バイバイライダー。或いは、夜明け前の風。
●風の中
重低音と排気ガス。夜明け前の街中を、真っ赤なバイクが疾走する。バイクに跨った、痩身の男は黒いライダースーツと、亀裂の入ったフルフェイスヘルメットを身に付けていた。
時折、月の光が雲に遮られると同時に、その男の姿は一瞬だけ、影のように霞んでぶれる。
一見、そうとは分からないが彼とバイクは共に妖だ。
夜明け前。人気のない街を疾駆する、妖。
男の手には、大口径のハンドガン。
赤いバイクは、男共々火炎に包まれ、弾丸のような速度でアスファルトを削る。
広い街だ。だが、バイクと男はどうやら同じルートを繰り返して移動しているらしい。
ルートは2つ。西回りに、街外れの丘を駆け上がり降りてくるルートと、もう1つは街中にある住宅街の曲がりくねった道を、縫うようにして走るルート。
何かを探しているのか、男は時折、曲がり角や丘の上で視線を巡らせている。
朝日が昇って、街に人が溢れだすまで一時間弱といった所だろうか。
そうでなくとも、交通量が増えてくれば男とバイクのせいで事故が起きる可能性も高くなる。
『そこのバイク、止まりなさい!』
誰かが通報でもしたのだろうか。住宅街に入る手前で、男とバイクの後ろにパトカーが追いついて来た。
男はちらりと後ろを振り向き、ハンドガンの引き金に指をかけた。
そして、加速。
パトカーが、男を追って速度をあげたその瞬間。
パァン、と空気の爆ぜる音が早朝の住宅街に響き渡った。
放たれた弾丸は1発。まっすぐに、パトカーのタイヤを撃ち抜き、前輪と後輪を一直線に破裂させた。
速度の上げ過ぎで、タイヤがパンクしたパトカーの車体は制御を失いコンビニへと激突。そのまま煙をあげて動かなくなる。
いつの間にか、男とバイクは消えていた。
●バイバイライダー
月明りを背に、風を切って走るライダー。
モニターに映ったその光景を眺め、久方 万里(nCL2000005)は「ほぇ」と間の抜けた声を漏らす。それから思い出したように、会議室に集まった仲間達の方へと視線を投げて「作戦会議、はじめるね」とそう言った。
「今回のターゲットは物質系の妖(バイク)と、心霊系の妖(ライダー)の2体だねっ。バイクの方には戦闘能力はないけどぶつかったらノックバックを受けることになるね。それから特攻無効の耐性持ちだね」
街中を高速で移動している。なにかしらの手段を講じねば、移動中のターゲットに追いつくことは難しいだろう。
「ライダーの方は、あまり討たれ強くはないね。でも、性格な射撃と優れた格闘能力を持っているから要注意ね。どんな人の思念が元になったんだろうね? ちょっと気になるね!」
ライダーの武器は、ハンドガン程度のものだが[二連][ 不運]の効果が付与されている。
「まずはバイクをどうにかすることから考えるべきかもね? それじゃあ、皆、頑張ってね!」
と、そう言って万里は作戦会議を終了させた。
重低音と排気ガス。夜明け前の街中を、真っ赤なバイクが疾走する。バイクに跨った、痩身の男は黒いライダースーツと、亀裂の入ったフルフェイスヘルメットを身に付けていた。
時折、月の光が雲に遮られると同時に、その男の姿は一瞬だけ、影のように霞んでぶれる。
一見、そうとは分からないが彼とバイクは共に妖だ。
夜明け前。人気のない街を疾駆する、妖。
男の手には、大口径のハンドガン。
赤いバイクは、男共々火炎に包まれ、弾丸のような速度でアスファルトを削る。
広い街だ。だが、バイクと男はどうやら同じルートを繰り返して移動しているらしい。
ルートは2つ。西回りに、街外れの丘を駆け上がり降りてくるルートと、もう1つは街中にある住宅街の曲がりくねった道を、縫うようにして走るルート。
何かを探しているのか、男は時折、曲がり角や丘の上で視線を巡らせている。
朝日が昇って、街に人が溢れだすまで一時間弱といった所だろうか。
そうでなくとも、交通量が増えてくれば男とバイクのせいで事故が起きる可能性も高くなる。
『そこのバイク、止まりなさい!』
誰かが通報でもしたのだろうか。住宅街に入る手前で、男とバイクの後ろにパトカーが追いついて来た。
男はちらりと後ろを振り向き、ハンドガンの引き金に指をかけた。
そして、加速。
パトカーが、男を追って速度をあげたその瞬間。
パァン、と空気の爆ぜる音が早朝の住宅街に響き渡った。
放たれた弾丸は1発。まっすぐに、パトカーのタイヤを撃ち抜き、前輪と後輪を一直線に破裂させた。
速度の上げ過ぎで、タイヤがパンクしたパトカーの車体は制御を失いコンビニへと激突。そのまま煙をあげて動かなくなる。
いつの間にか、男とバイクは消えていた。
●バイバイライダー
月明りを背に、風を切って走るライダー。
