【日ノ丸事変】京の都を焼き尽くせ!
【日ノ丸事変】京の都を焼き尽くせ!



「火火、火火火、火火火、火―火っ火火」
 奇怪な笑い声を上げて、『ヒノマル陸軍』の隔者、兵藤爆圧(ひょうどう・ばくあつ)は無残に転がる『黎明』の覚者達の死体を足蹴にする。
 見れば転がっているのは覚者のものだけではない。
 何も分からぬまま死んだ住人、状況を知ってやって来た憤怒者の死骸もまた、等しく転がっていた。
 爆圧が属する『ヒノマル陸軍』は先刻、戦争を開始した。彼らの戦争に深い意味は無い。ただただ、戦いさえあればそれで満足なのだ。その中でどれだけの民草が犠牲になろうとも知ったことではない。
 中でも爆圧は、炎に魅せられた男だ。何かを破壊したい、何かを爆発したい、何かが砕け散る様に喜びを覚える、そんな性質を持つ彼にとって、『ヒノマル陸軍』は戦場を提供してくれる、理想の環境だった。
「火火火火、今日も良い戦争だったぁッ! これは暴力坂の旦那に感謝しねぇとなぁッ!!」
 爆圧はガトリングの形をした右手を天に掲げ、左手に握ったメガホンで自身が占拠した公民館に向かって声を上げる。
「あなた方を助けに来たカス共はぁ、みぃんな死んじゃいましたぁ。なので、中にいる皆さんにも死んでもらいまぁぁぁぁっす!」
 公民館に閉じ込められた人々に向かって無慈悲な宣告を下す爆圧。
 既に公民館の中には時限爆弾がセットされている。隔者達がほんの一休みしている内に、彼らの命は消え去ってしまうことだろう。
 そして、爆圧は人々に対して最後の言葉を伝える。
「皆さんに助けはやってきませんッ! ヒノマル陸軍の怖さと恐ろしさを魂に刻み込み、嘆いて、絶望して、悲しむだけ悲しんで死んで下さぁぁぁぁい! 火―火っ火火!!!」
 無辜の人々の命が燃え尽きるまで、最早時間は無い。彼らの運命は決したかのように思われた。


「皆、聞いてくれ! 事件なんだ!」
 集まった覚者達に早速いつものように告げる久方・相馬(nCL2000004)。
 覚者達はその様子から普段以上に深刻な何かを感じた。
「ああ、『力』を持つものでないと勝てそうにない。とんでもないことが起きようとしている。みんなの力が必要なんだ!」
 相馬の渡した資料によると、新興覚者組織である『黎明』が七星剣傘下の組織『ヒノマル陸軍』に狙われているのだという。どうやら、大規模な戦争を行うのが目的の様だ。『黎明』も迎え撃つようだが、食い止められきれるかは定かでは無い。そこで、『黎明』はFIVEに助けを要請してきた。
「放っておくと、とんでもないことになる。『ヒノマル陸軍』は放っておけないよな。で、皆にはここに向かってもらいたいんだ」
 『ヒノマル陸軍』は京都を中心に暴れ回り、覚者らしいのを見かけたら潰すという大雑把な方針で動いている。『ヒノマル陸軍』の隔者は散らばって、好き勝手暴れているようだ。
 兵藤爆圧という隔者を中心とする部隊は公民館に近隣の住人達を閉じ込め、時限爆弾で派手に吹き飛ばそうとしている。
 『ヒノマル陸軍』は手練れだ。真っ向勝負していては、戦っている間に爆弾が爆発してしまうだろう。幸い、解除が難しい爆弾では無かった。資料を基にすれば、覚者なら時間内に解除することは出来る。
 敵も馬鹿ではない。潜入に気付けば、当然妨害に向かってくる。工夫も必要だろう。或いは危険はあるが、覚者の一部が囮になるのは有効な手と言える。
 爆圧の目的は覚者との戦闘を行うこと、そして公民館の人を爆破することなのだ。
 説明を終えると、相馬は覚者達を送り出す。
「俺は知らせることしかできないけど、皆を信じてる。頼んだぜ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:KSK
■成功条件
1.公民館に閉じ込められた人々の救出
2.なし
3.なし
皆さん、こんばんは。
上は大火事、下も大火事、これなーんだ、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は京都を舞台に隔者と戦っていただきたいと思います。

