<ヒノマル陸軍>古妖従軍計画がしゃどくろ
●報われぬ者の哀れなり
巨大な腕が大地を叩き、土と樹木をえぐって飛ばす。
軍服を着た男たちが次々と衝撃に飛ばされるが、彼らは空中で身を捻ると肩から提げた小銃を構えた。
「集中砲火!」
空中での射撃でありながら姿勢は充分に整い、トリガーを引いて発射した弾は土煙を螺旋状に穿って狙い違わず飛んでいく。
それも一人分では無い。その場にいる全員分が、ある一点に集中した。
髑髏。それも通常の人間の何十倍。人間を一呑みで喰いそうなほどの巨大なそれに、無数の弾頭が着弾した。
弾は因子の力ではじけ、不気味な火花を散らした。
腕を翳してそれ以上の着弾を防ごうとするが、既に髑髏の上には一人の男が着地していた。
「抵抗もそこまでだ、がしゃどくろ」
軍刀が抜かれ、先端が押し当てられる。
「貴様を完膚なきまでに破壊し、二度と無念を訴えられぬようコンクリートに固めて海底深くに沈めてやろうか」
防御のために翳していた腕を、左右両方頭上に掲げる。降参の合図だ。恐らく喋る能力を持たないのだろう。
無数の兵隊に囲まれる骨の巨人。古妖がしゃどくろ。
巨大なのは髑髏や腕ばかりではない。白骨死体を空気の関節で元通りに継ぎ合わせたような物体が、通常の何十倍という巨大さで存在しているのだ。よくよく見れば大量の人骨らしきものがパーツごとに集合しているのがわかる。
「我らヒノマル陸軍の軍門に降れ。さすれば貴様も、貴様の配下にある亡者たちも受け入れよう。かつてなし得なかった戦勝を、褒美とする」
「――」
カタカタと鳴くがしゃどくろ。
恐怖の震えか、もしくは果たせなかった無念への怒りか。
はたまた、彼へ本能的に刻まれた『報われぬ者』ゆえの喜びか。
かくして古妖がしゃどくろは、七星剣直系隔者組織・ヒノマル陸軍へと降ることとなる。
●古妖の軍事利用
F.i.V.E会議室。久方 相馬(nCL2000004)は難しい顔をしてここまでの内容を語っていた。
「以前俺たちが戦って退けたヒノマル陸軍だが、あれからまた動きを見せている。どうやら古妖を自軍で利用するために取り込もうというつもりらしい。古妖は覚者や妖と違って特殊な能力や性質を持っている。利用すればできることは増えるだろうが……その目的が戦争となれば、止めなくてはならない。だよな?」
我々の目的は今回の作戦に当たっているヒノマル陸軍の一チーム『大村中将とその部下』を退けることだ。
そして可能であれば古妖がしゃどくろの破壊もしくは交渉を行ないたい。
大村中将は天行の獣憑。部下は同じ獣憑の混合メンバーで構成されている。
武装は小銃と軍刀。全員にハイバランサーと以心を活性化しています。
現場には既に彼らの手下となったがしゃどくろがおり、戦闘に参加するでしょう。
がしゃどくろは大きな手足を利用した物理攻撃のみを使い攻撃してきます。
攻撃優先順位は最終的な目標に応じて変えた方がよいでしょう。
「ヒノマル陸軍は恐ろしい敵だ」
相馬は暗に、先日の京都で行なわれた殺戮と破壊の記憶を呼び起こしている。
彼らはF.i.V.Eをまだ知らないが、F.i.V.Eの理念と戦力は把握している筈だ。今回の標的としている可能性も捨てきれない。
巨大な腕が大地を叩き、土と樹木をえぐって飛ばす。
軍服を着た男たちが次々と衝撃に飛ばされるが、彼らは空中で身を捻ると肩から提げた小銃を構えた。
「集中砲火!」
空中での射撃でありながら姿勢は充分に整い、トリガーを引いて発射した弾は土煙を螺旋状に穿って狙い違わず飛んでいく。
それも一人分では無い。その場にいる全員分が、ある一点に集中した。
髑髏。それも通常の人間の何十倍。人間を一呑みで喰いそうなほどの巨大なそれに、無数の弾頭が着弾した。
弾は因子の力ではじけ、不気味な火花を散らした。
腕を翳してそれ以上の着弾を防ごうとするが、既に髑髏の上には一人の男が着地していた。
「抵抗もそこまでだ、がしゃどくろ」
軍刀が抜かれ、先端が押し当てられる。
「貴様を完膚なきまでに破壊し、二度と無念を訴えられぬようコンクリートに固めて海底深くに沈めてやろうか」
防御のために翳していた腕を、左右両方頭上に掲げる。降参の合図だ。恐らく喋る能力を持たないのだろう。
無数の兵隊に囲まれる骨の巨人。古妖がしゃどくろ。
巨大なのは髑髏や腕ばかりではない。白骨死体を空気の関節で元通りに継ぎ合わせたような物体が、通常の何十倍という巨大さで存在しているのだ。よくよく見れば大量の人骨らしきものがパーツごとに集合しているのがわかる。
「我らヒノマル陸軍の軍門に降れ。さすれば貴様も、貴様の配下にある亡者たちも受け入れよう。かつてなし得なかった戦勝を、褒美とする」
「――」
カタカタと鳴くがしゃどくろ。
恐怖の震えか、もしくは果たせなかった無念への怒りか。
はたまた、彼へ本能的に刻まれた『報われぬ者』ゆえの喜びか。
かくして古妖がしゃどくろは、七星剣直系隔者組織・ヒノマル陸軍へと降ることとなる。
●古妖の軍事利用
F.i.V.E会議室。久方 相馬(nCL2000004)は難しい顔をしてここまでの内容を語っていた。
「以前俺たちが戦って退けたヒノマル陸軍だが、あれからまた動きを見せている。どうやら古妖を自軍で利用するために取り込もうというつもりらしい。古妖は覚者や妖と違って特殊な能力や性質を持っている。利用すればできることは増えるだろうが……その目的が戦争となれば、止めなくてはならない。だよな?」
