歌声を響かせて。或いは、劇場のディーヴァ。
歌声を響かせて。或いは、劇場のディーヴァ。


●歌声よ響け
 誰もいない真昼の劇場。真っ暗な舞台の中央を、スポットライトが照らし出す。
 そこに居たのは、身体のラインピッタリにデザインされた、薄いドレスを纏った女性。スパンコールが、ライトの光を反射させる。銀色のドレスと、キラキラ光る反射光。雪の女王を連想させる。
 眼前には、4人の人影。観客席の最前列で、虚ろな目をして彼女を見上げる、警備員たち。
 彼らの目付きは、正気のそれではない。
 舞台に立った女性に、心奪われ、洗脳された状態にあるようだ。
 ゆっくりと目を閉じ、彼女はそっと唇を開く。薄い唇と、細い喉から溢れる声は、高く、高く、マイクも通さず観客席の端まで、響く。
 美しい声だ。異国の、それも古い言葉で歌っているので歌詞は聞き取れないが、それがオペラの一種であることは理解できる。
 彼女が歌い続ける限り、警備員たちはその場を動くことはないだろう。
 少しずつ、体が弱り、やがて心臓が息の根を止める、その瞬間まで。
 やがて来るその時を夢想し、オペラを歌う彼女はくすりと小さく、微笑むのだった。

●終わらない歌
「劇場に縁のある人なのかな?」
 なんて。
 モニターを見つめ、久方 万里(nCL2000005)がそう呟いた。場所はF.i.V.E.の会議室。集まった面々の顔を見やって、コホンと小さく咳払い。
「今回の事件を引き起こしているのはランク2の心霊系妖(ディーヴァ)。遠距離から音の魔弾を撃ち出す能力が厄介だねっ! 彼女の歌声には[弱体][ 凍傷][ 混乱]の効果が付与されているみたい」
 ディーヴァ自身は、追い詰められない限り舞台から移動することはないようだ。
 問題は、舞台の手前に控えた4人の警備員の存在だろうか。
 ディーヴァに操られた状態にある上、かなり弱っているようだ。
 ディーヴァを守ろうと、こちらの行動を邪魔してくるだろう。今の彼らには自分の身体を気遣う、という考えはない。全力で放たれる彼らの攻撃には[弱体]の効果が付与されている。恐らくは、ディーヴァの影響下にあるが故のものだろう。
 だが、彼らが攻撃を行う度に、自身の命を削っていることを本人達は自覚していない。
「そうきゅーなかいけつ? が、必要になるね。じゃないと、おじさんたちが死んじゃうかもだし」
 ディーヴァは常に歌を歌い続けている。
 その歌声は、彼女が消えるその瞬間まで、止むことはないだろう。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.ターゲットの撃破
2.一般人の救助
3.なし
こんにちは。或いは、こんばんは。
病み月です。
今回のターゲットは、劇場に巣食った歌姫の妖です。
一般人が数名、既にディーヴァの被害に遭っている状態です。早目の解決を期待します。
では、以下詳細。

●場所
劇場。裏口は硬く閉じられていて、正面(観客席)からしか立ち入ることはできない。
明かりが付いているのはステージだけ。椅子が並んでいるので、足場がいいとは言い難いが、光源に問題はなく、ターゲットを見失う心配などはないだろう。
ステージにはディーヴァ。
観客席には4人の警備員がいる。

●ターゲット
心霊系・妖(ディーヴァ)
ランク2
薄い銀色のドレスを纏った美しい女性。
常に、歌を歌い続けているが、古い外国語の歌詞なので何を歌っているのかは不明。
近距離での格闘戦に弱いようだが、物理攻撃のダメージは通りにくい。
人が弱っていく様を見るのが好きなようだ。
【サウンドウェーブ】→特遠列貫2[弱体][ 混乱]
衝撃波のような歌声。不可視であるため、回避が難しい。
【オペラの魔弾】→特遠貫2[弱体][凍傷]
歌声を一カ所に収束させて放つ攻撃。氷の粒子を撒き散らすので、サウンドウェーブに比べて視認しやすい。

