【日ノ丸事変】新興勢力の青年
【日ノ丸事変】新興勢力の青年


●隔者達の追想劇……?
 京都府、丹波広域基幹林道。
 静まり返る林道の中、細身の男性が駆け抜ける。
「捕まるわけには……行かない……」
 息をつかせつつ、逃げる男性を追うのは、迷彩柄の男達だった。
「ひゃっはああ、追え追えーーー!」
 指揮をするのは、ベレー帽の男。それに合わせ、手下どもが獲物を追って目を光らせる。
「兄貴、遠慮なくやっちまいますぜえっ!」
 血気盛んな男達。彼らは『ヒノマル陸軍』と呼ばれる組織の構成員だ。彼らは非常に気性が荒い。そして、彼らはいつも戦いに飢えており、戦いの中に身を置こうとする、戦闘狂どもである。
 そんな相手を1人で4人も相手にするのはさすがに分が悪い。そう考えた細身の男性……霧山・譲は戦わずに逃げに徹していたのだ。……だが。
「追いつかれるは……時間の問題か」
 相手は全員、韋駄天足をセットしているらしい。自身にそれがない為、追いつかれるのは必然だ。
 やむを得ない。霧山は戦う覚悟を腹の中で決めていたのである。

●ヒノマル陸軍とは
 会議室では、すでに久方 真由美(nCL2000003)が待ち構えていた。同行を希望しているのか、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059)の姿もある。
「依頼です。ちょっと厄介なことになってますから、よく聞いてくださいね」
 真由美はかなり真面目な表情。それだけで、なにやら良からぬ事態が起こっていることが分かる。
「皆さんは、『ヒノマル陸軍』という組織を知っていますか?」
 『ヒノマル陸軍』……『七星剣』の幹部、暴力坂・乱暴が戦後景気で大儲けし、その財力と人脈で作った非合法な民間軍事組織。戦争の生き残りや軍オタや兵器開発者で構成されているという。
「集まった人物は、血の気が多く、非常に好戦的なのだそうです。覚者を見つければすぐに狙ってくるというほどに」
 そんな『ヒノマル陸軍』に、1人の男性が狙われている。
「終われている男性の名は、霧山・譲。新興組織『黎明』の構成員です」
 霧山はたまたま覚者としての力を行使しているところを、『ヒノマル陸軍』の連中に目をつけられたのだ。彼は丹波広域基幹林道を東から入った地点で追いかけられる羽目になってしまう。
 この、『黎明』の一員である暁より、『自分達は七星剣に潰されてしまうだろう、その前に助けて欲しい。助けてくれたら血雨の情報をあげる』と打診があった。
「確かに、彼等は七星に追われている現状があります。野放しにしておくとまた違う七星から狙われ、今回のような事件が勃発する恐れがあります」
 だから、今回被害に遭う霧山を、まずは助け出したい。場合によっては、この霧山の保護、そして、『黎明』を仲間に招き入れるかを検討する必要があるだろう。
「とはいえ、『ヒノマル陸軍』の一番ケ瀬はすごく強いです。今の皆さんで勝てるかどうか……」
 双方の能力については、真由美が確認した範囲内で資料として配られている。それを元にどうするか、覚者達に考えてほしいとのこと。
 一番ケ瀬を倒せれば、それに越したことはないが……。相手の強さを考えれば、霧山を助けて逃がすというのも手かもしれない。
「危険な依頼になりますので、判断は皆さんにお任せします。……無理は禁物ですよ」
 真由美はそう告げ、説明を終えたのだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:なちゅい
■成功条件
1.霧山・譲への被害を最小限に留める。
2.なし
3.なし
 初めましての方も、どこかでお会いしたことのある方もこんにちは。なちゅいです。
 全体シナリオです。難易度は難です。それ相応の判定を行いますので、心して臨んでいただきますよう、願います。

●敵
○『ヒノマル陸軍』
・一番ケ瀬・悟(いちばがせ・さとる)現の因子、火行。前衛。サーベルを所持。韋駄天足、面接着を所持。
 迷彩柄の服を着用し、1人だけベレー帽を被っております。
 50歳でスキンヘッドという中年男性ですが、戦闘時は20代前半、ふさふさの髪と若々しい外見で戦いを挑んできます。