我々の目的は今回の作戦に当たっているヒノマル陸軍の一チーム『大村中将とその部下』を退けることだ。
そして可能であれば古妖がしゃどくろの破壊もしくは交渉を行ないたい。
大村中将は天行の獣憑。部下は同じ獣憑の混合メンバーで構成されている。
武装は小銃と軍刀。全員にハイバランサーと以心を活性化しています。
現場には既に彼らの手下となったがしゃどくろがおり、戦闘に参加するでしょう。
がしゃどくろは大きな手足を利用した物理攻撃のみを使い攻撃してきます。
攻撃優先順位は最終的な目標に応じて変えた方がよいでしょう。
「ヒノマル陸軍は恐ろしい敵だ」
相馬は暗に、先日の京都で行なわれた殺戮と破壊の記憶を呼び起こしている。
彼らはF.i.V.Eをまだ知らないが、F.i.V.Eの理念と戦力は把握している筈だ。今回の標的としている可能性も捨てきれない。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ヒノマル陸軍の撤退
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
先日の決戦シナリオお疲れ様でした。
今回彼らは古妖を戦力に取り入れようと動き出しているようです。
その理由は? 規模は? 投入している人員やコストは? 何もかも分かっていませんが、まずは目の前の事件を解決せねば始まりません。
●大村中将
小銃と軍刀を装備した隔者です。
F.i.V.E覚者二人で拮抗する程度の能力があります。
部下は三人。およそF.i.V.E覚者からやや劣る程度の練度です。
小銃を装備し、土行、水行、火行の三人で構成されています。
●がしゃどくろ
戦死者やのたれ死にした者たちの無念が集まってできた妖怪です。長野県のとある山中に隠れていましたが、現在発見されてヒノマル陸軍に降参しました。
練度は不明ですが大村中将のチームには敗れています。
腕での振り回し(遠列)、足での踏み荒らし(近列)、掴んで攻撃(遠単)といった攻撃を行ないます。
もし戦闘終了後に完全破壊がされていなかった場合、彼と交渉することができます。
交渉に関しては後述する『交渉について』を参照してください。
●作戦の最低目標と最終目標
最低目標はヒノマル陸軍を撤退させることです。
その上で最終的にどう着地させたいかを、皆さんで相談して下さい。
簡単な目安としては『ヒノマル陸軍とがしゃどくろを両方撃退。がしゃどくろは完全破壊する』『ヒノマル陸軍撤退後にがしゃどくろにこれ以上戦争に荷担しないよう交渉する』のどちらかになると思われます。勿論これ以外の着地点は沢山ありますが、少なくとも最終目標は相談中にまとめることを強くお勧めします。
●交渉について
一番のオススメはメンバーのうち一人だけに交渉を任せて他のメンバーは周囲の警戒や調査にあたるというものです。効率は最高だと思われます。
今回行なうのは交渉です。説得とは全く別のものですのでご注意ください。
皆さんに与えられている交渉カードは、一般的な個人活動としてできること。もしくはF.i.V.Eが大々的に動かずに済むレベルでの協力です。
F.i.V.Eの協力はこの際なんでもアリですが、たとえば『我々が半永久的に保護します』のカードを切った場合、この山中全体に対し継続的に覚者を派遣し続ける処置をとります。ただし覚者のリソースは無限ではないため、最初はうまくいきますがこのカードを使えば使うほど効果が薄れ、やがて全ての保護が意味を成さなくなります。カードの切り方には注意しましょう。
また、複数人が同じことをプレイングに書いた場合、その内一人のみが述べたものとして判定します。他はすべて空振りになるので注意して下さい。
空振り回避のためにもう一つ補足しますが、『お願いだから○○してくれ』『○○しないと殺す』といったカードは『タダで○○しろ』と同じ意味のカードとなります。
以上です。
よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2015年11月15日
2015年11月15日
■メイン参加者 6人■

●古妖従軍計画
『正位置の愚者』トール・T・シュミット(CL2000025)はバイクを走らせていた。
山向こうに巨大な人骨模型めいたものが立っているのが見える。
「この距離で既に見えんのか……」
呟き、バックミラーを覗き込んだ。
一方でトールの後方。清潔に手入れされた自動車の運転席に、『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)が収まっている。
「ここまで目立つということは、近隣住民が彼を恐れて干渉しなかったか、普段から身を小さくして隠れていたかだな。誰の脅威にもなっていなかっただろうに」
「そんなひとを無理矢理戦いに巻き込むなんてどうかしてるわよ!」
後部座席に詰め込まれるようにして、『炎の記憶の』天王山・朱(CL2001211)は窓の外へと罵倒を吐き捨てた。
「その通りだ。どうかしている」
地図を手に柾をナビゲートしつつ、助手席の『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が顔を上げた。
「軍は民間人をまもるためのもの。戦争を起こすために存在しているわけではない」