モニターに映ったその光景を眺め、久方 万里(nCL2000005)は「ほぇ」と間の抜けた声を漏らす。それから思い出したように、会議室に集まった仲間達の方へと視線を投げて「作戦会議、はじめるね」とそう言った。
「今回のターゲットは物質系の妖(バイク)と、心霊系の妖(ライダー)の2体だねっ。バイクの方には戦闘能力はないけどぶつかったらノックバックを受けることになるね。それから特攻無効の耐性持ちだね」
街中を高速で移動している。なにかしらの手段を講じねば、移動中のターゲットに追いつくことは難しいだろう。
「ライダーの方は、あまり討たれ強くはないね。でも、性格な射撃と優れた格闘能力を持っているから要注意ね。どんな人の思念が元になったんだろうね? ちょっと気になるね!」
ライダーの武器は、ハンドガン程度のものだが[二連][ 不運]の効果が付与されている。
「まずはバイクをどうにかすることから考えるべきかもね? それじゃあ、皆、頑張ってね!」
と、そう言って万里は作戦会議を終了させた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ターゲットの撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回は、街を暴走する不吉なライダーとの追走劇になります。
それでは、以下詳細。
●場所
街中。特に住宅街。及び、街外れの丘の2ルート。
そのどちらかのルートを、ライダーは疾走している。
時間は夜明け前。視界、足場に問題はない。
夜が明けると人通りも増え、バイクとライダーの一般人被害に遭う可能性が高くなる。
●ターゲット
心霊系・妖(ライダー)
ランク2
黒いライダースーツと、亀裂の入ったフルフェイスヘルメットに身を包んだ長身痩躯の男。
ハンドガンと、優れた体術を武器とする。
基本的にはバイクに乗ったまま銃による攻撃を行うようだ。
【凶弾】→物遠貫2[不運][二連]
大口径のハンドガンから撃ち出す凶弾による精密射撃。
【高速格闘】→物近単[二連]
蹴りと関節技を主体とした格闘術。
物質系・妖(バイク)
ランク1
真っ赤なバイク。加速する際に車体が炎に包まれる。
[特攻無]の特性を持つ。
また、加速時にぶつかった相手を[ノックバック]する。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年10月26日
2015年10月26日
■メイン参加者 8人■

●夜明け前の風
「んー、いい景色~、走り回りたくなる気持ちは非常にわかるけど、化けてでてあまつさえ人に迷惑かけるのはいただけないねぇ」
丘の上。沈んでいく月を眺め、風に髪を躍らせながら『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)が空に向かって背を伸ばす。
丘の上から、街を見降ろし姿の見えないライダーを探している。
雷鳥の頭上を、小さな鳥に似た生物がくるくると旋回していた。鈴白 秋人(CL2000565)の守護使役である。街と丘を暴走しているライダーの姿を「ていさつ」しているのだ。
「ライダーは何を探しているのか……。自分を轢いた車か、落し物……?」
「ンー、ライダーデスカ……。一体何を探しているのデショウネ? 少し興味ありマスネー」
ガードレールに背中を預け、秋人とリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)はライダーの目的を推測していた。だが、いくら考えても答えは出ない。
「気にはなるけど……。まずは、そいつを止めないと、だよね!」
拳を高く突き上げて、御白 小唄(CL2001173)がそう言った。
二手に別れて、数十分。雷鳥、秋人、リーネ、小唄の4人は丘を昇り、残る4人の仲間は街へ移動している。未だ、ターゲットである(ライダー)と(バイク)を見つけたという知らせはない。
時間だけが、刻一刻と過ぎていく。
もうじき、朝日が昇る。
風が一陣、月の見える丘を吹き抜けた。
●ムーンライダー
人気のない街の、交差点。信号機が、赤と青とを繰り返す。交差点の真ん中、住宅街へ向かう大通りを背に、飛鷹 葉(CL2001186)は上着のポケットに手を突っ込んだまま、コツコツと爪先で道路を蹴って、リズムをとっていた。
街灯に照らされた道路の向こうから、唸るようなエンジン音が響く。
「何かを探してるっていうことは、この世界に残したものがあるんでしょう? おとなしくすれば協力してやるから、今は叩きのめさせてもらうわよ」
ポケットから抜きだした彼女の手には、ハンドガン。
撃鉄を起こし、銃口をライダーへと向ける。
「見つけた? それじゃあ、空砲を打ち上げるよ」
葉が引き金を引くのに合わせ、『赤き猟犬』伊達 瑞貴(CL2001184)が低いビルの上で空砲を打ち上げた。
