<南瓜夜行>にゃんにゃんハロウィン☆
●或る古妖の決意
ハロウィンが近づき、年に一度のお祭り騒ぎに街は賑わいを見せていた。通りのあちこちで、お化け南瓜にちなんだ飾り付けが行われ――鮮やかな橙や黒は、何処か人々の心を浮き立たせる。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りなのだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっているのは皆も知っている通り。ハロウィンの仮装も、元は悪霊に見つからないようにする為のものだが――別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローやヒロインの仮装をする者も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいる、と言う事なのだが――。
「にゃあ」
――と、盛大な前置きをしておいて何だが、問題の古妖は人間ではなく、猫たちの中に混ざっていた。とある某所のテーマパークで『にゃんにゃんハロウィン☆~構ってくれなきゃいたずらするにゃ!』と言う、猫ちゃんと触れ合うイベントに潜り込んだのだ。
色々な種類の猫たちが集まった其処で、彼らはそれぞれに帽子やマント、リボンやつけ尻尾でおめかしして仮装――来場者と思う存分触れ合う筈だったのだが。
「……にゃあ。にゃあー」
――ハロウィンだというのなら、こっちがニンゲンをおどかしてやるのだ。折角だからニンゲンの沢山やってくるこの場所で、仮装したニンゲンを逆におどかして大騒ぎさせるのだ。なに、集められた猫たちを操れば混乱させるなど容易いこと。
「なーう」
そんな風に思考を巡らせながら、満足そうに鳴いた三毛猫の尻尾は――二股に分かれていた。
●とりっく・おあ・にゃんこ
「大変だよーっ! ハロウィンに紛れた古妖が悪戯をすることが分かったの!」
わたわたと両手を振り回して飛び込んで来たのは、久方 万里(nCL2000005)だった。何でも某所にあるテーマパークでハロウィン関連のイベントが行われるのだが、何とその会場に古妖が紛れ込んで悪戯をするらしい。
「それはね、ハロウィンの仮装をした沢山の猫さんと触れ合うイベントで、参加するお客さんも仮装をして一緒に遊んだりするみたいなんだけど……」
其処に古妖――猫又が紛れ込み、会場の猫たちを操って来場者にけしかけるようなのだ。で、何と恐ろしいことに構って構ってと群がったり、にくきゅうを押し付けてきたり――更にはお腹を見せて「もふってもいいんだよ」と無防備なポーズで誘ってきたりもするのだとか!
「どうしよう、こんな誘惑に抗えるひとなんて居るの……? 猫さん達が一斉に押し寄せてきたら、会場は大パニックになっちゃう!」
来場者が大勢いる園内で騒ぎが起きれば、混乱が広がり最悪怪我人が出てしまう恐れもある。なので、どうにか被害を最小限に留めて騒ぎを押さえて欲しい、と万里は皆に頭を下げた。
「問題の猫又は、ちょっとおでぶの三毛猫だってところまでは分かってるんだけど……何しろ仮装した猫もいっぱいいるし、見つけ出すには根気やコツがいるかも」
元々はハロウィンで人間を脅かしてやりたい、と言うちょっとした好奇心もあったのだろうが――猫又の好奇心を満たしてやるか、それとも逆に脅かしてお灸を据えるか。解決方法は皆にお任せするね、と万里は言った。
「そんな訳で、猫さんたちの誘惑に負けず頑張ってきてね! 頼んだよっ!」
ハロウィンが近づき、年に一度のお祭り騒ぎに街は賑わいを見せていた。通りのあちこちで、お化け南瓜にちなんだ飾り付けが行われ――鮮やかな橙や黒は、何処か人々の心を浮き立たせる。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りなのだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっているのは皆も知っている通り。ハロウィンの仮装も、元は悪霊に見つからないようにする為のものだが――別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローやヒロインの仮装をする者も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいる、と言う事なのだが――。
「にゃあ」
――と、盛大な前置きをしておいて何だが、問題の古妖は人間ではなく、猫たちの中に混ざっていた。とある某所のテーマパークで『にゃんにゃんハロウィン☆~構ってくれなきゃいたずらするにゃ!』と言う、猫ちゃんと触れ合うイベントに潜り込んだのだ。
色々な種類の猫たちが集まった其処で、彼らはそれぞれに帽子やマント、リボンやつけ尻尾でおめかしして仮装――来場者と思う存分触れ合う筈だったのだが。
「……にゃあ。にゃあー」
――ハロウィンだというのなら、こっちがニンゲンをおどかしてやるのだ。折角だからニンゲンの沢山やってくるこの場所で、仮装したニンゲンを逆におどかして大騒ぎさせるのだ。なに、集められた猫たちを操れば混乱させるなど容易いこと。
「なーう」
そんな風に思考を巡らせながら、満足そうに鳴いた三毛猫の尻尾は――二股に分かれていた。
●とりっく・おあ・にゃんこ
「大変だよーっ! ハロウィンに紛れた古妖が悪戯をすることが分かったの!」
わたわたと両手を振り回して飛び込んで来たのは、久方 万里(nCL2000005)だった。何でも某所にあるテーマパークでハロウィン関連のイベントが行われるのだが、何とその会場に古妖が紛れ込んで悪戯をするらしい。
「それはね、ハロウィンの仮装をした沢山の猫さんと触れ合うイベントで、参加するお客さんも仮装をして一緒に遊んだりするみたいなんだけど……」
其処に古妖――猫又が紛れ込み、会場の猫たちを操って来場者にけしかけるようなのだ。で、何と恐ろしいことに構って構ってと群がったり、にくきゅうを押し付けてきたり――更にはお腹を見せて「もふってもいいんだよ」と無防備なポーズで誘ってきたりもするのだとか!
