水難の妖に注意せよ
●とあるビーチにて
降り注ぐ日差しが眩しい。
熱い日が続く中、海開きしたビーチは多くの人で賑わっていた。
「混んでるなー」
「まさか、ここまで人が多いとはねー」
「あっちに行ってみるか」
夏の海を楽しみに来ていた三人の学生達が、もう少し空いているところはないものかと移動する。彼らは知らず知らずのうちに、遊泳禁止区域まで来てしまっていた。
「お、こっちは人がいないな」
「でも、ここ入っていいのかな?」
「大丈夫じゃない? ほら、他にも何人かいるじゃん」
指差す方向には四つの人影が見えたため、三人は水際に近付いていく。だが、立っていたのは人ならざる者――体が水で出来た妖だった。
「な、なんだ、こいつらは!」
気付いた時には遅い。
水の塊が、学生達の体を掴み。悲鳴と共に海の中へと引きずり込む――
「覚者のみなさ~ん。今回は、集まってくれてありがとうございます~」
夢見の久方 真由美(nCL2000003)が、皆に依頼内容を説明していく。夢という形で未来を見ることが出来る彼女が、ある事件を予知したのだ。
「あるビーチの遊泳禁止区域で、人を襲う妖が出ることが分かりました。自然系の水の妖だと思われます~」
出現する妖は四体。
放っておくと、そこを訪れる学生三人が襲われてしまう。出来れば、その前にこの水の妖を退治して欲しいというのが今回の依頼だ。
「問題の遊泳禁止区域に、人が踏み入れば相手は出現します。あと敵は自然系の妖なので、物理攻撃は効果は薄くなっちゃいます~。その点には気をつけて下さい~」
最後に真由美は、覚者達一人一人の目を見て微笑んだ。
「どうか、お気をつけて。覚者のみなさんの、ご活躍に期待しています~」
降り注ぐ日差しが眩しい。
熱い日が続く中、海開きしたビーチは多くの人で賑わっていた。
「混んでるなー」
「まさか、ここまで人が多いとはねー」
「あっちに行ってみるか」
夏の海を楽しみに来ていた三人の学生達が、もう少し空いているところはないものかと移動する。彼らは知らず知らずのうちに、遊泳禁止区域まで来てしまっていた。
「お、こっちは人がいないな」
「でも、ここ入っていいのかな?」
「大丈夫じゃない? ほら、他にも何人かいるじゃん」
指差す方向には四つの人影が見えたため、三人は水際に近付いていく。だが、立っていたのは人ならざる者――体が水で出来た妖だった。
「な、なんだ、こいつらは!」
気付いた時には遅い。
水の塊が、学生達の体を掴み。悲鳴と共に海の中へと引きずり込む――
「覚者のみなさ~ん。今回は、集まってくれてありがとうございます~」
夢見の久方 真由美(nCL2000003)が、皆に依頼内容を説明していく。夢という形で未来を見ることが出来る彼女が、ある事件を予知したのだ。
「あるビーチの遊泳禁止区域で、人を襲う妖が出ることが分かりました。自然系の水の妖だと思われます~」
出現する妖は四体。
放っておくと、そこを訪れる学生三人が襲われてしまう。出来れば、その前にこの水の妖を退治して欲しいというのが今回の依頼だ。
「問題の遊泳禁止区域に、人が踏み入れば相手は出現します。あと敵は自然系の妖なので、物理攻撃は効果は薄くなっちゃいます~。その点には気をつけて下さい~」
最後に真由美は、覚者達一人一人の目を見て微笑んだ。
「どうか、お気をつけて。覚者のみなさんの、ご活躍に期待しています~」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖を殲滅する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
βシナリオをお送りします。
よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年08月16日
2015年08月16日
■メイン参加者 8人■

●
「もう夏も真っ盛り……そうか。海水浴の季節なんだな」
燦々と照りつける太陽。目の前のビーチでは多くの人々が、夏の海を楽しんでいた。『焔の鉄拳』鷺坂・郁未(CL2000115)は眩しそうに目を細める。
「日本の夏は暑いね。世界がサウナになったみたいだよ」
シルクハットにロングコートという出で立ちの、リトル・フェイカー(CL2001091)が肩をすくめた。
「けど海で遊ぶ人達には共感もあってね。少し故郷が懐かしいかな」
季節や場所に想いを馳せる者もいれば、これからのことに胸を膨らませる者もいる。
「とにかくワクワクするね。神秘のカタマリ、妖をこの眼で見て観察できて、自分で殺すこともできるなんて!」
