どこ行こう班危機一髪
どこ行こう班危機一髪


●探険隊に迫る

 薄暗い、廃棄された炭鉱の中。三人の中年の男が歩いている。無精ひげを生やした天然パーマの男は不満たらたらと言った様子で懐中電灯で先を照らす。
「しかしだね、ボス、ディレクター。ぼかぁ、旅番組だと聞いて来たんだよ。だのに、こんなところにいる。こら、詐欺だよ」
「やー、良いんじゃないですか。滅多に人の来ない洞窟探険。早々無い経験だよ」
 その後ろを歩く、小太りの髭を生やした男、ディレクターでありながら自らカメラを持つ男はその天然パーマの怒りを逆なでするような、ニヤついた笑みを浮かべながら撮影をしている。天然パーマの隣を歩く、ボスと呼ばれた男も男で宥めることを放棄して、視聴者向けの説明を続けている。
「今は放棄されて誰もいないんですけどね。ガスとかはもう無いみたいなんです。入る許可は取れたんですから、まあ大丈夫でしょう」
「そんなとこにぼかぁ、連れて来られたのかい? 傍から見ればヤクザの口封じだよ? 鏡を見なさいよ」
 『休日どこ行こう』。深夜の三十分枠で放送されている旅番組。少人数で制作されている低予算の旅番組ながら、休日でも行かないような奇妙な場所へ踏み込む内容や、天然パーマの男小沼とディレクター藤野の掛け合いやボスの不意を討つ珍言が静かな人気を獲得しているローカル番組だ。今回も、その一環として炭鉱探索をしている。
「あのバカみたいにデカいコウモリも、君たちの仕込みかい? ゲームのモンスターみたいなかっこしちゃってさ」
 そう言いながら小沼はキャップライトで上を照らす。そこにいるのは、全長一メートルほどの巨大なコウモリが四匹。鋭い牙に、獰猛そうな顔つき。それを見たディレクターとボスが固まる。
「いや、今回ばかりは我々も知らないよ」
「っていうか、ちょっとデカいですね。まるで――」
 “ドラキュラみたい”。ボスがそう言う前に、巨大コウモリたちは撮影スタッフへと襲い掛かる。

●普段通りのブリーフィング。
「テレビ番組のロケスタッフが妖に襲われることの阻止。それが今回のお仕事です」
 柔和な笑みを浮かべながら久方 真由美(nCL2000003)は資料を渡す。古びた炭鉱の写真と、内部の地図だった。
「この中央辺りで、ロケスタッフが襲われます。今から急げば、なんとか先回りすることが出来るでしょう。ですが、封鎖などが出来るほどの余裕はありませんし、戦闘を終える前に彼らがやってくることも十分に考えられます」
 手段はいくつもある。来る前に倒して、隠れるなりして彼らをやり過ごす。守護使役によって記憶を消す。気は引けるが、ほんの少し、手荒な真似をして眠ってもらう。
 会議室の隅で、スーツに身を固めたスキンヘッドの初老の男、ジェイソン・ターキッシュ(nCL2000056) が口を挟む。落ち着いた様子だが、言葉には僅かに力が込められている。
「そいつには、俺も参加させてもらう。必要な道具は俺が持っていくし、それ以外はあんたらに従う。好きなように使ってくれ」
 それを見た真由美がくすりと笑った。彼が番組のファンであることは伏せておく。それが彼女なりの優しさだった。
「よろしくお願いしますね。スタッフが死んで番組打ち切りなんて、悲しいですから」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:文月遼、
■成功条件
1.どこ行こう班スタッフの安全確保及び妖の撃退
2.F・i・V・Eの機密保持
3.なし
 全体イベントをやってるなか、いらっしゃいませ。文月遼、です。「、」までが名前です。外れるのはまだまだ先です。

 以下は補足情報です。参考までにどうぞ。

●ロケーション
 薄暗い炭鉱です。それほど奥ではないため、それなりに広さ、高さはあります。暗所であることに間違いはないですが、NPC(後述)の持ってくるキャップライトやケミカルライトがあれば概ね問題ない範囲です。炭鉱ですが、炎のスキルを使うと爆発するなどもありません。個人で暗さに対処しても大丈夫です。

