【日ノ丸事変】窮鼠はヒノマルを噛むか
【日ノ丸事変】窮鼠はヒノマルを噛むか



 表通りの商店街とは雰囲気ががらりと変わった裏路地。
 人が三人並べば肩が当たりそうな通路にびしりと整列した一団がいた。全員が小銃を肩にたてかけているのが目につく。
 彼らはヒノマル陸軍『五条班』。
 一人の覚者を発見し、ここへ追い込む事に成功していた。
「よし、追い詰めたようだな」
 一団を率いる男が振り返り檄を飛ばす。
「相手は新興組織とは言え覚者だ。窮鼠に噛まれぬようにあたれ! 総員、突入!」
 男の号令と共に一団は走り出す。
 その音を聞きつけ、身を固くする者がいた。
「見つかったか……」
 二十には届かないだろう青年が溜め息混じりに呟く。
 油断をしたつもりはなかった。自分達が狙われていると知って注意をしていたつもりだが、丁度一人になった所で発見され逃げ回る内にここに来た。
 路地の突き当たりにあった扉。咄嗟に中に入ったが、よく考えれば地下など袋の鼠も同然である。
 追い詰められた夏樹の耳に、死神の足音が近付いて来るのがはっきり聞こえていた。


 新興組織『黎明』がヒノマル陸軍に戦争を仕掛けられており、このままでは自分達は潰されてしまうだろうと黎明の一員である暁から救助要請が届いていた。
 そんな折に久方 真由美(nCL2000003)が予知したのは、まさにその通りの光景だった。
「黎明の覚者が危険な状況に陥ります」
 黎明の覚者は一人で行動している時にヒノマル陸軍に遭遇し、目についた裏路地に逃げ込む。
 その先には表の商店街に隠れるように作られたバーに繋がる扉があり咄嗟に中に入ったのだが、それが逆に窓もない店内に追い詰められる形になってしまったのだ。
 そしてこの店内には、間の悪いことに開店準備をしている従業員がいた。
「ヒノマル陸軍は従業員を巻き込む事も躊躇わないでしょう。放っておけば覚者だけでなく従業員も殺されてしまいます」
 ヒノマル陸軍を正面突破して従業員を助ける事は難しい。
 だが、実はこのクラブにはもう一つ出入り口がある。クラブが入っている建物の反対側。表通の商店街の中にポツンとある扉がそうだ。
「覚者はそれに気付く前にヒノマル陸軍と交戦する事になりますが、皆さんはその前に表の扉から入れます。そこから入れば従業員側に出るので、助けるのは楽になるでしょう」
 すぐにヒノマル陸軍が駆け付けるだろうが、黎明の覚者を優先するため戦っている間に従業員を連れて逃げる事もできる。
 黎明の覚者を片付けて追いかけて来ても、その時はヒノマル陸軍もある程度負傷している。追い払うくらいならできるだろう。
「黎明から救助要請が来た事は皆さんもご存知だと思います。ですが、何よりも優先すべきは従業員の救出です」
 それ以上は向かう者の選択次第。
 黎明の覚者を助けるならばヒノマル陸軍と真正面からやり合う事になる。
「何を選ぶかは皆さんにお任せします。どうか慎重に考えて下さい」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:
■成功条件
1.従業員の救助。
2.ヒノマル陸軍を二名撃破し撤退させる。
3.なし
 皆様こんにちは。禾(のぎ)ともうします。
新興覚者組織『黎明』、それを狙う『ヒノマル陸軍』。
 彼らの戦いに割り込むか、FiVEとしての任務に集中するか。すべては皆様次第です。

●補則
 従業員が死亡、またはヒノマル陸軍に敗北すると依頼失敗です。黎明の覚者の生死は問いません。
 ヒノマル陸軍はFiVEの覚者も襲ってきますが、最優先は黎明の覚者です。上手くやればこちらの被害を最小限に抑えられるでしょう。

●投票
 この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
 EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
 何も書かれていない場合は無効と見なします。

●場所
 京都の某所にある隠れ家的なバー。
 皆さんが行く時は開店準備中ですが、表の出入り口の鍵は開いています。
 扉から入ると短い階段(床高170cm)がついた四畳ほどのエントランスがあり、そこを抜ければ店内です。