●戦場
 京都にあるとある公民館です。
 PC達は隔者のいる表側か、人気のない裏側に現れることが出来ます。
 時刻は夜になります。PC達が到着するのはどんなに急いでも、爆弾が爆発する6ターン前です。
 公民館の前で隔者達は戦いの勝利に酔っています。ただし、公民館に出入りするものがいれば、すぐ気付いて妨害に向かうでしょう。目の前に気を惹くものがいれば、その限りではありません。
 また、公民館に入るに当たって何らかの工夫があれば、彼らが気付く確率は減ります。
 中にいる人々はすっかり萎縮してしまっているため、助けに向かってもすぐに避難誘導することは不可能です。爆弾が解除されたのちなら、避難させることは可能です。

●ヒノマル陸軍
 ・兵藤爆圧
 ヒノマル陸軍に属する火行の付喪です。
 爆発を愛し、何かが砕け散る様に喜びを覚える危険人物です。戦場を与えてくれるヒノマル陸軍には、強い忠誠を誓っています。
 FIVEの覚者比べて、実力は勝ります。
 火行の術式スキルを中心に使い、遠距離攻撃を得意とします。

 ・その他
 土行の前衛タイプが5人、火行の後衛タイプが3人います。
 実力はFIVE覚者の平均と同じ程度です。

●特殊ルール
 公民館の中には12個の爆弾が仕掛けられており、6ターン目の終了時に爆発します。
 爆弾の捜索には1ターン掛かりますが、何かしらの工夫があれば行動を消費しません。
 爆弾の解除は簡単なもので、夢見の説明を聞いていれば2ターンで行うことが可能です。何かしらの工夫があれば1ターンで行うことが可能です。
 つまり、爆弾を捜索し解除を行うまで、普通なら3ターン、上手くすれば1ターンで終わります。ただし、妨害が入った場合はもっと時間がかかる可能性があります。

●投票
 この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
 EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
 何も書かれていない場合は無効と見なします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月29日

■メイン参加者 8人■

『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『ロンゴミアント』
和歌那 若草(CL2000121)


 京都。
 日本において1000年以上の歴史を持つ、世界的に見ても極めて貴重な都市。
 だがこの日、京の都に『戦争』が起きた。
「ヒノマルの名の元、陸軍を名乗り、やることは民間人の虐殺……巫山戯るな」
 炎の色が混じる空を睨みつけるようにして、『狗吠』時任・千陽(CL2000014)は抑えた声で唸る。
 軍人は民間人を守り、国を守る事で存在することができるものだ。だが、『ヒノマル陸軍』のやってることは単なる破壊活動である。唯の戦争屋の人殺しが陸軍を騙ることは不快という感情すら通り越しており、憤怒を抑えきれない。
「京の都はとても美しい街よ。ここでの争いごとは避けてほしいわ」
 落ち着いた口調ではあるが、『月々紅花』環・大和(CL2000477)もまた『ヒノマル陸軍』に対しては強い怒りを覚えているようだ。隔者の戦いに大義名分など存在しない。自分の力が人の役に立つと信じる少女にとって、暴れるためだけに力を振るう彼らは不倶戴天と言えた。
 守護使役の明日香も、仲良しの友達が抱く怒りを感じてか、共に天を睨んでいる。
 FIVEとしては初と言える大規模の戦闘、敵の方が格上で、状況も既に敵の優勢で進んでいる。そのような状況で、覚者達の胸には様々な想いが去来していた。
「時間もない、人手もない、ないないばっかだけど……やれることをやるしかない、ね」
 覚者として正義感の強い方とは言えない『彼誰行灯』麻弓・紡(CL2000623)だが、それなりの矜持はある。そして、決意と共に居候であり、共に戦う仲間でもあるプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)に目を向ける。
「頑張ろうか、殿……て、それコスプレ衣装?」
 しかし、その強い眼差しは見る間に崩れ、呆れ顔に変わって行った。人が本気を出してみれば、相方のプリンスが黒いマント姿でポーズを決めていたからだ。
「ニポン凄いね、ドラキュラのマントが108円だったよ」
 当の本人は満面のドヤ顔。これでは紡もため息をつくしかない。だが、プリンスもプリンスなりに、この状況をどうにかしたいと願っているのだろう。
「理不尽に他人の命を奪う人達に、みんなを殺させてはならない」
 『ロンゴミアント』和歌那・若草(CL2000121)の言葉に、覚者達は改めて気合を入れ直す。
 真面目な彼女は今しなくてはいけないことを良く分かっているし、切り替えは早い方だ。
「……行きましょう」
 若草が促すと、覚者達は行動を開始した。
 これより、命のカウントダウンが始まる。