「どうしよう、こんな誘惑に抗えるひとなんて居るの……? 猫さん達が一斉に押し寄せてきたら、会場は大パニックになっちゃう!」
来場者が大勢いる園内で騒ぎが起きれば、混乱が広がり最悪怪我人が出てしまう恐れもある。なので、どうにか被害を最小限に留めて騒ぎを押さえて欲しい、と万里は皆に頭を下げた。
「問題の猫又は、ちょっとおでぶの三毛猫だってところまでは分かってるんだけど……何しろ仮装した猫もいっぱいいるし、見つけ出すには根気やコツがいるかも」
元々はハロウィンで人間を脅かしてやりたい、と言うちょっとした好奇心もあったのだろうが――猫又の好奇心を満たしてやるか、それとも逆に脅かしてお灸を据えるか。解決方法は皆にお任せするね、と万里は言った。
「そんな訳で、猫さんたちの誘惑に負けず頑張ってきてね! 頼んだよっ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.古妖・猫又を捕まえて悪戯をやめさせる
2.会場に大きな被害が出ないようにする
3.なし
2.会場に大きな被害が出ないようにする
3.なし
●古妖・猫又
長年生きた猫が不思議な力を持つようになった、と言われている古妖です。尻尾が二股に分かれており、周りの猫を操る力を持っているようです。ちなみにちょっぴりおでぶで、超レアなオスの三毛猫です。
人間を脅かしてやりたい、と言う好奇心から今回の騒ぎを起こします。
●依頼の流れ
某所のテーマパークで開催されるハロウィンイベント『にゃんにゃんハロウィン☆~構ってくれなきゃいたずらするにゃ!』に猫又が潜り込み、会場の猫を操り来場者にけしかけてパニックを引き起こします(パニック発生直後からスタートします)。
皆さんはお客さんとして参加し、この騒ぎを収めて古妖を捕まえてください。操られた猫たちは「構って遊んで」と言うように人々に群がってもみくちゃにしますが、ひとしきりもふって満足させるか、或いは古妖を大人しくさせれば術が解けます。
●にゃんにゃんハロウィン
テーマパークの一角に設けられた、沢山の猫たちと触れ合えるイベント会場です。猫、お客さん共にハロウィンの仮装をしています。なお、猫は100匹近くいますので、ある程度方針を決めて攻めるのがポイントです。
●お楽しみ
どんな仮装をして参加するか、どんな風に猫をもふるかという情熱を存分にぶつけて頂ければと思います。
テーマパークのイベントゆかりのお土産も、記念に配布出来たらと思っていますので、何か希望がありましたら教えてください。
どたばた騒ぎの顛末がどうなるかは皆さん次第です。折角なので目一杯楽しんで、このアクシデントを収めてください。それではよろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年11月04日
2015年11月04日
■メイン参加者 8人■

●ねこねこパニック、その嵐の前
休日ともあって、テーマパークは大いに賑わっていた。友人同士やカップル、家族連れなど――来場者は笑顔で園内を回り、色とりどりの風船がふわふわと風に揺れる中、澄んだ秋空には軽快な花火があがっている。
あ――とそんな中、お客さんのひとりが、ぱっと顔を輝かせた。その視線の先にあるのは、ハロウィンに合わせて設えた特設会場――南瓜やお化けの飾りで彩られた広場には、柵の中で寛ぐ猫たちの姿がある。
それは『にゃんにゃんハロウィン☆~構ってくれなきゃいたずらするにゃ!』と題したイベントで。此処ではハロウィンの仮装をした猫たちと、思う存分触れ合うことが出来るのだ。
「猫がこんなにいっぱいいるなんて、夢のようだな。満足するまで撫でたいよね……」
温和な雰囲気を湛えた紳士であり、同時に強靭な意志を貫く弁護士でもある『静かに断ずる者』成瀬 漸(CL2001194)だが――彼の意志は、早くも挫けようとしていた。このイベントに乗じて騒ぎを起こす古妖をどうにかするのが目的なのだが、「あそんであそんで」と言うように、にゃーにゃーと甘えた声を出す猫さんの誘惑が強すぎたのだ。
「じーちゃん、まだ事件は起きてないのにいきなり呑まれかけてるぞ!?」
と、猫たちの愛らしさによろめく漸の手を引っ張ったのは、彼の孫である『ヒーロー志望』成瀬 翔(CL2000063)だった。魔法学校の制服をモチーフにした、魔法使いの仮装をしている翔だが――柵越しからもふもふの手を伸ばすにゃんこの姿に、思わずその相貌が緩んでしまう。
「猫っ! うわあ、猫が遊んで欲しいって寄ってくるっ!! すっげー、可愛いなあ」
そんな訳で翔は喜々として抱っこ、元気一杯な孫の姿に漸も瞳を和らげるも――あとでね、と言うように彼の手から猫を逃がした。
「翔君も猫、撫でたいみたいだけど……でも猫又を探すまでの我慢だよ」
そう言って穏やかに微笑む漸の隣では、いかつい表情をした『家内安全』田場 義高(CL2001151)が、ううむと唸るように腕を組んでいる。
(家族サービスも兼ねて、奥さんと愛娘も連れて来たのはいいが……)
