【日ノ丸事変】救いを呼ぶ
●襲撃
繁華街。電話ボックスに、神林 瑛莉(nCL2000072)が居た。
受話器のコードを指先で弄びつつ、通話をしているようだ。
昨今、FiVE周辺には三つの影が見え隠れしている。
逢魔ヶ時紫雨。
ヒノマル陸軍。
新興覚者組織、黎明。
そんな状況下、ヒノマル陸軍による黎明襲撃作戦の情報が入った。黎明も迎撃の構えをとるが、圧倒的に不利な戦いである。
また、黎明の一員である暁と言う人物より、庇護の要請と、見返りに血雨についての情報提供を行うという打診があった。
ヒノマル陸軍、そして黎明の両組織への対処。FiVEは二つの選択を迫られている。
そのため、各組織についての調査をFiVEは続けていた。瑛莉はヒノマル陸軍の情報収集を行っていたわけだが、真実、彼らはやる気であると言う事のようだ。
「近いうちに動き出すだろうぜ。連中への対処は考えとかねぇと」
その時、爆発音が響いた。
同時に、火の手が上がる。
悲鳴をあげ逃げ惑う人々の中に立つ二つの影。一人が構えた火器から発射された弾が建物に突き刺さるや、再び爆発音と火の手が上がる。
「おいマジか!? ヒノマルの連中だ! こんな街中でかよ!」
瑛莉は通話を打ち切ると、ヒノマル陸軍の隔者へと躍りかかった。機械腕で殴り掛かる。隔者は動じもせず、受け止めた。
「出てきたか。お前、どっちのだ?」
隔者が凶悪な笑みを浮かべつつ尋ねる。
「ま、黎明でも、別の組織でも構わねぇ。出てきた奴は全員ぶっ殺すんだからよ!」
宣言。同時に、後方に控えていた隔者も戦闘態勢に入る。
「ハッ! やってみろよ!」
瑛莉は再び突撃する――。
●救いを呼ぶ声
「と、格好つけて飛び出した神林瑛莉ちゃん。この後ボッコボコにされておっ死(ち)んだんだとよ」
不貞腐れたように瑛莉が言った。
五燐大学考古学研究所、その一室で、覚者達はブリーフィングを行っていた。
「夢見の予知は確実だけど絶対じゃない……てのは、言うまでもないか。だから『ついに殉職者が!』みたいな顔すんな、頼むから。マジでへこむ」
「続けてもいいですか?」
久方 真由美(nCL2000003)が困ったように言う。
「神林さんも問題だけど、重要なのは、この襲撃に居合わせた一般市民の方です」
ヒノマル陸軍の狙いは、恐らくは黎明関係者の炙り出しだ。そのためだけに、周囲に甚大な被害をもたらしている。
「今回の作戦は、一般市民の避難誘導と、完了するまでの隔者の足止めになります。避難完了後、速やかに離脱してください」
予知によれば、その日、その場所には相当数の一般市民がいる事になっている。事前に封鎖するなど現実的ではない以上、襲撃が起こってからの対応となる。
隔者も厄介な存在である。瑛莉は特筆するほど強いわけではないが、かと言って並の隔者になすすべなく敗北を喫するほどでもない。その彼女を圧倒し、殺害してのけるほどの実力がある。本来は十分な戦力を以て相対すべき相手である。市民の保護のついでで倒せるような相手ではない。
「神林さんにも同行してもらいますね。可能な限り予知に沿って行動してもらいます」
夢見の予知は成就する。だがそれは、何もしなかった場合の話だ。神林瑛莉は、ほぼ100%今回の事件の要因とはなるまい。だが万が一、瑛莉が襲撃の要因であるとしたら、その行動次第で襲撃自体が無くなる、いや、襲撃場所が変わってしまう可能性すらある。
「了解。っと、今回の主役は、言うまでもなくアンタらのチームだ。オレは指示に従うから、こき使ってくれ」
「以上となります。それじゃぁ、皆さん、気をつけて」
言って、真由美は深々と頭を下げた。
繁華街。電話ボックスに、神林 瑛莉(nCL2000072)が居た。
受話器のコードを指先で弄びつつ、通話をしているようだ。
昨今、FiVE周辺には三つの影が見え隠れしている。
逢魔ヶ時紫雨。
ヒノマル陸軍。
新興覚者組織、黎明。
そんな状況下、ヒノマル陸軍による黎明襲撃作戦の情報が入った。黎明も迎撃の構えをとるが、圧倒的に不利な戦いである。
また、黎明の一員である暁と言う人物より、庇護の要請と、見返りに血雨についての情報提供を行うという打診があった。
ヒノマル陸軍、そして黎明の両組織への対処。FiVEは二つの選択を迫られている。
そのため、各組織についての調査をFiVEは続けていた。瑛莉はヒノマル陸軍の情報収集を行っていたわけだが、真実、彼らはやる気であると言う事のようだ。
「近いうちに動き出すだろうぜ。連中への対処は考えとかねぇと」
その時、爆発音が響いた。
同時に、火の手が上がる。
悲鳴をあげ逃げ惑う人々の中に立つ二つの影。一人が構えた火器から発射された弾が建物に突き刺さるや、再び爆発音と火の手が上がる。
「おいマジか!? ヒノマルの連中だ! こんな街中でかよ!」
瑛莉は通話を打ち切ると、ヒノマル陸軍の隔者へと躍りかかった。機械腕で殴り掛かる。隔者は動じもせず、受け止めた。
「出てきたか。お前、どっちのだ?」
隔者が凶悪な笑みを浮かべつつ尋ねる。
「ま、黎明でも、別の組織でも構わねぇ。出てきた奴は全員ぶっ殺すんだからよ!」
