<南瓜夜行>キャンディ☆レイン
<南瓜夜行>キャンディ☆レイン


●晴れ時々……

 オレンジ色のカボチャのランタン。可愛らしくディフォルメされた幽霊。商店街は普段の賑わいとはまた違った盛況を見せている。
 休日ということもあって、家族連れやカップルなどが通りを行き交う。華やかでポップなBGMが、やや年期が入って音割れするスピーカーから漏れる。それを境に、ぞろぞろと思い思いの仮装をした人々が表れる。眼を出すために穴を開けたシーツを被った、小さな子供から、巨大な鎌(もちろん、発砲スチロールや何やらで作った偽物の小道具だ)を携え、黒いローブと禍々しいマスクを被り、死神のコスプレをしている、者、ジャック・オ・ランタンをかたどったカボチャととんがり帽子を被った者まで、百鬼夜行と言うには些かポップなオバケの行列がアーケードの通りを進んでゆく。見物客はその様子を眺めて言葉を交わし、ある者はカメラに収め思い出にしようとしている。
 そうした賑わいの中、その中でも少し大きな、と言っても三階建てのビルの屋上に一人の女性の姿があった。男物のスーツに、黒い傘とシルクハットにマント。顔立ちは整っているが、眼の下には大きな隈が目立ち、肌も青白い。口許には牙のような白い突起がある。ドラキュラの仮装だ。その背中に、サンタクロースもかくやという大きな袋を担いでいること以外は。
「トックリ・オア・トリート……で、合ってましたっけ? まあ、いいや……」
 どこか卑屈っぽい、喉を鳴らすような笑い声を立てながら、女は袋を覗き込んだ。袋の中にある者は、大小さまざまなキャンディ。小粒の包装をされたものから、どんぐり飴のようなやや大きな物。挙句の果てにはうずまき模様の棒付きキャンディーまで。
「あ、雨女とかって、嫌われてる私でも……これで……うふふふ……」
 幸の薄そうな顔立ちに浮かぶ笑み。それはさながら悪い魔法使いの様でもある。
「ト……トックリ・オア・トリート、です!」
 古妖――雨女が、飴の雨を降らせる。アーチの下。仮装行列の真っただ中に。


●雨のち飴

「トリック・オア・トリート……オホン。もう、そういう歳でもありませんか」
 小さなとんがり帽子に星のついたステッキを指示棒代わりにしながら、久方 真由美(nCL2000003)ははにかんだように笑う。覚者の囲む机には、色とりどりのお菓子がある。真由美はそれを勧めながら、ブリーフィングを始める。
「ハロウィンに古妖、雨女が紛れ込む……ええ、それだけなら大したことでは無いでしょうけれど」
 問題は彼女のしでかすことであると真由美は続ける。
「雨女……その意味は当然、良い使われ方をしていません。雨女は自らのイメージアップに乗り出したのです……雨ではなく、飴を降らせれば良いのではと」
 問題は、場所であった。三階、つまりは十メートルばかりある高さから、大小様々な飴を降らせようと言うのだ。死人が出ることはまずないだろうが、それでも多少なりとも混乱は免れないし、怪我人も出るだろう。
「ですが、お祭りごとというものは、皆で楽しむものです。依頼の範疇ではありませんけれど出来れば、彼女も楽しめれば良いですね」
 そう言って、真由美は普段通りの微笑を浮かべる。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:文月遼、
■成功条件
1.雨女のビルの屋上からの飴撒きの阻止
2.なし
3.なし
 いらっしゃいませ。文月遼、です。「、」までが名前です。そろそろ覚えてくれた方もいるでしょうか。

●依頼
 ハロウィンにかこつけて人気アップを図る古妖「雨女」による屋上からの飴撒き阻止。逆に言えば、屋上から以外の飴云々ならば問題はありません。


●ロケーション
 こぢんまりとしたビルの屋上です。ビルそのものは現在テナント募集中で人が入ってくることは無く、屋上まで行くための鍵も渡されます。広さは10×10ほどの広さです。下の商店街では大きな音量のBGMや人の通りで騒々しく、よほどのことが無い限り戦闘の音が下へ届くことは無いでしょう。