一般人(警備員)×4
ディーヴァに操られた警備員。
弱っているようだ。
自身の身体を顧みない行動を起こす。
彼らの攻撃は、常に全力で放たれるものであり、その度に残り少ない彼らの体力は大幅に削られる。
また、彼らの攻撃をまともに受けると[弱体]の状態異常を付与されることになる。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
公開日
2015年10月31日

■メイン参加者 4人■


●歌姫
 強く願い、他人を蹴落とし、渇望して手にいれたきらびやかな舞台。声の限り歌い、多くの人を魅了し、この国だけでなく、海の向こうの国でも彼女の人気は高まった。 
 いわれのない誹謗中傷や、同業者の嫉妬にも耐え、歌声だけで手に入れた地位。
 最高の瞬間に訪れた、最悪の時。喉に見つかった腫瘍は、彼女の命を脅かすものだ。
 命を取るか、歌を取るかの二択を迫られた彼女は、結果として声を失った。悲しみにくれ、涙を流し、しかしすでに泣き声ひとつ出て来ない。
 声にならない叫びをあげて、彼女は自身で命を立った。
 生まれ育った街の、初めて立った小さな舞台の、その上で。
 そんな彼女の無念や悲しみが、妖として覚醒したのはある秋の日のことだった。
 曖昧な記憶。ただただ、世界が恨めしい。出なくなったはずの声が出る。そのことが嬉しく、そして辛い。辛さを紛らわせるように、彼女は歌う。歌い続ける。
 自分の歌声が、他人の思考をかき乱し、影響を及ぼすものであることを彼女は無意識に理解していた。
 歌えば歌うほど、彼女の記憶は曖昧になっていく。
 それと引き換えに、恨みばかりが強くなる。
 そして彼女は、何処の誰とも知らない者を呪うため、ただただひたすら歌い続ける。

 スポットライトの当たる舞台の上に、薄布で作られたドレスを纏った歌姫(ディーヴァ)が立っていた。美しい、異国の言葉で紡がれる歌声が響く。
「劇場ですか、正しく僕のステージでもあるというわけですね。……麗しくも少々お痛をなさっている姫君がいらっしゃるわけですが」
 コツン、と足音をひとつ鳴らして、ドアの前には仮面の男。『名も無きエキストラ』エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が立っていた。
「人知れず一人ただ歌うことには罪はありませんが一般人を巻き込んで劇場を占拠しているのであれば、そこのコンサート、続けさせるわけには行きませんね」
 ドアを潜って、姿勢を低くし通路を駆けるのは離宮院・太郎丸(CL2000131)である。
 ディーヴァに操られた警備員たちが、太郎丸へと殺到。ディーヴァに近寄る者を排除することが、今の彼らにとっての全てであった。すでに、まともに思考することもできないほど、ディーヴァに魅了されているようだった。
「警備員さん達が壊れちゃう前に歌姫さん止めないといけません」
 椅子の上を走り抜け、『深緑』十夜 八重(CL2000122)が警備員の前へと飛び出した。小太刀を引き抜きかけ、止める。操られているとはいえ、警備員は一般人だ。傷つけてしまうわけにはいかない。
「そのまま、引き付けていてね」
 書物を開き、桂木・日那乃(CL2000941)はそう呟いた。彼女の目の前に、空気中の水分が収縮。一塊の水の弾丸を形成する。
 ぱしゅん、と小さな水の爆ぜる音。
 放たれた水の弾丸は高速で、ディーヴァ目がけて宙を駆ける。
『--------------------!!』
 ディーヴァの歌声が一際大きく、そして高らかに劇場へ響いた。
 空気を震わせ、床や舞台に傷跡を残し、衝撃波が放たれる。
 水の弾丸と、ディーヴァの声が衝突し、水の弾丸は霧散した。
 通路を駆け抜ける太郎丸を、衝撃波が襲う。

