<南瓜夜行>爆ぜるジャック・オー・ランタン
<南瓜夜行>爆ぜるジャック・オー・ランタン


●悪戯の炎
 駅前から長く伸びる商店街のアーケード。
 華やかな音楽が流れる中、並んでいる店のあちこちはオレンジと紫、そして黒といった装飾で彩られている。
 そんなハロウィンムードで盛り上がる商店街の一角に、たくさんのジャック・オー・ランタンが置かれていた。軽やかな文字が躍るPOPには、商店街の近くに住む農家たちから提供されたかぼちゃを使った旨と、それぞれのかぼちゃの生産者の名前が書かれていた。
「ママー、このかぼちゃなぁに?」
 母に手を引かれながら歩く幼い子供が、ジャック・オー・ランタンを指差すと、母親は笑って、POPの内容を伝える。
「ほら、中のろうそくの火がついてるから、あんまり近づいちゃだめよ」
 かぼちゃが置かれたテーブルを囲むようにバリケードを張ってはあるものの、何せ火がついているのだ。危ない、と母親は子供がいたずらしないように、そっと抱きしめる。
「えー……もっと近くで見たいのに。……あれ?」
 ぷうっと口を尖らせた子供が、テーブルの端に置かれた、ひときわ大きなかぼちゃを見て、首を傾げた。
「ねぇ、ママ。あれだけ、名前書いてないよ?」
「あら、ほんと……」
 生産者の名前を掲示し忘れたのだろうか。それにしても、この中でひときわ立派なかぼちゃだ、と、母子がまじまじと、そのジャック・オー・ランタンを覗き込んだ、そのとき。

 ぼんっ!!

 アーケードに破裂音が響いた。

●爆ぜるジャック・オー・ランタン
「死んじゃうような酷い事件じゃなくて……ちょっと、お母さんの髪が焦げてぷすぷすになってしまうくらいの。そう、いたずら……なんですが」
 困りますよね、と久方 真由美(nCL2000003)がため息をつく。
 ハロウィンの仮装行列――いまや日本でもすっかり浸透したこの行事。怪物に紛争した人たちの姿をあちこちで見ることがあるが、その中に、古妖も混ざって、悪さをしてしまっているのだという。
「そのひとつが、この……商店街に現れる、ジャック・オー・ランタン頭の古妖なんです」
 積極的に暴れている、というわけでは無い。むしろ、他の展示物のジャック・オー・ランタンに紛れながら、通りがかった一般人に対して爆発を起こし、いたずらして遊んでいるのだという。
「ランタンの火を爆発させるなんて、一歩間違えたら大変ですから。この古妖を、捕まえてきて頂きたいんです」
 とはいえ、と真由美が眉を困ったように下げた。
「現場は人通りの多い商店街です。そのまま行動すると目立ってしまいますので……」
 そこで、と言葉を区切った真由美がにっこりと笑った。
「皆さん、仮装して行ってみてください。そしたらその場で戦うにしても、古妖を現場から引き離すにしても、何かのイベントだと思わせることができます」
 後はささっとジャック・オー・ランタンをこらしめて捕獲すれば良い。
「もし商店街ではないところを戦場にするのなら、近所に公園があるから、そこが良いでしょう」
 閑静な住宅街の中にあるその公園は、昼間は人通りも少なく、目立つこと無く戦闘できるだろう。人目についたとしても、こちらも仮装していれば、イベントの練習中だと誤魔化すことができる。
「……ただ、公園におびき出す場合には、何か策が必要になるかと思います」
 商店街では無く公園のほうが、もっといたずらができると思わせることができれば、相手は覚者たちの誘導に引っかかって来るだろう。
「大きな被害が出るわけではありませんが、かといって放ってもおけませんから……よろしく、お願いしますね」



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:天谷栞
■成功条件
1.古妖の捕獲
2.なし
3.なし
こんにちは、天谷栞と申します。
いよいよハロウィンですね!
ハロウィン雑貨などをあちこちで見るとわくわくします。

