古妖だってハロウィンがしたい
古妖だってハロウィンがしたい



 黒、橙、紫――町は普段とは異なる装飾に彩られ、行き交う人々もまた異装を纏っている。
 その風習が異国のものであろうと何処のものであろうと、祭りといえば楽しいものだ。
 10月にしてはちょっとぽかぽかした陽気だった。ふらりと山奥の廃寺から外に出て、眼下の町を見下ろした古妖にとっても、なんとなく心惹かれるもので。

「わぁ~、人間が妖の格好をしてるとん」
 きょろきょろ。ぴょこぴょこ。
 ハロウィンの飾り付けがされた商店街を、ツギハギだらけの布団を被った子供が歩いていた。
「それ何のおばけ?」
「おばけじゃないとん」
 すっぽりと布団に覆い隠された姿を見る事は適わないが、小さな背丈から自分と同い年くらいだろう――、そう思った子供の何人かが、布団に話し掛ける。
「お布団おばけはお菓子貰った?」
「だからおばけじゃ……お菓子?!」
「あっちでTrick or treatって言うと貰えるよ」
「とりっくおあとりーとん?」
 だが、周囲の仮装と雰囲気の異なるそれは、浮いていた。そんな彼に、話し掛ける者が皆、好意的というわけではなくて。
「だっせー、何の仮装だよ」
「うっわボロボロ! すっげーみすぼらしー」
「わわ?!」
 ぐい、と布団を勢いよく引っ張られ、バランスを崩す。
「え……?!」
「妖だ、逃げろ!」
 ひっくり返った布団の内側に居たのは、白くてふわふわした綿の塊。円らな目や口といった顔らしきものはあるが、人間のそれとは程遠かった。
「妖だと? 子供たちから離れろ!」

「何だか騒がしいわ……ってあらやだ、ボロちゃんなのだわ、大変なのだわ」
 通りかかった前世持ちの男性に攻撃される友人を目にし、少女は駆けだした。
 太いアナグマの尻尾を左右に揺らして……。


「古妖がハロウィンに興味を持っちまったみたいで」
 久方 相馬(nCL2000004)の見た夢によると、2体の古妖が人里に降りてきて、ハロウィンイベント中の商店街に入り込んでしまったそうだ。
「仮装で来店すると特典があるとかで、周りが仮装したお客さんだらけ。それで古妖も紛れてイベントを楽しんでたみたいなんだが……妖と間違えられて、通りかかった覚者と戦闘になる」
 古妖の戦闘能力は決して高くなく、人を敵視しているわけでもない。この覚者が倒される事も無ければ、周囲の一般人に怪我を負わせる事もないようだ。
「でも、戦闘になりゃ周りのハロウィンのディスプレーは壊されるしイベントは滅茶苦茶だ。無害な古妖が痛めつけられて山に逃げ帰るのも可哀想だし、穏便に済ませてやってほしい」
 説得して山に帰すなり、満足すれば自ら山に帰るようなのでトラブルが起きないように見守るなり、対応は覚者達に任せると言う。
「古い布団の姿をした『暮露暮露団』と、古風な着物を着た貉の少女、『袋狢』だ。持ってる小遣いが多くはないみたいだから、駄菓子屋で買い物してるかその辺の店を見て回ってると思う」
 仮装していくと雑貨店で値引きされたりカフェでコーヒーのおかわりが貰えたりするらしいから、折角だから皆も楽しんでくれば良いんじゃないかな。相馬はそう笑って、覚者達を送り出した。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:宮下さつき
■成功条件
1.商店街で戦闘を起こさない事
2.なし
3.なし
お世話になっております宮下です。
ハロウィンコンテストに参加なさる方もそうでない方も、ぜひ仮装してお楽しみください。

●古妖
2体別々に行動していますが、お友達のようです。

・暮露暮露団(ぼろぼろとん)
ボロボロのお布団です。
のんびりとした性格で、戦闘を好みません。

・袋狢(ふくろむじな)
たぬきみたいな耳と尻尾を持つ少女です。大きな袋を持っているのですぐに判別出来ます。
パワフルで体術スキルに似た技を使いますが、戦闘能力自体は高くありません。

●場所
ごくごく普通の商店街です。
飲食店各種、日用品が揃う店や可愛らしい雑貨店など様々です。
ショッピング等をご自由にお楽しみください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2015年10月31日

■メイン参加者 6人■

『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)
『身体には自信があります』
明智 珠輝(CL2000634)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)