「別にどっちでもいいのよ。なんでもいいの」
一方で春野 桜(CL2000257)は反対側の車窓に頭を傾けて、不自然きわまりない笑顔を浮かべた。
「殺すだけ。殺すだけよ。いつも通り」
「…………」
常にピリピリしている女性と常にトゲトゲしている女性の間に挟まれ、『裏切者』鳴神 零(CL2000669)は肩を狭くしていた。
右も左も見るに見られぬ。仕方なく身を乗り出し、前座席の隙間からフロントガラスを覗いた。
巨大な骸骨。がしゃどくろ。
飢者髑髏とも書き、うち捨てられた戦死者などの怨念が集まった存在とされ、人を見つけると取って食うとも言われている。
取って食うとは。舌も胃袋もあるまいに、いい加減な資料である。
零は右手を小指から順に曲げ、強く強く親指を握り込んだ。
「あの大きいがしゃたんと戦えるんだあ。巡り合わせに感謝しなきゃ☆」
気持ちの切り替えは済んだようだ。
柾はバックミラーで三人の様子を確認して、アクセルを僅かに踏み込んでいく。
目的地は近い。
●大村隊
「所属不明の集団が近づいているな。途中まで車を使ったようだが。人数は三人から五人……いや、六人以上か」
鳥が羽ばたく音の後に、大村中将は呟いた。
「敵でしょうか」
「味方とは思えん。一人だけ残して殺処分。残りは捕らえて調査しろ。最後には殺せ」
「はっ」
小銃を構える部下たちの後ろに下がり、大村はがしゃどくろの足をストックで突いた。
「早速出番だ。これはお前の運用テストも兼ねる。満足に働かなかった場合は山ごと貴様を爆破処理すると思え」
「……」
がしゃどくろはその意志に応じたのか否か。直立したまま一点を見つめていた。
一点。つまり、接近する集団である。
数は六人。先頭の女は黒い面を被り、両手をいびつな金属義手のように変化させた。
鬼の手のミイラかはたまた骨の騎士か。刀を抜いた女――鳴神零は仮面の下でねじを外したように笑った。
「がしゃたんがしゃたん。おっきい骨たんだいしゅきでひゅうう。戦(こわしあ)いがだぁいしゅきでしゅうう。なので、鳴神のこといっぱいいじめて……」
歩きながら身体をぐにゃりとのけぞらせ、反動をつけて前屈みにな――ると同時に超高速でがしゃどくろへと飛びかかった。
「くださああい!」
「……!」
たじろぐように半歩さがるがしゃどくろ。
大村は冷静に小銃を構えて狙いをつけた。
「覚者だ。壱式戦闘隊形」
「「はっ!」」
霧を放つ零に対し軍刀で斬りかかる部下たち。
刀が三本まとめて襲いかかるが、刃と彼女の間に滑り込む影が三つもあった。
一本は桜の包丁であり。
もう一本は朱の槍であり。
最後は柾そのものであった。
ナックルガードで刀を受け止めた柾は、流れるようなモーションで相手の腹に拳を叩き込む。
「回復能力のある水行から片付ける」
「了解、集中砲火」
銃の安全装置を解除して発砲する千陽。
が、部下たちはそういう構造の生き物であるかのように隊列を変え、水行兵が土行兵を盾にする形に移行した。防御を固めた土行兵が弾を弾き、防ぎきれなかったダメージを水行兵が回復する。その間大村が零たち前衛チームの体力を平たく削り、驚異になりそうな順に火行兵が潰していく陣形だ。
……いや、陣形というほど立派なものではない。ただの基本戦術である。
顔をしかめるトール。
「しまったな。水行を優先しようって考えが大きくなりすぎてそれ以外のこと全然打ち合わせてなかったぜ。どうする!?」
「目に付く順に殺していけばいいのよ」
包丁を逆手に持ち、刃に毒を塗りつけた桜は土行兵へと切りかかる。
一方で朱は火行兵の刀を槍術で精一杯だ。
「アンタたち!」
朱の突き込んだ槍を刀で弾き、火行兵が踏み込んでくる。
半歩引いて身体ごと槍を返し、こじりを振り込み牽制。足と頭へ交互に突くことで更に牽制。ある程度勉強をすれば覚えることの出来る教科書通りの槍術である。
「私の目の黒いうちはこんな無法許すもんですか!」
「法律くらい変わるとも」
「そうはさせないっていってんのよ!」
槍の根元を持ち、振り回すように斬撃を繰り出す。
腕や胸を切られた火行兵たちが防御姿勢をとった。
そこへすかさず突撃する桜。
由緒正しき短刀特攻。包丁で人を刺す際の最もポピュラーなフォームで、火行兵の心臓をひとつきにする。ただの包丁刺しと違うのは、刃に因子の毒が塗られていることだ。
包丁を引き抜き、喉に押し当てる桜。
一回刺すだけで終わりにしないのもまた、包丁刺しらしいと言えるだろうか。
「あなたは殺さないであげる。『運が悪かった』わね」
などと言いつつ喉を切り裂く桜。
火行兵は口から血の泡を吹き、喉をかきむしりながら崩れ落ちた。
さあ次は誰を殺そうかしら。
などと、明日の夕飯のメニューを考えるように桜が首を傾げたその時。
激しい雷と共に地面がまるごと吹き飛んだ。
大村の召雷とがしゃどくろの薙ぎ払いが同時におこったのだ。
桜や朱は強制的に転倒させられ、土と小石に混じって零が吹き飛ばされてくる。
地面を縦向きに転がる零。
「おいおい! がしゃどくろ抑えてくれるんじゃなかったのかよ!」
慌てて駆け寄ったトールが癒しの滴を無痛注射器で注入。零を抱え起こす。
「ん、んー……うまくいかなくて……」
厳密な、もしくはゲームシステムに触れる話を挟むようで申し訳ないが。
覚者戦闘において『抑え』というシステムはない。強いて言うなら自分だけに攻撃を集中させる挑発行為ということになるが、戦場を完全に分断できない以上他の味方とまとめて薙ぎ払われる事態はさけられない。
