信じてた源素が牙向き包み込む
信じてた源素が牙向き包み込む


●溢れる源素、そして破綻
「…………?」
 その日、加藤浩平は違和感を感じていた。
 妖から街を守るための覚者を教育しているのだが、いつもよりも術の発動が大きくなっている気がするのだ。身の炎が熱く、溢れそうな感覚。もう何千回と放った術式なのに、今日に限っておかしい――
「せんせー。こんな感じでいいですかー?」
 声に気付いて我に返る。いかんいかん、教える者が不安がってはその不安が伝播する。大妖がいなくなったとはいえ、妖はまだ発生する。覚者達に術式を伝えなくては――そう思って術式を教えていると、
「先生……!? 体が、熱い……!」
「まさかこれは……破綻者化!?」
 生徒の一人が胸を押さえて苦しみだす。過度の源素使用や感情の揺れによる源素暴走。だがおかしい。今まではこの程度で暴走することはなかった。生徒もそんなに問題がある者じゃなかった。なのにどうして――
「ぼ、僕も……!」
「ああ、あああああ!」
 最初の生徒から爆発的に広がるように、生徒達が次々と破綻していく。それを止めようとした加藤も、
「がぁ……!? 何故、だ……!」
 炎が体を包み込むようにあふれ出る。今まで手足のように扱って来た源素なのに、それが牙をむいた。
 そして彼らは――

●FiVE
「そのまま暴れ出し、そして急激的な速度で深度が上昇します」
 集まった覚者を前に久方 真由美(nCL2000003)が説明を開始する。
「今まで例に見ない深度上層速度です。ですが今から急げば、回復可能です」
 深度が三を超えると、現在のFiVEの技術では元に戻せなくなる。そしてさらに深度が進めば――大妖と呼ばれる者の力の源となる。
「なあこれって……」
「推測はいくらでもできます。今は破綻者を止める事を考えましょう」
 この異常事態の原因を口にしようとする覚者。だが今はそれを追求している時間さえ惜しい。真由美の言葉に頷き、覚者達は会議室を出た。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.破綻者全員の戦闘不能(生死は問わず)
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 破綻者三名以上、って初めてかも。

●敵情報
・加藤浩平(×1)
 破綻者。深度二。元は獣憑(戌)。火行。近接系の弐式術式と中級体術を使います。
 覚者に術式を教えていたこともあり、戦闘経験はそれなりに高いです。隙あらば後衛を狙いに行くことぐらいはします。
 18ターン経過で、深度が1上がり、能力が跳ね上がります。こうなると元に戻すことはできなくなります。

・生徒(×4)
 破綻者。深度一。元は前世持ち。天行。遠距離系の壱式術式と支援術式を使います。
 破綻していますが、加藤のいう事には従います。
 18ターン経過で、深度が1上がり、能力が跳ね上がります。

●場所情報
 某町の空手道場。そこで加藤は覚者のコミューンを形成していました。広さや明るさは戦闘に支障なし。人が来る可能性は皆無です。
 戦闘開始時、敵前衛に『加藤』が、中衛に『生徒(×2)』が、後衛に『生徒(×2)』がいます。
 急いでいるため、事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2019年10月01日

■メイン参加者 6人■



「……はじまりの神様。破綻させることも、できる、の、ね」
『開かない本』を抱きしめるようにしながら桂木・日那乃(CL2000941)は呟いた。源素を総べると言われた『一の何か』。一気に破綻者が生まれた理由がソレにあるというのなら、今後こう言った事件が増えてくるのだろう。
「詮索は後だな。今は発生した破綻者を元に戻さないと」
 大きく息を吐いて『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)は破綻者に向き直る。これが意図的なことで、それを起こした存在の思惑は気になるが今は目の前の事件だ。ここで手をこまねいて大事な命を失ってはいけない。
「強制的に破綻させて新しい手下作る気かよ……!」
『天を翔ぶ雷霆の龍』成瀬 翔(CL2000063)は言って強く拳を握りしめる。妖に対抗するために切磋琢磨する先生と生徒達。何の罪も犯していない者達を自分の都合で利用し、自分の手足にしようとしているのだ。許せるはずがない。
「ま。今は救える可能性があるもんを救うだけや」
 抜刀し『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が笑みを浮かべる。夢見の情報ではまだ救える範疇にある。ならばそれを救うのが己の役目だ。それがどれだけ困難でも、自分の進むべき道を曲げるつもりはなかった。
「問題は時間と数ですね。これだけの数の破綻者を相手するのは、初めてです……」
 不安そうに『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が声をあげる。破綻者が現れるケースは稀で、精神的もしくは肉体的に追い詰められた覚者が鳴るケースが多い。だが今回は違う。普通に生活していた覚者の破綻である。
「はい。ですが……挫けるわけにはいきません」
 ラーラの言葉をかみ砕き、そして頷く『陰と陽の橋渡し』賀茂 たまき(CL2000994)。急激な破綻者増加。陰陽師として不安におびえる人を見捨てるわけにはいかない。ここで彼らを救い出すために、これまで培った力はあるのだから。
「オオ、オオオオオオオ!」
 すでに己を制御できずにいる破綻者達。時間が経てば自分自身すら見失い、力のままに暴れる存在になるだろう。そうなる前に止めなくては。
 覚者と破綻者。その両雄がぶつかり合う。