観嶋・亜李果(CL2000590)は腕を鳴らす。亜李果は、源素の謎に多大な興味を持ち、その神秘を解明することに情熱を燃やす覚者だ。
「一緒に戦う仲間の力も見れるし! その上人助けになるなら、言うことなしかな」
妖と接触できて源素と関われる機会に、上機嫌になるのも当然だ。
「わー、可愛い!」
「何度もいいますけど、子ども扱いはやめてね。これでもみんなより年上なんですからね」
そう自分を取り囲む学生たちに声をかけているのは『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)だ。ビーチで遊ぶ学生たちに遊泳禁止区域に入らないよう作戦開始前に注意して回っているが、一向に効果は上がっているようにはみえない。
「お嬢ちゃんは一人?」
「迷子かな?」
本人は気付いていないが効果がないのもムリもない。中学生かという幼さの残る容姿に加え、イエローを基調としたワンピース水着姿に麦藁帽子姿で教師であることを信じろというのがムチャなのだ。
「ううっ……年上なのに……年上なのに」
ぷっくり頬を膨らませて仲間との集合場所に向かっていたが、首をフルフル振ると
「みんなにはのびのびと楽しんでほしいし、がんばんなきゃね。……でも、みてなさい! なによっ! 背が低くて、子どもっぽくったってやれるんだから!」
学生たちのことを心配しつつも、気にしているところを刺激された御菓子はぐっと拳を握ると、天に突き上げた。そう、やる気以上に彼女の負けん気に火がついていた。
●
先程のビーチとはうってかわり。
遊泳禁止区域には人気なく、シーンと静まり返っていた。聞こえてくるのは波の音のみ。
だが、覚者達が一歩足を踏み入れると、その様は一変。夢見の予知通り、海から人間大の水の塊が四体現れる。
「ゴオオオオオオオオ!」
水の妖は口らしき穴を開くと、威嚇するような轟音を放つ。異形の怪物を前にして、『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)は素早く結界を張った。これは現場への一般人の侵入を予防するためだ。
「結界の構築が終わりました、では、全力を尽くしましょう」
誠二郎の言葉に、仲間が頷く。
妖達は、覚者達を海に引きずり込まんと陸まで上がってノロノロと近付いてくる。
(これなら海から離れたところで戦えるね)
超視力で油断なく状況確認をする亜李果をはじめ、覚者達は充分なスペースがある海岸で待ち構える。誠二郎も陸地に誘い込むつもりだったのでちょうど良い。フェイカーはその間に、前衛の味方に水衣を使って全体の守りを固めた。
「遊泳禁止区域に出る化物か。人に仇なすなら狩るまでだ」
力を解放し、覚醒。
現の因子により十八歳当時の姿へと変化した『疾風のメス』龍月・凍矢(CL2000474)が、戦闘の口火を切る。神秘の力が込められた水のしずくが高速で放たれて着弾。最も近付いてきた妖の体を貫通する。続いて、魂行 輪廻(CL2000534)も水礫で狙い撃ちすると、相手の前進が止まった。
「うん、効いているわよん。今回はシンプルな殴り合いかしらねん?」
童顔にもかかわらず、輪廻の顔に常に浮かぶ笑顔には妙な艶がある。着崩れた着物から覗く素肌には、彩の因子の持ち主であることを証明する、紫に光る刺青が輝いていた。
「アタシは遠近どっちも単体しか持ってないのよねぇ」
ぶかぶかなローブは体型すらも隠す程。
変声機を使っているのか男とも女とも付かない中性的な声――『愛と平和と狂気を愛する』ルートウィヒ・プリン(CL2000447)が使うのは木行の技だ。妖に種を付着させるとそれが瞬く間に急成長した。棘一閃による、鋭い棘が相手に裂傷を負わせる。
「Let’s fight(さぁ、戦闘開始だ)」
肩口からの黒い翼をはばたかせて、フェイカーは宙へと飛行する。これは翼の因子の作用である。足場が悪い場所に敵が展開したら、皆が戦いやすい場所への移動・誘導を助ける心積もりだ。
郁未と亜李果は醒の炎で、体内の炎を活性化させた。
なんだかんだいっても事件の予知が気になる御菓子は、守護使役のカンタで空から遊泳禁止区域に近付くものがないか監視させる。
「こんなのに居座られては楽しく遊ぶこともできないですし、早急に排除させて戴きましょう」
誠二郎の黒い瞳と髪が、瞳は赤に髪の色は銀に変色している。覚醒時に髪と目の色が変化する、暦の因子の特徴だった。
●
「情報では物理攻撃はあまり効かない。と言うことだが……物理攻撃のが得意というか……火行は余り得意ではないんだよな」
とは言えやってみるか……!