●エネミー
 ランク1の動物系(コウモリ)が四体です。以下のスキルを使います

・吸血噛みつき:近物単
 鋭い牙で噛みつきます。微量ですがHP吸収を行います
・超音波:単特貫2
 名前通りです。威力は低いですが、稀にバッドステータス[混乱]を付与します
・隠れる:自
 大ダメージを負った際に使用します。後衛に移動し、体力を回復します。また、回避率に大幅な上方修正が加わります。一部スキルで回避の上方修正を打ち消すことができます。

●どこ行こう班
 深夜番組『休日どこ行こう』のスタッフです。長い間戦闘が行われていた場合、彼らが後衛に出現します。ビデオカメラを回したり、リアクションをしたり、慌ただしいです。戦闘終了後にやって来ることもあるかもしれません。
 少しの間眠ってもらう、守護使役によって記憶を消すなどの対処を行う必要が出てくることもあるでしょう。

●NPC
 キャップライト、懐中電灯、ケミカルライト(いわゆるサイリウム)を持って皆さんと同行します。戦闘中など、指示があればその通りに動きます。駒として存分に使い倒して下さい。なお、指示が無い場合は、前衛として適当なスキルを利用して戦闘に参加します。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年11月02日

■メイン参加者 8人■

『涼風豊四季』
鈴白 秋人(CL2000565)
『相棒・恋人募集中!』
星野 宇宙人(CL2000772)
『献身なる盾』
岩倉・盾護(CL2000549)
『インヤンガールのインの方』
葛葉・かがり(CL2000737)
『紫煙に紛れて魔女は嗤う』
九 絢雨(CL2001155)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)
『黒い靄を一部解析せし者』
梶浦 恵(CL2000944)

●How do you like?