●場所
とある駅前の商店街のアーケード内。
たくさんのジャック・オー・ランタンが設置されたコーナーの片隅に、ジャック・オー・ランタン頭の古妖が混ざっています。
周囲にはそれなりに買い物客がいますので、戦闘の巻き添えにしないように配慮願います。
戦場を公園へと移す場合には、そちらにジャック・オー・ランタンを誘い込む必要があります。

●仮装
オープニング本文にて真由美が言うように、仮装が必要になります。
どのような仮装をするか、また、商店街でどのように振舞うかなどをプレイングにお書きください。
怪人同士の抗争っぽい展開にする、魔女がお仕置きする展開にする……などなど、
周囲の一般人にショーだと思わせられるとベストです。
言ってしまえば、戦闘自体よりもこちらがメインです。

●古妖
ジャック・オー・ランタンの被り物を頭にかぶったような姿の古妖。
首から下は、てるてるぼうずのような長い白い布を身体に巻いています。
性格は割とおバカ。
いたずらがたくさんできるかどうかが物事の判断基準のようです。
戦闘能力は低いため、皆さんが本気を出せばあっさりとやっつけ、捕獲することができます。
能力は下記相当。

爆裂掌相当の能力:[攻撃]A:特近単
火炎弾当の能力:[攻撃]A:特遠単

それではよろしくお願い致します!
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月12日

■メイン参加者 8人■

『風に舞う花』
風織 紡(CL2000764)
『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『イージス』
暁 幸村(CL2001217)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)