宣言。同時に、後方に控えていた隔者も戦闘態勢に入る。
「ハッ! やってみろよ!」
瑛莉は再び突撃する――。
●救いを呼ぶ声
「と、格好つけて飛び出した神林瑛莉ちゃん。この後ボッコボコにされておっ死(ち)んだんだとよ」
不貞腐れたように瑛莉が言った。
五燐大学考古学研究所、その一室で、覚者達はブリーフィングを行っていた。
「夢見の予知は確実だけど絶対じゃない……てのは、言うまでもないか。だから『ついに殉職者が!』みたいな顔すんな、頼むから。マジでへこむ」
「続けてもいいですか?」
久方 真由美(nCL2000003)が困ったように言う。
「神林さんも問題だけど、重要なのは、この襲撃に居合わせた一般市民の方です」
ヒノマル陸軍の狙いは、恐らくは黎明関係者の炙り出しだ。そのためだけに、周囲に甚大な被害をもたらしている。
「今回の作戦は、一般市民の避難誘導と、完了するまでの隔者の足止めになります。避難完了後、速やかに離脱してください」
予知によれば、その日、その場所には相当数の一般市民がいる事になっている。事前に封鎖するなど現実的ではない以上、襲撃が起こってからの対応となる。
隔者も厄介な存在である。瑛莉は特筆するほど強いわけではないが、かと言って並の隔者になすすべなく敗北を喫するほどでもない。その彼女を圧倒し、殺害してのけるほどの実力がある。本来は十分な戦力を以て相対すべき相手である。市民の保護のついでで倒せるような相手ではない。
「神林さんにも同行してもらいますね。可能な限り予知に沿って行動してもらいます」
夢見の予知は成就する。だがそれは、何もしなかった場合の話だ。神林瑛莉は、ほぼ100%今回の事件の要因とはなるまい。だが万が一、瑛莉が襲撃の要因であるとしたら、その行動次第で襲撃自体が無くなる、いや、襲撃場所が変わってしまう可能性すらある。
「了解。っと、今回の主役は、言うまでもなくアンタらのチームだ。オレは指示に従うから、こき使ってくれ」
「以上となります。それじゃぁ、皆さん、気をつけて」
言って、真由美は深々と頭を下げた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.一連の事件の被害を最小限に留める
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ヒノマル陸軍が攻めてきたぞっ!!(海洋哺乳類が攻めてきた感じのノリで
●作戦内容
一般市民の避難が完了するまで、敵隔者を足止めしてもらいます。
市民の避難が完了するまで40分かかりますが、覚者が一人避難誘導を担当するごとに一定時間短縮できます。避難誘導を担当する覚者が多ければ多いほど、避難完了までの時間は短くなりますが、敵隔者の足止めを行う覚者の負担は大きくなります。
※「いきなり現れて避難誘導って、一般市民が信じるの?」と思われるかもしれませんが、今回その手の判定は行いませんので、市民は素直に指示に従ってくれるものと考えてください。
●ロケーション
京都北部にある、とある繁華街の大通りです。
光源、足場などのペナルティは一切ありません。
近隣の地図はFiVEから支給されているものとします。
●同行NPC
神林瑛莉
皆さんの指示により行動します。
特に指示がなければ、避難誘導を担当します。
戦闘能力的には、皆さんよりは弱い、と言った程度です。
●敵隔者
突撃兵(アサルト)と衛生兵(メディック)と呼ばれる男性二人組です。
使用スキルはそれぞれ、
突撃兵 五織の彩 重突 炎撃 火柱
衛生兵 機化硬 烈波 癒しの滴 水衣
となっています。隊列はどちらも前衛。戦闘能力は非常に高いです。破綻者に片足突っ込んでる程度と考えてください。倒しきることは困難だと思われます。
●投票
この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
何も書かれていない場合は無効と見なします。
それでは、よろしくお願い致します。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年10月29日
2015年10月29日
■メイン参加者 8人■

●襲撃開始/行動開始
「そろそろ時間ですわねぇ」
『移り気な爪咲き』花房 ちどり(CL2000331)は定時連絡の為に電話ボックスへと向かった神林 瑛莉(nCL2000072)を眺めながらひとりごちた。
予知通りなら、間もなく、ヒノマル陸軍の隔者たちの襲撃が開始されるはずである。覚者たちは襲撃予定地点近辺に潜伏し、様子を窺っていた。
「こんな人が沢山いる街中で暴れるなんて……」
人の流れを見つめながら、『誇り高き姫君』秋津洲 いのり(CL2000268)が言った。一般人の中には家族連れもいる。彼らが離れ離れになるようなことがあってはいけない、と、いのりは思う。
「1分でも早く、1人でも多く、皆を助けてあげませんと」
「うん。ちゃんと皆を助けてあげないとね。それに、神林も」