「空丸! 力を貸してくれ!」
 一番最初に動いたのは翔だった。守護使役の『空丸』に声をかけ、腰をわずかに落とす。初手で最大威力を叩き込む。単純だが最も効果的な戦術だ。翔自身の力と空丸の力。その二つを掛け合わせ、手のひらに集める。
 鋭くうなる力の塊。それは翔と空丸の二つの力。今まで戦ってきた翔と、それを見続けてきた空丸。意思を伝え合う必要はない。互いに何をどうすればいいのか、理解していた。細く鋭い衝撃が、戦場を貫くように突き抜ける。
「これでどーだ! オレの後ろにはいかせねーぜ!」
「せやな。あたしらを突破できるなんておもうなや!」
 きっぷのいい声をあげて凛が正眼で構える。真っすぐ刀を突き出し、半歩足を前に出す。相手に向かって伸びた刀は攻撃用でもあり防御用。刀で形成された結界だ。内に入りし者を斬る。無言の圧力が凛の周りを包み込んでいた。
 体内の源素を刀の切っ先に集めるように意識する凛。熱く燃える炎を、一点に凝縮する。イメージするのは刀。斬るためだけに特化した鉄。そのイメージのままに炎を集め、裂帛と共に刃を振るい、鍛え上げた炎を破綻者に叩き込む。
「悪いな。焔使いとしてあんたに負ける気はないで」
「全員助ける為にも急いで倒さなくてはな」
 時間を気にしながらゲイルが『天煌星』を広げる。、周囲の邪気を払うように、扇型の神具を静かに振るった。その動作と共にゲイルの体内の源素が高まっていく。全員破綻の深度を上げずに助ける。楽な道ではないが、それでもやって見せると決意した。
 力を増した破綻者の一撃。そのダメージを見ながらゲイルは水の源素を練り上げる。炎の打撃、落雷。それらが与える傷を見ながら、術を展開した。奥義の風に運ばれた癒しの力が、覚者達の傷を癒していく。
「俺は回復に回る。攻撃は任せた」
「わかりました。行きますね」
 神具を手にたまきが前に出る。複数名がいっぺんに破綻する現象。今回の事件で思う事はあるが、先ずは目の前の破綻者達を救ってからだ。未来を支える覚者と、それを教える先生。それを救うために陰陽術があるのだから。
 体内にある土の源素を意識し、床に手を当てる。意識するのは源素の流れ。たまき自身の土の源素。大地に存在する土の源素。同質にして異なる源素の流れを同調させる。二つの土が交差し、破綻者を穿つ岩の槌となった。
「貴方達はFiVEが救います」
「はい。けして深度3になんかさせません!」
『煌炎の書』を手にしてラーラが頷く。深度3。それは今のFiVEの技術で治療できる限界を超えた領域。それに達してしまえば、命を絶つことを考えなくてはいけない。首を振ってその未来を振り払うラーラ。
 燃え盛る赤の火。もはや意識せずに生み出せる源素の炎。その光景がラーラの心を落ち着かせ、そして昂らせていく。心の動きに合わせるようにラーラの炎は形を変え、炎の弾丸となって破綻者に叩き込まれていく。
「自分をしっかり持ってください! 皆さんならきっともう一度制御することができるはずです」
「ん。加藤さんたち、破綻に、抵抗してる?」
 無表情にそう呟く。破綻者との戦いで声をかけることで、暴走した心を落ち着かせて治療成功率が高まるという報告がある。源素の暴走と精神安定に何らかの関係があるのなら、急激な破綻に対して心が抵抗している可能性がある。
 念波で声をかけながら日那乃は回復の術式を練り上げていく。暴走して威力を増した破綻者の攻撃。その傷を癒すために日那乃は水の源素を行使していた。優しい水が覚者達を包み込み、傷の熱を冷やしていく。
「回復、いらないなら、攻撃、するね」
 戦局は一進一退だった。破綻者の攻撃をさばきながら、覚者達は深度2の破綻者を攻めていた。それは深度が高いという事もあるが、これ以上深度が上がれば元に戻せなくなるという意味でもある。故に覚者達は最優先で攻撃していた。
 戦いは少しずつ激化していく。


