ふしだらな女王
ふしだらな女王


●失言ばかりを口にして
 涼しくなったのはいいことだ。極度から中程度になったことを実感する時こそ、四季を楽しめるものだと言ってもいい。
 虫の声が聞こえる。のんきなものだ。実際にはそうでもないのだろうが、怒られはしないだろう。だったら、少しくらい愚痴の相手に選んでもいい。
 公園のベンチに腰を下ろす。家まで待てず、コンビニのレジ袋に入ったカップ酒を取り出した。残業帰りに、こんなところで晩酌。あまり褒められたものじゃないとわかっているが、上等な人間に慣れる気もしない。それに、咎めてくれる相手もいないのだ。
 本当に、疲れていたのだろう。一口で体が熱くなった。明日風邪を引かなければよいが。そう思える程度には理性の残った僅かな酔い。
 だからだろう、声をかけたのは。
 美人だった。こんな田舎の住宅街には似つかわしくない。言い方は悪いが、高級娼婦とでも言ってくれたほうがまだ納得できる。それくらいには美人だった。
 おひとりですか。
 気取って言ったものだ。ドラマか映画で見たものを、たまたま覚えていたんだろう。だが、ナンパの類だなんてこれまでやったこともない。酒の勢いとはいえ、少しでもきっかけができれば、そんな下心があった。
「ええ、その、なんだか寂しくて」
 女には疎い。思わず誘っているのではと思ってしまった。だっておかしいではないか。こんなところでこんな美人がいるだなんて。そういうような目的だと思われても仕方ないではないか。だから、
 よければ私の家に来ませんか。
 などと、図々しくものたまったのだ。
 バカバカしい。今から思えば本当にバカバカしい。危機意識がかけているとしか言いようが無い。自分で言っていたではないか。こんなところに美人がいるだなんておかしいと。
 そうだ、おかしいのだ。
「そうですね、いいかもしれません。それにあなた、とっても、おいしそう」
 ほら、もう腹の中だ。

●見間違えて憤慨するばかりなら
「古妖の類であると推定されます」
 渡された資料を元に、無機質な説明だけが続く。
 そこに感情はない。それだけ、緊急のものであるのだと理解させた。
「見た目は成人女性ですが、関節を無視した動きから既存の生物に当てはまるものではありません。動物的な常識からの弱点は期待しないほうが良いと思われます」
 日時、出現場所。細かく特定できているが、一切の余裕は伺えない。殲滅に専念し、周到すぎるほどの準備が必要なのだと言われている。
「対象は人を食べます。その上、放置すれば成長も考えられます。必ず、現時点での討伐を行ってください」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:yakigote
■成功条件
1.古妖の討伐
2.なし
3.なし
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
古妖が発生しました。非常に食欲旺盛で、その対象に人間を含みます。
一刻も早く打倒してください。

●エネミーデータ
妖怪『汚泥口縄』
・基本は人型。成人女性の背格好をした妖怪です。食べるときに異常なほど大きく口が開いたり、腕を切り離したり、また生えてきたりと自在に自分の部位を操ります。また、切り離した部位も1ターンは自立して行動します。
・毎ターン開始時に小型の生物を2体産み落とします。ステータスは別記します。
・【捕食】生物を捕食することでステータスの一部を同一戦闘中上昇、また回復を行います。この行動は自分の手番でのみ行い、その手番での行動を消費しません。捕食対象に禍津雛を含みます。
・体力が低下すると行動の一部が変化します。半分以下で素早くなります。回避・反応速度が上昇し、2回行動を取るようになります。3割以下ですべての攻撃が範囲化します。


『禍津雛』
・汚泥口縄に産み落とされた仔。どろどろの肉の塊に眼球と口が不揃いに浮かんでいる。足の代わりに人間の指が生えておりフォルムだけで言えば蜘蛛に似ている。
・産まれた直後は覚者の攻撃1~2発で倒せる程度だが毎ターン成長し、3ターンでランク1の妖程度にまで成長。5ターンで自爆する。
・【自爆】近物列貫通:生まれてから5ターンで自爆します。物防無視。何らかのバッドステータスを被っている場合、この行動はキャンセルされ、他の行動を取ります。

