<南瓜夜行>二口が笑い歌えやハロウィン
●ハロウィンに混ざる古妖
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローヒロインの仮装も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいるわけで……。
●古妖と女の子と
「おねーさんはゆうれいのこすぷれですか?」
問いかけるアリス姿の女の子に、その女性は笑顔を浮かべてしゃがみ込んだ。
「惜しいわ、お嬢ちゃん。私は幽霊じゃないの――」
しゃがみ込んだまま女性は後ろを向く。首をかしげる女の子に向けて、ゆっくりと髪をかき上げる。そこには、
「え? うしろに、おかお?」
後頭部にもう一つ顔があった。あっけにとられる女の子。
「ばああああああああ!」
後ろの顔は大きく口を開けて、女の子を飲み込もうと迫る。
「うわあああああああああん!」
「あははは。おねーさんは『二口女』でしたー。お菓子いただきー」
泣き叫ぶ女の子。彼女の持っているバスケットからひょいぱく、とお菓子を奪って食べる二口女。そのまま笑いながらハロウィンの仮装行列に交じっていく。
「とりっくおあとりーと。お菓子くれても脅かしちゃうけどねっ」
●FiVE
「おっす! よく集まってくれたな!」
元気よく手を挙げて覚者を迎える久方 相馬(nCL2000004)。皆が席に着いたのを確認して、説明を開始した。
「町にハロウィンのコスプレをしている人がいるんだが、その中に古妖がいる。
で、この古妖が子供を脅かしてお菓子を奪っているんだ」
しばらく前まで戦争だのなんだのと血生臭い状況だった覚者達は、そのギャップ差に思わず脱力する。
「おいおい。気を抜かないでくれよ。行動はセコいと思うけど、厄介な相手には違いないんだ。この子だってこれがトラウマになるかもしれないんだぜ」
ああ、そうでした。仮にも覚者が集められたのだから、相応に強い相手なのだ。
「古妖は裏路地を使って移動し、複数の箇所でお菓子を強奪するつもりだ。この場所で待機していればやってくる。それなりに広くて、戦うには適した場所だ」
人がいる通りで戦うよりはやりやすいだろう、と相馬は言う。逃亡の可能性はあるが、戦闘行為自体は問題ない。
「楽しいハロウィンの為に頼むぜ」
相馬の声に背中を押されるように、覚者達は会議室から出た。
ハロウィン。
本来は秋の収穫を祝い悪霊を追い出すケルトの祭りだが、巡り巡って今では仮装行列のようになっている。
悪霊に見つからないようにするための仮装なのだが、別に悪霊を倒してしまっても構わないのだろう? とばかりにヒーローヒロインの仮装も多い。
さて、そんな仮装の中に古妖が混じっていることもある。人に似た古妖は、この時期人間の仮装を装って――変な言葉だがそれはともかく――町に交じっている。本番前の練習と言ってしまえば、多少奇異な目で見られるが素通りされるらしい。
問題は、古妖の中には人にいたずらするものもいるわけで……。
●古妖と女の子と
「おねーさんはゆうれいのこすぷれですか?」
問いかけるアリス姿の女の子に、その女性は笑顔を浮かべてしゃがみ込んだ。
「惜しいわ、お嬢ちゃん。私は幽霊じゃないの――」
しゃがみ込んだまま女性は後ろを向く。首をかしげる女の子に向けて、ゆっくりと髪をかき上げる。そこには、
「え? うしろに、おかお?」
後頭部にもう一つ顔があった。あっけにとられる女の子。
「ばああああああああ!」
後ろの顔は大きく口を開けて、女の子を飲み込もうと迫る。
「うわあああああああああん!」
「あははは。おねーさんは『二口女』でしたー。お菓子いただきー」
泣き叫ぶ女の子。彼女の持っているバスケットからひょいぱく、とお菓子を奪って食べる二口女。そのまま笑いながらハロウィンの仮装行列に交じっていく。
「とりっくおあとりーと。お菓子くれても脅かしちゃうけどねっ」
●FiVE
「おっす! よく集まってくれたな!」
元気よく手を挙げて覚者を迎える久方 相馬(nCL2000004)。皆が席に着いたのを確認して、説明を開始した。
「町にハロウィンのコスプレをしている人がいるんだが、その中に古妖がいる。
で、この古妖が子供を脅かしてお菓子を奪っているんだ」
しばらく前まで戦争だのなんだのと血生臭い状況だった覚者達は、そのギャップ差に思わず脱力する。
「おいおい。気を抜かないでくれよ。行動はセコいと思うけど、厄介な相手には違いないんだ。この子だってこれがトラウマになるかもしれないんだぜ」
ああ、そうでした。仮にも覚者が集められたのだから、相応に強い相手なのだ。
「古妖は裏路地を使って移動し、複数の箇所でお菓子を強奪するつもりだ。この場所で待機していればやってくる。それなりに広くて、戦うには適した場所だ」
人がいる通りで戦うよりはやりやすいだろう、と相馬は言う。逃亡の可能性はあるが、戦闘行為自体は問題ない。
「楽しいハロウィンの為に頼むぜ」
相馬の声に背中を押されるように、覚者達は会議室から出た。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.二口女を倒す。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ハロウィンに悪霊退治とか割とらしいんじゃないですかね?
