血肉祭り
血肉祭り



 時刻は逢魔が時。
 ソラの明かりは身を隠し、赤色提灯が列をなしていた。
 お祭り、と言えばそのままであるが、出店に賑わう浴衣姿の人の影。皆、笑顔に染まり、幸せにどっぷりと浸かっており、今日は神も鬼子も無礼講だと言わんばかりの。

 そんな大衆を横目に見ながら、同じ顔、同じ背丈、同じような声をした二人が、ファーストフード店にてポテトをつまみながら世間話をしていた。
「妖だのなんだの、世間は騒がしいよ、それでも僕等個人は平和だよ」
「うん」
「でも物足りなくない? 物足りなくね? 物足りないわけだよ」
「うん」
「僕等能力者だよ、僕は可愛い女の子だけど精一杯一生懸命に全力絶賛悪い能力者だよ」
「うん」
「足りなくない? 足りないよね? 僕等事件起こしてなんぼの生き物よ」
「うん」
「十人十色の異色なニュース勃発させて皆の頭にストレスぶち込むのが僕等よ」
「うん」
「足りないんだよ~、最近見ないんだよ~、前はもっとこう、ギラギラ戦争しちゃってさ!」
「うん」
「もっとこう……視線感じたいんだよね、僕……ワールドイズマインじゃなくて、セルフの方で」
「道路の真ん中にて全裸でダッシュすればいいんじゃ」
「違う! そういうのじゃないんだよね!! 蛭間ちゃん分ってないよ、分かってない!」
「じゃあ……何すればいいの。僕の身体の中のうずうずしてる感情でも世間様に晒せばいいの?」
「ああ……そういうのでも良し、つまりさあ。君の中のもう一人も叫んでいる訳でしょ」
「何を」
「もっと、ギラギラした目線を浴びたい」
「わかるわー、わかる」
「じゃあやろう」
「即やろう」
「思い立ったが吉日」
「まずはこの、賑わう夜中のパーティにワインでも届けよう!! で、あと二人はどこにいった?」


「なかなか嫌な夢を見ちゃったんだぜ……」
 久方 相馬(nCL2000004)は両手で顔を覆いがなら唸っていた。暫くしてから右手だけが、積まれた資料を持っていけと指差す。
「商店街、お祭りなんだ、ここの地元の。そこで夜に四人の隔者が………無差別殺人を……だな」
 それ以上の説明は不要であろう。それを止めろというのだろう、方法は何を持ってしても。
 現場は当たり前のように人だかり。そこで事件が発生すれば、我先にと逃げる人の波が繋ぎ繋がれ繋がっていくであろう。そんな中でもやらねばならない。
「隔者の、できる限り回収できた情報は資料にまとめてある通り……、恐らく一対一だと危険かもしれないが、二対一ならなんとかなると思う。二人程は、ずーっと一緒に行動してっけど、他の二人は別行動してるから、俺たちももしかしたら別々で行動になるかもしれないな。位置まで、特定できなくて、ほんっっとごめん」
 相馬がそこまで言った所で誰かが口を開いた。
「僕は、例え相手が悪者でも人を殺した事がない」
「うん、そういう人も多いと思うから。ほんと、方法は任せる」
 できれば争いたくないのに、だが、力でねじ伏せなければいけないことも世の中にあるのだろう。
「……多分、相手は交渉は通じない頭のイカれた奴らだ。厳しい事を言えば、容赦はいらない……そういうことだぜ。俺、ここから先は手伝えないのが悔しいが、頼んだぜ」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:工藤狂斎
■成功条件
1.隔者の捕縛・討伐・撃退のいずれかひとつ
2.一般人80%以上の生存
3.上記の二つを満たす事
 初めまして、工藤です。初めましてでは無い方、こんにちは
 宜しくお願いします。

 隔者、戦ってみたいと思っている方いると思いまして
 頭が悪いのをひとつ、何度も読み返しましたが頭悪いわ
 殺したことない人とかの心情を舌なめずりしながらお待ちしてます

●状況
・隔者4名(年齢不詳経歴不明)が、商店街にて無差別殺人事件を起こします(位置は不特定です)
 明かりがあるので暗闇対策は不要
 PCが到着するときには壱と弐が既に一般人の1%を葬りましたので、一般人はパニック、基本的に会話は無謀だと思われます。時には一般人も障害物となるかもしれません
 難易度相当の判定をしますので、軽い気持ちで対策して頂ければ。余程無理だろうというものでなければ好意的に解釈します