更に言えば、がしゃどくろを集中的に挑発し全てのダメージを引き受けつつ、別の敵を優先的に攻撃し続けるという状態にはそれ相応の説得力(プレイング)があったほうがよい。
こちらの戦力が圧倒的に有利である場合や、敵が絶望的なまでに愚かである場合はこうした戦法がフリースルーで通用することもあるが、戦力が拮抗している今の状態では難しいだろう。
水差しは以上である。
「ちょっと死んじゃいそうだけど、なんどもイッちゃうかもだけど、鳴神まだできると思う。だからもっとちょうだい?」
「しゃーねーな……」
トールは頭をがしがしとかいて、癒しの滴を追加投与した。
「踏ん張ってろよ。オレがその脚支えてやる!」
「ありがとう! だいしゅきい! がーしゃたぁぁぁん!」
零は目を見開いて、がしゃどくろへと飛びかかった。
「これで、三人目!」
槍を棒術のように振り回し、水行兵の胴体を振り上げる朱。
地面に叩き付けて気絶させるが、朱もまたおびただしい汗を流してへたりこんだ。
スタミナ切れ、体力切れ。戦闘不能状態である。
「ごめん、これ以上は……」
「大丈夫です。下がって!」
援護射撃を加えながら後ろへ促す千陽。
一方で大村はがしゃどくろに呼びかけた。
「盾になれ。どうせ粉々に砕けても元に戻るんだろう」
「……」
言われたとおりに大村を守るように腕を置くがしゃどくろ。硬い腕に千陽の銃弾が弾かれる。
「やはりそういう手に出ますか……」
「当然だ」
がしゃどくろの肩へと駆け上り、軍刀を振り上げる大村。
空を埋めた暗雲から雷が走る。
トールはそのダメージをカバーするのに精一杯だ。
「お前ら、誰のために戦うんだ。戦争から戻れなくなった奴らは知ってるけどよ、お前らはテロリストにそっくりだ。ただの死にたがり集団なら根こそぎ牢獄にぶち込んでやる!」
「もっともな意見だ。八十年前に同じことを言ったやつを思い出す。そいつは後に天皇陛下万歳と唱えて自殺したぞ」
「一緒にするんじゃねえ!」
「なにを感情的になってるの? 冷静になりなさい?」
そう言いながら、桜は手投げ斧を振り上げた。
「がしゃどくろが邪魔だけれど、邪魔するならそれごと殺せばいいだけでしょう? 大丈夫、死なないように殺すから」
「ちょっと、本気なの!?」
槍を杖のようについて声をあげる朱に、桜は笑顔で振り返った。
「黙って死ぬ? 私はいやよ?」
身体をぐるんと回転させ、斧を投擲する桜。
斧は仕込まれた因子種によって炸裂し、がしゃどくろの骨を粉砕する。
バランスを崩したところに、零が膝や腕を駆け上がるようにして大村へ接近した。
「ご趣味はなんですか!? 鳴神の趣味はあったかなあ!? 戦うことですね! そう、戦うこと!」
大村の眼前まで接近。刀を振りかざし、首を狙って斬撃を――と思った途端横合いからがしゃどくろに掴みとられた。
頭上高く掲げられ、地面へと叩き付けられる零。
「鳴神さん!」
「心配ない」
柾はそう言って、大地を蹴った。
地面に接触したがしゃどくろの腕へと飛び乗り、素早く腕を駆け上がる。
咄嗟に腕を飛行としたがしゃどくろだが、千陽と目が合ってびくりと動きを止めた。
停止時間は一秒たらず。
しかしそれで充分だった。
柾は大村の眼前へと迫り、水平に繰り出された軍刀をかがんでよけ、ボディブローを叩き込んだ。
がしゃどくろの肩から転落する大村。
しかし空中でバランスをとって着地。
「そこだ」
自由落下よりも早いスピードで駆け下りてきた柾が垂直飛翔蹴りを繰り出した。
小規模ながら地面が吹き飛び、転がっていく大村。
「大村、お前は拘束させてもらう。知りたいこともあるからな」
掴みかかろうとした柾……の足首を、水行兵ががしりと掴んだ。
「お逃げください中将!」
「……!」
大村は頷き、古い語調で『いずれ地獄で飲み交わそうぞ』と唱えると一目散にその場から逃げ去った。
●古妖がしゃどくろ
戦闘結果。
桜たちF.i.V.E覚者はヒノマル陸軍の撃退に成功した。
大村中将は撤退。部下三名は捕獲し、がしゃどくろは多少のダメージを負ったものの破壊まではされていないという状態である。
「しっかし手ひどくやられちまったな。命があるだけでも設けもんか……」
トールは指で頭をかきながら山を散策していた。
見たところ長い間人の手がはいっていない土地のようで、獣道こそあるものの樹木や草は生え放題である。そのため散策にはえらく苦労した。
山が個人の所有地なのか、もしくは国預かりの土地なのかは調べきれなかったが、見た限り『人から放置された土地』であることは確かなようだ。
「お墓も祠もありゃしねえ。ぼうっ切れひとつ立ってねえんだもんな。そりゃがしゃどくろもいるわな。……ん?」
ふと空を見上げる。
大きな鳥が頭上を通過していった。
それだけなら取るに足らないことだが、トールの『鷹の目』にはあるものが映っていた。
「ありゃ鷹だな。しかも足にシグナルがついてる。飼われてる鷹だ……なるほどな」
山の動物に混じって飼い慣らした動物を放つことで索敵係として運用していたようだ。動物を効率的に利用できれば山中での活動力は飛躍的に上がるだろう。古い山岳猟兵が身につけるような技術だが、因子能力が加わるとこうも変わるとは。
「山に隠れてたがしゃどくろもこうやって探し出したわけだな。となると、他に隠れ住んでる古妖も危ないかもな……」