大きな音が、街に響いた。空砲の音に掻き消され、葉の撃った銃声は聞こえない。
銃弾を避けるために、ライダーがバイクを大きく傾け、進路を変える。
「近接戦闘ならこっちのモノ」
防御力を極限まで強化し、土の鎧に身を固めた信道 聖子(CL2000593)がライダーの前に立ち塞がった。片手に持ったブレードを、バイクの前輪目がけて突き出すが、ライダーはバイクの前輪を高く持ち上げることでそれを回避。
高速で回転する前輪が、聖子の頭部を削る。
土の鎧が砕け、聖子の額から血が流れた。聖子の身体が、大きく仰け反る。バイクは、聖子の身体に乗り上げ、そのまま加速。ロケットのように、空中を疾走し、地面へと降りた。
着地と同時にライダーは、片手に持ったハンドガンの引き金を引く。ライダーを狙っていた葉を牽制し、そのまま葉の隣をすり抜けて行った。
防衛線を突破したライダーの頭上に、影が落ちる。
「まずいねー、バイクが爆走してる件でパトカーがやられてるのはでかいね。うん。退治しないと」
ライダーの位置を確認するため、現場を離れていた天城 聖(CL2001170)が戻ってきたのだ。翼を広げ、空を滑空しながら聖は、ライダーに向けて杖を構える。
撃ち出されたのは、高圧縮された空気の弾丸。バイクの進路に着弾し、爆ぜる。
一瞬の暴風雨。バイクの動きが止まった隙に、葉たち3人がバイクの進路へ割り込んだ。
一方、その頃。
月の見える丘の上。
「このあたしが一手遅れるとはねー、むかつくぜ、先行ってるよ!」
空砲の音を聞くなり、雷鳥が走りだす。韋駄天足で強化された彼女の脚力を持ってすれば、街までの距離もあっという間だ。
「外れたー! くっそー!! 先に行くねっ!!!」
「回復役は俺しかいないし、先に行ってますね」
雷鳥から僅かに遅れて、小唄と秋人も加速し、駆け出す。
丘の上には、リーネだけが取り残された。
「オゥ……。残念ながら私は駆け付ける脚が無いので走って行くしか無いデスネー……。うー……走るのは苦手デース」
既に見えなくなった仲間の後姿を追いかけて、リーネもまた、街へ向かって走り出す。
空から街を見下ろして、聖は近くに人や車がいないことを確認。地上にいる仲間へと声をかける。
「味方の合流が終わるまでなんとかする!でいいんだよね。じゃあ指揮はヨロシクね、ヨウ!」
「ならバイクが走っている間はライダーが銃撃を行わないようにハンドガンで牽制。それで、聖子の元に誘導するようにしてもらいたいわね」
葉の指示に従い、聖は空気弾を放つ。ライダーの進路を塞ぐように放たれた聖の空気弾を回避しながら、ライダーはハンドガンを構える。
しかし、葉の牽制射撃に邪魔されて思うように狙いを付けることができないでいる。
さらに、建物の影から飛び出した瑞貴の小太刀が一閃。ライダーとバイクを切りつける。
「このタイミング……! 倒れ、ろっ!」
飛び出した勢いそのままに、ライダーへ向かって体当たり。バイクが大きく傾いた瞬間、ライダーはバイクを加速させる。
数回、タイヤが空転し、アスファルトを削る。排気ガスを吹き上げながら、バイクは弾丸のような速度で加速した。バイクに弾かれ、瑞貴の身体が大きく背後へと弾き飛ばされる。
マンションの塀に激突した瑞貴が、地面に倒れた。
加速するバイクの正面には、聖子の姿。先ほど削られた土の鎧も修復済みだ。
「聖子、頼りにしてるわよ」
そう言って、葉はナイフを構えた。
急加速したバイクは、そうそう簡単には進路をかえられない。この距離ではブレーキをかけても、間に合わないだろう。
激突。
衝撃で、地面が揺れる。
砕けた土の鎧が、地面に散らばる。
聖子の骨が軋む音。バイクは、排気ガスを吐き出しながら、それでも前に進もうとする。
「前に立つ以上は倒れる訳にはいかないわね……」
バイクに押され、聖子の身体は後退するが、それでもバイクを掴んだ手は離さない。
ライダーは、片手をハンドルから離すとハンドガンを聖子の額へと押しつけた。
聖子の頬を冷や汗が伝う。
「防御力だけなら自信があるから……遠慮なく横合いから殴ってちょうだい」
「もちろん。ライダー、何も言わないなら叩き潰すだけよ」
ライダーが引き金を引く直前、真横に接近した葉のナイフが閃いた。
ナイフが、ライダーの胸部に突き刺さる寸前、バイクが高く前輪を持ち上げた。ライダーが操縦したのではない。バイクは、バイクの意思でもって、ライダーを庇うために動いたのだ。
葉のナイフが、バイクのエンジン部分に突き刺さった。
一点に集中した破壊力が、エンジン内部で炸裂。衝撃が、バイクを貫いた。
エンジンが火を噴き上げる。ライダーの放った弾丸が、葉の脇腹を撃ち抜いた。バイクは加速。黒煙と、排気ガスを濛々と吐き出しながら、聖子の身体を弾き飛ばした。
加速したバイクの後輪を、聖の空気弾が撃ち抜くが、バイクはと止まらない。