しかしあくまで今回は、F.i.V.E.の任務でやって来たのであり、普通の猫とあんまり変わらないだろうが相手は一応古妖なのだ。勿論パニックのことは黙っておいて、ふたりにはイベント会場と離れた場所に居るように伝えてある。
「贔屓目に見ても、二人とも仮装しても可愛いんだが……猫と戯れる姿も見たかったが……」
顎髭を撫でながら静かに苦悩する義高へ、『花日和』一色 ひなた(CL2000317)が気遣うようなまなざしを向けて。一方でのっけからハイテンションで大興奮しているのは、『罪なき人々の盾』天城 聖(CL2001170)である。
「うおおぉぉぉ! これがネコのにくきゅうか、すごく柔らかくて気持ちいいよコレ!」
ぷにぷにぷにと至福の表情で彼女が揉んでいたのは、『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)の手のひらだった。私は猫じゃないです、と翻弄される真央が何とか突っ込むと、其処で聖はようやくその手を止めた。
「わかってるよー。でも、やらなきゃいけなかったんだよ!」
「くっ、まさかこれ程の過酷なお仕事があるとは思っていませんでした」
が、遠い目をして真央は聖をスルー。すると聖は涙目になって、あたふたと真央に縋る。
「え……あの、ほら見て! にく……にくきゅう! ねぇ、ねぇってばぁ……」
そんな感じで騒ぎが起きる前から賑やかな仲間たちを見遣りつつ、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は会場の様子に気を配っていた。ハロウィンイベントは盛況のようで、仮装をしたお客さんも徐々に増えてきたようだ。
(猫を操って人を驚かす方法……どのような手段を使ってくるかちょっと見てみたいわ)
そんな大和は、猫にちなんでねこみみをつけた魔女の仮装にしたようだ。もしや、フラッシュモブのように急に立ち上がって踊り出すのでは――とも思ったが、それだと驚く半面とても楽しめそうかな、と思う。
「……ふひひ」
――その時。ふと大和の耳が怪しい笑い声を捉えた。もしや何か異変がと身構えたが、其処に在ったのは『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)の姿。いやまさか、御菓子先生は教師だし、生徒の見本となることを求められる立場の人がこんな奇声を放つわけがない。そう大和は思ったのだが、現実は非情だったようだ。
「にゃんこちゃん、かもーん……!」
どんな時も冷静沈着に、自分の立場をわきまえて――そんな言葉は、今の御菓子には届かないだろう。あちこちで愛らしい声を響かせるにゃんこの群れ、彼女はその姿にすっかり魅入られてしまっていたのだ。
「お、おおおおお!?」
「きゃあああああああ!!」
イベント会場にお客さんたちの悲鳴が轟いたのは、それから直ぐのことだった。最初は御菓子が暴走する余りに――などと思ったのだが、そうではない。何かに操られるようにして、柵の中でごろごろしていた猫たちが一斉に興奮。にゃーにゃーとせわしなく鳴きながら、次々に柵を飛び越えてお客さんたち目掛けて飛び掛かったのだ。
「ねこ、ねこー!」
――100匹近く居る猫が、一斉にそんな動きをしたのだからたまらない。急に猫にしがみ付かれた者は喜びつつも慌て、自分たちの間をちょこまかと走り回る猫たちをよけようとしてあちこちで騒ぎが起きる。
「こんなに人が沢山いる中に、100匹近くの猫が飛び込むと簡単にパニックになるのね……」
どうやら猫たちのすること、と呑気に構えてもいられないようだ。皆は顔を見合わせて頷き、早速この騒ぎを収拾するべく動き出した。
●にゃんこの波を乗り越えて!
まずはこの混乱を収めるのが先決。そう言って漸は、鹿撃帽とインバネスコートの名探偵姿で華麗にポーズを決めた。
「猫たちが危害を及ぼす気配はないけど、混乱した人たちが猫を傷付けてしまうかもしれないしね」
そう前置きしてから、漸は的確に一般人を説得――好き放題にじゃれついてくる猫たちを、ぜひ撫でて欲しいと声を掛けていく。その上で自身も用意していた玩具を取り出し、慣れた手付きで猫たちを誘導していった。
「ほらほら、おいでおいで」
「皆さん、これはサプライズアトラクションよ。今日のショーの目玉ですから御安心下さい」
一方で大和は、マイクを手に園内アナウンスを開始する。現在起きている騒ぎは予定通りなのだと告げて、お客さんを安心させていく手腕は見事の一言だ。テーマパークであれば、大概の事はこれで通ると言う彼女の読みは当たったらしい。
「おお、確か今日はにゃんこさん達をたくさんもふもふ出来るイベントがあったんでしたね! 敷地中どこでももふもふ出来るなんて凄いです!」
真央も大和のアナウンスに説得力を与えるように、これ見よがしに大きな声で歓声をあげる。そうすると、そうだったのかとお客さんは納得し、異様に興奮している猫たちにも怯える事無く、満面の笑みでもふもふを堪能し始めた。