●敵情報
・二口女
古妖。見た目は二十代前半の女性。白色の浴衣を着た長い黒髪が特徴的です。OPの女の子の言葉を借りれば「ゆーれいのこすぷれ」。
後頭部にも顔があり、髪の毛も蛇のように動きます。打撃力の高さで圧倒するのではなく、手数やバッドステータスで相手を翻弄して煙に巻く戦い方を好みます。強さは平均的な妖のランク2よりも若干強いスペックです。
攻撃方法
髪の毛 物遠列 髪の毛が伸びて、絡みついてきます。〔痺れ〕〔鈍化〕
表の口 特近貫3 笑い声をあげて、精神的に揺さぶります。〔Mアタック20〕〔不殺〕
裏の口 物近単 大きく開いた口で噛みついてきます。〔必殺〕
お菓子 特近味単 奪ったお菓子を食べます。〔HP回復〕
二口女 P 二つの口と二つの意志が存在します。常に連続攻撃発動。またブロックの計算は『二人』扱いになります。
●場所情報
京都某所の裏路地。この先を抜けた通りにOPの女の子がいます。時刻は夜。明かりは若干暗め。広さと足場は申し分なし。
事前付与は一度だけ可能。戦闘開始時、敵との距離は十メートルとします。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年11月08日
2015年11月08日
■メイン参加者 8人■

●
「本当に妖怪変化が街に現れるとは、興味深い。ある意味でこの行事の本来的な状態になっているとでも言いましょうか」
ハロウィンに混じる古妖を見て『六尺様は練り歩く』犬童 アキラ(CL2000698)はふむりと頷いた。白い帽子に白いワンピース。背中まで伸ばしたロングヘア。口から時折『ぽぽっぽ ぽっぽー』と奇妙な音を発していた。
「巫女服も仮装みたいなものよね」
熊守・小梅(CL2000512)は着慣れた巫女服をひらひらと振りながら歩く。学校が終われば巫女服の小梅からすれば、普段着と相違ない。学校の同級生に見られてコスプレ扱いされたときは、何か言ってやろうかと思ったが。
「被害者を出す前にちゃちゃっと終わらせるのじゃよ」
帽子の位置を直しながら『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)は二口女の前に現れる。この通りを抜けたところに夢見が見た少女がいる。いたいけな子供に悲しいハロウィンの思い出を植え付けるわけにはいかない。
「赤祢くんの分もあるぜ 俺マジ有能」
「お前、男に衣装用意して悲しくないのか?」
そう言いあうのは、四月一日 四月二日(CL2000588)の用意した執事衣装を無理やり着せられた赤祢 維摩(CL2000884)。仲がいいのか悪いのか。維摩の声にはできるだけ関わりたくない陰鬱な声が混じりつつも、四月二日の行動には逆らいきれないでいた。そんな四月二日も執事服が似合っている維摩に対し、素直に感想が言えずに悪態をついてしまう。互いに互いを罵りあいつつも、その息は奇妙な具合にあっていた。
「そこの二口女さん、こんにちは、少し話しをしませんか? ハロウィンはお化け屋敷では無いのでねビックリ要素は、いらないそうですよ」
二口女に向かい交渉を行う『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)。人間に危害を加えすぎれば人間が古妖を恐れ、結果として人間との仲が悪くなる。そのバランスをとるために動くのも吝かではなかった。
「怖がらせすぎるのは貴方のイメージダウンにもつながりますし、このあたりで、勘弁していただけませんか?」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)も二口女に悪戯をやめるように告げる。夢見の話を聞くに、それほど凶悪な古妖とは思えない。ハロウィンを楽しみたい、というのならそれは構わない。だが、節度は守ってほしい。
アキラや四月二日も説得に加わるが、二口女は首を縦に振らなかった。
「えー? 脅かすの楽しいじゃなーい。やーよー」
「夢見が先を見てそう判断したということは、説得は無理だったってことでしょうね」
車いすに乗ったままの状態で肩をすくめる橡・槐(CL2000732)。ハロウィン自体がどうなろうが槐には構わないが、これも仕事だ。二口女の動きを警戒するが、いきなり襲い掛かってくるような真似はなさそうだ。脅かすのは好きだが、無暗に殴り掛かる性格でもないらしい。
「致し方ありません。ではこちらもトリックを」
説得は無理と判断した千陽の言葉と同時に、覚者達は一斉に覚醒する。神具を手に二口女に向かって構えた。
「んー。そういうのも楽しーかも?」
覚者の行動を受けて、二口女も構えを取る、声の伸びこそ変わらないが、わずかに下がったトーンが戦意を感じさせた。
平和なハロウィンの一日を守るため、覚者達は一斉に動き出した。
●
「腐っても古妖か。面倒だな」
深緑の瞳で二口女を見ながら維摩が呟く。相手を軽視するつもりはない。だが過剰に驚くつもりもない。相手を見て、調べて、どういったものかを分析する。それは研究の基礎だ。わざわざハロウィンの祭に出てきたのも、研究のため。