トールが散策を続ける一方で、柾たちは兵を一箇所に集めていた。
大村の部下三名である。彼らは一列に並べられ、手足をロープで縛られている。
「お前たちには聞きたいことがあると言ったな。要約すると三つ、『なぜ古妖を集めているのか』『京都決戦後の様子』『暴力坂乱暴の様子』だ」
「素直に喋ると思うか。嘘を吹き込んで混乱させてやってもいいんだぞ」
「ああそう」
桜はそう言うと、火行兵の足首に包丁を突き立てた。
悲鳴があがる。柄を握り込み、ねじるように回し始める。
「質問するとは言ってないわ。拷問をするの。目をえぐり指を折り手足を潰し腹を割き首を斬るの。端から順番にね」
そう言いながら、こらえきれないとばかりに桜は火行兵を八つ裂きにしていった。
まるで家族のために買ってきたケーキを独り占めするかのように、水行兵も切り刻み始める。
最後に残された土行兵は失禁し、歯をがちがちと言わせて悲鳴をあげた。
「た、たすけて。ころさないで……いのちだけは……」
「いい心がけだ。情報を吐け。一つずつ、丁寧に」
「……」
ぼそぼそと喋る土行兵。
よく聞こえない。
柾は近づいて耳をすま――そうとした途端、ロープをミニナイフで切っていた土行兵がその小さな刃を柾の喉へと繰り出し。
そこねた。
桜の斧が土行兵の首を吹き飛ばしたからだ。
「ねえ、私気づいたことがあるんだけど」
顔に飛び散った血をハンカチで丁寧にぬぐいながら、桜は言った。
「こちらに好意を持ってもいない敵に質問するのって……落とし穴に向かってスキップするようで、なんだか馬鹿みたいじゃない? もうやめましょう?」
暗に『敵は全て殺そう』と述べている彼女に、柾は肩をすくめた。
恐ろしいかな、正論である。
さて、一方こちらはがしゃどくろ。
地面に体育座りした巨大な骨格標本を前に、零はぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「ねね、誰かの命令で戦うのはたのしい? 私はあなたが好きだけど、狭い檻で飼われるあなたは見るに堪えないからね。もっと自由になっていいのよ? そうしたらまた遊ぼうよ。命を賭けた争奪戦だぞ!」
子供のように、もしくは躁病患者のようにはしゃぐ零から、がしゃどくろは露骨に顔をそらした。
「なんで?」
「……あくまで推察ですが」
千陽が帽子を被り直して言った。
「怖がられています」
「なんで!?」
「そりゃそうでしょうよ」
後ろでつぶやく朱。
千陽は咳払いをしてがしゃどくろを見上げた。
「先程『申し上げた』通りです。我々はあなたと交渉をしに来ました」
「……」
千陽のほうをみるがしゃどくろ。先程というのは、千陽が戦闘中に送心を用いてがしゃどくろにメッセージを送った際のことだ。それによって彼の戦闘行動は一秒ほどだが停止した。実質上の戦意喪失である。
今はこの通り、体育座りで肩にカラスなどとまらせている。
相手にも交渉の意志があるのだ。
「配下も含め、あなたは戦をおこしたければいつてもそれができた。しかしそれをしなかった意味がおありでしょう。我々はあなたたちに対する慰霊と供養、そして法要。慰霊碑建設の準備があります。あなたちの無念を未来に伝え、報われるよう努力する」
ここまで言って、一呼吸置く。
「その代わり。あなたはヒノマル陸軍を含むすべての勢力に加勢せず、この土地に隠れ住んでいただくことを要求します。いかがでしょうか」
「……」
がしゃどくろはしばく停止し、そして深く頷いた。
微笑以下の笑みを浮かべる千陽。
内心ではヒノマル陸軍の横暴に怒りが収まらないが、それはそれだ。
「感謝します。では後日、業者を連れて戻ります。皆さん、撤収しましょう」
「まって」
立ち去ろうとする千陽たちの中で、朱が高く手を上げた。
振り返る千陽。
「私、しばらくここに通うわ」
「……どういうことですか?」
「がしゃどくろは脅されて戦っていたんでしょう? なら誰かが守らないといけないじゃない。私が自分でやるの。それに……」
朱はがしゃどくろを見上げた。
「ひとりは寂しいもんね。友達になりましょう、がしゃどくろ」
「……」
がしゃどくろは沈黙し、停止を続けた。
急な話に返答を迷っているのだろう。
朱の真意を疑っているのかもしれない。
だが逆に彼女を拒絶しようという意志も感じられなかった。
「すぐに仲良くはなれないよ。少しずつお互いを知っていきましょ」
がしゃどくろは三秒ほど停止したあと、ゆっくりと頷いた。
肩にとまったカラスの群れが、空へと飛び立っていく。
『正位置の愚者』トール・T・シュミット(CL2000025)はバイクを走らせていた。
山向こうに巨大な人骨模型めいたものが立っているのが見える。
「この距離で既に見えんのか……」
呟き、バックミラーを覗き込んだ。
一方でトールの後方。清潔に手入れされた自動車の運転席に、『百合の追憶』三島 柾(CL2001148)が収まっている。
「ここまで目立つということは、近隣住民が彼を恐れて干渉しなかったか、普段から身を小さくして隠れていたかだな。誰の脅威にもなっていなかっただろうに」
「そんなひとを無理矢理戦いに巻き込むなんてどうかしてるわよ!」
後部座席に詰め込まれるようにして、『炎の記憶の』天王山・朱(CL2001211)は窓の外へと罵倒を吐き捨てた。
「その通りだ。どうかしている」
地図を手に柾をナビゲートしつつ、助手席の『狗吠』時任・千陽(CL2000014)が顔を上げた。
