃあっ」
「あしがああっ」
 もつれあうように歩人の足元に転がった2人は、それでも意識を失ってはいなかった。這うようにして掴みかかってくる手を払い、歩人は冷たく言う。
「絶対に殺しません。生きて今回のことを一生償ってもらいます」

「怪我は大丈夫? 痛いところがある人は言ってね」
おびえるあずきとぎたちに笑いかけ、御菓子はマウスピースを唇に当てた。コルネットの柔らかい音に呼応するように、癒しの霧が生み出される。メロディを変えて、目の前で身体を張る姪っ子にも水の守りを与えた。
「お姉ちゃん、ありがとうございます」
 ひらめくような突きが『狩人』をとらえる。引き換えに受けた電撃をこらえて、結鹿はもう1度敵の胸を突いた。防護服がくりと崩れる。
「わわっ、重」
「大丈夫ですか? あ!」
 結鹿にのしかかる迷彩服をどかしたさよは、そのまま勢いよく上昇した。トラックの上に乗った『狩人』の火炎放射器がさよに向く。避ければあずきとぎたちが焼かれる。直感したさよは、迷うことなく急降下した。
「絶対に、あずぎとぎさんはさよ達が守るんですっ!!」
 噴射された炎を水のベールで防ぎ、ノズルを掴む。『狩人』を引き倒しながらベルトをちぎって放射器をもぎ取る。
「っ……」
 焼けつく熱を感じたときには、『狩人』は屋根から転げ落ち、さよ自身も煙の尾を引いて落下していた。翼を動かすと激痛が走る。羽ばたけない。
「お姉ちゃん、離宮院さんを!」
「ええ。守ってくれてありがとう」
 焦げた身体を抱き止めたのは、結鹿だった。御菓子がピストンを操り、音に生み出されたしずくが火傷を癒す。
「……大丈夫、かえ?」
 恐る恐る手を差し伸べた老婆のあずきとぎに小柄なさよを任せ、結鹿はきっと振り向いた。さよの手を離れた火炎放射器に、屋根から落ちた『狩人』がにじり寄っている。
「なぜあなたたちが罪もないあずきとぎさんを襲うのかは知りませんし、知りたくもありません」
 『狩人』よりも先にベルトを掴み、トラックの向こうへ投げ捨てる。
「ただ、わたしの友人たちに怖い思いをさせたあなた達は許しません!」
 怒りを込めた掌底が、迷彩の防護服を貫いた。

「あずきとぎはどこにやった?」
 身体を硬化させた一撃でドアを破り、運転席に飛び乗った義高は、もがくリーダーの男を助手席の窓に押さえつけていた。
「……仲間の車」
「嘘つけ。ここにゃいねえだろうが」
「何を根拠に」
「勘だ」
 言葉にそぐわない確信を持って睨まれ、男はたじろぐ。引き金を引いても精悍な肉体はびくともしなかった。
「くそ、化け物が」
「お前が『人間』なら化け物で結構」
 日に焼けた拳が男の横面を殴りつける。
「がッ」
 2度、3度、4度。覚者の力を抑えても、日々土と水に触れて鍛えられた拳骨は十分な威力を持っている。
「おぅっ! どうだ? あぁっ!」
「ぎゃッ、ぐあっ」
「すこしは襲われる古妖の気分を味わうんだな。死にたくなきゃ気合入れろよぉッ!!」
「そろそろ辞めちゃれ」
 海逸の制止が入った時には、男の両頬は真っ赤に腫れていた。
「拠点やらあずきとぎの居場所やらが、殺すと分からんきに」
「あ、ああ」
 流石に熱が冷め、義高は拳を引く。
「縛っておきたいのう。縄か鎖か積んであればいいんじゃが」
 海逸は窮屈そうに運転席の下をまさぐった。男3人が入った運転席は、ほぼ満杯状態だ。
「とりあえず出てから探したらいいんじゃないですか。俺も探したいものありますし」
 壊れたドアの外から歩人が促す。瞬間
「車から出て!」
日那乃の金切り声が響き渡った。