●隔者
・名前、経歴不明の為識別名にて人物を判断する。恐らく全員成人済と思われる
 前提として、四人とも真面目に一対一すると厳しい相手です
 依頼が始まる時点でどこにいるのか不明。いつ動き出すかも不明(壱と弐は動き出しています)

・壱(茶髪に弐と同じ顔をしている。右頬に精霊顕現の紋、武器は矛、術式は炎)
・弐(茶髪に壱と同じ顔をしている。両腕に球体関節有り、武器は盾、術式は土)
 上記両名は共に行動している

・参(黒髪。恐らく現だと思われるが、覚醒前の姿が不明。武器は双剣、術式は天)
・肆(赤髪。暦だと思われる。武器はモーニングスター、術式は木)
 別行動をしていると思われる。

 *術式の相性に注意してください

●一般人
・繁華街一帯のお祭り中であったので人は多いです
 一般人の中に、戦える覚者はちらほらいますが、期待はしないでください
 モブです、モブはバタバタ死にます

●マップ
 商店街。
 縦に長く、横にそれる道が一定間隔でありますが基本的に商店街から敵が出ることは余程こことがない限りはないです
 横にも広い為戦闘に支障はないです

 ご縁がございましたら、よろしくお願いします
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
5日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年08月29日

■メイン参加者 8人■

『焼却、代償、奇跡』
深緋・恋呪郎(CL2000237)
『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『レヴナント』
是枝 真(CL2001105)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)


 闇夜にほんのり淡い光を放つ提灯の列は、現世では無いような不思議な心地を思わせた。
 夢見が見た通りに最悪な悪夢の真っ只中である。
 人々は津波のように我先にと逃げていた。
「いた」
 八百万 円(CL2000681)の肩が誰かの肩とぶつかり尻餅をついた。手をつき、指先が少し赤らんだ。見上げれば、円を上手に避けて津波は流れていく。
「迷子になるかも~やだー」
 口を尖らせて思わず嘆いた言葉に、『堕ちた正義』アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)は「大丈夫ですよ」とニコリと笑いながら彼女の腕を掴んで起き上がらせた。
 この混乱している状況で、落ち着いている事すら異様な姿であるのだが。暫くして津波はすぐに消え失せた。
 皆、騒動の震源地から逃げていたからこそ、震源地近くはすぐに人がいなくなる。『閃華双剣』太刀風 紅刃(CL2000191)が、べそをかいている男の子を抱きしめながら、二つの影を睨んだ。
「子供にまで、手を出すのか?」
 壱と、弐だ。
「うんー、だって生きた年数なんてただの数字に過ぎないじゃない?」
「運だよ、運」
 提灯に揺れる影ふたつが、ゲラゲラと肩を揺らして笑った。呼応して、紅刃の腕の中の子供が震えて泣き出す。
 子供が見つめた先には、親であろうか。髪の長い女性が、胸の中央に風穴を空けて動かなくなっている。すまないと言えばいいのか、紅刃は1%の確率で親無き子になった子供を抱きしめるしか……今はできない。
 されど敵は待ってはくれない。
 身体より遥か巨体な矛を手前に繰り出し、華神 悠乃(CL2000231)が紅刃と子供の手前に身を出し、龍鱗と名のついた盾で受け止めた。
「そこまでだっ! お祭りだからってイカれが許されると思ったら大間違い!」

 中央の騒ぎに未だ乗り切れていない端の方。
 叫び声や必死の喧騒を耳にすれば、誰しもが心の中に不安を抱き、友達や家族と身を寄せ合って怪訝そうな表情を浮かべる者が多かった。
(まだ、誰も隔者に気づいてないじゃない……)
 鳴海 蕾花(CL2001006)が二周、三周と見回し、その人と人の間から白い腕がぬぅ……と伸びてから肩を掴まれ、小さな声で「きゃ」と叫んだ。
「おっぱいちゃんよぉ、守護使役を呼び戻せ。あっちだ」
 『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)は微量にも死の気配を感じていた。一番は中央部の二人組がやらかしている気配だろうが、更に奥で、もうひとつ。