○手下×3
 いずれも、30代男性。迷彩柄の服装です。3人とも韋駄天足のスキルを所持。
・獣の因子(亥)、火行×1 前衛。ナックルを所持。ジャミング所持。
・彩の因子、木行×1 中衛。機関銃を所持。鷹の目所持。
・翼の因子、水行×1 後衛。ライフルを所持。警報空間所持。

●NPC
・霧山・譲(きりやま・ゆずる)……18歳。暦の因子、天行。飛苦無を所持。鋭聴力、面接着を所持。
 新興組織『黎明』の覚者。大人しそうな印象の青年です。

・『頑張り屋の和風少女』河澄・静音
 今回の依頼にお邪魔します。
 何もなくとも皆様の邪魔にならないよう動きますが、効率的に動かしたい場合は指示をお願いいたします。
「霧山さん……。なんとか助けてあげたいですわね……」

●状況
 場所は、丹波広域基幹林道。
 東側から入り、程ない地点で、霧山は敵に追われる羽目になります。
 林道の中を、霧山が逃げておりますが、OPの直後1ターン後には追いつかれてしまうという状況です。覚者の皆様の到着は準備、状況、乱数などで前後します。
 林道は木々が立ち並ぶ中に敷かれております。道幅は3メートルほど。林はまばらに木々が生えております。

●投票
 この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
 EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』でお答え下さい。結果は告知されますが投票したPC名が出る事はございません。
 何も書かれていない場合は無効と見なします。

 以上です。今回もよろしくお願いいたします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月29日

■メイン参加者 8人■


●林道を駆けて
 京都府、丹波広域基幹林道。
 東西に伸びるこの道の西側に、東へ向かう覚者達の姿があった。
 その中で、3人が韋駄天足のスキルを活性化して先行する。先頭を走るのは、葦原 赤貴(CL2001019)だ。
(黎明に興味はさらさらないが……)
 助けたいという友人の主張を聞いた赤貴は、それだけで十分に戦う理由を抱いている。
 その為に、まずは隔者集団『ヒノマル陸軍』に追われている黎明なる組織の一員、霧山・譲を保護せねばならない。赤貴は武器を収納した状態で、迅速に林道を駆け抜ける。
「待ってろよ、霧山……!」
 並んで走る鹿ノ島・遥(CL2000227)も、目視で救出対象となる霧山の姿を探していた。
 後ろから、『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)がついてきている。守護使役のわんわんに『かぎわける』を使ってもらい、漂うであろう血の臭いを感知してもらう。
「助けにきてあげたわよ! 霧山さん。声のする方に走ってきて、私達は敵じゃない」
 霧山に鋭聴力の活性があるなら、こうして叫べば、こちらに気づいてくれるかもしれない。そう考え、数多は声を張り上げた。
 少し遅れ、他の覚者達もその後を追う。
「ねえ、河澄静音。私が殺りすぎているのなら、止めてね」
「わ、わかりましたわ」
 頼んだよと語りかける『裏切者』鳴神 零(CL2000669)へ、『頑張り屋の和風少女』河澄・静音(nCL2000059) は少しだけ零の雰囲気に圧倒されながらも頷く。
「ヒノマル陸軍、ねえ。何で黎明なんていう小さい組織を狙うのかしら」
「『F.i.V.E.』以外の覚者の組織……。ヒノマルの襲撃に介入するのは賛成だけれど、どこまで手を貸すか、よね」
 集団を後ろから走って追う『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)の呟きに、前を走る『ロンゴミアント』和歌那 若草(CL2000121)が答えると、エメレンツィアはきょとんとした顔で若草を見つめてくる。
「……あぁ、ごめんなさい。今考えることじゃないわよね」
 若草は走りつつ周囲を見回す。それほど周囲が暗いというわけではない。これなら、暗視スキルは必要ないだろう。これなら集中して走れば良さそうだ。
「ま、仕方ないわ。見殺しにするのも気持ちが悪いし」
 エメレンツィアはそう答え、会話を切り上げた。さすがに韋駄天足で駆けていく先行組には追いつけないが、彼女も全速力で駆ける。
「間に合うか?」
 その前を走るのは、寺田 護(CL2001171)だ。焦る気持ちを抑えながら移動する彼は、道具やスキルを駆使して発見に努める。
 例えば、懐中電灯は不要と考えたようだが、双眼鏡での前方を確認。それに、熱感知。木々に遮られてしまった場合にと考えている。
「霧山、聞こえるか? 『黎明』からの要請で助けに来た。ヘタに交戦せず、こっちに全速で向かって、そのまま駆け抜けろ」
 後ろから、できる限り早く駆けている『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)が、霧山に向けて語りかけていた。
「オレ達とすれ違ったら、そのまま逃げろ。奴らは、こっちでどうにかする。間違っても交戦中に戻ってくるなよ」
 彼が聞いていることを願って、メンバー達は林道を駆け抜ける。
(見過ごせない何かがあるのか、ただの気まぐれなのか……)
 エメレンツィアは1人、そんなことを考えていた。