「せっかくですから皆さんにも楽しんでもらいたいですしね! ああ、でも……こんなに、こんなにたくさんのにゃんこさんがいるのに、ゆっくりもふもふしていられないだなんて!」
これが任務でなければ、今すぐにでも猫とじゃれ合いたいところだが――真央は理性を振り絞って誘惑に耐える。ひなたも協力してお客さんの誘導に当たる中、真央は涙ながらに手を振って、別の場所での騒ぎを収めるべく駆けだした。
「お仕事が終わってからしっかり遊びますから、待っていてくださいね!」
「えー、猫が大量に押し寄せてくるかもしれないから、各自気をつけてねー」
聖も場の鎮静を図るべく声を張り上げるが、『くるかもしれない』ではなく実際押し寄せてきたわけで。気まぐれな猫たちが一斉に群がってくる迫力に、パニックになっていた人々の元へ彼女は駆け寄り、落ち着くように深呼吸を促す。
「とにかく落ち着いて、別に取って食おうとしてるわけじゃないんだから……あ、ちょっと待ってったら、分かった分かったって! みんなあとで! ね?」
しかし救助中の聖の元へも、にゃーにゃーと甘えた声を出しながら猫が押し寄せてきた。その中の一匹を手に取って、うわあと嬉しそうな声を出すのは翔である。
「ほら、猫が遊んでくれって! なつっこいなあ」
そう周りに向けて叫んだ翔は、近くに居る人たちに一匹ずつ猫を抱っこさせていった。
「ほらほら、撫でてもふってって言ってるぜ?」
彼の言葉通り、にゃんこはふかふかのお腹を見せて無防備なポーズで甘えてくる。このイベント会場に足を運んだ以上、周囲の人々も猫好きだったようで――やがて誘惑に耐え切れずに彼らがもふり始めると、猫も満足そうに「ふにゃあ」と鳴いて大人しくなっていった。
「あああ、オレも猫撫でたい――っ、もふりたい――っっ」
「我慢だよ翔君。ほら、お互い猫を撫でて探すことを忘れちゃいそうだから、声を掛け合おう」
うああ、と頭を掻きむしらん勢いで悶える翔に、あくまで紳士的に、良き祖父として接する漸。そんなふたりの姿は、まるで雪山で遭難した登山者のようだった。
――そんなこんなで皆少なからず、猫の魅力にめろめろになっていたのだが――義高と言えば殆ど動じずに、直立不動で腕組みをしていた。
(おそらく向こうも、一人状況見てる奴がいるはずなんだ)
彼は騒ぎに乗らず、冷静に状況を観察して騒ぎの中心――首謀者の古妖を見定めようとしていたのだ。この騒ぎの中でじっと立っている自分は、少し異様かもしれないと思ったが、猫嫌いだと思われるくらいで済むだろう。
「……てか、おいおい、仕事忘れてる奴いやしねぇか」
そっと苦笑する義高の視線の先、其処でとてつもなく荒ぶっていたのは――。
「生まれついての猫好きが、大量の猫から甘えられ、すりすりされ、声かけられて、それを理性と言う名の良心で自分を抑えきれるだろうか? いや、ないっ!!」
反語表現まで用いて「はぁはぁ」と荒い息を吐く御菓子は、ケット・シーの仮装衣装こそ脱がなかったものの――両手を合わせた独特のポーズで、猫の波の中へとダイブしていった。この時、彼女の頭には任務について気にすることの出来る意識が残っていたのかどうか。
「いや、ないな」
悟りを開いたような瞳で義高が見守る中、御菓子は次から次へと手当たり次第に猫を捕まえてはもふり、捕まえては撫でまくり、捕まえてはにくきゅうを押すと言う己の欲をこれでもかと伝えんばかりの愛でっぷりを発揮していた。
その顔は最早蕩けんばかり、それは何処からどう見てもHENTAIと言う表現が似合う姿であった――!
「おっと、奥さん達は大丈夫か? まぁ、そんなに問題ないとは思うが……」
そして遂に、クールな義高ですら現実逃避を始めたのであった。
●甘くキケンな猫の誘惑
「少し小太りで三毛のオス猫……」
会場の混乱を収めつつも、大和たちは元凶の古妖――猫又を探していたのだが、これが思っていた以上に大変だった。情報が揃っていれば直ぐに見つけられると踏んでいたのだが、何せ人も多ければ猫も多い。しかも猫は思い思いに仮装をしており、帽子やマントで姿が隠れたものも居るし、猫又の仮装でつけしっぽまで付けている子も居るのだ。
(可愛い子に美人な子、愛嬌たっぷりの子……落ち着いて、集中しないと)
にゃんこだらけと言う周りの誘惑を振り切るように、大和はかぶりを振って――その近くでは聖が、未だ群がる猫たちと格闘している。
「相手は猫……なのに、うわ、ちょっと! スカートめくらないで! 中に入らないで!」
「あの、その私は断じて猫ではないのですが……!」
一方、真央の様子は何だかおかしい。何故だか知らないが、此処に来てから何だか無性ににくきゅうを押し付けたい衝動に駆られているらしいのだ。
「このままではいけません、ただでさえ誘惑が多いのにこの衝動まで抑えていてはそれ程長くは持ちません、早く猫又さんを見つけ出さなければ!」
しかし、誘惑に屈しようとしている者も居た。我慢と言いつつも、本当は猫を撫でたくてたまらない漸である。
(ホラ、あの猫なんてお腹出して横になってる。もう警戒心の欠片もないじゃないか……可愛い……。ちょ、ちょっとぐらいなら撫でても……いいかな……?)