近接戦闘が専門の郁未は、敵のすぐ近くに位置取り拳を握る。
「とりあえずぶん殴らせて貰うぜ!」
ゴチャゴチャ考えるのも面倒くさい。
赤い刺青が光輝く。五織の彩による高精度の一撃が、妖に炸裂した。強化された肉体によって繰り出された文句なしのヒット。
問題は、これがどれくらいの傷を与えられるかだが――
如何せん。
本来ならば有効打になる攻撃も。
自然系の妖である、今回の敵にはイマイチ効果が薄い。水の塊である相手に、拳は暖簾に腕押し程度の衝撃しか伝わらない。
「……こいつは、厄介だな」
全く効いていないわけではないものの。
物理攻撃で削り切るのは骨が折れそうだ。
「水の妖……確かに体術では効果が薄そうですね。ですが戦えない相手では無い」
誠二郎は木行のスキルを武器を経由して発動させる。
植物の蔓が鞭のようにしなった。
「術でなければ効果が薄いのであれば、僕の木行を存分に味わわせてあげましょう」
深緑鞭によって打ち付けられた妖は、怯むように体を縮こまらせた。
先程の郁未の物理攻撃とは対象的な反応である。続けて、亜李果が最もダメージを受けている同じ個体に向かう。
「これが自然系の妖か。なかなか面白いね」
普段は目を細めて無表情気味の亜李果だが。
神秘を前にして嬉しげに目を見開く。瞳と髪の色も青に変化しており、彼女自身も神秘の力を宿している。炎を武器に纏わせた烈火の如き炎撃が、水の塊である妖の肉体を深々と抉る。
「グアアアアア!」
それは怪物の悲鳴なのか。
耳鳴りのする響きと共に、炎の威力により妖の身体の一部が蒸発した。
(五行的に考えると相性は余り良さそうではないが……と思っていたが。そうでもなさそうだな)
郁未は敵の苦しむ様を観察する。
今回の敵に関していえば、物理攻撃以外ならば全般的に効果が高いようだ。
その点に気をつけさえすれば……
と覚者達が認識を同じくした瞬間、妖達が大きく動き出す。
「ゴオオオオオオオオ!」
四体の水の妖。
その水の塊でできた巨大な腕が、覚者達に襲いかかる。
「くっ」
まるで、大重量の津波を叩き付けられたような衝撃。
やはり、相手も常識で推し量れる存在ではない。
普通の人間ならばただでは済まぬであろう脅威に、前衛を担当していた者達は勇猛に耐える。
「みんな、大丈夫? すぐ回復させるから」
御菓子が癒しの霧で、忙しく仲間を癒す。
どうやら攻撃を受けた妖達が、明確にこちらを戦うべき敵だと判断したようだった。覚者達は、より神経を尖らせて戦闘に臨む。
「敵に臆するとこはないけど、注意は必要かな」
フェイカーが敵の様子をうかがいながらエアブリッドを放つ。
高圧縮した空気が打ち込まれ。
一瞬の間。
相手は轟音と共に衝撃を受けて、その腕が四散する。
「見たところ、そいつが一番深手だね」
各個撃破の好機だ。
仲間とコンタクトをとりながら、フェイカーは飛行する。他の面々も心得たもので、弱っている個体に狙いを定めて連携した。
「早く片付けないと、誰か来ちゃうかもしれないしねん」
「私は戦闘に集中ねぇ。えいっ♪」
プリンが木行を使えば、輪廻が水行で攻撃をくわえる。
「物理攻撃の手応えがないなら、こっちならどうだ!」
郁未の力を込めた拳――特殊通常攻撃で殴られた水の妖が盛大に後ずさる。五織の彩のときと比べても、効果のほどは歴然だった。
「どうやら、こっちの方で仕掛け続けていった方が良さそうだな」
有言実行とばかりに、立て続けに攻撃が浴びせられる。
最も前に出ていた一体の水の妖は、その猛攻に体を大きく揺らした。その隙を覚者は逃さない。
「五行相克、水克火!」
凍矢の疾風のような一撃が通り抜け。
先頭の敵はゆっくりと崩れ落ち――存在そのものが跡形もなく消滅した。
●
「へえ。今回の妖は、倒すと消えるんだね」
亜李果が興味深げに見やる。
残りの敵は三体。
仲間が倒されたことに怯んだのか。水の妖達はざわざわと後ずさり始めた。
「逃げる気かしらねえ」
「予知のような事件が起きる可能性がある以上、逃がすわけにはいきませんね」
「同感だ。人を仇なすものを野放しには出来ない」
「逃がしちゃ元も子もないしね」
プリンの言葉に、誠二郎が動き凍矢や亜李果達も続く。
覚者達は、距離を詰めて妖を追撃した。
(折角の海での悲劇なんて可哀想なことは回避させてあげたいから、私も頑張ろう)
忙しく動き回る対象に、フェイカ-は集中して的を絞る。亜李果も同じく一旦仕切り直して命中率を上げた。
「まあ、倒れるまで殴れば良いんだろ?」
郁未の鉄拳が見舞われて、水の妖はくの字に折れる。
仲間達も攻撃の手を緩めない。
「ゴオオオオオオ!!」
「うん?」
「今度は何だ?」
妖達は力を溜めるように全身を震わせる。
そして、撃ち出されたのは水を圧縮した塊――弾丸のような水鉄砲。
遠距離からの貫通する散弾だ。
「こちらも弾幕を張る」
凍矢は負けずにB.O.T.で対抗する。