 助手席のドアの外には、火炎放射器を構えた『狩人』4人が並んでいた。夜の暗さと装甲トラックに隠れて集まっていたらしい。
「油断した? 化け物殺すなら、マジで何でもするよ。俺ら」
 窓に押し付けられたリーダーは、外に向かって最後のハンドサインを送る。4人がさっと散り、ノズルが一斉に火を吹いた。座席に向かって1人、コンテナの燃料タンクに向かって3人。
「やめて!」
 日那乃が水の弾丸を放ちながら急降下し、1人が倒れる。直後にコンテナが火を噴いて破裂した。助手席のドアも吹き飛び、運転席を炎が貫通する。
「こいつ連れてけ!」
 とっさに自分の身を盾にして庇うと、義高はリーダーを海逸に押し付けた。そのまま炎を突っ切り、放射器を持った『狩人』に殴り掛かる。
「俺もごめんぜよ」
 乗り込んできた歩人にリーダーを突き飛ばし、海逸は水礫で消火を始めた。
「探し物は俺がしちゃる。何を探すんじゃ」
「トラックの行先がわかるもの何でもです。俺も探します」
 男を外に放り出すと、歩人はダッシュボードやサンルーフを素早くチェックしはじめた。

 倒した『狩人』を空気弾丸で気絶させると、日那乃は休むことなくコンテナの火に向かって飛んだ。
「焼くぞ、どけ!」
「どかない。まだ中に、神さんたちがいるから」
 日那乃が翼で炎を阻んでいることに気付くと、『狩人』たちは翼に攻撃を集め始めた。
「ほら逃げろ。羽が燃えるぞ」
「……逃げ、ない……」
「燃えたら人間になれるかもな? 感謝しろよ」
「卑怯者!」
 凛とした声と同時に炎が半減し、1人の『狩人』が後ろによろめく。ノズルを曲げる勢いで突き飛ばされた『狩人』を、2発目の結鹿の突きが襲った。
「化け物が!」
 結鹿に向き直った『狩人』の火炎放射器を、日那乃の放った水が濡らす。
「……くそっ」
 トリガーを引いても、着火ができなければ炎は出せない。燃料噴射器に成り下がった武器を捨て、『狩人』は逃走を図った。
「追いかけない、の」
「怪我をした友人を放ってまで叩く必要もないですから」
「……そっか」
 力尽きそうになるのをこらえて、日那乃はコンテナの消火に戻る。ふらつく身体に結鹿が肩を貸した。

「声を出すな」
「……」
 5人のあずきとぎを背に、御菓子とさよは唇を噛む。結鹿が日那乃の手助けに向かい、治癒を続ける御菓子の気力をさよが回復させる、その一瞬をつかれた。
「ガキ、ラッパも置け」
「わたしはれっきとした成人女性ですけど」
 言い返すのが精いっぱいだった。近接戦闘の力に欠けることを悔やみながら、御菓子はコルネットを下ろす。隣でさよの羽織った水のベールが消えた。
「こんな心優しい古妖を襲うなんて……」
「喋るなっつったろうが」
「人として恥を知りなさい!」
「黙れ!」
 腕をねじりあげた老婆の首に、『狩人』は特殊警棒を突きつけ、じりじりと後退を始めた。
「電圧は最大に上げてあるからな。喋ったらすぐ殺す」
「……」
「誰が焼け死のうが、金もらい損ねる気はねえんだよ。幸いトラックはあと1台ある」
「それ鳴神が車軸折ったやつかもしんない」
「あ?」
 振り向いた『狩人』のマスクを、光る刃先がかすめた。
「やっほやっほ、離宮院ちゃん。呼んでくれてありがと」
「向日葵先生が気を引いてくれていたおかげで、上手く送心できました」
「だ、黙れ、黙れッ!」
 憔悴しきった声とともに『狩人』はあずきとぎの腕を乱暴に引き寄せる。
「おばあちゃん!」
 思わず声を上げた少女のあずきとぎに、零は面をずらして微笑した。
「大丈夫、なんとかできるように頑張ってみる。……と言っても」
 重い刀を放り、地面を蹴る。
「これしか方法がないんだけどね」
 風のように『狩人』の懐に飛び込み、つかまれた腕を外す。振り下ろされた警棒は手の甲ではじいた。痺れが身体を走るが、そのまま迷彩服の胸ぐらを掴む。
「あずきちゃんを一太刀でも傷つけてみろ。貴様等の命は無いと思え」
「……っ」
 『狩人』がへなへなと座り込んだ。落ちた警棒のスイッチを切り、零は悠々と立ち上がる。
「珍しく怒っている鳴神であった。あとはどうぞ!」
「もうあずきとぎさんたちは傷つけさせませんっ!」
「少しは頭を冷やして反省しなさい!」
 さよが呪符を、御菓子がコルネットを構える。最後の『狩人』を、圧縮空気と水の弾丸が打ちのめした。