●古妖を探して
 10月下旬。商店街は、いつもと違った活気に満ちていた。日頃の客層よりも若者が多く、一様にハロウィンらしい仮装を纏っている。
 おばけ南瓜に吸血鬼といった西洋のお祭りらしい仮装をする者から、額烏帽子を付けて白装束に身を包んだ日本的な者まで様々で、中には際どい丈のナースや警察官の制服を着ている者も居る辺り、収穫祭というより仮装大会のようだ。
 それは仕事の依頼でやってきたFiVEの面々も同じで、全員が何らかの仮装を身に着けていた。
「じゃあ、待ち合わせはこの辺りで」
「了解」
 古妖達は分かり易い格好をしているとはいえ、この人出だ。覚者達は二手に分かれて探す事となった。

 オーソドックスな魔女っ子衣装に身を包み、『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)は暮露暮露団を探す。アコーディオンを手に陽気なメロディを奏でれば、子供に限らず思わず足を止める者も少なくない。その中に布団の姿は無いものかと目を凝らし、
「こっちの道じゃなさそうね……。お願い出来ますか?」
「わかりました」
 傍らに居たぬりかべ――ではなく、梶浦 恵(CL2000944)に話しかけた。普段の彼女の体躯からは想像出来ない、どっしりとした仮装である。
 恵は辺りに人通りが少なくなったタイミングで、ふわりと飛び上がった。スポンジ等の軽い素材で工夫したようで、動き難そうな見た目に反して難なく飛行している。
「俺の推理が正しければ」
 ニヒルな笑みを口元に湛え、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が指先で鹿撃ち帽のブリムを押し上げた。おもちゃのパイプを口に銜え、ややオーバーに見える動作で一つの方角を指し示す。
「暮露暮露団はあそこにいるはずだ……!」
「よく見えましたね。あそこに居ます」
 シャーロック・ホームズに扮した奏空は頭上からの声に一瞬目を丸くしたが、すぐにキリっとした表情で胸を張った。
「あ、ほんとにいたんだ。……じゃなくて、俺の推理通り!」

「ド変態だってハロウィンがしたい……!」
「いきなり何を」
 今、隣の男は自ら変態を名乗らなかったか。少々戸惑った面持ちで、『BCM店長』阿久津 亮平(CL2000328)は『身体には自信があります』明智 珠輝(CL2000634)を見やった。特撮番組のモンスターをデフォルメしたような白いサナギの仮装は、ころんとしたフォルムで、どことなく愛嬌がある。対する亮平はミイラ男の姿で、全身に包帯を巻いていた。
 くい、と包帯を引かれて振り返れば、天狗姿の由比 久永(CL2000540)が表情一つ変えずに包帯の端を握っている。
「このまま引っ張ったら、お代官様ごっこが……」
「勘弁してください」
 亮平は一瞬商店街のど真ん中でくるくる回転する自身の姿が脳裏を過ぎったが、気を取り直して守護使役のぴよーて3世にていさつを指示した。合わせて鷹の目を使い、袋貉の姿を探す。
「おなごの好きそうな店を重点的に探そう」
「そうだな……、お、あれは」
 大きな袋を引き摺るように背負った少女の後ろ姿を見付け、仲間へ伝える。
「大きな袋を持った可愛いアナグマ少女さん……!」
「ちょ、待っ」
 着ぐるみで動き難くはないのだろうか。二人は軽い足取りで袋貉の元へと向かう珠輝の背を追うのだった。

●古妖とハロウィン
「どうやら、子供達と話しているようですね。急がないと」
 駄菓子の問屋まであと数メートルという所で、少女らに話し掛けられている暮露暮露団を見付けた。相馬の予知に登場した子供達だろうか、今の所は和やかな雰囲気だが、いかにもやんちゃそうな少年達が、背後に迫っている。
「わっ」
 よろめいた暮露暮露団の体を、御菓子が支えた。
「こ~ら、乱暴しちゃダメだよぉ」
 自分がやられたら嫌でしょ? そう問われて少年の眉尻が少し下がる。普段相手にしているのは中学生だが、教師なだけあって子供の扱いは手慣れたものだ。
 御菓子に諭され、少年達がその場を後にする。彼らの背を見送り、暮露暮露団が布団の隙間から顔を覗かせた。
「えっと、ありがとん」
「俺は奏空。ここで一般の人達に見つかっちゃうと騒ぎになっちゃうから、俺達と一緒にあそぼ」
 良いの? と首を傾げる暮露暮露団に、恵も視線の高さを合わせて話し掛ける。
「一緒に楽しみませんか? 仮装をしてお菓子をどれだけ皆から貰えるか、競争しましょう」
「お菓子! やるとん!」
 ぴょこぴょこと体を揺らした彼の後ろで、御菓子は持参した鞄をごそごそと漁りながら、声を弾ませた。
「では、仮装しないといけませんね」