●悲しみの劇場
 氷の粒子が、スポットライトを反射しキラキラと光る。一気に数度ほども温度の下がった劇場の床に、太郎丸は仰向けに倒れていた。
 見上げる天井は高い。起き上がろうとして、自分の身体が上手く動かないことに気付いた。無理矢理持ち上げた右腕から、パラパラと氷が散った。氷つき、感覚のなくなった指を広げ、高く掲げる。
「僕が倒れない限りは他の皆さんに攻撃が及ぶ事は無いでしょうから」
 大気中の浄化物質を吸収し、自身の状態異常の回復を急ぐ。溶けた氷は水となり、太郎丸の腕を伝って床に小さな水溜りを作る。
 歌姫の視線が、太郎丸を捉えた。
 暗く淀んだ、不気味な瞳。にやり、と歌を紡ぐ彼女の口元が歪む。不快感を煽る悪意に満ちた笑み。
「他者の苦しみに満ち溢れた声が聞きたいと言うのは真にもって共感できますし、是非とも語り合いたいものですが、残念ながら討伐しなければなりません」
 タタン、とステップを踏むような軽い足取りでエヌが観客席の中央へと歩みでる。両腕を左右に大きく広げ、声も高らかにディーヴァへと語りかけた。
 エヌの周囲を、黒い霧が包む。
 霧は少しずつ広がって、ディーヴァの周囲に纏わり付いた。霧に包まれたディーヴァの表情が歪む。高らかな歌声に、僅かだが苦しげな呼吸音が混ざるようになった。
 纏霧。ディーヴァの身体能力を弱体化させる霧を撒き散らし、エヌはくっくと肩を揺らした。
「ええ、真にもって残念でございますなあ」
「エヌさん、私が警備員さんを引き付けている間にディーヴァを!  歌に惑わされないよう落ち着いてくださいね?」
 エヌの頭上を飛び超えながら、八重は言葉を投げかける。
 ジグザクに観客席を飛び、或いは時折高く高く急上昇。目まぐるしく宙を飛びまわりながら、八重は警備員の視線を自分自身に引き付ける役目を負う。
 暇があれば、ディーヴァへと攻撃を仕掛けるつもりでいるが、今のところそんな余裕はなさそうだった。
 椅子に身体をぶつけながら、警備員が八重の元へと殺到する。高く振り上げた拳を、力任せに振り降ろし八重へ殴りかかるが、彼女はそれを急停止することで回避する。
 振り下ろした拳が、椅子にあたって警備員の皮膚が裂け、血が流れ出す。だが警備員は表情一つ変えることなく、再び八重へと襲い掛かる。
 警備員を引き付け続けるのにも限界がある。あまり警備員達から離れ過ぎるわけにはいかない。警備員の殴打を浴びることもある。
「警備員のひとたちが妖のガードしないか心配だけど……今のうちなら大丈夫そうね」
 書物を広げ、日那乃が呟く。
 凝縮した周囲の水分を弾丸に変え、ディーヴァ目がけて再度撃ち出す。
 水の弾丸は、まっすぐエヌの髪を掠めてディーヴァの元へ。ディーヴァの歌声が大きくなる。衝撃波じみた大音声が、最前列の客席を、粉々に砕く。
 椅子の破片に衝突した水の弾丸の軌道が逸れる。
 弾丸は、ディーヴァの肩を掠め舞台に小さな穴を穿った。
 舞い散る椅子の破片の中を、盾を掲げた太郎丸が駆け抜ける。
「ずボクが前衛へっ。回復はお願いしますねっ」
 身体の前に盾を構えた太郎丸が、身体ごとディーヴァへとぶつかっていった。

 舞台に押し倒されたディーヴァの歌声に変化が生じた。今までの、高らかな歌から、テンポの早い踊るような曲調へと変わる。
 太郎丸の手にした盾が、ディーヴァの頭部を強打した。
 ディーヴァの歌は止まらない。彼女の歌声に導かれるように、八重を追っていた警備員達が、舞台へと駆け寄ってくる。
 警備員を追って、八重と日那乃が舞台へ向かって駆け出した。
 足音に気付いた太郎丸が、それに気を取られて背後を振り返ると、そこには太郎丸へと掴みかかる警備員達の姿。
「えっ!?」
 目を剥き、口の端から泡を吹きながら警備員の1人が太郎丸の肩を掴んだ。力任せに太郎丸の身体を、ディーヴァから引き剥がす。
 踏鞴を踏んで、太郎丸が舞台の下へと引き摺り降ろされた。
 起き上がったディーヴァの声が、劇場に響き渡る。衝撃波が、舞台の床を打ち砕き警備員もろとも、太郎丸達を襲った。
「間に合わなかった……」
 そう呟いた日那乃の手にはガムテープ。警備員を拘束し、身動きを封じる為に準備してきたものだ。
 日那乃は、飛行速度を上げて警備員の前へと回り込む。小さな身体で、両腕を広げ警備員を庇う。日那乃の隣には同じように盾を構えて警備員を庇う太郎丸の姿がある。
 ディーヴァの歌声が、最高潮に達したその時、衝撃波に包まれた日那乃の視界は真白く染まった。