得た情報は夢見とFiVEの情報とほぼ相違なかった。強いて追加する事項があるとするなら、前も後ろも視界を持ち隙がないということか。逆に言えば下手な小細工は意味をなさない。ならば正攻法で攻めるのみ。そう判断して霧を発し、相手の動きを阻害する。
「ふん、調子に乗った古妖が痛い目見るのも様式美だろう。精々浮かれて騒いで冷や水浴びてろよ」
「冷や水浴びせれるほど、貴方達は強いのかしらー?」
「貴方が強さを求めるのなら、敢えて言おう。十天が長、九鬼菊。参る」
菊の視点から見れば二口女は『悪』ではないが、強さを求められればそれに応じよう。鬼の牙を使って作られたと言われる巨大な鎌。それを一振りして古妖に向ける。金の瞳が射貫くように二口女に向けられる。
イメージするのは風にそよぐ広葉樹。心を穏やかにして、繰り返し神具を振るった鍛錬を思い起こす。心穏やかに、そしてただ真っ直ぐに。振るわれた鎌から伝わってくるのは、肉を割いた確かな感覚。
「できることなら降伏してほしいのですが」
「やーよ。この程度じゃ満足できなーい」
「では仕方ありません。そちらの流儀に合わせたトリックをお見舞いせざるを得ません! 解身(リリース)!」
二口女の言葉に頷いてアキラが覚醒する。派手な光が迸る。その光が消えたころには、ワンピースの姿ではなく全身を黒鉄で覆われたアキラがいた。『85式特殊強化装甲服』――かつて所属していた組織の廃棄物を強奪した防具だ。
土の加護を身にまとい、二口女の前に立つ。ここより先は通さぬという気迫を示し、拳を握って静かに構える。弓を引き絞るように筋肉に力を籠める。狙うは相手の正中線。呼気と共に突き出された拳が、まっすぐに古妖を打つ。
「髪の毛や二口部分で惑わせて来る様ですが、本体は一人分! 狙いは一点、正中どまんなかであります!」
「やーん。ちゃんと二人いるのにー」「じんかくひていされたぁ。ぎゃははは!」
「うわ! 今喋ったの後ろの口なの!?」
甲高い声で笑い声をあげる二口女に驚く小梅。懐中電灯を頭に巻きつける、といういかにも今から誰かを呪いそうな巫女の格好だが、その甲斐もあって視界の確保は十分だ。まあ古妖の後ろの口が笑う姿まで、ばっちり見てしまったわけだが。
玉串を握りしめ、左右に払う小梅。玉串の先に就いた水気が、路地裏の空気を清めるように広がった。広がる水気は霧となり、それは仲間の傷に収縮していく。癒しの力を含んだ清らかな水。それが二口女に傷つけられた仲間の傷を癒していく。
「もしかして表と裏で別人格……?」
「そーよ。私が双葉でー」「わたしがふたえ! あはははははは!」
「のんびり表と狂った裏ですか。本気でどうでもいいですね」
呪符を手にした槐が冷静に解析する。実際どうでもいいことだ。あえて言うなら、うるさいから黙っててほしいぐらいだ。どうあれここで止めるのが仕事なら、手加減をする理由はない。二人(?)まとめて黙らせよう。
リラックス効果を高める樹木の匂いを放ち、味方の抵抗力をあげる槐。その後に仲間の盾となるべく動いていた。自らは手を汚さず、がモットーの槐。だからと言って味方に貢献しないわけではない。むしろその支えがあるからこそ、二口女は攻めきれないでいた。
「まあ仕事はきちんと終わらせましょう。悪戯を止めるのに囲んで叩くというのは血なまぐさい話ですが」
「ちなまぐさい! おいしそう!」
「後ろの口は大食いと聞いたが、なるほどのぅ」
裏の口の声を聴きながら姫路は頷いた。二口女。それなりに有名な古妖だ。諸説あるが、後ろの口がかなりの食事を一気に食べるということは共通している。それを念頭に入れて姫路は攻撃パターンを思考する。二の意志と二の人格。それは二つの動きがあることだ。
半月斧を構え、二口女の動きを見る。揺れる髪も二つの意志で動いているのだろう。それを知っているからこそ分かる、髪の毛の動き。横なぎに払うように斧を振るって牽制し、源素の力を斧に込めて烈火の一撃を放つ。
「菓子が欲しいのなら雷おこしをくれてやる。食ったら家に帰るんじゃ」
「お菓子は飴がいいのー。脅かして奪うのがいいのー」
「ハロウィン楽しみたい気持ちは尊重するけど、そのビビらせたスキにお菓子を奪うスタイルやめない?」
二口女の文句を受けて、呆れたように四月二日が返す。普通にトリックオアトリートするなら四月二日も吝かではない。折角の執事スタイルだ。お菓子を用意することも辞さないつもりだ。だが、相手はそれでは納得しないのはわかっている。
右手に両刃剣、左手に斧を持ち、交差するように両手を構えて疾駆する四月二日。一歩、二歩、髪の毛を避け、三歩、横によけようとする二口女に軌道を修正した。両手を広げるように刃を繰り出し、古妖に傷を負わせる。
「泣かれて終わりだなんて、折角の完成度の高いオバケビジュアル……もとい。セクシーな白浴衣姿が勿体ないぜ」
「うふふー。セクシーはありがとーね」「おばけちがうけどね!」
「殺意はないとはいえ、民に害をなそうとするのなら止めさせてもらいます」
金の瞳で二口女を見る千陽。軍の教育を受けた千陽の第一義は、国民を守ることである。度が過ぎた悪戯と言える二口女の所業は、殺害するほどではないが放置はできなかった。後ろで行われている平和な万聖節。その笑顔を守るため、銃を取る。