・店内
 エントランスから入って左手側にカウンターバー。右手側は壁際に接地されたテーブル席。
 正面のテーブルは奥の壁側に寄せられ、店内中央は空いています。
 店内中央の奥に扉があり、表側と同じエントランスと階段があります。

●人物
・従業員
 バーのオーナー兼バーテンダー兼従業員。
 店内中央で掃除をしています。

・覚者
 新興組織『黎明』に所属する青年。
 名前は日向 夏樹。追い込まれた先にあったバーに逃げ込み、店内の中央付近にいます。

・ヒノマル陸軍
 オープニングの時点では裏路地にいますが、三分足らずで店内に突入し黎明の覚者を攻撃します。

●能力
新興組織『黎明』
 ヒノマル陸軍と戦えばある程度損害を与えますが、数の不利もあり勝つことはできません。
 店内に現れた人物がヒノマル陸軍以外の覚者だと気付けば、協力か救助を求めてきます。
・日向 夏樹(ひゅうが なつき)/男
 覚者/獣の因子(戌)/木行
 深緑鞭
 棘一閃
 樹の雫

ヒノマル陸軍『五条班』
 班長は五条 一進。所属する班員はFiVEの平均と同格程度ですが、班長の一進は明らかな格上です。真正面から戦うなら確実に被害が出るのを覚悟して下さい。
・五条 一進(ごじょう いっしん)/男
 隔者/彩の因子/火行
 五織の彩
 爆裂掌
 火炎弾

・班員四名
 隔者/現の因子/火行
 炎撃
 B.O.T.


情報は以上になります。
皆様のご参加お待ちしております。

【2015.10.17】一部表現に誤りがございましたので修正が行われました。
・誤
 FiVEに救助要請を出した事は知っているので、FiVE所属と知れば協力か救助を求めてきます。
・正
 店内に現れた人物がヒノマル陸軍以外の覚者だと気付けば、協力か救助を求めてきます。

※この時点では『黎明』メンバーはFiVEを知りません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月29日

■メイン参加者 8人■

『スピード狂』
風祭・雷鳥(CL2000909)
『調停者』
九段 笹雪(CL2000517)
『名も無きエキストラ』
エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『烏山椒』
榊原 時雨(CL2000418)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)