 肆は早く動き出していたからか、発見には然程時間は掛からなかった。
 高い空、雨雲ひとつ無いはずだが電撃が一走りしたのだ。すぐにそれが召雷だと解った。
 鳥の守護使役を目印に、飛んでゆく方へと駆けていく『神具狩り』深緋・恋呪郎(CL2000237)。彼女も、自らの守護使役が人ごみを塗って走っていく背を追っていた。
「はぐれるでないぞ」
「わかってる」
 『レヴナント』是枝 真(CL2001105)も、その後ろを行く。道中、横道に逸れて避難せよと一般人へ言ってみたものの、この騒動に誰も真の言葉を聞こうとする者もいなければ、真の姿さえ目に入っていないようであった。


 間もない頃、蕾花と刀嗣の周辺も騒ぎが流れ、人の群れは安全を探して流れていく。
 川の激流の中でもがっしりと存在している岩の如く動けない二人だが、流れに逆らい歩いていくスーツ姿の男を刀嗣は見逃さなかった。
 無言の挑発。
 刀嗣の左手には見事なひと振りの刀が出現。右手で射抜くスピードは見えず、次には男の腕を刃が狙っていた。
 擦れた金属音。
 刹那の静寂。
 少し間をあけてから叫び声の群れ。
 一瞬にして、刀嗣と蕾花の半径数mに人が円を描いて寄らず。抜き身の三振りが威嚇し合っていた。
 攻撃をかわされたことに、刀嗣の表情は笑みを浮かべた。
「贋作、虎徹……か。本物だったら、その腕ごと貰ってやったんですけどねェ、キヒヒ!」
「寝言は寝ていえよ」
 蕾花の瞳の中、スーツの青年から大学生ほどに若返った男――参。
 名を名乗る間も無く、敵が仕掛けてきたのは波動の撃。地面のコンクリが抉れながら大蛇のように駆け抜け、狙ったのは蕾花では無く、転んで泣いていた少女に向けらる。
「ほっとけ、一人くれぇ。それよかこいつだ……って聞いちゃいねぇ」
 刀嗣に見えたのは、自ら敵の攻撃に身を投じた蕾花の後ろ姿。一般人とは分かり合えないと飲み込んでいる蕾花自身が、一般人を守ろうとする行動に、果たして彼女なりの意味があったかは定かでは無いが。
 背中が引き裂かれ血を垂れ流し、されど腕の中で放心状態の少女を壁際に避難させ。
「あんたが救いのないクズでよかった。心置きなく憂さ晴らしできる」
 と振り向きながら参へ呟いた。
 参は言った。
「……なんでお嬢ちゃん水着なんだ?」
 デデドン(効果音)。

 極寒の地に張り付いた氷のように、真の表情は揺るがなかった。
 だが水着だった、今回二人目の水着だった。
 脇腹のあたり、服を捲れば打撲痕と内出血。命削れどまだやれる。庇う素振りをも見せず、真の刺突が肆の肩を貫いた。
 歪めた肆の表情を不思議そうに真が覗き込めば、ウザがられて裏拳が飛ぶ。背中を少し逸らせば、拳など空中を泳いだだけに過ぎず。
「まるで人形! はは、何を見てきた? お嬢ちゃんよ!! 水着とかふざけてんのかあ?」
「死にゆく者に、話すものなどありません」
 前方向から張り付いて動かない真に、肆は苛立ちを覚えていた。後ろを睨めば、恋呪郎が口だけ笑った状態で迫る。
 ウルカヌス(両刃剣)を手足の様に操り、背中を斬り、血を浴びながら。今度は突かんと切っ先を向ける。モーニングスターの鎖を後ろに廻し、半ば強引に鎖に絡ませて切っ先の位置をずらした肆は、心臓目掛けた恋呪郎の一撃を僅かな時間で逸らす。
「ふざけんじゃねえ!」
 肆は吠えた。
 そのことに恋呪郎は不快なかんばせを魅せた。路地裏にたむろっている餓鬼共のそれと重なって見えたからだ。
 見限られたことに気づくことも無く、肆は仕掛ける。
 棒で真の腹部を押し、振り回した鉄球が真の右肩に直撃した。だが表情は変わらない、叫び声も無い。真に痛覚が無い訳では無いのだが、刺激に疎い訳でも無いのだが。
 肆は焦った。
 本来なら、そこで転がって死んでいる男のように表情をしわくちゃにして命乞いするはず。
 なのに!!
「貴方に対し思う事は、特にありませんが。貴方みたいな存在がいると、憤怒者達が調子に乗る」
「あまり吼えるでないぞ、これ以上……粗相をしてくれるな」