『蹴撃系女子』鐡之蔵 禊(CL2000029)が言った。彼女の言葉通り、本来であれば、神林瑛莉と言うFiVEの覚者も、ここで死ぬことになっていた。
夢見の予知は確実だが絶対ではない、と瑛莉は言った。予知は変える事が可能だ。覚者たちの手によって、多くの悲劇的な未来は回避されてきた。だが、その言葉は裏を返せば、何もしなければ確実に予知は成立する、と言う事でもある。
瑛莉も、告げられた自身の未来に恐怖を感じないわけではない。今回など、直接現場には赴くわけで、それは綱渡りのような感覚だろう。だが、恐怖以上に彼女の胸の内にあるのは、皆なら問題なく悲劇を回避するだろうという信頼感である。作戦の全てを覚者たちに一任し、自身も従うと宣言した事も、そう言った信頼の表れであろう。
――なら、その信頼にはしっかりこたえなきゃね。
禊が胸中で誓う。
その時――。
「いました! 怪しい二人組、間違いないです!」
『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)が叫ぶ。彼女が指した方を見ると、確かに予知された隔者と同様の特徴を持つ二人組。と、同時に、周囲の建物が一斉に爆発を起こした。
「聞いてた通りとは言え、ほんと派手にやってくれるもんだね……!」
些かあっけにとられたように、天城 聖(CL2001170)が言う。
「来たぞ!」
慌てて電話ボックスから飛び出した瑛莉に、
「神林ちゃん、結界、お願い!」
九段 笹雪(CL2000517)の要請。それに従い、瑛莉は周囲に結界を張り巡らせた。すでに人が大勢いるため本来の効果は発揮は出来ないだろうが、新たに此方へ向かってくるような人間は減らせるはずである。
「鐡之蔵さん!」
「うん!」
真央と禊が同時に《突撃兵》へと躍りかかる。
2人の攻撃を、《突撃兵》はいなし、躱した。とは言え、2人ともこの攻撃にクリティカルなダメージは期待していない。まずはけん制。相手の目をこちらに向ける事が重要だ。
「おお? 出てきやがったか! テメェら、黎明か? それとも……」
やはり彼らは黎明の覚者を探し、今回の騒動を起こしたようだ。
「いいえ! でも、そんなに暴れたいのなら私たちがお相手をします!」
「関係ない人たちまで巻き込むって言うの、許せないんだ!」
2人が対峙する。少なくとも、この時点で隔者たちの興味はこちらへ向いたようだった。なら、このまま抑え込むのみ。
「お気をつけて!」
いのりが抑え役の覚者たちに声をかけ、避難誘導へと向かう。彼女以外の誘導役の覚者たちも、既に行動に移っていた。
「うん、街のみんなが、無事に逃げられるまで……頑張って、抑えるから、ね……!」
『Gバスターズ』明石 ミュエル(CL2000172)が答える。声は少々抑え目であったが、そこには確固たる不退転の意思があった。
「おいおい、全員でかかってくるんじゃねぇのかァ?」
《突撃兵》のあざけるような言葉へ、
「そうしてほしいなら、今度は誰もいない山中とかで暴れるんだね」
言いながら、四条・理央(CL2000070)が戦闘態勢をとった。
●罪なき人々の盾
笹雪はまず、戦場の近く、二次災害が発生しかねない地域の救助、避難を行う事にした。
実際、戦闘の流れ弾が時折飛来し、周囲に新たな被害をもたらしていた。笹雪は、時に文字通り身を挺して一般人をかばいながら、避難と救助を続けていく。
「大丈夫、安心して。この道、分かるかなぁ? そう、ここまで逃げれば安全だから、落ち着いて、ね?」
恐慌状態に陥っている被害者を、技術と話術で落ち着かせ、着実に避難させていく。
ふと、彼女の耳に、女性のうめき声が届いた。火の手の上がる、建物の中からだ。急がなければまずい。彼女は心の中で謝りつつ、手近にあった店舗から、緊急用の消火器を拝借。それを片手に突入した。
幸いにも、行く手をふさがれるほど火の手は激しい物でもなく、まっすぐに要救助対象のもとへと向かえた。
倒れている女性は爆発に巻き込まれ体を打ち付けたらしい。目立った外傷はないが、一人での避難は難しそうだ。
「助けに来たよ、もう大丈夫!」
笹雪は安心させるように、笑顔で、女性に手を差し伸べる
「どうしてこんなことをするのですかっ!」
《突撃兵》の攻撃を受けながら、真央が声を上げる。
隔者たちの作戦は、はっきりと言えば、かなり非効率的な物と言える。
いくら黎明が正義の組織を自称していた所で、実際に現場に現れるかと言えばまた別の問題である。
いや、そんな事よりも。
彼女自身、かつて不条理な暴力に襲われ、そして救われた身である。
そして、その時と同様に、不条理な暴力によって脅かされる人々がおり、ましてや嘲笑いながらそれを実行する者がいる。
そんな事、決して許せるわけがない。
「あぁ? この作戦の事か? そりゃぁお前、俺達は戦争してるんだぜ? 上がこういう作戦立てたんだ、兵隊は従わねぇとな?」
悪びれもせず。むしろそれが当然であるというように。一切の罪悪感もなく、《突撃兵》が答える。
思わず、真央が目を見開いた。
――なんて、なんて、身勝手な!!