●日常の裏側
 商店街は少し騒がしくも穏やかな雰囲気だった。常連客が多いのか、そこかしこで親し気に店員と話している姿も見かけられる。
 この裏側で危険な隔者組織が憐れな鼠を追い詰めているとは、前もって知っていなければ想像もつかないようなごく普通の日常風景だった。
 その追い詰められた鼠、日向 夏樹は扉を開けて呆然とする。
 薄暗い室内にはカウンターバーやテーブルがあり、カウンターの後ろの棚にはグラスや酒と思われる瓶が並ぶ。
「おや、お客様。申し訳ありません、まだ開店準備中なのですが……」
 声をかけられてはっとする。部屋の中央あたりにモップを手にした初老の男性従業員がいた。
 しくじった!
 逃げ場のない地下に追い込まれたと気付いて夏樹は歯噛みする。耳には自分を追いかけてきた者達の足音が聞こえている。入って来た道を戻る事は出来ない。この店のどこかに隠れようとしても、ここまで追い込んで来た連中、ヒノマル陸軍はすぐに見付けるだろう。
「どうすれば……」
 歯噛みする夏樹。その様子を見て戸惑っていた従業員がもう一度声をかけようとした時だ。
「邪魔するよ」
 店の奥の方で鈴の音が鳴ったかと思うと、一人の女性が。いやその女性に続いて七人の男女が店内に入って来た。
 最初に颯爽と入って来たのは風祭・雷鳥(CL2000909)。それからすぐに彼女の後ろから焔陰 凛(CL2000119)と指先 心琴(CL2001195)が駆け込んで来た。
「あんた黎明の人やろ? 助けに来たで!」
「僕は正義の味方だからな!お前をたすけるぞ!」
「え? 助けって」
 夏樹は内心救いの手を期待していたが、それが本当に叶ったことを実感できなかった。
「うちらは黎明の要請を受けてきた助っ人やよー。微力かもしれへんけど、お手伝いさせてもらうわぁ」
 しかし、榊原 時雨(CL2000418)が小柄な少女から成人女性へと変化した事で、ようやく理解する。
「あ……! 君達も覚者……黎明の要請で来てくれたのか!」
 驚いた顔をする夏樹だが、営業時間外だと言うのに合計九名の闖入者に見舞われた従業員は更に驚いていた。
「あの、失礼ですが……」
 事情を聞こうとした従業員に、九段 笹雪(CL2000517)が手短に説明する。
「もうすぐここに武装した覚者が来るんだ」
「覚者ですか? 武装とは一体……」
 従業員は力あるものとして名前だけは知っているらしいが、状況が把握できずに困惑している。
「店内が少し散らかるかもしれねー。悪く思わないでくれな?」
 香月 凜音(CL2000495)が従業員に少し申し訳なさそうに告げる。
 すでにエヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)はこれから現れるだろうヒノマル陸軍を迎え撃つために、夏樹が入ってきた方の扉の前にロープを張りちょっとした足止めを作っていた。
「……あの人も仲間?」
 ちらりと見えたオペラ仮面に夏樹が思わずこぼすと、その声が聞こえたエヌが振り返った。
「ああ、僕は唯の趣味人です。貴方の敵ではありませんので、どうぞおきになさらず」
 あの格好は趣味なのかと夏樹だけでなく従業員までエヌを見ていた。
 微妙な空気になりかけたが、心琴が従業員に訴える事で再び緊迫した空気になる。
「ここはもうすぐ戦場になるんだ。できるだけ頑張って壊さないようにするけど、お前は危ないから逃げるんだ」
 未だ状況が把握できずに戸惑う従業員の腕を心琴が掴み、笹雪が訴えた。
「人命には代えられないんだよ、ごめんなさい!」
 笹雪の耳にはっきりと聞こえる複数の人間が近付く足音。長引けば攻撃に巻き込まれてしまう。
 腕を引く心琴や笹雪の様子を見て、従業員は聞いた方がいいのだろうかと迷う。大事な店が戦場になるかと思うと辛かったが、再度腕を引かれてそれに従った。
「時間はもうなさそうやな」
 従業員と心琴が出ていったのを見送り、凛は背後の扉に向き直る。
 すでに誰の耳にも固い靴裏が鳴らす音が聞こえていた。
「や、やっぱり来るのか……君達、救助に来たって事は俺を助けてくれるんだよな? あいつら……ヒノマル陸軍と戦ってくれるんだよな?」
 夏樹は音が聞こえてくる方の扉をちらちら見て気にしながらも、周りの覚者たちに確認する。
 寺田 護(CL2001171)はそわそわとしているその背中に叱咤するように言う。
「戸惑っている暇などない! 生き残りたいなら死ぬ気で戦え!」
護の熱感知は四人分の熱源がすぐそこまで来ている事を感知していた。
 夏樹が身構えたのを見てから、扉の方を向き他の覚者にハンドサインを送る。
 そしてその熱源が扉の裏に到達し――。
「一斉掃射!」
「喰らえ!」
 男の号令と護の声が響き、ヒノマル陸軍と覚者の攻撃が店の扉と直線上にいたお互いの前衛に襲いかかった。

