<南瓜夜行>ハロウィン・ビフォア・タヌキ
●
「聞いたか、次郎太、三郎太」
「何だよ、一郎太兄さん。うるさいな」
「兄ちゃん、おれ腹減った」
「今、陸の上ではろいんってのがやっているらしいぞ」
洞穴の中ではしゃいでいるのは、化け狸の一郎太。彼らはいわゆる古妖と呼ばれる存在だ。
外見は動物の狸と大差は無いが、その内側に秘めた力は全く別物である。一郎太・次郎太・三郎太の兄弟は伝承の例に漏れず、幻を操る力を持っており、住まいの山を中心に仲良くやってきた。
そして、何か騒動を起こす時は決まって、新しいものが好きな一郎太がきっかけになる。
「でだ、そのはろいんって奴では、妖怪の格好で挨拶するとごちそうがもらえんだ。つまり、俺らがはろいんやってる連中に紛れ込んじまえばごちそうたらふく食えるって寸法よ。邪魔な奴は適当に捕まえときゃいいだろ」
「な、なるほどね。一郎太兄さんにしては、わ、悪くない作戦なんじゃあないかな」
「兄ちゃん、おれ腹減った」
一郎太の立てた杜撰極まりない作戦を聞いて乗り気になる弟達。基本的に単純な連中なのである。
●
「万里ちゃんだよー! はーい、万里の夢見情報です。皆さんよろしくお願いしまーす!」
いつも通りのハイテンションで司令室に集まった覚者達を迎える久方・万里(nCL2000005)。ハロウィンが近いせいか、可愛らしい魔法使い風の衣装に身を包んでいる。
それでも仕事はしっかりしたものだ。覚者が揃っていることを確認すると、事件の説明を始めた。
「ハロウィンが近いのはみんなも知っていると思うけど、古妖がそれに紛れ込んでいるの」
万里によると、現れるのは化け狸の3兄弟。変化の力を持つ彼らは小学校で行われているハロウィンパーティーに紛れているのだという。
「それ自体は万里も構わないと思うんだけど、やろうとしていることにちょっと問題があるのよねー」
ハロウィンに参加すれば食べ物がもらえると考えている化け狸達は、彼らが食べ物をもらうのに邪魔な子供を攫って何処かに閉じ込めようとしている。これではパーティーが台無しだ。
幸い被害者はが出る前に現場には間に合う。その間に彼らを捕まえて止めさせなくては。
口で言っても素直に話を聞く連中でもないが、多少こらしめてやれば素直に従うだろう。
「化け狸達は子供の姿に化けて会場にいるよ。尻尾や耳は化けられないけど、隠しているから探す時には気を付けてね」
パッと見て分からない程度には偽装しているようだ。時間を駆けてしまっては、被害者が出てしまう。
また、会場内で騒ぎを起こす訳にはいかない。見つけた後には上手く会場から連れ出し、周りに気付かれないようにする必要がある。
説明を終えると、万里は覚者達に手を振って、送り出す。
「皆の活躍を期待してるね! ぜったい、未来を変えてきて!」
「聞いたか、次郎太、三郎太」
「何だよ、一郎太兄さん。うるさいな」
「兄ちゃん、おれ腹減った」
「今、陸の上ではろいんってのがやっているらしいぞ」
洞穴の中ではしゃいでいるのは、化け狸の一郎太。彼らはいわゆる古妖と呼ばれる存在だ。
外見は動物の狸と大差は無いが、その内側に秘めた力は全く別物である。一郎太・次郎太・三郎太の兄弟は伝承の例に漏れず、幻を操る力を持っており、住まいの山を中心に仲良くやってきた。
そして、何か騒動を起こす時は決まって、新しいものが好きな一郎太がきっかけになる。
「でだ、そのはろいんって奴では、妖怪の格好で挨拶するとごちそうがもらえんだ。つまり、俺らがはろいんやってる連中に紛れ込んじまえばごちそうたらふく食えるって寸法よ。邪魔な奴は適当に捕まえときゃいいだろ」
「な、なるほどね。一郎太兄さんにしては、わ、悪くない作戦なんじゃあないかな」
「兄ちゃん、おれ腹減った」