 地面が張り裂け、コンクリートの合間から飛び出した土の槍を、軽身に飛んで空中でくるりと回った円は「おー」と感心していた。
 どきどきする。
 なぜだろう。
「じゃあつぎはこっちね~」
 円の足が着地すれば着地点からヒビが入り、壱と弐を巻き込んで列波が襲う。
 攻撃を行い、行われ、回数が増すごとに円の中でうきうきが膨れ上がった。吸い込む空気でさえ甘く感じる程に、状況が進めば進むほどに。
 それこそ獣の因子の災いか、ヒトたる本能が戦えと疼くのか。
「たのしいな~」
 だが切り替えも早い。
 地面が崩壊して看板や店の出入り口の窓硝子が無残に崩壊していくも気にせず、アーレスに首元に引っ下がる文字になんて読むの?なんて聞ける余裕。
「じゅってん、ですよ」
「あ、それー。十天! 参上~!」
 決め台詞に決めポーズを取った円。その頃、壱は槍を突き出し、決めポーズのまま円は胸を刺された。
「十天? 知らないなぁー新興組織~?」
「たぶんそれ~」
 円は己の血を指先で弄びながら、命が削れたような感覚ひとつ。
「じゃあ潰さないとね~」
 じわり、円の足元に血は広がっていった。円の右手を引いて壱から遠ざけたアーレスは、鞭をしならせ槍を絡め取る。だが壱も簡単に槍を手放す訳では無く、両人の力が反対方向に働いて鞭も槍も強張った。
 アーレスから見える壱は楽しそうに笑っていた。
 先ほどまでの覚者(ファイブでは無い者)よりも骨があるのだ、至極当然の出来事だ。
 それが彼にとっては不愉快であった。
 身の程以上の力を手に入れ付け上がっている姿が、どうにもこうにも。こういうのを見るのは、一体何人目であろう。
 アーレスと壱の間に入った紅刃。
 身体を低い位置で滑り込み、壱の片足を斬り伏せれば壱はぎゃあ!と叫んだ。
 弐がカバーし、再び地面の底から尖った土を押し上げアーレスと紅刃と円を狙う。
 少し後退した壱。
 だが背後の影に振り向き、そこに悠乃がいた。
 条件反射に槍の先を後ろへと向けてから刺す――が、盾に起動を逸らされて悠乃の腕に切り傷が一本入っただけ。
「死んだら?」
 悠乃の瞳の奥、今だけ瞳孔が縦長に。獲物を、見たような、否、罪人を咎めるさせる龍の瞳が見えた。
 この時を待っていたと。
 竜迅を握った腕から炎が吹き荒れ、壱の頬を殴り、加えて身体を空中で回転させてから廻し蹴りを放つ。壱の身体がふっ飛び、路面に並んだ店に身体を投じていた。
 今までは見慣れなかった殺人者の姿。
 蹴った時に、彼らに殺された者たちの復讐の分を乗せておいたが、胸糞悪い、吐いても恐らく解消されない気持ち悪さが悠乃の胸を満たしている。
(こいつら、ほんと快楽犯なワケね)
 死を愉しむヒトならきっと自分の死も楽しんでくれるだろう。けれど恐らく、それはイコールでは繋がらない事もまた悠乃は感じていた。
「ちょっと、いじめないでよ」
 壱の姿に、然程感心が無さそうに弐は言い放ったとき、紅刃が弐へと斬りかかる途中。
 全身を焦がす事は無いが爆発的に成長した炎を纏い、強固で、侵攻を許さない盾を双子の剣で押す。それが上手くいったからか、紅刃は嬉々たる甘い感覚に浸っていた。ぞくぞくした、楽しく思えた。これが戦闘だと思い知らされた。純粋無垢な剣の道、ひとつ、なにかできるようになった時のような、溢れそうな感情に身を震わせながら。
「あんまり熱いと鉄板が焼けちゃうよ」
「そのまま溶かせば、貴様に届くだろうな。この、刃が」
 柔らかそうな紅刃の四肢も今は硬く筋張り、結局は盾を滑るだけで刃はそれてしまったのだが、僅かについた盾への罅を円は。
「あはは」
 見逃さなかった。