●エネミー?
 古妖「雨女」。名前通り雨を呼ぶ妖怪です。俗語的に使われる雨女の語源でもある彼女は、自身の名前のイメージアップを図ろうと必死です。また、そうした扱いを知ってか、少し卑屈で、被害妄想がちです。覚者たちが来た場合、自らのイメージアップの妨害に来たと思い込んで攻撃を仕掛けてきます。ある程度落ち着かせれば対話は可能でしょう。スキルは以下の通りです。

・局地的豪雨:特遠列
 ひとつの列に雨を降らせます。バッドステータス[鈍化]を付与します
・スウィート☆レイン:物近単
 古妖の腕力を活かして飴を投げつけます。サイズ(包装、どんぐり飴、うずまきの棒付きキャンディー)によってダメージが変わります。結構痛いです。
・どんより:特遠列
 湿度を急速に上げることで相手を不愉快にします。バッドステータス[不幸]を与えます
・被害妄想:パッシブ、自
 何でも悪い方向に考えてしまいます。話を聞いてくれません。一定のダメージを受けると我に帰り、解消されます。

●仮装
 覚者と知覚させずに近付くには有効かもしれません。お好きなように楽しんでください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
公開日
2015年11月11日

■メイン参加者 6人■

『インヤンガールのインの方』
葛葉・かがり(CL2000737)
『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)