●ヒノマル陸軍来襲
「向こうも狙ってたみたいだね」
 破壊された扉の直線状の床には無数の弾痕。
「それにしても、いちいちやる事が大雑把で気に入らない連中だよねぇ」
 もし従業員を避難させていなければ最初の攻撃に巻き込まれて死んでいただろう。雷鳥は苛立たし気に蹄と化した足を軽く踏み鳴らす。
「突入!」
 先程の号令と同じ声と共に、破壊された扉の破片を蹴散らして四人の軍服姿が入って来た。
 入り口に仕掛けてあったロープは覚者と隔者の先制攻撃でダメージを受けていたのか、一緒に蹴散らされ、それを仕掛けたエヌは「おやおや」と呟きつつも笑っている。
「我々はヒノマル陸軍五条班、私は班長の五条一進である! 貴様らも黎明か!」
 前列に立ち小銃を構えた三人の後ろから男、五条一進が声を張り上げる。
 先程の覚者たちの攻撃はこちらにも被害を与えていたらしい。堪えている様子はないが、衣服に損傷があり少し血が滲んでいる。
「あたしらが誰かってそりゃー正義の味方よ、自分の正義に従って気にいらん敵をぶっ飛ばすってやつね」
 床を蹴り、雷鳥が班員の一人に向かって走る。ランスの刺突が掲げられた小銃を削り班員の足に突き刺さる。しかし攻撃を受けた班員も身を引かず逆にランスを片手で掴んで雷鳥に銃口を向ける。
「させるか!」
 護の召雷が班員を打ち、ランスを掴んだ手が離れる。他の班員も雷鳥に狙いをつけていたが、その銃弾は彼女にはかすりもせずに終わった。
「日向さんは後ろに」
 金色の瞳を輝かせ、時雨は横並びになった三人を狙って雷を放つ。護の攻撃では小銃の狙いをぶれさせるなどした班員達だったが、二発目には心構えができていたと言うのか、ほとんど構えを崩さずに反撃に移る。
 班員達の攻撃は主に小銃を使った遠距離攻撃。貫通を伴ったそれは前衛だけでなく中衛、後衛に位置した者にも被害を出す。更に班員達の後ろに控えていた一進が攻撃の構えを取った。
「五条一進、参る!」
 ぐっと腰を落とした一進の拳に炎が燃え盛っている。素早く道を開けた班員達の間から飛び出した一進。その前に一人の覚者が立ち塞がる。
「焔陰流21代目(予定)焔陰凛、お相手仕る!」
 赤く変化した瞳と髪。凛は朱焔を抜き放って不敵に笑う。
「さて兄さん、殺りあおうか!」
 不敵な笑みの下で凛は冷静に相手の手強さを理解していたが、それでも退けない。
 各上と戦ってこその修行。そしてヒノマル陸軍の見境のないやり方が気に入らなかった。
「つうかさ、ヒノマル陸軍とか名付けが子供のセンスやな。草生えるわ」
 あえて挑発し、朱焔を振るう。自分が一進を引き付けていれば、仲間はその分他の班員達との戦闘に集中できるだろう。
「うちらは班員の方やね」
 刀と拳のぶつかり合いを横目で見つつ、時雨がその手に菫を咲かせる。その茎は蔓草のように伸びて班員の一人を打ち据え、姿勢を崩した班員に追い打ちをかけるような雷の一撃がカウンターバーの方から飛んできた。
 たまらず膝をついた班員の姿に笑みを深めたのは、カウンターで待機していたエヌ。
「さあ、今宵も幕開けです。オープニングは貴方達の悲鳴を、怒声を、聞かせて頂きましょうかぁ?」
「悲鳴を上げるのは貴様等だ!」
 突然エヌがいたカウンターの天板が吹き飛ぶ。一進が放った炎の塊がエヌもろとも天板を吹き飛ばしたのだ。
 一進と戦っていた凛は打ち倒されてなんとか起き上がろうとしている所だった。
「思ったより馬鹿力だな!」
 凜音が癒しの滴で凛を癒すが、すべてのダメージを回復させるまでには至らない。班員達の貫通攻撃で多少減らされる程度なら回復も容易かったが、そこに一進の強力な一撃が加わるとなれば話は別だ。
 凜音は後ろで手を出すべきかどうか迷っている夏樹を見る。ここは少しでも戦力が欲しかった。
「悪いが一緒に戦ってくれな? 悪いようにはしないからさ」
「……わかった」
 夏樹はごくりとつばを飲み、一歩前に出た。握り締めた手は震えていたが、さっと振った時には種が班員の一人に張り付き、棘となって突き刺さった。
「君達がやられたら、俺もやばいと思うしね」
「大丈夫だぞ!」
 ばたん!と商店街側の扉が開き、心琴が入って来た。どうやら従業員の避難が終わったらしい。
「人を殺すのは悪い事なんだ。そんな事をするやつには負けないぞ!」
 気合十分の心琴が戻り、夏樹が後衛に加わった。これで覚者側は九人、加えて回復能力を持つ夏樹が加わった事で回復が行き届きやすくなる。
 対してヒノマル陸軍は四人。班長の一進も班員達も全て火行であり、回復能力はない。
「これで全部か。鼠は次々増えてかなわん」
 しかし、数の上でも構成でも不利となったはずのヒノマル陸軍からは動揺は見られない。それは間違いなく自分たちの側にいる班長、一進の力への信頼だろう。
「窮鼠が噛みついてきたぞ。総員、気を引き締めろ!」
「はっ!」
 一進の号令一下、班員達は一斉に姿勢を正す。
「こっちも負けてられないね」
 駆け出した雷鳥の素早さは班員達よりも上。容易に捉われない速度で戦場を駆け、ランスの刺突と飛燕を食らわせる。けして無傷ではいられないが、その傷は支援に徹する凜音が癒す。
 凛が韋駄天足で一進が移動しようとする度に先回りを狙い、仲間達への攻撃を防ぐと同時に班員達に集中できるように耐える。
 心琴、笹雪、エヌ、護の召雷が班員達に降り注ぐ。班員達の攻撃も前衛を貫いてくるが、攻撃だけでなく回復も持つ時雨と夏樹、護も時に支援を行い耐える。
 それでも一進の強烈な一撃ばかりは大きな驚異だった。そしてその脅威がついに覚者達の一角を切り崩す。
 カランと床を滑る刀の音。倒れたのは凛だった。
「単騎で足止めをする蛮行は認めよう。だが甘い」
 一進は倒れた凜の上を飛び越え、時雨に爆裂掌を叩き込む。そして号令を発した。
「集中攻撃により各個撃破せよ!」
 号令一下、残った二人の班員が銃口を向けたのは爆裂掌を受けた時雨。
「まずい!」
 凜音がせめて回復をと行動に出る前に、時雨は銃弾に倒れる。
「うぐっ……!」
 時雨が倒れた直後、班員の一人が護の召雷に大きく体制を崩し、手から小銃が離れる。それに気付いた別の班員がカバーに入ろうとしたが、それより早く雷鳥が動いた。
「狙うよ!」
「お任せします」
 エヌの召雷が班員たちをまとめて攻撃し、それを援護にした雷鳥のランスが閃く。
「一人目!」
 ランスに貫かれた班員の一人は数歩後退して倒れる。班員は残り二人、体力はだいぶ削れているはずだ。
「まだまだ、これからや……!」