一郎太の立てた杜撰極まりない作戦を聞いて乗り気になる弟達。基本的に単純な連中なのである。
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「万里ちゃんだよー! はーい、万里の夢見情報です。皆さんよろしくお願いしまーす!」
いつも通りのハイテンションで司令室に集まった覚者達を迎える久方・万里(nCL2000005)。ハロウィンが近いせいか、可愛らしい魔法使い風の衣装に身を包んでいる。
それでも仕事はしっかりしたものだ。覚者が揃っていることを確認すると、事件の説明を始めた。
「ハロウィンが近いのはみんなも知っていると思うけど、古妖がそれに紛れ込んでいるの」
万里によると、現れるのは化け狸の3兄弟。変化の力を持つ彼らは小学校で行われているハロウィンパーティーに紛れているのだという。
「それ自体は万里も構わないと思うんだけど、やろうとしていることにちょっと問題があるのよねー」
ハロウィンに参加すれば食べ物がもらえると考えている化け狸達は、彼らが食べ物をもらうのに邪魔な子供を攫って何処かに閉じ込めようとしている。これではパーティーが台無しだ。
幸い被害者はが出る前に現場には間に合う。その間に彼らを捕まえて止めさせなくては。
口で言っても素直に話を聞く連中でもないが、多少こらしめてやれば素直に従うだろう。
「化け狸達は子供の姿に化けて会場にいるよ。尻尾や耳は化けられないけど、隠しているから探す時には気を付けてね」
パッと見て分からない程度には偽装しているようだ。時間を駆けてしまっては、被害者が出てしまう。
また、会場内で騒ぎを起こす訳にはいかない。見つけた後には上手く会場から連れ出し、周りに気付かれないようにする必要がある。
説明を終えると、万里は覚者達に手を振って、送り出す。
「皆の活躍を期待してるね! ぜったい、未来を変えてきて!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.化け狸3兄弟をこらしめる
2.被害を最小限にとどめる
3.なし
2.被害を最小限にとどめる
3.なし
月夜にぽんぽこ、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はハロウィンに紛れ込んだタヌキをこらしめてもらいたいと思います。
●戦場
とある町の小学校です。
時刻は夕刻過ぎになります。
体育館でパーティーやっていますが、校庭や教室などに人はいません。
●古妖
・化け狸
人を化かすと言われる狸の一族です。
一郎太・次郎太・三郎太の3兄弟がおり、結構戦闘力は高いですが、ある程度以上傷付くと降参します。
能力は下記。
1.腹鼓 特遠単 痺れ
2.狸囃子 特遠単 錯乱
3.変化能力 姿を人間や動物に変化させることが出来ます(尻尾や耳が残る)
4.幻影 覚者のスキルと同様のものです
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2015年11月16日
2015年11月16日
■メイン参加者 6人■

●
小さな地方の小学校では、ハロウィンパーティーが催されていた。体育館を会場とした、縁日感覚の小さな宴だ。ハロウィンというイベントの性質上、会場の大人も子供も思い思いの格好をしている。だから誰も気づかない。この中に、本当の『妖怪』が紛れ込んでいることに。
そしてそれと同じように、人知れず戦う覚者達も紛れていることに。
「たぬきさんの耳としっぽをついてる人は~っと」
幽霊姿の野武・七雅(CL2001141)はぐるりと会場を見渡す。着ている衣装はFIVEのハロウィンで来たのと同じもの。なりきり妖怪部門は伊達じゃない。