●幕間

 古ぼけたスピーカーから、音割れした賑やかな音楽が流れる。その隙間を抜けて、六人の男女が歩いていた。空はやや雲がかかっているものの、悪い天気では無い。イベントにはちょうど良い気温だった。
 マントに申し訳程度に牙をつけ、吸血鬼の仮装に身を包んだ天明 両慈(CL2000603)は、どこか着心地が悪そうにマントの位置を調整したり、肩を上げて動きを確かめたりしている。がさがさという衣擦れの音に、頭をすっぽりと覆うかぼちゃを被った指崎 心琴(CL2001195)が振り返った。ジャック・オ・ランタンを模したかぼちゃの奥、金とヒスイの眼が吸血鬼姿の彼を見る。
「どうかしたのか。よく似合っているぞ?」
「似合う似合わんの問題ではなくて、性に合わんのだ。こういう、仮装というやつは」
 不愛想ながら、普段とは異なる衣服や環境に両慈の切り返しはやや鈍い。そんな様子を見て、七つの海を渡り歩くカリブの海賊よろしいドレッド・ヘアのウィッグとバンダナ、髭の仮装をした鈴白 秋人(CL2000565)は笑いを堪え切れず、吹き出すように小さく笑った。その隣で丈の短い巫女服と、狐の尻尾とカチューシャ、もみじの眼帯に種子島鉄砲を担いで戦国チックに決めた『おとら狐が狙い撃つ』葛葉・かがり(CL2000737)もニヤニヤして、慣れない仮装をする両慈を見ている。
「笑うな、お前たちも」
「いやぁ、色っぽいわぁ、雨女も思わずクラッとくるんとちゃいます?」
「ええ、良く似合っています。そうですよね?」
 秋人がくるりと振り向く。とんがり帽子に星のついたステッキとローブ。足元を赤い、小洒落たレインブーツでポップな魔女といった仮装の『罪なき人々の盾』明石 ミュエル(CL2000172)も小さく頷いている。帽子からはみ出したアホ毛がぴこぴこと揺れる。
「みんな、似合ってる……そうだよね?」
 振り返って、ミュエルは最後尾を歩く『裏切者』鳴神 零(CL2000669)を見た。傷を隠す代用品としての包帯や角を模したカチューシャ。背中から腰のギリギリまで開いたドレスやタトゥーシール。小悪魔かもしくはサキュバスか。とにかく、この六人のうちで最もパンクな格好をしている彼女は、時折視線を後ろ、自分のお尻の辺りに向けている。そのせいで、ミュエルに声をかけられていることに一瞬遅れた。
「あ……うん! 似合ってるよ。すっごい、カッコイイんじゃない!?」
 視線が零に向かっていることに、ようやく気が付く。つとめて明るく振る舞っているということが、覚者たち、正確には心琴以外は理解していた。
「そうか。お前もよく似合っているぞ?」
「うん? うん。知ってる知ってる! だからさ、早く行こう!? ね?」
 零がまくしたてる。年齢よりもいくらか幼く見える少年の言葉であっても、今の仮装に身を包んだ彼女にはいささか刺激が強い。
「……そろそろ、屋上ですね。気を引き締めて行きましょう」
 秋人が苦笑交じりに話題を変える。心琴も「そうだな」と屋上への扉へ手をかける。随分と長い間使われていなかったのか、錆びついていたらしく、きぃきぃと蝶番が破廉恥な音を立てて軋んでいる。
 薄暗い階段から、視界が開ける。覚者達の視線の先には、シルクハットに紳士服、そして牙――吸血鬼の仮装に身を包んだ、奇妙に青白い肌の女がいた。音に気付いて振り返った彼女と、視線が合う。顔立ちこそ美人の部類ではあるが、隈の出来た、どこか卑屈っぽく、視線の定まらない幸の薄そうな表情。そしてその横に置かれている、巨大な布の袋。収まりきらずにこぼれた飴がいくつか転がっている。
 依頼の目標である古妖、飴女――もとい、雨女がいた。彼女は眼を見開き、覚者達を見ている。
「おや。両慈とお揃いみたいですね」
「茶化すな、秋人」
 両慈と雨女をみて、秋人がほんの少しおどけてみせた。軽くためいきをつく両慈。かがりは雨女の纏うダウナーな、じめっとした気配を感じ取った。むっつりとしているものの、同じ価値観を見つけた者特有の『分かっているよ』という空気を醸し出す。
「……なんや親近感。感じるなぁ」
「む? 格好は似ていないぞ」
「……そういうとこ、じゃないかな?」
 心琴が小首を傾げる。ミュエルがどこまで説明するべきか戸惑い、フォローに入った。思い思いの仮装をしている覚者を見て、雨女がぽつりと呟いた。
「……オバケ」
 ――そっち(古妖)が言っちゃうんだ。
 そんな思いを覚者達は押し込んだ。零が恥を隠すための仮面がわりとテンションを上げる。心琴もそれに続く。
「……オホン。飴女さん! トリック・オア・トリートです! 飴、くーださい!」
「うむ。トリック・オア・トリートだ!」