後衛との間に位置取り。敵の攻撃や敵自体が後ろまで攻め込めないように撃ち合う。
「おっと、危ないね。貫通攻撃に巻き込まれないように注意しないと」
フェイカーは巧みに立ち位置をずらすなどして、多人数が的にならないように工夫を心掛ける。
水の弾丸と波動弾が目まぐるしく飛び交う戦場。その中を接近しては両陣営が一撃を見舞わんとする。敵味方ともにブロックし合い、相手に行動の自由を許すまいと動き合う。
「派手になってきたわねん」
まさに一進一退の攻防。
覚者達も徐々に消耗を強いられることを余儀なくされた。
「傷の深い人から回復させていきますね」
治療役の御菓子が、懸命に仲間の傷を癒していく。
手が足りないときはフェイカ-や凍矢らも回復を手伝って戦線を保つ。
(今の所、敵も減って前衛の数は足りているようだけど。もしもの時には、こちらでもブロックしなきゃいけないかもしれないわねぇ。その時は体力の多い私が受け持ちたいわねん)
更に輪廻は冷静に、中衛にまで敵が接近してくることも考えて動いていた。実戦では、事態は刻一刻と変化していく。何が起ころうとも不思議ではない。
「ワクワクしちゃうね!」
亜李果の炎撃により、一体の妖の動きが鈍る。
水の怪物は邪魔な敵を振り払おうと、水を圧縮した散弾を放つ。
「ゴオオオオオオ!」
「目にはそれなりの自信があります」
誠二郎は相手の水の弾丸を紙一重で見切り、そのまま反撃に転じる。
武器から深緑鞭を振るった一撃が、水の妖に直撃。
敵はそのまま己の形を保つこと叶わずに、地面に倒れて消え去った。
「便利屋さん、お見事ねん」
「これで、あと残りは二体か」
「順調ですね」
元AAAは平然として服の埃を払う。
――同時に、御菓子の守護使役が緊急事態を告げた。
●
「大変っ。この遊泳禁止区域に近付いてきている人達がいるみたいよ」
見張りを任せていた守護使役のカンタからの情報を、御菓子は仲間達全員に伝える。まだ、距離はあるがこちらに向かって接近している一団があるとのことだった。恐らくは、予知で被害にあっていた学生達だろう。
「あの子達が来る前に、早く退治してしまわないと」
御菓子の願いに、仲間達も頷く。
現在、この場には誠二郎の結界が張ってある。一般人は立ち寄りにくくなってはいるが、条件によってはその効果は微弱になる可能性があるし。そもそも、時間をかけれれば結界そのものの効力が切れてしまう。
「遊泳禁止ってあるのに入っちゃうんだから困ったものよねぇ~……まぁ良いけどねん♪」
輪廻がノリ良く笑いながら、攻勢を強める。
凍矢は弾幕を張り。フェイカーも精密に攻撃を重ね。誠二郎は飛燕の二連撃を放つ。
仲間達が攻撃している間に、御菓子は守護空間を展開した。これは自身を中心とした空間に妖を寄せ付けない能力だ。一般人が来た場合に、妖達への妨げとなりガードする考えだった。
「遊泳禁止区域に行くのは確かに良くないことだけれどもな。とは言え、妖が好き勝手跋扈するのは宜しくないな」
郁未は積極的に前に出る。
「妖を無事討伐できれば、遊泳も可能になるかもしれないし、速やかに人に害を与える妖を退治してやるか」
結局のところ。
やること自体は単純だ。
「とりあえず動かなくなるまで殴れば良いんだろ? ぶっ飛べや……!」
グダグダなるなら殴れば良い。
文字通り。郁未の拳によって吹き飛んだ妖は、空中で断末魔を上げて滅する。二度と地面には落ちてこなかった。
「これで敵は残りあと一体!」
戦況は覚者達の有利に傾いたかに思えた。
だが、ここで思わぬ誤算が生まれる。
全体的に後退していた妖達。それを逃がすまいと追った覚者達。乱戦気味の推移……知らず知らずのうちに陣形は乱れて戦場は水際付近へと移動していた。
「ゴオオオオオオオオオ!!」
水の妖が、底冷えのする叫びとともに腕を伸ばした。
「!」
体を張って攻撃を通さず、戦況を支えていた凍矢は足を取られる。
異様なほど伸びた腕が、獲物を海へと引きずり込まんとする。不意を突かれた覚者の身体は、抵抗の間もなく海中へと――
「朧月さん、危ない!」
――沈む寸前に、素早く反応したフェイカーが仲間を引っ張り上げた。
水の妖はそれでも執拗に覚者を攻撃しようとするが、そこに亜李果が割って入って味方をガードする。
「重い防具を着てきた甲斐があったかな」
間一髪、難を逃れた凍矢はすぐに仲間から回復を受けた。
「大丈夫ですか、朧月さん」
「ああ。少し油断した。感謝する」
頭を振って。
そこで凍矢はニヤリとしてから、恩人に向き直った。
「だがな、俺は龍月だ。朧月じゃないぞ?」
「……いやはや……申し訳ない」
たじたじとなるフェイカーである。
来日して以来、まだまだ日本語の修練が必要なのかもしれない。
すっかり小さくなってしまった仲間に、覚者達は罪のない笑い声を立てた。
「さて、最後の詰めといこうかしら」
