【日ノ丸事変】月へ渡る橋の死闘
【日ノ丸事変】月へ渡る橋の死闘


●狂騒
 京都市の桂川に架かる観光名所としても名高く、かつて『くまなき月の渡るに似る』と呼ばれたその大橋は今正に激しい戦地と化していた。
「目標に向かって、放て!」
「Yes, sir!」
 趣きのある和製の橋に陣をとっているのは迷彩服に身を包んだ男4人。
 手を後ろに組み、司令らしき男のよく響く低音の声が発生されたかと思えば次の瞬間聞こえてきたのは甲高い了解の声と絶え間ない爆撃。
 空気を何度も揺さぶり耳を劈く恐ろしい銃声が何度も橋を襲い、下を流れる川を揺らした。
 強襲は恐怖を以って観光客を追い立て、休日であれば多くの人々で賑わう筈の橋はもう人の気配がほぼ消え失せていた。
 たった数人を除いて。
「大丈夫か……!?」
「ええ。だから、私を置いていって」
 追いかける声から逃げるのは、二名の男女。
 弱った様子の女に腕を貸し、どうにか橋を渡り切ろうと後ろからの追撃も気にしながら走る。
 衣服は既に焦げ跡だらけでその顔に焦りと、ほんの少しの恐怖が見える。
「馬鹿野郎、もうすぐ組織と合流できるんだ。諦めるな!」
 爆音に負けない音量で男が叫ぶ。
 しかし迷彩服の男達の照準は、既に二人を捉えている。
 ――追う者達は『ヒノマル陸軍』、追われる者達は『黎明』と呼ばれていた。

●ムーンブリッジの
「皆、最近噂になってる事件がまた動いたみたいだぜ!」
 会議室に集まった覚者達に向かい、久方 相馬(nCL2000004)が興奮気味に声を上げる。
 昨今、逢魔ヶ時紫雨の影が見え隠れしている最中であるが、先に動いたのはヒノマル陸軍であった。
「ヒノマル陸軍は新興覚者組織である『黎明』を狙って、彼等と大規模な戦争をしたいらしいぜ!」
 彼等も迎え撃つようだが、何分新しい組織。今現在対抗できるかは不明だ。
「そんで、『黎明』の一人、暁から要請があったんだ」
 暁の要請とは『自分達は七星剣に潰されてしまうだろう、その前に助けて欲しい。助けてくれたら血雨の情報をあげる』だった。
 確かに彼等は七星に追われている現状、野放しにしておくとまた違う七星から狙われ、今回のような事件が勃発する恐れがあるだろう。
「今回俺が視た事件は京都市にあるでっかい橋の上だ。そこで逃げる二人の黎明組員にヒノマル陸軍が攻撃を仕掛けてる」
 他の一般人は既に逃げた後だという。今から向かえば橋の真ん中でヒノマル陸軍と対峙する形となるだろう。
「二人をどうするか、いや『黎明』をどうするかは皆に任せるよ、それを置いても観光名所の爆撃なんて迷惑すぎるからな!皆、頼んだぜ!」
 速やかに騒動を鎮圧し、彼等をFiVEに招き入れるかも検討を行って欲しいと相馬は締め括った。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:緑歌
■成功条件
1.一連の事件の被害を最小限に留める
2.なし
3.なし
宜しくお願いします緑歌です。
事件が動いたようです。

▼場所
 橋長155m、幅11mの大きな橋の上です。
 ヒノマル陸軍が来た方向とは逆から橋に入り、迎え撃つ形です。
 一般人は既に逃げており避難誘導は必要ありません。