●トックリ・オア・トリック

 怯えたような表情の飴女だったがその言葉に釣られ、思わずと言ったように表情を綻ばせる。うふ、うふふといった、外見通りのどこか湿っぽい、笑うと言うよりはにやけるといったふうに表情を歪ませる。がさごそと、袋の中を漁り、猫背気味の姿からは想像できないような機敏さで配って回る。
「そ、そりゃあ。こんなにいっぱいありますから……ふふ、普段は嫌われ者の私でもね。ふふふ。この位の事はね……うひひ。すみません。あまり、お話とかに、慣れてなくて」
 どこか湿っぽい空気が屋上を包んで回る。感情が昂ぶるほど、彼女の周囲の湿度が増していくようだった。
「トックリ・オア・トリートですものね。うふふふ……持って行ってください」
 卑屈っぽい笑い方をしながら、飴を配って回る。色、サイズ、様々な飴が袋から出てくる。駄菓子屋もかくやというそのバリエーションの豊かさに秋人も驚きを隠さなかった。
「ありがとうございます。随分と種類がありますね」
「ええ。そりゃあ。この日のためにコツコツと作ったり、買ったり……」
 楽しそうに雨女は言う。軽い躁状態のようになっていて、話とは別の危うさを感じさせた。幼くも、鋭敏な知性。心琴は感情の振れ幅の激しさに僅かな危惧を抱いた。
「それと、トックリじゃなくて、トリック・オア・なんとやら言うみたいですわ。徳利じゃちょっとヘンテコやからなぁ」
「そ、そうでしたか。確かに、最近来たイベントにどうしては思っていましたが……これは、ご丁寧に」
 ペコリと雨女が頭を下げる。いやいやこちらこそどーも、とかがりもお辞儀をする。ぺこぺことしばらく頭を下げ合うやり取りが続いた。その仕草のなかで、こっそりと結界を張ることも忘れない。
「けど……こんなにいっぱい……?」
 ミュエルが知らない風を装って首を傾げる。いくつか配ったとはいえ、袋はまだパンパンに膨れていて、収まりきらなかった飴がいくつか転がっている。多少なりとも心を開いた雨女は、いくらか饒舌に続ける。
「うふふ……私、雨女って言うんですけどね……じめっとした空気って、みんな嫌って、私も嫌われて……変わりに、飴ならって。ほら、ちょうど下にはいっぱい人もいて……」
 雨女がフェンスの無い、屋上の縁を指差した。BGMに混ざって、がやがやと歓声が聞こえる。それなりの人数によるパレードだ。そして、今の言葉こそ、諌めるべき行為であった。
「お前の邪魔をするつもりじゃないが、それは危ない。人にぶつかる力量としては14.2kgくらいかな? 馬鹿にならんもんだな。こんな小さな飴でもちょっとしたテロになってしまう」
「いきなり、飴、降ってきたら……みんな、怪我しちゃうし……逆効果、かも……」
 心琴が、出来るだけ刺激をしないよう、具体的にその危なさを伝える。ミュエルも頷いて、やんわりと告げる。零も続ける。
「危ないみたいだから、下にいって飴を配らない? それかほら、子供とかに配るとか!! こんな屋上にいたら、飴しか見えなくて肝心な貴方が人間たちに見て貰え――」
「邪魔、するんですか……?」
 雨女の耳に届いたのは、飴をばらまくことへの危険性ではなく、ネガティブなワードが優先された。ぽつりと、雨女は呟いた。ぽつりと屋上に滴が落ちる。ぽつぽつと、屋上だけが梅雨になったように雨が降る。徐々に強さが増す。
「催しが雨で台無しになる度に私のせいって言われて……悪口にされて……いいアイデアだと思って、いっぱい準備をして……それを、邪魔するんですか?」
 雨は強くなった。屋上だけが、雨で切り取られ小さな檻のようになる。かがりがフォローにかかるが、薄々効果が無い事を感じ取り、火縄銃を捨てた。
「とりあえず飴ちゃんをいきなりばら撒いてもイメージアップにはなりませんで。望まんものを降らせるわけやから――ああ、もう!」
 秋人と両慈も身構える。雨音で消えないように、少し声を張る。
「スイッチが入ってしまったようですね……」
「どうやら、眼を醒めさせる必要があるらしい……葛葉。そいつを使わないのか?」
「モデルガンや! モノホンでも、湿気て撃てへんやろうしな。それに、重くて重くてしゃあない!」