●やるかやられるか
 その声は倒れたはずの凛だった。床に落ちた朱焔を拾い上げ、再び一進に立ち向かう。
「う、うちもまだやれるでぇ……!」
 時雨も起き上がりざまに菫の鞭を班員に叩きつける。二人減らしたはずが復活し、自分の勢力は一人減ったまま。それでも一進と班員達の攻撃は緩まない。
 次に狙われたのは心琴だった。中衛とはいえ貫通攻撃を持つ班員に狙い撃ちされて体力を大きく減らした所を凛のマークを抜けた一進にとどめを刺される。
 しかし、心琴もまた倒れたままではなかった。
「正義の味方は何度でも復活するんだ! 悪をうちほろぼすんだぞ!」
 起き上がり叫ぶ心琴に一進は眉をひそめる。
「しつこい鼠どもだ」
「そっちもいい加減倒れたらどうなの」
「それはこちらの台詞だ!」
 残り二人の班員がなかなか倒れない事に業を煮やした笹雪の台詞に言い返し、一進と班員の集中攻撃は続く。
「くっ……そっちもやる気やね!」
「愚問! 起き上がるならば再び倒すのみ!」
「倒されるのは、お前たちだぞ……!」
 集中攻撃の的になったのは一度倒された事で体力が低いと悟られたのか、時雨と心琴の二人だった。覚者達もそうはさせんと二人に回復を集中し、班員達に攻撃を浴びせかける。
 班員二人はかなり体力を削られていたが、一進の方はまだ余裕があるのかその動きは些かも鈍っていない。
 あと一息のはずだが、それがなんとも長い。
「気合いを入れろ! ここでグダってんじゃねえ!」
 気力が削られる中で護が声を張り上げる。大きく広げられた梟の翼が風を起こし、填気と共に仲間の鈍りそうな空気を跳ね除けるかのようだ。
「いい気合いだ! しかし、気合いならば負けん!」
 護の行動に気力を奮い立たせた覚者達だったが、続けられる集中攻撃が時雨を二度目の戦闘不能に追いやった。
「女の子ばっかり狙ってんじゃないよ!」
「ならば次は男だ」
 一進の拳が宙を殴りつけ、その拳の先から放たれた炎の塊が心琴に炸裂する。吹き飛ぶ心琴に一進は手応えを感じて拳を握る。
「次はどの鼠だ」
「やられんのはそっちや!」
 二人の仲間をひたすら集中攻撃され、凛の怒りを乗せた飛燕が一進の脇腹を深く切り裂く。
「班長!」
 噴き出す血の量に焦ったのか、二人の班員が思わず対峙していた覚者ではなく凛に銃口を向けた。
 それが隙となるとは気付かずに。
「馬鹿共! 敵から目を離すな!」
「遅い!」
 凛と同じく、二人を集中攻撃された怒りは他の覚者達にもあった。
 笹雪とエヌが連続で放った雷が班員二人の命運を分ける。一人は当たり所が良かったのか次に襲い掛かってくる三発目の雷に対し回避行動がとれた。
 しかし、もう一人は間に合わず護が放った三発目の雷に倒れたのだ。
「よし二人目!」
「……チッ」
 思わず口にする凜音。それを聞いた一進は舌打ちし、倒れた班員の元へ後退する。
「撤退するぞ」
「自分はまだ行けます! 死力を尽くし任務を……」
 反論した班員は一進にぎろりと睨まれ口をつぐんだ。
「部下の死に場所は上官たる私が決める。貴様ではない!」
 一進は班員を黙らせると、倒れた二人を抱えさせた。
「撤退!」
 今度は班員も何も言わず従い、仁王立ちする一進を盾に破壊された店の入り口から外へ向かって駆け出した。
「この戦いは私の負けだ。互いの命は次の戦場に預けるとする!」
 最後にじろりと覚者達を見回し、一進は先に行かせた班員を追って走り去った。