「あなたの犬はー、今妖討伐に向かっておりますよぉー…と」
「……ッ! もう一行が来てるのか!?」
 ほの暗い炭鉱をキャップライト、守護使役、懐中電灯と様々な種類の9つの光源がちらちらと照らす。不意に聞こえた、男ものの、良く通る野太い声。ひどく呑気な響きに、覚者達は一瞬身を硬くする。星野 宇宙人(CL2000772)が身構え、周囲を見渡す。ややあってから、頬をかきながら『インヤンガールのインの方』葛葉・かがり(CL2000737)が名乗り出た。因子の力による声色変化だ。空気が一気に弛緩する。
「えっと、今の声と言うのは……?」
「確か……小沼っていう、件の不運なテレビ番組の出演タレントでしたね。番組の意向次第でどこにでも出向いて……そう、俺たちが来なきゃいけないような場所までね」
 今の声の意味するところが分からず、きょとんとする梶浦 恵(CL2000944)に、鈴白 秋人(CL2000565)がほんの少し苦笑いを浮かべる。
「そうなんですか。物真似をしたり、それが分かるくらいの、人気番組なんですね」
「夜中とかに、再放送とかしてるよ。お酒を飲みながらダラダラ見る分には楽しいかもね」
 恵がどこか感心するように言う。『紫煙に紛れて魔女は嗤う』九 絢雨(CL2001155)はそんなに大したものでもないと言いたげであった。
「でも、びっくりしたよ。そっくりだったもん」
 『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)のキラキラとした表情に、おおきにと手をひらひらと振る。普段の大儀そうな様子ではあったが、表情には薄らと笑みが浮かんでいる。
「上手く終われば、本物とも会えちゃうかも。サインを貰って来てって、ドクターに頼まれているしね」
「ええ。一行が来る前に、仕事を片付けちゃうことが前提だけれどね」
 きせきの言葉に、絢雨は警戒を緩めずに返す。時残された時間はそれほど長くは無い。それは、覚者の誰もが理解している。
 先導しているのは、岩倉・盾護(CL2000549)だ。守護使役のりゅうごの灯りを頼りに、足取りを緩めることなくどんどんと前へ進む。まるで、狙って下さいと言わんばかりに。そのわずか後ろを、椎野 天(CL2000864)はほんの少し悪い顔色のまま、進む。
「おいおい、前に出過ぎじゃないの? いい的になっちまう」
「知ってる。そのため。椎野さんの方、大丈夫?」
「平気平気……と、言いたいけどさ。やっぱり深夜バスはダメだって。寝ても寝ても時間が進まないもの」
「……老体?」
「バカ言え、まだ俺は元気よ、元気」
 天のひげ面に浮かぶ笑み。それが徐々に薄暗く、やつれていく。さすがにバスによる長旅は人によっては大きく疲労をもたらすのかもしれない。それでも、足取りはしっかりとしている。
 薄暗い坑道。覚者たちの足音が、話し声が反響する。その中で、翼のはためく音が響く。それを聞いて、覚者たちは立ち止る。『メタルナーヴ』ジェイソン・ターキッシュ(nCL2000056)がとっさにライトを天井へと向ける。体長1メートルほどの巨大なコウモリの妖。薄い膜の様な翼を伸ばせばかなりのサイズになるだろう。そして、吸血鬼の如き鋭い牙。先程までのどこか弛緩した雰囲気から、ほどよい緊張感、そして闘志が空間に満ちる。
「さて、喧しくて愉快な連中が来る前に早いとこ終わらせないとね」
「ええ。秋人さんの使役と私で警戒をします。全力で行きましょう。」
 絢雨がちろりと舌を出して唇を舐めた。恵は小さく頷き、冷静に自身のポジションへと移動し直す。
「攻撃専念で行こうか。アキちゃん、背中は任せたぜ!」
「だから、その呼び方は……まあ、いい。ジェイソンさんもお願いします」
 絢雨、宇宙人、秋人、ジェイソン。四人が火行の能力によって己のからだに力を漲らせる。
「盾護、前に出る」
「オーケー。早いところ始末をつけようか。差し入れのアイスが溶けちまう」
 盾護と天も、普段通りの調子ではあるが、その全身を硬化させる。
「おっしゃ。スタッフ死亡で番組打ち切りなんてさせへんからな! 一生どこ行こうや!」
「十天が一、御影きせき!いっくよー!」
 かがり、きせきもまた、それぞれの得物を掲げてコウモリへと牽制する。きせきの言葉が合図だったように、コウモリたちはキィキィと耳障りな鳴き声を上げて覚者へと向かう。