●争いへの介入
 すでに、霧山は『ヒノマル陸軍』に追いつかれ、交戦していた。
 覚者の接近は、スキルで感知した手下が知るところとなるが、ベレー帽に迷彩服の男性……一番ケ瀬・悟はテンション高く炎を纏わせたサーベルを振り上げ、霧山を斬りつける。
「そこの迷彩服のオッサン達!」
 そこに、覚者先行組が駆けつけた。
「『十天』の鹿ノ島遥がケンカを売りに来たぜ! 買え! 買わなくても押し付ける!!」
 声を張り上げた遥が猪の顔をした手下へと突撃していく。
 赤貴はさらに前へと出る。狙いは最後列の水行の男だが、邪魔をする中衛木行の手下へ攻め入った。彼は集めた気を弾丸と化して広範囲に放つが、水行の男には届いてはいない。
「獲物が増えたぜぇ!」
 敵は嬉しそうに、手にする機関銃やライフルの引き金を引いた。
「何モンだ?」
 サーベルの刃をペロリとなめる一番ケ瀬を愛刀でさしたのは、数多だ。
「おいハゲ、隠しててもハゲって知ってるわよ」
「な……」
 一見、20代の一番ケ瀬。現の因子持ちの彼は本来、スキンヘッドの50代男性である。
 一番ケ瀬の額に青筋が浮かび、手下達の表情が変わった。それでも、数多の罵声は止まらない。
「悲しいわね、一番毛が最盛期なのはその年齢なのね、ハゲ。実は今でも登頂ハゲで、ベレー帽被って隠してんの? ハゲ」
「このメスガキがああ!」
 敵への挑発は十分と、数多は構えを取る。
「ねえ、遥君、これってあれよね。倒してもいいんでしょ?」
「数多センパイ、ノリノリだな! オレも負けねえぜ!」
 隣でそれを耳にしていた遥も、負けじと敵に呼びかける。
「鬼ごっこは堪能したろ? 次はガチンコバトルで楽しもうぜ!」
 遥がシャドーボクシングの素振りで敵を誘うと、敵も嬉しそうにそれに乗ってきたのだった。