「軍は民間人をまもるためのもの。戦争を起こすために存在しているわけではない」
「別にどっちでもいいのよ。なんでもいいの」
一方で春野 桜(CL2000257)は反対側の車窓に頭を傾けて、不自然きわまりない笑顔を浮かべた。
「殺すだけ。殺すだけよ。いつも通り」
「…………」
常にピリピリしている女性と常にトゲトゲしている女性の間に挟まれ、『裏切者』鳴神 零(CL2000669)は肩を狭くしていた。
右も左も見るに見られぬ。仕方なく身を乗り出し、前座席の隙間からフロントガラスを覗いた。
巨大な骸骨。がしゃどくろ。
飢者髑髏とも書き、うち捨てられた戦死者などの怨念が集まった存在とされ、人を見つけると取って食うとも言われている。
取って食うとは。舌も胃袋もあるまいに、いい加減な資料である。
零は右手を小指から順に曲げ、強く強く親指を握り込んだ。
「あの大きいがしゃたんと戦えるんだあ。巡り合わせに感謝しなきゃ☆」
気持ちの切り替えは済んだようだ。
柾はバックミラーで三人の様子を確認して、アクセルを僅かに踏み込んでいく。
目的地は近い。
●大村隊
「所属不明の集団が近づいているな。途中まで車を使ったようだが。人数は三人から五人……いや、六人以上か」
鳥が羽ばたく音の後に、大村中将は呟いた。
「敵でしょうか」
「味方とは思えん。一人だけ残して殺処分。残りは捕らえて調査しろ。最後には殺せ」
「はっ」
小銃を構える部下たちの後ろに下がり、大村はがしゃどくろの足をストックで突いた。
「早速出番だ。これはお前の運用テストも兼ねる。満足に働かなかった場合は山ごと貴様を爆破処理すると思え」
「……」
がしゃどくろはその意志に応じたのか否か。直立したまま一点を見つめていた。
一点。つまり、接近する集団である。
数は六人。先頭の女は黒い面を被り、両手をいびつな金属義手のように変化させた。
鬼の手のミイラかはたまた骨の騎士か。刀を抜いた女――鳴神零は仮面の下でねじを外したように笑った。
「がしゃたんがしゃたん。おっきい骨たんだいしゅきでひゅうう。戦(こわしあ)いがだぁいしゅきでしゅうう。なので、鳴神のこといっぱいいじめて……」
歩きながら身体をぐにゃりとのけぞらせ、反動をつけて前屈みにな――ると同時に超高速でがしゃどくろへと飛びかかった。
「くださああい!」
「……!」
たじろぐように半歩さがるがしゃどくろ。
大村は冷静に小銃を構えて狙いをつけた。
「覚者だ。壱式戦闘隊形」
「「はっ!」」
霧を放つ零に対し軍刀で斬りかかる部下たち。
刀が三本まとめて襲いかかるが、刃と彼女の間に滑り込む影が三つもあった。
一本は桜の包丁であり。
もう一本は朱の槍であり。
最後は柾そのものであった。
ナックルガードで刀を受け止めた柾は、流れるようなモーションで相手の腹に拳を叩き込む。
「回復能力のある水行から片付ける」
「了解、集中砲火」
銃の安全装置を解除して発砲する千陽。
が、部下たちはそういう構造の生き物であるかのように隊列を変え、水行兵が土行兵を盾にする形に移行した。防御を固めた土行兵が弾を弾き、防ぎきれなかったダメージを水行兵が回復する。その間大村が零たち前衛チームの体力を平たく削り、驚異になりそうな順に火行兵が潰していく陣形だ。
……いや、陣形というほど立派なものではない。ただの基本戦術である。
顔をしかめるトール。
「しまったな。水行を優先しようって考えが大きくなりすぎてそれ以外のこと全然打ち合わせてなかったぜ。どうする!?」
「目に付く順に殺していけばいいのよ」
包丁を逆手に持ち、刃に毒を塗りつけた桜は土行兵へと切りかかる。
一方で朱は火行兵の刀を槍術で精一杯だ。
「アンタたち!」
朱の突き込んだ槍を刀で弾き、火行兵が踏み込んでくる。
半歩引いて身体ごと槍を返し、こじりを振り込み牽制。足と頭へ交互に突くことで更に牽制。ある程度勉強をすれば覚えることの出来る教科書通りの槍術である。
「私の目の黒いうちはこんな無法許すもんですか!」
「法律くらい変わるとも」
「そうはさせないっていってんのよ!」
槍の根元を持ち、振り回すように斬撃を繰り出す。
腕や胸を切られた火行兵たちが防御姿勢をとった。
そこへすかさず突撃する桜。
由緒正しき短刀特攻。包丁で人を刺す際の最もポピュラーなフォームで、火行兵の心臓をひとつきにする。ただの包丁刺しと違うのは、刃に因子の毒が塗られていることだ。
包丁を引き抜き、喉に押し当てる桜。
一回刺すだけで終わりにしないのもまた、包丁刺しらしいと言えるだろうか。
「あなたは殺さないであげる。『運が悪かった』わね」
などと言いつつ喉を切り裂く桜。
火行兵は口から血の泡を吹き、喉をかきむしりながら崩れ落ちた。
さあ次は誰を殺そうかしら。
などと、明日の夕飯のメニューを考えるように桜が首を傾げたその時。
激しい雷と共に地面がまるごと吹き飛んだ。
大村の召雷とがしゃどくろの薙ぎ払いが同時におこったのだ。
桜や朱は強制的に転倒させられ、土と小石に混じって零が吹き飛ばされてくる。
地面を縦向きに転がる零。
「おいおい! がしゃどくろ抑えてくれるんじゃなかったのかよ!」
慌てて駆け寄ったトールが癒しの滴を無痛注射器で注入。零を抱え起こす。
「ん、んー……うまくいかなくて……」
厳密な、もしくはゲームシステムに触れる話を挟むようで申し訳ないが。