プリンを始め、覚者達は最後の一体となった妖と対峙する。
今度は海に引きずりこまれぬよう、細心の注意を払って全員で相手を削っていく。再び戦いやすい陸地に敵を誘導して。攻撃と回復を繰り返すことで、終幕はほどなく訪れた。
「試しに一回くらい撃ってみたかったのよねん。効果がどれほど薄くなるか、ちょっと興味があるしねん♪」
輪廻の地烈による物理攻撃が、コツンと間の抜けた音を立てて敵に当たり。
それでも衰弱しきっていた相手には充分で。
自然系の妖は、倒れる間もなく退場した。入れ違いとばかりに、今度は三つの影が現れる。
「お、こっちは人がいないな」
「でも、ここ入っていいのかな?」
「大丈夫じゃない? ほら、他にも何人かいるじゃん」
結界の効果も切れたらしい。
三人の学生達が少し離れて姿を見せていた。
妖ではなく。覚者達を指さしながら――
●
「先生の言うことちゃんと聞いてくれなきゃダメですよ♪」
御菓子が、たっぷりと学生たちにお説教をしている。
ちなみに、彼女は現の因子。今も覚醒状態ではあるのだが。元からが十四歳程度の外見で、十四歳の姿に若返っているので。やはりいまいち言葉に迫力がない。
「お説教って柄じゃないから任せちゃうけどねん♪ あ、橘君。万屋と便利屋、これからも縁があったらまたお願いねん♪」
「ええ。僕で良ければお手伝いさせてもらいますよ」
お互い知り合ってたら、何かと便利じゃないかしらねん♪
などと。
輪廻は海でのんびりしながら、誠二郎や仲間達に声をかけていた。
「うーん、妖の痕跡は……」
亜李果は念入りに戦地を調べて、謎の果てに挑戦している。
「今度来るときはこんな妖退治ではなくて、普通に海水浴を楽しみたいところだな。と言うかこのクッソ暑い中大立ち回りをしたんだ。水分を補給しなきゃ倒れそうだな」
汗を拭いながら笑う郁未に、フェイカーが帽子や仮面を外してみせた。遊泳禁止区域には事故予防としてロープを張り終えてある。
「ふぅ、暑かった……帰る前に少しだけ、海で涼みますかね」
――今度は安全な場所で、アイスでも皆でいかがかな。
そう後で提案してみようか。
太陽がぎらつく。
帰り道も、まだまだ暑くなりそうだった。
「もう夏も真っ盛り……そうか。海水浴の季節なんだな」
燦々と照りつける太陽。目の前のビーチでは多くの人々が、夏の海を楽しんでいた。『焔の鉄拳』鷺坂・郁未(CL2000115)は眩しそうに目を細める。
「日本の夏は暑いね。世界がサウナになったみたいだよ」
シルクハットにロングコートという出で立ちの、リトル・フェイカー(CL2001091)が肩をすくめた。
「けど海で遊ぶ人達には共感もあってね。少し故郷が懐かしいかな」
季節や場所に想いを馳せる者もいれば、これからのことに胸を膨らませる者もいる。
「とにかくワクワクするね。神秘のカタマリ、妖をこの眼で見て観察できて、自分で殺すこともできるなんて!」
観嶋・亜李果(CL2000590)は腕を鳴らす。亜李果は、源素の謎に多大な興味を持ち、その神秘を解明することに情熱を燃やす覚者だ。
「一緒に戦う仲間の力も見れるし! その上人助けになるなら、言うことなしかな」
妖と接触できて源素と関われる機会に、上機嫌になるのも当然だ。
「わー、可愛い!」
「何度もいいますけど、子ども扱いはやめてね。これでもみんなより年上なんですからね」
そう自分を取り囲む学生たちに声をかけているのは『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)だ。ビーチで遊ぶ学生たちに遊泳禁止区域に入らないよう作戦開始前に注意して回っているが、一向に効果は上がっているようにはみえない。
「お嬢ちゃんは一人?」
「迷子かな?」
本人は気付いていないが効果がないのもムリもない。中学生かという幼さの残る容姿に加え、イエローを基調としたワンピース水着姿に麦藁帽子姿で教師であることを信じろというのがムチャなのだ。
「ううっ……年上なのに……年上なのに」
ぷっくり頬を膨らませて仲間との集合場所に向かっていたが、首をフルフル振ると
「みんなにはのびのびと楽しんでほしいし、がんばんなきゃね。……でも、みてなさい! なによっ! 背が低くて、子どもっぽくったってやれるんだから!」
学生たちのことを心配しつつも、気にしているところを刺激された御菓子はぐっと拳を握ると、天に突き上げた。そう、やる気以上に彼女の負けん気に火がついていた。
●
先程のビーチとはうってかわり。
遊泳禁止区域には人気なく、シーンと静まり返っていた。聞こえてくるのは波の音のみ。
だが、覚者達が一歩足を踏み入れると、その様は一変。夢見の予知通り、海から人間大の水の塊が四体現れる。
「ゴオオオオオオオオ!」
水の妖は口らしき穴を開くと、威嚇するような轟音を放つ。異形の怪物を前にして、『便利屋』橘 誠二郎(CL2000665)は素早く結界を張った。これは現場への一般人の侵入を予防するためだ。