●寒さと風と、匂いと危険

「神は神速をなんとやら! ってな!」
 涼しげな炭鉱の中。コウモリよりも早く動いたのは、両腕、両脚をまるでSFのメカよろしく機械化した天だった。先ほどまで訴えていた不調はどこへやら。両脚のローラーが甲高い金属音を上げてコウモリの集団へと吶喊。機械の腕が杭打ちのように鋭い拳をその胴体へと叩き付ける。
「よっし。一気に決めるよ!」
 きせきが地面を蹴る。続けざまに鋭い斬撃。薄暗い坑道。微かな明かりと羽ばたきの動きさえ見えれば、彼にとって捉えるのは容易いことだった。ほとんど一つの風を切る音。しかし、Vの字に切り傷を作ったコウモリが悲鳴を上げる。
「火力で押す! 分かりやすくって、いいねぇ」
 ゆらりとした緩慢な動作。軽く曲げた膝、そのばねを活かして一気に肉薄。足場の悪さをものともせず、絢雨が跳躍。鋭い蹴撃。一瞬の間に叩き込まれる連続攻撃に、すでに一匹が瀕死となる。
「動かれる前に、弱らせます!」
 普段感情をあまり表にしない恵みであったが、それ以上に恵の指の動きをたどるように、絡みつくような霧がたちこめ、コウモリたちを包む。鉛の錘が羽に括りつけられたかのように、その動きが鈍る。その隙を秋人は見逃さない。細身の体格にはやや大きなグレネードランチャーから放たれる榴弾が爆炎を起こし、炎の中に『三つ』のコウモリの姿を映し出す。逃げられた。忸怩たる思いを殺し、秋人は注意を促す。
「一匹逃しました。来ます!」
 炎を突破し、三匹のコウモリが殺到。盾護と天はそれぞれ腕などの機械化した部位を向けてダメージを出来る限り殺す。ジェイソンも首筋を噛まれる。それと同時に、爆風と破片で傷ついたコウモリの身体が僅かに癒える。そのコウモリを、炎を纏う拳が真横から飛び、その身体を吹き飛ばす。その攻撃の主、宇宙人が軽く手を振ってステップ。火柱の如き赤い長髪が揺れる。
「おっとっと、大丈夫かい?」
「死にはせんよ。それよりも後ろに下がった奴だ!」
 体勢を立て直しながら、宇宙人の言葉にジェイソンが答える。それは己のダメージより、妖に向いている。
「ちょっち待ってな」
 前線からやや離れた場所で、かがりは軽く眼を閉じ集中する。彼女の瞼の裏に浮かび上がるのは、ぼんやりとした影。覚者や妖の集まる部分は明るく、それ以外は暗い。そして、その少し奥。天井一部明るい部分があるのを見逃さない。そこから流れる血にも。
「サービスや。おみまいしたる!」
 くるりとガンスピン。眼を閉じたまま、発砲。波動の弾丸は、宇宙人の殴り飛ばしたコウモリを貫き、そのまま隠れたコウモリを過たずに仕留めた。ふらふらと、最初に弾丸を食らったコウモリも後ろへ下がろうとする。その真下。突如岩が隆起し、鋭い槍となってその両の翼を貫いた。片膝を着き、地面に拳を叩き付けた、ヒーローの様なポーズを決める盾護。ずれた帽子を直し、小さく呟いた。
「……アースランス。盾護、逃がさない」

●撃ち抜くぞー!