覚者戦闘において『抑え』というシステムはない。強いて言うなら自分だけに攻撃を集中させる挑発行為ということになるが、戦場を完全に分断できない以上他の味方とまとめて薙ぎ払われる事態はさけられない。
更に言えば、がしゃどくろを集中的に挑発し全てのダメージを引き受けつつ、別の敵を優先的に攻撃し続けるという状態にはそれ相応の説得力(プレイング)があったほうがよい。
こちらの戦力が圧倒的に有利である場合や、敵が絶望的なまでに愚かである場合はこうした戦法がフリースルーで通用することもあるが、戦力が拮抗している今の状態では難しいだろう。
水差しは以上である。
「ちょっと死んじゃいそうだけど、なんどもイッちゃうかもだけど、鳴神まだできると思う。だからもっとちょうだい?」
「しゃーねーな……」
トールは頭をがしがしとかいて、癒しの滴を追加投与した。
「踏ん張ってろよ。オレがその脚支えてやる!」
「ありがとう! だいしゅきい! がーしゃたぁぁぁん!」
零は目を見開いて、がしゃどくろへと飛びかかった。
「これで、三人目!」
槍を棒術のように振り回し、水行兵の胴体を振り上げる朱。
地面に叩き付けて気絶させるが、朱もまたおびただしい汗を流してへたりこんだ。
スタミナ切れ、体力切れ。戦闘不能状態である。
「ごめん、これ以上は……」
「大丈夫です。下がって!」
援護射撃を加えながら後ろへ促す千陽。
一方で大村はがしゃどくろに呼びかけた。
「盾になれ。どうせ粉々に砕けても元に戻るんだろう」
「……」
言われたとおりに大村を守るように腕を置くがしゃどくろ。硬い腕に千陽の銃弾が弾かれる。
「やはりそういう手に出ますか……」
「当然だ」
がしゃどくろの肩へと駆け上り、軍刀を振り上げる大村。
空を埋めた暗雲から雷が走る。
トールはそのダメージをカバーするのに精一杯だ。
「お前ら、誰のために戦うんだ。戦争から戻れなくなった奴らは知ってるけどよ、お前らはテロリストにそっくりだ。ただの死にたがり集団なら根こそぎ牢獄にぶち込んでやる!」
「もっともな意見だ。八十年前に同じことを言ったやつを思い出す。そいつは後に天皇陛下万歳と唱えて自殺したぞ」
「一緒にするんじゃねえ!」
「なにを感情的になってるの? 冷静になりなさい?」
そう言いながら、桜は手投げ斧を振り上げた。
「がしゃどくろが邪魔だけれど、邪魔するならそれごと殺せばいいだけでしょう? 大丈夫、死なないように殺すから」
「ちょっと、本気なの!?」
槍を杖のようについて声をあげる朱に、桜は笑顔で振り返った。
「黙って死ぬ? 私はいやよ?」
身体をぐるんと回転させ、斧を投擲する桜。
斧は仕込まれた因子種によって炸裂し、がしゃどくろの骨を粉砕する。
バランスを崩したところに、零が膝や腕を駆け上がるようにして大村へ接近した。
「ご趣味はなんですか!? 鳴神の趣味はあったかなあ!? 戦うことですね! そう、戦うこと!」
大村の眼前まで接近。刀を振りかざし、首を狙って斬撃を――と思った途端横合いからがしゃどくろに掴みとられた。
頭上高く掲げられ、地面へと叩き付けられる零。
「鳴神さん!」
「心配ない」
柾はそう言って、大地を蹴った。
地面に接触したがしゃどくろの腕へと飛び乗り、素早く腕を駆け上がる。
咄嗟に腕を飛行としたがしゃどくろだが、千陽と目が合ってびくりと動きを止めた。
停止時間は一秒たらず。
しかしそれで充分だった。
柾は大村の眼前へと迫り、水平に繰り出された軍刀をかがんでよけ、ボディブローを叩き込んだ。
がしゃどくろの肩から転落する大村。
しかし空中でバランスをとって着地。
「そこだ」
自由落下よりも早いスピードで駆け下りてきた柾が垂直飛翔蹴りを繰り出した。
小規模ながら地面が吹き飛び、転がっていく大村。
「大村、お前は拘束させてもらう。知りたいこともあるからな」
掴みかかろうとした柾……の足首を、水行兵ががしりと掴んだ。
「お逃げください中将!」
「……!」
大村は頷き、古い語調で『いずれ地獄で飲み交わそうぞ』と唱えると一目散にその場から逃げ去った。
●古妖がしゃどくろ
戦闘結果。
桜たちF.i.V.E覚者はヒノマル陸軍の撃退に成功した。
大村中将は撤退。部下三名は捕獲し、がしゃどくろは多少のダメージを負ったものの破壊まではされていないという状態である。
「しっかし手ひどくやられちまったな。命があるだけでも設けもんか……」
トールは指で頭をかきながら山を散策していた。
見たところ長い間人の手がはいっていない土地のようで、獣道こそあるものの樹木や草は生え放題である。そのため散策にはえらく苦労した。
山が個人の所有地なのか、もしくは国預かりの土地なのかは調べきれなかったが、見た限り『人から放置された土地』であることは確かなようだ。
「お墓も祠もありゃしねえ。ぼうっ切れひとつ立ってねえんだもんな。そりゃがしゃどくろもいるわな。……ん?」
ふと空を見上げる。
大きな鳥が頭上を通過していった。
それだけなら取るに足らないことだが、トールの『鷹の目』にはあるものが映っていた。
「ありゃ鷹だな。しかも足にシグナルがついてる。飼われてる鷹だ……なるほどな」
山の動物に混じって飼い慣らした動物を放つことで索敵係として運用していたようだ。動物を効率的に利用できれば山中での活動力は飛躍的に上がるだろう。古い山岳猟兵が身につけるような技術だが、因子能力が加わるとこうも変わるとは。