▼敵詳細
 『ヒノマル陸軍』隔者×4
・司令塔×1
 後衛。前の3人に指示を飛ばしたりするいかついスキンヘッド。
 因子スキル『機化硬』、術式スキル『蒼鋼壁』、体術スキル『念弾』
 武器にハンドガン所持。
・部下×3
 前衛。個性のない迷彩服+ヘルメット三人組。
 A:因子スキル『B.O.T.』、術式スキル『非薬・鈴蘭』、体術スキル『烈波』
 B:因子スキル『猛の一撃』、術式スキル『召雷』、体術スキル『烈波』
 C:因子スキル『五織の彩』、術式スキル『火柱』、体術スキル『烈波』
 全員武器にライフル所持。

▼『黎明』
 男女2名が逃げています。
 兎に角場を離れたがり、引き止めない限り橋から離脱します。
 戦う気力はないようです。

▼投票
 この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
 EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。
 結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
 何も書かれていない場合は無効と見なします。

以上です、皆様のプレイングお待ちしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月29日

■メイン参加者 8人■

『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『菊花羅刹』
九鬼 菊(CL2000999)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『風に舞う花』
風織 紡(CL2000764)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)

●駆け抜ける
 激しい爆音に、赤く染まった嵐山の紅葉が流れていく。
 深まる秋に風流だと思う暇無く、男女が月謳う橋を走る。鉄の追撃が背後に迫り後が無かろうと。
 最中、彼等は確かに見た。乱れ紅葉に紛れた視界の先で居る筈のない人影が此方に来るのを。
「おいっ! もう少し走れ! あとはこっちが受け持ってやんぜ」
 流れるように鮮やかに、8人と2人が擦れ違った。思わず足を止めたのは男女だけではない。
「むっ……新手か? 撃ち方止めい!」
 追撃する者達も急な人数増に一度手を止め様子を伺う。が敵味方かの判別は司令塔に負けず劣らずの巨漢スキンヘッドの男からの敵意で理解した。
「まったく……一般人まで巻き込むなんざ、やり口がスマートじゃあねぇなぁっ!」
 『家内安全』田場 義高(CL2001151)の雄々しい声が硝煙を抜けてヒノマル陸軍へと届く。
 直ぐ様警戒し司令の一言で隊列を組み直す隔者達を尻目に、F.i.V.Eの覚者達も堂々と対峙した。
「ああ、戦争……なんすかそれ超楽しそうじゃないですかぁぁあ!」
 未だ燻ぶる煙を越えて、小さき勇士が前に出る。前に突き出す鬼牙と謂われた大鎌は身丈より遥かに大きい。
 その使い手『菊花羅刹』九鬼 菊(CL2000999)は爛々と光る赤い瞳を敵へ向け叫び隣で同士『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)も無邪気な笑顔を輝かせる。
「えっと、難しいことはよくわかんないけど、ここでヒノマルのひとたちが暴れたら、黎明さんも一般のお客さんも大変だよね!」
 だからここで食い止めて、街もみんなも守ろうね!と燥ぐ様子に我に返った菊が軽く一つ咳払い。
「ええ、止めない訳にはいきません。十天の名に懸けて」
 故に、自身の存在意義に懸けても行う。そしてそれは共に来た仲間達にも言える事。
 2人の後ろで和傘を広げ粉塵を避けていた白い人、由比 久永(CL2000540)はゆっくりと傘を畳み顔を上げる。
「戦意のない者を追撃するなど、なんと非道な。聞き分けのない子にはお仕置きが必要かな?」
 言葉一つ一つにも落ち着きが見え、何処か達観したような表情で羽織をゆるりと被り整えた。
「その前に、話をしておかねばならんだろうなぁ……。そなたらを救援しに来た事をな」
 久永が振り向けば直ぐ後ろで様子を窺う男女。三峯・由愛(CL2000629)もそっと近寄り真剣な眼差しで語りかけていた。
「暁さんから『黎明』の方を助けて欲しいとの依頼を受け参上しました。ここは引き受けます……が、この先にヒノマルが来るかもしれません」
 黎明がどんな組織か、まだ不確定要素はあるものの。ここでこの人達を見殺しになど出来ない。そう、視線は訴えている。
「他の追手がいるかもしれねーですし、こいつら倒すまでちょっと待ってるですよ」
 めんどくせーことに成った、でも知った以上は助けたい。そんな感情を顔に出しながら『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)も言葉を続けた。
 きせきも「なんかねー、七星剣が黎明さんを狙ってるみたいなんだー!」と前方でぶんぶんと手を振り大きなジェスチャーでフォローする。
「命がほしくなければ好きにすればいいです。少なくとも、あたしはあんたらに危害を加えるつもりはこれっぽっちもねーですけど」
 人が死ぬのは紡にとっても後味悪い、言い捨てると身体は敵へと向き直る。その手に鋼鉄の仮面を手にして。
「かならず、お二人をまもります。きちんと暁さんのもとへ送り届けるとお約束します、から……終わるまで、端の方で待っていて頂けます、か?」
 どうか信じてくださいと柔らかな微笑みを湛えたのは『花日和』一色 ひなた(CL2000317)。彼女もまた一連の流れに戸惑いはあるものの、目の前で危険に晒されている命を見過ごせはしない。
 覚者達の説得を受け、男女は暫し耳打ちで何度か言葉を交わした。少し後、男が顔を上げる。
「解った。言う通りにしよう……だが少しでも君達が不利になるようなら、退かせて貰う」
 言い終えるが早く、2人は橋の袂へと走っていった。これで戦場に居るのはF.i.V.Eと、ヒノマル陸軍のみ。
 準備は万端、そう確信すると最後の男が華麗に最前を陣取った。
「何たるフール! 何たるエビル! 人々を恐れ、痛み、悲しみの渦に巻き込もうとは誰が許そうとこのゴッドが許さぬ!」
『アイアムゴッド』御堂 轟斗(CL2000034)は今正に橋上の舞台に降り立ったかのように両手を広げた。
 流れる動作で今度は片手を敵兵へ向ける。ゴッドは何も恐れない、揃いも揃ってライフルなぞに頼りおって!と怒りすら表して。
「ご大層なネームをしているようだが! パワーとストレングスの違いをその身に知らしめようぞ!」
 高らかな宣言が、渡月の大橋に響き渡った。