「あなた達みたいにゃ人! 絶対に許しません!」
時折出てしまう癖。それにすら気づかないほどに、彼女の怒りの炎は燃え上がっていた。
聖は繁華街の上空を飛んでいる。空から、建物に取り残された人や、一人での避難が難しい救助者を確認するためだ。
ひらり、と、聖が通りの一つに舞い降りる。そこには座り込んだまま動けないでいる老婆がいた。恐らく、避難者の流れに巻き込まれ、杖などの補助具をなくしてしまったのだろう。
「大丈夫? まぁ、大丈夫そうなら声はかけないけどね!」
空から舞い降りてきた聖の姿に、老婆は思わず、「天使様かい」と言葉を漏らした。
「そんなじょーとーなもんじゃないよ。ばーちゃんホラ、私に捕まって。逃げるよ!」
苦笑しつつ、彼女は老婆を抱え、避難所へ向かう。その道中、聖は人の気配を感じ、立ち止まった。「ちょっと待っててね」と老婆を近くに座らせ、人の気配を感じた建物へと入る。
そこは、洋菓子店であった。生クリームやフルーツの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。おっ、いい店見っけ、等と呟きながら、厨房へと向かう。果たして、数名のパティシエが、状況を理解できず、困惑した様子で立ち尽くしていた。
「ここは今ちょっと危険だよ。早く安全なところへ逃げよう! こんなに美味しそうなお菓子を作る人がケガするかもって、人類にとって大きな損失だと思わない?」
ミュエルは前衛で戦う2人の為のサポートを行っていた。
2人が傷を負えばそれを癒し、隙あらば攻撃を行う。
前衛2人に比べれば直接的な攻撃にさらされることは少ないとはいえ、危険であることに変わりはない。
ミュエルのすぐ近くに、《衛生兵》の放った重火器の弾が着弾した。爆発と衝撃。彼女の美しい髪の数本が焼け焦げる。
少しだけ、手が震えた。
同じ人間である隔者との戦闘に、彼女は未だ、少々の恐怖感を抱いていた。ましてや、隔者たちはとりわけ、強い。恐怖を抱くな、と言う方が無理だろう。
だが、それ以上に、許す事が出来なかった。
大勢の無関係な人間を巻き込み、被害をもたらす彼らの事を。
そして、それを見ないふりをし、他人任せにして逃げる事を。
だから、ミュエルはこの作戦に参加したのだ。
守るための戦いに。勇気を振り絞って。彼女は立ち上がったのだ。
ミュエルは両手をぐっ、と握りしめて、その震えを止めた。
自身の敵を見据え、立ち向かうために。
無辜の人々の為に、戦うために。
「アタシは、絶対に……負けない、から……!」
「どなたかいらっしゃるかしらぁ? 助けに伺いましたわ」
ちどりは爆破された建物を優先し、救助を行っていた。火の手くすぶる建物もあるが、火の手はなくとも損傷の激しい建物は多い。倒壊の危険性は捨てきれないし、何より爆発により発生したがれきなどに埋もれ、動けない要救助者もいるかもしれないのだ。
ふと、彼女の声にこたえるように、救いを呼ぶ声が上がる。
ちどりが向かった先には、瓦礫に足を挟まれた被害者の姿があった。
瓦礫は大きく、動かすことは困難だろう。だが、幸いだったのは、瓦礫はあくまで足を引き抜く邪魔になっている程度に過ぎず、被害者自身は大きなけがを負ってはいなかったという事だ。
「山田さん、お願い致しますわぁ」
自身の《守護使役》に声をかける。山田さん、と呼ばれた《守護使役》は、瓦礫の一部分を、崩れ出さないように慎重に、しかし手早くその胃の中に納めてしまった。
「立てますかしら?」
ちどりの問いに、被害者は頷き、立ち上がった。彼女は地図を差し出し、避難地点までの経路を説明する。礼を言って立ち去るのを見送ると、ちどりはまた新たな救助者を探し始めた。
「まったく……わたくしの未来のファンを勝手に減らされては困りますわぁ」
再び、彼女を呼ぶ声が聞こえる。アイドル業の時とは違う質の声だが、どんな声であれ、呼ぶ声に応えるのが彼女の流儀(スタイル)だ。ちどりは直ぐに、声のする方へと走り出した。
「皆、無茶はしないでよ」
理央は言いながら、前衛の2人の傷をいやす。
流石に『強敵である』と明言されただけの事はある。回復に専念しているとはいえ、息つく暇もないほどに、敵の攻撃は苛烈だった。
――好き勝手やってくれるよね。
内心、歯噛みする。だが、十分な戦力で相対したとしても、楽な相手ではない上、戦力の多くを避難に割いているのである。今のこの状態こそが最善の状態であり、寧ろ順調に作戦は進行している。
――今のボク等にはこれが限界。今は集中しないとね。
事実、一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。突然、彼女を狙った攻撃が襲い掛かる。だが、此方も治療を担っている以上、攻撃の的になる事は予想済みだ。慌てず、しかし迅速に退避。
「人並みの知能を持った猛獣と言った所かな。まったく、厄介だね」
自身の傷を簡単に治療しながら、理央がぼやく。
しかし、いつまでも休んではいられない。彼女の陥落は、そのまま戦線の崩壊を意味していた。
ふうっ、と息を吐くと、彼女は再び戦線へと舞い戻る。
いのりは子供と手をつないで、その母親を探していた。
子供はいのりの与えたすねこすりのぬいぐるみを抱いているおかげで落ち着いているようだが、その表情から不安の影は消えない。
「大丈夫、すぐ見つかりますわ」