 ハロウィンムードに満ちた商店街。たくさんのかぼちゃモチーフで彩られたアーケードを道行く人々たちの視線を集めるのは、ご近所の農家が丹精込めて作ったかぼちゃを使用した、地域密着型ジャック・オー・ランタンの展示スペースだった。
「へーおもしろーい」
「かぼちゃ大きいねー」
 けれど、タイミングが悪いのか、足を止めて近づく買い物客の姿は無い。
(「早く誰か近くに来ないかな」)
 うずうず。うずうず。今にも動き出したいのをじっと堪えて待つ『彼』の耳に、談笑する少年の声が届いた。
「そうそう、こんな感じにうちのショーも大量のジャック・オー・ランタンを照明に使うんだよな」
 こういう系のイベントは盛り上がるし、と展示されたジャック・オー・ランタンたちを指差してゾンビマスクがフランクに語る。その中身は『イージス』暁 幸村(CL2001217)。仮装している最中、偶然知り合いに遭遇して喋っている――という体で、彼は聞こえよがしに大きな声で喋った。
「おっと、俺は公園にまだこれから南瓜の中のろうそくに火付けないといけねーし。そろそろ行くわ」
 じゃあな! と友人に別れを告げる振りをして幸村が現場を離れてゆく。
(「――公園?」)
 公園にろうそくとは、と疑問に思った『彼』の視界に次に入ったのは、華やかな仮装の女性たち。
「こんにちはー、ハロウィンでイベントやるんで、良かったら見に来てくださーい!」
 ユニコーンをイメージした角をつけ、どこか馬っぽさを残した騎士―-『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)が通行人へとビラを配りながら呼び掛けた。人の流れが途絶えたタイミングを見計らい、ジャック・オー・ランタンの方へは近寄らないように、そこから僅かに離れた場所にぺたりとビラを貼ってアピールする。
「キッドちゃん、いいタイミングくらいでお菓子出して☆」
 顔の右半分を隠した妖艶なサキュバス姿の『裏切者』鳴神 零(CL2000669)が右手をすっと掲げると、一拍置いて右手からどさどさとたくさんのお菓子が現われる。
「はいこれ欲しい人! アゲチャウワ☆」
 道行く買い物客にお菓子を配りながら、公園のショーでも配るから見に来てね、とアピールする零。露出の多い衣装のお尻が気になって、時折直していると、背後のテーブルでもぞもぞと動く気配が感じられた。
「恥ずかしいですよぉ……」
 クラシカルなタイプの魔女装束に身を包んだ三峯・由愛(CL2000629)が、恥ずかしそうに両手で顔を覆う姿に、『雑読少女』秋ノ宮 たまき(CL2000849)も同意したくなるものの――。
「悪い子は魔女がお仕置きよ! みんなカボチャにしちゃうんだから! パンパンプキンパンプキン!」
 こうなりゃヤケである。こちらはミニスカートな魔女装束。ひんやりと脚に伝わる冷気がが落ち着かないけれど、いっそ開き直り、悪役の演技に徹する。
(「なんだろう、なんだろう」)
 急に賑やかになった周囲の様子に、ランタンがかたんかたんと揺れる。
 古妖の首から下は、長いテーブルクロスでちょうど隠れているので、ぱっと見ただけでは、たくさんのジャック・オー・ランタンの中にひとつ、古妖が混ざった事には気づけないかもしれない。だが、悪戯できる可能性を感じる言葉にちょこちょこと反応するその姿は、あまりにも分かりやす過ぎて、思わず拍子抜けしてしまう。
 注意深く見れば一般人でも明らかにおかしな奴がいると気づいただろう。もちろん、いざそうなってしまっては商店街はパニックになる。そうなる前に、と『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)が端のランタンに近づくと、ぽーん、と小さなかぼちゃが飛んでくる。
「あっ、花火だよお☆」
 きらっとお星様マークも流れ星になりそうな、そんな楽しげな声で笑ってみせながら、零がそのかぼちゃを受け止めて、空中に放り投げた。ぽんっ! と破裂音が頭上で上がると、道行く子供たちがきゃーきゃーと面白そうに騒ぎ出す。
「私も、今から公園でお餅を用意しに行くんです。とっても辛かったり、苦いお餅をみーんなに振る舞うんですよ」
 ランタンに近づいて、そっと鈴鳴が囁きかけた。和装メイドに割烹着の玉兎――何を振舞ってくれるのかと思えば、いたずらに満ちた餅を振舞うのだと微笑する。
 そわそわっ。何それ楽しそう! と言いたそうに、けれどまだ他のジャック・オー・ランタンに紛れて隠れようとしているらしく、大きなリアクションを返す事はせず、ただ身をぷるぷると震わせる。
「ふふ、ここじゃ悪戯のタネが大勢にバレちゃうじゃないですか」
 もし知りたいなら――と、鈴鳴は、雷鳥が配っているビラを一瞥し、そしてそのまま商店街を後にした。
 ビラも無くなり、他の仮装した覚者たちがいなくなったところで、『彼』がすくっと立ち上がり、ビラを手に取る。
 ビラにはポップな文字でこう記されていた。
『いたずらパーティー!』
『優勝者には、とっておきのいたずらグッズプレゼント!』
 そんな言葉に、いたずらっ子が反応しない筈が無い。 
 がたがたっ。がたたっ。
 ジャック・オー・ランタンの展示テーブルを、ぶつかってがたがた揺らしながら、一個のジャック・オー・ランタン頭が立ち上がった。
「いたずらパーティー!」