後輪が歪み、その走りは酷く不格好なものだったが、それでもバイクは走っていく。既に、走行できることが不思議なほどのダメージ。
バイクの進路に、瑞貴が走り込む。小太刀を構え、バイクを迎え撃つ瑞貴の視界に、血を吐きながらバイクを追う葉の姿が映った。
「どいて、瑞樹。巻き込んでも知らないわよっ!」
高く振り上げた拳を、ライダーの背に叩きこむ。
爆裂掌。ライダーとバイクを殴りつけた葉の拳は、そのまま地面に突き刺さり、アスファルトを打ち砕いた。
跳び散るアスファルトの破片を、超視力で回避しながら瑞貴は跳んだ。
「ぅ、わ……っぶな……飛鷹さん、容赦無さ過ぎない……?」
炎を纏った小太刀を手に、瑞貴はバイクのハンドルに着地。ライダーは、銃底で瑞貴のこめかみを殴りつける。超視力でそれを見切り、紙一重で回避すると同時に、瑞貴はハンドルを蹴って跳び上がった。
ライダーの顎に膝を叩きこみ、大きく仰け反ったライダーの真上をすり抜ける。
その刹那。
両手に持った小太刀が閃いた。
炎の軌跡を描きながら、交差した斬撃がライダーの胸を切り裂く。
ライダーの身体が地面に落ちる。数回バウンドしたライダーは、それでも腕を伸ばし、バイクのハンドルを掴む。
ライダーを引き摺りながら、バイクは住宅街を駆け抜けて行った。
「ひ、人とパトカーが向かってくるよ! 皆、逃げて! 私は皆に知らせてくるから!」
どうやら、騒ぎを聞きつけられ、通報されたようだ。聖は空中で大きく旋回すると、丘を降りて来ているであろう仲間へ、ライダーの逃走を知らせるために飛び去った。
聖が雷鳥たちを見つけ、ライダーの接近を知らせた直後、彼女達の視界にライダーが映った。
その速度は、時速200キロに近いだろうか。黒煙と、排気ガスを吹き上げながら、こちらへ迫ってくる。
ライダーの構えたハンドガンの銃口が、聖を狙っている。
「……ぇ?」
銃声が一つ。
弾丸が、聖の翼を撃ち抜いた。
きりもみしながら落ちてきた聖の身体を、秋人が受け止める。傷口を手で押さえ、止血しながら治療を施す。淡い燐光が舞い散って、聖の傷口を塞ぐ。
「ライダーが何を探しているのか、それを見つけて突きつけることが出来れば、一瞬でも動きを鈍らせる事が出来るのではないかと思いますが」
「ごめん。まだ分かってないね」
痛みに顔をしかめながら、聖が答える。
ライダーを迎え撃つべく、雷鳥と小唄が駆け出した。
「景色いーもんねー、バイクで走ったら気持ちよさそ……はぁ、早く直してーぜ……。さて、すっとろいお客のお出ましだ」
「とーりゃー! 僕参上っ!!」
雷鳥、小唄と、ライダーが交差。
左右から放たれた鋭い足刀が、バイクとライダーを蹴り抜いた。
バイクの車体と、ライダーのヘルメットに亀裂が走る。
一瞬、バイクは大きく傾き、ライダーのヘルメットが地面に接触。ヘルメットが砕ける。
そこにあったのは、髪を短く切り込んだ男の顔だ。顔には大きな火傷の痕。
バイクはしかし、止まらない。
加速し、その場を駆け抜ける。
「い、ってて」
交差した瞬間、ライダーの蹴りを貰ったようで、雷鳥は脇腹を押さえている。
「治療、しましょうか」
秋人が両手を広げると、淡い燐光が辺りに跳び散った。
きらきらと、月明りを反射する光の滴が降り注ぐ。
●月明りの夜空に
ライダーは走る。逃げるために。だが、逃げられない。復讐のために。
生まれたのは、海の向こうの小さな国だ。戦争の絶えない国で、何度も死にそうになりながら、それでも泥水を啜り、他人を殺して生きのびた。顔の火傷もその頃に負ったものだと覚えている。
それから、彼は大きな国の、マフィアに拾われることになる。
やることは同じ。人を殺して、金を貰う。
嫌気がさした。それでも、他に生き方を知らない。大きな国で貰った、バイクという乗り物だけは気に入っている。どこまでも速く、誰よりも速く、走れるから。
逃げられる気がした。
そして、この国に渡った。
だが、大きな国のマフィアは彼を逃がしてはくれなかった。
撃たれたのは住宅街の一角。死体は、誰にも見つけられることなく処理された。
撃ったのは、マフィアの殺し屋だろう。恐らく、丘の上から撃ったのだ。最後に見た、月の光が綺麗だった。
そして、気付いたらここに居た。
自分を撃った相手を探し、今もまだ、バイクに乗って走っている。
「ドーシテ?」
首を傾げ、リーネは呟く。
視界に映ったライダーは満身創痍。仲間が足止めしている筈では? と首を傾げる。
「バイクには私の攻撃は殆ど効かないデス。困りました……」
だからと言って、逃げるわけにはいかない。リーネは、土の鎧を身に纏い、肩に背負っていたライフルを構える。
地面に膝を突き、スコープを覗く。
ライダーはすでに、ライフルの射程圏内。ゆっくり、時間をかけて狙いをつけ、それからそっと、引き金を引いた。
空気の爆ぜる音。放たれた弾丸は1発。