●覚者と隔者
「貴様ら、我らがヒノマル陸軍と識って戦争を申し込むか!」
 スキンヘッドが一括すれば足並み揃えた兵士達がライフルの照準を立ちはだかった者達に合わせる。
 対する覚者達も其々の位置へ。並んだ前衛の多さに一瞬だけ敵が驚く気配を感じた。
 3人の兵士達に1人ずつ張り付き更に余裕のある布陣。此処は通さぬと強い意志を感じる壁は厚い。
「はい。約束しましたから……いかせて差し上げるわけには、いかないんです」
 敵の鋭き怒声にも怯む事無く、ひなたが告げる落ち着いた宣戦布告。
 覚醒し広がる翼に触れた柔らかな茶色の髪が甘く揺れながら、両手を組み仲間達の為に祝詞を念じれば力強き加護を等しく捧げた。
「お前らのおいたは終りじゃぁッ! ぶちかませぇいっ!!」
 義高も声を張り上げ巨大斧を振り回す。赤き刺青の力を纏わせ敵へその刃先を向ける姿は橋上で立ち塞がったかの弁慶を髣髴とさせる逞しさ。
 同時に土の鎧を纏わせれば強固な砦の如き姿と化し、更に隣で同じ紅彩のストレングスを拳に宿した轟斗が満ちていくソウルの強さをフール達に魅せつけた。
「醒よ、ゴッドの炎! 今、この拳に紅き彩を宿し、堂々たる姿をもって汝らとのバトルに臨む!」
 偉丈夫とゴッドの一喝に他の仲間達も続けて攻撃力や守護の力を高め自身を強化していき唯一、最後尾の久永は色素の薄い手で持つ羽扇を翻すと周囲に霧を発生させ敵にけしかける。
「まずはお主ら能力、低下してもらおうか」
 彼のように白い霧が隔者達に絡み付く。僅かに乱れる士気の合間、霧を抜けて菊が一人司令官の前へと躍り出た。
「十天が一、九鬼菊。貴殿らの正義の悪だ」
 金の髪を靡かせ、赤い瞳で捉えた獲物を鬼牙で喰らい付く。肩に噛み傷与えると反動を利用し身体を回転させて敵大将の背後を取った。
「司令!」
 然し兵士達の援護を司令塔は怪我した方の手で制し、自らの身体を硬質化させながらいかつい顔を歪ませ目を吊り上げる。
「一人我が前に立ち塞がる程度、問題ない! お前達、前方の敵に向かって撃てぇい!」
 号令を聞けば従順な兵達は「Yes, sir!」の掛け声と共に前衛達へ気の弾丸を撃ち放つ。能力は低下しているものの3人分の波状攻撃が等しく降り注いだ。
 厚い壁は裏返せば列攻撃の餌食と成り菊の懸念通り前衛は相手の総攻撃を受ける。だが十天の長は強き確信があった、それは――。
「十天が一、御影きせき! 子供だからってなめんなよー!!」
 前衛壁の向こうから元気の良い声が弾む。其の身へ英霊を宿し髪を青に瞳を赤に染めたきせきが大ぶりの刀を振り自身をアピールする。
 変身完了!と言わんばかりにわくわくする顔はゲームを始める子供のよう。放った種が司令塔に当たり肩の傷口から生まれた鋭い棘で裂傷を負わせれば「あったりー!」と明るく燥いだ。
 思わぬ司令への追撃に兵たちがきせきへ狙いを定めようとするも、同じ絆を持つ者達が行く手を阻む。
「十天がひとり、風織紡! いざ尋常に勝負です!」
 鉄仮面を顔に飾り、硝煙の中でも汚れぬ白きワンピース。裸足で敵の行く手に立てば金髪の乙女の鋭き切っ先が銃口と向き合う。
 紡の一撃は違わず相手取った兵と、覚者達よりも薄い壁に護られている司令を突き刺した。
「『十天』のひとりを名乗らせて頂いています、一色ひなた、です。とおせんぼ、させて下さい、ね」
 一方別の兵には土鎧で身を強化する穏やかな翼人が盾と成った。黄緑の瞳が優しく緩むも、一歩も通さないというひなたの堅き意思が如実に伝わってくる。
 因子の彩を込めた兵の銃撃を浴びるも強固な殻が僅かに欠ける程度。美しく広がる白い翼は一片の輝きを失わない。
 頼もしき同じ旗の下、その連携は崩れはしない。ならばと最後の兵士がその手に毒の植物を絡め特攻するも二対の盾を構える由愛に防がれる。
「仲間の皆さんも……先ほどの『黎明』の方も……傷つけさせはしませんっ!」
 同じ志ならば共に戦う者達も同じ事。例え毒を注がれようとも、引く理由にはならない。人を助けたいと願う凛々しき戦士は確りと相手の一手を受け止めながら、機械化した左腕を高らかに挙げた。
 招いたのは小さな雲に詰められた雷の一撃。先ほどのお返しとばかりに由愛が械の腕を振り下ろすと兵士達全てに光の衝撃が迸った。
 怯んだ兵士の隙を見逃さず、エンジェルズ達の間に割って入った轟斗が両手の爪に赤きソウルフレイムを灯す。
「ゴッドは如何なるインポッシブルにも立ち向かう! ユーたちのダメージよりも痛いゴッドの拳を受けよ!」
 ロードを間違った者に彼のワールドを包まんばかりの愛が炸裂する。パワーの使い方を誤るフールへ嘆きと悲しみのカタストロフ毎打ち砕くゴッドの鉄槌が下った。
「おぉぉぉぉぉっっっっ!!!」
 崩れ落ちる兵を踏み越え、防御シールドも貼り終えた義高が敵兵の壁を乗り越え前へと飛び出した。
 漢が目指すは敵将のみ。司令塔が大男の気迫に気付き振り返りざまライフルを打つも「当たるものかよぉっ!!」と叫ぶ巨岩には正に玩具の弾が当てるかのような弱い抵抗。
「おらっ! てめぇだけ高みの見物だなんてケチなことしてんじゃねぇぜっ!」
 鋭き観察眼が進むべき道、立つべき場所を瞬時に把握し気付けば司令は2人の覚者に挟まれる形となった。