 覚者達は破綻者に声をかけながら攻撃を繰り返す。そうすることで自分自身を保ち、治療成功率を高める為だ。
「ううううう……!」
「はな、れろ……! 危険、だ……!」
 破綻している者達は、覚者の言葉に応える事はない。ただ溢れそうなほどの源素の奔流に正気を失っている。だが、言葉が届かないわけではない。言葉は確かに彼らの心に響いているのだ。
「皆さん、すぐに元に戻します……!」
 破綻者の攻撃から仲間を守るように符を展開するたまき。破綻者を元に戻すには、暴走する源素を押さえ込む必要がある。その為にも相手を伏す必要があり、そして短時間でそれを為すには仲間を守ることは必須なのだ。
 加納と生徒を助ける。その為に必要な条件を吟味し、それを為す行動を導き出し、それが可能なように取り計らう。現実は理想だけでは変わらない。一つずつの積み重ねなのだ。地道な努力こそが成功を導くことをたまきは知っている。
「もうすこし、我慢してください」
「言うても、そんなに待たせへんで!」
『朱焔』を手に凛が吼える。焔陰流の伝承者が持つ刀。その影打。真打ではないとはいえ、凛の心技体は焔陰流の修行により培われている。その心の部分が彼らを見捨てる事を許さなかった。この刃で救えるものを、決して見捨てない。
 強い集中をもって戦場を見る。時が止まったかのような錯覚が生まれ、敵味方の姿がスローモーションのように脳内に展開される。剣筋を強くイメージし、柄を持つ手に力を込めて凛は刃を翻す。三筋の剣閃が加藤を襲い、地に伏す。
「焔陰流・煌焔――悪いけど、しばらく寝ててや!」
「よし。最大の問題はこれで消えたな」
 倒れた加藤が呼吸をしていることを確認し、ゲイルは安堵する。深度3の破綻者も厄介だが、それよりも生きているという事実が大事だ。破綻者を止める為に命を奪うなんてことになれば、本末転倒だ。
 とはいえまだ気は抜けない。加藤が倒れたことにより、生徒の破綻者が攻勢に出る。雷撃を立て続けに放つ破綻者達。破綻していることもあって、その威力は並の覚者よりも高い。だが――焦るほどでもない。この程度の苛烈さなら幾度も潜ってきた。
「あとは彼らだけだ。大丈夫、まだ時間はある」
「おう! 痺れ回復よりも倒すこと優先でいくぜ!」
 翔は『DXカクセイパッド』を手に声をあげる。雷による痺れ効果は覚者の手を止めてしまう。翔はその為の解叙述を用意しているが、それは仲間に任せて攻め立てる事にした。少しでも早く殻らを倒し、破綻から治すために。
 熱く心を燃やしながら、同時に冷静に戦局を見る。それが出来るのは翔の経験値ゆえ。積み重ねた戦いの数だけ、翔は成長していた。破綻者達が盾に並んだ瞬間を見計らい、手のひらから衝撃波を放つ。槍のような鋭い一撃で敵を撃ち貫く。
「回復は任せたぜ! 深度が上がる前に決着付けねーと!」
「ん。了解」
 翔の声に短く言葉を返す日那乃。言葉が少なく無表情のままだが、無関心というわけではない。日那乃は行動で仲間の言葉に応える。頷きと同時に源素を展開し、仲間を癒すために術式を形成していく。
 稲妻で痺れる仲間を見て、術式の内容を変更していく。傷を塞ぐ術から、しびれを取り払う術式へ。手足を操るように水の源素を操り、日那乃は仲間達を癒していく。仲間を信じているからこそ、癒すことのみに集中できるのだ。
「そこの生徒、あともう少し」
「はい! 良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 日那乃の言葉を受けて、ラーラが焔を放つ。戦闘中にスキャンしてみたが、通常の破綻者と今回の破綻者に違いは見られなかった。『一の何か』の意図こそあれど、そこは変わらないようだ。そこを調べれば防護策も分かると思ったが、仕方ない。
 気持ちを戦闘に切り替えるラーラ。放たれた炎は深紅の猫となり、赤い炎の尾を引きながら戦場を駆け巡る。それは意思を持つ炎。主の為したいことを察し、それに従うように動き回る魔女の眷属。炎猫の熱が、破綻者達の体力を奪う。
「あと一歩です!」
 ラーラの声に促されるように覚者達は攻め立てる。一糸乱れぬ覚者達の動きは、ただ力を増しただけの破綻者を確実に追い込めていた。一人、また一人と倒れていく。
「もう、暴れなくていいんです」
 優しく声をかけて、たまきが最後の破綻者に迫る。指で五芒星を空に描き、簡素な印を切る。その流れのままに大地に指を当て、土の源素を流し込んだ。隆起する土の一撃が、破綻者の胸を打つ。
「日常に、お帰りなさい」
 たまきの土術で倒れる破綻者。暴走する源素はそれで霧散したかのように収まっていた。