●シチュエーションデータ
住宅街の公園
・夜間。街灯があるので昼間ほどではありませんが、視界は確保可能でしょう。
・居住区にあたります。そのため、一般人が現れてもおかしくはなく、また、逃せば大損害が発生すると考えられます。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月20日

■メイン参加者 8人■


●ただその時ばかりは楽しいのに
 感謝して食べるということは、自己満足のためにやるものなのだと私は思うのだ。だって、生命を得るということを、生命を摂取するということを、尊ぶという割にはやっていることが妙に残酷ではないか。生命をくださることに感謝します。あ、弱火でじっくり焼いたほうが火の通りが良いですよ。

 秋が狭まっているような錯覚を、最近覚えるようになった。気温によっては半袖で過ごすこともあるこの季節は、まだ夏が残っているのだと脳が錯覚しているせいだろうか。それとも、逆に薄めのコートを着て行っても夜中には正解を確信するそれを冬が進んでいると誤認しているからだろうか。
 ともかくも、昼間はやや汗ばむほどであったというのに、日が沈めば上着なしでは過ごせない。それくらいの、ちぐはぐな、それでいて穏やかな季節。実り、分かち合うこの時。
 それでも、いつだって彼は隣りにいる。彼らは手を伸ばせそうなほど君の隣にいるのだ。
「……今回の妖、あの時の事を思い出してしまう」
『笑顔の約束』六道 瑠璃(CL2000092)の家族は、目の前で妖に殺されている。殺されて、食べられている。目に焼き付く光景。忘れられない激情。心的傷害。おかげで、日々食べていくことすらままならない。生き物が進化の末にたどり着いた結論を拒絶している。
「もう誰も、あんな風に殺させてたまるか。オレは生き残ったんだから、もう誰もオレの目の前で殺させたりなんてしない」
「人喰いの古妖、ね。古妖という割には、今現在成長過程にあるのね。元々はもっと小さかったのかしら。こちらの妖怪はよくわからないわね」
 古い妖。エンシェントアパリション。あたかも完成しているような語感であるのにと、『女帝』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496) 。元は赤子のように小さかったのだろうか。そもそも生まれすら定かではないのだが。
「まあ、これ以上被害を増やすわけには行かないし。確実に、油断無く倒しに行くわよ」
「人の姿をした、人を喰らう古妖、ですか」
『レヴナント』是枝 真(CL2001105) が手渡された資料に再度目を通している。
「確かに強いのでしょう、危険なのでしょう。ですが、この世で最も恐ろしいのは、人間です。貴女のソレは所詮食事だ、ついでに殺しているだけだ。何かを殺すことを、極限まで突き詰めた生き物は、人間だけ。その、人間というものの怖さを、貴女に思い知らせてあげましょう」
 握りしめた手の中で、紙面がくしゃりと顔を歪ませた。
 汚泥口縄。オデイカガチ。その特徴的な名前から、九段 笹雪(CL2000517)は推察する。
「元々は蛇なのかな、口縄というし」
 カガチ、という言葉そのものが本来は蛇を表すものだ。蛇神を指していうこともある。八岐遠呂智や大物主櫛甕玉あたりが有名か。海外では悪魔の代表でもある。どういった類とみなせようか。まさか、フロイト的な解釈はあるまいが。
「蛇は結構好きだけども人を食う奴は古妖でもアウトだね」
 白熊の方がずっと良い。
「ファイブに来てけっこう経つけどさ、怖いのは全然慣れないな」
 人を食らう異形。人間を主食とするもの。『B・B』黒崎 ヤマト(CL2001083)には、想像だけでもたいそう恐ろしい。危険な相手だとも聞いている。油断すれば次の晩餐は自分たちだろう。ミイラ取りが跡形も残させてもらえない。準備は整えてきた。だが、その時間があるほど頭のなかをめぐる得体のしれない恐怖は自分の足を竦ませる。
「でも、オレたちが頑張らないと。気合入れる!」
「奴の生は人に害を成す」
 八重霞 頼蔵(CL2000693)がひとり、決意を固めている。人間を食べる。それが悦楽のためか、生命維持のためかはわからない。否、両方であるとも考えられるだろう。少なくとも、自分たちはそうだ。焼いた肉に、塩もソースもかけねば食せたものではないのだから。
「人は人を喰う化け物を許容できるほど強くも無い。双方に理由があり、妥協点も無いなら答えは一つしかない……消すか、消されるかだ」
「古妖の中には色々なタイプが居るんですね」
 一概的に危険存在である妖と比べて、古妖というやつは多種多様である。人間に友好的なもの、人間に害をなすもの、人間に無関心なもの。お互いにその存在を知覚できていない相手だって居るのかもしれない。大まかに分けられた埒外。それらを古妖と呼ぶのだろう。鈴白 秋人(CL2000565) は与えられていた知識を、改めて飲み込んだ。
「それを食べなければ生きていけないとはいえ、今回は討伐させて頂きます」
「これまでにない厄介な妖のようだな、気を引き締めて行こう」
 水蓮寺 静護(CL2000471)が己の鞘紐を締め直す。少しだけ大きく、息を吐いた。まだ吐息が白くなるほど季節は進んでいない。前情報を頭のなかで反芻する。人のような形。それは非常に面倒なものだ。人間というやつは、見た目が似ているというだけで仲間意識を持ってしまうのだから。だから刃が鈍らぬよう、心のなかで繰り返す。食べる。食べるのだ。人を食べているのだ。
 それだけで十二分。鍔をひとつ鳴らし、靴底でアスファルトと砂利を擦り合わせる。ではここより先、人外が混じる。

