<南瓜夜行>オヤシロアイドル
<南瓜夜行>オヤシロアイドル


●神事
 京都市北区に立つ上賀茂神社はこの日、未曾有の賑わいを見せていた。
「よし決めた、三番の子に投票しよっと」
「俺は十二番の子に入れるぞ! こっちに手振ってくれたからな!」
「はぁ? あの子が手を振ったのは俺になんだが?」
 ハロウィンに託けて、獣の因子の覚者に扮する仮装コンテストが開催されていたのである。しかも女性限定だ。男連中が沸き立つのも無理はない。
 ステージ上ではレイヤー達が投票結果を今か今かと待ち続けている。
 集計が終わると、司会の男性が揚々と現れた。
「それでは発表します! 優勝は……九番! エントリーネーム『みっちゃん』さんです!」
 名前が告げられると同時に大歓声が巻き起こる。どうやらダントツの支持率だったようだ。
「みんな、ありがと~!」
 優勝した和装の少女は愛嬌のある笑顔をたっぷり振りまいてポーズを決めた。
 媚びまくりだがしかし、ぶっちぎりで優勝するのも納得なほど秀でた容姿をしている。それに辰の尻尾のクオリティも非常に高い。
「ねぇ、あの子の何がいいわけ?」
「分かってないなお前は! みっちゃんは祀りたくなっちゃう系女子なんだよ!」
 悶着を起こしているカップルをよそに。
「聞いて! ファンのみんなに、お願いがあるの!」
 少女は司会からマイクを奪うと、観衆に向けてパフォーマンスを始めた。相変わらず可憐で無邪気な仕草を繰り返しているが、その憂いを帯びた眼差しだけは妙に艶かしい。
「応援してくれた人達のためにこれからも精一杯活動していきたいのに、お金がないの」
 切なげに言いながら、よいしょとステージの袖から木箱を運んでくる。
「だから、力を貸して!」
 少女がぺこりと頭を下げた瞬間。
 割れんばかりの野太い声援と共に、多額の貨幣が宙に舞った。
「うおおおお! 俺も有り金全部投じるぞおおお!」
「ちょっと、どれだけ貢げば気が済むのよ?」
「違う、これは貢いでるんじゃない! 奉ってるんだ!」
 すっかり優勝者の虜となった男達は我先にと身銭を切る。
 飛び交う硬貨の雨と歓声に包まれながら、壇上の少女は瑞々しい笑顔を見せる。
「ありがと~! これからも私のこと、いっぱい、い~っぱい、祀りたもれ~☆」
 その尻尾は、さながら感情の昂りを表すかのようにぴこぴこと動いていた。

●姫とナイト
 覚者達が会議室に到着した時、久方 相馬(nCL2000004)はカップうどんをすすっていた。
「いや食堂行ってる時間がなくて……それよりだな」
 割り箸を置いて話し始める。
「とある神社で行われる仮装コンテストに、古妖――ミズチが乱入してくることが分かったんだよ」
 ミズチ。
 水辺に棲み、毒の息を吐く龍として語り継がれている妖怪だが、水妖の多くがそうであるように本来は美しい女性の姿をしているとも言われる。
 上賀茂神社の川尾社に祀られている水の神『ミヅハノメ』は『罔象女』と表記されることもあるが、この罔象とはミズチを含む水の精霊の総称である。ゆえにミズチがミヅハノメと関連付けられて信仰される例も多い。
「仮装の題材が獣憑なせいで、上手いこと紛れ込めるみたいだな。誰も古妖だと気づけてない」
 ミズチは毒気による催眠を得意とするという。
 とりわけ男性相手に効果的だそうだ。場合によっては術を用いずとも骨抜きにしてしまうらしい。
「目的はしょうもなくて、自分の可愛さを売り込んでガンガンお賽銭してもらうためだとさ。だが見過ごせば京都の経済循環に悪影響が出かねない!」
 相馬は世の男性を代表して熱弁する。
「古妖に魅入られた廃課金……じゃなかった、廃奉納者の妨害が予想されるから、気をつけてくれ。こいつらも一応、っていうか一番の被害者だから、程々にな」
 