「おお……ホントに来たですね。イーッ!」
 商店街から少し離れた公園に、かぼちゃ頭のてるてるぼうずがぴょこんぴょこんと跳ねるように駆け込んで来る。その手に自分が書いたビラが握られてる事を確かめて、『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)がほっと笑った。語尾の奇声は、全身黒タイツで下級戦闘員に扮しているからである。
「さーって、これからショーの練習をします。危ないので離れてくださーい!」
 公園にいる一般人は10人にも満たないが結界での排除はできない。ならばこれはショーだ、と狼を模したパーカーと篭手で狼女に扮した『罪なき人々の盾』鐡之蔵 禊(CL2000029)が吹聴する。
 ショーの練習なら彼女たちが仮装をしていてもおかしくない。
 ジャック・オー・ランタン頭のてるてるぼうずがやってきても、たぶんおかしくない。
 ドンパチしたって、きっとおかしくない!
「トリック・オア・トリートー!!」
 公園の外からぽーんと小さなかぼちゃが投げつけられ、たまきが断腸の思いで八百屋で買ってきた大きなかぼちゃのすぐ横へと落下し、ぼんっと爆発する。
 破裂音にざわつく一般人たちの声を掻き消すように、大きな声で禊が公園の入り口へと向けて、びしっと指を突きつける。
「この戦いで勝った方がよりすごいいたずらものだ! 君たちと私たち、どっちがいたずら者の頂点か決めよう!」
 その指差した先にいたのは、人間の子供なら10歳にも満たないだろう背丈の、かぼちゃ頭のてるてるぼうず。
「いざ、じんじょうにしょうぶだー! いたずらしちゃうぞー!!」
 いたずら合戦と解釈したらしいジャック・オー・ランタンが、こちらへと向かって走ってくる。
「ふははー! ハロウィンにいたずらする悪い子だなお前は! お菓子が欲しければこの鳴神サキュバスを倒すのだー!!じゃないと食べちゃうぞお!!」
 ノリノリで演技する零の脳裏を、サキュバスが食べるなんて何だか卑猥な響き、なんて発想が過ぎるものの――。
 大丈夫です。このお話はめっちゃ全年齢対象です!
「こんなやつら、リーダーのとっておきの悪戯でこてんぱんですよ!」
 やっちまいましょう! と戦闘員紡もイーッ! と奇声を上げながら、仲間たちとジャックと両方を煽る。
「わわ私が、や、やや、やっつけてあげましょう……!」
 一方こちらは緊張しすぎて棒読みガチガチ。由愛が硬すぎる動きで機関銃を構える。
(「あんまり大きな怪我をする人間は出ないってことらしいが、人通りの多いとこでパニックが起こるってのもよくないな」)
 ジャックが投げつけたかぼちゃの爆発もさほど威力は高くなさそうだが、一般人の先客は巻き込めないと、ゾンビ幸村がのそりと身構える。
「さっくり片付けちまうか」
「狼に魔女にサキュバスにゾンビっ! あと戦闘員! いっぱいいたずらしたうぞー!」
 意気込むジャックへと、鈴鳴がエアブリットを撃ち込む。目で認識することは難しい空気の弾丸がジャックに撃ち込まれると、ぎゃああと悲鳴を上げてジャックがのけぞる。それを見た一般人から、おおおと歓声が上がる。何が起きているのか理解できない一般人たちから見れば、息のぴったりと合った演技に見えるのだろう。
「今のいたずらすっごいかっこいいです!」
 これは本気の戦いではなくショー。いたずら。そう一般人たちにちゃんと思い込ませるように、紡はいたずらという言葉を欠かさない。
「ふふふ……に引っかかりましたね。さぁ、カボチャ味のお餅になってもらいましょう!」
「お餅だとぅ!? ボクの魂はケルトにあるんだ、日本の餅になんてなってられっか!」
 日本に生息する古妖が言っても、少々空しいが、その拳へと集中した魔力は確かだ。小さな手へと集中した炎が騎士姿の雷鳥へと炸裂する。
「あっついぜー、けど騎士さん、今ので怒りの炎に火がついちゃったなー」
 目に止まらぬ速度で繰り出されるランスの連撃。騎士の演技はどこへやら、けれど楽しいからこれはこれで構わないだろうと、生き生きとした表情で女は跳躍する。
「炎ならあたしも負けないよー!」
 狼女禊の身体が、呼び覚まされた火行の力で活性化する。熱い血潮が四肢を巡れば、まさに狼になったような気分で、がおー! と咆哮ひとつ。
 そして、ジャックが炎を操るのならばこちらは水。たまきが水礫を飛ばせば、日光に輝いた水滴がかぼちゃ頭を撃ち抜き、怯んだところを由愛の纏霧が包み込み、ジャックを弱らせる。
 自身の械の力を高め、幸村が一歩前へと踏み出した。年齢の割に長身の少年がゾンビマスクもあいまって名状しがたい迫力を醸し出すのに対し、小さなジャックの姿はいまいち迫力が無い。
 サキュバス衣装の零が、ふははと哄笑しながらジャックの退路を断つように背後を塞ぎ、飛燕の拳を叩き込む。ただのいたずらっ子な古妖にあまり怪我をさせるものでも無いからと、普段から使う大太刀は、今回は使わない。それでもその一撃は十分に重くて、ぷんすぷんすとジャックが激昂する。
「ぴゃー! もう、怒ったぞー!!」
 よく見ると小さくくり抜かれていた鼻の穴から、ふんすふんすと荒い鼻息を漏らしつつ、ジャックが再び小さなかぼちゃの火炎弾をぽいぽいっと投げつける。
 歓声や悲鳴を上げるギャラリーの存在が、ジャックの悪戯欲を刺激してしまったのもあるだろう。覚者たちを飛び越え、あわや一般人へと届きそうな位置へと、放り投げられたかぼちゃが降下する。