●闘い抜く者達
「ぬぅっ、ぐぬぬぬぅ……!」
 敵司令塔は焦っていた。自身を抑える者が1人ならまだいい。1対1で殺り合う間に部下が掃討できると思っていたからだ。
 既に何度か交戦を繰り返し何方も消耗はしている。然し決定打は数と、そして。
「大丈夫か? 毒攻撃とは卑劣よなぁ」
 羽扇と赤き翼が雅に交差し、久永が舞い踊る。爆風に攫われた紅葉すら誘い込まれるような演舞で味方全体に浄化を促す。
「ぼくも痛いの治すお手伝いするよー!」
 更にきせきが齎す生命の雫が由愛を癒やせば顔色も良くなった彼女が2人に向けてありがとうと笑顔を見せた。
 連携の力、合わせて僅かだが回復がある覚者達に対し戦闘特化のヒノマル陸軍達に回復手段はない。
 そして現状の2対1。明らかな不利を悟りスキンヘッドに青筋を浮かべた司令塔は崩れそうな部下達を睨みつける。
「我が兵達よ! その身玉砕しても我が為に戦うのだ!」
 従順な兵達は掛け声と共に突然後ろを向いた。自分達を抑える敵の対応を諦め狙いを菊と義高に向けたのだ。
「おっと、ユーたちの相手はゴッドだ。サイトアウトは許さんぞ!」
 すかさず轟斗がゴッドナックルで背を狙うも、切り裂かれた兵は怯まずライフルを撃ち放ち合わせるように他のも雷撃と炎の柱を発生させ2人を狙った。
「何しやがるんですか、あんたの相手はあたしですよ!」
 鉄仮面越しでも解るほどキレた紡が突剣とナイフを交差に構えそのまま目標に十字架を刻みこむ。
 瞬時に迷彩服が敗れ血が噴き出た。ぞわりとしたが、今はそれよりも全力で敵を抑えることに集中しようと畳み掛ける。
「私が一色さんの敵も纏めてやります、その間に!」
「解りました、任せて下さい!」
 ひなたと言葉を交わした由愛が再び雷を兵士達に落とした。弾幕が止めば合間を狙って高圧縮した空気がひなたの怒りを示すように司令の頬を殴りつける。
 ふらついた司令塔の懐へ、半月斧を携えた義高が傷を負いながらも飛び込んだ。
「少し力があるからといって、市民まで巻き込むなんざ……救えねぇ! 消え失せろッ!!」
 アッパーカットのような大ぶりの振り上げが敵将の鳩尾を捕らえそのまま宙に放り上げる。ほぼ白目を剥いた敵に追い打ちをかけたのは久永が撃った空圧弾。
 確かな音と共に吹き飛ばされ男の体は橋から川の上へ。刹那、かの上を飛んだのは大鎌を両手で振り上げた小さきヒーロー。
「貴殿の悪が、断罪しよう!」
 フルスイングで落とされた菊の一振りが敵司令塔を川の底へと叩き落とした。