「結界の構築が終わりました、では、全力を尽くしましょう」
誠二郎の言葉に、仲間が頷く。
妖達は、覚者達を海に引きずり込まんと陸まで上がってノロノロと近付いてくる。
(これなら海から離れたところで戦えるね)
超視力で油断なく状況確認をする亜李果をはじめ、覚者達は充分なスペースがある海岸で待ち構える。誠二郎も陸地に誘い込むつもりだったのでちょうど良い。フェイカーはその間に、前衛の味方に水衣を使って全体の守りを固めた。
「遊泳禁止区域に出る化物か。人に仇なすなら狩るまでだ」
力を解放し、覚醒。
現の因子により十八歳当時の姿へと変化した『疾風のメス』龍月・凍矢(CL2000474)が、戦闘の口火を切る。神秘の力が込められた水のしずくが高速で放たれて着弾。最も近付いてきた妖の体を貫通する。続いて、魂行 輪廻(CL2000534)も水礫で狙い撃ちすると、相手の前進が止まった。
「うん、効いているわよん。今回はシンプルな殴り合いかしらねん?」
童顔にもかかわらず、輪廻の顔に常に浮かぶ笑顔には妙な艶がある。着崩れた着物から覗く素肌には、彩の因子の持ち主であることを証明する、紫に光る刺青が輝いていた。
「アタシは遠近どっちも単体しか持ってないのよねぇ」
ぶかぶかなローブは体型すらも隠す程。
変声機を使っているのか男とも女とも付かない中性的な声――『愛と平和と狂気を愛する』ルートウィヒ・プリン(CL2000447)が使うのは木行の技だ。妖に種を付着させるとそれが瞬く間に急成長した。棘一閃による、鋭い棘が相手に裂傷を負わせる。
「Let’s fight(さぁ、戦闘開始だ)」
肩口からの黒い翼をはばたかせて、フェイカーは宙へと飛行する。これは翼の因子の作用である。足場が悪い場所に敵が展開したら、皆が戦いやすい場所への移動・誘導を助ける心積もりだ。
郁未と亜李果は醒の炎で、体内の炎を活性化させた。
なんだかんだいっても事件の予知が気になる御菓子は、守護使役のカンタで空から遊泳禁止区域に近付くものがないか監視させる。
「こんなのに居座られては楽しく遊ぶこともできないですし、早急に排除させて戴きましょう」
誠二郎の黒い瞳と髪が、瞳は赤に髪の色は銀に変色している。覚醒時に髪と目の色が変化する、暦の因子の特徴だった。
●
「情報では物理攻撃はあまり効かない。と言うことだが……物理攻撃のが得意というか……火行は余り得意ではないんだよな」
とは言えやってみるか……!
近接戦闘が専門の郁未は、敵のすぐ近くに位置取り拳を握る。
「とりあえずぶん殴らせて貰うぜ!」
ゴチャゴチャ考えるのも面倒くさい。
赤い刺青が光輝く。五織の彩による高精度の一撃が、妖に炸裂した。強化された肉体によって繰り出された文句なしのヒット。
問題は、これがどれくらいの傷を与えられるかだが――
如何せん。
本来ならば有効打になる攻撃も。
自然系の妖である、今回の敵にはイマイチ効果が薄い。水の塊である相手に、拳は暖簾に腕押し程度の衝撃しか伝わらない。
「……こいつは、厄介だな」
全く効いていないわけではないものの。
物理攻撃で削り切るのは骨が折れそうだ。
「水の妖……確かに体術では効果が薄そうですね。ですが戦えない相手では無い」
誠二郎は木行のスキルを武器を経由して発動させる。
植物の蔓が鞭のようにしなった。
「術でなければ効果が薄いのであれば、僕の木行を存分に味わわせてあげましょう」
深緑鞭によって打ち付けられた妖は、怯むように体を縮こまらせた。
先程の郁未の物理攻撃とは対象的な反応である。続けて、亜李果が最もダメージを受けている同じ個体に向かう。
「これが自然系の妖か。なかなか面白いね」
普段は目を細めて無表情気味の亜李果だが。
神秘を前にして嬉しげに目を見開く。瞳と髪の色も青に変化しており、彼女自身も神秘の力を宿している。炎を武器に纏わせた烈火の如き炎撃が、水の塊である妖の肉体を深々と抉る。
「グアアアアア!」
それは怪物の悲鳴なのか。
耳鳴りのする響きと共に、炎の威力により妖の身体の一部が蒸発した。
(五行的に考えると相性は余り良さそうではないが……と思っていたが。そうでもなさそうだな)
郁未は敵の苦しむ様を観察する。
今回の敵に関していえば、物理攻撃以外ならば全般的に効果が高いようだ。
その点に気をつけさえすれば……
と覚者達が認識を同じくした瞬間、妖達が大きく動き出す。
「ゴオオオオオオオオ!」
四体の水の妖。
その水の塊でできた巨大な腕が、覚者達に襲いかかる。
「くっ」
まるで、大重量の津波を叩き付けられたような衝撃。
やはり、相手も常識で推し量れる存在ではない。
普通の人間ならばただでは済まぬであろう脅威に、前衛を担当していた者達は勇猛に耐える。
「みんな、大丈夫? すぐ回復させるから」