 蕾花が後方、刀嗣が前方。
「愉快に腰振ってんのは、誘ってるんだろ? キヒヒ!!」
 全身から耐えなく流れる血さえ気にせず、女を追う参の姿は刀嗣から見れば滑稽そのものである。
 汚い手が蕾花に触れれば、柔らかい彼女の肉体に真っ赤な手の型の手痕がついた。大層、蕾花はそれが気に食わず。だが触れれば、その腕を斬らんと刀嗣が牽制した。
「男にゃぁ興味ねんだよ刺青野郎!」
 小さな虫を、足の裏で踏み潰して地面に擦りつけている感覚。だが蟻は踏まれても命断つまで蠢き、課せられた作業をこなさんとする。
 さて目の前の彼は。
「少しは粘れよ雑魚野郎ォ!」
 上段から振り落とした刃、合わせて防御と双剣の片割れが合わせられる。だが刀嗣の力は上をゆく。腕ごとへし切れば断面から血が吹き出す。
「ぁ? あ! ぎゃあ!! 死ぬ、病院、病院!?」
 無くなった腕に驚き、歪めた顔の表情を後方の蕾花は知らず。
「あんたも人知れずにこっそり死ぬんだ。あんたのクソみたいな人生に最低最悪な終わりをくれてやる」
 例え人を殺めるのが初めてであったとて、恐怖などの感情によってその行為が絶たれるはずも無い。
 あの日。あの時。蕾花の記憶の更なる深淵に燃る過去の炎を断ち切るように、言葉として聞き取れない叫び声をあげながら苦無が走る。
 ――そこに四人目は存在しない。
 半透明な両腕が刀嗣の両肩を掴んで、赤い瞳がギロリと彼を覗き込んだ。
 口は動く、音は無い。
『人を斬った事も無いくせに』
「うるせぇ」
 低級の妖と遊べど、隔者や憤怒者は未経験であった櫻の流派の天才は、透き通ってまとわりついた影と一緒に参を。
「ま、待てよ、話し合おうぜキヒヒ、だってまだ俺誰も」
「「死ね」」
 言葉が重なった。蕾花は首を、刀嗣は胴を。ほぼ同じタイミングで斬った。
 崩れたパズルのように、無愛想なオブジェは赤い液体を噴出させながら転がる。
 気づけば二人揃って、肩が揺れながら荒い息を吐いていた。

 勢い衰えない恋呪郎の刃は肆の右肩を切り飛ばしていた。小さな丸丸とした、赤い雫が飛ぶ。柘榴が地面に降りては弾けた。
「こっち」
 本来なら敵の視界を支配するのは真の役目だ。
「ちょこまかと!!」
 怒鳴る肆に大地が震えど、手に握った剣は段々と軽く思えてきた。
 真の心の中では、ある意味、勝って当たり前だと通過点に過ぎず、隔者より妖より破綻者より、憤怒者を殺したくてたまらない真にしてみればこんな奴。
 興味も、無い。
 死のうが生きようがどうでもいい。終始、真の表情は変わらず。二刀の刺突が仲良く肆の武器の合間を縫ってから、背部に穴を空けて、抜かれた。
 肆の頭の中、逃げなければいけないと考えているのだろう。
 二人に包囲されているだけであるが、檻の中で獅子と虎に挟まれて涎を垂らされているかの如く。
 殺さねば殺される。
 左手の中の小さな種が鞭まで急成長し、真を弾いた。棘のついていたそれ、真の水着が所々切れて素肌が露出する。
 追い詰められて馬鹿力を出す、そんな命の最後の一滴を燃やす行動を、恋呪郎は嫌いでは無いだろうと願いたい。
 だが、それが結果的に殺さないという事に繋がるはずもない。
「ヌシ等は素材にも糧にもならなそうじゃしの。まぁ、一言で言えばつまらん」
 子供じみた、純粋な狂気を孕んだ恋呪郎。
 目で合図した、『終わりにしようぞ』と。真は頷かず、天行ならではの放電と風を纏って合図とした。
「さよなら」
 真が畏れを含んで言った。
 逃げ切れない、右手もない。肆は壊れたように、笑った。
 ウルカヌスを軋む腕で突いてから、斬り伏せ、刺突は心臓を射殺していた。
 静寂の中、静かに終わった小さな戦闘。崩れた肉塊を前に、二人は目を合わせてから武器に付着した液体を拭った。