「此方は警備の方などどうなろうとも構わないのですが……」
 そうはいっても、任務は任務。瓦礫の中に埋もれた仲間達を助け出すために、エヌは椅子の破片を持ち上げる。仲間の救助を行うエヌに、ディーヴァの攻撃が向かわぬように、八重は舞台周辺を飛びまわることで、ディーヴァの注意を引き受けていた。
 瓦礫の中から、呻き声を聞きとってエヌはその場へ移動。椅子の残骸を押しのけると、そこには額から血を流す太郎丸と、日那乃が倒れていた。
 2人の身体の下には、警備員達の姿も見える。
 2人の周りには、淡い燐光を撒き散らす霧が充満していた。霧に包まれた彼女達や警備員の身体から傷が消えていく。
 もっとも、ディーヴァの攻撃を正面から浴び、その上警備員の身を庇った2人のダメージは大きいようで、治療は追いつかない。
 治療を施しながら、日那乃は身を起こし警備員達の手足をガムテープで固定。身動きが取れないように縛り上げる。それでもなお暴れる警備員の頭突きが日那乃の顔面に命中。日那乃の鼻から赤い血が垂れた。
 呻き声を漏らし、それでも日那乃は警備員を拘束する手を止めはしない。
「どれだけ持つか分からないけど……拘束できるかやってみる、ね」
 日那乃の身を庇うように、盾を構えた太郎丸が立ちあがる。
 それを見て、エヌは小さく溜め息を零した。
「警備員の皆さんが命を削り漏れ出しているその声も、僕好みなので聞いていたいのですけれども」
 そう呟いてエヌは、舞台へ向かって歩き始めた。

 息苦しさを感じ、ディーヴァは自身の周囲を見回す。
 いつの間にか、不気味な霧が彼女の身体に巻き付いていた。観客席の最前列で、エヌが酷薄な笑みを浮かべているのが見える。
 身体の機能が低下したことを感じながらも、ディーヴァは歌う。
 歌を歌い続けることが、彼女にとって生きることに他ならないから。

 ディーヴァを包む霧を突き破り、八重が舞台に降り立った。ディーヴァの真横を駆け抜けて、小太刀を一閃。ディーヴァの脇腹に深い裂傷が刻まれる。
「なぜ人を恨むのですか? そういうものとは判ってますが……恨み辛みを残したまま消しちゃうのは忍びないです」
 ディーヴァの声が八重を襲うよりも早く、彼女は再度翼を広げて、上空へと飛び上がる。
 八重を追ってディーヴァが顔をあげたその時、彼女の脇腹、切り裂かれた傷跡から鋭い棘の生えた蔦が伸び、彼女の全身を絡め取った。鋭い棘がディーヴァの全身に突き刺さる。
 小太刀で切り付けると同時に仕込んだ種が、急成長したものだ。棘一閃。ディーヴァの身体から血が流れる。

 濃霧に巻かれ、棘に貫かれながら、ディーヴァは舞台の中央へ。よろよろとした足取りで、歩いていく。皮膚やドレスが裂けることも構わず、蔦を引き千切り両腕を広げ、天を仰いだ。
 一瞬、ディーヴァの歌声が止んだ。
 劇場を静寂が包む。
 エヌの、太郎丸の、八重の、日那乃の……劇場に居た全員の視線が自分に集まったことを確認し、そしてディーヴァは、静かに静かに、最後の歌を歌い始めた。

●アンコールは遠い未来に
 ガムテープで拘束された警備員達を、エヌは劇場の端へと運んでいた。舞台の上では、仲間達をディーヴァが激しい戦闘を繰り広げている。
「ふむ……」
 ぐるり、と辺りを見回して、エヌは小さく呟いた。