●後になって思い返して見るたびに
 ぶたくん、君がおいしくなるように餌を改良したからおいしくなっとくれ。ぶたに言葉が話せるのなら、彼は抗議しただろうか。それとも
、そこまでが寿命なのだと受け入れるだろうか。分からないし、分かりたくないし、聞きたくもなく。今日も食卓は色鮮やかです。

 住宅街、夜の公園。風で少しだけ揺れたブランコがきいこきいこと音をたてている。
 その真ん中に、女が立っていた。見目に良いということはできるが、こんな場所に不釣り合いであるとの違和感がどうしても拭えない。
 色街ならばいざ知らず、このような場所では眉を顰められるだろう。つまりは、そういう格好の女だった。
 人は美的感覚の優劣に騙されやすい。こんなにも異質であるというのに、話しかけられれば頬の緩む男はごまんといるだろう。つまり、アレは提灯のようなものなのだ。ルアー。撒き餌。
 よってあれがそうなのだろう。あれの本性は魔的であるのだろう。

●嫌気がさして後悔に飲まれて
 勝利とは食えるということだ。それを傲慢などと名付けたのは食べる方だ。

 古妖と対峙してすぐに、瑠璃は思わず舌打ちすることを止められなかった。
 発見後、自分たちは展開。囲い、包む布陣を取りたくはあったのだが、こちらを発見した汚泥口縄は迷うことなく踵を返したのだ。
 考えてみれば、夜間にわざわざ男を誘って狩りを行うような相手である。警戒度は高い。戦うにせよ、逃げるにせよ。囲むように現れた異種族にそのまま立ち尽くすはずもなかった。
「逃がしたりしない……いや、こいつはここで殺す! その首、狩り落としてやる!」
 大鎌をわざと大振りに薙ぐ。防がれはしたが、一瞬の足止めには成功だ。陣形を立て直すだけの余裕はない。正面から向き合う形にはなったが仕方がない。逃げる間にもこれは自分の仔を生み出し続けている。拘っていては足が止まるのはこちらの方だ。
「もうお前みたいなやつは現れなくっていいだろ!! 腹が減ったから食い殺すのか? それとも、殺す手段として食うのか!? 人間と同じかって聞いてるんだよ。人間と同じで、命を奪う意味を分かってるのかって聞いてるんだよ!!」