ハロウィンパーティーにやって来たタヌキの変身が不完全なことは夢見から確認済み。そこを探せば彼らを見つけ出すのはそう難しくないはずだ。
「おかしをひとりじめするのはよくないの。ハロウィンはみんなで楽しむものなの」
問題の古妖達の楽しみ方は自分本位なもの。本気で罰を与えるつもりは無いが、ちょっと位し買ってやった方が良いだろう。それに、この状況で自分達がちょっと位楽しむのも悪くは無い。
「かんぺきなっ! こすぷれっ!」
そして、同じように楽しんでいるのが猫又姿で会場に紛れるのはククル・ミラノ(CL2001142)だ。
浴衣に身を包み猫耳を着けたその姿は何処から見ても愛らしい猫又と言ったところ。当人の幼い外見も相俟って、場との違和感はほとんど無い。
しかして、その目はまさしく猫のように獲物を探していた。瞳をきらりと光らせて、怪しい仮装を見逃すまいとしている。普段おっちょこちょいな所もあるが、覚者として着実に使命を果たしてきたのは伊達ではない。
(古妖のたぬきさんを捕まえて改心させるよっ)
覚者達もある程度想定の上であったことだが、会場内にタヌキの耳尻尾程度の仮装はそこそこにいた。それこそ、耳尻尾だけを目印に戦っていたら大事になっていた程度に。
(思っていた通り、だね)
だが、京極・千晶(CL2001131)は慌てない。赤い頭巾をかぶり腕にバスケットを下げ、そうした子供達にそっと話しかける。相手は古妖の中でも単純なタイプ。やりようだったらいくらでもある。
とりあえず、適当に捕まえた子供達にちょっとした噂を吹き込み別れると、千晶はにこりと笑う。
「ハロウィンのお菓子がほしいっていうのは理解できるけど、だからって他の子供たちを閉じ込めるのはダメだよ。狸さんたちを止めて、ハロウィンを楽しんでもらわなくちゃね♪」
覚者達の「いたずら」は着実に進んでいた。
●
人々が何も知らずにハロウィンを楽しむ中で、覚者達はパーティー会場で密やかに動いていた。千晶の報告を受けると、『ヒーロー志望』成瀬・翔(CL2000063)も行動を開始する。
会場の偵察を行う守護使役、空丸から得た情報を元に、タヌキの仮装をしている子供に接触した。
「他にもタヌキの奴いる! 嬉しいぜ-! 同じ仮装の奴、他にも会いたいからさ。協力してくんねー?」
年が近いからというのもあるだろうが、溶け込むのが早いのはやはり天性のものだろう。基本的にガキ大将気質なのだ。
横でシーツを被ってオバケ姿になった桂木・日那乃(CL2000941)は、こっそりと感情の動きを探る。場にはそこそこ人もいるが、今回の作戦範囲内でならそれ程問題にはならないはずだ。
覚者達が取った作戦、それは翔が名付けて曰く「タヌキのしっぽと耳を付けてる奴は特別なお菓子が貰えるらしいぜ」作戦だ。まんまじゃんとかその手のツッコミは、相手が小学生ということも鑑みてほうっておいてあげていただきたい。
タヌキの耳としっぽが付いた仮装してるひとは、特別なお菓子が貰えるらしいよ
そういえば、タヌキの耳と尻尾をつけた仮装をした子だけ特別なお菓子をもらえるんだってー
オレ、タヌキの仮装にして良かったな-! タヌキってカッコイイよな!
タヌキの仮装だったら特別なお菓子がもらえるって聞いた、の。わたしもタヌキにすればよかった、かも。
狭いパーティー会場を覚者が流した噂が駆け巡る。それ程大きな会場でないので、話が広まるのはあっという間だった。
唯一の大人である魂行・輪廻(CL2000534)は、パーティーの隅っこで実際にお菓子を配っていた。デマの信ぴょう性を増すためだ。年下の子供が多いためか、今日は普段よりもノリが良い、明るいお姉さんをやっている。
「狸って何でも食べるみたいだけど、クッキーが成分的に好みとかいうのは本当かしらねん?