「司令ー!」
 大きな水飛沫に負けない絶叫が木霊する。慌てて欄干に身を乗り出すも沈んだ身体は浮いてこない。
「で。どーするんですか?あんたらのリーダーやられちまいましたけど」
 剣の切っ先を向け、紡が冷徹に言い放つ。頭が居なくなった途端鉄仮面越しの冷えた緑の瞳に睨まれると兵達はたじろいだ。
「本日はこれまでです。これ以上戦争してそちらに利益はお有りですか?」
 大鎌を杖にふらつきながらも菊が遠回しの撤退を勧める。集中攻撃で菊と義高はダメージが残るもののまだ動ける数が兵達より多い。
「これ以上は無意味です。黎明の方々への攻撃も、わたし達を倒すことも出来ません」
 傷ついた二人のもとにかけつけながら、ひなたも告げる。労る彼女の代わりにきせきが前に立てば妖を切る為の大刀で獲物を威嚇した。
「延長戦はいくらでも受けちゃうけどねー!」
「そう、ゴッド達は何度でもスタンダップするのだ! 汝らのようなダークネスハートさえも救いワールドを救うその日まで!」
 元気いっぱいな少年とゴッドの気迫に押されたのか、暫し狼狽えていた兵の一人が欄干に足をかけると残りも其れに習い全員司令が落ちた川へと身を投げた。
「えっ、あ。飛び込んじゃいました……」
 驚いて波紋が3つ広がる川を見下ろす由愛の隣に久永がやってきてやれやれと息を吐く。
「どうやら、落ちた男を助けにいったようだな。そのまま、撤退するだろう」
「んじゃ、終いだなぁ」
 どっと疲れが来たのか、義高はぼやくと地べたにどっかりと座り込んだ。