「大丈夫? 今癒すわね。油断せずに行くわよ」
 エメレンツィアの生み出した水滴。彼女の手のひらで踊るそれは仲間の傷口に飛び付着すると、痛々しい肉の色はたちまち元の肌を取り戻していく。
 戦闘開始から数分。まだ余裕はあるものの、悠然と構えられるだけのものではない。それに、この後のほうが厳しい相手だと聞いている。今の間に余計な傷を残して攻め手を鈍らせてはいけないだろう。
 肩口をえぐる攻撃。それを受けた仲間に向けて、また水滴の群れを飛ばす。その時だった。
 がさり。
 異音。戦闘の最中、自分でもよく聞こえたものだと思う。
「来ては駄目よ! 危ないわ、帰りなさい!!」
 住宅地付近の公園。結界を張ったところで、これだけ人間の近い場所だ。効果が薄いことはわかっていた。
 振り向き、警告を飛ばした瞬間。押し倒される。こめかみから地面にたたきつけられた。
 回る視界。ただの人間に向かい走る古妖。止めろ。止めろ。誰が、誰が止められる。誰が逃げられるというのだ。その身を盾にせず、誰が。

 戦場に迷い込んだ某と、それを喰らい血肉に変えようとする古妖。その間に割って入ったのは笹雪だった。
「こんばんは、お姉さん。しばらく一緒に遊んでって!」
 笹雪は正面切っての戦闘にけして向いているわけではない。今でこそ身体を張り、口縄の攻撃を受け止めはしたものの、長く持たないことは自分でもわかっている。
 だが、それで問題はない。目的は達したのだ。迷い込んだ誰それの走り去る気配を感じている。安堵。恐怖に足を竦ませでもされたなら、守りながらの戦いになるところだった。
 ヒトカタのそれを向かわせる。仲間が追いついたのに合わせて、一歩を引き、距離をとった。
 無理やり受け止めて負った傷を仲間に癒やしてもらいながら、汚泥口縄へと話しかける。
「少し興味はあるんだ。人って美味しいのかな。食材にするだけの価値は本当にあるのかな。お姉さん的には反撃にあうと分かっても、人ってご飯として魅力的?」
「そこの木陰に生えているキノコを食べる勇気ってある? まあ、そういうことなのよ」

「行くぜレイジングブル! アイツを止めるんだ!」
 炎を纏わせた一撃。炎熱による攻撃を行い、ヤマトは古妖へと熱傷を負わせることに成功する。その瞬間、正直やめとけばよかったと半ば後悔に陥った。
 焼けた部位が、ずるぅりと小削げ落ちたのである。狙ったのは腕だった。白い肌に刻まれた痛々しい火傷の痕。その腕は次の瞬間、古妖の肩から泥のように落ちるとしばらくじたばたともがいて溶け、地面に消えていった。
 生え変わり。新しくなった腕で殴りかかっている。必死で気持ちを切り替え、受け止めた。
 効いていないはずはない。ただ、治まっただけなのだ。
 その証左、武器を構えれば、ありえない速度で攻撃が来た。先程までと比べて尋常ではないスピードで動き、こちらに向けて攻撃してきたのだ。
 次の段階に移行している。それはダメージが蓄積した証明である。
「ここで踏ん張らなきゃ男じゃない! 考えてる間に足を動かせ。魂に火をくべろ! 行くぜ! 恐怖を勇気で塗り替えろ!」

 背中。露出したそれから粘土細工を千切るように。それは仔、禍津雛を生み出している。
 頼蔵はそこに手にした西洋刀を突き込んだ。燃えるそれは表面を焼く。だが、次の瞬間には刮げ落ち、生え変わっている。
 無意味。仔の生成を鈍らせられたならと思っての行動だったが、成果がないのであれば続ける意味は無い。次の攻撃を繰りだそうとした矢先、味わったのは抱擁感であった。
 抱きしめられている。それが捕らえられたのだと気づいた時には激痛を感じていた。
 痛い。攻撃を受けたのはどこだ。痛い。口の中が涼しい。痛い。違う。口が露出している。噛みちぎられたのは、痛い、頬だ。頬の肉を食われたのだ。混乱する。これはどれほどのダメージに値するのだ。痛い、痛い。致命傷は、違う。戦闘に集中しろ。痛い。振りほどけ。近い。顔が近い。美しい顔。口周りが血で汚れている。自分のものだ。痛い。首にキス。くちづけ。違う。接吻は歯を立てない。脈を毟らない。肉を、噛みちぎらない。