正確に、バイクの前輪を撃ち抜いた。
バイクが倒れる。エンジンが火を噴き、タイヤの回転が止まる。
黒煙を吐き出し、バイクの機能は停止した。動かなくなったバイクに一瞥を投げ、ライダーは走る。
銃弾による牽制。最短距離でリーネの元へ。
「あとはB.O.T.でひたすら攻撃シマスヨー! 私に任せるのデース!」
ライフルから撃ち出す、波動の弾丸がライダーを襲う。
ライダーの放つ弾丸が、リーネの額を掠めた。
流れる血が、視界を赤く塗りつぶす。
激しい撃ち合いは、数十秒続いた。
ライダーはリーネの眼前に。リーネのライフルは、ライダーの額に向けられている。
ライダーの身体からは、泥のような黒い血が流れていた。
血に濡れたリーネの金髪が、彼女の頬に張り付いている。
「な、なかなかホラーな外見デスネ……」
引きつる口元。
リーネが引き金を引くより速く、ライダーの蹴りがリーネの側頭部を打ち抜いた。
衝撃が脳を揺らし、視界がかすむ。
追い打ちをかけるように、リーネの額にライダーの踵が叩きこまれた。
「あ……かはっ!!」
血を吐き、倒れるリーネに銃口が突きつけられた。
だが……。
「会いたい人、伝えたい事があるなら、そのお手伝いをしたい所でも有りますが……それは倒してからですね」
空気を切り裂き、疾駆する呪符がライダーのハンドガンを弾き飛ばす。
その隙に、ライダーの眼前を走り抜けた秋人が、リーネの身体を抱えあげた。
ライダーから距離を取り、リーネに治療を施す秋人。
ライダーが銃を拾うよりも早く、駆け込んだ小唄がそれを遠くへ蹴り飛ばす。
「バイクも銃も、もう使えない! もう終わりだよ!!」
地面を蹴って、小唄が跳んだ。鋭い足刀の連撃が、ライダーを襲う。ライダーは、それをいなし、或いは受けとめ、小唄の脚を掴みにかかる。
膝の関節を肘で押しあげると、ゴキンと鈍い音がして小唄の膝関節に激痛が走る。動かなくなった足を支点に、小唄の身体が回転。頭から地面に叩きつけられた。
関節を外された足を引き摺り、小唄が跳び起きる。
だが、体を支えることができずにその場に倒れ込んだ。
倒れた小唄にライダーが迫る。
「このっ! これでもくらえ!」
小唄は、スピンダンスのように地面に寝転んだまま回転。鋭い足刀を、ライダーの腕に叩きこむ。
ライダーの右腕が切断され、宙を舞った。
小唄の頭上を跳び超え、雷鳥がライダーに襲いかかる。
ライダーの蹴りが、雷鳥の腹部に突き刺さる。それと同時に、雷鳥の足刀がライダーの頭部を蹴り上げた。
血を吐きながら、雷鳥は身体を反転させる。
ライダーもそれに合わせ、雷鳥の頭部へと蹴りを放った。
2人の脚が激突。
打ち負けたのは、ライダーの方だった。猛の一撃。獣のような雷鳥の蹴りが、ライダーの脚を弾き退け、そのままライダーの胸に彼女の蹄が突き刺さった。
「ざーんねん、遅い上に足も短かったみたいねライダー」
ライダーは、静かに地面に膝を突く。
ゆっくりと顔をあげた彼の目に映ったのは、遠くの空に沈む月。
ほんの僅かに、ライダーは笑う。
東の空に太陽が昇ると、ライダーの身体も溶けるように消えていった。
地面に倒れ、荒い呼吸を繰り返す雷鳥。
近づいて来た秋人が、雷鳥へ手を差し伸べた。
その手をとって、雷鳥は上体を起こしてあははと笑う。
「それにしてもありゃプロっぽいね、運び屋か何かだったのかな?大事なものはこんでて事故ったのか、それとも、単にまた走りたかったのか……後者なら、仲良くなれてたかもね、暴走ってのは、楽しいもんよ」
彼の存在は、こうして誰に知られることもなく、月と一緒に空に溶けて消えた。
「んー、いい景色~、走り回りたくなる気持ちは非常にわかるけど、化けてでてあまつさえ人に迷惑かけるのはいただけないねぇ」
丘の上。沈んでいく月を眺め、風に髪を躍らせながら『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)が空に向かって背を伸ばす。
丘の上から、街を見降ろし姿の見えないライダーを探している。
雷鳥の頭上を、小さな鳥に似た生物がくるくると旋回していた。鈴白 秋人(CL2000565)の守護使役である。街と丘を暴走しているライダーの姿を「ていさつ」しているのだ。
「ライダーは何を探しているのか……。自分を轢いた車か、落し物……?」
「ンー、ライダーデスカ……。一体何を探しているのデショウネ? 少し興味ありマスネー」
ガードレールに背中を預け、秋人とリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)はライダーの目的を推測していた。だが、いくら考えても答えは出ない。
「気にはなるけど……。まずは、そいつを止めないと、だよね!」
拳を高く突き上げて、御白 小唄(CL2001173)がそう言った。