……おやん?」
そして、クッキーを配っている時に気が付いた。
纏まって動く3人組。帽子を被って誤魔化しているが、その下にはわざわざタヌキの耳が隠されている。
「うん、多分、それ」
日那乃が頷く。タヌキ仮装への特別お菓子の話が出た時、彼らは明らかに他のものよりも強烈な反応を返した。それに、ちょっとよこしまな感情も。
そして標的を見つけた覚者達は、目配せをし合うと校庭へと移動する。
ハロウィンらしく密やかな「いたずら」を仕掛けるために。
せっかくのハロウィンだ。その位しないともったいないではないか。
●
「あの人がくれるらしいからついてこーぜ!」
翔に導かれて人間に化けたタヌキたちは校庭へと向かっていく。元々菓子目当てでやって来たものだから、えらい喜びようである。その一方で隙あらば独り占めしよう、という剣呑な気配も日那乃は感じていた。
そして、向かった先には当然、覚者達の姿。着物を着崩して輪廻はピシッと鞭を鳴らせる。
「御馳走を食べたいが為に本物が人に化けてパーティーに参加する、ここだけ聞くととても楽しい事なのだけどねぇん」
輪廻の体に宿る精霊の因子が『覚醒』を果たす。
その艶やかに力を放つ姿に、タヌキたちも騙されたことを悟る。
「「「化かされた!?」」」
「でも、流石に他の子の邪魔をするんじゃお仕置きしないと、ねん♪ イベントは楽しむものよん♪」
「わるいたぬきさんはめってしないといけないの」
言葉と共に七雅は杖を構えると、自身に宿る英霊の力を引き出す。タヌキ達も慌てて元の姿に戻り戦闘態勢を取るが、覚者達の方が素早い。
「オレだってちゃんと戦えるんだぜ!」
耳覚えのない青年の声が戦場に聞こえる。いつの間にか、精悍な雰囲気を漂わせた長身の青年の姿が戦場に在った。因子を覚醒させた翔の姿だ。陰陽師としてその力を最大限に発揮し、仲間達を術で鼓舞する。
千晶はパーティー会場でのテンションは何処へやら。冷静な動きでタヌキ達へと切りかかる。
「たぬきさんたちはこらしめるだけだから、みんなちょびっとだけてかげんぷりーずっ!」
仮装では無くお気に入りの耳と尻尾を露わにしたククルは、すっかりご機嫌だ。元気いっぱいに叫ぶと植物の蔦を鞭のようにしならせてタヌキを強かに打ち付ける。その中でも相手への最低限の配慮を忘れないのは、如何にも彼女らしい。
しかし、相手のタヌキ達には悪びれる様子は無い。
それどころか、よくもだましたなとばかりに反撃が返ってくる。
たいそう間の抜けた連中ではあるものの、それでも古妖の端くれ。幻惑の能力は一端のものだ。
「パーティーに混じってもいいけど、他の子たちの邪魔したら、駄目」
だが、今回ばかりは相手が悪かった。集まった覚者達には治癒の術を得意とするものが多く、この手の能力への対策は十分なものだった。
日那乃が術符をかざすと、周囲が浄化されていき、覚者達の混乱も静まる。
もちろん、タヌキ達は何度も繰り返して場をひっくり返そうとする以上無傷と言う訳にはいかない。が、十重二十重に準備はあるのだ。
「めっなの!」
「かいふくはおまかせっ」
七雅とククルは攻撃と回復を交互に行い、タヌキ達に隙を与えない。
そこでタヌキ達が逆に隙を見せると、そこへ翔が雷を叩きつける。
「私が支援に回る必要は無さそうねん♪」
輪廻は楽しげに微笑むと、地を這うような軌跡からの一撃でタヌキ達を薙ぎ払う。戦いは長引いているが、彼女の動きはそれを感じさせない。