 コウモリたちが、キィキィと耳障りな鳴き声を上げる。仲間をやられた怒りか、事が上手く運ばずにいる焦りか。どちらにせよ、戦況は覚者に傾きつつある。天が再び動き出そうとする瞬間、鳴き声がどんどん甲高くなって行く。
「やっべ、離れろ!」
 天の言葉に、きせきとかがりが間合いを取る。それとほぼ同時に、天の耳をガラスをひっかいたような不愉快な音が支配する。
「……何もない? 天おじさん、大丈夫?」
 きせきの言葉に、天は首を振って笑う。サングラスの奥の瞳は、どこか焦点が合ってない。その笑い方はどこか調子はずれだった。
「あー、へーきへーき。鋼の守護神よ俺。あれ? OFFちゃんじゃん。めっちゃいるじゃん」
 かがりが拳銃を握る拳をこめかみの辺りにあてて軽く息をついた。OFFちゃん――休日どこ行こうのマスコットだ。
「アカン。変なもんが見えとるわ……」
「OFFちゃん……? とにかく。あまり大丈夫じゃなさそうですね」
 その虚ろな笑いに、恵がすかさず反応。彼女の動きに合わせて天の周囲の空気がどこか澄んでいくようだった。身体が一瞬ピクリと痙攣し、眼の焦点が戻って来る。
「まだ、マスコットはおろかスタッフも来てないってば」
 状況を把握し直そうとする天の横を通り過ぎて、絢雨が再度ばねを活かした鋭い回し蹴り。しかし、コウモリは翼をはためかせ、攻撃をひらりと避ける。
「甘いっ」
 蹴りの勢いに任せて回転。軸足を入れ替えて、間髪を入れずにかかとから、叩き付けるような二段目の蹴りを繰り出す。
「ぼくも負けてられないね!」
 きせきも剣を振るい、大きく一歩を踏み込む。コウモリの軌道を読んでいるかのように、変幻自在の太刀筋がゆらりと、微かな明かりに煌めいて翼を切り裂いた。
「今度は逃がしませんよ。確実に仕留めます」
 薄暗い炭鉱の中。秋人が、少ない光源と時折きらめく剣の反射を頼りに、動きを予測。きせきが離れたのを見てグレネードを放つ。40mmの砲弾が爆発を起こし、炎の中にコウモリが溶けていった。
「ナイスよ、アキちゃん。さて、残り一匹!」
 ジェイソンがコウモリの懐に潜り込み、ナイフを突き立て、その柄を蹴り付ける。
「これでっ!」
 宇宙人が続けざまに踏み込んで再度燃える拳をコウモリへと、深々と刺さったナイフへと叩き付ける。ナイフを媒介に、因子の力が直接コウモリへと注がれる。体力を消耗しつくした妖。それを動かすのは、危害を加えんとする悪意だけだった。最後の気力を振り絞って、コウモリは消耗の多い天へと鋭い牙を向け、その首筋を噛みきらんと翼をはためかせる。その口をふさぐように、盾護の腕が割り込んだ。腕に軽いスパークが走る。けれども、盾護は表情一つ変わらない。
「盾護。守る、得意。あとは任せた」
「あいよ」
 かがりが地面に落ちたコウモリに、拳銃を構える。銃声が一発。それで、おしまいだった。
 古い坑道の中に、静けさが再び蘇った。戦闘の痕こそ若干残っているとはいえ、焦げた痕や黒ずんでいるところは目に付く箇所では無く、妖は既に元のコウモリ、正確にはその亡骸に姿を変えている。先程までの凶暴さはどこにも見えなくなっていた。まるで、妖という存在など無かったかのように。それと同じくして、黄色いボールに羽が生えたような鳥がぱたぱたと飛んできて、秋人の肩へとちょこんと座った。彼の頬へ甘えるように体を擦り付けている。
「……どこ行こう班の方が来たようですね。彼らの記憶に手を加える必要は無さそうですね」
「今のところは、ですけれど」
 秋人が軽く息をついた。少なくとも、どこ行こう班のスタッフに『この場所で』危害が及ぶことは無さそうだった。恵もそれに同意する。しかし、彼女は万が一すれ違う時に、この戦闘の痕などに勘付かれなければと言う前提がつくということを付け加える。白衣の裾から、「呼ばれた?」とでも言うように、ころんと種子と芽のような守護使役が姿を見せた。それを軽く撫でた。