とは言う物の、あらかた避難は完了したのか、周囲に人の気配はない。《守護使役》によって人の臭いを探してはいるものの、雑多に存在する他の臭いがノイズとなり、中々見つけられずにいた。
彼女に内心、焦りが生まれる。彼女自身の過去の体験が、じわり、と心を浸食し始めた。
――いのりが負けてしまってはいけませんわね。
いのりは軽く頭を振ると、気持ちを入れ替え、探索に集中する。
ほどなくすると、移動する匂いを探知する事が出来た。慌てて駆け寄る。
そこにいたのは妙齢の女性。その姿を見るや、「ママ!」と子供が駆け寄った。女性はその子の名前を叫び、抱きとめる。
その光景を見つめながら、いのりは、
――おとうさま。おかあさま。いのりは――。
ペンダントを握りしめるのだった。
「何で関係ない人を巻き込むんだ!」
禊が叫びながら、鋭い蹴りを放つ。
「そりゃぁお前よぉ! 罪のない一般市民が巻き込まれて無残に死ぬから戦争なんだろうがよぉ!!」
《突撃兵》が放つ一撃を、禊は何とか躱すことに成功する。重い一撃。まともに貰っていたら、と思うと冷や汗が出る。
禊は持ち前の機動力を生かし、足を止めずにひたすら攻撃を続ける事で、相手の足止めを狙っていた。《突撃兵》は似たような戦闘スタイルの禊を気に入ったのか、大いに興味を引く事に成功したようだ。
「こっちは、戦争なんかやってるつもりはないよ!」
禊はその脚に、
「こっちはあるんだよ!」
《突撃兵》はその拳に、
互いに炎を纏い、お互いへと。
「命を軽く見るような奴は!!」
「もっと楽しもうぜ、戦争をよぉ!!」
2人の炎が交差する。混ざりあい、爆炎となり、すべてを飲みこむ――。
●勝利と言う撤退
「み、禊さん! 大丈夫ですか!?」
吹き飛ばされた禊のもとへ、念のため盾をかざし、不意打ちを受けないようにしつつ、真央が駆け寄る。
「ご、ごめん……ちょっと張り切り過ぎちゃった」
苦笑を浮かべつつ、禊が立ち上がった。その姿は、幾度の攻防を繰り広げた結果ボロボロになっている。真央の姿も似たようなものだ。
「ふ、2人とも……はやく、さがって……!」
ミュエルが隔者をけん制しながら促す。
「とは言え、流石にそろそろ限界か……あちらは」
言って、理央は隔者二人を見る。
「まだまだ元気、って所かな……!」
《突撃兵》も《衛生兵》も、所々火傷や傷を負っている。ダメージは決して小さくはないが、まだ戦闘の続行は可能のようである。
「ハ――ハハハ! いいぞお前ら! 最高じゃねぇか! 全員ヒノマルに来いよ、俺達が紹介してやるぜ!? なぁ、メディック!」
《突撃兵》の言葉に、《衛生兵》が頷いた。どうやら気に入られたらしいが、
「冗談じゃないです!」
べえっ、と舌を出しつつ拒否する真央。
残りの3人も、隔者をにらみつけ、明確な拒否の意思を示した。
「そうか? お前らとならいい戦争が出来るんだがなぁ。残念だ。ああ、残念だよ!」
《突撃兵》が炎をその手にまとい、《衛生兵》もまた銃を構える。覚者たちは攻撃に備え再び身構えた。
その時。
どこからともなく放たれた波動の弾が、《突撃兵》を直撃した。うめき声をあげよろける《突撃兵》へ、間髪入れず雷が放たれる。
「お待たせいたしましたわぁ」
「ごめん、お待たせ」
現れたのは、ちどりと笹雪の2人だ。彼女達は4人の覚者たちと合流すると、
「あなた方の目的はもう果たせないのではなくて? ここに黎明の方がいらっしゃったのかなど存知上げませんけれど、とうに逃げている事でしょう」
「あたし達、黎明とかじゃないんだけど気にしないのー?」
ヒノマル陸軍の隔者に問いかける。
「ここにきて参戦とは嬉しいじゃねぇか? 黎明だろうが何だろうが、いいんだよ。出てきた奴をぶっ潰せばなぁ」
凶悪な笑みを浮かべつつ、《突撃兵》が答える。
「そんな怖い話より、今日の夕飯の話をしないかい? そう言えば、美味しそうな洋菓子店を見つけたんだよ。名前はね」
続いて現れたのは、聖だ。
「あ……そのお店……友達が、行きたいって言ってた所……」
ミュエルの呟きに、
「それは奇遇。安心してほしい、お店もパティシエも無事だよ」
「遅くなりましたわ! こちらも避難完了ですわ!」
続いて、いのり、そして瑛莉が合流する。それはすなわち、作戦の無事な遂行を意味する。
「ならば、長居は無用だね」
理央の言葉に、覚者たちは頷いた。
覚者たちは一斉に、隔者に向かって術式を放った。命中を狙ったものではない。目くらましである。瞬く間に土煙が上がる。覚者も、隔者も、姿が見えなくなる。
「……! テメェら! 逃げんのかよ!?」
《突撃兵》の怒号。
「悪いね、最初からこういう予定だったんだよ」
理央の声が響く。
「うふふ、誰もいない街で、お二人だけで心行くまで遊んでいらっしゃると良いですわぁ」
ちどりの声が響く。
「次にお会いしたときにはしっかりお仕置きしてあげるので覚悟しておいてくださいね!」
真央の声が響く。
視界がはれた時、そこに覚者たちの姿はなかった。
《突撃兵》たちはしばし呆然とその場に立っていたものの、一つ悪態をつき、いずこかへと姿を消したのだった。
「そろそろ時間ですわねぇ」
『移り気な爪咲き』花房 ちどり(CL2000331)は定時連絡の為に電話ボックスへと向かった神林 瑛莉(nCL2000072)を眺めながらひとりごちた。
予知通りなら、間もなく、ヒノマル陸軍の隔者たちの襲撃が開始されるはずである。覚者たちは襲撃予定地点近辺に潜伏し、様子を窺っていた。
「こんな人が沢山いる街中で暴れるなんて……」