●黎明の男性を救え
 敵を抑える仲間を背に、赤貴は思う。
(社会の屑にかける言葉など……ない)
 ゴミに通じる言葉など存在しないと、彼はただ敵を殲滅する為に敵へと駆け抜け、斬撃を浴びせる。
 ところで、救出対象の霧山はここから離れる様子はない。霧山も飛苦無を飛ばし、敵の急所を狙っていたようだ。
 数多は自身の体内の炎を活性化させつつ、彼が無理しないよう注意する。
「何処余所見してんだ、コラァ!」
 怒り冷めやらぬ一番ケ瀬は、火炎の弾丸を数多へと浴びせかける。
 それを浴び、火傷を負いながらも、数多は口上を上げた。
「櫻花真影流、酒々井 数多。往きます。散華なさい」
 彼女は愛刀を手に駆け抜け、一番ケ瀬と火行の手下へ斬りかかっていく。
 その手下は、遥が殴り合いを行う相手でもある。
「戦う気もないヤツを虐めながら追い回すなんて、趣味悪いぜ!」
 敢えて霧山には言葉を駆けず、遥はヒノマルと敵対するよう呼びかける。
(『自分を追ってる連中の敵』ってほうが信じやすいかも、ってこった)
 敵の敵は味方、という論理なのだろう。
 打ち合いを行う遥は敵の能力を探る。この手下だけならば、自分とさほど能力差を感じない。彼は天行の力を解き放ち、己の拳を叩きつけた。
 交戦する両者の付近で突如、眩い光が放たれる。抑えるメンバー達の後に続き、残りの覚者が駆け付けたのだ。
「んもう、もうちょっとレディに気を使いなさいよね」
 真紅の光を放つエメレンツィアは、悪態をつきつつ覚醒を行う。
「ヒッノマールちゃーん☆ あっそびーましょー☆」
 「鳴神 零からの熱いお誘い!」と、零もハイテンションに叫んでダッシュする。
「また来やがったな!」
 一番ケ瀬は楽しそうに笑う。不利になったとは考えず、この状況を楽しんでいる。まさに戦闘狂だ。
「全く……手を焼かせるわね。さあ、行くわよ。チュロ!」
 エメレンツィアは守護使役のチュロと共に、戦いへと介入していく。
「気合い入れろ!」
 前線で苦しむメンバーへ、護が呼びかける。彼は癒しの霧を噴き出し、先行組の傷を癒す。静音も同じく、癒しの滴での回復に当たってくれていた様だ。
 一番ケ瀬の抑えを数多や遥に任せ、駆けつけた護や懐良は赤貴同様、敵の後ろへと攻め込んでいく。
 懐良は中衛の木行の手下へブロックし、目にも留まらぬ速さで連撃を浴びせかける。
(霧山、まだこの場にいたな……)
 自分の声は届いていなかったのか。懐良はそんな考えを抱きつつも敵の抑えに入る。
 元々その場にいた赤貴は、零と共に後衛、水行の敵へと攻め入った。
 零は仮面の下で呟き、敵へ絡みつく霧を巻き起こす。弱体化した敵へ、赤貴が迫った。
「確実に殺そう」
 敵は快楽の為に相手を殺そうとしている。実際、目の前の敵は小さな氷の礫を飛ばし、覚者達の体を痛めつけてきていた。
「あっちは殺しに来てるのに、こっちは殺さないなんて甘い事言わない☆」
 例え殺人が駄目であっても、これは戦争なのだから。零は仮面の下で狂気の笑みを浮かべる。
 同じ敵を相手にする赤貴は、時折後ろを振り返る。その視線の先には、霧山の姿。
 不明な点が多い黎明に、赤貴は信用を置いてはいない。敵の敵は味方であるということではないと考えているからだ。
 その霧山には、若草が接触している。できればここから逃げてほしいと説得していたのだ。
「そんな、悪いよ。僕なんかの為に」
 霧山はそれでも、この場で一緒に戦うと主張した。
 しかし、すでに血を流す霧山に、これ以上、傷を負わせるわけにはいかない。
「譲クン。例え私達が最後の一人になったとしても、助けてあげるからね」
 前方から聞こえるのは、零の声。覚者達は霧山を助ける為に、危険を承知でこの場へとやってきているのだ。
「怪我ならまだしも、命を落としてしまったら……すべて無駄になってしまうわ」
 いや、と若草は内心で否定する。
(……そうじゃないわね。単純に、生きてもらいたいのよ)
 救う命も、奪う命も。平等なのだから。
「しょうがないわね」
 若草は説得に応じない霧山を守ることに決める。霧山はにこりと笑い、飛苦無をヒノマルの手下へ飛ばすのだった。