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:深鷹
■成功条件
1.古妖『ミズチ』の捕縛
2.術の一定解除
3.なし
 OPを御覧いただき誠にありがとうございます。
 ハロウィンということで御祭りっぽいシナリオを一本出してみました。
 ここだけの話、そんなに真面目な依頼じゃないのではっちゃけ気味でOKです。

●目的
 ★古妖の退散

●現場について
 ★上賀茂神社、境内
 敷地内は物損を起こさない限りは自由に使っていただいて構いません。
 ただし参拝客はかなりいるので、派手な行動をするとその分目立ちます。
 逆に言うと目立ちたい場合はあえて派手な行動をすると良いです。

 仮装コンテスト用にステージが併設されています。主にこの近辺に人が集まっています。
 また出店では『きつねうどん』と『たぬきうどん』を売っています。
 もちろん有料ですが中恭介様で領収書を切れば経費で落ちます。

 コンテストのスケジュールは以下の通り。
 古妖はエントリーの際に一旦姿を見せ、アピールタイム開始と同時に再出現します。

 10:00~ エントリー
 12:00~ アピールタイム
 13:00~ 投票及び集計
 14:00~ 結果発表

●敵について
 ★古妖『ミズチ』
 神様として神社に祀られている古妖です。丈短の着物と龍の尻尾がトレードマーク。
 幻惑の術を得意とし、その美貌と合わせて多くの男性を虜にしています。
 日頃からチヤホヤされているので調子に乗っています。懲らしめてあげましょう。

 『アイドルミスト』 (特/遠/全/混乱・鈍化) ※ダメージ微量

 ★一般人男性 ×20~50
 上記の囲いです。古妖に危害が及びそうになると、彼女を守るように行動します。
 普通にうざいのである程度までなら殴ってもセーフとします。
 時間経過と共に信者数は増加し、古妖の優勝が決まった瞬間ピークの50人に達します。
 場合によっては減少する可能性もあります。



 解説は以上です。それではご参加お待ちしております。
 
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月10日

■メイン参加者 8人■

『移り気な爪咲き』
花房 ちどり(CL2000331)
『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『水の祝福』
神城 アニス(CL2000023)
『可愛いものが好き』
真庭 冬月(CL2000134)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)