二手に別れて、数十分。雷鳥、秋人、リーネ、小唄の4人は丘を昇り、残る4人の仲間は街へ移動している。未だ、ターゲットである(ライダー)と(バイク)を見つけたという知らせはない。
時間だけが、刻一刻と過ぎていく。
もうじき、朝日が昇る。
風が一陣、月の見える丘を吹き抜けた。
●ムーンライダー
人気のない街の、交差点。信号機が、赤と青とを繰り返す。交差点の真ん中、住宅街へ向かう大通りを背に、飛鷹 葉(CL2001186)は上着のポケットに手を突っ込んだまま、コツコツと爪先で道路を蹴って、リズムをとっていた。
街灯に照らされた道路の向こうから、唸るようなエンジン音が響く。
「何かを探してるっていうことは、この世界に残したものがあるんでしょう? おとなしくすれば協力してやるから、今は叩きのめさせてもらうわよ」
ポケットから抜きだした彼女の手には、ハンドガン。
撃鉄を起こし、銃口をライダーへと向ける。
「見つけた? それじゃあ、空砲を打ち上げるよ」
葉が引き金を引くのに合わせ、『赤き猟犬』伊達 瑞貴(CL2001184)が低いビルの上で空砲を打ち上げた。
大きな音が、街に響いた。空砲の音に掻き消され、葉の撃った銃声は聞こえない。
銃弾を避けるために、ライダーがバイクを大きく傾け、進路を変える。
「近接戦闘ならこっちのモノ」
防御力を極限まで強化し、土の鎧に身を固めた信道 聖子(CL2000593)がライダーの前に立ち塞がった。片手に持ったブレードを、バイクの前輪目がけて突き出すが、ライダーはバイクの前輪を高く持ち上げることでそれを回避。
高速で回転する前輪が、聖子の頭部を削る。
土の鎧が砕け、聖子の額から血が流れた。聖子の身体が、大きく仰け反る。バイクは、聖子の身体に乗り上げ、そのまま加速。ロケットのように、空中を疾走し、地面へと降りた。
着地と同時にライダーは、片手に持ったハンドガンの引き金を引く。ライダーを狙っていた葉を牽制し、そのまま葉の隣をすり抜けて行った。
防衛線を突破したライダーの頭上に、影が落ちる。
「まずいねー、バイクが爆走してる件でパトカーがやられてるのはでかいね。うん。退治しないと」
ライダーの位置を確認するため、現場を離れていた天城 聖(CL2001170)が戻ってきたのだ。翼を広げ、空を滑空しながら聖は、ライダーに向けて杖を構える。
撃ち出されたのは、高圧縮された空気の弾丸。バイクの進路に着弾し、爆ぜる。
一瞬の暴風雨。バイクの動きが止まった隙に、葉たち3人がバイクの進路へ割り込んだ。
一方、その頃。
月の見える丘の上。
「このあたしが一手遅れるとはねー、むかつくぜ、先行ってるよ!」
空砲の音を聞くなり、雷鳥が走りだす。韋駄天足で強化された彼女の脚力を持ってすれば、街までの距離もあっという間だ。
「外れたー! くっそー!! 先に行くねっ!!!」
「回復役は俺しかいないし、先に行ってますね」
雷鳥から僅かに遅れて、小唄と秋人も加速し、駆け出す。
丘の上には、リーネだけが取り残された。
「オゥ……。残念ながら私は駆け付ける脚が無いので走って行くしか無いデスネー……。うー……走るのは苦手デース」
既に見えなくなった仲間の後姿を追いかけて、リーネもまた、街へ向かって走り出す。
空から街を見下ろして、聖は近くに人や車がいないことを確認。地上にいる仲間へと声をかける。
「味方の合流が終わるまでなんとかする!でいいんだよね。じゃあ指揮はヨロシクね、ヨウ!」
「ならバイクが走っている間はライダーが銃撃を行わないようにハンドガンで牽制。それで、聖子の元に誘導するようにしてもらいたいわね」
葉の指示に従い、聖は空気弾を放つ。ライダーの進路を塞ぐように放たれた聖の空気弾を回避しながら、ライダーはハンドガンを構える。
しかし、葉の牽制射撃に邪魔されて思うように狙いを付けることができないでいる。
さらに、建物の影から飛び出した瑞貴の小太刀が一閃。ライダーとバイクを切りつける。
「このタイミング……! 倒れ、ろっ!」
飛び出した勢いそのままに、ライダーへ向かって体当たり。バイクが大きく傾いた瞬間、ライダーはバイクを加速させる。
数回、タイヤが空転し、アスファルトを削る。排気ガスを吹き上げながら、バイクは弾丸のような速度で加速した。バイクに弾かれ、瑞貴の身体が大きく背後へと弾き飛ばされる。
マンションの塀に激突した瑞貴が、地面に倒れた。
加速するバイクの正面には、聖子の姿。先ほど削られた土の鎧も修復済みだ。
「聖子、頼りにしてるわよ」
そう言って、葉はナイフを構えた。
急加速したバイクは、そうそう簡単には進路をかえられない。この距離ではブレーキをかけても、間に合わないだろう。
激突。
衝撃で、地面が揺れる。
砕けた土の鎧が、地面に散らばる。
聖子の骨が軋む音。バイクは、排気ガスを吐き出しながら、それでも前に進もうとする。