 氷の粒子を撒き散らす歌声が、舞台の上で吹き荒れる。
 上空へと避難した八重の翼が凍りつき、彼女は舞台袖へと落下した。ディーヴァの視線が八重へと向いた。すぅ、と小さく息を吸い込み、ディーヴァは高らかに歌う。
 衝撃波が八重を襲う。きつく目を閉じ、衝撃に備えた彼女を庇う様に太郎丸と日那乃が2人の間に割り込んだ。
「綺麗な声……」
 ポツリと。
 日那乃は思わず、そう呟いていた。美しい歌声に包まれながら、彼女の意識は遠ざかる。身体を貫く衝撃も、すでに感じることはできない。
 痛みを感じる暇もなく、彼女の意識はそこで途切れた。
 美しい……。この世のものとは思えないほどに美しい歌声に包まれて。

 八重は、倒れた日那乃を抱き起こす。意識を失っているようだ。内臓に大きなダメージを負ったのか、口の端から血を吐きだしていた。
 日那乃だけではない。太郎丸もまた、盾を手にして床に突っ伏していた。
「皆さんも、警備員さんも……早く治療しないと危ないでしょうね」
 日那乃の身体を床に寝かせ、八重が立ちあがる。
 そんな彼女の視界の端で、気を失っていた筈の太郎丸が身を起こす。
 
 血の混じった咳を繰り返しながら、それでも太郎丸は立ち上がる。一度は意識を失ったものの、命数を消費し戦線へと復帰したのだ。
「ボクが倒れては作戦も破綻する……立ち上がるんだっ」
 その想いが、気絶した彼を、再び戦場へと導いた。
 
 盾を掲げた太郎丸が、ディーヴァの声を真正面から受け止める。太郎丸の影に隠れ、八重が呪符を構えた。呪符を、圧縮された空気が覆い包む。
「発声には姿勢も重要ですし、態勢崩せればいいですが」
 声に押され、太郎丸の身体が後退。八重が、呪符を放つのとほぼ同時、太郎丸の身体は後方へと弾かれる。もつれるようにして、太郎丸と八重が床に倒れた。
 2人の頭上を、衝撃波が吹き抜ける。
 
 ディーバの歌声を切り裂いて、八重の放った空気弾が疾駆。本来は、ディーヴァの頭部を狙って放たれたものであったが、声に阻まれ狙いが逸れた。ディーヴァの腹部に着弾した空気弾が破裂。ディーヴァは、踏鞴を踏んで、後退していく。
 そんなディーヴァの身体を、いつの間にか舞台の上に登壇していたエヌが優しく受け止めた。
「……エヌさん?」
「なんで?」
 戸惑いの声をあげる太郎丸と八重。
 エヌは、2人に向けて小さく笑みを投げかける。
「姫君……満足いただけましたか? もう十分、あなたは戦いました。もう、終わりにしませんか?」
 声を張り上げ、エヌは叫んだ。リズムを付けた、歌うような台詞。
 スポットライトに照らされた舞台の上に、演者が2人。オペラの登場人物の役割を、エヌは演じているのだ。
 ディーヴァが、小さく口を開いた。細い指が、エヌの仮面を撫でる。
 小さな小さなディーヴァの言葉は、エヌの耳にしか届かない。
「……ええ。愉しかったですよ、こういうのも偶には悪くないものです」
 舞台の上に、雨雲が集まる。紫電を放出する雨雲が、エヌとディーヴァの頭上へ。
 落雷。舞台が揺れた。
 ディーヴァの身体を、雷が貫く。
 
 ディーヴァの身体が前のめりに倒れていく。開いた口からは、ほんの僅かな声さえ零れない。
 虚ろな視線が、観客席の八重と交差。
 八重は、傷だらけの身体を引き摺って、ディーヴァの前へと歩いていく。
「ふふ、起きる現象はどうであれ、素敵な歌声でしたよ?」
 小さな拍手の音が響いた。
 ディーヴァの瞳から、涙が溢れる。
 薄れて消える、ディーヴァの身体。
 最後の瞬間、彼女の耳にはかつて何度も耳にした、盛大な拍手の音が聞こえていた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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