 数分後、暮露暮露団は女性二人によってワンピース姿の少女のようなシルエットに仕立てられていた。
「つぎはぎ娘“スクラップス”よ。動き難いとかありませんか?」
 最後に御菓子が風船で作った頭を乗せて、完成だ。
「大丈夫とん。わぁ~、僕と同じつぎはぎの女の子とか会ってみたいなぁ」
「いえ、オズの魔法使いはフィクションなので……」
 恵はそう言ってから、少し考える。今まで発見されていないだけで、そういう外見の妖も存在するのかもしれない。
「よし、お菓子いっぱい貰おうね!」
「負けないとん!」
 奏空は通りかかったイベントのスタッフを見付け、早速お菓子を貰いに行く。暮露暮露団もすんなりお菓子を貰えている様子を見て、恵は胸を撫で下ろした。
「わたし達も楽しみましょ♪」
「そうですね」

 一方、袋貉は本屋の入口近くに立っていた。突然見知らぬ男性に声を掛けられた事で訝し気な表情をしたが、
「私達は貴方と暮露暮露団さんと、皆でハロウィンを楽しみにきました……!」
「ボロちゃん知ってるの?」
 珠輝に友人の名前を出されて、急に顔が明るくなる。
「ハロウィンは初めて? もしよかったら一緒にお店を回ってみない?」
 袋貉の手にしていた雑誌はティーンズ向けのファッション誌だ。古妖もそんなものに興味を持つのかと驚きつつ、亮平はアクセサリーを売っている店を提案する。
「実は余も天狗の妖なのだ。……まぁそれは冗談だが。ここで出会ったのも何かの縁。よければ一緒に付き合ってくれぬだろうか?」
 自分で言ってから「逢引の誘いのようだ」と呟く久永に、袋貉は人間にナンパされたのは初めてだと、満面の笑みで快諾した。

 向かった先は、カジュアルアクセサリーショップ。手頃な価格が人気のチェーン店なだけあって、若い女性を中心に、多くの若者が集まっていた。
 目を輝かせて店内を一周した袋貉は、最終的に髪飾りとイヤリングを手に、何やらぶつぶつ言いながら眉間に皺を寄せている。
「普段使いならこれなのだわ、でもハロウィンっぽいのも捨てがたい……」
 玩具のような値段だが、古妖にとっては気軽に買える物ではないようだ。
「おなごのお洒落はよく分からぬが」
 久永は彼女の手から、ひょいと小花柄のシュシュを取り上げる。
「気に入ったものがあれば遠慮するでないぞ。なに、この爺に任せるがよい」
「え、でも」
「そういうこと」
 こういう時は素直に甘えるものだと言う久永に亮平も同意し、キャンディの形をしたイヤリングを取る。
「あ……ありがとう!」
「どちらも似合いそうですね、ふふ……!」

●古妖とコーヒーブレイク
「おお、あそこでお菓子が貰えるな。とりっくあんどとりーとといえば良いのだろう?」
「トリックアンドトリートね、覚えたのだわ」
「いやアンドじゃなくて」
「お菓子をあげるので悪戯してくだ」
「それはアウトだ」
 この中では一番年少の自分がツッコミの役回りなのだろうか、と亮平が少し遠い目をした時だった。
「ねえ、あの子の尻尾、動いてなかった?」
 近くに居た一般人が、袋貉に注意を向ける。何とか取り繕おうとすると、ここは自分の出番だと珠輝が一歩前に出た。サナギの仮装のジッパーに手を掛ける。
「く、ふふ、明智珠輝、蝶へと変身いたします……ふふ……!!」

「わ、これ可愛い」
「本物みたいですね」
 シャビーシックな雰囲気の雑貨店で御菓子が眺めていたのは、フェイクスイーツで作られたアクセサリー。実家が菓子店のせいか、つい目が行ってしまうのだと話す。
 恵は隣の棚に展開されていたレターセットを手に取り、会計へと向かった。
「この黒い石鹸みたいなのもお菓子とん?」
「え、チョコ知らないの?」
 偽物のお菓子には興味無いとばかりに、奏空と暮露暮露団は戦利品を見比べていた。一緒に回って同じ場所でお菓子を貰っているのだから、あまり競争にはなっていないのだが。
「あ、そうだ。阿久津さんもお菓子作って持ってきてるみたいだから合流しよ……って、あれ」
 店の窓から待ち合わせ場所を見た奏空の目に飛び込んできたものは、全身白タイツで煌びやかな羽を背負った男――サナギから蝶へと羽化する、珠輝の姿だった。