●戦闘狂の恐怖
 覚者は霧山を守りながら、ヒノマルメンバーを相手にする。相手は戦い慣れしている隔者。一筋縄ではいかぬ敵だ。
 とりわけ、隊を仕切る一番ケ瀬の力は脅威だ。
「おらおらぁ!」
 それを1人で抑える数多の疲労はあまりにも大きすぎた。隣の遥からも攻撃はあるとはいえ、とてもでないが、長年の経験で熟練した戦法、そして若い肉体を持つ戦闘狂を、1人で抑えられるものではない。
「そんなものか! ちょっとやられたぐらいでグダってんじゃねえ!」
 場合によっては攻撃も考えていた護だが、先行組の疲弊が激しすぎて、回復一辺倒になっていた。静音も微力ながらにそのサポートを行う。
 若草も癒しの霧を飛ばし、仲間の回復に当たっている。彼女が庇っている霧山には、エメレンツィアが手当てを行っていた。
「ほらアナタも。大丈夫? ここでやられてたら、仲間に合わせる顔が無いわよ」
「ああ、そうだね……」
 霧山も身を起こし、手前の敵へと雷を落として攻撃を仕掛けていたようだ。
(まあ、私達もお人よしよね)
 エメレンツィアは思う。敵対勢力に追われている人を、放っておけるわけにはいかないと。
 その時だ。
「もらったぜ!」
 燃え上がる一番ケ瀬のサーベルが数多の体を貫く。大量の血が失われ、一度は意識が失われかけた数多の意識。しかし、彼女は命を燃え上がらせ、その一撃を耐えきって見せる。
 そこで、後衛の手下を相手にしていた零が数多の状況に気づき、数多に並ぶように後退してきた。
「んひひ☆ 戦争楽しッ♪」
 ハイテンションになった零の表情は仮面でうかがい知ることができないが、狂気じみた笑い声だけが戦場に響く。
「これを待ってた ゾクゾクする」
「てめぇもイッちゃってるクチだな」
 一番ケ瀬は笑い、零の相手を行う。
「体がイっちゃうくらいのスリル。もう待ちきれないよぉ☆」
 零は一番ケ瀬の正面へと身を躍らせた。

 同じく先行組の赤貴もやはり、苦しい状況にあった。ただ、その狙いを水行の手下にしていたこと、そして何より、他のメンバーが駆け付けてくれたことが大きく、負担は軽減されていたようだ。
 数多のフォローに零が回ったことで、懐良は敵後方の敵の殲滅に全力を注ぐ。
 手前の敵よりも後方の敵を狙い、懐良は気を発していた。その上で、何か利となりそうな技がないかと彼は敵をじっくりと観察する。
 ただ、全力で戦う手下は自分達と同等。また、一番ケ瀬は手の内を見せていないようにも見える。これだけ戦っているのに、ベレー帽の男は全く顔色すら変えていない。
 その手下の1人、水行の男はかなり辛そうにしている。仲間の回復に当たっていたそいつは、覚者によって攻め込まれたことで防戦一方になっていたのだ。
 木々を足場に飛び回り、道幅の狭さを気にすることなく大剣を振り回す。風のように駆け抜けた赤貴の一撃は腹を大きく裂き、背骨をへし折り、そいつの命を完全に断ってしまった。
 前衛で敵を抑え続ける遥。彼はほぼ敵と一騎打ちを行う状況となる。
 仲間達が癒してくれることで持ち直すのだが、時折飛んでくる一番ケ瀬の攻撃が重い。
 それでも、理屈なしに遥は目の前のバトルを楽しむ。敵の手のひらから起こる爆発を浴びた遥。ギリギリのところでそれに耐え、彼は敵の顔面に拳を叩きつける!
 嗚咽を吐く敵はそのまま地面へと崩れ去った。……しかし。
「おらぁ、温めてやるぜ!」
 そこで、一番ケ瀬の炎が飛んでくる。炎に身を焦がされ、遥はその全身を燃え上がらせてしまったが、生命力を燃やすことで炎に耐えきって見せた。彼はそのまま、中衛にいた木行の手下へと向かう。
 手数が増えれば、対処は楽になる。中衛木行の男は赤貴との戦いで体力を削られており、さらに、2体1の戦いで疲労が蓄積していたようだ。
 そこで、懐良が敵の胸目がけて連撃を放つと、木行の男も血飛沫を上げて倒れゆく。
 残るは、一番ケ瀬ただ1人。数多はなんとか抑え、零が攻めこむ状況が続くが、敵は顔色を変えることなくサーベルを振り回す。
「ここまでとは……ね」
 エメレンツィアはもっと余裕で倒せる敵だと思っていた。これだけの手厚い回復があれば、敵を攻めこむことは余裕だろうと。だが、実際は彼女もまた回復に当たる羽目になってしまっている。
 長い林道を全員で西から攻めたことで、敵と霧山の補足に時間がかかってしまったことは、結果的にはマイナスだったと言わざるを得ない。霧山の保護という観点では良かったかもしれないが、これは最善手と言えたのか……。
 そんな劣勢の中でも、零は嬉しそうに戦いの中に身を置く。
「鳴神さん……」
 静音も心配そうに彼女を見やる。どこで止めるべきかと考えていたのだ。
「さあ、鳴神の心臓はココだよ」
 楽しく濡れよう、血雨の如く……。
 彼女は狂ったように、大太刀鬼桜を敵に叩きつける。
 そこへ、気力が少なくなっていた為に、若草が直接攻撃を試みる。ただ、近接攻撃を行うならば、必然的に前へと出ざるを得ない。
「へっ、不用意に前へ出過ぎだぜ!」
 そこで、一番ケ瀬は火柱を上げる。若草はその一撃に悲鳴を上げた。
 同じく炎を浴び、倒れかけた零。しかし、命の力に頼り、まだ戦わんとその状態を起こす。
 護がすかさず後ろから羽ばたき、風圧で仲間の背中を起こそうとしていたこともある。まだ、倒れるわけにはいかない。
 ……だが、戦いの結末はあっけなく訪れた。
「潮時だな」
 戦いの熱が冷めたのか、一番ケ瀬は手下が倒れたのを見て息を吐き、そのまま身を引く。
「まて、質問に答えろ」
 護には、一番ケ瀬に聞きたいことが山ほどあった。
 例えば、「逢魔ヶ時」が何なのか。そして、その目的。血雨とは、紫雨とは、他に雨を冠する奴がいるのか?
 だが、傷がさほど深くない一番ケ瀬は、その質問に応じる素振りを舞うで見せない。
「お前らの顔、覚えておくぜ」
 そのまま、一番ケ瀬は韋駄天足で東側へと走っていく。
「終わらせはしないよぉ☆」
 零がそれを追いかけようとするのだが。深追いはすべきでないと判断した懐良と静音が止める。
 それ以外は、覚者達の余力など残ってはおらず、去りゆくその男を追う者はいなかった。