 『ヒノマル陸軍』と他組織の戦闘の痕が残る公民館前。
 そこに男達は現れた。
 隔者達が警戒に入り、殺意を向けてくる中で、椎野・天(CL2000864)は求められてもいないのに大見得を切った。
「京の町を大火で包む……これは幕末の再現だな! そんな事はこの天の名を持ち地を駆ける秘密組織のエージェントが許さねえ! 昭倭の新撰組と言われたこのテンさんがお前たちに天誅を下す!」
 パッと見には冴えないアラサーのフリーター。
 しかし、その両手を覆う装甲と脚部に唸るローラーが、覚者であると告げている。
「やぁやぁ我等はイケメン三羽烏! 不貞浪士共を成敗しに参ったぞよ!
 時任ちゃん! 風祭ちゃん! やっておしまいなさい!!」
 天の名乗りに応えるようにして身構える隔者達。その様子を『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は冷静に観察する。
(兵藤ってのはかなりとち狂った野郎みてーだな。ひとりよがりな戦争ごっこに付き合わされてウンザリだぜ)
 目の前にしてはっきりと危険が理解出来た。
 まともにやり合って無事に済む相手ではない。ただでさえ、相手は格上なのだ。
 しかし、覚者達の目的は敵の殲滅ではない。その1点に限れば、こちらに勝機は十分ある。だから、誘輔はゆっくりと口を開いた。
「おいテメエ。兵藤とか言ったな。そんなに強ェ覚者と戦いてえならボスの暴力坂に挑みゃいいじゃねえか。それとも何か、下剋上にゃびびりが入るか」
「別に俺ァ、暴力坂の旦那と戦う理由なんざねぇよ」
「あぁ、そうかい。丸腰の一般人や力を持たねー憤怒者は高笑いしながら虐殺できても、トップにゃ媚び諂うなんて狂犬が聞いてあきれる。発破狂いの忠犬爆公だな!」
 誘輔の露骨な挑発は隔者の癇に障ったようだ。単純故に、こうした簡単な挑発が効くようだ。それを見て取ると、バズーカを構えながらひと押しを入れる。
「ここ掘れわんわん、ちんちんでもしてみろよ!」
「てめぇら……死なす!」
「許せんのはこっちだ! 兵藤爆圧!貴様の目は節穴のようだな、まだ俺たちが残っている。
 貴様らはまだ勝利などしていない」
 愛用の拳銃と軍用ナイフを手に、千陽は叫んだ。
 最早、問答などと言うものは必要無かった。京の都に起きた『戦争』はますます激しさを増していく。

 表で起きた戦闘の様子を確認して、奥州・一悟(CL2000076)は頷くと、仲間達を手で促す。
 人目を引いている内に裏から侵入する覚者達。
 一悟も普段は喧嘩っ早さで知られる少年ではあるが、状況を弁えているつもりだ。感情に任せて表の敵に殴りかかっていては、囮を買って出た仲間達の覚悟も無駄にしてしまう。だから、怒りも抑え込んで気配を殺すことに専心する。
 この作戦に重要なのは隠密。
 若草も普段の明るい印象を与える服装では無く、夜闇に紛れる黒い色合いの服をしていた。闇を見通すように目を凝らし、周囲を見渡す。
 隔者達の警戒も決して薄かったわけではない。むしろ無策に来れば、この場で迎撃されていた可能性が高い。まず、第一段階は成功といった所だ。
 一悟は覚悟を決めて、公民館の中へと進んでいった。