 どんっ!!

 ほぼ同時に動いた雷鳥と幸村――到着が少し早いのは幸村だった。一般人への射線を遮り、その身体でジャックの火炎弾を受け止める。
「グ……」
 あえて漏らしたうめき声に、ギャラリーからさらなる歓声が上がる。
「ママー! あのゾンビさん、ぼくたちを守ってくれたよ!」
 すっかり覚者たち側がギャラリーに好評な様子に、何よりいたずらができていない様子に、ジャックが再びかぼちゃを投げつけて――。
「ぐあー!」
 ジャックの攻撃からたまきを庇い、紡ががっくりと崩れ落ちる。
「お、おれっちのこと、忘れないでください……」
「つむ……じゃなかった、せっ、戦闘員ー!」
 流石に呼び名までは決めていなかったので、戦闘員呼ばわりになってしまったが――悲しげに悲鳴を上げたたまきから、涙……ではなく癒しの滴が、ぽたりと紡へと落ちた。
「ママー! あの黒い人かわいそう!」
「そ、そうね……」
 がんばってー! と子供たちの声援が覚者たちへと送られる。
 それなら、このショーの決着をつけても、もう大丈夫だろう。
「殺しまではしないよ。でーもー」
 刃の如き鋭い蹴りを叩き込みながら、ジャックへと肉薄した雷鳥がにっと笑う。
「火とか危ないのはだめ、明かりで怖い影作って脅かすくらいにしときなさいね」
 かくいう雷鳥さんも影絵には自信があってね……と語り出すものの、それはまったくジャックの耳には入っていないようだった。ふええ、と泣き出しそうなジャックを、ぺちりと幸村が軽く叩いた。……全力で攻撃をするのも、少々心苦しい空気だった。
「じゃあ、これでおしまいっ!」
 禊の鋭刃脚がジャックの顔に接近し――。
「こ、降参! ボクの負けですー!」
 そこで、白旗が上がった。