●霧山は何を知る?
「……助かったよ」
 戦いで多少の傷を負っていた霧山。覚者達の配慮もあり、彼の傷は軽微で済んでいたようだ。
 倒れるヒノマルのメンバー達を見下ろしながら、メンバー達が気になるのは、霧山、そして、黎明という組織のこと。
「ねえ、貴方、血雨のことは知っているの? あと、暁君っていつから黎明にいるの?」
 傷を負い、林道脇で横になる数多が霧山へと問う。しばらく安静にして、休んでいこうという配慮があったからだ。
「割と最近だよ。だから、僕の知ることなんてそこまで多くはない」
 首を振る霧山。痛みでやや、顔を引きつらせている。
「俺からもいくつか聞きたい」
 護は、黎明とは何なのか、それに、黎明のリーダーについて、霧山に問う。
「黎明は組織って言うより覚者の集まりでね。……特定のリーダーはいないんだよ」
 それだけ、小さな組織だったと言うことだろう。
 次に、護が聞いたのは、なぜヒノマルに追われているのか。
「……君達も見ただろ。この連中」
 ヒノマルのメンバーは好戦的な者が多い。覚者組織を見境なしに狙うという彼らが、小規模な黎明に目をつけたことは運がなかったという他ない。
 だが、護は霧山を、黎明を全面的に信用しているわけではない。
(スパイの可能性もある。黎明メンバー各人の思想や出生を調査せんとな……)
 霧山へ、最後に声をかけたのは、若草だ。彼女も多少の傷を負っており、木に寄りかかっている。
「救いたいから救った、は本心だけれどね」
 ただ、自分達と一緒に来てもらうかどうかは別の話。ここから先は。
「皆で結論を出すまで待っていて」
 霧山を『F.i.V.E.』に迎え入れるかどうかは、この場の人間だけでは決めることができない。
「ああ、待っているよ」
 霧山は目を細め、そう告げたのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

リプレイ、公開いたします。
今回はこのような結果となりました。
残念ながら、
運の部分で覚者に味方しなかった部分がございました。
しかしながら、それをカバーするプレイングは
恐れいりました。

ともあれ、黎明の青年の救出、
誠にお疲れ様でした。
ゆっくりとお休みくださいませ。




 
ここはミラーサイトです