「前に立つ以上は倒れる訳にはいかないわね……」
バイクに押され、聖子の身体は後退するが、それでもバイクを掴んだ手は離さない。
ライダーは、片手をハンドルから離すとハンドガンを聖子の額へと押しつけた。
聖子の頬を冷や汗が伝う。
「防御力だけなら自信があるから……遠慮なく横合いから殴ってちょうだい」
「もちろん。ライダー、何も言わないなら叩き潰すだけよ」
ライダーが引き金を引く直前、真横に接近した葉のナイフが閃いた。
ナイフが、ライダーの胸部に突き刺さる寸前、バイクが高く前輪を持ち上げた。ライダーが操縦したのではない。バイクは、バイクの意思でもって、ライダーを庇うために動いたのだ。
葉のナイフが、バイクのエンジン部分に突き刺さった。
一点に集中した破壊力が、エンジン内部で炸裂。衝撃が、バイクを貫いた。
エンジンが火を噴き上げる。ライダーの放った弾丸が、葉の脇腹を撃ち抜いた。バイクは加速。黒煙と、排気ガスを濛々と吐き出しながら、聖子の身体を弾き飛ばした。
加速したバイクの後輪を、聖の空気弾が撃ち抜くが、バイクはと止まらない。
後輪が歪み、その走りは酷く不格好なものだったが、それでもバイクは走っていく。既に、走行できることが不思議なほどのダメージ。
バイクの進路に、瑞貴が走り込む。小太刀を構え、バイクを迎え撃つ瑞貴の視界に、血を吐きながらバイクを追う葉の姿が映った。
「どいて、瑞樹。巻き込んでも知らないわよっ!」
高く振り上げた拳を、ライダーの背に叩きこむ。
爆裂掌。ライダーとバイクを殴りつけた葉の拳は、そのまま地面に突き刺さり、アスファルトを打ち砕いた。
跳び散るアスファルトの破片を、超視力で回避しながら瑞貴は跳んだ。
「ぅ、わ……っぶな……飛鷹さん、容赦無さ過ぎない……?」
炎を纏った小太刀を手に、瑞貴はバイクのハンドルに着地。ライダーは、銃底で瑞貴のこめかみを殴りつける。超視力でそれを見切り、紙一重で回避すると同時に、瑞貴はハンドルを蹴って跳び上がった。
ライダーの顎に膝を叩きこみ、大きく仰け反ったライダーの真上をすり抜ける。
その刹那。
両手に持った小太刀が閃いた。
炎の軌跡を描きながら、交差した斬撃がライダーの胸を切り裂く。
ライダーの身体が地面に落ちる。数回バウンドしたライダーは、それでも腕を伸ばし、バイクのハンドルを掴む。
ライダーを引き摺りながら、バイクは住宅街を駆け抜けて行った。
「ひ、人とパトカーが向かってくるよ! 皆、逃げて! 私は皆に知らせてくるから!」
どうやら、騒ぎを聞きつけられ、通報されたようだ。聖は空中で大きく旋回すると、丘を降りて来ているであろう仲間へ、ライダーの逃走を知らせるために飛び去った。
聖が雷鳥たちを見つけ、ライダーの接近を知らせた直後、彼女達の視界にライダーが映った。
その速度は、時速200キロに近いだろうか。黒煙と、排気ガスを吹き上げながら、こちらへ迫ってくる。
ライダーの構えたハンドガンの銃口が、聖を狙っている。
「……ぇ?」
銃声が一つ。
弾丸が、聖の翼を撃ち抜いた。
きりもみしながら落ちてきた聖の身体を、秋人が受け止める。傷口を手で押さえ、止血しながら治療を施す。淡い燐光が舞い散って、聖の傷口を塞ぐ。
「ライダーが何を探しているのか、それを見つけて突きつけることが出来れば、一瞬でも動きを鈍らせる事が出来るのではないかと思いますが」
「ごめん。まだ分かってないね」
痛みに顔をしかめながら、聖が答える。
ライダーを迎え撃つべく、雷鳥と小唄が駆け出した。
「景色いーもんねー、バイクで走ったら気持ちよさそ……はぁ、早く直してーぜ……。さて、すっとろいお客のお出ましだ」
「とーりゃー! 僕参上っ!!」
雷鳥、小唄と、ライダーが交差。
左右から放たれた鋭い足刀が、バイクとライダーを蹴り抜いた。
バイクの車体と、ライダーのヘルメットに亀裂が走る。
一瞬、バイクは大きく傾き、ライダーのヘルメットが地面に接触。ヘルメットが砕ける。
そこにあったのは、髪を短く切り込んだ男の顔だ。顔には大きな火傷の痕。
バイクはしかし、止まらない。
加速し、その場を駆け抜ける。
「い、ってて」
交差した瞬間、ライダーの蹴りを貰ったようで、雷鳥は脇腹を押さえている。
「治療、しましょうか」
秋人が両手を広げると、淡い燐光が辺りに跳び散った。
きらきらと、月明りを反射する光の滴が降り注ぐ。
●月明りの夜空に
ライダーは走る。逃げるために。だが、逃げられない。復讐のために。
生まれたのは、海の向こうの小さな国だ。戦争の絶えない国で、何度も死にそうになりながら、それでも泥水を啜り、他人を殺して生きのびた。顔の火傷もその頃に負ったものだと覚えている。
それから、彼は大きな国の、マフィアに拾われることになる。
やることは同じ。人を殺して、金を貰う。