●集え一番星
 時刻は午前十時。
 上賀茂神社に設営されたテントでは、既に仮装コンテスト出場の受付が始まっていた。そこら中に動物の耳と尻尾を付けた女性の姿と、それ目当てでやってきたであろう、日頃到底神社には来そうにない野次馬集団が散見できる。
「うふふふ、視線を感じるわ。それもそうでしょうけど!」
 周りの男達から脚光を浴びていることに気が付いた『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)は得意げに鼻を高くした。他の参加者とは趣の異なる黒の軍服を纏っていることに加えて、時折桜色の髪を掻き上げて耳元から首筋までの色香漂うラインをありありと見せ付けているのだから、視線を集めるのは自然な結果であろう。
「数多さん、ネクタイが曲がっているわ」
 数多に顔を寄せ、ネクタイの結び目をそっと直す『月々紅花』環 大和(CL2000477)は、親友の晴れ姿を前に、自慢の娘を見守る母親のような慎ましい微笑を浮かべていた。
「これで完璧ね。わたしは観客席の方で応援しているから頑張ってね」
「ん、ありがと。でも、そうね、まだ完璧とはいかないわね。ロビー活動が足りない気がする。ギリギリまで私の魅力を振り撒いておくわ! やるからには優勝!」
 そう口走るや否や、数多は有り余る元気を漲らせて境内中を巡りに行く。ダッシュで。
「足元には気をつけてね。履物がハイヒールなんだから」
 微笑ましい光景を眺めるような目をした大和は、相変わらず穏やかな表情のままだ。
「うう……数多さんやはりアイドルオーラがあって凄いですね……」
 同じく仮装コンテストにエントリーすべく、ふさふさの尻尾を付けて狐の獣憑に扮してきた『女子高生訓練中』神城 アニス(CL2000023)だったが、恥じらいだとか謙遜だとかの概念は一体何なのかといった感じの数多の堂々とした立ち振る舞いにやや気圧されていた。
「でも、負けてられません。秘策を用意してきましたからね……」
 密かにコンテストへの闘志を燃やしながら黒髪の少女は受付のテントに向かった。
 その最中。
 午前中からお気に入りの子を物色していた野次馬の間でちょっとしたざわめきが起こった。見物客達の視線の先を、ステージ脇で待機していた華神 悠乃(CL2000231)も目で追う。
 見つかったのは水竜の尾の少女。あれが神に擬えて祀られている古妖――ミズチと見て間違いないだろう。
 悠乃は何かしら糸口が掴めないかと一応『エネミースキャン』を掛けてみるが、流石に幻惑の解除手段までは読み取れない。
「あの子がみっちゃんかぁ」
 確かに可愛げのある顔立ちをしている。尻尾表面を覆う適度に湿った鱗が、反射できらきらと光っているのも目を引く。
「今更だけど、その格好仮装じゃないよね。私も似たようなの生やしてるけどさ」
 幻視で隠した自身の龍尾の鰭をなびかせながら呟く。
 今回、悠乃もコンテストに出場する予定だが、尻尾をわざわざ一般人観客の認識から遠ざけているからには勿論仮装先は辰ではない。
 丸みを帯びた角と、白黒の斑模様が特徴的な衣装を身に纏っているところから、どうやら獣の因子の中でも丑が題材のようだ。丈短な上に胸元も大きく開いた露出度の高い服装で、相対的ではなく絶対的に長い足を大胆に晒している。
「でも露出なら、あっちのほうが凄いよね」
 悠乃が見やった先、神社の片隅には、仮装した『裏切者』鳴神 零(CL2000669)の姿があった。F.i.V.E.のイベントで使った衣装をちょっと改修したものなので、非常に布面積が少ない。
「いい? 諏訪くん。祀りたくなる系女子に対抗するなら同じ祀りたくなる系で攻めないといけない訳よ。だから私が本気を出して――はい、逃げない!」
 女装してコンテストに紛れ込む『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)の着物の着付けを手伝う、というよりは強行している。
「そんで、次はお化粧ね」
「はぁ? そこまでするとは聞いてないんだが」
「しないとバレるでしょうが。動くなよー動いたら変にしてやるからなー、にひひ」
 暴れないよう釘を刺しておいて、まずはファンデーションを施していくが、その地肌が融けた雪のように透き通っていることに零は気付き、必要最小限に留めた。
「なんで刺青なんか入れたのよ、もったいない。顔に傷だなんて」
「イカスだろ。俺は気に入ってんだがなぁ」
 雑談を交わしながら下地を整えると。
「アイシャドウ塗るから、目瞑ってよ」
「なんだこれ、痒いぞ」
「はい擦らない。擦んな。擦んなって!」
 無理やり我慢させて赤のアイラインを引き、金のマスカラを僅かに盛る。それから仕上げに口紅を塗ろうとして下顎を支えるが、刀嗣は露骨に嫌な顔をした。
「顎はやめろ」
「ここ抑えないと綺麗に塗れないんだってば」
 刀嗣の不平は尽きないが、ひとまずは間近に迫る零の肌を鑑賞して気を紛らわせることにした。
「はいできた……って、何人のおっぱいみて鼻の下伸ばしてんのよ、餓鬼」
 零は胸元を手で隠して罵る。一方の刀嗣は悪びれもせず。
「顔は前から最高だと思ってたけど、体も中々上等だなお前」
「ちょっ、急にそういう発言は照れるんですけど……」
 赤面する零をよそに、コンテスト参加受付の締め切りは徐々に近づいてきていた。それを察して数多が全力疾走で戻ってくる。
「おかえりなさい、数多さん」
 出迎える大和。
「ただいま! いっぱい可愛い子ぶってきたわ! ってそれどころじゃない、エントリーしてくるわね!」
 数多はタイトスカートを翻して急ぎ受付のテントに向かう。係の中年男性から説明を受けると、用紙に必要事項を簡潔に書き殴る。
「職業……『美少女』……ですか」
「はい、美少女です。勤続は十六年です」
「では特技欄の美少女というのは」
「可愛さはれっきとした武器よ!」
 さも当たり前のように数多は答える。
「ううん、確かに言われてみれば……」
 しかし、妙に説得力があるだけに受付係のおじさんは組み伏せられてしまう。
「分かりますか! この滲み出るアイドルの威風が! ふふ、特別にファンクラブ会員を名乗ることを許すわ。でも会員番号一番だけはダメよ。それはにーさまのために残してあるもの」
 数多がウィンクしてテントを去ると、その後ろに並んでいた零がエントリー用紙に手早く記入する。
「羊です」
「どちらかと言えば山羊の角に見えますが。もっと言うと、悪魔……」
「都会志向で山を下りたので羊です」
 強引に押し切って登録を済ませる零。
「それで、そちらの参加希望者の方ですが」
 横に控える女装した刀嗣に話が移る。声までは繕えないので徹頭徹尾無言だ。
「女性限定のコンテストでして……」
 刀嗣はどういったかたちで零に全責任を被せるかの思案を始める。が、杞憂に終わった。
「んん~、だがしかしこれは、アリかナシかで言えば……アリ!」
 担当者の一存で認可を出した受付係に対して、お前の性癖なんか知ったこっちゃないと吐き捨てたげにする刀嗣だが、とりあえず顔パスには成功。