「じーちゃん、何か見つかった?」
そしてもみくちゃになっている翔がふと振り向くと、其処にはすっごい緩い顔で猫を撫でている漸の姿があったのだった。
「じーちゃん、そんな場合じゃねーだろっ!」
「ごめん、実はじーちゃん、猫大好きなんだ……」
いや、それは今までの姿でばれてるから――しかし、心優しい翔は突っ込まずにおいた。その気持ちはすごく分かったからだ。
「これ、早く猫又を捜さないと精神がもたねーぞ!」
漸も超直観に頼って猫又を捜すも、やはりある程度の見当を付けないと難しい。その時、じっと状況を確認していた義高が、騒ぎの影響が少ない一角を見付けて皆に指さした。
「よし、そこだな! 空丸、ちょっと空から捜してくれ」
鳥系の守護使役――空丸を空に放ち、翔は上空から地上を見下ろせる視点を手に入れる。その上で仲間たちと送受心で連絡を取り合い、遂に翔はとんがり帽子を被ったおでぶな三毛猫――猫又を発見したのだった。
さて、いよいよ急行と行きたいところなのだが、彼の手は勝手ににゃんこをもふってしまう。手強すぎるぜと歯噛みする中、ひょいと猫を拾い上げて抱っこしてやったのは義高だった。
「懐いてくる奴を振り払うほど、人間枯れちゃいねぇんでな」
図体がでかいからと言う事で、義高は足元にすり寄る猫を踏まないように気を付けて。それでも行く手を阻む子へは、大和がすねこすりぐるみを転がして注意を逸らしていく。
「覚悟しろよー、猫又! 嫌って言う程遊んでやるからな!」
ぐっと拳を突き付ける翔の行く先――其処に居た猫又は「やれるものならやってみろ」と言うように、にゃあと鳴いたのだった。
●トリックオアトリートの末路
しかし、其処に現れたHENTAI――もとい御菓子は、おでぶな三毛猫を目にして怪しく目を光らせた。
「くふふ、あのお腹に顔を埋めたらどれだけ気持ちいいかなぁ♪」
「今まで我慢してきた分、おもいっきりもふもふしちゃいますから覚悟――……」
「あの肉球をプニプニしたら、どれだけ幸せだろう」
真央の口上を遮って、じゅるりと御菓子の涎を啜る音が不気味に響く。その鬼気迫る様子にひなたは怯え、嫌な予感がした翔もぴたりと足を止めた。
「あの肉厚の舌で嘗められたら、わたしどうなっちゃうんだろう……」
「見つけたよ犯人! 悪い子には……って、え?」
「あの毛並みを撫で繰り回せるなら、何を捨ててもいいッ!!」
大見得を切った聖も、猫又の周囲に漂う異様な気配に気付いたらしい。別段とって食おうって話ではなかったんだが、と義高もやれやれと肩を竦めている。
「うへへ~~~っ! 三毛猫ちゅぁぁぁ~~~んっ!!!」
嗚呼、最早完全に御菓子は周りの様子など目に入っておらず――今の彼女は、猫を求める野獣と化していた。ひっ、と猫又が眼光に怯えて後ずさりするが遅い。ぐわしと御菓子の指がそのもふ毛を掴み、彼は恐ろしい勢いで御菓子に翻弄される、ただの無力な猫と化した。
「ふぎゃー! にゃー! にゃあああ!!」
「ふふ……さぞかしふかふかしてるんだろうなぁ……。首を撫でたら、ごろごろ喉を鳴らして可愛いだろうなぁ……」
と、その阿鼻叫喚の中へ、おあずけを喰らっていた漸も飛び込んでいく。ならばと気を取り直した残りの面々も、もふもふタイムに加わって――悪戯の後は皆をおもてなしして楽しませましょう、と声を掛けようと思っていた大和は、猫又の容赦ないもふられっぷりにちょっぴり同情したのだった。
「でも、これで相殺ね。貴方とってもキュートだもの。楽しい時間を過ごすだけで皆へのおもてなしができるのよ」
にゃあ……と消えそうな声で応える猫又は、ぷるぷると震えている。どうやら人間に遊び半分で悪戯をするととんでもないことになると、身を以て知ったようだ。そんな彼へ手を差し伸べて、大和はくすりと微笑む。
「早速だけど抱きしめさせて頂戴、柔らかくてあたたかそうだわ」
「奥さんと娘にゃ、騒ぎのフォローもかねてお土産買ってやらなきゃいけねぇな……」
――こうして猫又騒動は無事に収まり、一時のパニックもイベントのアトラクションで収まったようだ。大きく伸びをした義高は、すっかり大人しくなった猫又を連れてイベント会場を後にする。
「これは事務所に飾っておこうかな」
そう呟いた漸たちの手には、イベントで限定配布されたにゃんこのマスコットが握られていた。これもまた、楽しい思い出のひとつとなるだろう。
「あ、じゃあ今度じーちゃんとこに遊びに行く!」
翔が元気よく跳ねる中、何だか青い顔で我に返ってぶつぶつ呟いているのは御菓子だった。
「ごめん……やりすぎた……かも」
休日ともあって、テーマパークは大いに賑わっていた。友人同士やカップル、家族連れなど――来場者は笑顔で園内を回り、色とりどりの風船がふわふわと風に揺れる中、澄んだ秋空には軽快な花火があがっている。
あ――とそんな中、お客さんのひとりが、ぱっと顔を輝かせた。その視線の先にあるのは、ハロウィンに合わせて設えた特設会場――南瓜やお化けの飾りで彩られた広場には、柵の中で寛ぐ猫たちの姿がある。
それは『にゃんにゃんハロウィン☆~構ってくれなきゃいたずらするにゃ!』と題したイベントで。此処ではハロウィンの仮装をした猫たちと、思う存分触れ合うことが出来るのだ。