「山に隠れてたがしゃどくろもこうやって探し出したわけだな。となると、他に隠れ住んでる古妖も危ないかもな……」
トールが散策を続ける一方で、柾たちは兵を一箇所に集めていた。
大村の部下三名である。彼らは一列に並べられ、手足をロープで縛られている。
「お前たちには聞きたいことがあると言ったな。要約すると三つ、『なぜ古妖を集めているのか』『京都決戦後の様子』『暴力坂乱暴の様子』だ」
「素直に喋ると思うか。嘘を吹き込んで混乱させてやってもいいんだぞ」
「ああそう」
桜はそう言うと、火行兵の足首に包丁を突き立てた。
悲鳴があがる。柄を握り込み、ねじるように回し始める。
「質問するとは言ってないわ。拷問をするの。目をえぐり指を折り手足を潰し腹を割き首を斬るの。端から順番にね」
そう言いながら、こらえきれないとばかりに桜は火行兵を八つ裂きにしていった。
まるで家族のために買ってきたケーキを独り占めするかのように、水行兵も切り刻み始める。
最後に残された土行兵は失禁し、歯をがちがちと言わせて悲鳴をあげた。
「た、たすけて。ころさないで……いのちだけは……」
「いい心がけだ。情報を吐け。一つずつ、丁寧に」
「……」
ぼそぼそと喋る土行兵。
よく聞こえない。
柾は近づいて耳をすま――そうとした途端、ロープをミニナイフで切っていた土行兵がその小さな刃を柾の喉へと繰り出し。
そこねた。
桜の斧が土行兵の首を吹き飛ばしたからだ。
「ねえ、私気づいたことがあるんだけど」
顔に飛び散った血をハンカチで丁寧にぬぐいながら、桜は言った。
「こちらに好意を持ってもいない敵に質問するのって……落とし穴に向かってスキップするようで、なんだか馬鹿みたいじゃない? もうやめましょう?」
暗に『敵は全て殺そう』と述べている彼女に、柾は肩をすくめた。
恐ろしいかな、正論である。
さて、一方こちらはがしゃどくろ。
地面に体育座りした巨大な骨格標本を前に、零はぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「ねね、誰かの命令で戦うのはたのしい? 私はあなたが好きだけど、狭い檻で飼われるあなたは見るに堪えないからね。もっと自由になっていいのよ? そうしたらまた遊ぼうよ。命を賭けた争奪戦だぞ!」
子供のように、もしくは躁病患者のようにはしゃぐ零から、がしゃどくろは露骨に顔をそらした。
「なんで?」
「……あくまで推察ですが」
千陽が帽子を被り直して言った。
「怖がられています」
「なんで!?」
「そりゃそうでしょうよ」
後ろでつぶやく朱。
千陽は咳払いをしてがしゃどくろを見上げた。
「先程『申し上げた』通りです。我々はあなたと交渉をしに来ました」
「……」
千陽のほうをみるがしゃどくろ。先程というのは、千陽が戦闘中に送心を用いてがしゃどくろにメッセージを送った際のことだ。それによって彼の戦闘行動は一秒ほどだが停止した。実質上の戦意喪失である。
今はこの通り、体育座りで肩にカラスなどとまらせている。
相手にも交渉の意志があるのだ。
「配下も含め、あなたは戦をおこしたければいつてもそれができた。しかしそれをしなかった意味がおありでしょう。我々はあなたたちに対する慰霊と供養、そして法要。慰霊碑建設の準備があります。あなたちの無念を未来に伝え、報われるよう努力する」
ここまで言って、一呼吸置く。
「その代わり。あなたはヒノマル陸軍を含むすべての勢力に加勢せず、この土地に隠れ住んでいただくことを要求します。いかがでしょうか」
「……」
がしゃどくろはしばく停止し、そして深く頷いた。
微笑以下の笑みを浮かべる千陽。
内心ではヒノマル陸軍の横暴に怒りが収まらないが、それはそれだ。
「感謝します。では後日、業者を連れて戻ります。皆さん、撤収しましょう」
「まって」
立ち去ろうとする千陽たちの中で、朱が高く手を上げた。
振り返る千陽。
「私、しばらくここに通うわ」
「……どういうことですか?」
「がしゃどくろは脅されて戦っていたんでしょう? なら誰かが守らないといけないじゃない。私が自分でやるの。それに……」
朱はがしゃどくろを見上げた。
「ひとりは寂しいもんね。友達になりましょう、がしゃどくろ」
「……」
がしゃどくろは沈黙し、停止を続けた。
急な話に返答を迷っているのだろう。
朱の真意を疑っているのかもしれない。
だが逆に彼女を拒絶しようという意志も感じられなかった。
「すぐに仲良くはなれないよ。少しずつお互いを知っていきましょ」
がしゃどくろは三秒ほど停止したあと、ゆっくりと頷いた。
肩にとまったカラスの群れが、空へと飛び立っていく。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
判定内容を補足します。
朱さんのEXプレイングを一部有効判定としました。
今後、依頼参加やイラスト発注、チームでの活動の有無に関わらず定期的に山中へ通っているものとして判定し、がしゃどくろ自身が信用できると判断した頃にプラス判定に変化します。そのため現時点での交渉力は微弱です。
朱さんのEXプレイングを一部有効判定としました。
今後、依頼参加やイラスト発注、チームでの活動の有無に関わらず定期的に山中へ通っているものとして判定し、がしゃどくろ自身が信用できると判断した頃にプラス判定に変化します。そのため現時点での交渉力は微弱です。