●女の戦い
 コンテストが始まる正午を迎えてもいないのに、早くもステージ前列には多くの男性客が集まっていた。
「それにしても神社で仮装コンテストやるなんて凄いなあ。神様も心が広い」
 その中に、『可愛いものが好き』真庭 冬月(CL2000134)も混じっていた。境内全体を見回して、盛況ぶりに感心する。すぐ近くには『移り気な爪咲き』花房 ちどり(CL2000331)の小柄な影も見える。
「現役アイドルの身で張り合おうだなんて、はしたないですわぁ」
 プライドの現れか泰然と構えている。
「これだけの人がコンテストを楽しみに来てるんだから、ミズチの捕獲を結果発表後にしておいて正解だったね。邪魔するのは気が引けるよ」
 それに、と付け加える。
「せっかくだし、僕もイベントを満喫したいからね」
 冬月の左手には発泡スチロールの器に注がれたきつねうどんが抱えられていた。
「それでは、皆様、お待たせしました! コンテストの開幕です!」
 十二時を回ったらしく、ステージ上では司会者の此度の催しに関する演説が始まっていたが、冬月はうどんをすすりながら聞き流す。
 京の食文化は、出汁の文化とされる。京都のうどんが讃岐のものと比べて幾分柔らかいのも、昆布の効いた掛けつゆをよく吸うように作られているからだ。つまりは出汁の絡んだ麺ではなく、出汁の染みた麺なのである。
「これでお上の負担だなんて、何かと美味しい話だよ、本当」
 懐から取り出した領収書をひらひらさせて呟く。
「……おや、アピールタイムが始まるみたいだね」
 わっと沸いた歓声を耳にして冬月がステージに目線を戻すと、様々な動物に扮した女性陣が一同に介していた。これから一人ずつ前に出て、順番に自己アピールをしていくようだ。
 で。
 そのステージ上の様子なのだが。
「はぅ……めっちゃ見られてる……」
 想像以上の観客の数に零は身悶えしていた。おまけに露出過多気味なので、アピールが始まる前から多くの熱視線を浴びていた。
「肌見せだけなら、私もかなり頑張ってるけども」
 悠乃はそれに加えて、二メートル近い長身ゆえに大量の注目を集める始末。
「ええい、こうなったら思いっきりやってやるか!」
 ついに出番が巡ってきた悠乃は意を決してステージ前へ。
「どうも、悠乃でーす。牛のコスプレをしてきました。もーもー。牛ということで、あなたにも出来るバターの作り方を実演しまーす!」
 言いながら、後ろ手に持っていた牛乳入りのペットボトルを掲げる。
「これを、ひたすら振って……はい、出来上がり!」
 ペットボトル底の沈殿物を皆に見せると、歓声と共に拍手が響いた。
「凄い、あんなふうにして出来るんだぁ」
 という素直な反応を示したのは女性客だけだった。男性客の大半はどちらかというと、二の腕と胸の揺れを眺めて熱狂していた。
「優勝できたら、時間いっぱいまで作って、みなさんに提供したいと思いまーす」
 勢いに任せてそんなことを言ってしまったが、とりあえずは悠乃は役目を完遂。
「次は私の番ですね……緊張してきました」
 アニスは狐の耳と尻尾の角度を少し調整してからアピールの舞台へと向かう。
 そして第一声の前に小さく息を吐くと。
「みなさーん! こんにちは☆ アっちゃんでーす!」
 無論、男性受けのするコケティッシュな声は『声色変化』による作用ではあるのだが。
「今日はみんなの為に精一杯頑張っちゃうから応援よろしくね☆」
 とてもキャピキャピした台詞だった。
「コン☆ コン☆」
 その声色のまま喋りながら狐の影絵でよくあるアレのサインを右手で作ると、今日一レベルの野太い大歓声が巻き起こった。
「うおおおおお! アっちゃーん!」
「アっちゃんもっと話してー! お話を、どうかお話を聞かせてくだせぇー!」
 そういうきついタイプの歓声である。ともあれ一定の支持層は確実に生まれたようだ。
「……ふぅ。とても大変でした」
 ステージ後方に戻ってきたアニスは胸を撫で下ろす。
「ねぇ、キャラ違くない?」
「いえ、これもまた任務のためですので」
「本当に?」
「本当です」
「ちょっと声援が気持ちいいとか」
「ははは、まさか」
 訝しむ悠乃にアニスはぎくしゃくした笑みを浮かべた。そうしている間にもアピールタイムは続き、ミズチの出番まで回ってきていた。
「みんな、お待たせ~! みっちゃんだよ~! みっみっみずち、みずちっちー。千年続く都には~♪」
 歌に紛れて、細かい霧状の毒を吐いているのを覚者達は見逃さなかった。恐らくはあれで知らずのうちに催眠を行っているのだろう。
「負けてられないわ! 次は私ね!」
 皆の好演に発奮した数多がステージ最前列の客間際にまで進み出る。
「スタンド・イン・ライン!」
 命令形で厳粛に言い切って、びしっと床に鞭を叩きつける。
「さあ、お仕置きをして欲しい人は並びなさいな、劣等共。私のお仕置きは、そんなに甘くないわよ!」
 そしてヒールを高らかに鳴らす。
 この時点で特定層から支持を集めていたのだが、絶対に負けたくない数多はトドメとばかりに衣装をパージ。帽子で隠していた猫耳と、下に着込んでいた水着を露にし、自慢のスタイル(主に胸)を見せつける。
 ここだけの話、季節的に普通に寒かったのだが、おくびにも出さずにアピールを続ける。
「ほら、いたずらして欲しいなら私に投票しなさいよ」
 頬を染めて、強気な軍人女性の弱みを窺わせる。この瞬間、数多の発するアイドルオーラはピークに達していた。
「うぬぬ、あの子に投票しようかなぁ」
 会場のどこかでそんな声があれば。
「目の付け所がいいわね。あの子はとある学園の水着コンテストでも入賞している実力者なのよ」
 目を光らせた大和がすっと忍び寄り、浮動票の獲得を画策する。
 アピールは終焉に向かっていた。刀嗣は一切言葉を発さず、というより発せないのだが、華やかな舞踊を披露。所詮お遊びとばかりに無気力な舞だったのだが、それが却って自然体に映ったらしく、拍手は存外大きかった。
 一方恥ずかしがる零のアピールは控えめに手を振るだけで、すぐに元の位置に帰ってしまったが、観客席のどこかから「尻だけで百点」というコアなファンの声援が飛んだ。
「素晴らしい着眼点ね。あの子もまた水着コンテストの上位入賞者なのよ」
 その客にも大和は売り込みを掛けていた。