「猫がこんなにいっぱいいるなんて、夢のようだな。満足するまで撫でたいよね……」
温和な雰囲気を湛えた紳士であり、同時に強靭な意志を貫く弁護士でもある『静かに断ずる者』成瀬 漸(CL2001194)だが――彼の意志は、早くも挫けようとしていた。このイベントに乗じて騒ぎを起こす古妖をどうにかするのが目的なのだが、「あそんであそんで」と言うように、にゃーにゃーと甘えた声を出す猫さんの誘惑が強すぎたのだ。
「じーちゃん、まだ事件は起きてないのにいきなり呑まれかけてるぞ!?」
と、猫たちの愛らしさによろめく漸の手を引っ張ったのは、彼の孫である『ヒーロー志望』成瀬 翔(CL2000063)だった。魔法学校の制服をモチーフにした、魔法使いの仮装をしている翔だが――柵越しからもふもふの手を伸ばすにゃんこの姿に、思わずその相貌が緩んでしまう。
「猫っ! うわあ、猫が遊んで欲しいって寄ってくるっ!! すっげー、可愛いなあ」
そんな訳で翔は喜々として抱っこ、元気一杯な孫の姿に漸も瞳を和らげるも――あとでね、と言うように彼の手から猫を逃がした。
「翔君も猫、撫でたいみたいだけど……でも猫又を探すまでの我慢だよ」
そう言って穏やかに微笑む漸の隣では、いかつい表情をした『家内安全』田場 義高(CL2001151)が、ううむと唸るように腕を組んでいる。
(家族サービスも兼ねて、奥さんと愛娘も連れて来たのはいいが……)
しかしあくまで今回は、F.i.V.E.の任務でやって来たのであり、普通の猫とあんまり変わらないだろうが相手は一応古妖なのだ。勿論パニックのことは黙っておいて、ふたりにはイベント会場と離れた場所に居るように伝えてある。
「贔屓目に見ても、二人とも仮装しても可愛いんだが……猫と戯れる姿も見たかったが……」
顎髭を撫でながら静かに苦悩する義高へ、『花日和』一色 ひなた(CL2000317)が気遣うようなまなざしを向けて。一方でのっけからハイテンションで大興奮しているのは、『罪なき人々の盾』天城 聖(CL2001170)である。
「うおおぉぉぉ! これがネコのにくきゅうか、すごく柔らかくて気持ちいいよコレ!」
ぷにぷにぷにと至福の表情で彼女が揉んでいたのは、『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)の手のひらだった。私は猫じゃないです、と翻弄される真央が何とか突っ込むと、其処で聖はようやくその手を止めた。
「わかってるよー。でも、やらなきゃいけなかったんだよ!」
「くっ、まさかこれ程の過酷なお仕事があるとは思っていませんでした」
が、遠い目をして真央は聖をスルー。すると聖は涙目になって、あたふたと真央に縋る。
「え……あの、ほら見て! にく……にくきゅう! ねぇ、ねぇってばぁ……」
そんな感じで騒ぎが起きる前から賑やかな仲間たちを見遣りつつ、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は会場の様子に気を配っていた。ハロウィンイベントは盛況のようで、仮装をしたお客さんも徐々に増えてきたようだ。
(猫を操って人を驚かす方法……どのような手段を使ってくるかちょっと見てみたいわ)
そんな大和は、猫にちなんでねこみみをつけた魔女の仮装にしたようだ。もしや、フラッシュモブのように急に立ち上がって踊り出すのでは――とも思ったが、それだと驚く半面とても楽しめそうかな、と思う。
「……ふひひ」
――その時。ふと大和の耳が怪しい笑い声を捉えた。もしや何か異変がと身構えたが、其処に在ったのは『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)の姿。いやまさか、御菓子先生は教師だし、生徒の見本となることを求められる立場の人がこんな奇声を放つわけがない。そう大和は思ったのだが、現実は非情だったようだ。
「にゃんこちゃん、かもーん……!」
どんな時も冷静沈着に、自分の立場をわきまえて――そんな言葉は、今の御菓子には届かないだろう。あちこちで愛らしい声を響かせるにゃんこの群れ、彼女はその姿にすっかり魅入られてしまっていたのだ。
「お、おおおおお!?」
「きゃあああああああ!!」
イベント会場にお客さんたちの悲鳴が轟いたのは、それから直ぐのことだった。最初は御菓子が暴走する余りに――などと思ったのだが、そうではない。何かに操られるようにして、柵の中でごろごろしていた猫たちが一斉に興奮。にゃーにゃーとせわしなく鳴きながら、次々に柵を飛び越えてお客さんたち目掛けて飛び掛かったのだ。
「ねこ、ねこー!」
――100匹近く居る猫が、一斉にそんな動きをしたのだからたまらない。急に猫にしがみ付かれた者は喜びつつも慌て、自分たちの間をちょこまかと走り回る猫たちをよけようとしてあちこちで騒ぎが起きる。
「こんなに人が沢山いる中に、100匹近くの猫が飛び込むと簡単にパニックになるのね……」
どうやら猫たちのすること、と呑気に構えてもいられないようだ。皆は顔を見合わせて頷き、早速この騒ぎを収拾するべく動き出した。
●にゃんこの波を乗り越えて!