 生み出したばかりの我が仔を手に取ると、肉に眼球と口が浮かんだだけのそれを汚泥口縄は迷わず口にした。
 咀嚼、嚥下。負っていたはずの傷が癒え、威圧感が増す。それを見る真の胸中は苦いものだ。
 残った一匹は危うげなく処理する。生み出される二匹の仔。はじめは問題なく処理できていたのだ。だが、古妖の速度が増してからは別の話だった。
 追いつけない。メンバー内で最速であるはずの自分が、汚泥口縄に追いつけないでいるのだ。
 生み出される仔。それを食し、自らを癒す古妖。その度に力を増していく。
 火力が足りない。ここに来て、明らかに戦闘が鈍化している。かといって生み出される、産み落とされる禍津雛を放置するわけにもいかないのだ。
 超低空の斬撃。手応えを感じるのは片腕だけだ。もう片方は空を切る。刃を振り上げたというのに、切られる前に胃の中だ。
「殺さるのは、必然なんですよ」
 口にはするものの、焦燥感が拭えない。

 今の状況は秋人にとって非常に歯がゆいものだ。
 敵の行動速度、攻撃範囲があがり、今もなおその威力が上昇し続けている。そのため、回復に手一杯で此方側が思うような火力を出せていないのだ。
 お互いに回復しながら、削りあうダメージレース。時間が経過するほど厄介なこの状況で、短期決戦を仕掛けたいのは山々であったが、治癒に徹するべきだと自分を律していた。
 だが、ひとつのことに集中せざるを得ない状況がかえって自分の中で疑念を生む。
 本当に正しいのだろうか。自分も攻撃に加わるべきではないのか。延命は必要だ。しかし徒に時間が経過する危険性も同時に孕んでいる。
 目の前の大傷が自分をそのルーチンに引き戻す。歯がゆい。歯がゆいと感じている。既に何人かは倒れている。彼らも回収せねば汚泥口縄の腹に収まる可能性もあるのだが、そこに気を回すだけの余裕もなかった。
 ただ、祈る。癒しながら。戻しながら。このダメージレース。勝っていることを祈るしか無かった。

 張ったはずの水の鎧ごと、静護は敵に切り裂かれていた。
 肩から、脇腹。教科書にのせたいほどの、お手本のような袈裟斬り。胸骨から肋骨にかけて、折れる。直後に血を咳込んだのは、骨が肺に刺さったせいか、それとも一撃が肺にまで達したのか。
 咳き込んで身体をくの字に曲げた矢先、飛来した肉の槍が喉を貫いていた。
 声を出せなくなる。詰まった音だけが口から漏れ、血泡が溢れた。
 絶命。
 その単語が脳裏をよぎるや否や、無理矢理にその気味の悪い色をした槍を引き抜いた。血が溢れ出る。通常であれば自殺行為だ。それは数秒か数十秒かの違いでしか無かったが。問題ない。爆発的に溢れだした癒やしの水流が傷を塞いでくれる。
 生命を消費した。矛盾するようだが、それにより未だ、失われてはいない。
 一難を去る。だが、それは非常に拙い情報を得たのと同じであった。今や古妖は怪物に成り果てた。
 自分の造りだした衣すらも容易く引き裂くほどに。


●自己嫌悪を繰り返す日々
 おかあさん、今日の晩ごはんなあに。

 退こう、といった。
 誰が言い出したのか、とか。誰が先に動いたのか。
 そんなことはどうでもよい。皆が同じ気持であったからだ。これ以上は戦えない。これ以上は死体が転がるだけ、否、骨まですべて食われるだけだ。
 故に、行動は早かった。
 倒れた仲間を抱え上げる。このまま放置すれば間違いなく食われるだろう。
 敵は素早い。だから散り散りに逃走する。
 振り返らない。振り返って足を遅める愚行をおかしたりはしない。
 合流地点は頭に入っている。通信手段に乏しい以上、逃走経路や集合場所は予め打ち合わせている。
 走る。走る。走る走る走る走る。
 足が重くなり、ついには立ち止まった頃。
 振り返ると、何も追ってきてはいなかった。
 撒いたのか。自分の方を追っては来なかったのか。
 汗が噴き出る。
 ただ悔しくて、だが叫ぶわけにもいかず。
 押し殺して、奥歯をただ噛み締めた。
 了。

■シナリオ結果■

失敗

■詳細■

MVP
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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