●御社
「こういうコンテストにでるだけあって、さすがにみんなレベルが高いな」
 全ての参加者を見終えた冬月は感嘆の声を上げた。
「アニスも数多も零も可愛かったし、悠乃は僕より大きいのが残念だけど、笑顔が良かったね。ミズチもなんだかんだで可愛いし」
 とはいえ、スカイブルーの瞳の奥では、昔の自分が一番だという自負が覗いている。
「刀嗣も……うん、可愛い、可愛い」
「なんだその棒読みは。ってか余計なお世話だ」
 結果発表を待つ間、覚者達は一度合流していた。
「私は数多さんに入れたわ。友達を優先してしまうのは仕方のない心情ね」
 味方に票が集まるよう根回しを済ませてきた大和は、それなりに手応えを感じているようだ。一仕事終えてから頂く九条ネギの浮いたきつねうどんの味はまた格別。
「ん、このうどん美味し」
 大和の横で同じくうどんを頬張る数多。集計中とあって、他の参加者達も休憩がてら腹ごしらえをしている。
「慣れない真似したから疲れたよ。しっかり補給しないとね」
 中でも大食漢の悠乃はうどんを際限なく食べ続けて、空いた容器を堆く積み上げていた。その全部の代金が司令官持ちである。
「中さん、ご愁傷様です。」
 アニスは黙祷を捧げた。
 やがて十四時近くになり、コンテスト参加者は再度ステージ上に集められる。
「非常に僅差でしたが……優勝は……『みっちゃん』さんです!」
「みんな、ありがと~!」
 歓声と怒号が入り混じった凄まじい騒乱が勃発した。結果こそ変えられなかったものの、かなりの数の催眠解除には成功しているようだ。
「可愛いからって、調子にのりすぎじゃないかい?」
 そこに突き刺さる鶴の一声。会場がざわめきに包まれる。声の主は、女子中学生――ではない。覚醒して理想の自分にまで巻き戻った冬月だ。
「目を覚まして! 本当に可愛い子はお金が欲しいなんて言わないんだから! 可愛い子は『可愛い』以外を求めちゃいけないの。そう、このオレのように!」
 エントリー外の男の娘の出現に色んな意味で目覚め始める観客達。そうだ、そうだ、の大合唱。
「誰がなんと言おうと、オレが一番可愛いんだからっ!」
 冬月が観客の目を引き寄せている間に。
「ミズチ様……流石にお戯れが過ぎます。お覚悟を」
 ステージ上ではミズチへの天罰が始まっていた。アニスが魔術書の呪文を詠唱すると、深水が高密度の塊となって射出される。
「くそぅ、俺たちでみっちゃんを守るんだ!」
 献身的に間に割って入るミズチの囲いだったが。
「今日は牛なのでそれっぽくー」
 タックルで蹴散らす悠乃。哀れ信者達は、数メートルほど吹き飛んで意識混濁状態となった。そうなれば守る盾を失った古妖は無防備も同然。
「わわっ!」
 ミズチは慌てて毒霧を噴射するが、大和が会場一帯に張った浄化結界によって感染を阻まれる。
「お前の魅了なんざ効かねえよ。俺の大のお気に入りがそこにいるんでな」
 刀嗣は刀の峰でミズチの頭を二度叩き、ただそれだけで呆気なく戦意を喪失させた。