 公民館の中で怯える人々を見つけるのに時間は掛からなかった。
「爆弾解除に来たぜ。大丈夫。すぐ終わらせるから逃げる準備をしてくれ」
 中にいる人を見つけた一悟が声を掛けると、彼らは安堵の息を漏らす。それでも、混乱する彼らを今すぐ連れ出すのは難しいようだ。外の隔者への恐れもある。そこで、大和と若草は落ち着かせながら彼らに問い掛ける。
「安心して。わたしたちは爆弾を解除する方法を知っているの。もし犯人が爆弾を仕掛けた場所を知っているなら教えて頂戴」
「どこに設置したかじゃなくて、ヒノマルが館内のどこに移動していたか、とか。トイレや、階段下の物置とか……部屋の隅っこ、台所とか。行ってなかったかしら?」
「言われてみれば……」
 2人の問いに、中にいた人々は心当たりを口にした。それを頼りに覚者達は駆け出す。夢見と言えども、精緻な予知が出来た訳ではない。最後に決着をつけることは各社にしか出来ないのだ。
 事前に内部の確認は済ませてある。余分な混乱を招くことも無い。
「殿、まかせたよ」
「余、かくれんぼとか苦手なんだよね……缶けりとかにならない?」
 飄々とした態度で紡に返すプリンス。本気で言っているのか軽口なのか定かではないが、ある意味で頼もしいと言うことも出来るだろうか。
 最初の1つを見つけたのは大和だった。明日香が感じ取り、大和自身が鋭く瞳で見抜く。彼女と守護使役の抜きん出たコンビネーションが遺憾無く発揮された成果と言えよう。
 知らされた場所に向かった若草は早速解除に取り掛かる。やや専門的な機器相手とはいえ、彼女にとって電子機器はそれ程取っ付きにくい相手ではない。手際よく作業を進めていく。
(命も、尊厳も、帰えるべき家や住むべき街も、そしてこの国も守るの。人を救うっていうのは、明日もその先も救うって事よ。私達がやるべき事って……いいえ、私がやるべき事は、そういう事)
 胸の中で想いが疼く。去来するのはかつての妖退治での失策。だが、その想いを抑え込み、いや、それを力に変えて目の前に集中する。
「終わったわ」
 一瞬とも永劫とも取れぬ凝縮された時間から若草が戻る。
 覚者達は一瞬安堵するが、まだ集中を切らす訳にはいかない。すぐさま次の爆弾に向かっていく。
「爆弾は処理できたから、逃げよう。慌てず焦らず静かに……皆で、生きて帰ろう」
 棒付き飴ちゃんを人々に差し出しながら、避難を促す紡。彼女の力ある言葉に、ゆっくりと人々も立ち上がる。
 避難も間に合うかは極めて判断が困難な状況である。
 だからこそ、覚者達は懸命に時間と戦う。
 一悟は事前に確認した火薬の匂いを元に爆弾の捜索を行う。若さに似合わず、作業はしっかりとした手順に基づいて行われ、確実に爆弾の機能を停止させていく。
 先ほどまでふざけていたように見えたプリンスも、作業は完全に頭の中に叩き込んであるのだ。
 それでも、刻一刻と時間は迫ってくる。
 覚者達の中には間に合うのかと言う疑念が忍び寄る。敵ははっきりと見える隔者ではない。この場もまた、立派な戦場だ。
(時任くん、そっちも無事でね)
 紡は外の仲間の無事を祈りながら、人々と薄暗い公民館の中を進んでいくのだった。