人の流れを見つめながら、『誇り高き姫君』秋津洲 いのり(CL2000268)が言った。一般人の中には家族連れもいる。彼らが離れ離れになるようなことがあってはいけない、と、いのりは思う。
「1分でも早く、1人でも多く、皆を助けてあげませんと」
「うん。ちゃんと皆を助けてあげないとね。それに、神林も」
『蹴撃系女子』鐡之蔵 禊(CL2000029)が言った。彼女の言葉通り、本来であれば、神林瑛莉と言うFiVEの覚者も、ここで死ぬことになっていた。
夢見の予知は確実だが絶対ではない、と瑛莉は言った。予知は変える事が可能だ。覚者たちの手によって、多くの悲劇的な未来は回避されてきた。だが、その言葉は裏を返せば、何もしなければ確実に予知は成立する、と言う事でもある。
瑛莉も、告げられた自身の未来に恐怖を感じないわけではない。今回など、直接現場には赴くわけで、それは綱渡りのような感覚だろう。だが、恐怖以上に彼女の胸の内にあるのは、皆なら問題なく悲劇を回避するだろうという信頼感である。作戦の全てを覚者たちに一任し、自身も従うと宣言した事も、そう言った信頼の表れであろう。
――なら、その信頼にはしっかりこたえなきゃね。
禊が胸中で誓う。
その時――。
「いました! 怪しい二人組、間違いないです!」
『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)が叫ぶ。彼女が指した方を見ると、確かに予知された隔者と同様の特徴を持つ二人組。と、同時に、周囲の建物が一斉に爆発を起こした。
「聞いてた通りとは言え、ほんと派手にやってくれるもんだね……!」
些かあっけにとられたように、天城 聖(CL2001170)が言う。
「来たぞ!」
慌てて電話ボックスから飛び出した瑛莉に、
「神林ちゃん、結界、お願い!」
九段 笹雪(CL2000517)の要請。それに従い、瑛莉は周囲に結界を張り巡らせた。すでに人が大勢いるため本来の効果は発揮は出来ないだろうが、新たに此方へ向かってくるような人間は減らせるはずである。
「鐡之蔵さん!」
「うん!」
真央と禊が同時に《突撃兵》へと躍りかかる。
2人の攻撃を、《突撃兵》はいなし、躱した。とは言え、2人ともこの攻撃にクリティカルなダメージは期待していない。まずはけん制。相手の目をこちらに向ける事が重要だ。
「おお? 出てきやがったか! テメェら、黎明か? それとも……」
やはり彼らは黎明の覚者を探し、今回の騒動を起こしたようだ。
「いいえ! でも、そんなに暴れたいのなら私たちがお相手をします!」
「関係ない人たちまで巻き込むって言うの、許せないんだ!」
2人が対峙する。少なくとも、この時点で隔者たちの興味はこちらへ向いたようだった。なら、このまま抑え込むのみ。
「お気をつけて!」
いのりが抑え役の覚者たちに声をかけ、避難誘導へと向かう。彼女以外の誘導役の覚者たちも、既に行動に移っていた。
「うん、街のみんなが、無事に逃げられるまで……頑張って、抑えるから、ね……!」
『Gバスターズ』明石 ミュエル(CL2000172)が答える。声は少々抑え目であったが、そこには確固たる不退転の意思があった。
「おいおい、全員でかかってくるんじゃねぇのかァ?」
《突撃兵》のあざけるような言葉へ、
「そうしてほしいなら、今度は誰もいない山中とかで暴れるんだね」
言いながら、四条・理央(CL2000070)が戦闘態勢をとった。
●罪なき人々の盾
笹雪はまず、戦場の近く、二次災害が発生しかねない地域の救助、避難を行う事にした。
実際、戦闘の流れ弾が時折飛来し、周囲に新たな被害をもたらしていた。笹雪は、時に文字通り身を挺して一般人をかばいながら、避難と救助を続けていく。
「大丈夫、安心して。この道、分かるかなぁ? そう、ここまで逃げれば安全だから、落ち着いて、ね?」
恐慌状態に陥っている被害者を、技術と話術で落ち着かせ、着実に避難させていく。
ふと、彼女の耳に、女性のうめき声が届いた。火の手の上がる、建物の中からだ。急がなければまずい。彼女は心の中で謝りつつ、手近にあった店舗から、緊急用の消火器を拝借。それを片手に突入した。
幸いにも、行く手をふさがれるほど火の手は激しい物でもなく、まっすぐに要救助対象のもとへと向かえた。
倒れている女性は爆発に巻き込まれ体を打ち付けたらしい。目立った外傷はないが、一人での避難は難しそうだ。
「助けに来たよ、もう大丈夫!」
笹雪は安心させるように、笑顔で、女性に手を差し伸べる
「どうしてこんなことをするのですかっ!」
《突撃兵》の攻撃を受けながら、真央が声を上げる。
隔者たちの作戦は、はっきりと言えば、かなり非効率的な物と言える。
いくら黎明が正義の組織を自称していた所で、実際に現場に現れるかと言えばまた別の問題である。
いや、そんな事よりも。
彼女自身、かつて不条理な暴力に襲われ、そして救われた身である。
そして、その時と同様に、不条理な暴力によって脅かされる人々がおり、ましてや嘲笑いながらそれを実行する者がいる。
そんな事、決して許せるわけがない。
「あぁ? この作戦の事か? そりゃぁお前、俺達は戦争してるんだぜ? 上がこういう作戦立てたんだ、兵隊は従わねぇとな?」
悪びれもせず。むしろそれが当然であるというように。一切の罪悪感もなく、《突撃兵》が答える。
思わず、真央が目を見開いた。
――なんて、なんて、身勝手な!!