御菓子が癒しの霧で、忙しく仲間を癒す。
どうやら攻撃を受けた妖達が、明確にこちらを戦うべき敵だと判断したようだった。覚者達は、より神経を尖らせて戦闘に臨む。
「敵に臆するとこはないけど、注意は必要かな」
フェイカーが敵の様子をうかがいながらエアブリッドを放つ。
高圧縮した空気が打ち込まれ。
一瞬の間。
相手は轟音と共に衝撃を受けて、その腕が四散する。
「見たところ、そいつが一番深手だね」
各個撃破の好機だ。
仲間とコンタクトをとりながら、フェイカーは飛行する。他の面々も心得たもので、弱っている個体に狙いを定めて連携した。
「早く片付けないと、誰か来ちゃうかもしれないしねん」
「私は戦闘に集中ねぇ。えいっ♪」
プリンが木行を使えば、輪廻が水行で攻撃をくわえる。
「物理攻撃の手応えがないなら、こっちならどうだ!」
郁未の力を込めた拳――特殊通常攻撃で殴られた水の妖が盛大に後ずさる。五織の彩のときと比べても、効果のほどは歴然だった。
「どうやら、こっちの方で仕掛け続けていった方が良さそうだな」
有言実行とばかりに、立て続けに攻撃が浴びせられる。
最も前に出ていた一体の水の妖は、その猛攻に体を大きく揺らした。その隙を覚者は逃さない。
「五行相克、水克火!」
凍矢の疾風のような一撃が通り抜け。
先頭の敵はゆっくりと崩れ落ち――存在そのものが跡形もなく消滅した。
●
「へえ。今回の妖は、倒すと消えるんだね」
亜李果が興味深げに見やる。
残りの敵は三体。
仲間が倒されたことに怯んだのか。水の妖達はざわざわと後ずさり始めた。
「逃げる気かしらねえ」
「予知のような事件が起きる可能性がある以上、逃がすわけにはいきませんね」
「同感だ。人を仇なすものを野放しには出来ない」
「逃がしちゃ元も子もないしね」
プリンの言葉に、誠二郎が動き凍矢や亜李果達も続く。
覚者達は、距離を詰めて妖を追撃した。
(折角の海での悲劇なんて可哀想なことは回避させてあげたいから、私も頑張ろう)
忙しく動き回る対象に、フェイカ-は集中して的を絞る。亜李果も同じく一旦仕切り直して命中率を上げた。
「まあ、倒れるまで殴れば良いんだろ?」
郁未の鉄拳が見舞われて、水の妖はくの字に折れる。
仲間達も攻撃の手を緩めない。
「ゴオオオオオオ!!」
「うん?」
「今度は何だ?」
妖達は力を溜めるように全身を震わせる。
そして、撃ち出されたのは水を圧縮した塊――弾丸のような水鉄砲。
遠距離からの貫通する散弾だ。
「こちらも弾幕を張る」
凍矢は負けずにB.O.T.で対抗する。
後衛との間に位置取り。敵の攻撃や敵自体が後ろまで攻め込めないように撃ち合う。
「おっと、危ないね。貫通攻撃に巻き込まれないように注意しないと」
フェイカーは巧みに立ち位置をずらすなどして、多人数が的にならないように工夫を心掛ける。
水の弾丸と波動弾が目まぐるしく飛び交う戦場。その中を接近しては両陣営が一撃を見舞わんとする。敵味方ともにブロックし合い、相手に行動の自由を許すまいと動き合う。
「派手になってきたわねん」
まさに一進一退の攻防。
覚者達も徐々に消耗を強いられることを余儀なくされた。
「傷の深い人から回復させていきますね」
治療役の御菓子が、懸命に仲間の傷を癒していく。
手が足りないときはフェイカ-や凍矢らも回復を手伝って戦線を保つ。
(今の所、敵も減って前衛の数は足りているようだけど。もしもの時には、こちらでもブロックしなきゃいけないかもしれないわねぇ。その時は体力の多い私が受け持ちたいわねん)
更に輪廻は冷静に、中衛にまで敵が接近してくることも考えて動いていた。実戦では、事態は刻一刻と変化していく。何が起ころうとも不思議ではない。
「ワクワクしちゃうね!」
亜李果の炎撃により、一体の妖の動きが鈍る。
水の怪物は邪魔な敵を振り払おうと、水を圧縮した散弾を放つ。
「ゴオオオオオオ!」
「目にはそれなりの自信があります」
誠二郎は相手の水の弾丸を紙一重で見切り、そのまま反撃に転じる。
武器から深緑鞭を振るった一撃が、水の妖に直撃。
敵はそのまま己の形を保つこと叶わずに、地面に倒れて消え去った。
「便利屋さん、お見事ねん」
「これで、あと残りは二体か」
「順調ですね」
元AAAは平然として服の埃を払う。
――同時に、御菓子の守護使役が緊急事態を告げた。
●
「大変っ。この遊泳禁止区域に近付いてきている人達がいるみたいよ」
見張りを任せていた守護使役のカンタからの情報を、御菓子は仲間達全員に伝える。まだ、距離はあるがこちらに向かって接近している一団があるとのことだった。恐らくは、予知で被害にあっていた学生達だろう。
「あの子達が来る前に、早く退治してしまわないと」
御菓子の願いに、仲間達も頷く。