●辛勝
 しんと静まり返った店内にヒノマル陸軍が去って行く足音はよく響いたが、それもやがて聞こえなくなる。
「……行ったようだな」
 護が肩の力を抜いた。何気なく見渡した店内はあちこちが壊れ弾痕や飛び散った血が生々しい。
「まったく……今回はちょっと遊びが過ぎましたよ……」
 流石にエヌのうさんくさい笑みも力が無い。それでもヒノマル陸軍が去った扉に向けてひらひらハンカチを振っていたりするが。
 雷鳥はそれに呆れた視線を送りつつ、蹄から戻した足を引きずり時雨と心琴と、二人の様子を確認している凜音の所に声をかけに行く。見かねて肩を貸した凛も、時々顔をしかめながら歩いた。
「二人の様子は?」
 声をかけられて顔を上げた凜音が肩をすくめる。
「ご覧の通り。まあ治療すればなんとなると思うけどな」
 時雨も心琴も一刻を争う事態ではなかったが、重傷には変わらず目を覚ます様子はない。
「ごめん……ここまでヤバイ連中だと……思わなかった……」
「ええよ。後でラーメンでも奢ってや」
 ふらふらと歩いてきた夏樹に凛が冗談めかして笑う。
 それに大して夏樹も笑い返そうとしたが、後衛にいたとは言え無傷ではいられなかったらしい。特に腹部に受けた銃弾が堪えているようで笑みが歪んだ。
「日向さん」
 笹雪が振り返る。
「ねえ日向さん、陸軍って黎明とそんな対立してたっけ。そう言う話聞いたことある?」
「俺も聞きたい。何かヒノマルに追われるような事をしたのか?」
 護も夏樹の側に来て質問するが、夏樹は首を横に振った。
「俺が黎明に入ったのはつい最近なんだ。入ってすぐになんか危ない連中に狙われてるって話が出て、一応気を付けてはいたんだけどな……」
「黎明のリーダーはどうしている」
「それも分からない……。俺は元々覚者だって事、隠してたから……あんまり他の連中と付き合ってなくて、ッ」
 喋っている途中で夏樹が体を丸めるようにして呻く。腹を押さえた手の隙間から血が滲み出している。長々と会話ができる状態ではなさそうだった。
「これ以上はちょっと無理そうだね」
「仕方ないか……」
 笹雪と護は軽くため息を吐く。この場所で長話するのも何だが、時雨と心琴も長時間放っておいてもいいわけではない。
 従業員の命を救い、ヒノマル陸軍も危ない所ではあったが撤退まで持ち込めたのだ。それで良しとしよう。
 まずは傷を癒さなければなるまいと、覚者達はお互いに肩を貸し合い激しい戦闘の跡が残る店内を後にした。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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