「さて……こいつの処遇をどうするかだが」
 威厳も何もなくめそめそと泣くミズチを前に、覚者達はどうしていいものか困っていた。
「女の子がちやほやされたいって思うのは普通だよ。私は悪い子には見えないな。でも、祀られる神様は人を守らなきゃ」
「そうね。可愛いことは悪いことではないもの」
 零と大和が温情を覗かせる。傍ら、数多はずいとにじり寄ると、空っぽの木箱に財布を投げ入れた。
 ミズチは理解が追いつかずきょとんとした表情を作る。
「これ……?」
「誤解しないでよね! アンタの健闘に少しだけ祀ってやってもいいだけなんだからね!」
 数多は照れ隠しで、不器用な澄まし顔を見せた。
「うっうっ、嬉しいよ~」
 ミズチは一層涙を眼に貯める。
「偶には拝金主義もよろしいですが、やりすぎはいけないと私は思います」
 人差し指を立てたアニスの注意に、ミズチは「はぁい」と弱々しく答えた。
「うん……これからは、このお守りを売って地道に稼ぐね☆」
 今ひとつ理解してなさそうなので、とりあえず一発殴っておいた。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『オヤシロアイドル』
取得者:諏訪 刀嗣(CL2000002)
『オヤシロアイドル』
取得者:鳴神 零(CL2000669)
『オヤシロアイドル』
取得者:神城 アニス(CL2000023)
『オヤシロアイドル』
取得者:酒々井 数多(CL2000149)
『オヤシロアイドル』
取得者:華神 悠乃(CL2000231)
特殊成果
『雨招きのお守り』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
ここはミラーサイトです