 出店に転がった壱をアーレスは羽交い締めにして、弐の前に突き出した。
 もちろんのこと、壱は「はなせー」だの「やめろー」だの言葉の軽さとは違い、強い力で抵抗されたが離すつもりは無い。
「さあ、人質です。どうします?」
 弐は紅刃の剣を盾で弾いてから、悩む素振りをしたのはものの数秒。
「別に?」
 さらっと言った。その瞬間、壱の身体が強ばったのをアーレスは感じ取っている。
「え、え、ちょっとまってよ、だってぼくら双子でしょ? 普通助けね? え?」
 人質とは人質の命あってこそではあるが、効かないようだ。何故にも何も、アーレスの瞳が壱には可哀想なものを見る目を、弐には屑を見る目をした。
 どちらも結果的に愚か者であったか。救いは無いのだろう、更生の余地も元から無いもの。
「残念です……」
「ちょっ、いやほんとまって、まっ、ぁぁっ」
 鞭とは本来の使い方よりかけ離れているものの、アーレスは首に巻かれた鞭を締めた。壱の足は地面から離れて、バタバタと空中を泳ぎ。
「せめて、苦しまぬよう」
 ゴキリと、首骨が締め折れる音がした。
 前方、げらげらを笑う弐。その場にいた円はさておき、三人は思っていた事は同じであろう。
「貴様というやつは!!」
「大丈夫、すぐに後を追わせてあげる」
 紅刃と悠乃が前後から仕掛けた。流石に笑えなくなった弐は、盾で守りながら退路を探す。だが、前は守れど、背面の悠乃の竜迅はまともに喰らった。

 ……折角のお祭りだったのに。

 そこで遊んでいた人に、なんの罪があるというのか。弐の命を贄に、殺された人の命にできれば何れ程ハッピーエンドであるか。
「消えて」
 にこりと笑った笑顔が愛らしい悠乃は、今や恐ろしく怒った表情を向けていた。文字通り逆鱗に触れたと言えばいいか。
「やはーい」
 羊が鋭い牙を振るうのはなかなかにおもしろい絵図であるが、脅威なる威力を誇る円。
「さっきから、ここ、すっごい気になってたー」
 二刀が、紅刃がつけたヒビに向けてふられれば、穴は広がり盾が硝子の如く砕けた。
「やっぱりだー、あったりー」
 円はにこにこ笑った。してやったりという訳ではないが、純粋無垢に。怖いものを知らずという笑みで。
 え?という何が起こったかわからない表情を弐はしていた。
 鞭は撓った、先に壱を捉えていた鞭が。死の宣告は突きつけられたも同様、アーレスのそれは弐を捉えて離さない。
「おや、どこに行かれるおつもりでした?」
「あ……あははぁ、ちょっとタイム……だめ?」
 ニコと笑ったアーレスの、左手は親指を下に向けられた。
「二秒待ってやろう、覚悟しろ」
 足元から吹き出した紅刃の炎、真っ赤で真っ赤で、夕焼けのように周囲は彩られた。地面に敷かれた赤い液体も、蒸発していく。煉獄の炎と名づけても良いだろう。
 地面を蹴った紅刃は風に乗り、破壊衝動と狂気的な快楽のままに赦しを放棄した。

 ころ、と転がった弐の頭は恐怖めいていた。
「自分の死は、受け入れられなかったわけ、ね」
 悠乃はひとりぽつりと呟く。断面の奥に見える中身は、どれも同じ。悠乃も同じものが詰まっている。
 仲間も合流した所に、遠くで柳のような花火が上がり、小さな歓声が聞こえた。
 あの遠くは恐らく平和なのだろう。
 ここはこんなにも真っ赤なのにその事さえ知らず。
 何故だかぽっかり胸に穴があいたような気分に、誰かが。
「帰ろう」
 と呟いた。

■シナリオ結果■

大成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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