「あなた達みたいにゃ人! 絶対に許しません!」
時折出てしまう癖。それにすら気づかないほどに、彼女の怒りの炎は燃え上がっていた。
聖は繁華街の上空を飛んでいる。空から、建物に取り残された人や、一人での避難が難しい救助者を確認するためだ。
ひらり、と、聖が通りの一つに舞い降りる。そこには座り込んだまま動けないでいる老婆がいた。恐らく、避難者の流れに巻き込まれ、杖などの補助具をなくしてしまったのだろう。
「大丈夫? まぁ、大丈夫そうなら声はかけないけどね!」
空から舞い降りてきた聖の姿に、老婆は思わず、「天使様かい」と言葉を漏らした。
「そんなじょーとーなもんじゃないよ。ばーちゃんホラ、私に捕まって。逃げるよ!」
苦笑しつつ、彼女は老婆を抱え、避難所へ向かう。その道中、聖は人の気配を感じ、立ち止まった。「ちょっと待っててね」と老婆を近くに座らせ、人の気配を感じた建物へと入る。
そこは、洋菓子店であった。生クリームやフルーツの甘い匂いが鼻腔をくすぐる。おっ、いい店見っけ、等と呟きながら、厨房へと向かう。果たして、数名のパティシエが、状況を理解できず、困惑した様子で立ち尽くしていた。
「ここは今ちょっと危険だよ。早く安全なところへ逃げよう! こんなに美味しそうなお菓子を作る人がケガするかもって、人類にとって大きな損失だと思わない?」
ミュエルは前衛で戦う2人の為のサポートを行っていた。
2人が傷を負えばそれを癒し、隙あらば攻撃を行う。
前衛2人に比べれば直接的な攻撃にさらされることは少ないとはいえ、危険であることに変わりはない。
ミュエルのすぐ近くに、《衛生兵》の放った重火器の弾が着弾した。爆発と衝撃。彼女の美しい髪の数本が焼け焦げる。
少しだけ、手が震えた。
同じ人間である隔者との戦闘に、彼女は未だ、少々の恐怖感を抱いていた。ましてや、隔者たちはとりわけ、強い。恐怖を抱くな、と言う方が無理だろう。
だが、それ以上に、許す事が出来なかった。
大勢の無関係な人間を巻き込み、被害をもたらす彼らの事を。
そして、それを見ないふりをし、他人任せにして逃げる事を。
だから、ミュエルはこの作戦に参加したのだ。
守るための戦いに。勇気を振り絞って。彼女は立ち上がったのだ。
ミュエルは両手をぐっ、と握りしめて、その震えを止めた。
自身の敵を見据え、立ち向かうために。
無辜の人々の為に、戦うために。
「アタシは、絶対に……負けない、から……!」
「どなたかいらっしゃるかしらぁ? 助けに伺いましたわ」
ちどりは爆破された建物を優先し、救助を行っていた。火の手くすぶる建物もあるが、火の手はなくとも損傷の激しい建物は多い。倒壊の危険性は捨てきれないし、何より爆発により発生したがれきなどに埋もれ、動けない要救助者もいるかもしれないのだ。
ふと、彼女の声にこたえるように、救いを呼ぶ声が上がる。
ちどりが向かった先には、瓦礫に足を挟まれた被害者の姿があった。
瓦礫は大きく、動かすことは困難だろう。だが、幸いだったのは、瓦礫はあくまで足を引き抜く邪魔になっている程度に過ぎず、被害者自身は大きなけがを負ってはいなかったという事だ。
「山田さん、お願い致しますわぁ」
自身の《守護使役》に声をかける。山田さん、と呼ばれた《守護使役》は、瓦礫の一部分を、崩れ出さないように慎重に、しかし手早くその胃の中に納めてしまった。
「立てますかしら?」
ちどりの問いに、被害者は頷き、立ち上がった。彼女は地図を差し出し、避難地点までの経路を説明する。礼を言って立ち去るのを見送ると、ちどりはまた新たな救助者を探し始めた。
「まったく……わたくしの未来のファンを勝手に減らされては困りますわぁ」
再び、彼女を呼ぶ声が聞こえる。アイドル業の時とは違う質の声だが、どんな声であれ、呼ぶ声に応えるのが彼女の流儀(スタイル)だ。ちどりは直ぐに、声のする方へと走り出した。
「皆、無茶はしないでよ」
理央は言いながら、前衛の2人の傷をいやす。
流石に『強敵である』と明言されただけの事はある。回復に専念しているとはいえ、息つく暇もないほどに、敵の攻撃は苛烈だった。
――好き勝手やってくれるよね。
内心、歯噛みする。だが、十分な戦力で相対したとしても、楽な相手ではない上、戦力の多くを避難に割いているのである。今のこの状態こそが最善の状態であり、寧ろ順調に作戦は進行している。
――今のボク等にはこれが限界。今は集中しないとね。
事実、一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。突然、彼女を狙った攻撃が襲い掛かる。だが、此方も治療を担っている以上、攻撃の的になる事は予想済みだ。慌てず、しかし迅速に退避。
「人並みの知能を持った猛獣と言った所かな。まったく、厄介だね」
自身の傷を簡単に治療しながら、理央がぼやく。
しかし、いつまでも休んではいられない。彼女の陥落は、そのまま戦線の崩壊を意味していた。
ふうっ、と息を吐くと、彼女は再び戦線へと舞い戻る。
いのりは子供と手をつないで、その母親を探していた。
子供はいのりの与えたすねこすりのぬいぐるみを抱いているおかげで落ち着いているようだが、その表情から不安の影は消えない。
「大丈夫、すぐ見つかりますわ」
とは言う物の、あらかた避難は完了したのか、周囲に人の気配はない。《守護使役》によって人の臭いを探してはいるものの、雑多に存在する他の臭いがノイズとなり、中々見つけられずにいた。
彼女に内心、焦りが生まれる。彼女自身の過去の体験が、じわり、と心を浸食し始めた。
――いのりが負けてしまってはいけませんわね。
いのりは軽く頭を振ると、気持ちを入れ替え、探索に集中する。
ほどなくすると、移動する匂いを探知する事が出来た。慌てて駆け寄る。
そこにいたのは妙齢の女性。その姿を見るや、「ママ!」と子供が駆け寄った。女性はその子の名前を叫び、抱きとめる。
その光景を見つめながら、いのりは、