逆に疲労で動きを鈍らせたタヌキを見て、千晶の目がキラリと光る。
千晶の体内に宿る炎が一層活性化していく。黒い帽子をかぶり直して納刀する。
「参ります」
短い言葉と共に少女は駆け抜けるように斬り付ける。
止めを刺すつもりは無い。峰打ちだ。そして、千晶の刀が再び鞘に納められる静かな音が、戦いの終わりを告げる合図となった。
●
戦いの終った校庭で覚者達はタヌキを囲んでいた。
敵わないと悟ったためか、抵抗の意志は無さそうだ。覚者達もその様子を見て、むしろタヌキ達に優しく声を掛ける。何も本気で怒っている訳ではないのだ。
「タヌキさん達がお菓子ほしいのはわかるけど、他にもお菓子がほしい子たちを閉じ込めたりしちゃだめだよ」
「なあ、タヌキ達、なんで悪さしようとするんだよ? なにも一緒に楽しめばいいじゃねーか。ハロウィンなんだからさ!」
千晶と翔が話しかけると、タヌキ達は事の起こりを放し始める。内容は夢見と聞いた話と相違ない。詰る所は、人間社会への無知と彼らの食欲が原因だ。
「ハロウィンはみんなで楽しむお祭りなの。おかしはたくさんある方がうれしいかもしれないの。でもみんなで一緒にあつめるからたのしいの」
いつになく真面目な顔で話し始めたのは七雅だった。小さい子に言い聞かせるように、丁寧にハロウィンについて語る。
「逆の立場で考えてみてほしいの。たぬきさんだってだれかがひとりじめしてるのみたら、かなしくてぷんぷんしちゃうとおもうの」
それが効果てきめんだったようだ。小さな女の子に、怒られるのではなく叱られる。いい加減な性格のタヌキ達にも思う所があったらしい。
そこで七雅はニコリと笑った。
「だからみんなでわけっこしようなの」
「あのねっ。いたづらするよりもいっしょにたのしんだほうが、ずーとずーーーっとたのしいよっ!」
七雅とククルの言葉に顔を輝かせるタヌキ達。
その様子を見て、仕方ないと言った様子で笑う輪廻の手には用意していたクッキーがあった。
「目的はただ食べたかっただけだし、懲らしめてちゃんと誰にも迷惑を掛けずに楽しむのなら許してお菓子をしっかりあげようかしらねん♪ その代わり……」
何が来るのかと身構えるタヌキ達に、輪廻は思い切り抱き付いた。
「ちょっともふらせて貰っても良いかしらん? 1回ゆっくり触って見たかったのよねん♪」
戸惑うタヌキの感触を存分に輪廻は楽しむ。そして彼らが解放されると、日那乃と千晶はお菓子を差し出した。
「わたしもお菓子持ってるから、ね」
「ハロウィンは皆が楽しむお祭りだからさ! みんなで一緒にお菓子を食べよう」
「ミラノはあげるよりもらう側がいいっ!」
ククルの言葉に皆が笑う。
そして、みんながの笑い声が収まった所で、翔はタヌキ達にもう一度化けるよう促した。
「悪さしねーって約束できるなら、一緒に遊ぼうぜ!」
まだハロウィンパーティーは続いている。これから向かっても十分楽しめるだろう。そうすれば、多少の行き違いも「ハロウィンの楽しい思い出」になってくれる。
だから、七雅は照らす月に向かって、ハロウィンだけに使える魔法の言葉を口にした。
「とりっくおあとりーとなの!」
小さな地方の小学校では、ハロウィンパーティーが催されていた。体育館を会場とした、縁日感覚の小さな宴だ。ハロウィンというイベントの性質上、会場の大人も子供も思い思いの格好をしている。だから誰も気づかない。この中に、本当の『妖怪』が紛れ込んでいることに。
そしてそれと同じように、人知れず戦う覚者達も紛れていることに。