まずはこの混乱を収めるのが先決。そう言って漸は、鹿撃帽とインバネスコートの名探偵姿で華麗にポーズを決めた。
「猫たちが危害を及ぼす気配はないけど、混乱した人たちが猫を傷付けてしまうかもしれないしね」
そう前置きしてから、漸は的確に一般人を説得――好き放題にじゃれついてくる猫たちを、ぜひ撫でて欲しいと声を掛けていく。その上で自身も用意していた玩具を取り出し、慣れた手付きで猫たちを誘導していった。
「ほらほら、おいでおいで」
「皆さん、これはサプライズアトラクションよ。今日のショーの目玉ですから御安心下さい」
一方で大和は、マイクを手に園内アナウンスを開始する。現在起きている騒ぎは予定通りなのだと告げて、お客さんを安心させていく手腕は見事の一言だ。テーマパークであれば、大概の事はこれで通ると言う彼女の読みは当たったらしい。
「おお、確か今日はにゃんこさん達をたくさんもふもふ出来るイベントがあったんでしたね! 敷地中どこでももふもふ出来るなんて凄いです!」
真央も大和のアナウンスに説得力を与えるように、これ見よがしに大きな声で歓声をあげる。そうすると、そうだったのかとお客さんは納得し、異様に興奮している猫たちにも怯える事無く、満面の笑みでもふもふを堪能し始めた。
「せっかくですから皆さんにも楽しんでもらいたいですしね! ああ、でも……こんなに、こんなにたくさんのにゃんこさんがいるのに、ゆっくりもふもふしていられないだなんて!」
これが任務でなければ、今すぐにでも猫とじゃれ合いたいところだが――真央は理性を振り絞って誘惑に耐える。ひなたも協力してお客さんの誘導に当たる中、真央は涙ながらに手を振って、別の場所での騒ぎを収めるべく駆けだした。
「お仕事が終わってからしっかり遊びますから、待っていてくださいね!」
「えー、猫が大量に押し寄せてくるかもしれないから、各自気をつけてねー」
聖も場の鎮静を図るべく声を張り上げるが、『くるかもしれない』ではなく実際押し寄せてきたわけで。気まぐれな猫たちが一斉に群がってくる迫力に、パニックになっていた人々の元へ彼女は駆け寄り、落ち着くように深呼吸を促す。
「とにかく落ち着いて、別に取って食おうとしてるわけじゃないんだから……あ、ちょっと待ってったら、分かった分かったって! みんなあとで! ね?」
しかし救助中の聖の元へも、にゃーにゃーと甘えた声を出しながら猫が押し寄せてきた。その中の一匹を手に取って、うわあと嬉しそうな声を出すのは翔である。
「ほら、猫が遊んでくれって! なつっこいなあ」
そう周りに向けて叫んだ翔は、近くに居る人たちに一匹ずつ猫を抱っこさせていった。
「ほらほら、撫でてもふってって言ってるぜ?」
彼の言葉通り、にゃんこはふかふかのお腹を見せて無防備なポーズで甘えてくる。このイベント会場に足を運んだ以上、周囲の人々も猫好きだったようで――やがて誘惑に耐え切れずに彼らがもふり始めると、猫も満足そうに「ふにゃあ」と鳴いて大人しくなっていった。
「あああ、オレも猫撫でたい――っ、もふりたい――っっ」
「我慢だよ翔君。ほら、お互い猫を撫でて探すことを忘れちゃいそうだから、声を掛け合おう」
うああ、と頭を掻きむしらん勢いで悶える翔に、あくまで紳士的に、良き祖父として接する漸。そんなふたりの姿は、まるで雪山で遭難した登山者のようだった。
――そんなこんなで皆少なからず、猫の魅力にめろめろになっていたのだが――義高と言えば殆ど動じずに、直立不動で腕組みをしていた。
(おそらく向こうも、一人状況見てる奴がいるはずなんだ)
彼は騒ぎに乗らず、冷静に状況を観察して騒ぎの中心――首謀者の古妖を見定めようとしていたのだ。この騒ぎの中でじっと立っている自分は、少し異様かもしれないと思ったが、猫嫌いだと思われるくらいで済むだろう。
「……てか、おいおい、仕事忘れてる奴いやしねぇか」
そっと苦笑する義高の視線の先、其処でとてつもなく荒ぶっていたのは――。
「生まれついての猫好きが、大量の猫から甘えられ、すりすりされ、声かけられて、それを理性と言う名の良心で自分を抑えきれるだろうか? いや、ないっ!!」
反語表現まで用いて「はぁはぁ」と荒い息を吐く御菓子は、ケット・シーの仮装衣装こそ脱がなかったものの――両手を合わせた独特のポーズで、猫の波の中へとダイブしていった。この時、彼女の頭には任務について気にすることの出来る意識が残っていたのかどうか。
「いや、ないな」
悟りを開いたような瞳で義高が見守る中、御菓子は次から次へと手当たり次第に猫を捕まえてはもふり、捕まえては撫でまくり、捕まえてはにくきゅうを押すと言う己の欲をこれでもかと伝えんばかりの愛でっぷりを発揮していた。
その顔は最早蕩けんばかり、それは何処からどう見てもHENTAIと言う表現が似合う姿であった――!
「おっと、奥さん達は大丈夫か? まぁ、そんなに問題ないとは思うが……」
そして遂に、クールな義高ですら現実逃避を始めたのであった。
●甘くキケンな猫の誘惑
「少し小太りで三毛のオス猫……」
会場の混乱を収めつつも、大和たちは元凶の古妖――猫又を探していたのだが、これが思っていた以上に大変だった。情報が揃っていれば直ぐに見つけられると踏んでいたのだが、何せ人も多ければ猫も多い。しかも猫は思い思いに仮装をしており、帽子やマントで姿が隠れたものも居るし、猫又の仮装でつけしっぽまで付けている子も居るのだ。
(可愛い子に美人な子、愛嬌たっぷりの子……落ち着いて、集中しないと)
にゃんこだらけと言う周りの誘惑を振り切るように、大和はかぶりを振って――その近くでは聖が、未だ群がる猫たちと格闘している。
「相手は猫……なのに、うわ、ちょっと! スカートめくらないで! 中に入らないで!」
「あの、その私は断じて猫ではないのですが……!」
一方、真央の様子は何だかおかしい。何故だか知らないが、此処に来てから何だか無性ににくきゅうを押し付けたい衝動に駆られているらしいのだ。
「このままではいけません、ただでさえ誘惑が多いのにこの衝動まで抑えていてはそれ程長くは持ちません、早く猫又さんを見つけ出さなければ!」
しかし、誘惑に屈しようとしている者も居た。我慢と言いつつも、本当は猫を撫でたくてたまらない漸である。
(ホラ、あの猫なんてお腹出して横になってる。もう警戒心の欠片もないじゃないか……可愛い……。ちょ、ちょっとぐらいなら撫でても……いいかな……?)