味方を守る土の壁を形成したのち、銃とナイフを構える千陽。二口女の足元に弾丸を放ち気を引いて、その隙にナイフの間合いに近づいた。ナイフを意識した二口女の太ももに銃口を押し当て、引き金を引く。ナイフと銃の複合戦闘術。軍の鍛錬で身に着けた戦闘スタイル。
「ここで手打ちにしませんか? もうお互い充分トリックを果たせたと思いますが?」
「まだまだ悪戯し足りなーい」「いたい! おかしたべる! まだやれる!」
千陽の降伏勧告に二つの口が拒否を示す。やれやれ、と覚者達は気合を入れなおす。
ハロウィンの裏側で行われる覚者と古妖の戦い。それはゆっくりと終わりに近づいていく。
●
二口女の手数は多い。広範囲の攻撃を持ち、表と裏の『二人』で攻める。髪の毛で動きを封じ、口で攻めてくる。
覚者達は貫通攻撃を喰らわないようにばらけようとするが、
「いいのー? そのままだと走って向こうに抜けちゃうよー?」
二口女の一言で動きが止まる。貫通攻撃を避けて散開すれば、二口女を足止めするための壁に『隙間』ができることになる。自分たちの目的を考えれば、それはできない。
「まだこの程度では倒れるわけにはいきません!」
「ふん、馬鹿笑いが耳に残る」
「ああ!? もううっざいわね、アタシの巫女服そんなに変!?」
菊、維摩、小梅が二口女の笑い声で膝をつく。命数を燃やし、気合と共に立ち上がる。
「ここからが天王山というものじゃ」
後ろの口に噛みつかれ、姫路も命数を削る。痛みに耐えながら、笑みを浮かべた。
「仕方ないですね。口だけ女にいいようにされるのも癪ですし」
槐は防御の構えを取って小梅を庇うようにして動く。呪符を両手に構え、それを突き出すようにして呪的な笑い声を弾く。攻撃以外のすべてを行おうとする槐。仲間を守るのは目的達成のために。冷静に戦局を見るからこそできる行為もある。
「馬鹿相手にまともにやる気も起きんな」
大口あけて笑う二口女を唾棄するようにつぶやき、維摩は味方に付与を行う。戦場に響く儀式の言葉。それは戦士の心を高揚させ、仲間の火力をあげる技。維摩は口は悪いが、言葉通り手を抜いているわけではない。むしろ、自分にできる最善手を尽くしていた。
「問題はありません。自分が盾になります故に」
常に二口女の前に立ち、その行く手を封鎖するように動くアキラ。敵の攻撃を一身に受ける位置に進むのは、幼き頃に両親を奪われた経験からか。はたまた育ててもらった組織の教えゆえか。強化服の傷はその献身の量。
「普通に楽しんでる人たちやルールを守っている古妖、帰ってくる死者の霊に失礼だろ?」
自分勝手な二口女に怒りを燃やす四月二日。ハロウィンを楽しむために頑張って仮装する人もいる。お菓子を作った人もいる。そんな人たちの苦労を好き放題荒らされれば、怠惰な四月二日でも許せやしない。
「古妖と人間のバランスです。お互いの穏便な距離感の為に」
鎌を振りながら菊が口を開く。この世界に存在する人間と古妖。その関係を良好に保つために、過ぎた悪戯をする古妖を懲らしめる。命を奪うほどではない。悪意ある人間よりも、彼らの方が接しやすい。
「厄介な髪の毛じゃのぅ」
二口女の放つ髪の毛を払おうと斧を振るう姫路。だが細かな束である髪の毛を斧で切るのは難しい。ましてや相手は人外の髪だ。諦めて、少しずつほどいていく。落ち着いてやれば、そう難しいことではない。
「気力切れたわ! オラァ、巫女本塁打アタック!」
立て続けに回復を行っていた小梅が、術の限界に達する。今まで笑われていた怒りもあり、持っていた神具をバットの様に構えて、思いっきり振りかぶった。ギャグのように見えるがかなりの威力があり、古妖の二つの口から悲鳴が上がる。
「なんと、本当に二人いるようだ。驚きです」
二口女の行動や所作に驚く演技をしながら、千陽はナイフを振るう。相手は人を脅かすのが好きな古妖だ。ならその心が少しでも満ちるように、という配慮である。相手は常に笑っているため、満足してもらっているかは分かりにくい。
相手の動きを封じ、手数で攻める二口女。
「ふん、休むのは終わった後だ。悠長にする暇など与えるものかよ」
「文字通りの後ろ髪で足止めですか。笑えませんね」
それに対し、維摩と槐の解除術が的確に二口女の搦め手を解いていく。そうなれば火力自体が高くない二口女は覚者達の火力の前に押されることになる。
「まだ負けるわけにはいきません!」
アキラが二口女の裏の口に食われて命数を削るが、もはや勝負は決したも同然だった。
「自己中なヤツが痛い目見るのは、ハロウィンに限った話じゃねえ」
両手に神具を構えた四月二日が走る。二口女の懐に入り込み、刃を向けた。怠惰で享楽的な四月二日だが、その内にはそんな自分に対する炎がくすぶっている。その炎を一瞬燃え上がらせ、神具を振るった。
「トリックオアトリート。本気のトリック喰らう覚悟はできてるんだよな」
両手に伝わる確かな手ごたえ。四月二日の耳に古妖の『二人』の悲鳴が確かに聞こえる。
神具を回転して納めると同時、二口女の体は地面に横たわった。
●
「これに懲りたらお菓子強奪やめなさいね!? ちゃんとルールを守ってお菓子をもらうこと!」
「「はーい」」
正座をした二口女に向けて、小梅が腰に手を当てて説教していた。二つの口で同時に返事をする古妖。まったく、アタシだってお菓子欲しいのに。年齢的にお菓子をあげないといけないんだから。なのに強奪とかうらやま……ちがう、許しておけるものではない。その怒りを込めて、説教は続く。