――おとうさま。おかあさま。いのりは――。
ペンダントを握りしめるのだった。
「何で関係ない人を巻き込むんだ!」
禊が叫びながら、鋭い蹴りを放つ。
「そりゃぁお前よぉ! 罪のない一般市民が巻き込まれて無残に死ぬから戦争なんだろうがよぉ!!」
《突撃兵》が放つ一撃を、禊は何とか躱すことに成功する。重い一撃。まともに貰っていたら、と思うと冷や汗が出る。
禊は持ち前の機動力を生かし、足を止めずにひたすら攻撃を続ける事で、相手の足止めを狙っていた。《突撃兵》は似たような戦闘スタイルの禊を気に入ったのか、大いに興味を引く事に成功したようだ。
「こっちは、戦争なんかやってるつもりはないよ!」
禊はその脚に、
「こっちはあるんだよ!」
《突撃兵》はその拳に、
互いに炎を纏い、お互いへと。
「命を軽く見るような奴は!!」
「もっと楽しもうぜ、戦争をよぉ!!」
2人の炎が交差する。混ざりあい、爆炎となり、すべてを飲みこむ――。
●勝利と言う撤退
「み、禊さん! 大丈夫ですか!?」
吹き飛ばされた禊のもとへ、念のため盾をかざし、不意打ちを受けないようにしつつ、真央が駆け寄る。
「ご、ごめん……ちょっと張り切り過ぎちゃった」
苦笑を浮かべつつ、禊が立ち上がった。その姿は、幾度の攻防を繰り広げた結果ボロボロになっている。真央の姿も似たようなものだ。
「ふ、2人とも……はやく、さがって……!」
ミュエルが隔者をけん制しながら促す。
「とは言え、流石にそろそろ限界か……あちらは」
言って、理央は隔者二人を見る。
「まだまだ元気、って所かな……!」
《突撃兵》も《衛生兵》も、所々火傷や傷を負っている。ダメージは決して小さくはないが、まだ戦闘の続行は可能のようである。
「ハ――ハハハ! いいぞお前ら! 最高じゃねぇか! 全員ヒノマルに来いよ、俺達が紹介してやるぜ!? なぁ、メディック!」
《突撃兵》の言葉に、《衛生兵》が頷いた。どうやら気に入られたらしいが、
「冗談じゃないです!」
べえっ、と舌を出しつつ拒否する真央。
残りの3人も、隔者をにらみつけ、明確な拒否の意思を示した。
「そうか? お前らとならいい戦争が出来るんだがなぁ。残念だ。ああ、残念だよ!」
《突撃兵》が炎をその手にまとい、《衛生兵》もまた銃を構える。覚者たちは攻撃に備え再び身構えた。
その時。
どこからともなく放たれた波動の弾が、《突撃兵》を直撃した。うめき声をあげよろける《突撃兵》へ、間髪入れず雷が放たれる。
「お待たせいたしましたわぁ」
「ごめん、お待たせ」
現れたのは、ちどりと笹雪の2人だ。彼女達は4人の覚者たちと合流すると、
「あなた方の目的はもう果たせないのではなくて? ここに黎明の方がいらっしゃったのかなど存知上げませんけれど、とうに逃げている事でしょう」
「あたし達、黎明とかじゃないんだけど気にしないのー?」
ヒノマル陸軍の隔者に問いかける。
「ここにきて参戦とは嬉しいじゃねぇか? 黎明だろうが何だろうが、いいんだよ。出てきた奴をぶっ潰せばなぁ」
凶悪な笑みを浮かべつつ、《突撃兵》が答える。
「そんな怖い話より、今日の夕飯の話をしないかい? そう言えば、美味しそうな洋菓子店を見つけたんだよ。名前はね」
続いて現れたのは、聖だ。
「あ……そのお店……友達が、行きたいって言ってた所……」
ミュエルの呟きに、
「それは奇遇。安心してほしい、お店もパティシエも無事だよ」
「遅くなりましたわ! こちらも避難完了ですわ!」
続いて、いのり、そして瑛莉が合流する。それはすなわち、作戦の無事な遂行を意味する。
「ならば、長居は無用だね」
理央の言葉に、覚者たちは頷いた。
覚者たちは一斉に、隔者に向かって術式を放った。命中を狙ったものではない。目くらましである。瞬く間に土煙が上がる。覚者も、隔者も、姿が見えなくなる。
「……! テメェら! 逃げんのかよ!?」
《突撃兵》の怒号。
「悪いね、最初からこういう予定だったんだよ」
理央の声が響く。
「うふふ、誰もいない街で、お二人だけで心行くまで遊んでいらっしゃると良いですわぁ」
ちどりの声が響く。
「次にお会いしたときにはしっかりお仕置きしてあげるので覚悟しておいてくださいね!」
真央の声が響く。
視界がはれた時、そこに覚者たちの姿はなかった。
《突撃兵》たちはしばし呆然とその場に立っていたものの、一つ悪態をつき、いずこかへと姿を消したのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『罪なき人々の盾』
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『罪なき人々の盾』
取得者:天城 聖(CL2001170)
『罪なき人々の盾』
取得者:四条・理央(CL2000070)
『罪なき人々の盾』
取得者:花房 ちどり(CL2000331)
『罪なき人々の盾』
取得者:九段 笹雪(CL2000517)
『罪なき人々の盾』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『罪なき人々の盾』
取得者:猫屋敷 真央(CL2000247)
『罪なき人々の盾』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
取得者:鐡之蔵 禊(CL2000029)
『罪なき人々の盾』
取得者:天城 聖(CL2001170)
『罪なき人々の盾』
取得者:四条・理央(CL2000070)
『罪なき人々の盾』
取得者:花房 ちどり(CL2000331)
『罪なき人々の盾』
取得者:九段 笹雪(CL2000517)
『罪なき人々の盾』
取得者:明石 ミュエル(CL2000172)
『罪なき人々の盾』
取得者:猫屋敷 真央(CL2000247)
『罪なき人々の盾』
取得者:秋津洲 いのり(CL2000268)
特殊成果
なし