 戦いが終わったことを確認し、FiVEスタッフが入ってくる。手早い応急処置の後、破綻者を治療するための治療に入る。
「全員深度が上昇しなくてよかったぜ」
 覚者達の手早い行動により、破綻者となった者は全員元に戻る事を告げられる。安堵のため息をつき、覚者達は喜びを分かち合った。
 だが――
「奴にこんな事ができるとすれば、破綻する奴増えるんじゃねーのか?」
 翔の懸念は正しかった。源素を使おうとして破綻する覚者や、因子発現したとたんに破綻者になる事件が増えてきている。今はまだ予知して押さえられる数だが、この頻度が増せばその限りではない。
「早急に対抗策を考える必要があるな――やはり原因を断つしかないか」
 ゲイルがそう呟き、そしてため息をつく。原因と思われる『一の何か』。それは大妖を生み出した大元だ。それが大妖より弱いとは思えない。だが、躊躇している余裕はないのだ。このまま手をこまねいてしまえば、破綻者対策に追われて何もできなくなってしまう。
「……はじまりの、神様」
 誰にも聞こえないように呟く日那乃。源素の神様。源素を総べる者。それを倒すという事は、この国の何かが変わる。それは今までの生活が壊れるかもしれない事だ。それが良い方向なのか悪い方向なのかはわからない。だけど、確実に何かが変わる――
「どうあってもあたしはあたしの道を貫くまでや」
 納刀し、凛は告げる。人の平和を乱すものがそこにいて、その刃が届くというのなら剣を振るう。それが凛と言う剣士の『道』だ。何があってもその道だけは曲げるつもりはない。たとえ命果てると分かっていても。
「予知が遅れれば、深度3を複数相手することになるかもしれないのですね」
 ラーラはその事実を噛みしめ、自分を抱きしめるようにする。深度3になれば、もはや治療は不可能だ。その人間を殺すしか止める手段はなくなる。果たしてそれが出来るのか。その状況を想像して、頭を振るう。そうならないようにしなくてはいけないのだ。
「源素……これが『一の何か』の影響だとするのなら、おそらく私達の『内』にある源素に干渉した、という事でしょうか……?」
 開いた手をじっと見るたまき。体内で渦巻く源素。世界に満ちた源素。『内』と『外』の源素。破綻者が『内』の源素の暴走とするのなら、『一の何か』はそれに干渉することが出来るという事になる。それはすなわち――
(……源素の『外』と『内』の境界線を司る存在なのではないでしょうか……?)
 開いた手を閉じるたまき。そのまま瞳を閉じて、集中する。
 自分の『内』で渦巻く土と、『外』を漂う源素。その二つは確かに感じ取れていた。

 かくして事件は終わり、覚者達は撤収する。
 治療は滞りなく終了し、加藤と生徒達はしばしの経過観察の後に元の日常に戻る。
 だが、事件の根本が断たれたわけではない。それは覚者達も理解していた。
 源素を総べる者との戦いは、少しずつ迫ってきていた。 


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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