「仮装割引してるバーとか結構あるんだよなあ……というワケで赤祢くん、とっととサンプル回収済まして。飲みに行くぞ!」
「ちっ、煩いはしゃぐな馬鹿が。一人で飲んで勝手に潰れてろよ」
戦いがひと段落して、四月二日はチラシを手にして維摩を飲みに誘う。ハロウィン期間内の仮装割引を行っているバーだ。返ってきた維摩からの返事も予想の範疇内だ。適度に聞き流して、連行しよう。
そして維摩はというと、古妖のサンプルを回収していた。古妖と妖。この二つに違いがあるのか。それとも同じものなのか。それを知るためのきっかけとなればいいのだが……とりあえず連行しようとする四月二日をどう処理するかが目下の問題である。
「お古になって申し訳ありませんが、どうぞ。女性に大変失礼を働いて申し訳ありません」
千陽は戦闘でボロボロになった二口女に外套を渡す。相手は古妖で任務とはいえ、女性相手に刃を向けたことには変わりない。戦いが終われば紳士に対応するのが、軍人としての務めだ。
「此れにて一件落着じゃな。さて、どうする? 普通にハロウィンを楽しむか?」
「え? いーの?」
覚醒を解除して姫路が頷く。古妖はこれ以上悪さをするつもりはないだろう。ならハロウィンの町を歩くことに関して、何の問題もない。過度に脅かさなければ仮装行列に加わってもいいし、お菓子が欲しければあげてもいい。
「ハロウィン参加するにしても、監視は付けておいた方がいいですよ」
同じく覚醒状態を解除した槐がため息交じりで条件を追加した。今は傷ついて言うことを聞くかもしれないが、傷が治ればその限りではない。覚者八人がかりで押さえた相手なのだ。注意するに越したことはない。
「それなら自分が一緒に行列に参加するでありますよ!」
進言したのはアキラだ。元々ハロウィン気分を楽しもうと、長身女性が練り歩く都市伝説の仮装をしている。このまま一緒に回るのなら問題はありません、と自分の胸を叩くアキラ。FiVEスタッフも監視することを考えれば、確かに問題はなさそうだ。
人と古妖、それが共に歩けるハロウィンという祭。
だが二種族の距離が近づけば、ハロウィンだけではなく他の行事も古妖が参加できるようになるかもしれない。
そんな日はいつか来るのだろうか? それは夢見ですら見えない未来の話だ。
「もしよかったら、僕のこと驚かしてください」
年がら年中仏頂面の菊は、二口女にそうお願いした。菊自身が自分が驚いた時どう反応するかを見てみたかった。
「じゃあいくよー」「ばああああ!」
「――――!」
それは普段大人びている菊とは思えない――年齢相応の少年の驚きようであった。
「本当に妖怪変化が街に現れるとは、興味深い。ある意味でこの行事の本来的な状態になっているとでも言いましょうか」
ハロウィンに混じる古妖を見て『六尺様は練り歩く』犬童 アキラ(CL2000698)はふむりと頷いた。白い帽子に白いワンピース。背中まで伸ばしたロングヘア。口から時折『ぽぽっぽ ぽっぽー』と奇妙な音を発していた。
「巫女服も仮装みたいなものよね」
熊守・小梅(CL2000512)は着慣れた巫女服をひらひらと振りながら歩く。学校が終われば巫女服の小梅からすれば、普段着と相違ない。学校の同級生に見られてコスプレ扱いされたときは、何か言ってやろうかと思ったが。
「被害者を出す前にちゃちゃっと終わらせるのじゃよ」
帽子の位置を直しながら『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)は二口女の前に現れる。この通りを抜けたところに夢見が見た少女がいる。いたいけな子供に悲しいハロウィンの思い出を植え付けるわけにはいかない。
「赤祢くんの分もあるぜ 俺マジ有能」
「お前、男に衣装用意して悲しくないのか?」
そう言いあうのは、四月一日 四月二日(CL2000588)の用意した執事衣装を無理やり着せられた赤祢 維摩(CL2000884)。仲がいいのか悪いのか。維摩の声にはできるだけ関わりたくない陰鬱な声が混じりつつも、四月二日の行動には逆らいきれないでいた。そんな四月二日も執事服が似合っている維摩に対し、素直に感想が言えずに悪態をついてしまう。互いに互いを罵りあいつつも、その息は奇妙な具合にあっていた。
「そこの二口女さん、こんにちは、少し話しをしませんか? ハロウィンはお化け屋敷では無いのでねビックリ要素は、いらないそうですよ」
二口女に向かい交渉を行う『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)。人間に危害を加えすぎれば人間が古妖を恐れ、結果として人間との仲が悪くなる。そのバランスをとるために動くのも吝かではなかった。
「怖がらせすぎるのは貴方のイメージダウンにもつながりますし、このあたりで、勘弁していただけませんか?」
『狗吠』時任・千陽(CL2000014)も二口女に悪戯をやめるように告げる。夢見の話を聞くに、それほど凶悪な古妖とは思えない。ハロウィンを楽しみたい、というのならそれは構わない。だが、節度は守ってほしい。