●1/12のドリーム・トラベラー2015

「お疲れ様だ、りゅうご」
「ロンも、頑張ったな」
 盾護と宇宙人も、軽く守護使役の頭を撫でる。それに一瞬遅れて、ともしびがふっと消える。ジェイソンが、彼らにも懐中電灯を手渡した。
 声が聞こえて来る。「休日どこ行こう」のスタッフである小沼、ボス、藤野Dたちの声である。
『しかしだね、ボス、ディレクター。ぼかぁ、旅番組だと聞いて来たんだよ。だのに、こんなところにいる。こら、詐欺だよ』
『やー、良いんじゃないですか。滅多に人の来ない洞窟探険。早々無い経験だよ』
『今は放棄されて誰もいないんですけどね。ガスとかはもう無いみたいなんです。入る許可は取れたんですから、まあ大丈夫でしょう』
 その言葉を聞いて、天がニヤっと笑う。きせきもお遣いを思い出したかのように拳をつくって手のひらを叩いた。
「まだ溶けてないよな……うっし、んじゃ差し入れしに行こうぜ」
「そうだった。サイン、貰わなきゃ!」
「一応、ウチらは彼らが来ることを知らん一般人ってこと、忘れんようにね」
 それを抑えるようにして、かがりが普段通りのダウナーな調子で両の手のひらを軽く掲げる。それを見て、絢雨がぽつりと呟いた。
「かがりちゃんも、ちょっと浮かれてない?」
 その呟きが届いたのかどうか。天やきせき、かがりたちは揚々と進む。覚者たちがその背中を追う中、秋人は盾護が立ち止っているのを見た。
「どうかしましたか?」
「似てた。かがり、小沼だっけ? テレビの人」
  秋人は一瞬呆気に取られ、そして少し噴き出し、帽子を目深に被った。それに、盾護も倣う。
「ええ。確かに。それじゃ、俺たちは後ろの方で静かにしてましょう」
「うん。みんなに任せる」
 少し歩いた先、覚者たちは三人の中年の男性と合流する。「探険どこ行こう」のスタッフだった。小沼はそれを見て、さらにぼやく。
「詐欺が増えたねぇ、藤野くん。人、いるじゃない」
「おー、おー。カメラじゃん。何の番組だろ」
 それを見た宇宙人が、白々しくならない程度に、驚いたように言った。それを見たボスが、タレントを差し置いて挨拶をした。
「どーも。探険どこ行こうでございます……結構な大所帯ですねぇ」
 覚者達の中では比較的年長である恵は、軽くお辞儀をしてから微笑を浮かべ、それに応える。
「ええ。ちょっとした調査で」
「結構、年齢も結構バラバラですよね」
 訝しむと言うよりは、単純に疑問になったと言うような体で藤野は続ける。
「調査と言っても、緩いものだかからなぁ。学生さんとか若い人にも興味を持ってもらうことも兼ねているって感じですよ」
 宇宙人が話を引き継ぐ。フランクで親しげな話口。どこ行こう班の面々も、彼らの存在の異端さを多少受け入れたようだった。そもそも、こうしたロケーションそのものが異端なのだ。
「まあまあ、ここで会えたのも何かの縁ってことで」
 それを遮って天や絢雨は、どこ行こう班のスタッフに、お菓子などを差し入れる。ジャンクフード的なものだけならまだしも、甘い物が嫌いなボスにワッフル。酸っぱい物が嫌いな藤野Dに梅干し、そして小沼にはパイ生地。番組に縁のあるアイテムばかりに、流石に小沼が突っ込んだ。
「何だい、藤野クン。彼ら、仕込みじゃないのかい!? パイ生地なんてフツー持ってる!?」
「こんな場所に来る人はフツーじゃないのよ」
「そして、これだけじゃないですよ」
 ゲラゲラと藤野は笑っている。怪しみ方の方向が全くの別の方向に変わってしまったが、これはこれで都合の良い事でもあった。ニヤリと笑いながら、天がカップに入ったアイスを取り出す。シロップのついたかちわり氷と、冷凍フルーツの入ったアイスだ。これも度々「探険どこ行こう」に出て来るものだ。藤野Dがニヤリと笑みを返す。二人してスプーンを受け取った。なぜか、ジェイソンがカメラを持たされている。ボスがレフェリーだ。
「やっぱり仕込みじゃないの!?」
 小沼の叫びを聞いて、やはり危険かと思いつつ、恵は白衣の下にいる守護使役に手を伸ばす。それを、秋人が制した。
「割と、ああいう番組なんです。小沼って人のヒエラルキーも低いんで、大丈夫でしょう」
「そう、ですか……」
「ちょっと、かわいそうだな」
 恵がぽかんとしながら、盾護が普段通りのどこかぼんやりした様子で、小沼に若干同情するような視線をちらと送る。ちょっとだけ、良くも悪くも番組の内容が気にかかる。
 涼しい坑道内、冷たいアイスをかきこんでひげ面の二人が悶えている。その様子を気にした風も無く、かがりときせきが、荷物から数枚の厚紙を取り出した。
「あ、よければサインとか貰えます?」
「あ、僕も!」
 薄暗い坑道の中とは思えぬ、穏やかで奇妙な交流の時間が過ぎてゆく。
 キィキィという鳴き声がして、思わず秋人たちは懐中電灯をかざす。コウモリがいた。しかし、体長20cmもない、小さなものだった。小さく息をついて、彼は遠巻きにその様子を見守っていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
『どこ行こう班のサイン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:葛葉・かがり(CL2000737)
『どこ行こう班のサイン』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:御影・きせき(CL2001110)




 
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