 落ち着いた雰囲気のカフェの一番奥を陣取り、覚者達はようやく一息つく事が出来た。大きく葉を広げた観葉植物が、周囲からの視線を遮ってくれる。蝶の羽やぬりかべの仮装には、少々狭いようだったが。
「明智さんに無茶振りしちゃったかな、って思ってたけど……」
「視線を独り占めでしたね」
「脱皮出来る人間なんて初めて見たとん」
「ふふ、照れますね……!」
 オーラを纏ってまで珠輝が一般人の気を引いてくれたおかげで、古妖達が注目される事なく、こうして近くのカフェに入る事が出来た。
 ――あまりにも注目を集め過ぎた為に職務質問をされそうになり、彼だけ合流が遅れたのはご愛敬だ。こういう日なので、ハロウィンの仮装だという説明に、すぐ納得して貰えはしたのだが。
「コーヒーは飲めるかな」
 亮平が苦いのは大丈夫だろうかと気遣いながらメニューを手渡すと、暮露暮露団は飲んでみたいコーヒーがあるが、名前が思い出せないのだと一生懸命考えている。
「あの、名前、えっと。か……かぷれーぜ? なんかふわふわが乗ってるやつ」
「ふわふわ……、カプチーノですね。――すみません、オーダー良いですか」
「スイーツは……そうね、コーヒーに合いそうな物を適当に選ぶわ」
 恵が店員を呼び止めて人数分のドリンクを注文し、御菓子が洋菓子をいくつか見繕った。待っている間も、古妖の二人はそわそわと待ちきれない様子だ。
「コーヒーなんて何年ぶりかしら。最近の喫茶店、敷居が高いのだわ」
 昔こっそり人間の振りをして飲んだと話す袋貉に、奏空は首を傾げる。
「気軽に入れるカフェって昔より増えてない?」
「なんか最近のお店のお品書き、TとかGとかよくわかんない記号が書いてあって、大きいんだか小さいんだかわかんないのだわ……」
「ああ、トールとかグランデの事か」
「そっか、滅多に町に来ないんじゃそうかもね」
 覚者達が笑い合う中、久永だけが至極真面目な表情で呟いていた。
「そうか、あれはとーるの略であったか……」
 流行り物が苦手なのは、古妖に限った話ではないらしい。

 注文を受けてから豆を挽く店だったようで、テーブルの上にカップが並ぶまで時間が掛かったが、それだけに香りは格別だった。
「おいしいとん!」
「良かった」
 楽しい時間はあっという間に過ぎ、オレンジ色に染まった空に、日が短くなった事を実感させられる。

●古妖にさようなら
 小さなバケツに商店街で集めたお菓子を入れて、古妖達は山に帰る事となった。名残惜しそうに、何度も覚者達を見上げる。
「今日の記念にどうぞ」
 亮平はバケツの一番上に、そっと可愛らしい包みを置いた。中身は手作りのケーキポップス。セロファンの中を覗き込み、二人は感嘆の声を漏らす。
「愛の籠った手作りケーキ……!」
「愛って……」
 珠輝にうっとりとした表情で言われ、恥ずかしそうに包帯をずらして顔を隠した。
「わぁ、可愛いですね♪」
 同じく包みを渡された御菓子は、持ち帰って妹と一緒に食べるのだと鞄にしまう。
「余が本物の天狗なら、住処まで送ってやれるのだが……そうもいかぬでな」
「見送ってくれるだけで十分なのだわ」
 気を付けてお帰り。久永の優しい声に、袋貉はうっすらと涙を浮かべた。
「これは、お土産です」
 恵が差し出したのは、レターセットと筆記具。封筒には既に切手が貼ってある。恵自身の住所が書かれた紙も合わせて渡し、
「もし、来年以降があるなら。今度は此処へ連絡して下さい」
 そうすれば私達が来年もお手伝いする事が出来ますから、と言えば、暮露暮露団は嬉しそうに目を細めた。
「また会えるとん?」
 奏空が、満面の笑顔で頷く。
「うん、また遊ぼうね!」

 家路に就いた古妖は、一度だけ覚者達を振り返った。
「みんな、ありがとん!」「みんな、ありがとー!」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『かぼちゃのキャンディポット』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員




 
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