アキラや四月二日も説得に加わるが、二口女は首を縦に振らなかった。
「えー? 脅かすの楽しいじゃなーい。やーよー」
「夢見が先を見てそう判断したということは、説得は無理だったってことでしょうね」
車いすに乗ったままの状態で肩をすくめる橡・槐(CL2000732)。ハロウィン自体がどうなろうが槐には構わないが、これも仕事だ。二口女の動きを警戒するが、いきなり襲い掛かってくるような真似はなさそうだ。脅かすのは好きだが、無暗に殴り掛かる性格でもないらしい。
「致し方ありません。ではこちらもトリックを」
説得は無理と判断した千陽の言葉と同時に、覚者達は一斉に覚醒する。神具を手に二口女に向かって構えた。
「んー。そういうのも楽しーかも?」
覚者の行動を受けて、二口女も構えを取る、声の伸びこそ変わらないが、わずかに下がったトーンが戦意を感じさせた。
平和なハロウィンの一日を守るため、覚者達は一斉に動き出した。
●
「腐っても古妖か。面倒だな」
深緑の瞳で二口女を見ながら維摩が呟く。相手を軽視するつもりはない。だが過剰に驚くつもりもない。相手を見て、調べて、どういったものかを分析する。それは研究の基礎だ。わざわざハロウィンの祭に出てきたのも、研究のため。
得た情報は夢見とFiVEの情報とほぼ相違なかった。強いて追加する事項があるとするなら、前も後ろも視界を持ち隙がないということか。逆に言えば下手な小細工は意味をなさない。ならば正攻法で攻めるのみ。そう判断して霧を発し、相手の動きを阻害する。
「ふん、調子に乗った古妖が痛い目見るのも様式美だろう。精々浮かれて騒いで冷や水浴びてろよ」
「冷や水浴びせれるほど、貴方達は強いのかしらー?」
「貴方が強さを求めるのなら、敢えて言おう。十天が長、九鬼菊。参る」
菊の視点から見れば二口女は『悪』ではないが、強さを求められればそれに応じよう。鬼の牙を使って作られたと言われる巨大な鎌。それを一振りして古妖に向ける。金の瞳が射貫くように二口女に向けられる。
イメージするのは風にそよぐ広葉樹。心を穏やかにして、繰り返し神具を振るった鍛錬を思い起こす。心穏やかに、そしてただ真っ直ぐに。振るわれた鎌から伝わってくるのは、肉を割いた確かな感覚。
「できることなら降伏してほしいのですが」
「やーよ。この程度じゃ満足できなーい」
「では仕方ありません。そちらの流儀に合わせたトリックをお見舞いせざるを得ません! 解身(リリース)!」
二口女の言葉に頷いてアキラが覚醒する。派手な光が迸る。その光が消えたころには、ワンピースの姿ではなく全身を黒鉄で覆われたアキラがいた。『85式特殊強化装甲服』――かつて所属していた組織の廃棄物を強奪した防具だ。
土の加護を身にまとい、二口女の前に立つ。ここより先は通さぬという気迫を示し、拳を握って静かに構える。弓を引き絞るように筋肉に力を籠める。狙うは相手の正中線。呼気と共に突き出された拳が、まっすぐに古妖を打つ。
「髪の毛や二口部分で惑わせて来る様ですが、本体は一人分! 狙いは一点、正中どまんなかであります!」
「やーん。ちゃんと二人いるのにー」「じんかくひていされたぁ。ぎゃははは!」
「うわ! 今喋ったの後ろの口なの!?」
甲高い声で笑い声をあげる二口女に驚く小梅。懐中電灯を頭に巻きつける、といういかにも今から誰かを呪いそうな巫女の格好だが、その甲斐もあって視界の確保は十分だ。まあ古妖の後ろの口が笑う姿まで、ばっちり見てしまったわけだが。
玉串を握りしめ、左右に払う小梅。玉串の先に就いた水気が、路地裏の空気を清めるように広がった。広がる水気は霧となり、それは仲間の傷に収縮していく。癒しの力を含んだ清らかな水。それが二口女に傷つけられた仲間の傷を癒していく。
「もしかして表と裏で別人格……?」
「そーよ。私が双葉でー」「わたしがふたえ! あはははははは!」
「のんびり表と狂った裏ですか。本気でどうでもいいですね」
呪符を手にした槐が冷静に解析する。実際どうでもいいことだ。あえて言うなら、うるさいから黙っててほしいぐらいだ。どうあれここで止めるのが仕事なら、手加減をする理由はない。二人(?)まとめて黙らせよう。
リラックス効果を高める樹木の匂いを放ち、味方の抵抗力をあげる槐。その後に仲間の盾となるべく動いていた。自らは手を汚さず、がモットーの槐。だからと言って味方に貢献しないわけではない。むしろその支えがあるからこそ、二口女は攻めきれないでいた。
「まあ仕事はきちんと終わらせましょう。悪戯を止めるのに囲んで叩くというのは血なまぐさい話ですが」
「ちなまぐさい! おいしそう!」
「後ろの口は大食いと聞いたが、なるほどのぅ」
裏の口の声を聴きながら姫路は頷いた。二口女。それなりに有名な古妖だ。諸説あるが、後ろの口がかなりの食事を一気に食べるということは共通している。それを念頭に入れて姫路は攻撃パターンを思考する。二の意志と二の人格。それは二つの動きがあることだ。
半月斧を構え、二口女の動きを見る。揺れる髪も二つの意志で動いているのだろう。それを知っているからこそ分かる、髪の毛の動き。横なぎに払うように斧を振るって牽制し、源素の力を斧に込めて烈火の一撃を放つ。