嫌気がさした。それでも、他に生き方を知らない。大きな国で貰った、バイクという乗り物だけは気に入っている。どこまでも速く、誰よりも速く、走れるから。
逃げられる気がした。
そして、この国に渡った。
だが、大きな国のマフィアは彼を逃がしてはくれなかった。
撃たれたのは住宅街の一角。死体は、誰にも見つけられることなく処理された。
撃ったのは、マフィアの殺し屋だろう。恐らく、丘の上から撃ったのだ。最後に見た、月の光が綺麗だった。
そして、気付いたらここに居た。
自分を撃った相手を探し、今もまだ、バイクに乗って走っている。
「ドーシテ?」
首を傾げ、リーネは呟く。
視界に映ったライダーは満身創痍。仲間が足止めしている筈では? と首を傾げる。
「バイクには私の攻撃は殆ど効かないデス。困りました……」
だからと言って、逃げるわけにはいかない。リーネは、土の鎧を身に纏い、肩に背負っていたライフルを構える。
地面に膝を突き、スコープを覗く。
ライダーはすでに、ライフルの射程圏内。ゆっくり、時間をかけて狙いをつけ、それからそっと、引き金を引いた。
空気の爆ぜる音。放たれた弾丸は1発。
正確に、バイクの前輪を撃ち抜いた。
バイクが倒れる。エンジンが火を噴き、タイヤの回転が止まる。
黒煙を吐き出し、バイクの機能は停止した。動かなくなったバイクに一瞥を投げ、ライダーは走る。
銃弾による牽制。最短距離でリーネの元へ。
「あとはB.O.T.でひたすら攻撃シマスヨー! 私に任せるのデース!」
ライフルから撃ち出す、波動の弾丸がライダーを襲う。
ライダーの放つ弾丸が、リーネの額を掠めた。
流れる血が、視界を赤く塗りつぶす。
激しい撃ち合いは、数十秒続いた。
ライダーはリーネの眼前に。リーネのライフルは、ライダーの額に向けられている。
ライダーの身体からは、泥のような黒い血が流れていた。
血に濡れたリーネの金髪が、彼女の頬に張り付いている。
「な、なかなかホラーな外見デスネ……」
引きつる口元。
リーネが引き金を引くより速く、ライダーの蹴りがリーネの側頭部を打ち抜いた。
衝撃が脳を揺らし、視界がかすむ。
追い打ちをかけるように、リーネの額にライダーの踵が叩きこまれた。
「あ……かはっ!!」
血を吐き、倒れるリーネに銃口が突きつけられた。
だが……。
「会いたい人、伝えたい事があるなら、そのお手伝いをしたい所でも有りますが……それは倒してからですね」
空気を切り裂き、疾駆する呪符がライダーのハンドガンを弾き飛ばす。
その隙に、ライダーの眼前を走り抜けた秋人が、リーネの身体を抱えあげた。
ライダーから距離を取り、リーネに治療を施す秋人。
ライダーが銃を拾うよりも早く、駆け込んだ小唄がそれを遠くへ蹴り飛ばす。
「バイクも銃も、もう使えない! もう終わりだよ!!」
地面を蹴って、小唄が跳んだ。鋭い足刀の連撃が、ライダーを襲う。ライダーは、それをいなし、或いは受けとめ、小唄の脚を掴みにかかる。
膝の関節を肘で押しあげると、ゴキンと鈍い音がして小唄の膝関節に激痛が走る。動かなくなった足を支点に、小唄の身体が回転。頭から地面に叩きつけられた。
関節を外された足を引き摺り、小唄が跳び起きる。
だが、体を支えることができずにその場に倒れ込んだ。
倒れた小唄にライダーが迫る。
「このっ! これでもくらえ!」
小唄は、スピンダンスのように地面に寝転んだまま回転。鋭い足刀を、ライダーの腕に叩きこむ。
ライダーの右腕が切断され、宙を舞った。
小唄の頭上を跳び超え、雷鳥がライダーに襲いかかる。
ライダーの蹴りが、雷鳥の腹部に突き刺さる。それと同時に、雷鳥の足刀がライダーの頭部を蹴り上げた。
血を吐きながら、雷鳥は身体を反転させる。
ライダーもそれに合わせ、雷鳥の頭部へと蹴りを放った。
2人の脚が激突。
打ち負けたのは、ライダーの方だった。猛の一撃。獣のような雷鳥の蹴りが、ライダーの脚を弾き退け、そのままライダーの胸に彼女の蹄が突き刺さった。
「ざーんねん、遅い上に足も短かったみたいねライダー」
ライダーは、静かに地面に膝を突く。
ゆっくりと顔をあげた彼の目に映ったのは、遠くの空に沈む月。
ほんの僅かに、ライダーは笑う。
東の空に太陽が昇ると、ライダーの身体も溶けるように消えていった。
地面に倒れ、荒い呼吸を繰り返す雷鳥。
近づいて来た秋人が、雷鳥へ手を差し伸べた。
その手をとって、雷鳥は上体を起こしてあははと笑う。
「それにしてもありゃプロっぽいね、運び屋か何かだったのかな?大事なものはこんでて事故ったのか、それとも、単にまた走りたかったのか……後者なら、仲良くなれてたかもね、暴走ってのは、楽しいもんよ」
彼の存在は、こうして誰に知られることもなく、月と一緒に空に溶けて消えた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