 建物の中で静かな戦いが行われているその頃、外でもまた戦いが行われていた。
 この上なく派手で、騒がしく、分かりやすい『戦争』だ。
「俺は、お前たちのような日本国を脅かす輩が許せない」
 ナイフと拳銃で巧みに攻撃をいなしながら、千陽は吠える。
 土行の力で自身と仲間に防御壁を用意し、持久戦を念頭に置いた戦い方だ。もちろん、敵への反射攻撃を行えるようにしているので、傍目には時間稼ぎだとは思われまい。少しずつ、建物から距離を取っているのは、中にいる仲間達の存在を悟られないためだ。
 無傷とは言えない。相手の方が多数で、攻撃に重きを置いた戦法を取ってくる以上、全てを防ぎ切ることは難しい。
「何ィ! つまりお前たちを全員倒してからじゃないと解除しに行けないではないか! ええい、者共かかれぇぃ!! 1人も逃がすでないぞ!!」
 馬鹿のような口調で、心底驚いたような声を上げているのは天だ。
 隔者達が油断し切っているのは、彼の演技のお陰も大きいだろう。精々が「単純な正義感や迂闊な功名心に逸ってやって来た、状況を見誤った覚者」程度に思われているのだ。『新興組織』の人間と思われていたら、内部にも警戒の目を向けられていた所だ。
(俺だってこの惨状に何も感じねえ訳じゃねえ。あたり一面黒焦げの死体を見りゃ舌打ちでもしたくなる)
 煮えくり返る怒りを抱きながら、バズーカを放つ誘輔。
 因子の力で五体を強化した彼は、さながら移動砲台のようなもの。
(でも、だからって感情的になったって事態は好転しねェ。打算と機転と虚勢で上手く立ち回るんだ)
 盛り上がった地面が槍のように、隔者の1人を貫く。覚者達は守勢に回っているものの、攻撃を放棄したわけではない。
 敵の攻撃の手が減ったことで、覚者達に余裕が生まれた。だが、それはわずかに遅きに失した。火力の集中を始めた隔者の攻撃を受けて、1人また1人と倒れて行く。
 そして、運命の刻限が訪れた。
「火火火、楽しませてもらったぜ。だが、これで全て終わりだぁぁぁッ!」
 勝利を確信した隔者が快哉を上げる。
 建物が爆発し、覚者達は絶望と敗北を受け入れることになる。
 そのはずだった。だが、何も起こらない。予想外の展開に戸惑う隔者達。その時、天がゆっくりと立ち上がる。
「いや本当の所、俺は結構クールでクレバーな男ですよ?」
 己の命すら燃やし、天は立ち上がる。言葉は軽いが、支払った代償は決して軽いものではない。隔者はその姿を見て、してやられたことを察した。
「土行の付喪は頑丈なのが取り柄でな」
 誘輔は皮肉げに口を歪める。最早これ以上、我慢の必要は無い。視界の端に仲間達の姿も見える。既に状況は拮抗まで戻すことに成功したのだ。
「1人でも多くのヒノマル陸軍を屠る!」
 千陽は英霊の力を引き出すと、全身に宿る因子の力を高める。
 そう、今やカウントダウンは終わった。いや、カウントが終わってからが本番の始まりだ。
 公民館前の戦いは、いよいよ最終局面に至った。


 内部にいた覚者が戦線に参加することで、状況は一変した。
 囮を買って出た3人相手に隔者にも消耗は見られる。そこへ無傷の覚者が参戦したのだ。
「お前らの爆弾、おもちゃ以下だったぜ」
「悪しき民のみんなー! 余からのお返し、謹んで賜りなよ!」
 一悟が炎を帯びたトンファーで踊りかかり、プリンスが雷を光らせる。
 爆炎が舞う中で、覚者(トゥルーサー)と隔者(リジェクター)の刃がぶつかり合う。
 状況は有利になったが、勝ちが確定したわけではない。隔者が死に物狂いで暴れれば、覚者達も無事では済むまい。
 とは言え、大和の誘導で市民の避難も終わっている以上、覚者達に遠慮は無い。隔者を自由にしては、逃がした人々に累が及ぶ累が及ぶ可能性がある、というのも1つだ。それと同時に目の前に敵が許せない。
 若草が武器に内蔵した霊的要素を解放すると、霧の形を取って仲間達に癒しの力を与えて行く。
「オラァッ!!」
 天は脚部のローラーを唸らせると、かく乱させるように戦場を駆けまわり、そこから一転突撃する。その変幻自在の攻撃に隔者もわずかに怯む。
「チッ、こいつら何だって、こんなになってまで戦いやがる」
「知れたこと」
 傷だらけの千陽が強烈なプレッシャーを放ちながら隔者を睨みつける。
「日本国民は当たり前の幸せを享受すればいい。いつもの明日がいつものように国民に来るために俺は戦う。それを支える礎になることになんの躊躇いがあるのだろうか」
 そんな千陽のことを後ろで支援を行う紡が散々心配している訳だが、彼はそういう男だ。
「そろそろ厳しいかな。勇気ある撤退も戦略の1つ……ってね、逃げよ」
「分かっているぜ。もっとも、ただじゃ帰さねぇがな」
 誘輔は隔者達に向けて、ゆっくりとバズーカを向ける。全身が燃えるように痛むが、連中の非道を思えばどうということは無い。
 そして、外道への怒り、悪党への憤懣、それらを全て残った弾丸に込めて解き放つ。
「喰らえ、戦争狂ども!」
 炎が戦場を包み込む。その中で戦場にいた覚者達には、撤退を促す大和の姿が見えた。
 まだ戦いは終わらない。いや、むしろ始まったばかりと言える。
 だが、この場に灯された炎は『ヒノマル陸軍』の勝利を讃えるかがり火などでは無い。
 そう、最後に灯されたのは覚者による希望の火だった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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