●雨音の中で

「……トックリ、じゃなくて。トリック・オア・トリートです!」
 雨女がポケットからいくつかの飴を取り出し、力強く放る。枝のように細い腕だったが、そこから放たれる飴は即席のつぶてとしては十分以上の威力を発揮する。
 零の額に飛んだそれをどうにか腕でガードする。単なる砂糖の塊とは思えない威力。落ちそうになった飴を受け取り、口へと放り込んだ。
「そうか……これがお前なりのトリックであるのであれば受けるのが流儀で礼儀で、お約束だ」
 心琴が、因子の力を解放する。拳を握ると共に雨女の周囲に振る雨が徐々に形を変え、霧となって彼女を包む。自分の領域である物が突如彼女自身に纏わりつき、一瞬戸惑う。
「ハロウィンは、こんな日じゃないよっ! 私たち、傷付けたいわけじゃないの!」
 動きが鈍ったのを見て、零は一気に踏み込む。手にした得物の刃では無く、そのお腹を当てるようにして、手加減をしながら攻撃を加える。雨で動きが鈍っているものの、鋭い二連撃を、戦いが専門では無い古妖が捌ききれるわけもない。
「お願い……話を聞いて……!」
 ミュエルが手にした小さな杖に木行の力によって植物を纏わせ、鞭よろしく振るう。ダメージを与えると言うよりも、動きを封じることが目的のようだった。
「なんとか、正気に戻ってもらわないとな……」
秋人が術符を飛ばす。雨で術符の動きも普段通りとはいかなかった。しかし、鞭と霧によって行動を阻害されていたために当てるのは難しい事では無い。
「これっくらいの湿気で音を上げてたら、京都じゃ住めませんでってな!」
 衣服が肌に張り付く不快感も、彼女にとっては馴染み深い心地よさだった。首をかるく回してから古びた拳銃を引き抜き雨女を狙い撃つ。衝撃を与えるのであれば、掠めるだけでも十分な効果を発揮する。
「音を上げる訳じゃないが、あまり気分の良い物では無いがな」
 両慈の合図とともに書物がひとりでにページを開く。それによって、覚者の動きがほんの少し軽くなる。
「そろそろ、落ち着いてくれないか!」
 心琴が、今度は手を空にかざす。それに呼応して、屋上の上空にある雲を破り、蒼穹が見えた。一筋の雷が落ちる。雨女はそれを見てすぐさま鞭を振り払い、地面を蹴り、後ろへステップを踏んで避ける。すぐさま別の飴を構え、投擲モーションに入ろうと足を一歩下げる。
 しかし、コンクリート製の滑りやすい床。さらに、転がっている飴が災いして、雨女はバランスを崩す。誰が悪いわけでも無いトラブルだった。
 彼女の半身が、宙に浮いた。
「ああっ……!」
 真っ先に反応したのは、秋人と零だった。それぞれが片足を掴んで、逆さ吊りの格好になり、雨女は辛うじて落下を免れる。長い髪が重力に従って垂れる。滴がぽたぽたと垂れて、地面に落ちる。仮装行列が覚者達のいるビルに注意を向けなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
「大丈夫ですか? さすがに、本人が降るのは笑えませんよ」
「引き上げるよ! せーのっ!」
 零の掛け声。残りの覚者達も、秋人や零を支える形で雨女を引き上げる手伝いをする。気が付くと、雨足は徐々に弱くなっていた。