現在、この場には誠二郎の結界が張ってある。一般人は立ち寄りにくくなってはいるが、条件によってはその効果は微弱になる可能性があるし。そもそも、時間をかけれれば結界そのものの効力が切れてしまう。
「遊泳禁止ってあるのに入っちゃうんだから困ったものよねぇ~……まぁ良いけどねん♪」
輪廻がノリ良く笑いながら、攻勢を強める。
凍矢は弾幕を張り。フェイカーも精密に攻撃を重ね。誠二郎は飛燕の二連撃を放つ。
仲間達が攻撃している間に、御菓子は守護空間を展開した。これは自身を中心とした空間に妖を寄せ付けない能力だ。一般人が来た場合に、妖達への妨げとなりガードする考えだった。
「遊泳禁止区域に行くのは確かに良くないことだけれどもな。とは言え、妖が好き勝手跋扈するのは宜しくないな」
郁未は積極的に前に出る。
「妖を無事討伐できれば、遊泳も可能になるかもしれないし、速やかに人に害を与える妖を退治してやるか」
結局のところ。
やること自体は単純だ。
「とりあえず動かなくなるまで殴れば良いんだろ? ぶっ飛べや……!」
グダグダなるなら殴れば良い。
文字通り。郁未の拳によって吹き飛んだ妖は、空中で断末魔を上げて滅する。二度と地面には落ちてこなかった。
「これで敵は残りあと一体!」
戦況は覚者達の有利に傾いたかに思えた。
だが、ここで思わぬ誤算が生まれる。
全体的に後退していた妖達。それを逃がすまいと追った覚者達。乱戦気味の推移……知らず知らずのうちに陣形は乱れて戦場は水際付近へと移動していた。
「ゴオオオオオオオオオ!!」
水の妖が、底冷えのする叫びとともに腕を伸ばした。
「!」
体を張って攻撃を通さず、戦況を支えていた凍矢は足を取られる。
異様なほど伸びた腕が、獲物を海へと引きずり込まんとする。不意を突かれた覚者の身体は、抵抗の間もなく海中へと――
「朧月さん、危ない!」
――沈む寸前に、素早く反応したフェイカーが仲間を引っ張り上げた。
水の妖はそれでも執拗に覚者を攻撃しようとするが、そこに亜李果が割って入って味方をガードする。
「重い防具を着てきた甲斐があったかな」
間一髪、難を逃れた凍矢はすぐに仲間から回復を受けた。
「大丈夫ですか、朧月さん」
「ああ。少し油断した。感謝する」
頭を振って。
そこで凍矢はニヤリとしてから、恩人に向き直った。
「だがな、俺は龍月だ。朧月じゃないぞ?」
「……いやはや……申し訳ない」
たじたじとなるフェイカーである。
来日して以来、まだまだ日本語の修練が必要なのかもしれない。
すっかり小さくなってしまった仲間に、覚者達は罪のない笑い声を立てた。
「さて、最後の詰めといこうかしら」
プリンを始め、覚者達は最後の一体となった妖と対峙する。
今度は海に引きずりこまれぬよう、細心の注意を払って全員で相手を削っていく。再び戦いやすい陸地に敵を誘導して。攻撃と回復を繰り返すことで、終幕はほどなく訪れた。
「試しに一回くらい撃ってみたかったのよねん。効果がどれほど薄くなるか、ちょっと興味があるしねん♪」
輪廻の地烈による物理攻撃が、コツンと間の抜けた音を立てて敵に当たり。
それでも衰弱しきっていた相手には充分で。
自然系の妖は、倒れる間もなく退場した。入れ違いとばかりに、今度は三つの影が現れる。
「お、こっちは人がいないな」
「でも、ここ入っていいのかな?」
「大丈夫じゃない? ほら、他にも何人かいるじゃん」
結界の効果も切れたらしい。
三人の学生達が少し離れて姿を見せていた。
妖ではなく。覚者達を指さしながら――
●
「先生の言うことちゃんと聞いてくれなきゃダメですよ♪」
御菓子が、たっぷりと学生たちにお説教をしている。
ちなみに、彼女は現の因子。今も覚醒状態ではあるのだが。元からが十四歳程度の外見で、十四歳の姿に若返っているので。やはりいまいち言葉に迫力がない。
「お説教って柄じゃないから任せちゃうけどねん♪ あ、橘君。万屋と便利屋、これからも縁があったらまたお願いねん♪」
「ええ。僕で良ければお手伝いさせてもらいますよ」
お互い知り合ってたら、何かと便利じゃないかしらねん♪
などと。
輪廻は海でのんびりしながら、誠二郎や仲間達に声をかけていた。
「うーん、妖の痕跡は……」
亜李果は念入りに戦地を調べて、謎の果てに挑戦している。
「今度来るときはこんな妖退治ではなくて、普通に海水浴を楽しみたいところだな。と言うかこのクッソ暑い中大立ち回りをしたんだ。水分を補給しなきゃ倒れそうだな」
汗を拭いながら笑う郁未に、フェイカーが帽子や仮面を外してみせた。遊泳禁止区域には事故予防としてロープを張り終えてある。
「ふぅ、暑かった……帰る前に少しだけ、海で涼みますかね」
――今度は安全な場所で、アイスでも皆でいかがかな。
そう後で提案してみようか。
太陽がぎらつく。
帰り道も、まだまだ暑くなりそうだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