「じーちゃん、何か見つかった?」
そしてもみくちゃになっている翔がふと振り向くと、其処にはすっごい緩い顔で猫を撫でている漸の姿があったのだった。
「じーちゃん、そんな場合じゃねーだろっ!」
「ごめん、実はじーちゃん、猫大好きなんだ……」
いや、それは今までの姿でばれてるから――しかし、心優しい翔は突っ込まずにおいた。その気持ちはすごく分かったからだ。
「これ、早く猫又を捜さないと精神がもたねーぞ!」
漸も超直観に頼って猫又を捜すも、やはりある程度の見当を付けないと難しい。その時、じっと状況を確認していた義高が、騒ぎの影響が少ない一角を見付けて皆に指さした。
「よし、そこだな! 空丸、ちょっと空から捜してくれ」
鳥系の守護使役――空丸を空に放ち、翔は上空から地上を見下ろせる視点を手に入れる。その上で仲間たちと送受心で連絡を取り合い、遂に翔はとんがり帽子を被ったおでぶな三毛猫――猫又を発見したのだった。
さて、いよいよ急行と行きたいところなのだが、彼の手は勝手ににゃんこをもふってしまう。手強すぎるぜと歯噛みする中、ひょいと猫を拾い上げて抱っこしてやったのは義高だった。
「懐いてくる奴を振り払うほど、人間枯れちゃいねぇんでな」
図体がでかいからと言う事で、義高は足元にすり寄る猫を踏まないように気を付けて。それでも行く手を阻む子へは、大和がすねこすりぐるみを転がして注意を逸らしていく。
「覚悟しろよー、猫又! 嫌って言う程遊んでやるからな!」
ぐっと拳を突き付ける翔の行く先――其処に居た猫又は「やれるものならやってみろ」と言うように、にゃあと鳴いたのだった。
●トリックオアトリートの末路
しかし、其処に現れたHENTAI――もとい御菓子は、おでぶな三毛猫を目にして怪しく目を光らせた。
「くふふ、あのお腹に顔を埋めたらどれだけ気持ちいいかなぁ♪」
「今まで我慢してきた分、おもいっきりもふもふしちゃいますから覚悟――……」
「あの肉球をプニプニしたら、どれだけ幸せだろう」
真央の口上を遮って、じゅるりと御菓子の涎を啜る音が不気味に響く。その鬼気迫る様子にひなたは怯え、嫌な予感がした翔もぴたりと足を止めた。
「あの肉厚の舌で嘗められたら、わたしどうなっちゃうんだろう……」
「見つけたよ犯人! 悪い子には……って、え?」
「あの毛並みを撫で繰り回せるなら、何を捨ててもいいッ!!」
大見得を切った聖も、猫又の周囲に漂う異様な気配に気付いたらしい。別段とって食おうって話ではなかったんだが、と義高もやれやれと肩を竦めている。
「うへへ~~~っ! 三毛猫ちゅぁぁぁ~~~んっ!!!」
嗚呼、最早完全に御菓子は周りの様子など目に入っておらず――今の彼女は、猫を求める野獣と化していた。ひっ、と猫又が眼光に怯えて後ずさりするが遅い。ぐわしと御菓子の指がそのもふ毛を掴み、彼は恐ろしい勢いで御菓子に翻弄される、ただの無力な猫と化した。
「ふぎゃー! にゃー! にゃあああ!!」
「ふふ……さぞかしふかふかしてるんだろうなぁ……。首を撫でたら、ごろごろ喉を鳴らして可愛いだろうなぁ……」
と、その阿鼻叫喚の中へ、おあずけを喰らっていた漸も飛び込んでいく。ならばと気を取り直した残りの面々も、もふもふタイムに加わって――悪戯の後は皆をおもてなしして楽しませましょう、と声を掛けようと思っていた大和は、猫又の容赦ないもふられっぷりにちょっぴり同情したのだった。
「でも、これで相殺ね。貴方とってもキュートだもの。楽しい時間を過ごすだけで皆へのおもてなしができるのよ」
にゃあ……と消えそうな声で応える猫又は、ぷるぷると震えている。どうやら人間に遊び半分で悪戯をするととんでもないことになると、身を以て知ったようだ。そんな彼へ手を差し伸べて、大和はくすりと微笑む。
「早速だけど抱きしめさせて頂戴、柔らかくてあたたかそうだわ」
「奥さんと娘にゃ、騒ぎのフォローもかねてお土産買ってやらなきゃいけねぇな……」
――こうして猫又騒動は無事に収まり、一時のパニックもイベントのアトラクションで収まったようだ。大きく伸びをした義高は、すっかり大人しくなった猫又を連れてイベント会場を後にする。
「これは事務所に飾っておこうかな」
そう呟いた漸たちの手には、イベントで限定配布されたにゃんこのマスコットが握られていた。これもまた、楽しい思い出のひとつとなるだろう。
「あ、じゃあ今度じーちゃんとこに遊びに行く!」
翔が元気よく跳ねる中、何だか青い顔で我に返ってぶつぶつ呟いているのは御菓子だった。
「ごめん……やりすぎた……かも」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
特殊成果
『ハロウィン☆にゃんこ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