「たぬきさんの耳としっぽをついてる人は~っと」
幽霊姿の野武・七雅(CL2001141)はぐるりと会場を見渡す。着ている衣装はFIVEのハロウィンで来たのと同じもの。なりきり妖怪部門は伊達じゃない。
ハロウィンパーティーにやって来たタヌキの変身が不完全なことは夢見から確認済み。そこを探せば彼らを見つけ出すのはそう難しくないはずだ。
「おかしをひとりじめするのはよくないの。ハロウィンはみんなで楽しむものなの」
問題の古妖達の楽しみ方は自分本位なもの。本気で罰を与えるつもりは無いが、ちょっと位し買ってやった方が良いだろう。それに、この状況で自分達がちょっと位楽しむのも悪くは無い。
「かんぺきなっ! こすぷれっ!」
そして、同じように楽しんでいるのが猫又姿で会場に紛れるのはククル・ミラノ(CL2001142)だ。
浴衣に身を包み猫耳を着けたその姿は何処から見ても愛らしい猫又と言ったところ。当人の幼い外見も相俟って、場との違和感はほとんど無い。
しかして、その目はまさしく猫のように獲物を探していた。瞳をきらりと光らせて、怪しい仮装を見逃すまいとしている。普段おっちょこちょいな所もあるが、覚者として着実に使命を果たしてきたのは伊達ではない。
(古妖のたぬきさんを捕まえて改心させるよっ)
覚者達もある程度想定の上であったことだが、会場内にタヌキの耳尻尾程度の仮装はそこそこにいた。それこそ、耳尻尾だけを目印に戦っていたら大事になっていた程度に。
(思っていた通り、だね)
だが、京極・千晶(CL2001131)は慌てない。赤い頭巾をかぶり腕にバスケットを下げ、そうした子供達にそっと話しかける。相手は古妖の中でも単純なタイプ。やりようだったらいくらでもある。
とりあえず、適当に捕まえた子供達にちょっとした噂を吹き込み別れると、千晶はにこりと笑う。
「ハロウィンのお菓子がほしいっていうのは理解できるけど、だからって他の子供たちを閉じ込めるのはダメだよ。狸さんたちを止めて、ハロウィンを楽しんでもらわなくちゃね♪」
覚者達の「いたずら」は着実に進んでいた。
●
人々が何も知らずにハロウィンを楽しむ中で、覚者達はパーティー会場で密やかに動いていた。千晶の報告を受けると、『ヒーロー志望』成瀬・翔(CL2000063)も行動を開始する。
会場の偵察を行う守護使役、空丸から得た情報を元に、タヌキの仮装をしている子供に接触した。
「他にもタヌキの奴いる! 嬉しいぜ-! 同じ仮装の奴、他にも会いたいからさ。協力してくんねー?」
年が近いからというのもあるだろうが、溶け込むのが早いのはやはり天性のものだろう。基本的にガキ大将気質なのだ。
横でシーツを被ってオバケ姿になった桂木・日那乃(CL2000941)は、こっそりと感情の動きを探る。場にはそこそこ人もいるが、今回の作戦範囲内でならそれ程問題にはならないはずだ。
覚者達が取った作戦、それは翔が名付けて曰く「タヌキのしっぽと耳を付けてる奴は特別なお菓子が貰えるらしいぜ」作戦だ。まんまじゃんとかその手のツッコミは、相手が小学生ということも鑑みてほうっておいてあげていただきたい。
タヌキの耳としっぽが付いた仮装してるひとは、特別なお菓子が貰えるらしいよ
そういえば、タヌキの耳と尻尾をつけた仮装をした子だけ特別なお菓子をもらえるんだってー
オレ、タヌキの仮装にして良かったな-! タヌキってカッコイイよな!