「こんな形にはなっちゃいましたけど、またお会いできて嬉しいです」
 日那乃と一緒に結鹿はあずきとぎたちの元へ戻る。散っていた覚者たちも、互いを確かめ合うように自然と集まっていた。
「お前らは怪我してねぇか?」
「おじちゃんはだいじょうぶなの?」
 一際ひどい火傷を負った義高に、少女のあずきとぎが我慢できず尋ねる。ただれた頬を手で隠して、義高はにかっと歯を見せた。
「大丈夫だ」
「おねえさんは?」
「わたしも、大丈夫」
 結鹿に支えられたままの日那乃は、残りわずかな力で自分の翼を治す。万全とは言えないまでも、もうしばらくあずきとぎたちを守れるまでにはしたかった。
「すねこすりの山まで送って行ったほうがいい、かも」
「そうですね」
 さよがうなずいて、痕の残る手で日那乃に触れた。奮い起こした精神力を送って治癒を助ける。
「今度こそ安心して暮らせる場所へきちんと送り届けます」
「だども、また……」
 無数の傷を見て老婆が口ごもるが、御菓子はコルネットを下ろしてにっこりした。
「ここで会ったのも何かの縁。一緒に行きましょう。わたしたちなら心配しなくて大丈夫ですよ」
 御菓子の広げた霧は全員の負った傷を包み、すでに歩ける程度まで回復させている。
「付き合うぜ。また襲われちゃいけねぇからな」
 義高がぐんと張った胸を叩いてみせた。

「物欲しそうな顔ですけど、絶対に行かせませんよ」
 装甲トラックの中の『狩人』達は、歩人の一声で顔をひきつらせた。
「そのために俺たちが見張ってるんだから」
「……死ね」
 毒づく声は、今や12人の牢屋と化したコンテナの中に反響した。F.i.V.Eスタッフが拘束用の道具を持って迎えに来るまで、歩人、零、海逸の3人が見張るのだ。
「化け物どもが」
「よく聞け。警告だ」
 つばを吐いたリーダーの男に、零が大太刀を突きつける。
「あずきちゃんたちは、化け物じゃない。あんたらと同じ、ひとつの命を持った尊い存在なんだ」
「俺らと同じ? 殺せば金が払われる奴らのどこが?」
「……彼等の命を奪って貰う金と幸せは、絶品だろうけどね」
 柄を握る手が震え、男の頬に血の玉がにじむ。
「私は、許さない」
「大人げないですよね、ああいう大人が減ればいいんですけど。……そっちはどうですか?」
 聞こえよがしに歩人は海逸に声をかける。焦げたファイルをめくっていた海逸は、満足げにうなずいていた。
「座席の下をくりぬいた隠し場所。ほんに古典的な奴らぜよ。車を燃やしたのはこれを隠すためもあるんじゃろうなあ」
 言いながら、数枚の紙をひらひらと抜き出す。
「襲う古妖のリストと運搬経路。丸ごとここに書いちょる」
「こっちは地図ですか? どこかの河口ですかね」
「この印が目的地じゃろう。いなくなった2人っちゅうのも」
「ここにいるかもしれませんね」
 顔を見合わせてから、2人はコンテナの外を見やった。
「あ、わたしは結鹿ちゃんと同じ半殺し派です♪」
「そうだ、奥さんと娘のお土産にあんころもちもらえっかな?」
「わーい、はんごろし? みなごろし?」
 あずきとぎと覚者たちの影が、夜の畑を遠ざかっていく。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

お帰りなさいませ。お疲れ様でした。
皆様のお力で、あずきとぎ6人は無事京都に着くことができました。
万里ちゃんも大喜びだそうです。
が、これで終わりではありません。
いなくなった2人と逃げた『狩人』の行先、地図に示された場所とは。




 
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