「菓子が欲しいのなら雷おこしをくれてやる。食ったら家に帰るんじゃ」
「お菓子は飴がいいのー。脅かして奪うのがいいのー」
「ハロウィン楽しみたい気持ちは尊重するけど、そのビビらせたスキにお菓子を奪うスタイルやめない?」
二口女の文句を受けて、呆れたように四月二日が返す。普通にトリックオアトリートするなら四月二日も吝かではない。折角の執事スタイルだ。お菓子を用意することも辞さないつもりだ。だが、相手はそれでは納得しないのはわかっている。
右手に両刃剣、左手に斧を持ち、交差するように両手を構えて疾駆する四月二日。一歩、二歩、髪の毛を避け、三歩、横によけようとする二口女に軌道を修正した。両手を広げるように刃を繰り出し、古妖に傷を負わせる。
「泣かれて終わりだなんて、折角の完成度の高いオバケビジュアル……もとい。セクシーな白浴衣姿が勿体ないぜ」
「うふふー。セクシーはありがとーね」「おばけちがうけどね!」
「殺意はないとはいえ、民に害をなそうとするのなら止めさせてもらいます」
金の瞳で二口女を見る千陽。軍の教育を受けた千陽の第一義は、国民を守ることである。度が過ぎた悪戯と言える二口女の所業は、殺害するほどではないが放置はできなかった。後ろで行われている平和な万聖節。その笑顔を守るため、銃を取る。
味方を守る土の壁を形成したのち、銃とナイフを構える千陽。二口女の足元に弾丸を放ち気を引いて、その隙にナイフの間合いに近づいた。ナイフを意識した二口女の太ももに銃口を押し当て、引き金を引く。ナイフと銃の複合戦闘術。軍の鍛錬で身に着けた戦闘スタイル。
「ここで手打ちにしませんか? もうお互い充分トリックを果たせたと思いますが?」
「まだまだ悪戯し足りなーい」「いたい! おかしたべる! まだやれる!」
千陽の降伏勧告に二つの口が拒否を示す。やれやれ、と覚者達は気合を入れなおす。
ハロウィンの裏側で行われる覚者と古妖の戦い。それはゆっくりと終わりに近づいていく。
●
二口女の手数は多い。広範囲の攻撃を持ち、表と裏の『二人』で攻める。髪の毛で動きを封じ、口で攻めてくる。
覚者達は貫通攻撃を喰らわないようにばらけようとするが、
「いいのー? そのままだと走って向こうに抜けちゃうよー?」
二口女の一言で動きが止まる。貫通攻撃を避けて散開すれば、二口女を足止めするための壁に『隙間』ができることになる。自分たちの目的を考えれば、それはできない。
「まだこの程度では倒れるわけにはいきません!」
「ふん、馬鹿笑いが耳に残る」
「ああ!? もううっざいわね、アタシの巫女服そんなに変!?」
菊、維摩、小梅が二口女の笑い声で膝をつく。命数を燃やし、気合と共に立ち上がる。
「ここからが天王山というものじゃ」
後ろの口に噛みつかれ、姫路も命数を削る。痛みに耐えながら、笑みを浮かべた。
「仕方ないですね。口だけ女にいいようにされるのも癪ですし」
槐は防御の構えを取って小梅を庇うようにして動く。呪符を両手に構え、それを突き出すようにして呪的な笑い声を弾く。攻撃以外のすべてを行おうとする槐。仲間を守るのは目的達成のために。冷静に戦局を見るからこそできる行為もある。
「馬鹿相手にまともにやる気も起きんな」
大口あけて笑う二口女を唾棄するようにつぶやき、維摩は味方に付与を行う。戦場に響く儀式の言葉。それは戦士の心を高揚させ、仲間の火力をあげる技。維摩は口は悪いが、言葉通り手を抜いているわけではない。むしろ、自分にできる最善手を尽くしていた。
「問題はありません。自分が盾になります故に」
常に二口女の前に立ち、その行く手を封鎖するように動くアキラ。敵の攻撃を一身に受ける位置に進むのは、幼き頃に両親を奪われた経験からか。はたまた育ててもらった組織の教えゆえか。強化服の傷はその献身の量。
「普通に楽しんでる人たちやルールを守っている古妖、帰ってくる死者の霊に失礼だろ?」
自分勝手な二口女に怒りを燃やす四月二日。ハロウィンを楽しむために頑張って仮装する人もいる。お菓子を作った人もいる。そんな人たちの苦労を好き放題荒らされれば、怠惰な四月二日でも許せやしない。
「古妖と人間のバランスです。お互いの穏便な距離感の為に」
鎌を振りながら菊が口を開く。この世界に存在する人間と古妖。その関係を良好に保つために、過ぎた悪戯をする古妖を懲らしめる。命を奪うほどではない。悪意ある人間よりも、彼らの方が接しやすい。
「厄介な髪の毛じゃのぅ」
二口女の放つ髪の毛を払おうと斧を振るう姫路。だが細かな束である髪の毛を斧で切るのは難しい。ましてや相手は人外の髪だ。諦めて、少しずつほどいていく。落ち着いてやれば、そう難しいことではない。
「気力切れたわ! オラァ、巫女本塁打アタック!」
立て続けに回復を行っていた小梅が、術の限界に達する。今まで笑われていた怒りもあり、持っていた神具をバットの様に構えて、思いっきり振りかぶった。ギャグのように見えるがかなりの威力があり、古妖の二つの口から悲鳴が上がる。
「なんと、本当に二人いるようだ。驚きです」
二口女の行動や所作に驚く演技をしながら、千陽はナイフを振るう。相手は人を脅かすのが好きな古妖だ。ならその心が少しでも満ちるように、という配慮である。相手は常に笑っているため、満足してもらっているかは分かりにくい。