タヌキの仮装だったら特別なお菓子がもらえるって聞いた、の。わたしもタヌキにすればよかった、かも。
狭いパーティー会場を覚者が流した噂が駆け巡る。それ程大きな会場でないので、話が広まるのはあっという間だった。
唯一の大人である魂行・輪廻(CL2000534)は、パーティーの隅っこで実際にお菓子を配っていた。デマの信ぴょう性を増すためだ。年下の子供が多いためか、今日は普段よりもノリが良い、明るいお姉さんをやっている。
「狸って何でも食べるみたいだけど、クッキーが成分的に好みとかいうのは本当かしらねん?
……おやん?」
そして、クッキーを配っている時に気が付いた。
纏まって動く3人組。帽子を被って誤魔化しているが、その下にはわざわざタヌキの耳が隠されている。
「うん、多分、それ」
日那乃が頷く。タヌキ仮装への特別お菓子の話が出た時、彼らは明らかに他のものよりも強烈な反応を返した。それに、ちょっとよこしまな感情も。
そして標的を見つけた覚者達は、目配せをし合うと校庭へと移動する。
ハロウィンらしく密やかな「いたずら」を仕掛けるために。
せっかくのハロウィンだ。その位しないともったいないではないか。
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「あの人がくれるらしいからついてこーぜ!」
翔に導かれて人間に化けたタヌキたちは校庭へと向かっていく。元々菓子目当てでやって来たものだから、えらい喜びようである。その一方で隙あらば独り占めしよう、という剣呑な気配も日那乃は感じていた。
そして、向かった先には当然、覚者達の姿。着物を着崩して輪廻はピシッと鞭を鳴らせる。
「御馳走を食べたいが為に本物が人に化けてパーティーに参加する、ここだけ聞くととても楽しい事なのだけどねぇん」
輪廻の体に宿る精霊の因子が『覚醒』を果たす。
その艶やかに力を放つ姿に、タヌキたちも騙されたことを悟る。
「「「化かされた!?」」」
「でも、流石に他の子の邪魔をするんじゃお仕置きしないと、ねん♪ イベントは楽しむものよん♪」
「わるいたぬきさんはめってしないといけないの」
言葉と共に七雅は杖を構えると、自身に宿る英霊の力を引き出す。タヌキ達も慌てて元の姿に戻り戦闘態勢を取るが、覚者達の方が素早い。
「オレだってちゃんと戦えるんだぜ!」
耳覚えのない青年の声が戦場に聞こえる。いつの間にか、精悍な雰囲気を漂わせた長身の青年の姿が戦場に在った。因子を覚醒させた翔の姿だ。陰陽師としてその力を最大限に発揮し、仲間達を術で鼓舞する。
千晶はパーティー会場でのテンションは何処へやら。冷静な動きでタヌキ達へと切りかかる。
「たぬきさんたちはこらしめるだけだから、みんなちょびっとだけてかげんぷりーずっ!」
仮装では無くお気に入りの耳と尻尾を露わにしたククルは、すっかりご機嫌だ。元気いっぱいに叫ぶと植物の蔦を鞭のようにしならせてタヌキを強かに打ち付ける。その中でも相手への最低限の配慮を忘れないのは、如何にも彼女らしい。
しかし、相手のタヌキ達には悪びれる様子は無い。
それどころか、よくもだましたなとばかりに反撃が返ってくる。
たいそう間の抜けた連中ではあるものの、それでも古妖の端くれ。幻惑の能力は一端のものだ。
「パーティーに混じってもいいけど、他の子たちの邪魔したら、駄目」
だが、今回ばかりは相手が悪かった。集まった覚者達には治癒の術を得意とするものが多く、この手の能力への対策は十分なものだった。
日那乃が術符をかざすと、周囲が浄化されていき、覚者達の混乱も静まる。
もちろん、タヌキ達は何度も繰り返して場をひっくり返そうとする以上無傷と言う訳にはいかない。が、十重二十重に準備はあるのだ。
「めっなの!」
「かいふくはおまかせっ」
七雅とククルは攻撃と回復を交互に行い、タヌキ達に隙を与えない。