「ううう、負けたぁぁ……」
 自慢のかぼちゃ頭はぼろぼろ。くすんと肩を落としたジャックが、へにゃりと座り込んだ。
「ねぇ」
 ジャックに合わせるようにしゃがみ込み、禊がそのかぼちゃ頭を覗き込む。
「今度は、いたずら無しで一緒に遊ぼう? また、お話できるとうれしいな」
 その言葉に、困った、というようにジャックが首を傾げる。
「で、でも、ボク、イタズラしない生活なんて考えられないよぅ」
 ジャックにとっては悪戯は食事や睡眠と同じく、しなければ生きていけないレベルのものなのかもしれない。だが、だからといって悪戯を看過する訳にもいかない。
 ジャックが禊から受け取ったお菓子を、ひょい、と零が摘み上げる。
「かぼちゃを爆破させる悪い子にはお菓子あーげない!」
「やだー! お菓子欲しい、お菓子ちょうだいー!!」
 ジャックの真っ暗な空洞の目に涙が溜まる。その構造は果たしてどうなっているのか――そんな疑問はさておき、零はジャックの眼前にぴっと小指だけ立てた手を差し出す。
「これから気を付けるって約束するのだー! がおー!」
 陽気なサキュバスの笑顔に、こくこくと頷いたジャックと指切りをして、お菓子を返してあげれば、お菓子だー! とジャックが戦いの疲れも忘れたように飛び跳ねた。
 けれど、如何に和やかな時間となったとしても、街中にいつまでも古妖を置いておく訳にはいかない。
「いっぱい遊んだでしょう。だから、今年のハロウィンはここまでです」
 ね、となだめるように言いながら、鈴鳴がジャックのかぼちゃ頭の汚れを指で軽く拭う。
 どんなに楽しくても、祭りはやがて終わるもの。ハロウィンが終われば、ジャック・オー・ランタンの古妖が悪戯をする場所なんて無くなってしまうのかもしれない。悲しげな顔をするジャックに、けれど彼女は柔らかく微笑んで。
「また来年もありますから、その時は遊びに来て下さいね」
 その言葉に、ぱっと一瞬にしてジャックの表情が明るくなった。
「えへへ、来年はもっといーっぱいイタズラするよ! だから……」
 立ち上がったジャックが、もじもじと照れくさそうに身体を揺らす。
「来年も、ボクと遊ぼうね!」
 来年も。その約束が果たされるかどうかなんて、誰にも分からない。けれど、その約束を心から喜ぶ姿を見せられては、嫌だ、なんて果たして誰が言えようか。
「それまで元気にしてろよ」
「みんなもね。来年も遊んでくれなきゃ、嫌だからね!」
 無邪気な幼子のような願いに、幸村が微かに笑った。来年。一度己は死んだと自覚し、誰かを守るために身を挺する事を厭わない彼にとって、来年のハロウィンは果たして近い未来だったのか、遠い未来だったのか。
「ほら、反省したならさっさと帰りな。じゃないとまた怖ーいお姉さんたちにいじめられちゃうよ?」
 ぽん、とジャックの背中を叩いて雷鳥が促す。反省しないようであれば、F.i.V.E.へと無理やりにでも連れ帰るしか無かっただろうが、すっかり反省したのなら、帰してあげても良いだろう、そう判断して。
「それじゃあね。えっと、ハッピーハロウィン!」
 今度はお菓子を求める事も無く、悪戯をする事も無く。ハロウィンを祝す言葉を残して、ジャックが公園の外へと駆け出して行った。
 悪戯合戦はハートフルストーリー仕立てで幕を閉じる。
「素敵だったわ!」
「面白かったー、ありがとー!」
 ぱちぱちと一般人たちから拍手が送られると、そういえば一般人たちの前で、仮装をして演技をして、戦っていたのだと改めて思い出される。結界で、余計に人を集めることにならなかったのは、心底幸いだったのかもしれない。
「さっさと着替えるわよ! 風邪ひいちゃう!」
 こんな恥ずかしいかっこ、もーダメ限界! そうたまきが辛抱ならないと叫び、隣で由愛も同意するように、恥ずかしげに頬を染めながら、こくこくと頷く。任務の為ならばと我慢して仮装したけれど、いざ終わってしまえば、羞恥心というものは蘇るもの。
 けれど、そんな恥ずかしがる由愛の姿は可愛らしいし、衣装も良く似合っている。
(「……女子力の差かしら」)
 ちょっとフクザツ、と、たまきの唇から小さな溜息が零れた。
(「本当はあたしもめっちゃ可愛い仮装で遊びたかったです……」)
 溜息はもうひとつ。自分の扮装を改めて見下ろすと、紡も切なさを覚えずにはいられない。何が悲しくて、花の女子大生が全身黒タイツに身を包まねばならないのか。これを黒歴史と呼ばずして何と呼ぶ。今ここに酒でもあれば、ぐいっと呷りたくもなる気分だ。
 悲喜こもごものハロウィンの一時。晩秋の冷気と、そして浮き足立つ人々の笑声を乗せて吹く風に、ランタンの炎は爆ぜることなく、ゆらゆらと揺れる。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『電池式ジャックオーランタン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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