相手の動きを封じ、手数で攻める二口女。
「ふん、休むのは終わった後だ。悠長にする暇など与えるものかよ」
「文字通りの後ろ髪で足止めですか。笑えませんね」
それに対し、維摩と槐の解除術が的確に二口女の搦め手を解いていく。そうなれば火力自体が高くない二口女は覚者達の火力の前に押されることになる。
「まだ負けるわけにはいきません!」
アキラが二口女の裏の口に食われて命数を削るが、もはや勝負は決したも同然だった。
「自己中なヤツが痛い目見るのは、ハロウィンに限った話じゃねえ」
両手に神具を構えた四月二日が走る。二口女の懐に入り込み、刃を向けた。怠惰で享楽的な四月二日だが、その内にはそんな自分に対する炎がくすぶっている。その炎を一瞬燃え上がらせ、神具を振るった。
「トリックオアトリート。本気のトリック喰らう覚悟はできてるんだよな」
両手に伝わる確かな手ごたえ。四月二日の耳に古妖の『二人』の悲鳴が確かに聞こえる。
神具を回転して納めると同時、二口女の体は地面に横たわった。
●
「これに懲りたらお菓子強奪やめなさいね!? ちゃんとルールを守ってお菓子をもらうこと!」
「「はーい」」
正座をした二口女に向けて、小梅が腰に手を当てて説教していた。二つの口で同時に返事をする古妖。まったく、アタシだってお菓子欲しいのに。年齢的にお菓子をあげないといけないんだから。なのに強奪とかうらやま……ちがう、許しておけるものではない。その怒りを込めて、説教は続く。
「仮装割引してるバーとか結構あるんだよなあ……というワケで赤祢くん、とっととサンプル回収済まして。飲みに行くぞ!」
「ちっ、煩いはしゃぐな馬鹿が。一人で飲んで勝手に潰れてろよ」
戦いがひと段落して、四月二日はチラシを手にして維摩を飲みに誘う。ハロウィン期間内の仮装割引を行っているバーだ。返ってきた維摩からの返事も予想の範疇内だ。適度に聞き流して、連行しよう。
そして維摩はというと、古妖のサンプルを回収していた。古妖と妖。この二つに違いがあるのか。それとも同じものなのか。それを知るためのきっかけとなればいいのだが……とりあえず連行しようとする四月二日をどう処理するかが目下の問題である。
「お古になって申し訳ありませんが、どうぞ。女性に大変失礼を働いて申し訳ありません」
千陽は戦闘でボロボロになった二口女に外套を渡す。相手は古妖で任務とはいえ、女性相手に刃を向けたことには変わりない。戦いが終われば紳士に対応するのが、軍人としての務めだ。
「此れにて一件落着じゃな。さて、どうする? 普通にハロウィンを楽しむか?」
「え? いーの?」
覚醒を解除して姫路が頷く。古妖はこれ以上悪さをするつもりはないだろう。ならハロウィンの町を歩くことに関して、何の問題もない。過度に脅かさなければ仮装行列に加わってもいいし、お菓子が欲しければあげてもいい。
「ハロウィン参加するにしても、監視は付けておいた方がいいですよ」
同じく覚醒状態を解除した槐がため息交じりで条件を追加した。今は傷ついて言うことを聞くかもしれないが、傷が治ればその限りではない。覚者八人がかりで押さえた相手なのだ。注意するに越したことはない。
「それなら自分が一緒に行列に参加するでありますよ!」
進言したのはアキラだ。元々ハロウィン気分を楽しもうと、長身女性が練り歩く都市伝説の仮装をしている。このまま一緒に回るのなら問題はありません、と自分の胸を叩くアキラ。FiVEスタッフも監視することを考えれば、確かに問題はなさそうだ。
人と古妖、それが共に歩けるハロウィンという祭。
だが二種族の距離が近づけば、ハロウィンだけではなく他の行事も古妖が参加できるようになるかもしれない。
そんな日はいつか来るのだろうか? それは夢見ですら見えない未来の話だ。
「もしよかったら、僕のこと驚かしてください」
年がら年中仏頂面の菊は、二口女にそうお願いした。菊自身が自分が驚いた時どう反応するかを見てみたかった。
「じゃあいくよー」「ばああああ!」
「――――!」
それは普段大人びている菊とは思えない――年齢相応の少年の驚きようであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『ハロウィン☆ビスケット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

■あとがき■
どくどくです。
古妖が混じるハロウィンをお届けしました。
お化け屋敷の中に本物のお化けがいる、というのはある意味ホラーの王道。
もしかしたら今年のハロウィンの中に、本物の怪物がいたかもしれません……と思うと日常にも刺激が出てくるのではないでしょうか?
ともあれお疲れ様です。大怪我はありませんが、ゆっくりと体を癒してください。
それではまた、五麟市で。
古妖が混じるハロウィンをお届けしました。
お化け屋敷の中に本物のお化けがいる、というのはある意味ホラーの王道。
もしかしたら今年のハロウィンの中に、本物の怪物がいたかもしれません……と思うと日常にも刺激が出てくるのではないでしょうか?
ともあれお疲れ様です。大怪我はありませんが、ゆっくりと体を癒してください。
それではまた、五麟市で。