そこでタヌキ達が逆に隙を見せると、そこへ翔が雷を叩きつける。
「私が支援に回る必要は無さそうねん♪」
輪廻は楽しげに微笑むと、地を這うような軌跡からの一撃でタヌキ達を薙ぎ払う。戦いは長引いているが、彼女の動きはそれを感じさせない。
逆に疲労で動きを鈍らせたタヌキを見て、千晶の目がキラリと光る。
千晶の体内に宿る炎が一層活性化していく。黒い帽子をかぶり直して納刀する。
「参ります」
短い言葉と共に少女は駆け抜けるように斬り付ける。
止めを刺すつもりは無い。峰打ちだ。そして、千晶の刀が再び鞘に納められる静かな音が、戦いの終わりを告げる合図となった。
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戦いの終った校庭で覚者達はタヌキを囲んでいた。
敵わないと悟ったためか、抵抗の意志は無さそうだ。覚者達もその様子を見て、むしろタヌキ達に優しく声を掛ける。何も本気で怒っている訳ではないのだ。
「タヌキさん達がお菓子ほしいのはわかるけど、他にもお菓子がほしい子たちを閉じ込めたりしちゃだめだよ」
「なあ、タヌキ達、なんで悪さしようとするんだよ? なにも一緒に楽しめばいいじゃねーか。ハロウィンなんだからさ!」
千晶と翔が話しかけると、タヌキ達は事の起こりを放し始める。内容は夢見と聞いた話と相違ない。詰る所は、人間社会への無知と彼らの食欲が原因だ。
「ハロウィンはみんなで楽しむお祭りなの。おかしはたくさんある方がうれしいかもしれないの。でもみんなで一緒にあつめるからたのしいの」
いつになく真面目な顔で話し始めたのは七雅だった。小さい子に言い聞かせるように、丁寧にハロウィンについて語る。
「逆の立場で考えてみてほしいの。たぬきさんだってだれかがひとりじめしてるのみたら、かなしくてぷんぷんしちゃうとおもうの」
それが効果てきめんだったようだ。小さな女の子に、怒られるのではなく叱られる。いい加減な性格のタヌキ達にも思う所があったらしい。
そこで七雅はニコリと笑った。
「だからみんなでわけっこしようなの」
「あのねっ。いたづらするよりもいっしょにたのしんだほうが、ずーとずーーーっとたのしいよっ!」
七雅とククルの言葉に顔を輝かせるタヌキ達。
その様子を見て、仕方ないと言った様子で笑う輪廻の手には用意していたクッキーがあった。
「目的はただ食べたかっただけだし、懲らしめてちゃんと誰にも迷惑を掛けずに楽しむのなら許してお菓子をしっかりあげようかしらねん♪ その代わり……」
何が来るのかと身構えるタヌキ達に、輪廻は思い切り抱き付いた。
「ちょっともふらせて貰っても良いかしらん? 1回ゆっくり触って見たかったのよねん♪」
戸惑うタヌキの感触を存分に輪廻は楽しむ。そして彼らが解放されると、日那乃と千晶はお菓子を差し出した。
「わたしもお菓子持ってるから、ね」
「ハロウィンは皆が楽しむお祭りだからさ! みんなで一緒にお菓子を食べよう」
「ミラノはあげるよりもらう側がいいっ!」
ククルの言葉に皆が笑う。
そして、みんながの笑い声が収まった所で、翔はタヌキ達にもう一度化けるよう促した。
「悪さしねーって約束できるなら、一緒に遊ぼうぜ!」
まだハロウィンパーティーは続いている。これから向かっても十分楽しめるだろう。そうすれば、多少の行き違いも「ハロウィンの楽しい思い出」になってくれる。
だから、七雅は照らす月に向かって、ハロウィンだけに使える魔法の言葉を口にした。
「とりっくおあとりーとなの!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『ハロウィンお菓子の詰め合わせ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