●対峙すべきは
 橋は多少の被害があるものの、修復すればすぐに元通りとなるだろう。
 覚者達は最後にすべき事を実行する為橋の袂へと向かうと…果たして黎明の2人は待っていた。
「お前さんらのおかげで周りはずいぶん大騒ぎだ。すまんが少し付き合ってもらうぞ、いいな」
 義高が声をかける。距離はあるものの、男が短く「有難う」と礼を告げた後頷いた。
「良かった……だいじょうぶ、です?」
 安堵の息をついた後、ひなたが怪我がないか心配そうに2人を見やる。傷の深い仲間達を簡単に手当しながら久永も顔をあげた。
「なに、『黎明』だろうが『一般人』だろうが、助けを求める者には手を差し伸べる。何もおかしなことはないだろう?」
 だが男が手当は不要だと首を横に振る。仮面を外した紡がそれを見て桃色に戻った髪を揺らし肩を竦め。
「命をかけて守ってやったんだから、なんか欲しいです……いや冗談ですよ。無事ならいいです」
「うんうん、ゲームクリアしてもボーナスは要らないからね。黎明さん達が無事でよかったよー!」
 茶色い髪をふわふわ揺らしてあどけなく笑うきせきにも、男女達の表情は硬いまま。
「ごめんなさい、私達がもっと早く着いていれば……」
 もっと救える命が在ったかもしれないと、由愛が切なげに胸の内を告げる。確かに今回は暁からの依頼でもあった。
「ですが、私は『助けたくて』助けましたっ……! それは、本当です……」
「そう、ヘルプを求める者がいればゴッドは助ける! さあ、ゴッドの愛を受けよ! ヒーローもエンジェルも問わずだ!」
 共に悪を打ち破ろうぞ!と意気込む轟斗の迫力に気圧される2人。つまりはと由愛が前に出る。
「一緒に戦いませんか? 理不尽な力と戦う為に……」
 覚者達の視線を受け、男女が再び小声で何度か言葉を交わした後男が、見渡した。
「一度『黎明』に戻り確認したい。後に、そちらへ伺おう」
 短く告げると話は終わりと言わんばかりに男が女の手を引き、共に走って去っていった。
 彼等に想いは伝わったのか?疑問は残るものの消えていく姿を眺めて菊は一息吐いた。
「……なんであろうと構いませんよ 何があっても止めるだけです」
 ヒノマル陸軍、逢魔ヶ時紫雨……そして七星剣。
 月渡る橋の死闘は制したが、未だ戦争の匂いが消えることは無さそうだ。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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