●そして残ったものは

「落ち着いたか?」
「え。ええ……ありがとうございます」
 両慈が、普段通りの不愛想な表情で雨女を見ていた。先程のような必死さや執念のようなものはとうに彼女の表情から消え去っていて、傍から見れば幸の薄い、どこにいる女性の様でもあった。
 両慈が雨女に手をかざす。なにかされるのでは、と雨女が身を硬くする。しかし、その何かは回復だった。
「あの……怒らないんですか?」
「怒るんじゃないぞ。僕はこのお化けのお祭りで、古妖が一緒に楽しみたいというのであればそれはいいことだと思う」
 古妖の雨女も、気力を使ったのだろうと心琴が彼女に自身の気を分け与えながら変わりに答えた。両慈も突き放すような、けれどいくらか口調を柔らかくする。
「こうした祭りで長々と説教をすることが無粋だということくらいは理解している」
「それで、雨女ちゃ……飴女ちゃんはどうして降らせようと思ったの? 下で配ったりとか、色々出来ると思うなって」
 零が小首を傾げる。もともとぴったりとした服装だけあって、どこか艶っぽさが強調される。雨女が声を荒げると言うよりは、取り乱すように言う。
「そんなっ! 出来る訳無いじゃないですか! ここ、こんな人見知りの私が下で、あんな賑やかなパレードにっ!」
 それに……と、雨女はもう一度声を落とす。
「雨を降らせる雨女。所詮私は古妖の中でも嫌われ者で……」
 しゅんとした彼女の様子に、覚者達が苦笑いした。かがりと心琴がその意見を代弁するように言う。
「雨もええもんやと思いますよ。ウチみたいに雨模様が好きな者もちゃんといてる、嫌われるばかりやない」
「そうだな。雨は地上に豊みをもたらす。お前は豊穣の女神と言い換えたほうがいいのかもしれんな 」
 ほんの僅か、表情が緩くなった。それでも、長年の扱いで培われてきたマイナス思考を戻すには至らない。
「でも、イベントとか催し物で降ったら、嫌じゃないんですか……?」
 視線を落としたままの雨女。ミュエルはちょいとその視線の先へと足を、正確にはかわいらしいレインブーツを差し出した。
「これ……どう思う?」
「……とても、似合っています」
「今年の梅雨に、学校の友達と、お揃いで買ったんだよ……。同じデザインの、傘も……可愛くて、使うの、楽しみで……。雨の日だけの、オシャレもあると思う」
 さらに、雨女は顔を綻ばせる。先程までの様な気負いの無い、自然な笑みだ。それを見て、心琴がぽつりと言った。
「お前そうやって笑ったら綺麗だな!」
 それを聞いた瞬間、雨女がわたわたと両手を振る。ほんの僅か、顔に赤みが差した。
「な、なにを言ってるんですか! こんな陰気で思い込みが激しい奴に言う言葉じゃないですって!」
 それを見た秋人がくすりと笑った。
「物は良いようですよ。物静かで、色んな所に気が回るとか、ね」
「だ、だからっ! そういうの、良くないですって!」
 さらに顔を赤くして、雨女は取り乱す。覚者との交流の中で、彼女の心は解されつつある。零がすっと雨女の手を握って、顔を近づける。
「今なら、大丈夫だって。きっと飴くれたら、子供たちも喜ぶよっ!」
「そ、そうでしょうか……で、でも。やっぱり、人の多い所は……」
 今一つ、踏ん切りのつかない雨女。彼女を見ながら、かがりは火縄銃の銃身で自身の肩を軽く叩いた。にやりと楽し気に唇を歪ませる。
「ほなら、私たちが練習台になったりましょ。下のパレードほどやないけど」
「パーティですね。当然、そのつもりですよ」
 秋人が頷いた。両慈も、わずかに顔をこわばらせるが、反対するというわけではなかった。
「僕ら相手にも、自然に振る舞えればきっと変わる。さっきの顔をもう一回だ」
 雨女はさらに困惑する。
「い。いえ。ですけれど……」
「そうじゃなくてさ! こういう時に言う言葉、あると思うんだよねっ?」
「……私たちも貰うばっかりじゃ、ない」
 零がぶんぶんと雪女の手を握って上下に振る。ミュエルも小さな笑みを浮かべる。ややあって、雨女は、自分の言う言葉を見つけた。
「と……トリック・オア・トリート」
 覚者達が笑みを浮かべる。濡れて冷えた身体を温めるお茶。そして色とりどりのお菓子。
 ささやかなお茶会が始まる。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『コーラキャンディ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:指崎 心琴(CL2001195)
『おばけのキャンディ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:葛葉・かがり(CL2000737)
『べっこう飴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鈴白 秋人(CL2000565)
『パインキャンディ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『どんぐり飴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:鳴神 零(CL2000669)
『うずまきキャンディー』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:天明 両慈(CL2000603)




 
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